【遠山奈妓視点】奈妓ちゃん不良になるの巻
三日目、運命の最終日。今日、二人とデートした後にどちらかを決めないといけない
登校した後に結衣と軽く喋る。昨日の午前中と違って冷たい素振りは見せてこない、いつも通り気さくに接してくれる。
「むむむむむッ」
4現の授業が終わり、みんながお昼を食べようと思い思いに席を移る
私は自分の席で低く唸った。
な、なんも仕掛けてこねぇ
昨日は私から仕掛けたんだよ?今日は結衣がアプローチしてくれるんじゃないの?
そんな決まりはないけどさ…ちょっと期待してるんだぞ
「難しいカオしてどうしたの?」
「い、いやちょっと日経平均株価について考えてて」
「はぁ!?奈妓がそんなこと考えるワケないじゃーん」
向かいに座っている結衣がフォークにウインナーを突き刺したまま無邪気に笑う
そうだよ!お前のこと考えてたんだよ!!人の気も知らないでぇー
お昼休みに誘われる期待は打ち砕かれ、午後の授業が始まる
ぐぐぐぅ、今日は攻めてこない感じなのかぁ
「先生、奈妓の具合が悪そうなので保健室に連れてって良いですか?」
えええ!?
私って具合悪いの?って違う、これは結衣の計略だ
最後の最後に攻めてきたんだ!!
嬉しい、嬉しいけど…ほ、保健室ぅ?しょ…初夜じゃなくて初昼?
そこまでは覚悟してないよ!!!
先生は「確かに眉間にしわを寄せて苦しそうにしてるわね」と言って結衣の提案を許可した
そんな苦悶の表情してた?
静まり返っている廊下を結衣と手を繋いで歩く
握っている手が熱いのはお互いの気持ちが一緒だからなのかな
「え?」
「ここじゃないよ」
目的地だと思っていた保健室を通り過ぎる
更に歩いて辿り着いたのは私達のお馴染みの場所だった
「誰にも邪魔されたくないから…」
「う、うん」
ボランティア部の部室のドアを開け、結衣に促されてソファに座る
彼女の真剣な雰囲気から初昼って感じではないことが分かった
「……………」
結衣が慣れた手つきで紅茶を淹れるのをじっと見つめた
絵になるように美しいと感じる
「はい」
「ありがと」
一口飲んでから結衣は口を開く
「…もしかして無理してた?」
「え?」
「いや、あのさ、考えたんだ。私って奈妓に無理させてたのかなって」
「そんなことない」
「ううん、無理させてた。奈妓って優柔不断で受け身な所があるから彼女の私がしっかりさせてやるって思ってデートプランとか色々考えさせてた。それで勝手に自分を出来る彼女だと思い込んで気分良くなってさ…バカみたい」
結衣は自嘲するように笑った
その悲痛な笑顔に胸が苦しくなる。
結衣にこんな顔をさせたのは私だ。私が結衣じゃなくて甘やかしてくれる姉に逃げたから
「奈妓…ごめん、、、奈妓の気持ち考えてなかったね。私ってダメな彼女だ」
「違う!結衣はなにも悪くない、悪いのは結衣が居ながら姉と抱き合った私なんだ!私、わたしぃ!結衣と姉が仲良くしてくれたらって自分に言い訳してどっちにも良い顔してた!!浮気してるのを楽しんでた自分が居たの!!」
頬を伝う涙を結衣がハンカチで拭いてくれる
最低なことを打ち明けたのに彼女は微笑んでくれた
「だからそれは私が奈妓に厳しくしたせいだって、私も詩織さんとのことがあったしおあいこにして一からやり直そうよ」
「うん、うんうんうん」
ぶんぶん首を振って頷く様子の私に結衣はまた微笑む
「これからはもっと本音で喋ってよね。なんか付き合う前の方が本音で喋ってた気がするし」
「そ、そうかな?」
「そうだよ!私より麗奈先輩や詩織さんと話してた方が楽なんじゃないのカナー?」
「じ、自分だって陽咲先輩と仲良くなってるくせに…っ!?」
いきなりガシッと両肩を掴まれてビクッとする
怒らせた?
「それ!それだよ!そんな感じでガンガン言って欲しいの」
「それくらいは前から言ってなかった?」
「もっと伝えて欲しいの、奈妓の考えてること全部知りたい、化粧のデキが悪かったらブスって言って良い!キレるけど」
「キレんのかい」
私のツッコミに二人して笑う
授業サボってイチャついてるけど全然罪悪感は感じない
奈妓ちゃん不良になるの巻
「奈妓…もう離れないで」
一しきり笑った後に肩を掴んでいた手が背中に廻って抱きしめられる
ボランティア部のソファで抱き合ってるけど部員とお嬢様の関係なんかじゃない、私達は恋人なんだ
「私、頑張って奈妓にふさわしくなるから」
「ふさわしい?なに言ってんの?結衣らしくないよ」
「だって奈妓は顔が良いだけじゃなくて勉強もスポーツも出来るでしょ?私って奈妓に勝ってるとこ一つもないから正直ちょっと嫉妬してる」
「買いかぶり過ぎだって、彼女フィルター掛かってるよ。私なんかダメダメだって」
「…前から思ってたけどさ、奈妓って自分とお姉さん比べてる?アレは別格だから比べちゃダメだよ。お姉さんが化け物なだけで奈妓もハイスペだって」
「えええええ?」
流石にハイスペはないと思うけどな。顔だって麗奈先輩の方が断然良いと思うし
いや、あれも別格なのか?
「うーんハイスペなの…かな」
「あ、やっぱ今のナシ」
「なんでだよ!?」
「だって奈妓が変に自信持って女の子たぶらかしまくるヤツになったらヤダし」
「そんなことしないって」
「ほんとカナー?」
返事の代わりに優しくキスをする
私の気持ちはもう決まった。




