初めての合コン(彼女同伴)
「わーみんな可愛いぃー」
「今回は大当たりじゃん」
「お姉ーさん今夜は頑張っちゃおっかな」
これはどういうことだ?
結衣からのラインは次のデートの時間変更の提案だった
夜に会うのは初めてだから少しドキドキしてた。
待ち合わせ場所の駅前に行くと、そこには結衣と陽咲先輩が居た
なんで陽咲先輩?と訝しむ間もなく、三人の知らないお姉さんに話しかけられた
宗教か押し売りかと身構えたが、どうやら結衣と陽咲先輩と待ち合わせしていたようだ
訳も分からず雑居ビルの狭い階段を下って飲食店に入った
「ねぇ、どういうこと?このお姉さん達だれ?」
横でカシューナッツをつまむ結衣に小声で話しかけてみた
「んー合コン相手」
「ごうこん!?」
なんでそんな軽い感じで衝撃的なことを言ってくんの!?
合コンって恋人探すお食事会みたいなもんだよね?彼女連れで来る所じゃないだろ!
100歩譲って親連れてきた方がまだ分かるわ!!
困惑しっぱなしな私を余所にお姉さん達は自己紹介を始めた
三人の内、二人は大学生で一人は社会人らしい
しゃ、社会人!?
おおお、おちょな!こ、怖いぃぃぃッ!!おちゃけ飲んでるぅぅぅぅ!!
わーん帰ってミルク飲みたいよぉぉぉ!!
「光宗陽咲です。今日は私の為にありがとうございます」
結衣に軽く肘でつつかれた。どうやら私の番らしい
「ととと、遠山な、なぎでず、こんばんば」
0点の自己紹介だったが、お姉さん達は口々に私を可愛いと褒めだした
褒められて怖くなったのは初めてだよ…
「…小鳥遊結衣って言います。事前に言ったように奈妓とは付き合ってるんでそこんとこよろしくお願いします。」
だから話が見えねんだって!
「今日は私の為にありがとうございます」ってどういうこと?
彼女連れで合コンに来ること言ってあんの?
結衣と陽咲先輩どっちでも良いから説明してくれよ!今からエヴァに乗んの?
一時間くらい経った頃、お姉さん達は一斉に席を立った。トイレらしい
これバラエティで見た時あるぞ、作戦会議するんだ
こっちも作戦会議…じゃなくて、そろそろ説明して貰わないと
「陽咲先輩、どうですか?」
「んーまだ分からないかな」
「そうですか…」
彼女を蚊帳の外にすんな!
結衣と陽咲先輩で偵察に来た他校のエースみたいな会話を繰り広げるな
こっちの会議は全然振るわなかったが、あちらの会議はバッチリだったらしい
お姉さん達は半ば強引に私達の間に座り込んだ
「陽咲ちゃんの手相見てあげるよ」
「えー見れるんですかぁ?」
「んーん、可愛い娘のお手てを触りたいだけ」
「アハハなにそれ」
うわぁ陽咲先輩思いっきり口説かれてるなぁ
麗奈先輩が見たら卒倒しそう
「ねー奈妓ちゃん、この後二人で抜けない?」
「い、いや、今日塾あるんで」
「塾なんかよりもっと良いこと教えてあげちゃうよ」
眞帆先輩直伝の「塾あるから」は全く効かなかった
このままだとお持ち帰りされて新学期は日焼けギャルになって登校しちゃうよ!
「おーい、抜け駆けは良くないぞーこんな奴なんかに付いて行かないで私と遊ぼうよ」
「いやぁーそれはちょっと…ははは」
「いいじゃん、彼女にはナイショでさ」
で、なんで私に二人付いてんだ!!
こういうのって一人ずつ付くんじゃないの?どういう作戦会議したんだよ!?
結衣がモテるのは嫌だけど、邪見にされるのも嫌だよ!
私の彼女ひたすらスマホ弄ってますけど!?政治家が山登ったクソどうでもいいニュース見てそう!
「私の家、プレステ5あるよ」
「え?マジですか?」
「うん、私の部屋いっぱいプレステ5あるよ。30個くらいあるかな」
転売厨じゃねーか!?
家行っても重ねてある在庫眺めるだけだよ
箱から開けたらマジ切れされそう
「そんなの何が楽しいの?私の部屋でコスプレして遊ぼうよ」
「あ、それは大丈夫です」
初めてきっぱり断られた
コスプレして「わー楽しかったね」で絶対終わらないだろ
まだプレステ5の方がときめいたよ
「ウチ天井あるよ。来なよ」
「えーどうしよっかなぁ」
陽咲先輩が天井で口説かれとる!?ストロングスタイル過ぎるだろ
陽咲先輩も流されてるんじゃないよ!
「…帰る」
突然、結衣がそう呟いて立ち上がった
慌てて私も立ち上がる
「なに急に、結衣ちゃんだけ相手してあげなかったから拗ねちゃったのかな?」
「違います。もう晩い時間なんで」
「付き合い悪ぅ~じゃあ奈妓ちゃんは残ってよ」
「え、いや、私も…」
「相手しなくて良いから」
バン、とテーブルにお金を置いて結衣は私の手を引いて出て行く
後から陽咲先輩も着いてきてくれた
階段を上って地上に出た
久しぶりの空を拝めてほっとしたが、結衣は未だに私の手を掴みながらぐんぐん歩く
「結衣?」
「あーむかつく」
「結衣は可愛いよ。あの人達の見る目が悪いんだよ」
「そっちで怒ってねーし!!」
結衣が急に立ち止まったのでぶつかりそうになった
「アイツらがそういう眼でしか私達を見てなかったから怒ってんの!」
「結衣はそういう眼で見られてなかったよ」というツッコミは心の中にしまって、なんで合コンなんかしたのか聞いてみる
「陽咲先輩…」
「うん、いいよ」
さっきから二人しか分からない会話やめろ
そろそろ拗ねちゃうぞ
「あのね…私が結衣ちゃんに相談したんだ」
「相談?」
「恋の相談なの…」
「品評会近いんですか?」
「そっちの鯉じゃなくて、恋愛の恋だよ」
陽咲先輩が結衣に恋の相談?なんで結衣に?
陽咲先輩って結衣のこと…
「私ね…恋出来たんだ…でも…その好きになった相手は『好きになってはいけない人』なの…」
「!!!!!」
ポンコツ名探偵ナギ―でも分かった
『好きになってはいけない人』は私の彼女の結衣だ
人の彼女を好きになったからそう言ってるんだ
陽咲先輩…
やったな?お前、相談と託けて結衣に近付いたな?
もう天使じゃないよ!堕天使だよ!
「麗奈先輩のことかと思ったんだけど、違うらしいよ」
「へ、へー」
お前のことだよ!と心の中で絶叫する
麗奈先輩だったらこんなに悩んでないだろ!あっちから告白してきてんだぞ
「告白してみればって何回も言ったんだけど、どうしても駄目らしくてさ、だったら他の恋してみる?ってことで合コン開いたんだ」
それで陽咲先輩は「今日は私の為にありがとうございます」って言ったのか
「経験豊富な陽咲先輩は年上がいいかなって思って年上にしたんだけどSNSの捨て垢で集まるような奴らはあんなもんかー」
「い、いくらなんでも危ないよ。陽咲先輩のことを想ったのは分かるけどもうこれっきりにしてよ」
「うん…ごめん」
全貌が判明した所で駅に着いた
陽咲先輩とは別の路線なのでお別れだ
言いたいことはあるけど、結衣が居ない時にしてやる
「じゃあまたね」
「陽咲先輩」
「なにかな?」
呼び止めたのは私ではない
結衣も陽咲先輩になにやら言いたいことがあるみたい
「私達が出で行かなかったらどうするつもりでした?」
「え?んー分からないかな」
「は?」
空気が変わる
結衣が怒る予兆を読めるようになってきた
「合コン開いといて言うのもなんですけど、軽薄過ぎません?」
「ちゃ、ちゃんと考えてはいたよ。面白い人だったしもう少し話してたら分からなかった…かも」
「出会ってすぐ部屋に連れ込もうとする女のどこが良いんですか?面白かったらしちゃうんですか?」
「そんなことはないけど…」
これはやばい
人通りが多い駅でキレてるのもやばいけど、それ以上の不安がある
「正直、私は序盤で駄目だと思いましたよ。陽咲先輩は何も思わなかったんですか?」
「もう少しお話すればどんな人なのか分かったと思う…」
「あっちにまともに話す気なんてなかったじゃないですか、胸押し当てて誘ってきてただけですよ」
「そうだった…かも」
電車に乗る時刻だが、そんなことを告げる空気じゃない
「しっかりして下さい、もう陽咲先輩に悲しい恋愛をして欲しくないです」
「!!!!!」
結衣、それ以上はやめよう
気づいてないのか?本格的にやばいぞ
「結衣ちゃん…ごめんね」
「…私もちょっと言い過ぎました」
「そんなことない!私嬉しい!結衣ちゃんはいつも私のこと考えてくれてる///」
ほらぁーーー!
だから言ったじゃーーーん!
さらに惚れてるよこの人ぉーーー!
結衣も結衣だよ。こんなキラキラした瞳で見つめられて気付かないの?
鈍感系主人公って嫌われるよ?
「陽咲先輩は純粋だなぁ、なんか心配になってきた。陽咲先輩が好きな『好きになってはいけない人』ってどうしても教えられないんですか?一回会って見極めたいです」
(お前だよ!)
「う、うん、それはまだちょっと…」
「ぶー後で絶対教えて下さいよ」
(お前だよ!)
私の愛の力を籠めたテレパシーは全然通じなかったが、駅員のアナウンスは結衣に通じた
電車を一本逃したことにやっと気付いたようだ
「あ、もうこんな時間じゃん」
「帰ろうよ」
「うん、じゃあ陽咲先輩また後で連絡しますんで」
「あのね…」
「どうしました?」
今度は陽咲先輩が私達を呼び止めた
コイツ…終電逃させる気か?意地でも結衣を守るぞ
「奈妓ちゃん借りても良いかなぁ?」
「「え?」」
私と結衣が瞬時に違う解釈をした
陽咲先輩は私に結衣のことが好きだと告げるつもりなんだ
もう知ってるけど、陽咲先輩は気付いていないと恐らく思っている
「…どういうつもり?」
敬語抜きで結衣が聞き返す
完全に誤解されてる
「奈妓ちゃんともう少し話したいなって思っただけだよ。次の電車ですぐ返すから」
「私抜きで何話すの?」
「結衣、私も陽咲先輩に言いたいことあるんだった」
「はぁ!?二人してどういうつもり!?」
陽咲先輩の気持ちを汲んで助け舟を出したつもりだったが、結衣の誤解を深める結果になった
「…もしかして『好きになってはいけない人』って奈妓のこと?」
「私はただ…奈妓ちゃんとお話ししたいだけだよ」
「答えになってない、私に奈妓が好きになったって相談してたってこと?」
「結衣!電車来たよ!乗り遅れちゃう!」
「そんなのどうでもいい!お前もなんで陽咲先輩と二人きりになろうとした?」
またネックレスを掴まれると感じて、思わず後ずさる
もう陽咲先輩が本当に好きな人を言うしかない!でも…私から言っていいものか
「やめて!!」
陽咲先輩が叫んだ
私達だけじゃなく、周りの人も驚いてこっちを見た
「私が好きなのは結衣ちゃんなの!!!」
「え?」
結衣が固まる
私は思わず彼女を抱きしめた
例えは悪いけど玩具を取り上げられそうになった子供みたいだ
「え?え?え?私?合コンで全然モテなかった私?」
気にしてんじゃねーか
「う、嘘ですよね?私が怒ったからとりあえずそんなこと言って…」
「ううん、嘘なんかじゃないよ。結衣ちゃんが好き。結衣ちゃんが私に恋を教えてくれた」
「結衣、陽咲先輩は遊園地の時から君を好きになってたよ」
「あはは、奈妓ちゃんは気付いてたんだ」
「……………」
結衣をさらに強く抱く
出来るなら彼女の顔もこっちに向けたい
もう陽咲先輩を見ないで欲しい
「心配しないで、結衣ちゃんを取ったりしないよ」
「陽咲先輩…私は…」
「返事は聞きたくないかなぁ、元々は告白するつもりなかったんだ」
自嘲気味に笑うと陽咲先輩は反対側の電車に乗って去って行った
帰りの電車、私達は人目も憚らず抱き合っていた
結衣とこうするのは久しぶりかもしれない
言葉は交わさないが、彼女からの愛情を感じる。不安は晴れたが、別の感情が私を纏う
結衣は誰にも渡したくない、けど私は帰ったら姉と抱き合う
こんな私に結衣を縛り、陽咲先輩を遠ざける権利なんてないんだろうな…
次回から最終章突入(二回目)
奈妓、結衣、姉の三角関係に陽咲も参戦
それぞれの思惑が複雑に交差する最終決戦
ご期待下さい!!




