呪いとか不穏すぎやしませんか?
あからさまにリアル王子っぽい人とお姫様っぽい人がきたーーー。
フォレスの仕事を見ている時に、アルベルトさん達がいるの見えて声を掛けられたのに気がついたからベリアル達の仕事がキリの良い所でやって来てみたけど、なんかアルベルトさん達以外に見知らぬ方がいて奇声を上げる所だった。
金髪碧眼の美青年で、所作も服装も高級そうって明らかに王子様じゃないか。
しかも妹さんと弟さんらしき人もいるし、明らかに大臣とか偉い立場っぽい人もいるよね?
もう王子っぽい人見た瞬間、慌てて頭下げて挨拶したよ。
マリアとイグニからこっちの世界の挨拶を教わっていて本当に良かった。
私はベリアル達ほど飲み込みが良くないし、コッチの世界の言葉は私には物凄く発音しづらくて3単語しか言えないけど。3回に1回しかちゃんと発音出来ないけど。それでもないよりはマシだ。
ちゃんと言葉が通じているのかマリアの方を見たら、どうやら通じていたらしく、アルベルトさん達の後ろでマリアが小さくマルを作ってウンウンと頷いていた。
どうやらちゃんと言えていたようだ。
金髪碧眼のテンプレ王子の青年はテオドール・フォン・ケネーシアという名前らしい。姓がケネーシアって絶対に王子様じゃないか。しかも多分皇太子かなんかでしょ。知ってる、こういう展開ラノベで見てた。
そうなると、フードを被っている女の子と顔色の悪い少年は妹と弟…姫様と王子様だ。
何故このダンジョンに王族が来てるの?確か財宝の<鑑定>に来てくれるのはアルベルトさん達だけだったはずだよね?
それなのになんでこんな魔物だらけのダンジョンに来ちゃうのかな~?
「*********、アイネス*******************…。」
「******、*************************。」
「*****…。*******************。」
「***、*************イグニレウス*マリア*******…。」
「アイネス***、ワタシ、ト、イグニレウス**、ツウヤク、スル。」
「ありがとう…。助かります…。」
どうやら、王子様達との会話の通訳はイグニとマリアが行ってくれるようだ。
イグニは元の世界の遊びの為に日本語が上手いし、マリアは地球の漫画やテレビにハマってまだ来て間もないのにイグニと並ぶだけの言語力がある。
二人がいる分、意思疎通がかなり簡単になるのだ。
「*****、アイネス*********************…。」
「**…。**、**エルミーヌ***マルク****アイネス**********。」
「テオドール、アイネス、ニ、ソウダン。イモウト、エルミーヌ、ト、マルク、ノ、コト。アドバイス、ホシイ、ダッテ」
「王子さんが私に相談…。妹さんと弟さんについてアドバイス…?」
「***********************。************?」
「ヤクソク、ザイホウ、シラベル、アト、ソウダン、キイテ、モラウ、カマワナイ?」
「約束の鑑定の後に相談したい、ですか…。」
なるほど、どうやら何かお悩み事があるようだ。
元々の約束を後にして先に相談しても構わないかと言わない感じ、テオドールさんの人の良さを感じられる。
鑑定してもらいたいお宝はかなりの数なので、話がすぐ終わるなら先に問題事の方を解決させておきたい。
ここは、彼の相談とやらを先に聞いてあげよう。
「お宝の鑑定は時間が掛かるでしょうし、話くらいならその前に聞きますよ。って伝えてくれる?」
「ワカッタ。」
イグニに先に相談の方を聞く事を伝えてもらうよう頼むと、イグニはすぐにテオドール達に伝えてくれる。
その時、テオドールの後ろにいるフードの女性が大きなくしゃみをした。
「クシュンッ、クシュンッ!」
「***、***?」
「あー…。もしかしたら肌寒いのかもしれませんね。ここは魔物たちも多いですし、別室に移動しましょうか?そこだったら皆さんも落ち着いて話が出来るでしょう?」
「アイネス*、***************。****?」
「*********…。」
「ハイ、ダッテ」
「うん、じゃあ行こうか。フォレスとシルキーは、紅茶のお代わりとスイーツお願いしていい?」
「ハイ。」
私は先程からインテリな男性がちらちらと周囲を伺っているのを見て、私は場所の移動をイグニの通訳を介して提案すると、テオドールさんも了承してきた。
デリックさんとシャロディさんは食堂で待ってもらい、私とゴブ郎とベリアルとマリアとイグニ、それにテオドールさんとインテリ男性と少年とフードの女性は大人数が入る会議室に移動し、私はテオドールさん達を席に座らせた。
「それで、相談というのは一体どんな内容でしょうか?」
「*************。」
「***********************。**、エルミーヌ*マルク************************。」
「エルミーヌ、ト、マルク、ニ、カカッタ、ノロイ、トク、ホウホー、アドバイス、ホシイ」
「突然呪いとか物騒すぎません?」
突然の不穏ワードにツッコミを入れてしまうものの、話を聞いてみた。
まず、テオドールはケネーシア王国の国王、アルフォンス国王とケネーシア王国の正妃、カタリーナ王妃から生まれた息子なのだそうだが、マルクくんとエルミーヌさんはアルフォンス国王と側妃との間で生まれた腹違いの息子なのらしい。
王宮内では王位継承争いのために派閥が出来ているものの、テオドール達自身の仲はそこまで悪くないらしい。
むしろ、一緒に散歩とかをするほど仲が良いのだそうだ。
だけどここ数年程前…王宮内で『呪い』というワードが飛び交うようになったのだという。
切っ掛けは、十年程前、エルミーヌさんが幼い頃に身体の異常を訴えるようになった事らしい。
身体の異常というのは色々あって、例えば風邪でもないのにくしゃみが止まらなくなったり、突然涙を流して号泣を始めたり、さらに酷い時は苦しんで呼吸困難に陥った事もあるそうだ。
医師達が見ても病気を患っている訳でもなく、高レベルの治癒師に治療魔法を掛けてもらっても止まらなかった。
肌が荒れ始め、顔から色々な体液を流して苦しむエルミーヌさんの姿を見た王宮の大臣達は次第に「姫は呪いに掛かったのではないか?」と噂するようになった。
エルミーヌさんのお母さんに当たる側妃はなんとかエルミーヌさんを救うために、毎日神に祈りを捧げ、様々な方法を試したのだそう。
そのかいがあってかは知らないけれど、エルミーヌさんの身体の異常はある日を境に次第に収まり、数年は前のような状態に戻ったらしい。
けれど、王宮内では王族に掛けられた呪いとして密かに語られていたそうだ。
そして今から2年程前、アルフォンス国王が王位継承者について考え始めた頃に、この噂が再燃するようになった。
それは、テオドールの弟にして王位第二継承候補者であるマルクくんも呪いに掛かったからだった。
何もない場所で突然咳が止まらなくなったり、胸の痛みを訴えたり、上手く呼吸をする事が出来ないなど、エルミーヌさんと症状は違えど似たような身体の異常が出たらしい。
数年前と違ったのは、マルクくんに続いてエルミーヌさんも再び身体の異常を訴えだした事で噂が更に悪い方向に盛り上がってしまった事だった。
実際にエルミーヌさんにフードを取ってもらったら、可哀想な事になっていた。
元々はテオドールさんと同じく綺麗な金髪碧眼の美少女だったろうに、顔の肌は赤く腫れ、頬にはニキビや赤いぶつぶつが出ていて、目の周りや首は引っ掻き跡が残っていた。
青かったであろうその瞳は充血していて、見るからに酷そうだ。
アルフォンス国王やエルミーヌさんのお母さん達、それにテオドールさんも二人の呪いを解くために奮闘したようだけど呪いが良くなる事はなく、むしろ悪化していったらしい。
つい先日もエルミーヌさんが誰もいない部屋の中で呼吸困難になり、危うく死にかけたそうだ。
王族の血を引く子供が二人も呪いに掛かる。そうなると王宮内に務める者達は次第にテオドールさんを疑うようになる。
王位第一継承候補者とはいえ万が一のことがあれば腹違いの弟や妹の旦那に国王の座を奪われるやもしれない。
そんな危険をなくすため、他の候補者達に呪いを掛けたのではないかといった、実に根も葉もない出鱈目な推測だ。
テオドールさんはそんな噂が流れていて、自分にその疑いが掛かっている事も気に食わなかったけれど、何より嫌だったのは腹違いとはいえ、可愛い妹と弟達が苦しんでいる姿を黙ってみている事実。
なんとしてでも、二人を救いたかったのだそうだ。
そんな時、私のダンジョンの評判が広まり始めた。
妹たちの呪いを解く方法を探すために図書館に通い詰めていたテオドールさんだったけれど、アルベルトさんからの報告で私のダンジョンに興味を示すようになった。
特にテオドールさんが気になったのは、飲めば疲れが吹き飛ぶポーションの存在。
この世界には治癒のポーションもあるにはあるらしいのだけど、それで治せるのは身体的な負傷のみで、体力や病気を回復する事はない。
だけど私のダンジョンにあるポーションは負傷ではなく、体力や疲労を回復させる効果がある。
そんな高位なポーションを冒険者たちの疲労回復アイテムとして大量に置いているダンジョンの主であれば、もしかすると二人の呪いに関してもなにか分かるのではないかと思ったそうだ。
そこで丁度、アルベルトさん達が私のダンジョンへ約束を果たすために再び向かう事を聞いたテオドールさんは、自分と妹たちもダンジョンへの同行の許可を自分の父親であるアルフォンス国王に頼み込んだらしい。
幸いテオドールさんは高スキルレベルの<鑑定>スキル持ちで、幼い頃からの英才教育で物価については詳しかったため、アルフォンス国王はテオドールさん達の同行を許可したらしい。
インテリ男性こと、リドルフォさんはそんな三人のお目付け役だそうだ。
話を全て聞いてみたは良いけれど、私が知らないような王宮の闇がこうゴロゴロと…。
当然ながら私の元々いた世界には魔法もなければ呪いもない。
…いや、確かに知ってはいるけど、実際に実在してはいるわけではない。
そんな存在が曖昧な呪いを解く方法なんて、分かるはずがないのだ。
私はダンジョンマスターであって、呪術の専門家ではないのだ。
やっぱり呪いという事であれば、悪魔と夢魔であるベリアルとマリアに尋ねてみるべきだろうか?
そこで私は、横で話を聞いていたベリアル達にエルミーヌさんとマルクさんの呪いについて何か知らないか尋ねてみた。
すると、二人は申し訳ないような表情で答えた。
「イイエ、シル、ナイ」
「マリア、モ、シル、ナイ」
「え、知らない?」
「タシカニ、ニタ、ノロイ、ハ、アル。デモ、フタリ、ノ、モツ、ヨウナ、ノロイ、ハ、ナイ。」
「え、それっておかしくないですか?」
呪いというのは、確実に闇魔法系に入る単語だ。
闇魔法のエキスパートである悪魔や夢魔が知らないというのは少しおかしい。
しかもベリアルは<魔術の叡智>というスキルを持っている。
全ての魔術を知っている訳ではないだろうけど、少なくとも闇魔法に関してなら大体分かるはずだ。
そんなベリアルが知らないという呪いが、実在するのだろうか?
有り得る話とすればエルミーヌさん達が掛かっている呪いは数年前に突如生み出された新しい呪いか……異世界から伝授された呪いか。
確かに私のいた世界には魔法や呪いは実在していなかったけど、他の世界も魔法や呪いが実在していなかったという事になるわけではない。
そうなると本格的に私が分かるような話ではない。
くしゃみに呼吸困難に胸の痛みに咳…。
呪いの症状がありすぎて全く検討がつかない。
大体一つの呪いにそんな幾つも効果があるなんて明らかにヤバすぎる。
私のダンジョンにいるベリアル達最強陣も、攻撃魔法特化、身体能力特化、サポート特化、魅力特化と一つのジャンルにしかチートじゃない。
いや、それでも大まかに見たらうちのダンジョンは十分驚異的なんだけどさぁ…。
「ん?待てよ…?」
「********?」
「ナニカ、ワカル?」
「いや、まだですけど…。もしかして、エルミーヌさんとマルクくんの呪いは全く別物なんじゃないんですかね…?」
「ベツ?」
そう、全部の症状が一つの呪いだと思うから駄目なのだ。
現在呪いに苦しんでいる人間は二人。だったら呪いの数も一人一つずつだったとしてもおかしくはないのだ。
そう考えればマルクくんの身体の異常はエルミーヌさんの身体の異常とは一切関係がない事になる。
大体、呪いに5個も10個も効果を付けるのなんてかなりの高等テクニックだ。
当然手間や時間も掛かるし、そんな呪いを掛けるぐらいだったら即死系の呪いを掛けてしまえば話が早い。
もしも本当に1人につき一つの呪いなのであれば、各個撃破のスタイルで一人ひとりの呪いの正体を突き止めればいい。
まずは、エルミーヌさんの呪いから解き明かしてみよう。
「ベリアルさん、くしゃみと目の異常と肌荒れと呼吸困難が起きる呪いで何か思いつきませんか?」
「…イエ、シル、ナイ。カゼ、オコス、ノロイ、ハ、アル。デモ、コキュウ、コンナンマデハ…。」
「マジですか……。じゃあ、呼吸困難も全く別な原因によるものなんですかね…?」
「ソレ、ダッタラ……。デモ、ソノ、ノロイ、チユ、ツカッタラ、ナオル。」
「そうですか…。」
ひとまず呼吸困難は別な事が原因なのだと考えたとしても、風邪が掛かる呪いは治癒魔法で治す事が出来るそうだ。
治癒魔法で治せない呪い……、くしゃみに肌荒れに目の異常……。
なんかどっかで聞いた事があるような気がするような……。
「***、*************。」
「***アップルパイ*フレーバーティー*ジュース************。」
「アップルパイ!」
「*****************。」
何かを思いつきそうになったところで、フォレスとシシリーがお茶とお菓子を持ってやって来た。
どうやら、女性や子供がいるという事で彼女たちが好みそうなアップルパイとフレーバーティーを用意してくれたらしい。
フォレスとシシリーが皆にお茶を配っていく。
エルミーヌさんの前にフォレスがお茶を置こうとしたその時、エルミーヌさんがまたくしゃみを始めたのだ。
「クシュンッ!クシュンッ!****…クシュンッ!」
「******?」
「********…。*********。」
「********…クシュンッ!」
「****、**************。************。」
「**…。」
何回もくしゃみをして、辛そうに目の縁を擦るエルミーヌさん。
テオドールさんは目を擦るエルミーヌさんの手を止め、お茶を手渡した。
私はそんなエルミーヌさんの姿と、横で心配そうにエルミーヌさんを見ているフォレスの姿を見て、何かが繋がったような気がした。
私は思わず椅子から立ち上がり、エルミーヌさんに向かって大きな声を上げた。
「それを飲んでは駄目です!!!!!」
私の突然の大声に、テオドールさん達もベリアル達も一斉に動作を止め、私の方を見る。
突然慣れない大声を出してしまったせいか思わず噎せてしまったけれど、私はテオドールさんとエルミーヌさんに話しかける。
「テオドールさん、エルミーヌさん、私の質問に心当たりがあったら頷いて、なかったら首を横に振ってください。」
「あ、アイネス***?」
「イグニさん、通訳。」
「ハ、ハイ。テオドール*エルミーヌ***、***アイネス**************。************、**********。」
「******。」
イグニは戸惑いつつも、テオドールさんとエルミーヌさんに私の言った言葉を通訳していく。
テオドールさんとエルミーヌさんが頷いたのを見て、私はマリアを通して質問をしていく。
「十年前、エルミーヌさんの呪いが突如始まったのは季節が春か初夏になった頃ですか?」
テオドールさんが頷く。肯定。
「その時王宮の庭や周辺には、沢山の花が咲いていましたか?」
今度はエルミーヌさんが頷く。肯定。
「呪いの症状が出た時の殆どは、近くに花か植物がありませんでした?」
エルミーヌさんが驚いた様子で頷く。肯定。
「エルミーヌさんの呪いの症状が出なくなったのは、エルミーヌさんのお母さんが部屋の家具も花も全て取り替えた頃ですか?」
エルミーヌがさらに驚きながらも頷く。肯定。
「エルミーヌさんの呪いの症状、もしかして他にもあったりしませんか?例えば、鼻水や喉の乾きとか。」
エルミーヌが顔を赤らめつつも頷く。肯定。
「次が最後の質問です。エルミーヌさんが呼吸困難に陥ったのは全て、何か食べ物や飲み物を口に入れてすぐか、その1、2時間経った後だったりしませんか?さらにそうなった時、顔が赤く腫れ上がったり、肌にブツブツとした物が出てきたりしましたか?」
エルミーヌは顔を青ざめ、激しく頷いた。…これも肯定。
…ようやく、呪いの正体が分かった気がする。
「アイネス*、*****************?」
「アイネス***、ノロイ、ナニカ、ワカッタ?」
「ええもう、分かりましたよ…。まさか、この世界でもこれを患う人がいたなんて…。」
「ワズラウ?ソレ、カゼ?」
「正確には風邪じゃないですけど…、まあ、病気の一種ではありますね。感染病の類ではないのでご安心ください。」
「****…?」
「**?**********、*****************?」
「ビョウキ、ナラ、ナニ、ナノカ、オシエテ、ホシイ、ダッテ。」
此方に詰め寄ろうとするテオドールさんに質問され、私はため息まじりにその病名を告げた。
まさか、元の世界では良くある病気が呪い扱いされていたとは…。
「エルミーヌさんの呪いの正体…もとい、掛かっている病気の名前は、『アレルギー』。良くある花粉症ですよ…。」




