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怒りに任せて全部ぶちまけます!!

アイネスこと、小森瞳子がタケル青年の急所に蹴りを入れていたその時、彼女の持つサポートスキル、<オペレーター>は自律行動を始めた。

スキルの持ち主であるアイネスも、ベリアル達も、パーティー会場にいる他の皆も全員<オペレーター>が勝手に行動を始めた事に気が付かなかった。


ダンジョンマスターの付属スキル<オペレーター>ことダンジョン支援システムの一部であるオペレーターシステムは、各ダンジョンマスターに合わせてサポートの仕方を変更する。

アイネスのように異世界言語スキルのないダンジョンマスターには、彼女が分かる日本語で応対をし、ディオーソスのようにパーティーを良く開くダンジョンマスターには、彼がパーティーを開きやすいように彼の配下の魔物達への伝達を手伝ったりしている。

アイネスは知らないけれど、アイネスと同じ異世界転移者であるタケルは既にスキル<オペレーター>を持っていない。

<オペレーター>を長期使っていないダンジョンマスターは、サポートが不要と判断され、彼らの知らぬ内に姿を消しているのだ。

彼らも使ってないスキルの行方などどうでも良いのか、殆どのダンジョンマスターは<オペレーター>が自分たちのステータスから消えた事など気づく事はなかった。


そんな<オペレーター>が動き始めたのは、アイネスの行動に理由があった。

<オペレーター>がアイネスに対して抱いている印象…もとい、人格分析結果は、『効率を主に重んじる、争い事が嫌いな人間』だった。

神々が作り上げたただのシステムでしかないオペレーターシステムに対してまるで同じ人のように接し、異世界転移に夢見がちな普通の異世界転移者とは違う、達観的な考えを持つ人間。

<オペレーター>の知る彼女は、自分の身よりも如何に大きな問題に直面しないように動くかを考えるような、揉め事や争い事を嫌っているタイプの人種だった。

しかし今現在、アイネスはタケルに対して急所への攻撃をするという、大きな揉め事になりかねない行動を起こした。

これは、<オペレーター>が分析して割り出したアイネスという性格に大いに違っている。

<オペレーター>はこの事実に対し、何かしらの精神攻撃を受けた可能性を割り出した。

守護精霊や<精霊結界>があったとはいえ、異世界転移者の持つユニークスキルの中にはそれらの防御魔法を超えて相手に影響を及ぼすスキルだってある。

その可能性を考え、<オペレーター>はアイネスの人格の再分析を始めたのだ。

最初の人格分析ではダンジョン内でのアイネスの行動や思考から情報を手に入れた。

しかし今度は、アイネスの過去も遡って分析を行う。

オペレーターシステムには今現在までの全てのダンジョンマスターの情報が記録されており、時と場合によっては<オペレーター>はその記録保管所にアクセスする事が出来る。

当然、アイネスの情報もその記録保管所に入っていた。

創造神達にはそれらの記録を閲覧する許可がないのでアイネスの居場所の特定に役立てることはないのだが、人格の分析には大いに役立つのだ。


―――――記録保管所にアクセス。分析対象、ダンジョンマスター『小森瞳子』。

―――――アクセスに成功。これより、ダンジョンマスター『小森瞳子』人格再分析を開始。

―――――分析対象の経歴にアクセス。アクセス成功。分析対象の6歳から年単位で人格の分析を開始し、今回の分析対象の言動に酷似するものを解析する。

―――――6歳時の人格を分析&比較。結果、特になし。

―――――7歳時の人格を分析&比較。結果、特になし。

―――――8歳時の人格を分析&比較。結果、特になし。


<オペレーター>は無機質に、情報保管所でアクセスして得た情報を元に前回よりも細かな人格分析を試みる。

小学校入学した年から順番に分析していっているけれど、アイネスの豹変ぶりに一致するような結果が得られない。

しかし、アイネスが13歳だった時の人格を分析した時、結果に変化が起きた。


―――――14歳時の人格を分析&比較。結果、今回の分析対象の言動に酷似するものを発見しました。

―――――当日から半年前の情報を検索。分析対象は『イジメ』に遭っていた事が判明。

―――――さらに詳細を検索。分析対象に危害を加えていた関係者は同じ部活の生徒10名と顧問教師と判明。

―――――『イジメ』は分析対象が13歳の半ばから起きていた事が判明。

―――――分析対象は『イジメ』に対し、感情や精神状態に大きく影響を及ぼされた様子は殆ど見られませんでした。


アイネスが14歳前後の時に起きていたイジメ。

それに関する情報を次々と調べ上げていく<オペレーター>。

イジメはアイネスが中学一年の時から発生していたようだが、その間に感情がアイネス揺さぶられている様子はない。

イジメの経緯、理由、その内容まで調べ上げた時、<オペレーター>は二つの動画記録を発見した。

一つは、アイネスがイジメの首謀者だった部活の先輩に蹴りを入れた時の様子。

この時が、アイネスがタケルに蹴りを入れた時の行動と酷似している。

そして、もう一つは――――――――。


『ごめ“ん”な“し”ゃい“い”い“い”い“い”い“い”!!ゆ“る”し”て“ええええ!』

『約一年も色々やらかしておいて謝罪一つでなんとかなると思っているとか、甘すぎでは?相手にするのも面倒だったんで放置してたけど、抽選でようやく手に入れた限定ストラップまで壊されてゴミ箱に捨てられたんじゃ、こっちもキレるって。』

『た、頼む!娘にはもうすぐ高校受験があるんだ!此処はどうにか穏便に…』

『そ、そうだぞ小森!もし大騒ぎになれば、バドミントン部だって…』

『此方が色々伝えていたにも関わらず自分の身可愛さにイジメを見てみぬ振りした先生と娘の愚行に気づきもしなかった親御さんは黙ってもらえませんかねぇ?そもそも、その方の高校受験とかバドミントン部だとか、私には全く興味の欠片もないね。』

『そ、そんな…』

『というか、警察に訴えるだけで終わりだとか思ってませんか?』

『え?』

『それは、どういう意味だ?』

『今回のイジメの件は、色んな所に伝えるつもりだって言ってるんですよ。』

『色んな所って、一体どこに…』

『SNSに教育委員会に雑誌の編集部さんに今回のイジメに加担した人らの親達全員の仕事先他エトセトラ!一年間溜まりに溜まったイジメの証拠を全部匿名で送らせていただきます。』

『なっ!そんな事されたら、私の仕事にまで影響が…』

『あ、すみませんちょっと訂正しますね。『送らせていただきます』、ではなく『送らせていただきました』、ですね。』

『何……?ま、まさか!!』

『おめでとう、先輩!これで晴れて貴方も有名人の仲間入りだ!ま、今後の将来はどん底ルート確定の悪評高い有名人として、だけどね。』

『そ、そんな……!』

『い、いやあああああああ!』

『先輩らは私を退部に追い込もうとしてまで人から注目されたかったんでしょ?だったら良かったではありませんか?思い描いていた理想とは大きく違いますけど、結果的には殆ど変わりないんですし。』

『こ、この……鬼畜女がぁぁぁぁぁぁ!』

『ゲーム・オーバー。お疲れ様でした。自分のやったことの代償は自分でお支払いくださいね?』


涙を流して崩れ落ちる首謀者の少女に、今後起きるだろう破滅に頭を抱える首謀者の親、顔を青白くさせて身体を震わせる教師の前で、彼らを見下ろす分析対象。

その顔には、普段の彼女が浮かべないであろう笑顔が張り付いていた。

この動画記録を見た<オペレーター>は淡々と人格分析を行う。

そして、前回の分析結果に追加してある文を記録保管所に追記すると、自動行動を止めた。

更新されたアイネスの人格情報には、こんな一文が記されていた。



『効率を主に重んじる、争い事が嫌いな人間。ただし一度怒らせると相手を徹底的に叩き潰す行動に移行する。』



***** *****


私自身に何かするのは別に構わない。

流石に命の危機はヤバかったけれど、基本自分が罵倒されたりする分にはスルー力が高い方だと自負しているので問題はない。

誘惑(テンプテーション)>による精神攻撃だって失敗したため実際に被害はなかったし、エールで濡れてしまった服だって、洗濯すれば大丈夫だ。


だけど、自分以外は駄目だ。

ベリアル達は私とは違ってスルー力が高い訳ではないし、酷いことを言われたら傷つく可能性だってある。

なにより、無理矢理異世界転移させられて何も分からずに立ちすくんでいた私にダンジョンコアまでの道を教えてくれて、今も私の事を心配してくれているゴブ郎の侮辱までされたのでは、流石の私も堪忍袋の尾が切れる。


私はいまだ痛みに呻いているタケル青年を見下ろしながら、再び口を開いた。


「もうここまでの騒動になっちゃったし、この際もう言いたいこと全部言わせてもらうわ。タケルさん、アンタ異世界転移して気でも狂ったの?」

「気が、狂ったって…」

「いや、どう考えても気が狂ってるだろ。他所様のダンジョンマスターが開いたパーティーだというのに他の招待客にスキル使うわ、自分の思い通りにならなかったからってエールをぶっかけるわ、自分の配下が人を攻撃しようとしてんのにそれを黙って見ているだけだわ、挙げ句には連れを侮辱なんてしておいてまだ常人だって思ってるって気が狂っているようにしか思えない。」

「な…!」

「出来ればアリアさん達にも色々言いたいんだけど、彼女達は此方の言葉が通じないしなぁ…どうしよ。」

『告。当<オペレーター>による通訳作業を開始します。』


流石は<オペレーター>。

此方が頼まずともサポートを行ってくれる。

<オペレーター>が彼女達に通訳をしてくれるらしいので、私はそのままタケル青年達との会話を続ける。


「まず言いたいことが一つあるんだけど、タケルさんアンタ自分の配下にどんな苦行を強いてるんだよ。」

「く、苦行!?」

「自分のレベルを上げるために自分が召喚した配下を何度も何度も倒してレベリングするだなんてマジでおかしいから。此処、RPGゲームの世界じゃないんだよ。ゲーム内でのレベリングじゃないんだよ。ただの自己中心的な虐殺行為だよ。下手したら精神が病むってそれ。」

「だけど、この方法が一番効率良くて…」

「しかも意思を持たない使い捨て型の魔物じゃなくて意思を持っていてダンジョンマスターがいる限り何度も復活する復活型の魔物にそれを強いるって…。それだったら消費量の効率が悪くても使い捨て型の魔物を選ぶべきでしょ。」

「き、君は何を言ってるんだ!それは、魔物を心のない人形にするってことだろう?!」

「その心のない人形を殴ってレベリングするのと心があって痛みとかを感じる魔物を殴ってレベリングするのどっちがモラル的にセーフ基準に近いか分かる?もしも後者の方が良いと思っているんだったら、今ここで貴方やそこの女の子達が私のレベリングの相手をしろよ!生憎貴方と違って私はレベル二桁に成り立ての初心者なんでレベルを上げるのに相当痛めつけなきゃいけないけどね!」

「そ、それは…」

「あれ、どうしたの?もしかして相手にはやってもらっておいて自分は嫌だとか言わないよね?自分のお母さんに「自分がされて嫌なことは相手にするな」って教えてもらわなかったのかなー?」

「う、うぅぅぅ…」

「良いか?自分の召喚した魔物達は意思があろうがなかろうがそのダンジョンマスターの命令には従うようになってるんだよ。アンタが話し合いだ云々言ってても、お願いをした時点でその魔物達はあんたのお願いを了承しなきゃいけないんだよ。自分のレベルを上げて自己満に浸りたいなら傍にいる美少女達に付き合ってもらえ!」


私が間髪を入れずにタケル青年に詰め寄って言いたい事をぶちまけ続けていると、アリアの魔法を防いだ時のように虹色のベールが現れた。

横を見てみれば、アリアが真っ赤な顔で私に向けてまた攻撃魔法を放っているのが見えた。

流石はフォレスが張ってくれた<精霊結界>。本当にどんな攻撃も守ってくれるらしい。

<精霊結界>で自分の身が安全であると分かった今、彼女達に命を奪われる不安を少し考えなくても良い。

私はアリアの方を向いて、彼女をじっと見る。

無愛想な私が表情を変えずに此方を見るのが少し怖かったのか、アリアは此方と目が合えば攻撃を止め、後ずさりをした。

その隙を狙い、私は美少女たちに向けて怒りをぶつける


「まずアリアさん、アンタは確かヴァンパイア・ロードだっけ?種族名にロードって付くことは称号に女王とか貴族だとか付いているはずだよね?」

「*、*****、*****…」

「仮にも称号に女王って付くような高貴な吸血鬼がこんな大勢のいる前でそんな怒鳴り声を上げて攻撃魔法を放つって、みっともないって思わないの?どう見ても山賊の荒くれ者にしか見えない。」

「**…!」

「他の招待客の皆さんは貴方達が此方を煽るような事や迷惑行為をしてても大人の対応で軽く受け流してたけど、あんたはそれ出来るの?出来ないよね?実際出来てなかったし。うちのダンジョンに凄い礼儀正しいオークがいるからその子からマナー講座でも受けたほうが良いよ。」

「*、***…!?」

「それと、可愛い顔も周りに怒鳴り散らしてたら顔に皺が寄って可愛くないし、丈の短いドレスもガニ股で立ってたんじゃ下品。あと口が若干血臭い。歯磨きとかちゃんとしてるの?男性って意外と異性の仕草とか言動とか細かい所を見てるし、見た目だけ可愛いんじゃ良い男性は近寄ってすらくれないよ。」

「*、*********!!!」

「うわ、大声で号泣始めたよこの子。子供じゃないんだから…。」


私がアリアに対し思っていた事を言いまくれば、最初は強気だったアリアは段々と涙目になっていき、最後には子供のように号泣を始めた。

こうして大泣きすれば、周囲から憐れまれるとでも思っているのだろうか?

しかし周囲の野次馬達はアリアの蛮行を目撃しているため彼女を憐れんだり私を悪役と見たりする者はおらず、むしろ人目をはばからずに子供のように泣きじゃくる彼女に対して冷たい視線を浴びせている。


「シズクさん、ピカラさん、リリィさんもこの子と同罪だ。」

「*?」

「****?」

「**…?」

「アンタ達はパーリーウルフズやホムラさんと違ってアリアさんが私に攻撃しようとした時にもタケルさんが私にエールを掛けた時にも止めもせずに黙ってみてたでしょ?それどころか嗤ってたよね?」

「***…」

「自分たちのボスであるタケルさんと親しげに話しているように見えて気分でも悪くなった?」

「「「!?」」」

「お生憎様、私はアンタ達の男なんて興味ないんだよ!顔面偏差値普通なのに自分の配下を斬撃用のカカシみたく扱ってレベリングをして、何人もの女を侍らせててその上<誘惑(テンプテーション)>なんてスキルで無理矢理恋心を抱かせようとする自己中でサイコパスなクズ男に誰が好意を抱くか!てか私は恋愛自体に興味ないから!恋愛もの特有のドロドロした修羅場は自分たちのダンジョンでやれ!リア充爆破しろ!」


ちょっと見当違いな怒りも混じえて彼女達に告げれば、三人は図星だったようで分かりやすい反応を見せた。

一方、タケル青年は私の言葉に若干傷ついた顔をしていた。全部事実なくせになにを傷ついているんだか。


次に私は、ホムラの方を向いた。

ホムラは今までの流れから自分も何かを言われるかと思ったのか、背筋を伸ばして身構える。


「ホムラさん!!」

「*、**!」

「付き合うならこの男だけは絶対に止めたほうが良いよ!この人よりもっと良い人が絶対いるから!」

「*?!」

「以上!」

「ま、待て待て!ホムラのと僕達とで発言の差が酷くないか?」

「アンタ達と違ってホムラさんは変なやっかみも無ければ特にこれといって酷い言動も取ってないんだよ。厚かましい。」

「えぇ…」


ホムラは私の助言に戸惑いの表情を浮かべながらも、ひとまず頷いてくれた。

見てる感じ、ホムラは普通にいい人そうだからね。そんな人に酷い事を言うつもりはないよ。

私は最後に、パーリーウルフズの面々の方を向いた。

パーリーウルフズは何を思ったのか、全員一列に並んで姿勢を正した。


「パーリーウルフズの皆さん、まず先に皆さんの歌についての感想だけ言わせていただきますね。」

「*、****…」

「正直、貴方達のライブはあんまり良くなかったですよ。」

「「「「「*、*******!」」」」」

「リズムが全然取れてないし、楽器が良く出来てないから音が時々外れてるし、あと皆好き勝手に歌いすぎなんですよ。これじゃあただ雑音を出して叫んでるって思われても可笑しくないですよ。」

「*、***…。」

「アイネス!彼らになんてことを言うんだ!今すぐ訂正するんだ!」


私の辛口な評価に、パーリーウルフズはがっくりと肩を落とす。

さっきは初対面だったという事もあって甘めに評価しようとしたけど、こんな事態になったのなら、正直な感想を言ってしまった方が良い。

タケル青年が私の言葉に反論しようとしているのをスルーして、私はパーリーウルフズに言葉を続ける。


「それに、皆さんはTPOが全く分かってません。」

「てぃーぴー、おー…?」

「**、****?」

「時と場所と、場合。その3つに合わせて服装や音楽などを変える事ですよ。」


聞き慣れない単語に首を傾げるパーリーウルフズに対し、私はそっと意味を教える。


「例えば、ここは高貴で上品なダンジョンマスター達が多いでしょう?そういう人達が集まる場所で革新的で激しい曲調の音楽は明らかに場違いでしょう?」

「*、**…。」

「それに対し、さっき私がやったような落ち着いた曲や少しペースがゆったりとした曲を演奏であれば、普段から落ち着いた曲調で伝統あるクラシックを良く聞いている方々には受けが良いんですよ。自分たちの音楽を広めたいのであれば、周囲の人に合わせて曲を演奏してみるのはどうですか?」

「****…。」

「私は音楽やパフォーマンスに関しては完全に素人なんであまり専門的な事は言えませんけど、感想ぐらいだったらいくらでも言いますよ。」


クラシックや吟遊詩人が主であろうこの世界にはロックはまだ早すぎたかもしれないけれど、ジャズとかだったらまだ此方の世界に受け入れられやすいと思う。

音楽のジャンルを変えるかは彼ら次第であって、私が介入するべきではない。

私はあくまで、選択肢の幅を広げるだけだ。


「*******…*。」

「感想ぐらいなら、って無責任な…。アドバイスするならもっと親身になって…」

「***、**************************?」

「****!*****?」

「****。**********。」

「って、パーリーウルフズ、何を…」


タケル青年がまたも口出ししようとしたけれど、その前にパーリーウルフズの面々が動き出した。

リーダー格の赤い人狼が、ピアノの伴奏をしていた緑の体毛の人狼に声を掛けると、緑の人狼はピアノの方に向かって、ピアノの演奏を始めた。

それはさっきパーリーウルフズがライブで演奏していた曲…を、修正したものだった。

先程聞いた時よりもゆっくりと、落ち着いた感じで演奏をしている。

そこでギターを手に持った赤い人狼が、ピアノ伴奏に合わせてギターを引き始めた。

先程の演奏ではこれがロック!という感じに主張しまくっていた激しいギター演奏だったのだが、現在の演奏はロックのイメージを少し抑えめにして落ち着いた感じを出しつつも、クラシックとは少しテンポの早いメロディを奏でている。

即興だから演奏が少し荒削りであるけれど先程よりもリズムが合っているし、周囲の反応も悪くはない。

ちょっと修正点を教えただけですぐにそれを直してしまうだなんて思わなかった。

もしかしてパーリーウルフズって、かなり音楽の才能があるのではないか?


サビまでの演奏を終えた後、パーリーウルフズは周囲の反応から何かを掴んだのか、全員顔を見合わせて笑顔で頷いた。

そして、リーダー格の人狼は私に向かって笑顔で何かを告げてくる。多分、感謝でも述べているのだろうか…?

取り敢えず私が親指を立ててグッドサインを出せば、彼もグッドサインを返してくれた。

しかしタケル青年はその光景が面白くなかったのか、口角をひくひくと引き攣らせながら、また口出しをする。


「た、確かに今の演奏は良かったと思うけど、僕の知ってるミュージシャンたち程じゃあないね。それに、素人がこういった専門知識が必要な事に介入するべきじゃあないんじゃないかなぁ?」

「いやそれ、完全ブーメランだから。料理もまともにしたことない癖に料理に関して色々教えたみたいだけど、そのおかげで塩コショウの効きすぎた味の濃い残念な料理が出来てるんだよ。」

「なっ…!料理なんて味を濃くしとけば美味しくなるはずだろ!?」

「本気でそう思って言っているならもう一回蹴り入れるよ?確かに味が薄すぎるのは駄目だけど、濃すぎるのも駄目だから。むしろ調味料の入れすぎは塩分過多や生活習慣病の原因になるから。肥満の原因にもなるから。もしかしてタケルさんって味音痴だったりする?」

「そ、そんな訳ないだろう!」

「いや味音痴でしょ。味を濃くしとけば美味しくなるって発想が既に味音痴の発想なんだよ。どうせ前の世界でも夕飯とかにマヨとかケチャップとか調味料ぶっかけまくって食べてたんでしょ。で、両親に『たまには調味料を追加せずに普通に食べろ!』って叱られてたとか。」

「な、何故それを知ってるんだ!?」

「図星かい!!」


まさかなんとなく思いついた推測が当たっているとは思わなかった。

そりゃあ前の世界から普段の食事に好きに調味料掛けまくっていたら味音痴にもなるわ。

これは絶対に料理の間違った知識を修正しなければならない。

このまま放置したらいつかこの世界の住民が生活習慣病だらけのおデブさんでいっぱいになる。

引きこもりだコミュ症だ云々言っている場合ではない。


「そんな料理初心者以下の人が料理知識を世界に広めるな!後の人々がいい迷惑だ!広めるんならそのユニークスキルを使ってプラモデルとかフィギュアを広めろ!」

「なんでフィギュアなんだよ!普通にそこは人形で良いだろ!」

「アンタアンティークドールとか日本人形とか完璧にイメージできるのか?!出来るならそれでも良いよ!」

「そ、それは、出来ないよ…。前の世界では精々フィギュアぐらいしかちゃんと見たことなかったし…。」

「そうでしょ?!中途半端な知識を人に教えようとするから駄目なんだよ!自分の無知を知れ!そして出来る範囲で活動しろ!人に迷惑は掛けるな!世界はラノベの物語みたく自分に良いようには出来てないんだよ!それを自覚しろ!」

「う、煩い煩い煩い!憧れていた異世界生活で自分の好きなようにして何が悪いんだ!他がどう思おうが僕には関係ない!」

「はい、本性出た~!自己中心的な考えしてるって今自分から晒したね!良いか?異世界転移ものの物語の主人公はアンタみたく自分以外はどうでも良いって思考はしてないんだよ!トラブルに巻き込まれながらも他を想っているから皆から慕われるんだ!主人公になる事で頭が一杯で周囲に迷惑を掛けまくっているアンタは精々物語の中盤に出てくるちょい役にしかなれないわ!」


一番言いたかった事をタケル青年に言ってしまえば、タケル青年は怒りで身体を震わせ、顔を真っ赤にした。

先程までの好青年っぷりは何処に言ったのか、タケル青年は癇癪を起こす子供のように私に怒鳴る。


「黙れ!黙れ黙れ黙れ!そういう君だって異世界転移したも関わらずダンジョンマスターにもなれない、そんな安っぽい服装しか出来ない拾われ者じゃないか!一生主人公になれないような、惨めな立場の女の子が僕に反論するな!」

「いや私、アンタと違って主人公なんて求めてないんで。出来れば物語に出てくるような、最初から最後まで登場しているけど主人公たちに特に名前を呼ばれることもないモブとして主人公たちの揉め事を遠目から眺めてたい主義だから。アンタと違って目立ちたがり屋ではないので。」

「そんなことを言って、ただ強がっているだけなんだろう?本当は僕が羨ましいんじゃないか?君とは違って、優秀で強い仲間も、力も、世界で有名な立場もあるからね!」


どうやらタケル青年は、力も影響力もない私が嫉妬で自分に色々言っていると思考をシフトさせたようだ。

こうなってしまうと、もう私が何かを言ってもまともに聞かないだろう。

実に面倒で厄介だ。

こういう相手には現実を叩きつけるのが一番なんだけど、生憎すぐに証明出来るだけの力を持ってないし、そもそもこのパーティー会場でスキルを使うことはマナー違反だ。

そんな事を考えていると、コツ、コツ、コツ…と靴音を立てて、誰かが此方に近づいてきた。

ふとそちらの方を見てみると、なんとその正体はベリアルではないか。

ベリアルは私の傍まで近づくと、そっと私に跪いて私の名前を呼ぶ。


「アイネス**。」


にっこりと上品に此方に微笑み掛けるベリアルは、私にそっとハンカチを差し出した。

それを見て、私は何故彼が今私に近づいてきたかを察した。

どうやらベリアルは、「此処は自分に任せて欲しい」と言いたいらしい。

私はベリアルの意図を汲んで、私は彼のハンカチを受け取って、顔や服に掛かったエールを拭い出した。

プレイヤー交代の時間だ。ベリアル、パーティーを台無しにしない程度にあいつらを叩き潰してしまえ。





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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公の正当性を訴えたいのだろうけど、SNS等に晒すのはやり過ぎだな。 警察に訴えたなら、それ以上は私的制裁(私刑)だ。 日本は被害者本人が加害者に制裁することを憲法31条で禁じてる。 警察…
[気になる点] いや、「世界はラノベの物語みたく自分に良いようには出来てないんだよ!それを自覚しろ!」っていうのはブーメランでしかないと思うけど。 「普通はお前みたいな弱いうえに自分を守ろうという発想…
[一言] この馬鹿タケルの回を読んで、アイネスの中の人をターニャちゃんが良いかと愚考したのです。 後、ターニャちゃんにしたのは、自分の中ではターニャちゃんが1番メジャーかな?と思ったので。 ついでにい…
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