二面性ある人って何処にでもいるよね~
「アイネス**!マリア***********!」
「突然トラブルのご相談ですか?」
新しい魔物達の増員と新人研修を終えて1週間が経過した。
新入り全員の担当振り分けも済んで、新ルートの工事も滞りなく進んでいる。
チートキャラであり問題を起こす可能性が高かったフォレスとマリアは元からいたベリアル達と衝突することがなく、平和にダンジョン経営生活を過ごしていた。
そんな中、ベリアルとゴブ郎と廊下で会話をしていたら突然アラクネ三姉妹のアーシラ姐さんとラク姐さんとネア姐さん、そしてシルキーズのシシリーとルーシーに声を掛けられたのだ。
マリアを除いた女子組の襲来に目を丸くする私とベリアルとゴブ郎。
先程マリアの名前を呼んでいたけれど、もしかしてマリア絡みの問題だろうか。
「どうしたんです?もしかして、問題が起きましたか?」
「ハイ、アイネス**。チョット、ハナシ、シタイ。」
「コッチ、キテ。」
私が尋ねれば女子勢は全員頷き、女子勢の中でも料理研究のために私の言語が達者なシシリーとルーシーが片言の日本語で話ながら、何処かへと連れて行こうとする。
そんな私を見たベリアルは会話の途中だった私が連れて行かれるのを止めようとしたのか、片眉を上げて苦笑いを浮かべながら女子勢に話しかけた。
「**、**アイネス*********…」
「ベリアル*******アイネス***********!」
「************!**ベリアル***********!」
「**…!?」
「あのベリアルさんが女子勢に負けた!?」
何かを言おうとしたベリアルに対し、女子勢全員がベリアルに詰め寄って自分達より格上の存在であるベリアルに怒鳴った。
あまりの気迫と、自分より力が弱い魔物達に反抗されたのがよほど衝撃だったのか、ベリアルはギョッとした様子で言葉を失った。
その隙にシシリーとルーシーは私をアーシラ姐さんの蜘蛛の胴体部分に乗せ、女子勢はさっさとベリアルとゴブ郎から離れた。
私が連れてこられた先は召喚以外には誰も入る事がない召喚部屋だった。
シシリー達は座布団を敷くとそこに私を座らせ、全員が向かい合うような形でその場に座った。
何処から取り出したのか分からない紅茶をルーシーから受け取り、なにか怒り心頭状態の女子勢に話しかけた。
「えっと、それで、何があったんです?マリアさんの件みたいですが…」
「ハイ!マリア、トラブル!」
「キイテ、アイネス**!マリア、ヒドイ!」
「あー、そんな色んな方向で叫ばれても何言ってるのか分からないので、落ち着いてイラスト対話で説明してください」
いつもは穏やかでのんびりとしたネア姐さんまで酷い発言は、よほど重大な問題なのだろう。
流石の私もコミュ障云々なんて言えない。彼女たちの相談事に耳を傾ける事にした。
シシリーとルーシーに所々を日本語で説明してもらい、たまに<オペレーター>からの追加説明を貰って、イラスト対話で話を聞いた私は漸く彼女達の相談内容を理解し、そして思わず天を仰いだ。
簡単に一言で纏めてしまうのであれば、「マリアが真面目に仕事をしない上に、他の女子魔物達を見下してくる」というものだった。
私は一応ダンジョンマスターという事でそういった面は見せなかったようで知らなかったのだけれど、マリアはかなりの二面性の持ち主なのだという。
私や男性魔物達には猫を被り、男性だったら喜びそうな可愛い良い子ちゃんを演じているけれど、アラクネ三姉妹とシルキーズの女子勢とスライム達にはかなり見下した態度を取って彼女達にマウントを取るらしいのだ。
私が分かった中で聞いた話だと、他の女子より少しがさつなアーシラ姐さんに「そんな性格じゃ男子にモテませんよ~?」って言ったり、皆がダンジョンの仕事をしている中スライムと掃除をしていたシルキーズに「下級魔物は家事しか取り柄がないんですね~」と言ったり…。
よくもまあこの一週間で私と男性魔物達の目を盗んでやったなという酷い言動っぷりだった。
しかも、マリアは上手くワイト達やスケルトン達に取り入って自分の仕事を他の魔物達に頼んでいるというのだ。
別に頼むこと自体は良いけれど、その頻度がほぼ毎日なのだという。
文句を言おうにもマリアは女性魔物の中で最強の魔物だから、下手に逆らおうものなら反撃されてしまう可能性がある。
他の男性魔物達はマリアの本性を知らないし、マリアに魅了される可能性があるために役に立たない。
そこで、同性でありながらマリアの上司に当たる存在の私に相談を持ち込んだのだという。
なんとも実際に元の世界の会社でありそうな相談内容だった。
知らなかったとはいえ、マリアをここまで自由にさせていた私も悪い。
素直に頭を下げて謝罪を述べれば女性勢は慌てた様子で頭を上げさせて、「アイネス、ワルイ、ナイ」とフォローしてくれた。
仕事を他の魔物に押し付けることに関してはマリアに直接注意するとして、マウントの方もなんとかしなければならない。
「<オペレーター>さん、これもやっぱりイグニさんとベリアルさん達の時のように勝負をさせた方がいい感じですかね?」
『回答。当オペレーターもその方法が最善であると推奨します。しかし、SR級魔物であるリリスと、レア級以下の魔物達が純粋な力勝負で勝利する可能性は低いでしょう。』
「それじゃあ、スポーツ系の勝負は駄目ですね。あれは互角レベルじゃないと能力値の高さに勝敗が左右されますし。……ゴブ郎はベリアルさん達に勝利したけどあれはベリアルさん達の仲の悪さが大きな敗因だった奇跡的な勝利ですし。」
なぞなぞやクイズで頭脳勝負をするのもいいが、勝負用の問題を用意するのが難しい。
オセロやチェスは、余程事前に練習していない限り必ず勝つとも言い難い。
能力値やスキルに左右されることなく、マリア相手にも戦える勝負内容…。
そこで私はふと、アラクネ三姉妹とシルキーズを見た。
マリアの被害にあっているのはアラクネ三姉妹とシルキーズとスライム達か…
なら、あの内容で勝負させるのはどうだろうか?
「よし。此処は一つ、女の子らしい勝負にしてみましょうか。」
「*?」
勝負をするのは三日後、それまでにマリアやベリアル達にも連絡をしなければいけない。
本来はこういったトラブルや問題ごとは関わりたくないけれど、今回に関しては楽しみだ。
結果がどうなるのか待ちきれない。
***** *****
「はい、これより『第一回、理想的なお嫁さんは誰だ。女の魅力対決』を開催しまーす。」
イグニ達と同様ダンジョンの運営は一日スケルトントリオ達に任せ、ベリアルとイグニとフォレス、ゴブ郎とトン吉、そしてマリアと女子勢とスライム達は居住スペースの食堂に集まっていた。
私が女性魔物たちの勝負のために考えた内容、それはずばり、お嫁さん力だ。
女性魔物達には今回、ルックス、料理、掃除、裁縫、仕事力の5つのジャンルで対決をしてもらう。
審査員達にはそれぞれのジャンルで、誰が一番優秀だったかを判定してもらうのだ。
そして最後に、審査員達が一番魅力的だと思う魔物を1人選んでもらうのだ。
勝負内容が個人戦形式なので女性勢で協力するのは難しいけれど、ステータスの差に関係のない能力の差が見えるので勝敗はかなり分かりやすい。
因みにこの勝負の内容はビデオカメラで撮影、そのまま他の魔物達にも見られるように中継されている。
容姿にうつつを抜かした男性魔物達に現実を見せるのだ。
この対決に参加するのは今回の当事者であるマリア、被害者であるアーシラ姐さんとラク姐さんとネア姐さん、シシリーとルーシーに、スライム達の代表であるスラっちだ。
審査員はマリアの魅了魔法に掛かることがないベリアルとイグニとフォレス、それにノーマル級魔物枠として選ばれたトン吉とゴブ郎である。
トン吉は魔物たちの中ではかなり常識人枠に入るし、ゴブ郎はかなり素直な性格なので正直な感想を貰えると思ったからね。
今回はイグニ達とは違い、事前に勝負内容も対決するジャンルも三日前に参加する女性魔物達に伝えた。
公平に勝負を行うために、勝負中に料理してもらうレシピも裁縫で作る物もマリアもアラクネ三姉妹達も初めて作る物だ。
実際にそのレシピで料理する姿を見せたのも三日前の一度だけだし、裁縫で作る物の手順をイラストで描かれたノートも全て同じ物を皆に配った。
更に言えば今回女性魔物達に作ってもらう料理はオムライス(審査員枠にベジタリアンのフォレスがいるので勿論肉なし)で、裁縫で作ってもらう物はぬいぐるみ。
この三日間でしっかりと練習すれば上手く作れるけれど、練習しなければ失敗しやすい物だ。
審査員である男性陣には参加者達に練習期間として3日を与えた事も事前に伝えてある。
彼らは技術だけでなく、参加者たちの向上心も見る事が出来るのだ。
アラクネ三姉妹とシルキーズとスラっちはこの三日間、キッチンや自室で裁縫や料理の練習をしている姿を事前に設置した隠しカメラで確認しているが、マリアは一度も練習していた姿は映っていなかった。
参加者達が並んでいる中でマリアは何処か自信満々そうに笑っている。
天才的なセンスを持っているから練習せずとも出来る…と言ってしまえば話は終わりだろうけれど、果たしてどうなるのやら……。
最初に対決するジャンルは料理だ。
オムライスは卵でライスを包むのにかなりのコツがいる。
ちょっとでも焼き加減や包み方を間違えれば上手く包めずに見た目が崩れてしまう。
私も綺麗なオムライスを作れるようになるまでに何度もそこで失敗した。
余程練習しないと綺麗なオムライスを作るのは難しい。
なので普段から皆の料理を作り慣れているシルキーズが有利だと思っていたのだけど、この後予想外の事が起きた。
別にシルキーズがひどい失敗をしている訳ではない。
むしろ、三日間で仕上げてきたとは思えないくらい出来が良い。
料理のアレンジが得意なルーシーは此方がそのレシピを伝えてないにも関わらず独学で思いついたのか、ふわとろのたんぽぽオムライスを作ってきた。
包丁で卵を切れば半熟の卵がケチャップライスを包み込み、どこも崩れてない完璧なオムライスになった。
こういったアレンジが好きなイグニは、それはもう興味津々といった感じでルーシーのオムレツがケチャップライスを包み込む様を見て楽しんでいた。
対して、飾り切りや盛り付けが得意なシシリーが作ったオムライスは、デフォルメ化したコボルトが卵でできたシーツで眠っているような、可愛らしいオムライスだった。
コボルト風ケチャップライスの周りには花の形に飾り切りされた野菜達が盛り付けられており、まるで花畑の中で眠っているようだ。
多分、三日間で綺麗にオムライスを包む事は難しいと判断したシシリーが自分なりに考えた工夫なのだろう。
ケチャップライスが卵で全て包まれてはいないけれど、これはこれで見た目が愛らしい。食べるのが勿体ないくらいだ。
その見た目の愛らしさに、フォレスが気に入っていた。
アラクネ三姉妹とスラっちは多少卵が破けてたりちょっと焼きすぎな部分もあったりするものの、そこまで見た目は悪くない。
ゴブ郎にちょっと試食として分けて貰ったけれど、どのオムライスも美味しかった。
私的にはルーシーが作ったふわとろのオムライスが一番の好みだった。
最後に出されたのはマリアのオムライスだったのだけれど、そのオムライスは完璧と言っていいくらいの出来だった。
卵はどこも破れてなくてケチャップライスを完全に包み込んでおり、上に掛けられたチーズとデミグラスソースはオシャレに掛けられている。
まるで、プロの作り上げたオムライスをそのまま取り出したような代物。
今まで練習していないにも関わらず、このクオリティは素晴らしい。
審査員のイグニやトン吉やゴブ郎もその美しさに感動している。
「***!******!」
マリアはかなり自分の作品に自信があるらしく、胸を張って誇らしげだ。
うん、確かに素晴らしい。素晴らしすぎるくらいだ。
料理がそこそこ得意と自負している私でも、このクオリティのオムライスを作る事はまだ難しいだろう。
そう、マリアのオムライスは素晴らしすぎた。
どうやらベリアルとフォレスは既に何かを察しているようで、かなり苦笑を浮かべている。
私は自信満々のマリアに近づき、その肩をそっと叩いて、出来るだけ優しく言ってあげた。
「マリアさん……、ズル、しているでしょう?」
「!?」
私の言葉を理解したマリアがその自信満々だった表情を崩し、途端に慌てふためき始めた。
ベリアルとフォレス以外は何のことか分からないようで、首を傾げている。
「多分、幻惑魔法でも使ってるのかな?三日前に見せた参考資料についてた写真のオムライスをそのまま映してますよね、これ。」
「*、*******…****、****アイネス**!」
言っている事は何かわからないが、「な、何故分かったの!?」的な事を言っているのだろう。
しかし、流石に魔法の使えない私でもこれは簡単に見破れてしまった。
そう、確かにマリアの提出したオムライスはそれはもう素晴らしい見た目だった。
しかし、素晴らしすぎたのだ。
なにせマリアのオムライスは、三日前に私が参考資料として提出したプロの作ったオムライスの写真と丸々そっくりなのである。
初心者なりにプロの作った料理に似たように作る事は出来ても、写真のオムライスと寸分違わず作る事なんて、初心者には出来ない。
決定的だったのは、マリアのオムライスにデミグラスソースが掛けられている事だ。
実はベジタリアンのフォレスの事を考えて、今回勝負に使う用に用意した食材の中にはデミグラスソースの材料となる肉汁を作るための肉やとんかつソース類は一切用意していないのだ。
材料が足りないにも関わらず、デミグラスソースを作ってオムライスに掛ける事なんて出来ない。
万が一作れたとしても材料として肉汁が使われているソースの掛かったオムライスを、ベジタリアンのフォレスもいる審査員達に提出なんてするわけがないのだ。
実際、魔法に長けたベリアルやフォレスにはマリアのオムライスに掛かっている幻惑魔法はお見通しだったようで、すぐに見破ってしまっていた。
得意の幻惑魔法を見破られたからか、マリアは動揺しまくって汗を掻きながら目が泳いでしまっている。
「ベリアルさん、幻惑魔法の解除お願いします」
「マリア***********、******。」
「***…、***、********!」
ベリアルに頼んでみたらすぐに此方の頼みを理解したようで、何か呪文を唱え始めた。
慌てて止めようとするマリアの制止も間に合わず、オムライスに掛けられたマリアの幻惑魔法は解除され、マリアのオムライスは真の姿を見せた。
マリア作のオムライスの正体は、なんというか悲惨な物だった。
卵は焼きすぎて殆ど焦げてしまっているし、包む途中で破れてしまったようで卵はグチャグチャに破れている。
中のライスも油を掛けすぎたのかかなりオイリーだし、使った白米は炊く時に水を入れすぎたせいかほぼお粥状態。ご飯に絡められた玉ねぎは繋がっていたり大きすぎたりと、上手く切れたとは言えない状態だ。
誰もマリアのオムライスに手を付けないので、私がベリアル達の制止を振り切ってゴブ郎に用意されたマリアのオムライスを試食すれば、味も中々酷い物だった。
玉ねぎは生焼けだしご飯は多すぎる水分と油の入れすぎでベチョベチョとした食感だし、真っ黒に焦げたオムレツは胡椒と塩を掛けすぎたのか、かなり塩辛い。
とても上手だとは褒められないクオリティだった。
恐らく、マリアはオムライスの練習はおろか、禄にレシピも読んでいなかったのだろう。料理初心者が作った初めての料理としては当然のように感じた。
「マリア**…**、***********?」
「***…***…、******、*********…」
「アイネス**、ソレ、カラダ、ワルイ。*********。」
「**********!……**。」
プロ級のオムライスからこの落胆ぶりは流石の審査員達も予想外だったようで、かなりドン引きしながらマリアの方をみていた。
他の参加者達も、ルール違反をしたマリアにかなり冷たい視線を送っていた。
マリアは自慢の幻惑魔法を見破られ、自分のオムライスの本当の姿を見られてしまったからか、恥辱のあまりに顔を赤くして身体を震わせて色々弁解をしようとしている様子だ。
ベリアルは、マリア作のオムライスを食べ続けるのは身体に悪いと認定したようで、私に食べるのを止めさせようとする。
オムライスを半分ほど食べ切った後で私はスプーンを置いて食べるのを止め、審査員5人に水を差し出した後、言った。
「全部、食べてくださいね。」
「*?」
「出された物は、何が何でも全部食べてくださいね。」
「イヤ、デモ…。」
「いいから全部食べなさい。残すのは駄目ですからね。」
「ア、ハイ。」
「マリアさん、勿論あなたもこのオムライスを食べてくださいね。食べられると思って自分で作った物ですので。良いですね?」
「ハ、ハイ…。」
どれだけ料理が不味かろうが、見た目が悪かろうが、わざわざ作ってくれた料理を食べずに捨てるなんて料理を作る者として絶対に許さない。
食べたら即死する訳でもないのだ。審査員達には他の女性魔物達の美味しいオムライスを食べたのだから、美味しくないオムライスも完食する義務がある。
ろくに練習しなかったマリアにも、当然自分の作ったオムライスを食べてもらう。
この勝負内容を考えた私も半分は食したのだ。絶対に残させてたまるものか。
暫くして、見事全員がオムライスを完食し、顔色を青ざめて口を抑えている審査員達が審査した結果料理部門で最も優秀だと認定されたのは、独学のアレンジによってたんぽぽオムライスを作ったルーシーだった。
2位として選ばれたのはコボルトオムライスを作ったシシリー。しかし、自分のパートナーであるルーシーが最優秀に選ばれてとても喜んでいた。
お腹の具合が悪くなった一部の者のためにトイレ休憩を挟んだ後、勝負は再開される事となった。
本当、念の為胃薬を<ネットショッピング>で注文しておいて良かったと心から思った瞬間だった。




