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類は友を呼ぶんですよ。

パーリーウルフズ改めレジェンドウルブスとの<契約(コントラクト)>が結ばれた後の彼らとの会話はスムーズに終わった。

仕事内容に関しては演奏の練習が出来る時間さえあれば仕事の希望はなんでも良いとの言葉を貰った。

食事に関しても人間と同じ物で大丈夫らしい。

ただ、タクトとバリトンとテナーからは匂いのヤバい食べ物を出すのだけは勘弁して欲しいと何度も頼まれた。

よほどシュールストレミングの悪臭がトラウマなのだろう。

安心して欲しい。シュールストレミングは流石の私も食べる気にはなりません。

あれを食べられるのはスライム達ぐらいです。私は精々納豆が限界です。


面接が終わった後はレジェンドウルブスにはまた食堂に戻ってもらい、扉前で待機しているゴブ郎に次の面接者を呼んでもらう。

別に新入り達を呼ぶのはゴブ郎でなくても良かったのだけど、ベリアル達最強魔物たちは新入り達に威圧を与えて怯えさせる可能性があるので却下。

ノーマル魔物達はダンジョンのチェックや清掃、料理作りに忙しいのに面接の手伝いまでさせるのは悪いので却下。

ダンジョンマスターである私が呼び出すと緊張させてしまいそう…と考えた結果、ゴブ郎が次の面接者を呼ぶ事となった。

ゴブ郎、私のダンジョンの中でもどんな相手だろうと物怖じしない強靭な心臓の持ち主だしね。


そうしてゴブ郎が連れてきた次の面接者が此方。


『失礼する。』


黒豹の顔に鷲の翼を持った、明らかに最強魔物たちに並びそうな魔物だ。

種族名は、ブラックデーモンパンサーと言うらしい。

種族名にデーモンって名前に入っているあたり、悪魔の性質を持っているのだろうか?

名前は覚えていないけど、確か元の世界の神話でも豹の姿の悪魔もいるというのをネットで見た気がするから恐らく彼はそんな豹の姿の悪魔の種族の一人なのだろう。

私が思わず彼の種族についてを呟き、隣のベリアルが通訳して彼に伝えると、ブラックデーモンパンサーは目をパチパチと瞬きさせた後、上品な笑みを浮かべて、


『どうやら、あの小僧とは違うようだな。』


と言った。

何がどう違うのかさっぱりだが、悪い意味ではないようなので別に深く追求しなくても良いだろう。

そんなことよりも、仮にも元主であるタケル青年のことを小僧呼ばわりって……。

どんだけタケルさんへの忠誠心低かったんだ。


因みに、このブラックデーモンパンサーを引き抜いたのはフォレスだ。

なんでも、彼と対峙して何か思う所があったのだそうだ。

そうして面接が始まったのだけど、レジェンドウルブスと違って彼はこのダンジョンで過ごすにあたっての希望があった。


「知識、ですか?」

『我の種族、ブラックデーモンパンサーは文事と武事を重んじる種族だ。強者との戦いを望むと同時に知識を蓄える事を好んでいる。ダンジョン戦争での立ち振舞いを見て貴殿はかなりの有識者と見た。貴殿なら我の知らぬ知識を持っていると考え、このダンジョンに来る事を選んだ。』

『なるほど、アイネスさんは博識でいらっしゃいますからね。』

『知識を得るための書物や魔法道具はありますが…アイネス様、どうされますか?』


確かに私の<ネットショッピング>を使えば、彼が求めるような知識が載っている本を沢山用意できるだろう。

知識を蓄える事に関しては別に構わないのだが、一つ懸念があった。

私はベリアルを介してブラックデーモンパンサーに尋ねてみた。


「蓄えた知識はどうするつもりか教えてもらえませんか?」

『どうするつもりか…とは?』

「私の持っている本やタブレットには確かに此方の世界には存在しないような情報や知識が入っています。ですが同時に、この世界に大きな影響を与えかねないものや、実際に使ってしまえば大きな被害を生み出しかねないものまであるんです。なのでもし知識を活用する気があるのでしたらそれらを管理する身として、使用用途を聞かなければいけません。」


タケル青年がスキルで作っていたであろう銃火器のように、地球には悪用すれば大きな犠牲が出る事間違いなしな物が多い。

それらを記した知識を広めるのはかなり危険性を持つ。

人の身体の作りが分かればちょっとした魔法で相手を殺す事が可能になるし、化学を理解出来れば化学反応を利用して有害な物質を生み出す事だって出来る。

中学生の理科の教科書でも、一つ何処かの国に渡れば大量殺戮が起きかねない。

今までダンジョンに置いてあった本は危険な知識を与えないであろう漫画やラノベだけだったし、ダンジョン戦争で渡した参考資料だってマリア達にダンジョン戦争以外では使わない事を約束させ、ダンジョン戦争直前に参考資料は全部燃やして廃棄した。

ブラックデーモンパンサーが求めるのはラノベや漫画のような娯楽を目的にした本ではなく、直接知識を学ぶことが出来る専門書や実用書の類だろう。

そうなると簡単に「はい、どうぞ」とは言えない。

軽率に渡してしまった本が原因でこの世界で大災害が起きるなんて展開は激しくごめんである。

だからせめて使用用途を聞いて、外に公開しそうな用途であればちょっと制限を掛けなければ行けないのだ。


ベリアルが私の言った言葉を全てブラックデーモンパンサーに伝える。

私がブラックデーモンパンサーと目を合わせて答えを待っていると、彼はまた笑った後、私に言った。


『なるほど…、此方が思っていた以上に思慮深く、賢いお嬢さんのようだ。』

「はぁ、それはどうも。」

『前の主である小僧は、自身の欲求を満たすため、周囲にホイホイとその知識をひけらかし、スキルで生み出した強力な武器を人に渡していた。貴殿のように世界にどんな影響を与えるかまでは考えていなかった。』


ちょっと、今聞き捨てならない事が聞こえた。

タケル青年、自分のユニークスキルでそんな事をしてたのか。

武器って、まさか銃火器とか高速振動の剣とか渡してないよね?渡してないよね?

爆弾とか地雷とかだったら万が一戦争が起きた時とか大変な事になるぞ。

そんな私の考えは余所に、ブラックデーモンパンサーは腕を組んで私に告げた。


『案ずるな。我が求めるのはあくまで知識の蓄えのみ。外にその知識をひけらかすつもりもなければ、悪用するつもりもない。もし懸念が残るようであればダンジョンマスターの権限を以て制限を掛けてもらっても構わない。』

『ほう、そこまでしてまでアイネス様の持つ知識が欲しいのですか。』

『生を持つ者が知識を求めるのは人も魔物も同じこと。我はその知識欲が強いのだ。未知の言語を操り、普通では思いつかない発想を持つ知識ある者が持つ知識となれば、その知識は我にとってはまさに未知。それを探求したくなるのは我らブラックデーモンパンサーの宿命とも言っていい。』


どうやら彼は世間に広めて注目を浴びる為に知識を得ようとしているのではなく、ただ純粋に知識を得たいだけのようだ。

本の虫ならぬ、知識の豹というやつだ。

見た感じ嘘を言っている様子はないし、ダンジョンマスターとして命令して制限を掛けても良いと言うぐらいなのであれば、彼を信用しても良いかもしれない。


「そこまで言ってくれるのであれば、外に公開しないと約束だけしてもらえれば貴方の望むような知識の詰まった本を渡しましょう。特に命令で縛るつもりはありません。」

『アイネスさんの書物や魔法道具で得た知識を外に広めないと約束だけをすれば、見ても問題はないそうですよ。』

『その心遣い、感謝する。』


深々と頭を下げ、感謝を述べるブラックデーモンパンサー。

そのまま一通りの質問をした後、彼に<契約(コントラクト)>を結ぶための名前付けをした。


「貴方の名前は、『タンザ』。これからよろしくおねがいします、タンザさん。」

『うむ、よろしく頼む。アイネス殿。』


***** *****


次の面接者は八頭身の無精髭が良く似合う大人の男の色気溢れるイケオジだった。

今までで見た中でかなり人間っぽい見た目だけど、よく見ればシルキーズほどではないけど耳が若干尖っている。

筋肉はイグニ並にムキムキで、背丈は暫定190超えとかなりの高身長だ。


ベリアル達から聞いた話だと彼はベリアル達の誰かに誘われた訳ではなく、ブラックデーモンパンサー改めタンザさんを誘っているフォレスの元にやって来て自らこのダンジョンに来る事を望んだらしい。

その時、彼はフォレスにこう言ったそうだ。


『兄ちゃん、オレもそっちのダンジョンに連れてってくれ。もしそっちのダンジョンに移れるんだったら、“イイもん”を渡してやるよ。』


引き抜く魔物は別に一種族でなくてはならないと言ってなかった為、彼の言う“良い物”が何か気になったフォレスは、彼をこのダンジョンに連れてきたそうだ。

さて、問題の彼の種族なのだが…


『エルダードワーフだ。』

「嘘でしょ」


私は自分の目と耳を疑った。

エルダードワーフというと、ドワーフの上位種族ですよね?

ファンタジーだとドワーフっていうと魔物じゃなくて亜人の類じゃ…。

いや、ディオーソスさんはダークエルフの双子に実況させていたし、ミルフィーさんも獣人の付き人を連れていた。

きっと彼らもダンジョン的には魔物の一種なのだろう。

いや範囲広すぎでしょ。

そんな事よりも、一番のツッコミどころがある。

エルダードワーフのイケオジも私の困惑を察したのか、頭を掻いて笑いながら言った。


『嬢ちゃん、オレの見た目が普通と違ってて驚いただろ。前のボスも最初戸惑ってたからなんとなく分かるぜ。』

「あ、普通は違うんですね…。」

『確かに普通のエルダードワーフと違って髭がかなり薄いですね。わたしも最初見た時少し驚きました。』

『だろ?』

「そっちもそっちで気になるんですが、そうじゃないです。」


もっと他に違う点があるんですよ。ヒゲなんかよりもっと凄い違和感が。

私の知るドワーフって言うと、短足で背丈が小さくて、もっとずんぐりとした厳つい小人って感じなはずだ。

こんな海外のハードボイルド映画に出てきそうな渋いイケメンのおじさんじゃない。

街で鍛冶屋よりも、スナイパーとかやってそうな見た目だ。

自分のイメージするドワーフと目の前にいるエルダードワーフの見た目に戸惑っていると、それに気が付いたベリアルがそっと小声で囁いて教えてくれた。


『エルダードワーフの下位種族であるドワーフはアイネス様の所有する書物やタブレットに載っているような見た目を持っていますが、エルダードワーフは人間よりも背丈が大きく、足も然程短足ではありません。かなり小柄なエルダードワーフですと、彼のような見た目の者も少なくはありません。』


なるほど、ドワーフとエルダードワーフとでは見た目の特徴が全然違うのか。

それなら納得だ。まだ違和感は拭いきれないけれど。

しかし、目の前の彼で小柄なのだとしたら普通のエルダードワーフは一体どれだけ体躯が大きいんだ。

種族が上位互換するだけで小人からイケオジになるなんてどんだけミラクルチェンジしてるんだ。

これ、下手したらオタク文化でドワーフに関するイメージが革命を起こすよ。


『それで貴方は、此方の元に来る条件として良い物を渡すと言ったようですが、その良い物とは一体?』

『おお、そうだったな。イイもんってのは、これの事だ。』


ベリアルが話題を変えて尋ねると、イケオジは懐から革袋を取り出して机に豪快に置いた。

フォレスがそれを受け取り、革袋の中から取り出したのは、白と黒色の拳銃だった。


『これは…タケルという青年が所有していた銃という武器ですか?』

『嬢ちゃんは前のボスと同郷って聞いていたからな。これが何なのかぐらいは分かるだろ?』

『確かにこの武器は強力で、此方の戦力を大きく上げる事が出来るでしょう。しかし、それはこの銃を大量生産出来ればの話です。一つあるだけでも十分な戦力増加になるでしょうが、此方が貴方の仲間入りを認めるには判断材料としては弱いのでは?』

『おーおー、随分と辛辣だ。安心しろよ、これ一つ渡しただけでそっちのお仲間にさせてくれって言うつもりじゃねぇ。オレの言うイイもんってのは、その銃の事じゃねぇさ。嬢ちゃん、この拳銃を良く調べてみな。』

「私が、ですか?」

『嬢ちゃんなら、きっと分かるはずだぜ?銃の弾は入ってねーから暴発はしねーよ。』


イケオジの言葉に首を傾げつつも、私はフォレスから拳銃を受け取って良く調べてみる。

そして銃口の中を見た時、私はある事に気が付いた。

そこから思い浮かんだ推測に、私は思わず顔を強張らせてしまった。

私はそっと拳銃を机に置くと、イケオジに向かって尋ねてみた。


「この拳銃を作ったのは、タケルさんではなく貴方ですね?」

『え?』

『拳銃を作ったのが、この男ですって…?』

『ハハッ!正解だ嬢ちゃん!やっぱり気づくか!』

「そりゃあ、ライフリングの加工がされていない拳銃を見せられたら流石に気づきますよ…。」


私が銃口を見た時、イケオジが渡してきた拳銃には本来施されているべきライフリングの加工がなかった。

タケル青年が単純にライフリング加工を知らなくてやらなかっただけ…とも思ったけど、それは違う。

フォレスの話によると、ダンジョン戦争中にタケルはフォレスの胸を的確に撃ち抜いたらしい。

確かライフリング加工のない拳銃は的に当たりにくいと言う話を父(40代後半、仕事はITエンジニア兼黒魔道士)から聞いた事がある。

狙った的を当てるスキルが合ったとしても、直線上にいる相手を撃ち抜くのは相当難しい。

直接見ていないから分からないけれど、タケル青年のスキルで作った銃にはライフリング加工が施されていたはずだ。

しかしイケオジの渡した拳銃には、そのライフリング加工がない。

使えない武器をタケル青年がずっと持っているとは思えない。

そうなるとこの拳銃はタケルのスキルではなく、ライフリング加工を知らないタケル以外の誰かが自分の手で一から製造したということになる。

そんな事が出来そうなのは、目の前のエルダードワーフくらいしかいない。

イケオジの言う良い物というのは拳銃そのものではなく、『大して知らない拳銃を製造した自分の腕』、或いは『拳銃の製造方法』の事なのだろう。

なんてプレゼンを仕掛けてきたんだこのイケオジは…。


『前のボスのユニークスキルは知ってるよな?あれは物作りにしか能がねぇエルダードワーフから見たらまさに傍迷惑なスキルだ。材料さえあればあっという間にイメージ通りに作り上げちまう事が出来るもんだから、武器作りに特化したオレは正直あそこのお荷物だったんだよ。』

『ああ…、確かにドワーフのような鍛冶や生産に長けた者には彼のスキルは自分たちの長所を打ち消す厄介なスキルでしかなかったでしょうね。』

『しかもあの坊主、自分の見せ場を奪われるのは嫌なのか「物を作るのは全部自分に任せてくれ」っつってオレに武器作りはさせてくんなかったんだよ。オレに回ってくんのは精々机や椅子といった生活用品の修理だけ。それどころか武器倉庫に近づく事すらも禁じられてた。なんともひでぇ話だろ?』

『でしたらこの拳銃はどうやって…。』

『武器倉庫に行くことは禁じられてたが、武器倉庫から取り出された銃を見ることは禁じられてねーからな。あの坊主にバレねーようにあいつの持ってる拳銃を遠目から盗み見て、こっそり作ってたんだよ。』

「遠目で見ただけでこのクオリティ…」


拳銃なんて実際に見るのはこれが初めてだけど、ネットに流れてる写真のように良く出来ている。

エルダードワーフというだけあって、物凄い鍛冶の腕が良い。

ドワーフ殺しともいえる<造形(モデリング)>を持つタケル青年のダンジョンでなければ、かなり重宝されていただろう。


『本当は上手くダンジョンから逃げ出した時に売っぱらって金にしようとしたんだが、そこの妖精の兄ちゃんがブラックデーモンパンサーの野郎をそっちのダンジョンに引き抜こうとしてるのを見てな。だったらと思ってオレも便乗させてもらった訳だ。で、お気に召したか、嬢ちゃんよ。』

「お気に召すっていうか、これはもう仲間入りさせるの確定ですよ…。銃火器を作れるエルダードワーフなんてこの世界に貴方ぐらいしかいませんって…。」


銃火器なんて、異世界で広まっては行けないアイテムベストスリーに入る物だ。

銃火器の製造方法が世間に広まれば、この世界に大きな影響を与えかねない。

現在タケル以外に銃の製造が出来る彼を引き込むチャンスは、今この瞬間しかないだろう。

私は大きなため息をついた後、イケオジに向かって名を告げた。


「『マサムネ』。それが貴方の名前です。よろしくおねがいしますね。」


私がそう言えば、イケオジ…マサムネさんとの<契約(コントラクト)>が結ばれる。

銃火器が必要な時なんて今の所ないけど、武器が作れる者がいるのは良いことだ。

鍛冶の腕は超一流で、しかも口も上手い。

今後は、裏方で精一杯頑張ってもらう事にしよう。

マサムネさんは私に名前を付けられた事が分かると、クールに笑みを浮かべて私の頭を撫でていった。


『これからよろしくな、嬢ちゃん。』


くそぅ、イケオジが過ぎる。


***** *****


お次の面接者は、4人組のウィッチの女性達だ。

マリアからの推薦で、タケル青年の幹部だったシズクさんの下位互換に当たる方々だ。

中でも目を引いたのは、前髪を掻き上げたウィッチさん。

彼女はマリアやアラクネ三姉妹達のような女性的な美しさではなく中性的…どちらかというと男性的な美しさを持つ、宝塚の男役みたいな感じの麗人だった。

他にも眼鏡っこ系女子に活発系女子に内気系女子と、色んなタイプの女性がいる。

皆さん、シズクさんに負けを取らずとってもお顔がよろしいです。


『君がダンジョンマスターのアイネスちゃんだね?ボクたちはウィッチと言われる魔物だ。マリアちゃんから誘われてこのダンジョンに仲間にしてもらうために来たよ。』


格好いい笑みを浮かべ、握手をしてくる麗人ウィッチ。

彼女の周辺だけ、爽やかな風が凪いでいる気がする。


『何かスキル以外で特技はありますか?なんでも構いませんよ。』

『えっと、わたしは料理が出来ます。前のダンジョンでは料理係を良く命じられていたので…。あ、あと服作りも出来ます。』

『ウチは絵描きが出来るよ!主にデッサンが得意!』

『あ、アタシは、小物を作ったりするのが好きです…。アクセサリーとか、飾りとか、そういうの…。』

『ボクは基本的に大体のことはそこそこ出来るって言われるけど、これと言って特筆するべき事はないかな。強いて言うなら、物語を考えるのが好きなのと、姿勢が良くて声が聞こえやすいと周囲から言われてた事ぐらいかな。こんなのでも大丈夫かい?』

『ええ。あくまで此方がそれぞれに合った仕事を割り振る為に必要な情報ですのでそういった事でも問題ありません。』


ベリアルが出す質問に、スムーズに答えていくウィッチ達。

仕事選びは悩まずに済みそうだ。

しかしこのウィッチ達、結構多才だな。

物語書きに絵描き、小物やアクセ作りに洋服作りって、普通はあまり身に付けない特技だ。

レジェンドウルブスみたいに、そういった事が好きなのだろうか?


『食事内容も部屋の内装の指定も大丈夫なようですね。それでは<契約(コントラクト)>を結ぶ前に、あなた達がこのダンジョンに入る事を了承した理由を聞いてもよろしいですか?』

『理由か…。正直に言うと、あのダンジョンから抜け出せるのであればどこでも良かったんだ。たまたまマリアちゃんからのスカウトが来たから、それに乗っかっただけなんだ。』

『それほど前のダンジョンは生活しにくかったのですか?』

『ああ、キミ達も知っていると思うけど、タケルくんとその幹部達がちょっとね…』


どうやら彼女達も、タケル青年達には随分と苦労をさせられていたようだ。

ウィッチ達はそのまま話を続ける。


『わたし達はウィッチっていうことでエルダーウィッチであるシズクさんの直属の部下だったんですけど、毎日何時間もポーションを作らされてて…。』

『ちょっとでも休むと、顔を叩かれたり怒鳴られたりって良くあったんだよ。』

『あ、主のタケルさんは、良くアタシ達の身体をジロジロ見るし、隙あれば<誘惑(テンプテーション)>スキル使うし…』

『彼女たちは冒険者活動でダンジョンにいないことが多かったけれど、その間もずっと仕事をさせられてたんだ。だから皆、精神的に疲労困憊してたんだよ。それでマリアちゃんからこの引き抜きの話を聞いて、思わず了承してしまったんだ。』

「ブラック過ぎて涙出てきそう。」


これは酷い。

前の世界の日本でありそうなコッテコテのテンプレのブラック経営じゃないか。

パワハラに過剰労働にセクハラって、一体どんな心があったらそれだけの事が出来るのでしょう。

ベリアルもフォレスも、果てにはゴブ郎までもがタケル青年のあまりのブラック経営ぶりに軽く引いていた。

ゴブ郎も引くって相当ヤバいぞ。


『今思い出すだけでも本当にすっごい腹が立つよ!』

『もうあまりにも不満が溜まってて、定期的にイライラを発散させてたんですよ。』

『イライラを発散?』

『例えば皆でシズクさんやタケルさん、他の幹部達が痛い目に遭う物語を考えて共有したり…』

『ぐ、グレーターワーウルフさん達とか、他の魔物たちの会話とかを盗み聞きして色々妄想を繰り広げたりとかです…』


ん?

なんか変なワードが聞こえたぞ。


『最近考えた話だと、シズクさんとアリアさんが油断してスライムやオークに負けて、泣かされる話を考えたよね。』


あれ?


『そうそう、タケルさんが冒険者仲間の男性に絡まれる話なんかも考えたよね!』


あれあれ??


『ぐ、グレーターワーウルフさん達の会話は本当に妄想が捗る…くふふっ。』

『あとはブラックデーモンパンサーとエルダードワーフの二人が酒を片手に話をしている姿も良いと思う。』


あれあれあれ????


思考がパニックを起こしかけている私をよそに、彼女たちは楽しげに会話を続ける。

楽しげに妄想に関する話をしている彼女達の頬は赤く、目がキラキラと輝いている。

そんな彼女達の様子に、私はある既視感を覚えた。

それは、前の世界で平和に高校を通っていた頃の放課後、クラスメイトのオタク系女子達が誰もいない教室に集まって、本というには明らかに薄い本を手にして笑っているのを見たような感じだ。

私はまたも、余計な事を察してしまった。

ベリアル達の方を見ると、彼らは彼女たちの話を聞きながら『仲が良いのがお好きなんですね』とか『物語の発想が良いですね』とか独り言を言っている。


ここで私は一つ柏手を打って彼女達の話をストップさせた。

目を丸くして此方を見るベリアル達と、何か失態をしてしまったのかと慌てる4人組。


「ベリアルさん、フォレスさん、ゴブ郎くん、ちょっとの間だけ席を外してもらえますか?」

『えっ、ですが…。』

「お願いします、彼女たちとちょっと話したい事がありまして…。あと、その間は絶対に中に入らないでください。外から会話を聞くのも禁止です。」

『わ、分かりました…。』


渋るベリアル達を無理やり外に出し、会議室の扉に鍵を掛けて厳重に閉ざす。

オロオロしている彼女たちを前に、私は<ネットショッピング>を操作し、ある物を注文した。

私は無言で箱から取り出すと、彼女達の前にそれを差し出してみせた。

その瞬間、ウィッチ達はぴたりと動作を止め、先程以上に目を輝かせた―――――――――。



***** *****


「すみません、もう入ってもらって大丈夫です。」

『あ、はい。』


およそ10分が経過した後、私は鍵を開けてベリアル達を呼び戻した。

フォレス達は戸惑いつつも、私の言った事を守ってくれたようで、一度も中に入ろうとはしなかった。

会議室では、それはもう喜びを顔に出したいい笑顔のウィッチ4人組がいる。

先程までのちょっと疲労した雰囲気が無くなり、スッキリとした様子の彼女たちの変貌ぶりに、ベリアル達は思わず目を丸くした。


「それじゃあ『ライアン』さん、『レイラ』さん、『ルーナ』さん、『ロゼッタ』さん、これからよろしくおねがいします。」

『ああ、これからよろしく頼むよ!アイネスちゃん。』


最後に力強く握手を交わした後、ウィッチ4人組は会議室を出た。

そんな彼女たちの様子に呆気をとられながら、ベリアルは私に問いかけてきた。


『アイネス様、あの10分の間に<契約(コントラクト)>を結んだのですか?』

「ええまぁ、はい。<契約(コントラクト)>しました」

『最初よりもかなり距離が縮まっていたようですが、一体何をされていたのですか?』

「いえちょっと、日本でも特定の女性陣が喜びそうな本を見せただけですよ。」

『本?』

「ぎゃうー?」

「ゴブ郎くん達は知らなくて良いですよ。」


私は明後日の方向を向いて、黄昏れながら彼らにそう言った。

フォレス達は首を傾げ、頭の上に大きなクエッションマークを浮かべている。

私は大きくため息をついて、心の中で呟いた。


ベリアル達もそうだけど、新入り達も大概キャラ濃いなぁ。




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― 新着の感想 ―
[一言] ふ、腐女子系ウィッチ……(白目)
[気になる点] ライアン、ドラ○エ4のオッサン戦士しか頭に浮かびません。 [一言] この世界にも腐女子がいたんですね。 当然タケルを主人公というかヤラれる側にした薄い本を出版して、消えた後も汚名が拡散…
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