思いも寄らぬ者の活躍
いつも感想を読ませていただせてもらっています。皆次の話の展開を予想しようと躍起になってるな(笑)
あらすじの方にあった誤字を修正しました。
感想とかコメントがあったらお気軽にどうぞ!
―――――――――数十分前……
「リーダー、元気だしなって~。」
「そうっすよリーダー!むしろラッキーだったじゃないっすか!告白前にリリぴょんクズなの分かって!」
「メンタルに大ダメージするよりまだマシ、的な!」
「まさに神回避的な。」
「「「「まあ、次があるっしょ☆」」」」
「お前らちょっと面白がってね!?オレの初恋キュンラブだったんだぞ!マジで!」
4匹の仲間たちに少し茶化されながらも励まされ、吠えかかるのは赤い体毛のグレーターワーウルフ。
パーリーウルフズはタケル達が迷路に向かって行ったにも関わらず、迷路の前の初期地点でずっと留まって只管リーダーを励ましていた。
「ちゅーか、リリぴょんのまさかの豹変っぷりにはマジびっくりしたわ。」
「もはや誰ですか?的な?別人かと思ったわー」
「てかボク的にはあのリリぴょんの本性晒した声の子とリリぴょんの口論がめっちゃブルったわ。」
「それな!ピアニーもそう思うっしょ?」
「ああ。マジで。」
「リリスってあんな風に男をメロメロりーにさせんだね。」
「ま、実際リーダーはそれにまんまと引っかかって初恋キュン盗まれちゃってたし?」
「うっせー!お前らだってリリぴょんにメロメロりーだっただろうが!」
「「「「いや、マジそれな!」」」」
リリィが本性を表し、タケルの次にショックを受けたのは他のパーリーウルフズからリーダーと呼ばれているグレーターワーウルフだった。
彼はリリィに恋心を抱いていた。
召喚された直後にリリィから「これからよろしくおねがいします!」と微笑み掛けられて一目惚れし、ずっと彼女に恋をしていたのだ。
だからタケルの元を離れず、ずっと彼女の下で働いていた。
地味で退屈な宝箱の中身の補充や武器の手入れといった雑用も仲の良い4匹と毎日やって来たし、不満を垂れ流す他の魔物たちをなんとか宥めたりして反発が起きないようにもしていた。
更に自分なりにリリィに喜んでもらえるよう、綺麗な花を見つけてプレゼントしたり、リリィをイメージした曲を披露したりだってしていた。
報われない恋だというのは彼自身分かっていた。
種族は別で、力の差だって歴然としている。なによりリリィがタケルに恋している事を彼は知っていた。
それに気が付いた時は凄い悔しかったけれど二人が付き合うなら自分はすぐに身を引くつもりでいた。
全ては、自分の初恋の相手の幸せのために。
しかし、彼は今知ってしまった。リリィの隠された本性を。
疲れた時に送ってくれた労いの言葉も、魔物たちを癒やした笑顔も皆リリィがタケルや魔物たちを操る為の演技で、本当は心の中でずっとタケルや魔物たちを馬鹿にしていた。
清楚で優しい彼女は男を誘惑し弄ぶリリスの生み出した幻だったのだ。
こうして、パーリーウルフズのリーダーの初恋は無残な形で玉砕してしまったのであった。
ショックを受けたリーダーは、ショックのあまりにその場で立ち尽くして落ち込んでしまったのだ。
彼と親しい他のパーリーウルフズの面々もそんなリーダーを置いて迷宮に入る事は出来ず、一緒に初期地点に残ったのだった。
「ちゅーか、ボスも完全に喧嘩売る相手間違えたくね?」
「マジな!ガチでエグすぎっしょこのダンジョン!」
「初っ端から崖からスッテンしそうになるようになってるわ、崖渡ってる所に容赦なく鍋とか矢ぁとか降って来るわ、謎はクッソ難しいわ!」
「今考えると俺達が此処まで残ってるのは本当にミラクル。」
「ミラクルじゃねーよ!もはやデラックスミラクルスペシャルだわ!マジの神攻略!神回避!」
「もう二度と敵に回したくないダンジョンランキングトップ飾れるレベル!」
「あ、でも、アラクネちゃんねー達はめっちゃマブかったわ。」
「それな。アラクネの三姉妹のちゃんねーらは遠目からでも分かるくらいの美人だった。下半身蜘蛛だけど。」
「オレ…あのキリッとした出来る女系のアラクネちゃんねーマジタイプなんですけど。」
「男勝りな姉貴さんアラクネちゃんねーになら俺…尻に敷かれてもいい。」
「ちょ、待てし!つい数分前にハートブレークしたオレの前でその話しちゃう系?オレなんかした?」
「因みにリーダーはどのアラクネがタイプよ?」
「そっりゃお前、ダントツゆるふわウェーブのおっとりちゃんねーっしょ!」
「ハハッ!さっすがリーダー、全然好みブレねー!」
流石はパーリーウルフズとチームで称されるほどのチャラい人狼達。
リーダーは先程までの深淵を感じさせる程の落ち込みっぷりは何処にいったのか、いつの間にか他の四匹と一緒にどのアラクネが綺麗だったかを議論し始める。
自分のダンジョンの幹部二人が自分の直ぐ側で死んだり、初恋の女性がとんでもないクズだったりと色々あったにも関わらず、彼らは楽しげに笑い声を上げる。
そして思いっきり笑いあった後、ふと全員静かになる。
そして、一匹のグレーターワーウルフが口を開いた。
「なぁ、俺達どーすんよ?」
「どー、ってなんだよブルー?」
「俺ら、リーダーとリリぴょんの恋をサポートするために今までずっとあのダンジョンでやって来たっしょ?けど、見事にそれも玉砕しちゃった訳だし、ぶっちゃけあのダンジョンいる意味なくね?」
「あー、それな。ぶっちゃけドーカンっすわ。」
「仕事はぶっちゃけ多いし面倒で退屈だし、しかもボスが色々僕らに外の面倒事押し付けるから昼は全然休めないし。」
「夜にミュージック練習してたらアリアリ達にマジギレされてダンジョン内でのミュージック練習を禁止されるし、アリアリ達も見た目はマブいけどぶっちゃけボス以外には当たりつえーし…。」
「癒やしだと思ってたリリぴょんもあんな訳だったし、もー僕たちいる意味とかもう皆無的な?」
「俺が言いたいのはマジでそれ。どうせ俺ら程度の魔物が出てった所でダンジョンに影響があるわけじゃねーし、楽器さえあれば5匹でやってけそうだと思うんだわ。この際ダンジョンを出て野良としてやってくのも悪くねーっしょ?」
青い体毛のグレーターワーウルフがそう言うと、他のグレーターワーウルフ達もそう思っていたようで、うーんと考え始める。
そこで明るいオレンジの体毛のグレーターワーウルフ、通称オレムがリーダーのグレーターワーウルフの方を向いた。
「リーダーはどーするんっすか?」
「オレ?」
「ぶっちゃけオレらはリーダーの恋を応援するために一緒にダンジョンに残ってたわけだし、リーダーがいるからオレらのミュージックも成り立ってるわけっしょ?それだったら今後どーすんのかもリーダー次第だと思ってるんだわ。」
「で、リーダーはどーしたいのさ?」
「オレか…」
腕を組んで考えるリーダーにパーリーウルフズの視線は集中する。
リーダーは暫く考えた後、真剣な表情で答えた。
「オレは…まだもう少しだけボスのダンジョンに残ろうと思う。」
「マジで!?正気!?」
「ウッソだろ!?」
「リーダー、もしかしてまだリリぴょんのことを…!」
「いや、ちげぇし!?そんなんじゃねーから!」
てっきりダンジョンを出る事を選ぶと思っていたリーダーからの予想外の回答に他のパーリーウルフズが驚愕を見せる。
「確かにまだ諦めきれねー所はあるけどよぉ、流石に馬鹿なオレだってあれみたら完全脈なしってんのは分かる。」
「じゃあ一体理由はなんなん?」
「それとは別に、ボスにはちょっとした恩ってのもあるんだよ。」
「恩?」
「ま、ボス自身は知らねーと思うけどさ。」
そう言って笑うリーダーを見て、他のパーリーウルフズはお互いの顔を見合わせ、やがてニッと笑みを浮かべてリーダーと肩を組む。
「恩とかそーいうのは俺らにはよく分かんねーけど~。」
「リーダーがそうするなら僕らも残るしかなくね?」
「オレらパーリーウルフズは5匹揃ってなんぼっしょ!」
「お前ら…。」
3匹の言葉を聞いてリーダーは思わず目に熱いものを感じる。
目元を擦り、いつもの笑顔を浮かべたリーダーは顔を上げていった。
「おっしゃ!くよくよタイムはこれでしゅーりょー!こっから追い上げていっきゃっしょー!」
「おっ、いつものリーダーに戻った!」
「ちゅーか、くよくよしてたのはリーダーだけだけどな」
「うっせ、ブルー!こっから大活躍してきゃあそれでパーペキなんだし良いんだよこれで!」
「けど他の皆は全員ミラーラビリンス、略してミラビリンの中にいったよ?」
「おっ、トラペっちそれ良いスタンドじゃね?ミラビリンとかナウさ半端ない」
「でしょ?!」
「まあ確かに、結構出遅れたくせーね…。どーっすか…。」
「オレら、ミラビリンクリア出来るだけ頭よくねーしね…。」
出遅れてしまった分をどうすれば取り戻せるか4匹のパーリーウルフズが悩み始める。
その時、近くでガチャリッ!という嫌な音が彼らの耳に入った。
「ちょ、なんよ今の音…。」
「なんか、ヤベー音してたくね?」
恐る恐る彼らが音の聞こえた方へと顔を向けた。
するとそこには、今までずっと会話に入っていなかった黒色の体毛のグレーターワーウルフ、通称ピアニーが全身鏡一枚を両手に持ってわなわなと全身を震わせ立ち尽くしていた。
彼のすぐとなりの壁は、むき出しの壁が見えてしまっている。
一体何が起きたかを察したパーリーウルフズの面々は、ピカラが死んだときとは違う悲鳴を上げた。
「ちょちょちょ、ピアニー!?!おま、何してんのそれ?!」
「それミラビリンのやつ!多分デストロイしちゃいけなかったタイプのやつ!」
「こ、このミラーだけほんの少し他のより幅が狭いし角度がピシってしてなくて……せめて角度をパーペキに直そうとしたら…!」
「見事にベリッちゃった訳ね…。」
ピアニーの言葉を聞いた4匹はため息をついた。
ピアニーは他の4匹とは違い口数が少なく、かなり細かい所まで過剰に気にしてしまうほど几帳面すぎる性格をしている。
きっと一つだけ変に曲がった鏡が許せず、こっそり直そうと動かしたら誤って鏡を壁から剥がしてしまったのだろう。
彼の几帳面さと完璧主義な性格をしっている4匹は、彼の心情をなんとなく察して咎める事は出来なかった。
「こりゃ、ピアニーダンジョン戦争終わったらお説教コースだわ。」
「最悪、弁償代払い切るまでワーカーゴーレムの刑じゃね?」
「お、俺は、なんてことを……!」
「ま、まあアイピッピならちゃんと頭下げて必死に謝れば微レ存少しまけてくれんじゃね?それまでに半殺しされたらキチィ事パないけど…」
「と、とりま大丈夫っしょ!もしもマジでそーなったらオレもピアニーヘルするから!」
ブルーの言葉を聞き、鏡を抱えプルプルと今にも泣き叫びそうになっているピアニーをリーダーとオレムが励ます。
そんな中、剥がれてしまった壁の方を調べていた薄い桃色の体毛のグレーターワーウルフ、通称ピンキーがある事に気が付いて、4匹に声を掛けた。
「ねぇ皆、多分ピアニーがワーカーゴーレムにならなくても多分ダイジョブっぽいよ?」
「「「え?」」」
「それマジで?ピンキーちゃん」
「うん。これ、元々剥がせるようになってたくさい。だってほら、此処に文字が書いてある」
そういってピンキーが指差した場所を見てみると、確かにそこには文字のようなものが掘られている。
その書かれた内容がまた変わっていた。
「えっと、『カホーは寝て待て。さすれば迷いは晴れる』?」
「いや『カホー』ってなに?」
「寝て待てって、マジで寝て待てばなんかあるっつー事?このダンジョンの中で?」
「いや、流石にねーっしょそれは…」
「あの…このミラーはどうすれば…」
「ひとまず壁に付け直せば良くね?なんかそれ簡単に壁にはめられるっぽいし」
「こんな風に隠されてっつー事は、多分めっちゃビッグなヒントなんだろうけどなぁ…。あーっ、マジわっかんね!」
頭を掻き乱し、呻くリーダー。
地頭が良くないパーリーウルフズには、隠されていたヒントの意味が分からない。
そこでリーダーは脳の限界を迎えたようでヒントの意味を考える事をストップした
「てか、さっきからちょいちょい聞こえる雑音はなによ的な!?地味にノイズなんだけど!」
「あー、確かにさっきから聞こえんな。なんかこう、ウィーンガシャン!ウィーンガシャン!って感じで!」
「ミラビリンの中の方から聞こえるよな?」
「ミュージックで隠れてるっぽいけど、もしかしてこれもなんかのヒントだったりする的な?」
「あー、それガチで有り得そう的な。ちょっとミラビリンの中良く見てみんべ」
「そうすっか!オレら動かないで頭働かせんのは苦手オブ苦手だし!」
「ちょ、オレム、それは言わねー約束だし!」
パーリーウルフズはワイワイ騒ぎながら扉を開けて外から中の様子を覗いた。
中は当たり一面鏡の壁だらけで、自分たちが思っている以上に入り組んでいる事が分かる。
パーリーウルフズは一旦迷宮の中に入ることはせず、扉を開けたまま再び話し合いを始めた。
「いや、あれはリームー。」
「それな。あんなん迷いまくる気配しかねーわ。」
「リリぴょんとかシズっさんとかデモパンパイセンと一緒ならワンチャンいけっかもだけど、俺らだけであのミラビリン攻略はマジでリームー。」
「つか、こんなん短時間で攻略出来るわけなくね?」
「ミラビリン攻略ってマジでどうしたら…」
普段使わない頭を働かせて話し合っていると、再び彼らの耳に変な音が聞こえた。
鏡の迷宮の方を見てみれば、なんと目の前の鏡の迷宮が動いている。
これを見たパーリーウルフズはその大掛かりな仕掛けに驚愕する。
「何これすっご!!!」
「ミラビリンめっちゃ動いてんじゃん!」
「こんなん初めて見た!」
「これもアイぴっぴが考えた仕掛け?アイぴっぴパネェわ!」
「でも、迷路の構想が変わるのだったら尚更俺達が攻略出来るわけなくないか?」
「マジそれな!今までのエリアもマジでエグかったけど、これ一番エグいわ!」
エリア全体を使った大掛かりな仕掛けに敵のものであるにも関わらず感動してしまうパーリーウルフズ。
やがて鏡の迷宮が動きを止め、これで終わりかとパーリーウルフズは思っていた。
その時、鏡の迷宮が再び音を立てて動き出した。
鏡の迷宮はゆっくりと横へスライドして、中に入れないようになってしまう。
まだまだ動き続ける迷宮に、パーリーウルフズは困惑するばかりだ。
「え、これまだ動くん!?」
「さっきはちょっと音が出てハイ終わりって感じだったよね?」
「つか、迷宮入れなくなっちゃったんだけど!?」
「何が起こるの?マジで何が起こるの!?」
パーリーウルフズは軽くパニックし戸惑いながら迷宮が動いているのを眺める。
すると、鏡の迷宮は途中で動きが止まり、鏡の迷宮が2つに分かれ、直線の道が現れた。
真っ直ぐと切り開かれた道は障害物も罠もなくひたすら一直線に続いていて、その向こうには開けた空間と白い扉がハッキリと見えた。
突然出来た新たな道に、パーリーウルフズは口が閉じなくなるほど驚愕し、そして目を輝かせて騒ぎ始めた。
「お、おおおおおおおおおおお!なにあれかっけええええええ!」
「もしかしなくてもあれがゴールじゃね?!ゴールじゃね!?」
「……!!…!!!」
「ピアニーが感動のあまり言葉失ってる!でも確かに凄っ!」
「『カホー寝て待て』って、迷宮に入らず待ってろって事だったんだ!僕たち超神ってる!!」
「よっしゃー!お前ら今のうちに進むぞ!」
「「「「うぇーーい!!」」」」
拳を上げて雄叫びを上げ、鏡の道を一直線に駆けるパーリーウルフズ。
鏡の道には罠も何もなく、彼らは何かに妨げられる事なく先を進む。
スタート地点から反対側に存在する場所に全員が到着すると、次の場所へ進むための白い扉がそこにあった。
「コレで最深部まで行けたら、オレら大活躍じゃね?!」
「マジマジ!俺ら一気にパーリーウルフズからレジェンドウルフズに大変身よ!」
「ボス達からもお褒めの言葉を貰えるんじゃない?!」
「おけおけ!じゃあ早速扉を開けちゃいましょーか!」
そう言って、リーダーが白い扉を開けて中に入ろうとしたその時、上空から女性の声とともに誰かが降ってきた。
「ちょ、ちょっと待ったーーーーーーーーーー!!!」
「うぉわああああああああああ!?」
リーダーが慌てて後方へ飛ぶと、扉の前にアラクネ三姉妹が着地したのだ。
三人はどこか息切れをしていて、焦っている様子だ。
「ぜぇ…ぜぇ…危ない所だった…!」
「あ、えっと…さっきぶりっすね…?」
「ええ、さっきぶりです。まさかまたお会いするとは思いませんでしたが…」
アラクネ三姉妹は焦りの表情を浮かべパーリーウルフズに挨拶を返す。
最初の間でみたような落ち着きぶりはない。
「え、此処でアラクネちゃんねーらが来るって事は、もしかしてオレら間違っちゃった系?此処でリンチとかやられちゃう系?」
「別に間違ってはないですよぉ。むしろそのぉ……」
「アンタ達が今通った道が最深部前の部屋に向かうための唯一の道だったんだよ。つまりは大正解」
「マジで!?オレら合ってたん!?」
アラクネ三姉妹の言葉に、パーリーウルフズは目を丸くして顔を見合わせた。
そんな彼らの様子を見てため息をつきつつも、アーシラ達は説明をする。
「あの鏡の迷宮は中に入ったら絶対にこのゴールには行けないようになっていて、此処まで辿り着くには迷宮の中に入らず、そのままスタート地点から動かなければ勝手に道が現れるようになっていたんです。」
「スタート地点に隠されてたヒントにもあっただろ?『宝が欲しけりゃそのまま待て。そうしたら勝手に道は開くから。』って。まあ、絶対にバレないように隠していたんだけどさ。」
「へぇ…あのヒントってそういうミーニングだった訳か…」
「なんだい、アンタ達ヒントの意味を分かってなかったのか?」
「自慢じゃねーっすけど、オレら馬鹿なんで!」
「本当に自慢になってませんね。」
「アイネス様から『頭が良い人程この迷路で苦戦するけど頭が良くない人は逆に簡単に攻略できる』って聞いてたけど…。まさか本当にこの道を見つけちまうとはね…。」
「実はこの扉の間、このルートでクリアしたのは皆さんが初めてなんですよぉ。」
「マ?俺らが初?」
「このルートを開放してから今の今まで、アンタ達以外にこの真ルートを見つけたやつはいなかったよ。だから最後の難関としてこのルートを置くことになったんだけど、本当予想外だよ。普段はこの先には色々豪華なものを置いているんだが、なんなら後で記念品でも出してやろうかい?」
「ぬいぐるみとか、わたし達が編んだマフラーとかどうですかぁ?」
「え、美人なちゃんねー達が作ったマフラーとか普通に欲しいわ…ってそれはさておき。」
リーダーはアラクネ三姉妹達にうやむやにされることなく、腰からナイフを取り出し、アラクネ三姉妹に話しかけた。
「どうにか穏便に通して貰えないっすかね?多分その先にダンジョンコアとアイぴっぴいる感じっしょ?」
「あ、アイピッピ?まあともかく、アタシらだってアイネス様に仕える配下なんだ。こっから先に簡単に行かせられないんだよ。」
そう言ってアーシラが片手を上げると、あちこちからアイネス側の魔物が姿を現し、パーリーウルフズを囲みだす。
パーリーウルフズはすぐにそれぞれの武器を構え、仲間同士背中を向けて魔物たちと対峙する。
全員がパーリーウルフズを囲むと、アラクネ三姉妹は話し始める。
「最初の攻略者ということで、殺すことは致しません。どうかお引取りを。」
「ごめんなさい~。でも、どうしてもあなた達を先に行かせられないんですよぉ。」
「悪いけど、アンタ達にはダンジョン戦争が終わるまで此処で眠ってもらうよ。」
そう言って、ジリジリと距離を詰めるアーシラ達。
パーリーウルフズはそんな彼女達を見て、話し始める
「アイピッピ、めっちゃ配下に慕われてんじゃん。」
「あっちの気持ちも分からなくもないけどね。」
「うちのボスとは大違いだわ~。」
「で、どうするんだリーダー?」
「とーぜん、突っ走ってくしかないっしょ!ピンキー、ピアニー、此処任せても良さげ?」
「モチのロン!」
「任せろ。」
リーダーが二人の名前を呼ぶと、ピンキーとピアニーは彼らの前へ出る。
二匹は発声練習をしながら、声の調子を調べる。
「あー、あー…。おけ、声の調子は絶好調!ピアニーは?」
「いつでも万端だ。サゲボは俺が出す。」
「おけおけ!僕はアゲボだね!それじゃあ、アラクネちゃんねー達を僕たちのツーマンライブにご招待!」
「ちょっと、アンタ達、一体何をする気で…」
何かを感じ取ったアーシラが止めようとするが、その前に二匹は動いた。
二匹が大きく息を吸い込むのを見た他の三匹は耳を塞いだ。
二匹は限界まで息を吸い込むと、口を開けて大声を上げた。
「「<咆哮>!!!!」」
その瞬間、二人が2種類の音波を放つと、アーシラ達は耳を抑えて膝から崩れ落ちた。
「あ“ぁぁぁ…な、んだいこれは…!」
「頭が、痛いです~…っ!」
「これ、普通の<咆哮>じゃないですね…!」
<咆哮>。
獣系の魔物が持つスキルで、大声を上げて相手を一時的にひるませる効果を持つ遠吠え。
しかし使用者よりレベルが高い者と勇敢な者には効果がなく、ひるませる効果もほんの一瞬しか保たない、知性のある獣系の魔物も全く使わないような些細なスキル。
パーリーウルフズはそんな誰も使わないようなスキルを愛用して使っていた。
普段はライブで声を響き渡らせる為にしか使わないのだが、パーリーウルフズに限定してその<咆哮>は特殊な効果を持っているのだ。
それは、ある2種類の音程の<咆哮>を同時に発動すると特定の魔物をレベル関係なしに動けなくする効果。
それぞれ違った周波数を出して合わせ互いの<咆哮>を反響させる事で魔物が嫌う音波を生み出し、人間以外の魔物をかなりの時間抑える事が出来るのだ。
強いて名前を上げるとすれば、それは不協和音。
調和しない2つの音を敢えて<咆哮>で出す事で、相手の耳にダイレクトに当てるのだ。
これをパーリーウルフズが出来るようになったのは、ほんの少しの失敗と閃きからだった。
アイネスと出会うずっと前、彼らは演奏の練習中にたまたまリーダーとブルーの楽器が合わさった時に不協和音を出してしまった。
当然その不協和音にパーリーウルフズは耳を塞ぎ、演奏を止めた。
普通だったらそこで終わりだったのだが、リーダーはそこである事を口にしたのだ。
―――――――「これ、オレらの<咆哮>でも出来んじゃね?」と。
リーダーは当時冗談半分だったのだが、他のパーリーウルフズも「試してみよう」と乗り気になり、実際に試してみたのだ。
元々耳が良く、毎日演奏練習や発声練習を続けてきたおかげかパーリーウルフズは全員音程が分かる為、わざと不協和音を生み出す事ぐらいは簡単だった。
その結果、一時間程タケルのダンジョンの運営がストップした。
彼らの近くにいた魔物たちが彼らの<咆哮>をダイレクトに浴びて動けなくなってしまったからだ。
当然その後タケルやアリア達からは説教を受けたが、パーリーウルフズは新しい発見に目を輝かせてまともに説教は聞いてなかった。
それから彼らはダンジョン戦争中にこの<咆哮>の不協和音を使うようになった。
多数の魔物がいる時や相手が強敵だった時には結構役に立つスキルで、彼らは気に入っていたのだ。
ただし、音なので魔物ならば自分達以外敵味方関係なく動けなくしてしまうため、周囲に味方がいないことを確認した上でだ。
「それ、別にダメージとかはないんで安心してくださいっす!」
「ちょっと麻痺るだけなんで!」
「じゃ、失礼しやっす!」
「あ、ちょ…、アンタ達行くんじゃないよ…!コラーーー!!!」
動けなくなっている魔物達の脇を通り、アーシラの怒る声を聞きながら白い扉の中へと入っていくリーダー、ブルー、オラム。
慌てて閉じると、前の部屋の音はピタリと止まり、静かになった。
黒い通路を通り抜けてその先にあった扉を開くと、そこは一つの扉がある何もない空間だった。
向こう側には扉が見える。
一応扉が開くかドアノブを回してみたものの、鍵が掛かっているのか先に進む事が出来ない。
「此処が最深部前?なんかめっちゃ地味じゃね?」
「てか、アイピッピいなくね?アイピッピの匂いはすんだけどなー。」
「多分どっかにいるとは思うんだけどなぁ…」
三匹のパーリーウルフズは自慢の鼻を使ってアイネスの匂いを辿り、居場所を突き止めようとする。
やがてアイネスの匂いが最も強い場所についたのだが、そこにあったのはただの壁だった。
「こっからアイピッピの匂いがすんだけど……何もなくね?」
「一体どうしたらアイピッピ見つけられる訳?」
「んー…多分だけど、どっかにヒント的な物が隠れてたりするんじゃね?ほら、こういう所とかに隠し扉があるとか…」
「いやいや、流石にそれは…」
そう言いながらリーダーが壁をあちこち触れてみると、一部の壁がグルンっとどんでん返しのように一回転横に回り、先の部屋が姿を現した。
その部屋の中にはスライムを一匹抱えたアイネスが彼らを見ていた。
「「「ま、マジでいたーーーーーーーー!?!」」」
「##……#########、###。」
アイネスは彼らに見つかると、おとなしく狭い隠し部屋から外に出てきた。
まさか本当にアイネスがいたとは思わなかった彼らは、困惑した表情で自分たちの顔とアイネスを交互に見た。
そんな中、アイネスはそっとスライムを地面に置き、スケッチブックに何か絵を描くと、それをパーリーウルフズの3匹に見せて口を開いた。
「###、##########…?」
「いやアイピッピ既にグロッキーじゃん!?どしたん!?」
「袋の絵って、もしかして吐きそうなん?!ちょ、どっちか水持ってる?!」
「持ってるけど俺らの使い回しだぞ!?間接キッスは流石にアウトっしょ?!」
「#、##…」
「アイピッピ~~!?!?」
顔色を悪くし、口元に手を抑え、具合悪そうにしているアイネスに根の良いパーリーウルフズは敵のボスであるにも関わらず介抱しようとてんやわんやになる。
アイネスが抱えていたスライムも、具合の悪そうなアイネスにオロオロしている。
アイネスがいた部屋には沢山のモニターが設置されており、その中の一つにはリリィをリンチしている魔物達の映像が映っている。
しかしパーリーウルフズはそんな映像には見向きもせず、今にも魂が抜けそうなアイネスの体調を心配する。
敵との対峙は、皆が思っている以上にシュールな光景だったのであった。




