【過去話】『あの日』
勢いよく玄関のドアを開け、ラケットケースを置く
今日の練習はかなりハードだったから疲れた
早くお風呂入ってご飯食べて、アレしたいな
「奈妓ちゃんおかえりなさい」
「うん!」
出迎えてくれた姉の笑顔を見たら疲れは吹っ飛んでしまった
エプロン姿が眩しいよ
「ん?この香り?」
「うふふ、奈妓ちゃんが好きなハンバーグよ」
「違うよー私が好きなのはハンバーグじゃなくてお姉ちゃんが作ったハンバーグだよ」
「奈妓ちゃんったら///」
お姉ちゃんバーグをすぐさまパクつきたい衝動を頑張って抑える。神聖なお姉ちゃんバーグを食べる前は身体を清めないといけない
♪~
ウキウキしながら湯船に浸かる
今日は両親が用事でいないから姉を独り占め出来るのが嬉しい
私のお姉ちゃんは勉強もスポーツも出来て高一で生徒会長になった凄い人なんだ。おまけにとびっきりの美人!妹としてはちょっと劣等感感じますけどね
お風呂から上がって髪を乾かしてから姉と食卓を囲む
両親がいないから料理の数はいつもより少ないけど、そんなのは気にならない
むしろ気兼ねなく喋れるから普段よりずっと楽しい
姉は私の今日あったことをニコニコしながらうんうん聴いてくれた
ハンバーグはもちろん絶品だった。もう店開けよ
あ、やっぱダメ、私だけのがいい
食べ終わったお皿を下げて、ソファに寝そべってテレビを見る
背後では姉が食器を洗っている規則正しい音が聞こえる
「……………」
しばらくぼんやりとテレビを見ていたが、我慢が出来なくなってきた
私はのっそりと立ち上がって姉の背中に抱きついた
「奈妓ちゃん?」
「お姉ちゃん…今日もいいかなぁ?」
「え?もしかして嫌なことあったのかな?」
「ううん、そうじゃないけど…」
「ただ甘えたいだけなの?」
「い、いいじゃんべつに///」
姉はお皿を洗う手を止めて、優しく微笑んでくれた。
姉の部屋で姉妹は抱き合う
身体中が姉の薔薇の香りで包まれるのを感じる。凄く心地いい…
この習慣は私が学校で嫌なことがあって泣いてた時に姉が抱きしめてくれたのがきっかけだった
それから嫌なことががある度に姉に抱きしめて貰い。最近は悲しい時以外でも抱擁をねだるようになってしまっていた。これって中毒なん?
「奈妓ちゃんもいつかは高校生になるんだから、その時はもう少しお姉ちゃん離れしないとね」
「それはこっちの台詞。お姉ちゃんが妹離れしなくちゃだよ」
「うふふ、そうかもね」
髪をふわりと撫でてくれる姉
私は身体と意識を全て姉に預けていた。
いつもは両親を警戒してここまで意識を手放さない。抱き合ってるだけだけど、流石に高校生と中学生の姉妹が頻繁に抱き合ってたら親に心配されてしまうかもしれないからだ
「…ねぇ、お姉ちゃん」
「うん?」
「私、お姉ちゃんの妹で本当に良かった」
解放感からかいつもでは言えないことが口から滑り出た
照れくさくて姉の胸から顔を離せない
「…そう」
上から降って来た言葉は予想を裏切って素っ気ないものだった
どうして?同じ気持ちじゃないの?もしかしてウザいと思ってた?
びくびくしながら見上げると視界が一瞬で暗くなった
「!!!!!」
なにが起こっているか理解出来た時にはもう姉の唇は離れていた
キス…されたんだ
「ご、ごめんなさい!!わ、私ッ」
我に返った姉が必死に謝ってくる
その様子をどこか他人事のように無言で眺める
姉は私と姉妹としての関係を望んでいなかった?
もしかしてそれを越えて恋人になりたかったってこと?『姉離れ』ってそういうこと?
ドサ!
「……………」
「な、奈妓ちゃん?」
本能的に姉を押し倒す
乱れた長い髪が床に広がる。その光景に自分の中の理性が弾けた
「ッ!?」
乱暴に姉の身体を弄る
ついさっきファーストキスを経験したばっかりの私にそういう知識なんてほとんどない
ただただ欲望のままに手を動かした
「やめっ、やめて!」
「誘ってきたのはそっちだよね。お姉ちゃん?」
事が終わったあとに理性を取り戻した私は悲痛な叫びを挙げた
「うわ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
わたし、私はなんてことをしてしまったんだ
キスしてきたのを言い訳にして取り返しがつかないことをしてしまった
散乱した服の周りで泣きじゃくる
こんなの…こんなの嫌だ
「奈妓ちゃん!大丈夫、大丈夫よ。お姉ちゃんは気にしないから」
「あ゛あ゛あ゛ッ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
姉の気持ちを最低な形で踏みにじってしまった
感情が抑えられない、頭が割れそうだ
「奈妓ちゃん!!」
「も、もう触らないで!私…また」
抱きついてきた姉を突き飛ばそうとしたが、強い力で抱きしめられてそれは叶わない
「私は奈妓ちゃんが好き…妹としてじゃなくて女として好き」
「う、う、うう゛」
姉の言葉が心に突き刺さり、再び自責の念に駆られた
身体が小刻みに痙攣する
「ずっとずっと…奈妓ちゃんと抱き合ってる時、犯してやりたいと思ってたわ」
「え?」
「だから、親がいない今日を狙ったの」
「な、なに言って」
「うふふ、さっきの奈妓ちゃんの顔、最高だったわ」
「お姉ちゃん…」
姉の機転に弱い私は乗ってしまう
罪に耐えきれずに『姉に犯された』という嘘の記憶を頭に縫い付けて、代わりに姉が抱きしめてくれた感触を忘れてしまった。




