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3つの勘違い

「くっ……!ちょこざいですわね…。」

「どうしたのです?エルダーウィッチの実力とはこの程度ですか?」


イグニレウスとホムラが激戦を繰り広げていた中、ベリアルとシズクもまた激戦を繰り広げていた。

数々の高度な魔法を巧みに使うシズクの攻撃に対し、ベリアルは余裕の表情でそれらの魔法攻撃を相殺する属性の魔法を使う。

ベリアルの余裕綽々な姿に腹を立てながらも、シズクは黙々と策略を練る。


(さっきから魔法が全て相殺されますわね…。これもタケル様を侮辱したあの小娘のせい?そういえばあの小娘はスキルの少なさとステータスの低さから神に捨てられたとタケル様が言ってましたわね…。もしや、何か神も気づかなかった此方の攻撃を予知する特殊なスキルでもあるのかしら?)


アイネスのスキルがベリアルの回避力の答えだと考えたシズクは、ベリアルに攻撃を続けながらも思考を続ける。


(パーティーがあったあの日、あの小娘は守護精霊と<精霊結界>に護られていたから、防御魔法や魔法を逸らす阻害系のスキルではない。だとするとまさか、先の未来や過去を見ることが出来る予知系スキル?それでしたら、此処まで罠に掛からず奇襲する魔物達を倒したのも納得がいきますわね…。だったら…)

「わざと天井を攻撃して、天井の落石で私を仕留めようか。ですか?」

「!?」


その時、突然背後から聞こえてきた声に、シズクは慌てて振り返り距離を取る。

背後には先程まで自分の前にいたはずのベリアルが立っていた。

シズクはいつの間にか背後に回っていた事よりも、自分の思考を読まれた事に驚いていた。


「女の思考を勝手に読むだなんて、失礼な男ね」

「失礼、このまま会話もなく戦っているのは少し味気ないかと思いまして。」

「いつの間にそんな悪趣味なスキルを使ったの?」

「いいえ、そのようなスキルなんて使っておりませんよ。全てはアイネス様のお陰です。」

「あの小娘の…?」

「おっと、これ以上は秘密です。」


シズクが首を傾げ追求しようとした所、ベリアルは口を噤んで魔法を繰り出し始めた。

しかしベリアルの言葉を聞き逃さなかったシズクは、更に考える。


(この悪魔がスキルを使ってないのであれば、此方の思考を読んでいるのはあの小娘か!そうなると、あの小娘のスキルの正体は思考を読み取る類のスキル!恐らく、相手の思考を読んで一手先の行動を知ることが出来るスキルを小娘が持っていて、それをあの悪魔に伝えているのだわ。)


ベリアルの異常なまでの回避力の高さの正体を悟ったシズクは思わず笑みが溢れる。

確かに予測系のスキルや思考を読む類のスキルは厄介だ。

しかし、ただ相手の行動の一手先を読むことが出来るというだけ。

ベリアルではなくアイネスがスキルを使ってその結果をベリアルに言っているのであれば、伝えるまでのタイムラグがある。

アイネスが予測結果をベリアルに伝えるその前に、奴に必殺の攻撃を与えれば良いのだ。

シズクは攻撃魔法をベリアルに繰り出しながら、彼に分からないように隠れてある魔法陣を構成し始める。

それは、この世界には存在しない魔法。

普通魔法というのは出したい魔法のイメージを思い浮かべて決められた呪文を唱えて発動するか、既存の魔法陣を構成して発動するもの。

新しく魔法陣を作り出すには長年の年月を掛けて魔法陣の構成を考える必要がある。

しかし、あるスキルを使えば瞬時に新たな魔法を創造することが出来る。


<魔術の叡智>。

魔術師の中でもより優れた魔術師のみが得る事が出来るスキルだ。

このスキルを持つ者は呪文を使わず、イメージ通りの魔法を創り出す事が出来る。

保持者の想像を反映するためイメージが曖昧だったら魔法は発動しないし、全く同じ魔法を生み出す事は難しいものの、魔術師であれば喉から手が出る程欲するスキルだ。


シズクは自身の魔術師としての腕に確固たる自信があった。

トップレベルの魔力量を持ち、最も魔法に優れていると言われている種族であるエルダーウィッチ。

そんなエルダーウィッチの中でもシズクの保有する魔力量はエルダーウィッチで1,2を争う程の莫大な量だった。

更に異世界から転移してきたタケルから聞いた魔法アイディアのお陰でより強力な魔法を扱えるようになった。

周囲の冒険者たちからは称賛と憧憬の眼差しを浴び、タケルの提案した方法でレベルも今は100を超えた。

容姿だって他と引けを取らぬ程に美しい。

だから、狡猾な性格の悪さでしか勝っていないであろう悪魔ごときに負けるなどシズクは思っていなかった。


そうしている間に、シズクは魔法陣の構築を終えた。

<スーパーナチュラルナイフ>。一度放てば目にも留まらない速さで相手の心臓を貫く赤き光のナイフ。

タケルから聞いた悪魔殺しのナイフをモデルに創り上げた魔法。

光や聖属性の魔法を弱点とする悪魔にはまさに一撃必殺の魔法だ。


「フフフ…コレで終わりよ。喰らいなさい!<アクアランス>!!!」


シズクは水の槍を放つ水属性魔法を何十も同時発動し、ベリアルに向けて放った。

ベリアルは炎魔法<ファイアランス>を同じ数だけ放ち、アクアランスを相殺する。

シズクは水の槍が蒸発して湯気になる光景を見て、笑みを深めた。

蒸発して出来た湯気を目眩ましにして、シズクは<スーパーナチュラルナイフ>を発動した。

魔法陣から赤い光のナイフが現れると、光のナイフは目にも留まらぬ速さでベリアルに向かっていった。

光のナイフは湯気の中へと消え、すぐに光のナイフが向かった方向から十字の赤い光が見えた。

あれはナイフが見事に命中した事を指し示す証だ。

シズクはその光を見て、自分が悪魔に勝利した事を確信した。


「フフ、他愛もないわ。」


自分を散々侮辱し手こずらせた悪魔を倒した事に、笑みを深め勝利の喜びに浸るシズク。

これでタケルに歯向かおうとする邪魔な魔物が一匹消えた。

あとはあのエンシェントドラゴンを倒し、フェアリーロードに追いつけば良いだけ。

後ろから魔法をぶつけてやろうかしら。

ホムラは頭が硬いから後で怒るかもしれないけれど、優先すべきは自分たちの勝利。

勝てば何をしても文句は言われないのだ。


そんな事を考えていると段々と湯気が晴れていき、周囲の風景が明確に見えるようになった。

湯気が全て晴れたその時、シズクは目の前に広がる光景に驚愕した。


「死体が…ない!?」


ベリアルがいたはずの場所に、彼の死体が何処にもないのだ。

ダンジョン戦争で死んだ者の死体は死後数分で光の粒になって消えるけれど、それにはまだ早すぎる。

<スーパーナチュラルナイフ>に相手の死体を消滅させる効果などない。

そうなると考えられるのは、ベリアルがまだ生きているという事だ。


「あの男は何処へ…!?」


シズクは慌てて周囲を見渡しベリアルを探す。

自分の背後を見ようとしたその時、自分の背後から聞き覚えのある声が聞こえた。


「<アーテル・マルチウェポン>」

「なっ、きゃあ!?」


声を聞いて振り返ったその瞬間、自分の目の前には黒い闇の力を持った槍が迫っていた。

シズクは咄嗟に自分の身を逸らして槍を避け、すぐに距離を取ろうと後退しようとした。

しかし、


「ガハッ…!?!」


突如避けたはずの槍がハンマーへと姿を変化させ、シズクの頬を力いっぱい叩いたのだ。

衝撃のあまりに吹き飛んでしまったシズクは大きく宙を舞い、地面に伏した。

顔を殴られたショックで脳が揺れシズクがめまいを起こしているとベリアルがコッコッと足音を立てて近づいてきた。

ベリアルの身体には傷らしい傷は一切見られない。


「ふむ、やはり途中で攻撃の形状を変化させられるのは良いですね。相手の動きに合わせて形状を変化させれば相手が回避しにくくなる。このダンジョン戦争が終われば、アイネス様に披露しましょうか。」

「な、何故ですの…?」

「ん?何故、とは?」

「確かに、<スーパーナチュラルナイフ>が当たったはずなのに…」

「ああ、あの魔法、そんな名前だったのですね。フフ…、悪魔なら聖光属性の魔法が弱点と思っていたようですが、申し訳ありません。私、<聖光属性無効>スキルを所有しているのですよ。なので光魔法も聖魔法も私には全く効かないのです。」

「ば、馬鹿な…!そんな悪魔、いるわけが…!」

「そうでしょうか?アークデビル以上になると、弱点を減らすために聖光属性に耐性を付けられる悪魔が多いはずなんですがね…。ああ、もしやレッサーデビル未満の悪魔しか戦った事が無かったのでしょうか?それでしたら知らないのも納得です。」


クスクスと嘲笑いながらシズクの疑問に答えるベリアル。

その表情はまさに悪魔だ。

シズクは、今の自分の状況が信じられなかった。

本来なら目の前の悪魔が地面に這いつくばり自分が笑っているはずだったのに、今の状況はシズクが思い描いていたものとは全く逆の立場になっている。

なにより、ベリアルが今使った<アーテル・マルチウェポン>という魔法。

途中で攻撃の形状を変える魔法なんてエルダーウィッチであるシズクにも聞いたことがない。


「貴方はどうやら、3つほど勘違いをされている様子だ。」

「かん、ちがい…?」

「今から私が、一つずつ説明して差し上げましょう。まず一つ、貴方は自分しか新たな魔法を生み出す事が出来る<魔術の叡智>を持っていないと思われているようですが…。残念ながらそれは大きな思い違いです。」

「ま、まさか…!?」

「ええ、私も<魔術の叡智>スキルの保持者なのですよ。」

「あ、悪魔が…<魔術の叡智>を…!?」


ベリアルの言葉に目を見開くシズク。

その様子を楽しむようにベリアルは説明を続ける。


「貴方はあのタケルという人間の男から聞いた話からアイディアを貰って魔法を生み出していたようですが、私は少し特別な方法で実際にその魔法を使う様を映像としてその目で見ました。聞いただけの貴方とはイメージの明確さが違うのですよ。」

「そ、存在しない魔法を見るだなんて、そんな方法あるわけが…!」

「それがあるのですよ。まあ、貴方方には決して真似できないですがね。」


イメージによって発動する魔法は発動者のイメージによってその魔法の強さが変わる。

魔法のイメージが明確であれば明確である程、魔法はより強力でより効果を持つのだ。

シズクがタケルに話を聞いて自分なりにアレンジしただけだったのに対し、ベリアルはアイネスからタブレットを借りて某動画サイトにある自分の名前の由来になった『ベリアル』の魔法を何度もその目で見た。

魔力量こそエルダーウィッチであるシズクの方が上だが、イメージの明確さだったらベリアルの方が遥かに上なのだ。


「次に、貴方はどうやらアイネス様が思考を読み取るスキルで貴方の思考を読んで、それを私に伝えていると思っていたようですが、その予想は大外れです。アイネス様も私も、そんなスキルは持っておりません。」

「そ、そんな!有り得ませんわ!?だったらどうやって貴方達はタケル様のダンジョンの罠や仕掛けを全て回避して、私の攻撃も全て読んだというの!?」


自分の推測が外れていたと告げられ、シズクは思わず反論した。

そんな反論すらも読んでいたのか、ベリアルはより笑って見せた。


「『敵を知り己を知れば百戦危うからず』…。敵の実力や現状をしっかりと把握し、自分自身のことをよくわきまえて戦えばどんな戦いでも負けることはない、というとある策士が言った名言だそうです。アイネス様はその名言に基づいて、貴方方の事を独自の情報網で調べ上げました。貴方方幹部のスキルに性格、仕草や癖……それと、貴方方のダンジョンの構造まで。」

「なっ………!」

「アイネス様の力は素晴らしいですよ。なにせ見たことのない場所を再現するだけの力をお持ちなのですから。」


アイネスは準備期間の間に<カスタム>で飲めばMPを回復する事が出来る魔力回復ポーションを一樽分購入した。

アイネスはその樽をマイホームへと持ち込んで、ある作業をずっとやり込んだ。

それは…


『<お出かけ>。行き先はタケルダンジョンの4階目で。…うぷっ。』

「アイネス様、『ダイジョウブ?』」

『大丈夫です…。ただこのポーション、すごく不味い上に凄い臭い…。鼻が曲がりそう…。』

「『ムリ、ハ、ダメ。』」

『どうも……』


只管<お出かけ>を使い、タケルのダンジョンそっくりな異空間を創り続ける作業だ。

アイネスの持つ<お出かけ>は、所有者であるアイネス自身が認めるバグスキルだ。

本来『自身の世界に存在する、所有者が一度訪れた事のある場所』へと転移するためのスキルだったものが、一つの矛盾を直すために『この世界にはない、または所有者が行った事のない場所』も行けるように異空間を作る事の出来てしまうスキル。

アイネスはこのスキルのバグを利用したのだ。


アイネスはタケルのダンジョンに訪れた事もなければ、見たこともない。

それはつまり、<お出かけ>スキルで異空間を作る対象内であるということ。

アイネスの今のMPは86。

これはタケルのダンジョンの1フロアとその半分の異空間を作る事が出来る数値だと<オペレーター>から聞いた。

そこでアイネスはタケルのダンジョンとそっくりな異空間を、1フロアずつ創り出す事を思いついた。

アイネスは魔力回復ポーションでMPを回復しながらコツコツと異空間を作っていき、<招待>でマイホームに入ったベリアルはアイネスが作った異空間をフロア毎に攻略し、その階層の仕掛けと罠を覚えていったのだ。

元々人の冒険者向けに作られたダンジョンなので、アークデビルロードであるベリアルに1階層ずつ攻略するのは余裕なことだった。

この作業を続け、イグニレウス達に共有した結果、ベリアル達はタケルのダンジョンの構造を全て把握しているのだ。

唯一苦労したのは、アイネスは魔力量が少ないため1階層の異空間を作る毎に不味くて匂いの酷い魔力回復ポーションを飲まなければ行けなかったというだけである。


「じゃ、じゃあ、どうやってわたくしの思考を読んだというの?!」

「相手の性格を知っていれば、その相手がその時どう考えるかなどすぐに分かりますよ。実際、そういった技術を私どものダンジョンでは取り入れていますからね。とても分かりやすかったですよ?長い間成功を積み重ねた事によってプライドが高まる所まで高まった、周囲を過小評価する勘違い女の考えは。」

「勘違い女…ですって…!?」

「3つ目の勘違い…それは、貴方が自分で思っているほど、貴方は優秀ではないということです。」

「な……!」


その言葉を聞いたシズクは、怒りで顔を醜く歪めた。

顔の激痛など忘れ、ベリアルに食って掛かる。


「わたくしが、優秀でないですって…!?わたくしは、魔法に最も優れていると言われるエルダーウィッチですのよ!?中でもわたくしは1,2を争う程の莫大な魔力量を持った個体で…!」

「莫大な魔力量“だけ”…でしょう?確かに貴方の魔力量は目をみはるほどの物ですが…それ以外は実に平均的だ。一度に発動できる魔法の数も連射力も普通、使う魔法も殆どが中位魔法、更には創造した魔法も誰かのアイディアを少し弄った程度のもの。考える策略も捻りがなく、莫大な魔力量に比べて魔力操作はお粗末。私もフォレスさんほど魔法に優れていないとは自覚していますが、貴方はそれ以下…。容姿だってマリア程美しい訳でもない。人間たちや下位種族の魔物であれば十分優秀なのかも知れませんが、上位種族から見たら、貴方は平均か…もしくは中の下にあたる実力しか持っていないのですよ。」

「なっ……!」


ベリアルの諭すように淡々と告げられた言葉に顔を更に歪めるシズク。

シズクはそんなベリアルの言葉をすぐさま否定したかったのだが、言葉が出ない。

シズク自身も、その事実を証明する心当たりがあることを無意識に理解していたからだ。

愕然とするシズクに、ベリアルは続ける。


「貴方がもっと早くこの事実を自覚し、努力を怠らなければ貴方の言うように優秀な存在になりえたでしょう。しかし貴方は束の間の成功に自惚れ、周囲を見下し努力する事を怠った。その結果、勝てると思っていた相手に負けたのですよ。実に無様で滑稽ですね。私も事前にこの事を知ることが出来て良かった。貴方のように無様な姿を晒すなどごめんですからね。」


イグニレウスとバドミントンで対決し、最終的にゴブリンであるゴブ郎に敗北することとなったあの日、ベリアルは自死したくなるほどの恥辱と過去の自惚れへの後悔をその身で実感した。

もしあの日がなければ、将来ベリアルもシズクのように地面に這いつくばる展開があったかもしれない。

だがベリアルはその時の記憶を忘れず、自身の力を磨いてアイネス達が見えない所で努力を重ねた。

今回のダンジョン戦争でも、油断することなく相手を客観的に見定めた。

そうして、今のベリアルがいるのだ。


「さて、貴方にはそろそろこのダンジョン戦争から脱落してもらおうと思います。」

「わたくしを、殺す気ですの?小娘が見ている前で人を殺す姿を見せるだなんて、野蛮ね。」

「いえいえ、そこは配慮致しますよ。アイネス様は繊細なお心をお持ちですからね。ちゃんと気絶程度で留めます。ただ、そのまま気絶させても貴方は目が覚めた時にまた我々を追いかけて邪魔をするでしょう。そこで…。」


ベリアルはシズクの顔を掴み上げ、自分の目線に合わせる。

腫れた頬を容赦なく捕まれ激痛と苦しさでシズクがジタバタ暴れるがびくともしない。

そして、ベリアルは綺麗な笑みを浮かべてシズクに告げた。


「貴方の魔力保有量を削る魔法を掛けようと思います。」

「な……っ!?!」


その言葉を聞いたシズクは、顔を強張らせた。

魔法やスキルを使って消費した魔力は時間が経てば自然に回復する。

しかし、魔力保有量というのは、魔力を貯め込む為の器を意味している。

もしも魔力保有量が削られれば当然使える魔力も減り、そしてそれ以上回復する事はない。

魔力が吸収されるのと、魔力保有量を削られるのでは大きく意味が違っているのだ。


「実は<アーテル・マルチウェポン>の創造の為に勉強していた際、偶然にも保有量を削る魔法というのも拝見したのですよ。それ以来、その魔法にも興味を抱きまして。試しに作ってみたは良いものの、使える機会が中々来なかったのです。」

「ぐっ、離しなさ…!」

「しかし、運が良いことに偶々アイネス様を侮辱した者の中に、莫大な魔力量を持つことで噂のエルダーウィッチがいたのですよ。だから、今回のダンジョン戦争で戦闘する機会があれば試してみたいと思ったのですが……まさか、そちらの方からやって来てくれるとは思いませんでした。」

「ひっ!」


ベリアルの言葉に身を凍らせたシズクは、顔を青くした。

ベリアルのシズクを見る目は、まるで丁度良い実験用の鼠を捕まえたかのような目をしていた。


(さ、先程休憩していたのは、単に身体を休めるだけではなく、追いついて来るであろうわたくしを待ち伏せするため…!!)


その事に気が付いたシズクはなんとかベリアルから離れようと暴れるが、ベリアルはそれすらも読んでいたようにシズクの手足を魔法で拘束した。


「大体、魔力保有量を1にまで削ってしまえばもう歯向かう事も出来ないでしょう。人の能力値を変える魔法ですのでかなり痛みがあるかもしれませんが…、まあ、大丈夫でしょう。あと、この魔法は強力が故に私以外には解く事が出来ません。ダンジョン戦争後は苦労するでしょうね。」

「や、やめ…!」


ベリアルに助けを乞うシズク。

しかしベリアルはそんなシズクに、にっこりと微笑んで告げた。


「止めません。<カースド・ドレイン>」


ベリアルがその魔法を発動させた瞬間、シズクの身体にドス黒い蛇が何匹も体中に巻き付き、彼女の身体に牙を立てた。


「あ“あ”ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


自分の力を削られ、頭をグチャグチャにかき乱される苦痛に悲鳴を上げて暴れるシズク。

次第にシズクは暴れる事を止め、力が抜けていく。

蛇が姿を消すと、ベリアルはシズクを掴んだ手をそのまま離した。

意識を失ったシズクは、力なくその場に倒れ伏した。


「ふむ、中々効果的だったようですが、流石はエルダーウィッチ。魔力保有量を削るのに少し魔力を使いましたね。この魔法は魔術師の心を折るには丁度良いですが、如何せん相手によって消費する魔力が高く付くので使う場面を考えなければ此方が危険ですね。」


淡々と魔法の効果を分析するベリアル。

すると、背後から強い気配を感じる。

それは、自分が良く知るドラゴンの気配だ。


「どうやらあの羽トカゲも戦いを終えたようですし、急いで最深部へと向かいますか。」


そう呟いて、イグニレウス達が入っていった隠し扉の方へと向かったベリアル。

その目にはシズクの姿など、既に捉えていなかったのだった。




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