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初めての異世界ご飯は辛かった

今回のパーティーの参加を決めた際、密かに気になっていた事があった。

それは、『異世界の食事が一体どんなものか?』だ。

この世界に来て以来私が食べていた食事は全て、料理ができる私やシルキーズが地球産のレシピを元に作った物だ。

なので私は、この異世界の料理というものを食べたことがない。

今まで一度もダンジョンの外に出たことがないから街に行って料理を食べるという発想もなかったし、シルキーズは毎日3食の食事を用意するのと地球産のレシピを覚えるので忙しそうだったので頼めなかった。

自分で作ろうにもそもそも私はこの世界の料理のレシピを知らないし、この世界に存在する食材は地球のものと名前が違うから作ることは出来なかった。

なので今回のパーティーの件で、異世界の料理を食べることが出来るのでは?と少し期待があったのだ。


初めて見る異世界料理は、ある意味私の予想を裏切らなかった。

テーブルクロスの敷かれた机の上にある料理は見事に肉、肉、肉…と5割がた肉料理なのだ。

その肉料理も大体がシンプルに焼かれたマンガ肉のようなもので、煮込みや蒸し系は何処にもない。

他3割は飲み物類…恐らく全部酒だ。

異世界にいるとはいえ私は地球ルールでは未成年なので、お酒を飲むことは出来ないので省く。

あとは生の果物やサラダらしい料理、もしくは『これは岩石か?』と聞きたいぐらいに硬いパンが置いてあるばかりだ。

勿論バターもドレッシングも何処にも置かれてない。


試しに肉料理の一つを小皿で取ってゴブ郎と一緒に食べてみたのだが、これがものすごい味が濃くて辛いのだ。

塩と胡椒を大量に使われているようで、肉本来の旨味なんて殆ど感じられない。

パンはそもそもカチカチすぎて、一口分に分ける事すら難しい代物だ。

いや、どうやって食べるんだこれ。


そういえば、昔の地球でも香辛料や塩の類は貴重で、貴族たちは料理に沢山調味料を使う事で自分の財力を見せていたと書かれているのをラノベで見た気がする。

恐らく、ディオーソスさんの料理もそんな貴族の思考に則って作ったものなのだろう。

チラッと料理を食べている招待客を見てみると、皆なんでもない様子で料理を食べている。

これが常識なのだろう。


「…ゴブ郎くん、これ美味しいの?」

「ぎゃうぎゃう!」

「美味しいのかぁ…。じゃあ、私の作った料理とこれだったらどっちが美味しいです?」

「ぎゃう!」

「あ、そこは私なんですね。ありがとう…」


地球産レシピの料理を毎日食べているゴブ郎も、この料理は異世界料理の中では『美味しい』の範囲に入るらしい。

守護精霊は、なんでもないような顔で此方を見ている。

ゴブ郎や他の招待客としては問題ないのかもしれないけれど、私は辛すぎるものはあまり得意ではない。

正直残したい気持ちもあるけれど、出された食事は残さないように完食することを母親から教えられてきたので出来れば残したくない。

<ネットショッピング>でマヨネーズなり注文して使えば辛さを抑えることも出来るだろうけど、勝手に調味料を持ち込んで使うのはマナー違反だ。

どうするべきか…と考えながら小皿に分けた肉を口に入れたけれど、口の中が一瞬にして辛味で支配される。


「かっら…!」


水を飲みたいけれど、水を探す余裕はなかった。

そこで私はたまたま近くにあったウリ型の黄色い果物を手に取り、齧り付いた。

その瞬間、その果物の味に私は目を丸くした。


「これ、もしかしてトマト?」


そう、私が偶々手にとった果物は、トマトの味がしたのだ。

もう一度齧って見ると、やはりトマトの酸味が口の中に広がる。


「あの、<オペレーター>さん、これってもしかして地球でいう所のトマトですか?」

『肯定。貴方様の手にしている果物、アリューは形状こそ違いますが地球のトマトと同一種に当たります』

「やっぱりそうなんですね。じゃあこのアリューってやつとパンと肉を組み合わせれば…」


<オペレーター>からお墨付きを取れた私は一旦机に小皿を置くと、ナイフでアリューの半分を輪切りにする。

そして、岩石のように硬いパンを半分に切り分けて、残りの半分のアリューをパンに押し付けて擦り付ける。

あとは肉と輪切りのアリューをパンに挟めば、岩石パンと味濃い肉を救済する即席サンドイッチの完成だ。

サンドイッチを食べてみれば、パンの内側が程よく柔らかくなっていて、味の濃かったお肉もトマトもどきのアリューの酸味によって程よく中和されて、ちょっとスパイシー程度に味が落ち着いた。

これなら完食できそうだ。

黙々とサンドイッチを食べていると、ゴブ郎がジーッと此方を見ている事に気が付いた。


「ゴブ郎くんもサンドイッチ食べる?」

「ぎゃう!!」

「うん、じゃあ今から作りますね。」


私は新しく肉とパンとアリューを取り、サンドイッチを作り、ゴブ郎に渡してあげた。

ゴブ郎はそれを頬張り、喜びの鳴き声を上げた。

やっぱり食べる物は美味しい方が良いよね。

置いてある料理を勝手にアレンジするのはマナーに反するのではないかと不安に思う所はあるけれど、周囲の人は誰も注意する様子もないところを見ると、気にしてないのだろう。

果物を生でそのまま食べている方も見えるし…。


私は自分用にもう一つ作ろうとした所、横から小皿が差し出された。

そちらを見てみると、犬耳の青年を連れた狐耳の美しい美女がニコニコと小皿を差し出していたのだ。


「*****。」

「あ、えっと…『*****(初めまして)』」


狐耳の美女が挨拶したのをみて、私は慌てて挨拶用に覚えた異世界言語で挨拶を返した。

もしかしてマナー違反だと怒られたのだろうか、と思ったけれど、狐耳の美女は特に怒りもせず、美しい微笑みを浮かべて言った。


「**、***********。*******************?」

「え、えっと…」

「********************。」


何を言っているのか分からず戸惑っていると、狐耳の女性が手に持っていた扇子でサンドイッチを食べているゴブ郎の方を指した。

もしかして、サンドイッチを自分にも作ってくれと言っているのだろうか?

しかし、なんで人間の私に?と思ったけれど、自分が今猫耳カチューシャと尻尾を付けている事に気が付いた。

多分、自分と同じ獣系の種族で、誰かの配下だと思って頼んだのだろう。

赤の他人になんで作らなければ行けないんだ…とも思ったけれど、ここで突っぱねれば揉め事を起こす可能性がある。

私は大人しくゴブ郎と同じようにサンドイッチを作り、狐耳の女性の小皿にサンドイッチを載せてあげた。

狐耳の女性はにっこりと此方に微笑み掛けた後、扇子を犬耳の青年に預けてサンドイッチを口にした。

すると、どうやら気に入ったようでその尻尾を振って笑みを深くした。


「*****。**************************。」

「お気に召したようで何よりです。」

「**、******?」

「何を聞かれてるんだ…?あの、申し訳ないのですが、言葉が分からなくて…」

「**?*****、********?」

「言葉通じないです……。」


ジェスチャーを使って言葉が通じない事を説明すると、狐耳の女性はキョトンとしつつも理解はしてくれた。

狐耳の女性はパーティー会場の招待客を何人か指して、私とゴブ郎を指差した。

多分、「貴方は誰の連れなの?」と聞きたいのだろうか…。

私は、未だに招待客に囲まれているベリアル達を指し示した。

すると、納得したように頷いた。


「**、******************。**(名前)********?」

「今度は名前を聞かれたのかな…。えっと確か…『**(名前)、アイネス』。で此方が、『**(名前)、ゴブ郎』」

「アイネス…ゴブロー…。*****。****、ミルフィオーネ*。」

「えっと…ミルフィオーネさん?」

「**、ミルフィー、****。」

「ミルフィーさんかぁ…。」


狐耳の女性、ミルフィーさんの名前を復唱すると、ミルフィーさんはにっこりと微笑んだ。

ゴブ郎もそんなミルフィーさんに手を振ってみせる。

そこでふと、隣にいる犬耳の青年の方を見た。

犬耳の青年はミルフィーさんの横で何も言わず、じっと立っていた。

まるで人形のような彼を気になっていると、ゴブ郎がその犬耳の青年に話しかけた。


「ぎゃうぎゃーう!」

「………」

「ぎゃう?」

「**、*******。***、**************。」


ゴブ郎の呼びかけに全く反応しない犬耳の青年に、首をかしげるゴブ郎。

眉を下げてゴブ郎に話しかけるミルフィーさんと、犬耳の青年の彼を交互に見て、私は犬耳の青年がどういうものかを察した。


「………あ、使い捨て型なのか。」


使い捨て型。ダンジョンマスターが召喚できる魔物の種類の一つ。

消費するDPが安価な代わりに意思がなく、死んでしまえば復活することがない存在。

使い捨て型の魔物を見るのは初めてだけど、確かに彼には意思というものを感じず、よく出来た人形のようだ。


「*********************、*****************。」

「何言っているかはさっぱりですけど、パーティーに同行させている感じ、付き人として召喚した魔物なんですかね…。」


確かに使い捨て型は復活が出来ないけれど、ある程度強い魔物を呼べば十分護衛役には相応しいし、意思がないから裏切られる心配もない。

専属の付き人にするなら丁度いいだろう。

前いた地球だったら『魔物を意思のないようにさせて自分の奴隷にするなんて!』と正義感の強い人が叫ぶかもしれないけれど、私はそこまで拒絶する気はない。

むしろ、復活型と同じように死んでも復活出来るのであれば、私は使い捨て型を選んだだろう。

コミュニケーションというものを必要としないからね。


取り敢えず、使い捨て型の事はそっとスルーして、私は犬耳の青年用にサンドイッチをもう一つ作って渡してあげた。

やはり青年は自分からそれを取る事は無かったけれど、気を利かせたミルフィーさんが何かを青年に囁くと、青年はサンドイッチの小皿を手にとってサンドイッチを食べた。

表情は変わらないけれど、黙々とサンドイッチを食べる様子から、私は『美味しいのだろう』と勝手に自己解釈をすることにした。


その時、私の肩に乗っている守護精霊が声を掛けてきた。

守護精霊はお腹に手を当てて、何かを訴えてくる。


「~!」

「あ、どうしました?もしかしてお腹が減ったんですか?」

「~!」

「そうですか。じゃあ守護精霊に肉料理を食べさせて良いのか分からないので、クッキーで。」

「~♪」


懐に入れてた袋からクッキーを取り出し、守護精霊に渡せば、守護精霊は嬉しそうにそれを両手で持って食べ始める。

和やかにその様子を見た後ミルフィーさんの方を見てみると、ミルフィーさんがかなり距離を詰めていたではないか。

ミルフィーさんはそれはそれは綺麗な笑みを浮かべると、守護精霊を指した。


「***?」

「あ、クッキー、ですが……」

「**************?」

「あ、ご所望ですね…。はいどうぞ…。」

「*****♡」


にっこりと笑顔を浮かべて空になったお皿を差し出したミルフィーさん。

いや、いつの間にサンドイッチを完食したんだこの人。

私は思わず後退りしそうになりつつも、クッキーを数枚ミルフィーさんの差し出したお皿に乗せた。

ミルフィーさんは何かを言うと、クッキーを一枚口に入れ、目を細めて尻尾を振って喜びを表現した。

この人、もしかして結構食いしん坊か?さては私が妙に料理が出来そうだったから興味本位で話しかけたな?


守護精霊と一緒に美味しそうにクッキーを堪能するミルフィーさんに少し呆れつつも、美味しそうに食べているなぁと呑気に思っていたその時、何処からか騒がしい音と、歌声が聞こえた。

歌声の聞こえる方を見てみると、二本足で立った狼のような魔物達が5人いた。

彼らはなにやら歌を歌いながら、会場に設置してあったグランドピアノやギターもどきを鳴らして演奏をしているようだ。

招待客達は彼らの姿を煩わしそうな表情で見ているけれど、誰も止める者はいない。


「**、***********?」

「彼ら、誰なんでしょうね…。」

「*****、********************、*****************************。」


ミルフィーさんから身振り手振りで聞いた説明によると、彼らはどこかのダンジョンマスターの配下の魔物らしい。

何故彼らが招待されたパーティーで歌を歌っているかは分からないけれど、ディオーソスさんが文句を言わないところを見ると、ディオーソスさんは許しているのだろう。

まあディオーソスさん、パーティーとか新しい物とか、面白そうな事好きそうだもんね。演奏とかダンスとか、そういうのも普通に許可しそう。


「ディオーソスさんは何も言わないんですね。勝手にピアノとか使われてるのに」

「ディオーソス*****************…。*******、*********************************…。」


ミルフィーさんは彼らの演奏はあまり好ましく思ってないのか、眉を潜めながら私の言葉に返した。

よく見れば他の招待客も、あまりいい顔はしていないようだ。

多分だけど、此方の世界の音楽というのはクラシックが基本なのだろう。

様々なジャンルの音楽が存在している地球生まれである私には、あまり拒絶感は感じないけれど。

いや、むしろ結構好感がある。

歌詞はさっぱり分からないし皆好き勝手に演奏しているからリズムは滅茶苦茶だけど、それぞれの演奏と歌声は地球のアイドルと引けを取らないくらいに上手いし、妙に全員一体感がある。

それに、このテンポの早くてノリの良いミュージックは、地球育ちの私が良く聞き慣れた音楽だ。


「これもしかして、ロック?」

「『ロック』?」


そう、地球でもかなりポピュラーな音楽、ロックだったのだ。

何故異世界転移者でもなさそうな彼らがロックを演奏しているかは分からないけれど、曲調や演奏が本当にロックに近いのだ。

その事に気が付いた私は、ミルフィーさんに軽く会釈して歌を歌っている彼らの方へと近づいた。


招待客は皆、演奏をしている彼らから距離を取っている為、彼らの近くに来たのは私と私に付いてきたゴブ郎と守護精霊のみ。

やはり近くで聞いても、それはロックのような曲で、彼らは周りの目など気にせずに楽しそうに歌を歌い、楽器を演奏している。

少しするとどうやら一曲が終わったようで、彼らは演奏と歌を止めた。

私はそんな彼らに、思わず拍手を送ってしまった。

リズムは滅茶苦茶で、まさにロックもどきというような曲だったけれど、もう一度聞きたいと思うぐらいには気に入っていた。

ちゃんと楽譜がある曲でリズムを合わせて演奏することが出来れば、普通にアイドルと互角に並ぶくらいには演奏が上手くなりそうだ。

ゴブ郎も私に合わせて、パチパチと拍手をする。

その時、拍手の音でようやく自分達の前に人がいることに気が付いた5人の人狼は、此方を向いた。

皆、私達を見てかなり驚愕の表情を浮かべ、そして……


「*、*******************!」


何故か全員、号泣を始めた。

皆お互いハイタッチをしたり抱き合ったりと、何故か泣きながら歓喜している。

その中の一人、赤い体毛の人狼が私の方に近づくと、手を差し伸べてきた。

私は訳が分からないまま、その手を握ると、彼は私の手を両手で優しく握り、握手したのだ。


「*******!*******!」

「…はぁ…。」


良くはわからないけれど、なにやら感謝を言われているようだ。

戸惑う私の横で、ゴブ郎と守護精霊が、きょとんと首を傾げた。

いや、首を傾げたいのは私もだよ本当。

誰か、この状況を説明して~~……。



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