★【小鳥遊結衣視点】裏切りの宣告
夏休み明け、全校朝礼で壇上に上がった奈妓のお姉さんが訓示を述べる
台本も読まずにスラスラと話し終えると、どこからともなく拍手が聴こえてきた
壇上から降り、颯爽と歩く彼女の姿に何人かの生徒が色めき立つ
へー人気あるんだ、まぁ外面は良いからね。本性を知ったらみんな幻滅するだろうな
歓声のシャワーを浴びる彼女を私はひたすら睨んでいた。
放課後、数人のクラスメイトに誘われたが、軽く受け流して生徒会室に向かった
「何者だ!?止まれ!」
「学年とクラスと目的を答えよ!」
入り口の前で二人の生徒会役員に止められた。門番のつもりらしい
手にはモデルガンと思われる拳銃を持っている
前まではモップを持ってたハズなんだけど、どんどんおかしいことになってんな…
「小鳥遊結衣、一年A組、生徒会長に話があって来ました」
「ハッ、生徒会名誉総統会長はお忙しいお方だ、陳情なら決められた手順を踏んで提出しろ」
「私はその名誉なんとかの妹なんだけど」
「嘘をつけ、生徒会名誉総統会長と名字が違うではないか」
「義理の妹ってやつだから」
「そんな話は聞いていない、3秒数える前に立ち去れ」
「…ザコは黙ってろよ」
強引に押し入ろうとしたが、すぐに取り押さえられた
取り押さえられながらも口では会長の妹だと叫び続けて中に居る生徒会名誉総統お姉さんの興味を引くことに成功し、中に入ることが出来た。
「…私の妹とはどういうつもりかしら?」
「やだなぁ分かってる癖に、よくよくは貴女の義妹になりますよね」
「……………」
学校に不釣合いな高級そうな椅子から立ち上がり、こちらにつかつかと近づいてくるお姉さん
私は未だに取り押さえられている状態なので身動きが取れない
「小鳥遊結衣、妹と親しいからって私が手を出せないと思ってるなら大間違いよ」
「その他人行儀な呼び方やめて下さいよ。昔みたいに小鳥遊ちゃんって呼んで下さい。ね?奈癒お姉ちゃん?」
四方八方から銃口を向けられる
お姉さんは他の役員を制してくれたが、内心穏やかではないことは確かだ
「わざわざ憎まれ口を叩きに来たの?用があって来たのでしょう?」
「話が早くて助かります。内密な話なんで二人にして貰えないですかね?」
「…構わないわ」
本当に話が早い、どうしてかと普通は訝しがるハズだと思うのだが…
まさか私が乗り込んでくることを予期していた?
役員がぞろぞろと部屋を出て行った
身体は自由になったが、力任せに押さえつけられていたのでまだ節々が痛い
「それで?内密な話とは?」
お姉さんは近くにあった椅子を引いてそこに座るように促してくれた
親切とも取れる態度が妙に不気味だ
「…単刀直入に言います。貴女は奈妓の『姉』である資格がありません」
「いきなり何を言い出すのよ」
「とぼけるなよ。奈妓を犯したくせに」
「…知っているのね」
指を口元に当てて考え込む仕草を取るお姉さん
その姿に違和感を感じた。何故そんなに冷静でいられる?
「奈妓にもう関わらないで下さい、お姉さんなら海外留学でもなんでも妹から離れる手段はあるハズですよね?」
「それはお断りするわ」
バン!
「断ればお姉さんが築いた地位と名誉を全て失うことになりますよ」
自作のビラを目の前の机に叩きつけた
それには生徒会長が実妹にした所業がこれでもかと書いてある
「仕方ないわね」
なにかしてくるつもりなのかと身構えた、けれどもお姉さんは自分の髪をふわりと撫でただけだった
「聞こえなかった?私は仕方ないと言ったの」
「どういうつもりですか?」
「耳だけでなく頭も悪いのね。その紙切れをとっとと撒いてこいと言ったのよ」
なんでこんなに余裕で居られるかが分かった
お姉さんは私が本気でビラを撒くとは思ってないんだ
このビラを撒けば奈妓にも被害が及ぶから唯の脅しだと考えたワケね
「…脅しだと思ってます?」
「脅しとは思ってないわ。ただ、そんなことをしたら妹に貴女が嫌われるだけだと思うの」
「言っておきますけど、私は奈妓の為なら彼女に嫌われたって良いと思ってますよ。お姉さんと一緒に暮らしている今の状況は明らかにおかしい。許されたのを良い事に罪を忘れて好き勝手やってるお前とは絶対に離さないといけない」
「それは叶わない話ね」
「何故そう言い切れる?」
「奈妓ちゃんが私を離さないからよ」
真っすぐ見つめてくるお姉さんの瞳
奈妓と同じ色の瞳はハッタリでもなんでもなく本気で言っていることが伝わった
「頭湧いてんのか?奈妓はお人好しだから姉であるお前を切れないだけだ、勘違いすんな」
「8/17、18:32」
「は?」
「8/18、20:24 8/19、19:56 8/21、23:01 8/22、14:13 8/23、21:21 8/26、09:00 8/26、23:25 8/27、14:48 8/28、01:17 8/29、15:17 8/31、22:29」
「本当に頭湧いてんの?」
「小鳥遊結衣、貴女は今言った時間に妹と連絡を取れた?」
「ま、まさか…」
スマホで履歴を確認しようとしたが手が震えて上手く出来ない
「そんな…嘘だ!奈妓は私と約束した!お前が、お前がまた無理矢理…」
「そんなに疑うなら聞いてみれば良いじゃない、私と姉どちらが好きかって」
履歴は彼女の裏切りを宣告していた
こんなの当てずっぽうで言い当てれるハズがない
「な、奈妓は流されやすい所があるから…最近、私は貴女にどうしてやろうかずっと考えてたから…あまり構ってあげられなかった、だから、時間があればまた取り戻せる。『お姉さま』じゃなくて私を選んでくれたんだから」
みっともない言い訳なのは分かる
でもこう言うしかなかった。今の奈妓にどちらを好きか答えさせるのは怖い
「今すぐ妹を呼ぶつもりだったのだけど、小鳥遊結衣がそう言うなら機会を設けましょう。人を好きになることは誰にも妨げられないし、平等にチャンスが巡って来るべきだわ」
「…後で泣いても知らないから」
「フフッ、折角だからゲストを呼ぼうかしら」
なんのことだと聞き返す前に、お姉さんが合図を送った
すると入って来た扉がガラっと開かれた
「陽咲先輩!?」
「小鳥遊ちゃん…」
「お前、陽咲先輩に何をしたッ!?」
「物騒な事を言わないの、私は光宗陽咲の応援をしてあげたいだけなのよ。小鳥遊結衣にチャンスが出来たように、この娘にもチャンスを与えるべきだと思わない?」
「人の心をお前は!!」
「断るなら今から妹を呼ぶまでだわ」
「クッ………」
「はぁはぁはぁ…」
生徒会室から出て、すぐにトイレの個室に駆けこんだ
用を足したかったからじゃない
こんな姿を誰にも見せたくなかったからだ
「クソクソクソクソクソクソ!」
怒りの矛先はお姉さんでもましてや奈妓でもない
自分に腹が立っている
嫌いな人に構うよりもっと好きな人との時間を大切にするべきだった
「ふっ、あはは」
怒りが収まると今度は笑いが込み上げてきた
あの化け物を自分がどうにか出来ると思っていた自分が笑えてくる
麗奈先輩は上手く交渉したらしいから自分も上手くやれると勘違いをしてしまった
あれは私の手に負える相手じゃない、終始あっちのペースだった。私が来ることもその後の展開も全て予期されていて陽咲先輩にも手を回していた
「………おもしれーじゃねーか」
交渉は大失敗に終わったけど、勝負はまだ終わってない
まだ奈妓に全部を伝えてない、あの屋上での後悔は繰り返さない
「絶対に取り戻して見せる」
私は奈妓から貰った指輪にキスをして誓った




