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人狼達のバンド、そして初めての邂逅

号泣しながら私に握手を求める人狼5人組を宥めて泣き止ませた私は、彼らに即席サンドイッチを渡した。

彼らは美味い的な事を叫びながら、多めに作ったサンドイッチを食べていく。

私が机と彼らを往復する間、ミルフィーさんは何も言わずにただ笑って見ているだけである。

確かに彼らに接近したのは私一人ですけど、ちょっとは手を貸すとか慈悲があっても良いんじゃないですかねぇ?!


「***、******!******************?*****************。」

「**********?******」

「***アリュー********?アリュー*****************************?」

「あの…、私言葉がわからないんでもう少しゆっくりめに喋ってくれると有難いんですが…。」

「*、***?」

「******、**************?」

「********?*************************?」

「「「「***!」」」」

「………。」


トマトもどきのアリューの事を言っているから多分サンドイッチの事を話しているのだろうけれど、彼らの会話はハイペースすぎてちょっと流れに付いていけない。

会場内でライブしている時からなんとなく思っていたけれど、彼らはもしかしなくても地球でいう所の『チャラ男』ではないだろうか?

『チャラ男』だったら私が最も苦手とする部類の相手だ。

チャラ男という存在は基本的にその能天気な明るさから元いた世界で通っていた学校でも一軍に属していた。

一軍メンバーと相容れない陰キャで非リア充の私にとって、陽キャでリア充真っ盛りのチャラ男とはどうしても相性が最悪なのだ。

どうにか、揉め事を起こさずに彼らの傍から撤退しなければいけない。


「****、**(名前)、*****?」

「***、***************!」

「***!*********!」

「さりげに名前を聞かれたな…**(名前)アイネス。で此方が**(名前)ゴブ郎」

「**、****!」

「**、*************!」

「アイ****、ゴブ***!*****!」

「名前が勝手に改変されてる…。」


いるよね。人の名前をいじって勝手にあだ名で呼ぶチャラ男。

地球にいた時ならまだしも、この世界でやられると自分の事を聞かれているのか分からなくなるので本当に勘弁して欲しい。

しかし、それを言うだけの言語力を私が持ってないのでどうしようもできない。

異世界言語を取り付けなかったあの糞女神は絶対に許さない。


「というかよく見たらピアノ以外の楽器、全部手作りなんですね。」

「*、アイ***、************?**、***********!」

「*****!**、******************!」

「********。**********************。」

「へぇ、全部材料から一から自分達で取ったんですね…」


人狼達はまるで寸劇のように数人が演じながら私とのコミュニケーションを取ってくる。

非常に分かりやすくて有難いのだけど、他の招待客達が変な顔して此方を見ているから程々にしてほしい。


「****************************、」

「えっと…。頑張って全員分の楽器を作って、早速自分達のダンジョンの中で演奏してみたけど……」

「*********************************…」

「皆自分達の音楽にまともに聞いてくれなかった、と。」

「***、************。」

「しまいには、五月蝿いって怒られてしまったんですね。」

「*、*****************…ディオーソス****************、「***********!」******…」

「ダンジョン内での演奏を禁じられて途方に暮れていた時に、ディオーソスさんから興味を持たれて…」

「********************************。」

「パーティーがある時に自分達のライブを開くことを許可された…。」

「*******************、アイ****ゴブ*************************!」

「******!」

「それで私とゴブ郎くんが、ライブを聞いて初めて拍手を送った人物だった、というわけですか…。」


寸劇による説明によって、私はようやく人狼達の事情を把握出来た。

というか、私が来るまでずっと評価されてなかったのか。

それでもずっとライブやってたとかメンタルが強いな。


まあ、理由もなんとなく分かる気がする。

古今東西、あらゆる業界において新しい試みというのは中々世間から認められないものだ。

SNSで絶対的な人気を持つインフルエンサーやテオドールさん達のような王族が平民たちへと流行らせるように、上から下への流行はあまり難しくはないけれど、下から上へという流行というのはかなりの困難だ。

特に彼らが先程まで演奏していたのは静かで上品なクラシックとはほぼ反対の属性を持つ、賑やかで大衆向けなロックだ。大衆ならまだしも、いかにも上品で貴族っぽいダンジョンマスター達にはあまり受けは良くないだろう。

それに彼らの演奏自体は悪くはないけれど、ピアノ以外の楽器が手作りということもあってあまり良い物ではなくて綺麗な音が出ていなかった。

良い楽器を使えば、もっと良い物になるのだろう。

私なら<ネットショッピング>で地球産の楽器を用意できたかもしれないけれど、他所のダンジョンの魔物に勝手に物を与えるのはいけないと思う。

私は音楽にはあまり詳しくないから才能だ云々は言えないけれど、本当に勿体ないと思う。


「アイ***********?」

「なんて?」

「****、***!***********?」

「えっと…私もなんか歌とか演奏出来ないのかとか言ってます?楽器の演奏はあんまりなんで、ちょっと…」


これ以上目立つのが嫌だった私は、彼らの要求を断った。

すると人狼達は顔を俯いて耳を垂らし、分かりやすくションボリした表情をした。

その姿は、まるで道端に捨てられた子犬のよう…。

私は喋る人型生物が物凄い苦手だ。

しかしそれと同時に、犬や猫といった動物が大好きなのだ。

いくら二足歩行で喋るとはいえ、大型犬(狼だけど)の顔をした子達にそんな顔をされてしまうと、心にくるものがある。

こういう時、きっぱり断る事が出来るベリアルは他の招待客の接客に忙しい。

暫く悩みに悩みこんだ私は小さくため息をついて周囲を伺うと、私は人狼達の前で自分の口に人差し指を立てて、騒がないように告げる。

首を傾げる人狼5人組に対し、私は自分の口を手のひらで覆って、そのまま口笛を吹き始めた。

ただ口笛を吹くだけではない。地球で私が子供の頃に有名だった某アニメ映画の主題歌の再現だ。


「~♪♪」

「「「「「!?!」」」」」


口笛だけで一曲を演奏する私に驚愕の表情を浮かべる5人。

高校一年の頃に某動画サイトで口笛でこの主題歌を演奏する動画を見て、つい私もやりたくなって必死に練習したのだ。

おかげで今では口笛で一曲演奏は私の隠し芸にもなっているのだ。

披露する相手が居なかったので完全にお蔵入りしていたけど。

完全に自己満で完結していたけれど!!


某アニメ映画の主題歌はクラシックではなくてJ-POPに属するけれど人狼達が演奏した曲より曲調が大人しく、ゆったりとしたものなので聞こえてたとしても文句を言われるほどではない。

それに今は口元を隠して招待客達がいる方向に背を向けた状態なので、私が口笛を吹いているとはすぐにバレないはずだ。

いや、何もないのに口に手を当てているのはそれはそれで怪しいけれども少なくとも口笛を吹いているなんて思われないはずだ。

切りが良い所で口笛を止めて口元から手を離すと、今まで黙って私の口笛を人狼達が一斉に騒ぎ始めた。


「**************!!」

「************?****!!」

「***、***********?!アイ*******!」

「***************、*********!!」

「************、********!」

「……これは、良かったのか悪かったのか、どっちと取れば良いんだろう…。」

「ぎゃうぎゃう!」

「ゴブ郎くん、いいねサインありがとう。」

「~♪」

「守護精霊さんもにっこりスマイルと拍手ありがとうございます。」


人狼達が騒いでいる中、親指を立てて事前に教えてあったグッドサインを示してくれるゴブ郎と、愛らしい笑顔でパチパチと拍手をする守護精霊さんにお礼を言った。

するとゴブ郎のサインを見た人狼達がゴブ郎のしているサインの意味を瞬時に理解したようで、すごい勢いでグッドサインを送ってきた。

意味を教えてないのに瞬時に意味を理解してすぐに使うとは…流石リア充メンバーのチャラ男…。

というかよく周囲を見れば、ミルフィーさんも此方に向かって小さく拍手をしているじゃないか。

結構距離あったのに良く聞き取れたな?獣属性だから五感が鋭いのだろうか?


その後、人狼5人組にはもう一回口笛披露して!と頼み込まれたけれど、これ以上やると誰か此方に接触を掛ける可能性があるので止めておこう。

既に手遅れ感がある気もしないけれど、そんな事は知ったことじゃない。必要なのは過去にやらなかったことではない。今心掛ける事だ。

それに、ただの猫っ子とチャラ男人狼達とゴブリンと守護精霊のメンツに声を掛ける人なんてそんな早々にいるわけが…


「****、***********?」


はい、いきなりのフラグ回収キマシタワー。

まさか言った傍から声を掛けられるとか誰が思います?

ミルフィーさんと人狼達以外に口笛を聞いた人がいたのか、と思い振り返ってみると、そこに立っていたのはそれはそれはスタイルの良い美少女達と、美少女達に囲まれているように中心に立つ金髪の青年だ。

美少女達は身体の特徴を見るに、天使に爬虫類っ子、魔女っ子に吸血鬼に…マリアと同じようなサキュバスもいる。

全員顔も良いしスタイルがかなり良いというか…、胸がでかい。アニメの登場人物級に巨乳。

中心に立っている金髪の青年の好きな異性のタイプが丸わかりになりそうなメンツだった。

彼女達は騒いでいる人狼5人組を見ると、私の横を通り過ぎて、彼らに声を掛けた。

どうやら彼女達は人狼5人組の所属しているダンジョンの方々らしい。


ダンジョン仲間の方々が帰ってきたのなら、そろそろ私達も離れた方が良いだろう。

余計なやり取りが発生する前に、さっさと逃走してしまおう。

そう思って私はこっそりとゴブ郎と守護精霊と共に人狼達の元を離れ、食事の置いてあるテーブルの方に戻ろうとした。




しかしその時、私はふと聞こえたある声にその足を止めた。

その声がイケボだったとか、推しキャラの中の人の声に似ていたとか、そんなくだらない理由ではない。

もっと根本的な事に関する理由だった。

私は確かに、その耳で聞いたのだ。

否、聞こえてしまったのだ。



「み、皆落ち着きなよ。これ以上騒ぐと他の招待客の邪魔になるから、ね?」


日本語だ。

異世界言語スキルを所有していないため、此方の世界の言語が一切理解できない私が唯一理解できる、元の世界の言葉。

振り返って声の聞こえた方を見てみれば、金髪の青年がなんでもないような顔をして、当たり前のように異世界言語で喋る彼らと会話をしているのだ。


「***…。**************…」

「はは、ディオーソスさんにも許可貰ってるんだし良いじゃないか。ダンジョンの中だと、どうしても他の魔物達の迷惑になるから許可できないんだし。」

「**、************…。」

「***、************?」

「駄目だろ、アリア。そんな事言ったら。彼らだって自分のやりたいことに真剣なんだ。それを悪く言うのはいけないことだ」

「**…*********…。」

「次からは気をつけてね」


私の耳には、茶髪の青年の言っている言葉は日本語に聞こえる。けれど彼は私とは違い、確かにちゃんとした会話をしていたのだ。

なにか人狼5人組のライブについて悪く言ったらしい吸血鬼の女の子を軽く叱る青年は、人狼5人組に向き直って会話を再開した。


「それで、今日のライブの結果はどうだったんだ?今日は新曲を皆で演奏する予定だったんだろう?皆の反応はどんな感じだったんだ?」

「*!**********!********、***************************!」

「*、********?」

「凄いな…。初めて客が来たんだな…。」

「****、*************?」

「***、********!**、******************!」

「**********、***********!**、******…」

「***、アイ***!**、*、**、***!!」

「*****?」

「アイ***!****、********************!」

「アイぴっぴって、また変わったあだ名を付けて…。えっと、そのアイぴっぴっていうのは一体…」


こっそりと距離を取ろうとしていた私達を見つけ、手を振る赤い体毛の人狼さん。

そこで、金髪の青年が私達のいる方向に振り返った。

私は正面から青年の顔を見て、ふと思った事を口に出してしまった。


「日本人……?」


私が独り言を呟いた瞬間、金髪の青年は目を丸くさせ驚愕の表情を浮かべた。

金髪の青年は心配した様子で彼に尋ねる美少女たちを置いて、私に近づくと、口を開いた。


「もしかして、君は地球からやって来た日本人なのか…?」

「……はい、おそらくは。」

「やっぱり…!」


私の回答を聞いて、パァッと顔を明るくする青年。

そんな青年とは対照的に私は青年から目を逸らし、ため息をついた。

自分の中で警報を鳴らすように感じる、胸騒ぎに嫌な予感を感じながら。


異世界にやってきて一ヶ月と半月。

どうやら私は、自分と同じ境遇の男性との邂逅を果たしてしまったようだ。



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