ダンジョンマスターも十人十色
ディオーソスさんの案内に導かれて訪れたパーティー会場の中は漫画やアニメに出てきそうな、まさに貴族のパーティー会場といった感じだった。
天井には大きなシャンデリアがパーティー会場を照らし、あちこちに設置してある机の上には見たことのない料理が並んでいる。
会場には大柄な全身鎧を着た人や光の粒のように小さな妖精達、美しい貴婦人のような人やスライムのような魔物まで、様々な種族の者がいる。
まさにダンジョンの魔物たちの長が集まるパーティーといった感じだ。
私達が会場に入ってきた事に気が付いた他の招待客が此方を見たのだけど、ベリアル達の姿を見て目の色を変えた。
そりゃあ顔面偏差値がカンストしている最強クラスの魔物3体が見たことのないような綺麗な服を着て優雅に登場してきたら誰だって目の色を変えるだろう。
そんな中、ディオーソスさんの姿を見て二人の招待客が近づいてきた。
一人は頭から大きな一本角を生やした全身の肌が真っ赤な強面の男性、もう一人は獅子の顔に蛇の尻尾を持つ二本足で立つ獣だ。
前者は鬼で、後者は…キマイラという種族だろうか?二本足で立つキマイラなんて初めて見た。
二人はディオーソスさんの親しい友人かなにかだったようで、ディオーソスさんに話しかけてきた。
「**********、ディオーソス。***************?」
「**********************…。***********…」
「****!**************!」
「****。」
決めポーズを決めてドヤ顔をするディオーソスさんに対し、近づいてきた二人は慣れた様子であしらっている。
ディオーソスさんはそれに対し嫌な顔を見せている感じはない。
よほど付き合いが長い関係柄なのだろう。
「******、ベリアル*****。」
「****フォレス*****。」
「****マリア*******!****アイネス****、ゴブロー****!」
「初めまして。」
「ぎゃうぎゃうー。」
恐らく自己紹介をしているのだろうと思い、マリアの横でゴブ郎と一緒にお辞儀をした。
そこで私とゴブ郎の存在に気が付いた二人が、首を傾げて呟いた。
「**、*******?************************。」
「****************************…」
「『ジャンケン』*********!」
「『ジャンケン』?」
「*************、**********************?」
「*、********…。*********************ミッチェル*。****ミチュ*******♡」
「ミッチェル**…**、ミチュ**、***。」
そう言ってウインクを決める強面の鬼いさん…もといミチュさん。
ウインクを向けられたベリアルとフォレスは一瞬身を震わせ、苦笑を浮かべた。
……なんとなく気にはなっていたけど、この人もしかしてオネェではないだろうか?
なんというか仕草が妙に女性っぽいというかすっごいくねっているし、ミチュさんの言葉だけなんか訛りとかとは違うような独特な発音をしている。
あと、ベリアルを見る目がどこか熱っぽいような気がする。
「****、****************。****************?」
「********。****************…。」
「**、****?*****。」
私が黙々と考察している間にも、ミチュさんはベリアルに対してボディタッチを試みている。
ベリアルはそんなボディタッチを、にこやかに笑いながら回避している。
そんな素っ気ない態度のベリアルに対し、ミチュさんは更に熱っぽい視線を向ける。
アッ、ふーん…(察し)
なんだか変な事を察してしまったけれど、私に出来る事は特にないので知らない振りをしておこう。
ベリアルなら『食べられる』の後に(意味深)が付くような事にはならないだろうし、きっと大丈夫だ。
「ミッチェル、***********。」
「***、グライド***!*******ミチュ******************!」
「**…。**グライド*。**************。」
「グライド**、***。」
キマイラの方はグライドさんとというらしい。
その獅子の顔と堂々とした立ち振舞いから獰猛で傲慢そうな印象を受けるけれど、所作がとても綺麗だ。
失礼だからしないけれど、あのたてがみはとても触り心地が良さそうで、とてもモフモフしたい気持ちに駆られるけれど、完全マナー違反なのでここは我慢しよう。
「***、**********************…。************。」
「……***、**********?」
「******************************。*******、******************************、*******************。」
「……**?」
あれ、なんだか不穏な空気になってきたぞ。
グライドさんがなにか言った途端にベリアル達の機嫌がかなり急降下したけれど、もしかしてなにか馬鹿にされたとか?
こういう時言葉が分からないというのは面倒だ。彼らがどんな話の内容をしているかも分からない。
そんな私の気持ちを察してか、マリアがこっそり私に通訳してくれた。
なんでも、グライドさんがベリアル達にこう言ったようだ。
「配下に連れてくる魔物はダンジョンマスターにとって自分の強さの証明でもあるにも関わらず、連れてきた配下がゴブリン1体と獣人の子供一人と守護精霊だけって未熟だな。パーティーに連れてくるメンツじゃない。恥ずかしくはないのか?」
確かに初対面の相手に言われたらついムカッと来てしまいそうな言葉だけれど、落ち着いて聞けば確かにその通りである。
私はダンジョンマスターが人間である事で悪目立ちしないように敢えて主従関係が逆に見えるようにしたけれど、ベリアル達がダンジョンマスターだと勘違いされた場合、他の招待客がなんちゃって配下である私を見てどう思うかまでは配慮してなかった。
今後ベリアル達が悪く言われないようにしないためにも、こうやって真正面から注意してくれるのは有難いことだ。
本当に性格が悪い人なら、こんな注意なんてせずに陰で笑っているだろうから。
口は悪いけれど、根はいい人なのだろう。
私は殺気を出しているベリアル達をグライドさんとミチュさんにバレないようにこっそり宥めて、抑えてもらう。
あの人はダンジョンマスターとしての常識を学ぶにあたって良い先生になる。
ディオーソスさんとも親しい間柄のようだし、ここは新参者である私達が先輩ダンジョンマスターとして敬うべきだろう。
「***、ディオーソス*。***************?」
「***************…*****?」
「***、**********ベリアル***********。『シャンパン』*******『ワッフルケーキ』****************!」
「『シャンパン』?『ワッフルケーキ』?**********…。」
ベリアル達をやんわり宥めていると、ディオーソスさん達は私が先程渡した手土産の話を始めていた。
グライドさんとミチュさんはディオーソスさんが見せたシャンパンの瓶とワッフルケーキを見て興味津々だ。
そこで私は、ベリアルの持ってた紙袋を受け取り、新しいワッフルケーキの箱を取り出した。
実はディオーソスさんが貰った手土産を見て他の招待客の中にも気になる人が現れるだろうと思い、もうワンセット用意していたのだ。
私はそっとグライドさん達の前で箱を開け、ワッフルケーキを見せた。
「******、ミチュ***グライド**********。」
「**、*******!***、*********♪」
「*******。」
「******************************!」
ベリアルが勧めると、ミチュさんは興味深しげに、グライドさんは恐る恐るといった感じでワッフルケーキを一つ手にとった。
ディオーソスさんに食べ方を教えてもらい、その通りにワッフルケーキを口に入れた二人。
その瞬間、二人は目を丸くさせて顔を手に持っているワッフルケーキを見た。
「***、*************!」
「****…。*****************************、****************…。」
「***************。『シャンパン』***********?」
「**、*********!」
どうやら二人にもワッフルケーキを認めてもらえたようで、各々良い反応を見せてくれる。
その横で、ベリアルが追い打ちを掛けんばかりに試飲用のシャンパンを勧めて来たので、私もそれに合わせてシャンパンを取り出す。
ディオーソスさんはそれに対して快諾し、ドリンクを運んでいるウェイターらしき魔物にグラスを持ってくるように命じた。
ウェイターの魔物が銀で出来たグラスを持ってきてくれたので、私はそのグラスに慎重にシャンパンを注いで、三人に渡した。
三人はシャンパンが泡を立てている様子を興味深しげに観察した後、そのまま煽るようにシャンパンを飲んだ。
すると、一同は再び絶賛を始めた。
「*****、**************!************!」
「*************、***************…。**************!」
「***、*~~~~*~~~~***~~~~~~*!!*************************************!*********************!」
「ディオーソス*******!*******************!」
「ベリアル*、***************。************。」
「**、***********************。」
「グライド、ツギ、ノ、パーティー、デ、『シャンパン』、ホシイ、ダッテ」
「了解です。グライドさん分にシャンパン追加する事を覚えておきますね。」
ワッフルケーキ以上の絶賛ぶりに、軽く驚いた。
やっぱり大人というのはお酒には目がないのだろう。
最初は此方にキツい言葉を向けていたはずのグライドさんも、次回のパーティーにシャンパンをご予約するほどの絶賛ぶり。
そんなに好評なら、今度パーティーに参加する機会があればお酒を数種類持っていくのは良いかもしれない。
日本酒とかウイスキーとか持っていけば、きっと飲み比べを始めて盛り上がるだろう。
私は飲めないから蚊帳の外だけど。
「**…************?」
「*****…」
遠くから此方の伺っていた招待客が、ディオーソスさん達の会話を聞いてシャンパンとワッフルケーキに興味を示したようで、近づいてきた。
何人かはベリアル達本人が目的なようで、頬を紅く染めてベリアルやフォレスに話しかける女性がいるくらいだ。
招待客達の殆どがベリアル達の方に声を掛けている中、私とゴブ郎の存在は完全に放置されている。
ここまで完全にスルーされていると、逆に笑えてすら来る。
私はウェイターの人に予備のシャンパンとワッフルケーキを渡し、ベリアル達と招待客のやり取りを見ているディオーソスさんに声を掛けた。
「あの、会場の中を色々見て来ても良いですか?」
「*******************!************************************!」
「あ、食事や飲み物も好きに取ってって良いんですね。ありがとうございます」
「******、アイネス*!」
私はジェスチャーで会場内を自由に歩いても大丈夫かディオーソスさんに尋ねてみれば、ディオーソスさんは同じくジェスチャーで答えてくれた。
ベリアル達にも声を掛けようと思ったけれど、ただいまベリアル達は招待客達に囲まれているため、接近することすら難しそうだ。
ディオーソスさんには一応話したし、会場内を歩くだけならまあ大丈夫だろう。
そんな軽い気持ちで、私はゴブ郎と守護精霊と共にパーティー会場の中の探索を始めたのだった。




