黒歴史は絶対に秘匿する。絶対に!
目が覚めると、そこは自分のダンジョンの医務室のベッドの上。
頭痛を訴える頭を手で抑えながら上半身を上げて周囲を見てみれば、横でぐっすり爆睡しているゴブ郎がいる。
私は冷静に昨日の事を思い出し今の状況把握すると、ゴブ郎を起こさないようにマイホームへの扉を召喚してマイホームへと入った。
そして、そのまま自分のベッドへダイブして顔をクッションで埋めると、心の中で思いっきり叫んだ。
(や、やってしまった―――――――――!)
昨日の記憶はエールに酔ってしまったこともあって朧げだったけど、十分自分の仕出かしてしまった事を思い出すには十分だった。
エールを一口飲んで暫くした辺りで、自分に酔いが回っている事は気が付いていた。
エールどころかアルコール飲料を飲むのは初めてだったから、自分がどれだけ酒に強いのか分からなかったし、かなり気を張っていた。
その結果、いち早く酔いに気づいていたからこそ、出来るだけ早く彼らの傍から離れたかったのだ。
だけどタケル青年が色々仕出かすせいで離れるタイミングを失い、更にタケル青年がゴブ郎達まで侮辱する発言を取ったため、一気に怒りが大噴火してしまったのだ。
私は無愛想で、感情を顔に出すことが殆どない。自分でも分かるほど無愛想だ。
テレビや漫画を見ている時やゲームをしている時など、人前でなかったら普通に爆笑したりもする。
けれど、人前に出るとどうしても表情から笑顔が抜けるのだ。
それは家族の前でも同じ。
リビングで漫才を見て笑っていた時に途中で私の父(40代後半、仕事はITエンジニア兼黒魔道士)が帰ってきて、その瞬間私の笑いが止まったのを見て父がビビった過去がある。
しかし、そんな私が唯一人前で笑う機会がある。
それはずばり、私が本気でブチギレた時だ。
自分でも何故かは分からないけれど、怒りの感情で頭がいっぱいになると逆に笑えてきて思わず笑顔が浮かんでしまうのだ。
一見したらただ笑顔を浮かべる非リア充女子。
だけどその心は怒りで満たされているため、容赦なく相手に物理的行使に走る。
普段無表情の少女が突然笑い出したと思ったら思いっきり蹴って来るのはかなりホラー過ぎる。自分で言うことではないが。
これが分かったのは、私が中学の2年だった頃だった。
それ以降は私が本気でブチ切れるような事はなかったけれど、まさかあのタイミングで出るとは思わなかった。
恥ずかしい。穴があったら入りたいとはこの事だ。
というか私、途中で某有名な漫画の名セリフを言ってなかったか?
なにが「だが断る」だよ。使い所完全に間違えてるわ。
あの漫画のファンの人に謝れ、あの時の私。
ああ、さっきから頭が若干痛い。
これが二日酔いというやつだろうか?
あの時のエール飲んだ振りでもしておけば良かった。
二日酔いの時の頭痛って、痛み止めで治るっけ…
『回答。二日酔いによる頭痛の際には水分の補給を行う事が推奨されます。』
「あ、アドバイスどうも<オペレーター>さん…。」
そういえば<オペレーター>は私のスキルだからマイホームに来ても一緒にいるんだった…。
私は<オペレーター>のアドバイスに従ってスポドリを飲み、再びベッドに倒れ伏した。
あと数十分はこのままの体勢でいたい…。
そういえば、<オペレーター>に聞きたい事があったのだ
「<オペレーター>さん、少し聞いても良いですか?」
『回答。質問はなんでしょうか?』
「もしかしてもしかするとですが、昨日の私の様子、動画で記録とかしてないですよね…?」
『肯定。はい。ダンジョンマスターの情報は例外なく記録することを義務付けられているため、全て記録しました。』
「消してください。今すぐその記録を抹消してください。あれ黒歴史です。」
『回答。当システムの情報保管所に既に記録されているため、出来ません。』
「じゃあ閲覧拒否!誰もその時の記録を見られないようにしてください!」
『了。畏まりました。昨日の記録の閲覧可能ランクを最高ランクに変更します。』
<オペレーター>の迅速な行動に、私は安堵した。
ベリアル達や他の招待客達に見られてしまって既にヤバいのに、これ以上広まる事があったら恥ずかしさの余りに奇声を上げる。
ようやく一息ついた…と思った矢先、私はふとある疑問が思い浮かび、上体を上げて<オペレーター>に再度質問をする。
「…ん?というか、ダンジョンマスターの情報を例外なくってことは、まさか異世界転移の事も記録してるってことですか?」
『肯定。その通りです。』
「ていうことは、まさか中学2年の秋の時の忌まわしき過去も記録されてるんですか?!」
『肯定。その通りです。』
「それも閲覧拒否してください!!!絶対に!」
『了。畏まりました。閲覧可能ランクを最高ランクに変更します。』
「てかそれ、<オペレーター>さん見てないですよね?!見てないですよね?!」
『回答。貴方様へのサポートのさらなる向上を促すための人格分析の際に拝見しました。』
「ノーーーーーーー!!!」
<オペレーター>からの無慈悲な回答に私は悲鳴を上げ、崩れ落ちた。
まさか中学の時の黒歴史も見られていたとは。
これが生きてる人相手だったら恥ずかしさのあまりに死んでいた。
サポートが良すぎるのも大概である。
『疑問。昨日の記録と14歳の記録――――』
「黒歴史って呼んでください」
『了。黒歴史の秘匿の理由はなんですか?』
「うぇぇ…それ聞きますか?」
『告。システムのさらなる向上のために理解が必要かと判断しました。』
「そうですか…。理由も何も、シンプルに人に知られたくない過去だからですよ。」
人に知られたくない。
そう、ただそれだけの理由なのだ。
しかし、何事も完璧主義な<オペレーター>にはこの答えだけでは不満だろう。
私は更に話を続けた。
「<オペレーター>さんも私の中学の記録を確認したならもう知ってると思いますが、私って中学の頃イジメを受けてたんですよ。部活の先輩に。」
『回答。把握しています。貴方様の実績による嫉妬が原因によるものですね。』
「そうなんですよ。当時中1だった私が先輩達を抜いて部活でレギュラー入りしちゃって…。それを2年の先輩が良く思わなかったようで、嫌がらせを受けるようになったんですよ。」
イジメの内容はとても典型的なもので、最初は陰口や練習時に私をハブにするものがメインだった。
私がそれらをスルーして平気そうにしていると、先輩と先輩の取り巻き達の行動はどんどんエスカレートした。
運動靴を水浸しにしたり、練習中にわざと私に向かってスマッシュを打ったりと、徐々に物理的な攻撃に移行していったのだ。
部活顧問だった監督も自分の管理している部活でそんな事があることを公表したくなかったためか、全て黙認していたのだ。
まあ幸い、私は元々一人でいる方が好きだったし、陰口を言われようが特になんとも思わない。
私に打たれたスマッシュは咄嗟に打ち返したし、一度運動靴を水浸しにされて以降は対策のために部活中は私物を全てロッカーに入れて鍵を掛け、部活が終われば毎日持ち帰っていた。
イジメは一年も続いたけれど、特にこれといってダメージが無かったのである。
そう、あの日までは。
「どうも特に私にダメージを与えられず、部活に追い出せない事がよっぽどムカついたのか、私が2年だった頃の秋にその先輩ったらバドミントン部を引退したはずなのに勝手に部室に入り込んで、私の使ってるロッカーの鍵をぶっ壊したんですよ。それでロッカーの中からよりにもよって私の推している八十山美秋ちゃんの限定ストラップを取り出して、滅茶苦茶に壊してからゴミ箱に捨てやがったんです。」
『疑問。それが怒りの原因だったと?』
「ええ。笑い声上げて私を嘲笑ってたその先輩に思いっきり蹴りを入れました。その先輩からは、肩でどつかれたり蹴られたりした事もあったので。私の蹴りなんてまだ軽い方ですよ。」
しかし、今まで何にも反抗してなかった私の反撃によっぽどムカついたのか、イジメの主犯格だった先輩は親を連れて先生方に抗議したのだ。
その時未だにその先輩の所業にキレていた私は、先輩と先輩の親御の抗議で部活顧問に呼び出しを受けた際に完膚なきまでに反撃した。
今までのイジメを記録した写真や録音や日記といったイジメの証拠を、全てありとあらゆる方向に拡散してやったのだ。
その結果、その先輩は世間から大バッシングを受けて不登校になり、部活顧問は解雇されてしまった。
その先輩は不登校になってそう長くない内に別の学校に転校し遠くに引っ越してしまったため、今どうしているのかは分からない。
まあきっと、私の知らない所で元気にしているだろう。
「まあこの一件でイジメの方は解決したんですが、その後の周囲の反応が結構ヤバかったんですよね…。」
『疑問。具体的にはどういった反応ですか?』
「周囲から「キレたらヤバイ奴」扱いと「いじめっ子の先輩に反旗を翻した勇者」扱いされました。どうやらその先輩、部活外でもイジメをしていたらしくて…。前者は特に害は無かったんですけど、後者がかなりキツかったですね…。暫くの間色んな人から「小森さん凄いね!」だとか「スカッとしたよ!」だとか言われまくりました…。」
『…疑問。それは一般的には「良いこと」なのでは?』
「一般的にはそうでも、私は違うんですよ!毎日色んな人に話しかけられるから一人の時間を確保できないし、一軍チームからゲーセン誘われた時なんかノリについていけなくて地獄かよ!って思いましたもん!自分の身に見合わない称号なんてついても色々困るだけなんですよ!!」
『告。なるほど、自己分析の結果と周囲からの評価の差に苦痛を覚えたのですね。』
あれは酷かった。
顔も名前も知らないような生徒から羨望と尊敬の眼差しを向けられ、コミュ力のある人には休み時間も放課後も話しかけられるのだ。
モブ希望の私には、先輩が行ったイジメよりも更に苦痛だった。
「それに、別に良いことばかりじゃないですよ。『勇者』扱いも」
『疑問。具体的には?』
「先輩に反撃して完膚なきまでフルボッコして以降、相談が来るようになったんですよ。「自分も虐められているから助けてくれ」って。でも、そういうのって第三者が下手に介入したらより悪化するか此方に被害が及ぶ事になるでしょう?だから自分で証拠をためて先生なり親なりに訴えろと伝えたら、「そんな事できない。」「自分はお前とは違うんだ」のブーイング。じゃあ具体的にどう助ければ良いんだって聞けば、先輩にしたようにいじめっ子を撃退してくれと言われる。」
『………。』
「本当、馬鹿じゃないかと思いましたよ。先輩の時、私はイジメの被害者だったからギリ正当防衛だと周囲から認められた。でも、自分とは無関係なイジメにまで手を出したら世間的にもアウトですよ。「いじめっ子の先輩に反旗を翻した勇者」から「問題事に首を突っ込みたがる正義漢(笑)」に大変身すること間違いなしです。」
要はタケルの時と一緒なのだ。
異世界転移して国を追い出され、魔物を討伐したりダンジョン経営を始めたりする分にはまだ「国に追い出されて自分で生活していかなくてはいけない哀れな異世界転移者」でいられる。
けれど、自分から周囲の言動を善悪で判断して介入したり過剰な強さを求めて自分の魔物をパワーレベリングに使ったりした時点で「哀れな異世界転移者」のレッテルの代わりに「周囲に迷惑かける正義漢(笑)」のレッテルが張られる。
被害者から、加害者に変わってしまうのだ。
「アルベルトさん達の襲撃の時はダンジョンで殺人が起きたなんて風評被害を抑えるため。エルミーヌさんとマルクくんの呪いの件は、二人の兄であるテオドールさんが直々にお願いに来たこととケネーシア王国との仲を悪くしてこのダンジョンを取り壊しにされないようにするために知恵を貸しました。けど、自分から問題事に介入して何の得もないのに「私がなんとかしましょう!」なんて言うのは少し違うでしょ?」
『告。双方メリットがあっての有償の奉仕活動か、自己満足によって行われる無償の奉仕活動かの違いですね。』
「後者は基本、偽善者呼ばわりされて周囲から嫌われやすいタイプですからね~。自分にメリットがあっての行動の方が周囲にとやかく言われた時にも説明して納得されやすいですし。まあこれ、ラノベとか読み漁っての知ったかぶりなんですが。」
異世界系のラノベでは、大きく分けて2種類のタイプの主人公がいる。
一つは自分の目標や願いのために行動するタイプの主人公。
もう一つはいきあたりばったりで冒険途中に訪れた先で起きた問題を自ら望んで助けに行く主人公だ。
別にどっちが良いとか悪いとか言うつもりはないけれど、実際に対面した時に私的に良い印象を受けるのは前者のタイプだ。
後者の方はなにか裏があるんじゃないかと疑ってしまってあまり信用できないし、人が出来すぎてて隣にいると自分がクズだったような気持ちになる。
対して前者は元々の目標や願望が分かりきっているから何をしようと「ああ、目標のために必要なのね」と分かりやすいし、親近感がある。
まあ、その目標が「世界を救う」とか「世界中の人々がより幸せになる世界にする」だとかだったら話は別だけど…。
「<オペレーター>さんや神様的には、自分から善行を積んでいくタイプの方が都合良いんですかね?」
『回答。その者の人格と場合によりますが、そちらのタイプの方が御しやすいと考える神が多いのは確かです』
「でしょうね…。じゃあ、私は<オペレーター>さんや神様的には相当面倒な奴じゃないですか?ダンジョンから出ようともしないし、自分から問題事を解決しに行こうという積極性もないですし、昨日も他の異世界転移者のやる気を削ぐような事言ってしまってますし。その癖スキルもステータスもそんな良い物でもないですし。」
『回答。創造神達にとってはその通りですね。扱いにくく、戦闘能力もないため異世界転移者としては「ハズレ」だと思われる人物でしょう。』
「分かってた事ですけど、そんなハッキリ言われると流石に傷つくんですが?!」
分かっていたけど!分かっていたけど!もっとオブラートに包んでもらっても良いですかね!?
思わずため息を付いてしまうも、<オペレーター>らしいと少し笑ってしまった。
<オペレーター>と会話している内に大分頭痛が引いてきた。
タケル青年とのダンジョン戦争まであと7日。
それまでに出来る事はしておかねばならない。
私はベッドから起き上がり、ストレッチをする。
改めて冷静になってから自分の姿をよく見れば、自分の服が昨日着ていた衣装ではなくダンジョンの倉庫に置いている予備のパジャマになっている事に気が付いた。
誰かが気を利かせて服を変えてくれたのだろう。
爆睡していて面倒だっただろうに、本当に親切なことだ。
「じゃあ、そろそろダンジョンに戻りましょうか。ゴブ郎くん、もう起きちゃってますかね?」
『回答。はい。今現在は貴方様を探して部屋中を探し回っています。』
「それをもっと早く言ってくれませんか!?」
ゴブ郎を安心させるためにも、早く彼の元に戻った方がいい。
私は急いで服を着替えて身支度を済ませると、マイホームの扉を開けてダンジョンへと足を踏み入れる。
私が<オペレーター>に対して尋ねた「私は<オペレーター>さんや神様的には相当面倒な奴じゃないですか?」という質問に対して、「『創造神達にとって』はその通りですね。」と答えた内容の違和感に気が付くのはそれから数時間後の事だったのであった。
ちょっと現実で所用があって明日の投稿は難しそうです!明後日には投稿しようとは思っていますが、もしも遅れてしまった場合は申し訳ありません!




