なんでもない日に胴上げしないでよ
結衣はブラウスの襟を立てて残りの授業を受けた
みんなの「そのファッションはないやろ」という視線を痛いほど受けている彼女を見ると忍びなくなってきた
私が首を吸いまくってせいでお洒落キルリーダーから脱落させてしまってすまない
キーンコーンカーンコーン
本日最後の授業が終わった。頑張れ結衣、あとは終礼を乗り切るだけだ
もう少し「小鳥遊さんヤンキーになったのかな?怖っ」って訝しむ視線に耐えてくれ
ガラッ
「!!!!!」
教室の入り口から入って来たのは担任の先生ではなく、姉だった
はえーよ!?フライングじゃない?先生どこやった!?
昨日と同じように真っすぐ私に向かってくる姉
観念して右手を差し出す。しかし彼女はその手を握らず、私の腰と背中を掴んだ
「はひっ?」
一瞬の浮遊感の後に姉に抱えられる
これ『お姫様抱っこ』だ!白馬に乗った白いピチピチのタイツ穿いた王子様がやるやつぅー!!
教室でやんなぁー!学校で二日連続ベロキスしてる私でもまだ羞恥心はあるんだぞ
「くっ」
突如姉がバランスを崩す
いやぁーーー!?やるんなら完璧にやってよぉぉぉ
最近確かにちょっとムチってしてきてますけどぉぉぉ
「ちょ!?」
結衣が慌てて手を出してくれたが、姉はそれを許さない
私の身体を結衣から遠ざけようとした
「ッ!」
今度は反対側に私の身体が落ちそうになる
気持ち悪ぅ!吐いちゃう、また吐いちゃう、私がゲロ見せるのは詩織さんと眞帆先輩にだけって決めてるのに!!
「あぶない!」
「大丈夫!」
「手伝うよ!」
クラスのみんなが一斉に駆け寄ってきてくれて私を支えてくれる
みんにゃあ…正直、クラスではちょっと浮いてると思ってたけど、私のこと仲間だと思ってくれてたんだぁ
「下賤の者共が奈妓に触るな!」
せっかく安定したのに姉が抵抗してまた私の身体がぐらぐら揺れる
結衣とみんながそれぞれ手を伸ばしてそれを収めようとする
いつしか私の身体はどんどん上に上がって行った
「ど、ど、ど、胴上げじゃねーか!?」
私は何に優勝したんだよ!?まだ一年なんで受験も受けてませんけど!?
何人か楽しくなってきたみたいでニコニコしながら傍らで万歳している。お前らに一瞬でも友情を感じた私がバカだったよ…
「ってそろそろ降ろしてぇッ!!」
もう三十回くらい宙を舞ってんだけど!?地球に向かってくる巨大隕石を打ち落としてもこんなされんわ!
「ワッショイ!」
「ワッショイ!」
「ワッショイ!」
嘆願も虚しく、胴上げは止まらない
昨日の姉が私を連れ出した流れを見ていたからなのか、一同は胴上げしたまま教室から出て廊下を進みだした
「あ゛あ゛あ゛!?もうやめてぇぇぇ゛!スカート捲れてるってぇ!全校生徒にぱんつ見られちゃうぅぅぅッ!!!」
校門まで来たところでようやく降ろされた
このまま町内一周されるかと思ったよ…
「まったく…私の奈妓になんてことしてくれてんのよ」
「お姉ちゃんのせいだかんね!お姫様抱っこなんて二度とすんにゃ!」
涙と鼻水がとめどなく出てくるのは恐怖からなのか、はたまた羞恥心からだったのかは分からない
ただ一つ言えることは人は重力がないと生きていけないってことだ
ズガガーン!!!
姉が今日のデート場所に選んだのはスポッチャだった
さっきの音は道路工事の音じゃなくて姉が放ったサーブの音
なんつーサーブ打ってくんだよ。体感200キロくらいあったぞ、殺す気か?
「どうして反応しないの?」
「したくても出来んわ!」
私のテニスに励んだ三年間は姉の三十分に超されてしまった
なんなのこの人…私に劣等感を植え付ける為に存在してんの?
つ、疲れた…
帰りのエレベーターの中で一息つく、謎の胴上げで平衡感覚狂ってんのにその勢いでテニスするのは相当疲れた。家帰ったら速攻横になりたい
「「あ」」
エレベーターの扉が開くと、そこには結衣と陽咲先輩が居た
笑顔だった二人は瞬時にバツが悪そうな顔になって眼を背ける
今日も鉢合わせちまったよ…うううううッ!彼女が放課後、別の女と遊んでるって脳がバグるぅぅぅ
これなに?どっかの特殊機関の拷問かなんかなのぉ?




