いやどちら様です!?
新年あけましておめでとうございます!始まったばかりのストーリーですが今年初投稿です!
『【ダンジョンマスター】の称号を手に入れました』
いくら目を凝らしても、目の前の画面に書かれているのはその一言だけだ。
いや、ダンジョンマスターって何!?
ダンジョンって魔物が一杯いて、迷宮になっているRPG定番のあのダンジョン? ダンジョンマスターということは、ダンジョンの主っていうこと? いきなり中ボスキャラに昇格ってどんな展開? というか、この洞窟ってダンジョンだったの? っていうかそれよりもまず…
「結局ステータス画面じゃないぃぃぃぃ……!」
なんということだ、結局自分のスキルを知ることが出来ていないではないか。また初めからやり直しだ。
あまりの落胆に思わずその場に膝から崩れ落ちてしまうと、ゴブリンくんが驚いた様子で此方に駆け寄ってきた。
「ぎゃう? ぎゃうぅ?」
「……うん、大丈夫だよ。ありがとうね、ゴブリンくん。」
オロオロと私の周囲を回って心配するゴブリンくんの方を向いて、礼を言って頭をそっと撫でた。
ステータス画面ではなかったが、ゴブリンくんは確かに私が描いた落書きと同じ液晶画面の出る場所を教えてくれたのだ。その事は感謝こそすれ、非難するべきじゃない。
私の感謝の気持ちが通じたのか、ホッと安堵の表情を浮かべるゴブリンくん。その様子は、まるで実家で飼っていた犬のローローが悪戯を許された時のようだ。
私はそっと立ち直すと、水晶玉の台に寄りかかって思考を始める。
確かにステータス画面じゃなかったが、称号獲得画面は出てきた。それはつまり、あの一連の行動によって称号を獲得する条件を満たしたということだ。何かしらの行動を起こせば称号やスキルを貰える。ただ、それらを確認する術がないだけ。
先程水晶玉を触れた際、聞いたことのない言語の羅列が頭の中に直接響いた。あれはもしかしたら、スキルを習得したというメッセージが流れていたのではないだろうか?という事は、今私が持っているスキルに何か変化が起きているかもしれない。
「ステータス! 鑑定! サーチ! マップ!」
私は台から寄りかかるのを止めて、大きな声で思いつく限りの単語を唱え始めた。
もしかすれば、獲得したスキルの一つがヒットして反応するかもしれない。そう思って私は思いつく限りのスキル名や魔法の名前を叫ぶ。
どれだけショボいスキルや魔法でも、ないよりマシだ。水魔法だったら水分補給には困らないし火魔法で火を起こせるなら焚き火に困らない。
ゴブリンくんも私の必死さを察してか、私の奇行を止めずに手を上げて応援してくれていた。
全然駄目ですね!!
適当なスキル名を闇雲に唱え続けて一時間程経過したが、何も起こらない。そろそろ思いつくスキルも魔法も底が尽きてきた。
RPGゲームで出てくるような物から厨二病が考えそうな恥ずかしい物まで叫んでみたが、どれもヒットしない。
なにより日の光が入ることのない洞窟の中で正確な時間を確認する術が私にはないからか、余計に時間が経っている気がして精神を削る。
私は軽く休憩を取るため、肩の力を抜いてその場に座った。そんな姿を見たゴブリンくんが、私の真似をするように私の隣に座る。
せめて、時間だけでも分からないだろうか……
「誰か、今の時間教えてくれないかなぁ……」
『回答。現在の時刻は午後4時16分43秒です』
「いや誰!?!」
突然頭の中から聞こえてきた声に、思わずツッコミを入れてしまう。突然叫んだ私に驚愕するゴブリンくんを横目に、私は頭を抱えて脳裏に聞こえた声に語りかける。
「えーっと、貴方が誰か教えて下さい」
『回答。私はスキル<オペレーター>。称号【ダンジョンマスター】の獲得によって獲得された付属スキルです』
「付属スキル…?」
『回答。付属スキルとは何らかの称号の獲得、及びスキルの使用のいずれかを満たした際に獲得できるスキルを指します』
「なるほど……。えっと、<オペレーター>さんは一体どういった事が出来るスキルなんでしょうか……?」
『回答。<オペレーター>のスキルでは、【ダンジョンマスター】の称号を持つ者の抱える問い・命令に対し、正確な回答、または応答が【ダンジョンマスター】に与えられるサポート型スキルです』
「あー、地球で言う所のスマホの某AIアシスタントみたいなものかぁ……」
まさかこんな形で初めてのスキルがあっさりと発現するとは思わなかった。私の先程までの苦労を返して欲しい。
だけど、丁度良いタイミングで最高のスキルが発現出来た。私は早速、<オペレーター>に問いかける。
「<オペレーター>さん、<オペレーター>さんってどんな質問にも答えてくれるんですよね?」
『肯定。如何なる質問にもお答えする事が可能です』
「じゃあ、私が今どんなスキルを持っていて、どんな能力値を持っているのかって分かりませんか?所謂ステータス画面……みたいな感じのです」
『了。【ダンジョンマスター】のステータス画面を表示致します』
次の瞬間、私の目の前に黒い液晶画面が表示された。そこには、確かに私のステータスらしき物が記されていた。
【名前】小森 瞳子
【種族】ヒューマン
【職業】ダンジョンマスター
【年齢】17歳
【称号】ダンジョンマスター、異世界転移者、神に捨てられた者
【レベル】1
HP: 20/20 MP:30/30
力:5 防御:8 素早さ:10 魔法:12 運:20
【スキル】
アイテムボックス LV―
鑑定 LV―
隠蔽 LV20
【ユニークスキル】
ホーム帰還 LV1
【付属スキル】
オペレーター LV―
ガチャ LV―
うーん、色々とツッコミどころが多い。ひとまず、一つずつツッコミを入れていこう。
まず、称号について。
【ダンジョンマスター】に関しては先程獲得したばかりの称号だから分かる。けれど、【神に捨てられた者】ってなんだ。やっぱあの女神、私を捨ててたのか。自分で喚んどいて捨てるってあんまりじゃないのだろうか?
次、スキル項目について。
ホーム帰還はよく分からないけれど、やっぱり定番の鑑定スキルとアイテムボックスあるんじゃないか。何故私がスキル名言った時に出てこない? イジメ? イジメなのか? 非リア充の私には使われたくないというスキル風の拒絶スタイルなのだろうか? これが私じゃなかったら泣いている。
そして、MAXが分からない私にも分かる隠蔽のレベルの高さはなんだろうか。確かに私は生まれつき気配を消すのが上手い子だと周囲に言われていたけど、レベル20って。あまりに高すぎるんじゃないだろうか? あ、当然の結果? それはすみません
最後、付属スキルの欄にあるガチャの存在感。鑑定、アイテムボックス、隠蔽に続いてホーム帰還、オペレーターはまだ百歩譲って許せる。でも最後ガチャって何?ガチャっていうとあのガチャポンだろうか? 逆にどんなスキルなのかが想像出来ない。
一通りツッコミを終えた私は一息ついた。何はともあれ、自分のステータスが分かったのだ。後は他の転移者と比べた評価だ。それを知らないと私は何故あの女神に捨てられたのかが分からない。
「<オペレーター>さん、一つ尋ねてもいいですか?」
『了。質問をどうぞ』
「私のこのステータスって、他の異世界転移者に比較するとどれだけの力ですか?出来れば私をこの世界に召喚した女神が私を捨てた理由も具体的に教えてくれると有難いです」
『回答。貴方様のステータスは過去に行われた異世界転移者達のステータス平均を著しく下回っています』
「おうふ」
女神の態度の変わりようとあの蔑んだ視線からなんとなく分かってはいた。しかし、やはり正面ではっきりと下だと言われると精神的にくるものがある。
その後、<オペレーター>は女神が私を切り捨てた理由を分かりやすく説明してくれた。
簡単に言えば、「全部ダメダメ」という奴だった。
まず、能力値。基本的に異世界転移者が持つ能力値の平均は100から200。かなりの逸材だと1000を超える事もあるそうだ。
しかし、私の能力値が大体10から20くらい。これはこの世界に住む村人と同じ数値らしい。他の異世界転移者に比べると、確かに私の能力値が低すぎる事が分かる。
そして次に、称号。異世界転移した者には必ず、【異世界転移者】という称号を獲得できるそうなのだが、本当に才能がある人だと【勇者】だとか【聖女】の称号も一緒に付くらしい。
別にそれらの称号が付かなくても後からこの世界の神の手によって称号を付ける事も出来るそうだけど、最初からその称号があるのと後から称号が付くのとでは才能と力の差が歴然らしい。
女神が私をこのダンジョンに捨てることを決める切っ掛けになったであろう理由、それは私の初期スキルの少なさと持っているスキルの希少性の低さからだった。
RPGや異世界転移もののラノベでは定番であろう<アイテムボックス>と<鑑定>だが、確かにこの世界の住民にとっては希少なスキルだが、これは異世界転移者だったら全員持っているスキルらしい。
所謂『異世界転移者なら持ってて当たり前』のスキル。この2つは女神がカウントしていないものとして見ているスキルだそうだ。
そして私の持っているスキルの中でレベルが高い<隠蔽>スキルだが、これは効果があまり使い物にならない無能スキルというやつだった。隠蔽スキルの効果はその名前の通り使用者が望んだ物の姿を隠す能力で、スキルレベルが上がると隠蔽出来る物の幅が広がるらしい。
しかし、この世界には<看破>という対隠蔽スキルがあるらしく、これは冒険者なら最初に獲得するスキルのため、<隠蔽>はすぐに見破られてしまうそうだ。更に、<隠蔽>で隠せるのはあくまでその姿のみ。対象の出す音や気配は消すことが出来ないそうだ。だから<隠蔽>で身を隠そうとしても、<気配察知>というスキルを使われれば一瞬で相手に見破られるらしい。
そして私のユニークスキルの項目にある<ホーム帰還>だが、これが一番の理由だろうとオペレーターは推測していた。
この世界には魔道具があるそうなのだが、事前に設定した場所に戻る事が出来る『バック・ポイント』という魔道具があるらしい。魔道具というのは喉から手が出る程欲しがられる物なのだが、この『バック・ポイント』という魔道具は他の魔道具に比べて需要が少ないらしい。
まず場所の設定に魔力を半分程削られ、一回の使用で転移させられる定員人数は使用者を含めて二人のみ。しかもその魔道具は使い切りだというのに空間魔法やら貴重な魔法石やらと、一つを作成するのにかかる手間やコストが馬鹿でかい。正直、普通に歩いて戻った方が楽で安価なのだ。
今までに<ホーム帰還>というスキルを持った異世界転移者はいないのだが、スキル名を見る限り私の持っている<ホーム帰還>もその『バック・ポイント』という道具と似たような効果を持つスキルだと女神も思ったのだろう。創造神だから、自分の世界に存在する魔道具の需要の低さや魔力の消費量の馬鹿でかさも知っていたはずだ。無能スキルと判断しても可笑しくはない。
女神はそれらの情報を把握した結果、私を使い物にならない無能転移者と判断した。これ以上あの空間に留まられて異世界転移のデメリットを語られてはリア充メンバー達のやる気を削いでしまう。けれど、元の世界に戻すには此方の世界に引き込んだ時より倍の労力を削る。その労力を面倒くさがった女神は、私を適当なダンジョンに捨てた。
以上が私をこのダンジョンに押し込んだ理由だった。
この説明を<オペレーター>に受けた後、私が思った事は一つだった
(あの女神、やっぱり今度会ったら一発殴ろう)
神罰なんて関係ない。余りに身勝手な理由で捨てられた私には許されると思う。
そんな事を悶々と思っていると、ふとある疑問が思い浮かんだ。
「<オペレーター>さん、こうやって女神の動機とか聞いてるのって<オペレーター>自身を通して女神に知られていたりとかします?」
『否定。スキル<オペレーター>は独立したシステム支配下にあるため、創造神の干渉を受ける事はありません』
「じゃあ、女神の不満とか零してもバレないってことですか?」
『肯定。創造神は世界を全て見通す権限を持っていますが、この世界の創造神はこの権限を一度も使用していない為女神に知られる可能性は皆無です』
「それを聞いて安心しました…。って、ん?」
<オペレーター>の答えに一度は安堵したが、後に続いた発言によりさらなる疑問が生まれた
「世界を全て見通す権限を持っているのに女神はその権限を一度も使ってないって、一体どうやってこの世界の文明が発展してないというのが分かるんです?」
『回答。世界の文明の発展度は50年周期で文面上に簡略的に伝えられます』
「50年周期の定期報告頼りって…そりゃあ疫病とかの対処も出来ないでしょうね…」
女神の世界の文明が上手く発展しない理由がなんとなく察しが付いた。ただの管理不足が原因じゃないか。自分の責任で発展しないのに異世界転移で他所の世界から住人を引き抜いて発展させようって、あまりに自己中心的というか…なんだか女神の傲慢さが見えた気がした。
<オペレーター>のおかげで、今まで抱えていた謎は全て解消された。あと残る問題は衣食住の確保。
このままこの食料も水もない洞窟に居座れば、やがてお腹が減って身動きが取れなくなって死んでしまう。そうなる前になんとかして衣食住を獲得する方法を見つけなければならない。
どうするべきか…と私は新聞紙で紙飛行機を作りながら考える。ゴブリンくんは私のしている事に興味津々だ
「<オペレーター>さん、ここから最寄りの町まで徒歩でどのくらいですか?」
『回答。本ダンジョンに最も近い町まで片道でおよそ38分掛かります』
「うわっ、意外と遠いなぁ……」
『非推奨。この時間からの外部への移動は危険生物との接触の恐れがあります』
「うーん、それもそっか。もう夕方近いもんね……」
ステータス村人な私が危険生物とまともに戦って勝てる訳がない。出逢った瞬間即冒険終了だ。けど、このまま此処にいても空腹で飢え死んで冒険終了。八方塞がりじゃないか
完成した紙飛行機を飛ばし、私はステータス画面を睨みながら考える。<オペレーター>に私の持っているスキルの効果の説明を頼むと、一つずつ簡潔で丁寧な説明をしてくれた。
<アイテムボックス> 異次元空間に所持アイテムを無限に入れることが出来るスキル。入れた物は時が止まる為長期保存が可能。ただし生きている物は入れることが出来ない。
<鑑定> 使用した対象の情報を読み取るスキル。
<隠蔽> 対象の姿を隠蔽するスキル。スキルレベルによって隠蔽できる物の幅が広がる。
<ホーム帰還>ホームに帰還するスキル。
<オペレーター>称号【ダンジョンマスター】の付属スキル。如何なる問いにも応答するサポートシステムを使うことが出来るスキル。
<ガチャ>称号【ダンジョンマスター】の付属スキル。ガチャを引くことが出来るスキル。
私の持っているスキルの中で唯一移動手段に使えそうな<ホーム帰還>だが、噂の『バック・ポイント』という魔道具は事前に移動したい場所を設定しないと使い物にならない代物らしく、似たような効果を持つであろう<ホーム帰還>も事前に移動先を設定していないのなら最寄りの村まで転移することは出来ないだろう。ボツ
<隠蔽>で姿を隠して外を歩くという選択肢もあるが、<オペレーター>曰くこの洞窟の外には獣型の魔物が多いらしく、匂いで<隠蔽>を見破られてしまうだろうとすげなく却下された。ボツ。
<鑑定>と<アイテムボックス>は何故か使えないし、そもそも移動には全く使い物にならないスキルだ。ボツ。
<ガチャ>は論外。ガチャを引いてどうする。ボツ。
<オペレーター>に最短ルートを教えてもらいながら進むのは悪くない方法だけど、<オペレーター>に出来るのはあくまで声での応答のみだから、万が一魔物と鉢合わせした時の対処が出来ない。ボツ。
見事に万事休す状態。八方塞がりだった。
後思いつくのは、ゴブリンくんに食べ物と水を持ってきてもらう事だけど……。
私はゴブリンくんの方を見た。
ゴブリンくんは私の作った紙飛行機を気に入ったのか、私がやったように紙飛行機を飛ばして楽しそうに遊んでいた。
「ぎゃう~♪」
……控えめに言って無理~!
ゴブリンくんはそこそこ頭が良いからジェスチャーでなんとか伝えれば食べ物や水を持ってきてくれるかもしれない。だけど自分が危険だと思っている場所に食べ物を分け合い絆を結び、有能AIスキル<オペレーター>を獲得するお手伝いをしてくれたゴブリンくん1人に探しに行かせるなんてとても出来ない。
見たところゴブリンくん仲間のゴブリンがいないようだし、戦闘能力もそこまで高いようにみえない。そんなゴブリンくんを外に出したら他の魔物に餌にされるか、冒険者に討伐されてしまうかもしれない。
この世界に来て初めての友を命の危機に晒すのは道徳的にアウトだ。というか頼まれてもしたくない。
こうしている間にも時間は過ぎていく。夜になればこの洞窟に魔物が入ってくるかもしれない。そう考えると、段々と焦りもでてくる。
きっと、突然の異世界転移や殆ど手ぶらで女神に捨てられたこと、いつの間にかダンジョンマスターになったことなどトラブルの連続で精神的に疲労していたのだろう。
私は半ばやけくそになってある決心をした。
「<オペレーター>さん、ユニークスキル<ホーム帰還>の使用方法を教えて下さい!」
『注意。このスキルは発動しない可能性があります』
「それでもお願いします!ワンチャン上手く行くかもしれないので!」
『了解。スキルの使用方法をインストールします』
<オペレーター>の言葉の後、頭の中にスキルの使い方が流れ込んできた。
いくら無能スキルかもしれないとはいえ、比較対象は魔法道具なのだ。もしかしたらスキルだったら、場所の設定の必要がないかもしれない。現に<ホーム帰還>の説明には事前設定に関する説明はない。他に手段がないのだから、一か八かの賭けをしても良いだろう。
私はオペレーターにインストールされたスキルの使い方の通り、自分の目の前に手をかざして、大きな声で唱えた
「<ホーム帰還>!」
その瞬間、私の目の前の足元から女神が使ったような魔法陣が浮かび上がり、下から上に魔法陣が上がった。
その魔法陣に合わせて姿を出したのは…
「……扉?」
「ぎゃ?」
地球ではよく見るような、硝子とアルミで出来た玄関の『扉』だった。




