パーティーなんて文化祭しか参加したことがないんですが
テオドールさん達が王宮に帰り、ようやくいつもどおりの生活に戻った。
これで普通のダンジョン生活に戻れる…と思っていた矢先に、またもや異常が発生した。
「……これ、手紙ですよね…。」
「ぎゃうー」
『回答。手紙です。』
「…何故外に知り合いが少ない私のダンジョンの居住スペースの中に手紙が…?」
「ぎゃうー?」
『回答。貴方様のダンジョンに向けて送られた手紙だからです。』
「ですよねー……。」
項垂れる私の手にあるのは黒色の封筒。
宛先らしき文字は書いておらず、いかにも開けてくださいと言わんばかりの派手な装飾。
また訪れたトラブルの気配に、私は大きなため息をついたのだった。
***** *****
「はい、緊急会議の時間ですよ。皆集合~。」
「ぎゃうぎゃーう!」
黒色の手紙に気が付いた私は、私は朝食の時に皆に会議することを伝え最小限の魔物達にダンジョン経営を任せ、緊急会議を開いた。
私の隣にはいつものようにイグニとベリアルが座っている。
奥の方にはフォレスとマリアとゴブ郎、それに各種族の代表たちの姿が見える。
「えっと、朝部屋を出たら居住スペースにこんな手紙がありました。宛先は書いてないようです。謎のお手紙なんでまだ開封はしてないんですが、これから開封しようと思います。ベリアルさん、読んでもらえませんか?」
「ハイ。」
ベリアルに謎の手紙を渡し、ベリアルはすぐにその手紙を開封して中を閲覧した。
すると手紙を読むベリアルの顔はどんどん難しい顔になっていき、全てを読み終えたベリアルはそっと手紙を封筒に仕舞うと、それはそれは素敵な笑顔を私に向けて言った。
「トク、ニ、アイネス**、ガ、キニスル、コト、ハ、カイテ、ナイ。」
「いや、今確実になにか書いてありましたよね?確実に私絡みの面倒事がその手紙に」
「イイエ。」
「絶対嘘でしょうそれ。顔を曇らせるぐらいの面倒な事が書いてましたよね?」
「**、**!」
何度聞いても頑なに内容を言おうとしないベリアル。
そのやり取りがまだらっこしいと思ったのか、イグニが私の前から手を伸ばし、ベリアルから謎の手紙を奪う。
そしてそれをイグニとその横のマリアが読み進めると、二人は大きなため息をついて言った。
「アイネス、コレ、アイネス、アテ。」
「私にですか?」
「パーティー、ヘノ、ショータイ。」
「…パーティーへの招待状?」
イグニに聞いてみた所、謎の手紙はダンジョンマスター達が集まるパーティーへの招待状だったらしい。
招待主はディオーソスという名前のダンジョンマスター。
手紙の内容は簡単にまとめるなら、「明日うちの敷地でパーティーを開くのでぜひ来てね☆手紙の魔法陣で移動できるよ!」というものだった。いや、急過ぎる。
<オペレーター>にこの招待主について聞いてみると、彼はどうやらパーティーやイベントごとが大好きで、よく気まぐれにこの世界の有数のダンジョンマスター達を集めてパーティーを開いているらしい。
どうやら最近ケネーシア王国付近で私のダンジョンの名が広まってきたので、そのパーティーの招待状が届いたのだそうだ。
パーティーの招待云々よりも一体どこで私のダンジョンの場所を知ったのかが気になる所だ。
「パーティーかぁ…。」
私は元の世界にいた時からパーティーだなんてリア充なイベントに参加した経験は存在しない。
誕生日だって誕生パーティーなんてものをしたことはない。
強いてあげられるのは学校の文化祭程度だ。
多分このディオーソスさんの開いたパーティはそんな文化祭のようなものではなく、明らかにフォーマルなパーティーだ。
学生だった私にそんなフォーマルなパーティーに参加したことなんてあるわけがない。
「体調崩して欠席ってことに出来ないものですかね…。」
『回答。その場合後日見舞いに来ると言われる可能性が高いので、さらなる問題の発生を防ぎたいのであればその理由での欠席は控えるべきかと。』
「ですよねー…。」
くっ、欠席の常套文句を先に潰された!
だったらダンジョン始めたばかりでまだ忙しいとか、魔物たち同士が大喧嘩してダンジョン内で大暴れしていてその仲裁に当たっているので難しいとかはどうだ?
丁度私の両隣に大喧嘩を引き起こす張本人二人組がいるわけだし。
欠席理由を悶々と考えていると、思いもよらぬ所から声を掛けられた。
『推奨。』
「ん?」
『今回のパーティーへの出席を推奨します。』
「えっ、なんで?」
『回答。今後のダンジョン経営において他のダンジョンマスター達との交流は今後の経営に役立つでしょう。』
「経営に役立つと言ってもなぁ…。」
『推奨。今回のパーティーへの出席を推奨します。』
「うーん…」
いつもクールで此方の質問にしか返さない<オペレーター>がここまで勧めるとは珍しい。
そのパーティーとやらに行けば何か良いことがあるのだろうか?
リア充達のイベントである上に学生の私が来たら完全アウェーになるであろうパーティーに行くのはかなり気が引けるけれど、<オペレーター>がそこまで勧めるのなら行った方が良いのかもしれない。
ただ、ラノベだとこういうのって気性の荒い人に絡まれるイベントがあるんだよなぁ。
戦闘系チートスキルを持っている人ならまだしも、私は生活系スキル以外能力値もスキルもほぼゼロに近い。
下手に絡まれて暴力沙汰になれば、一瞬で私なんて葬り去るだろう。
「んー…。誰か攻撃から身を守るスキルを持っていたりとかしないですかね…?」
「アイネス**、ワタシ、セイレイ、チカラ、ツカウ、ドウ?」
「フォレスさんの精霊って言うと……<精霊召喚>で召喚した精霊ですか?」
「ハイ。」
『告。精霊達の中には守護を得意とする守護精霊がいます。守護精霊と共にいる事である程度の攻撃から身を守る事が可能です。』
「へー…。そんな精霊さんもいるんですね…。」
守ってくれる人…いや精霊がいるなら、身の危険に関する問題は大丈夫だろう。
その気になればベリアル達最強クラスの魔物達も一緒に付いて行ってもらおう。
あとは悪目立ちしない方法だけど…
私はそこで、此方の様子を伺っているベリアル達を見た。
「…………いや、大丈夫か。」
「?」
普通、人間がベリアル達を配下として連れていたらかなりの悪目立ちになるだろう。
しかし私の場合、ベリアル達の方がオーラやカリスマ性やらで圧倒的にスペックが高すぎて、ひと目見ただけでは私がダンジョンマスターだとは分からない。
イグニだって最初にベリアルがダンジョンマスターだと勘違いしたくらいなのだ。
私が何を言ってもギャップが激しすぎてとても信じきれないだろうし…というか、言葉が違うので言う事も出来ないので問題ないだろう。
ベリアル達が目立てば目立つほど、私の存在感はかなり薄れる。
あとは地味な服を着てベリアル達の後を付いていれば完全に見た目だけのなんちゃって逆転侍従の完成だ。
「…じゃあ、出席しましょうか。パーティー。」
「パーティー、イク、ノ?マリア、タチ、ハ?」
「数人には私と一緒にパーティーに付いて行ってもらおうと思ってますよ。むしろそうしてくれないと私が言葉通じませんので」
「****!」
それを聞いたマリアが、大喜びする。
マリアはやはり社交性が高そうな感じの女の子だし、そういったパーティーが好きなのだろう。オタクだけど。
他の皆も顔には出さないだけでパーティーが気になっていたようで、マリア程ではないにしてもしっぽを振ったり顔がにやけていたりとどこか嬉しそうだ。
「参加するのだったらパーティーに行くための服と手土産と、あと誰が行くかも決めないと…。ベリアルさん、そのパーティーって何人まで魔物オッケーとか書いてあります?」
「5タイ、マデ、ダイジョウブ、ダッテ。」
「私の身を守るために付いてくれる守護精霊さんに、フォレスさんも一応ついてもらった方が良いですね。」
「ソウ、デスネ。フォレス、ガ、イチバン、ボウゴ、マホウ、ジョウズ、ダカラ。」
「あとは3体か…。」
「アイネス**、ソレ、ナラ、マリア、カ、イグニ**、カ、ベリアル**、ツレテ、イク、ホウ、ガ、イイ。」
「それもそうですね…」
あと3体誰を連れて行くかで迷っていると、アラクネ代表のアーシラ姐さんが挙手をしてベリアル、イグニ、マリアの誰かを連れて行った方が良いと意見を出した。
確かにベリアル達最強クラスの魔物を連れて行った方が良い。
彼らは称号に王とか貴族と付くだけあって社交性が高いし、マナーだって良い。
あの乱暴なイメージのあるイグニが初めてハンバーグを出した時にナイフとフォークで綺麗に切り分けてる姿を見た時は思わず二度見した。
なにより、パーティー内に暴力沙汰があった時に彼らの後ろにいれば安心だ。
しかし、明日もダンジョンの経営があるため最低1人が全体指揮役として残らなければならない。
そうなると、パーティーに連れていく残りの3人はフォレス以外の最強クラス魔物二人と、他の魔物たちの誰かだ。
「えー…、パーティーに一緒に付いていきたい人は挙手してください」
私がそう言った瞬間、全員が大きく手を上げた。
いやどんだけパーティー行きたいんだ。君達はパーティー好きのリア充か。
お互いを睨み合う皆を眺めてため息をつき、私はシンプルな勝負で決着を付けさせる事にした。
「ジャンケンで決めましょうか。」
その瞬間、会議室の中で魔物達による盛大なジャンケン大会が始まったのだった―――――。




