君達、ゲーム一つに本気になりすぎでは?
突然だけど、私はゲームが好きだ。
ゲームは様々な種類に分類されて、どれもそれぞれの魅力がある。
テレビゲームにボードゲーム、一重にゲームと言っても色んな物が挙げられる。
「ゲームは良くない」って子供からゲームを取り上げる大人もいるけど、ゲームはテレビゲームだろうとボードゲームだろうとプレイヤーを深く思考させ、頭を使わせる。
更に言えば、世界でも熱狂的ファンが多いサッカーも野球もバスケも元をただせば遊び…つまりはゲームなのだ。テレビゲームは取り上げてサッカーは無理にでもさせようとするのは解せない。
あと、大人だってポーカーやパチンコやルーレットとか金を賭けるゲームとかやってる人はやってるじゃないか。大人は良くて子供は駄目って言うのは理不尽ではないだろうか?
というか一度正当な料金を払ってその後は無料でゲームするより毎度毎度多額の金賭けてゲームして金を稼いでる方が悪くない?実際後者のせいで破滅する人の方が圧倒的に多いだろうし。
熱く語ってしまったけど、そんな訳で私はゲームが好きだ。
特にテレビゲームやオンラインゲームが好きだけど、チェスやオセロといったボードゲームや、かくれんぼや鬼ごっこといった外で遊ぶゲームも好きだ。
中学ぐらいから私は引きこもり推奨派になってしまったので遊ばなくなったけど、小学生の頃はそういった鬼ごっこやサッカーという運動系もそこそこ出来る方だった……って誰?今「どうせ友達がいないから一緒に遊ぶ人が居なくなったんだろ?」って言った人。
一応そういう運動系の遊びの楽しさも知ってるから、ついつい熱中してしまうのは分かる。
分かるのだけれども、一つ言わせて欲しい事がある
「これは流石に熱中しすぎでしょ」
慣れてない人が浴びれば気絶するレベルの殺気を垂れ流し、ビュンビュン風音を鳴らしながらラケットを振りまくるベリアルとイグニを眺めながら、私は大きくため息をついた。
***** *****
ダンジョンの仕掛けの起動と冒険者達の監視をスケルトントリオに任せ、私、ゴブ郎、一部の魔物達、それにベリアルとイグニはダンジョンに新しく作った広い空間に集まった。
それは勿論、最強ツートップの喧嘩減少計画のためである。
<オペレーター>が提案してくれた事に則り、二人が出来そうなゲームを探してみた。
そしたら、意外と思いつかなくてかなり苦戦した。
まず、定番の鬼ごっこやかくれんぼはこのダンジョンにそれほどの空間を作れない。サッカーや野球などは説明が面倒だし二人以上でやるものだから無理。トランプは4人以上でやらないと楽しくないし、オセロやチェスは悪魔のベリアルに有利過ぎて、腕相撲は力の強いイグニに有利過ぎる。
スケルトントリオとゴブ郎と色々模索した結果、選ばれたゲームは、バドミントンだった。
バドミントンは純粋な力や知能ではなく、反射神経が主に必要になるゲームだ。道具を使わせることで危なそうな魔法を使わせないように制限し、事前にコートの破壊を禁じておけばダンジョンの中が穴だらけになんてなる心配もない。
ルール自体は相手コート内に羽を撃って自コートに落ちないようにするというシンプルなルールなので、言葉が通じなくても説明もしやすい。
コートを作る空間は<カスタム>で作り、ネットは私が<ネットショッピング>で購入したものをスケルトントリオに設置してもらった。器用なスケルトンが居てくれて本当に助かる。
イグニ達の件が終わってもバドミントンコートの空間は残しておこうと思っている。ラケットとシャトルさえ用意しておけば他の魔物達も遊べるし、ベリアル達がまた衝突した時にまたやらせる事が出来る。
そうして今日、今回の当事者でもあるベリアルとイグニを呼んで二人にバドミントンをやってもらうことになった。
審判は勿論私だ。審判も出来ることならしたくなかったけど、ルールを一番知ってるのは私しかいないからね。
二人にラケットを渡して、ルールをイラストで説明する。二人に付けたルールはこんな感じだ
・ シャトルをラケットで相手コートに打って、相手コート内に落とせたら1ポイント。
・ コート外に出たら相手に1ポイント入る。
・ サーブは対角線上に打つ。
・ ゲーム中はネットに触ってはいけない。触れたら相手に1ポイント。
・ 魔法やスキルの使用は禁止。使ったら即敗北
・ コートを破壊するのも禁止。破壊したら即敗北。
・ ラケット・シャトルの破壊も禁止。これは破壊してもペナルティなし。
・ 先に20点獲得したほうの勝ち。勝った方が今後は序列が上。
この8つだ。イラストにまとめるのに本当に苦労した。
更に、ゴブ郎と私で実際に打ち合ってる姿を見せて、二人にもラケットを振って力の加減を確認してもらった。
ラケット振ってもらった時点で既にブオンブオン本来なら鳴らないような音が出ていて、風圧で思わずよろめきかけた。
本来の魔物の戦い方とは違うけど、イグニもベリアルも納得してくれたようで文句は出なかった。
むしろイグニに関してはかなり楽しそうに試合前からワクワクしていた。
ゴツゴツムキムキで体格も大きいし、やっぱり運動系なんだろうなぁ。
そうして超絶物騒な二人によるバドミントン試合が始まったわけだけど、私の想像する以上に白熱した。
まず、前半はイグニがかなり優勢だった。
ドラゴンを獣と分類していいのか分からないけど、元々の運動神経と野生の勘でベリアルの打ったシャトルを全て跳ね返し、順調に点数を稼いでいた。
しかし、それはイグニが10点ほど稼いだ所で一旦ストップした。
イグニが盛り上がってきた所で、ベリアルがトリックショットやフェイントを使い始めたのだ。
どうやらベリアルは今の今までイグニの動きを観察しプレイスタイルを推察、同時にシャトルをどう打ったらどう返るのか調べていたようだ。
運動神経の高さとその腕力で点数を取るイグニに対し、緩やかでネット付近に落ちるショットやイグニが力の加減が難しい角度にスマッシュを決めるなど、ベリアルはテクニックで勝負を挑んだのである。
トリックショットやフェイントに翻弄されたイグニはネットに触れたり、コース外まで打ってしまったりと失点し続けたのだ。
頭が回り、飲み込みの早いベリアルらしい戦い方だ。
ベリアルがイグニと同じ10点に並ぶと、イグニはベリアルのプレイスタイルを把握したのか、その運動神経の高さを駆使してベリアルのフェイントやトリックショットに対抗してくるようになった。
更にベリアルの方もイグニの力強いスマッシュやショットに対抗しようと強いスマッシュを打つようになった。
パワースタイルのイグニにテクニックスタイルのベリアル。片方が点数を取れば、もう片方が点数を取り、どっちが勝ってもおかしくない状態だ。
そこまでだったら、まだ良いだろう。
しかしベリアルがフェイントとかを使い始めた頃から二人から殺気が溢れ始め、両者15点に到達した時点で二人の放つショットからやばめの風音が鳴り始めた。
そして今、両者19点のマッチポイントになってからはとうとう二人共自前の羽を出して上下左右を使う超次元バドミントンと化していた。
いや、確かに空を飛んではいけないっていうルールはないよ?
でも、マジで空を飛んでプレイを始めるか君達。
イグニが空を飛んで打ち返したのを見て止めようとはしたけど、ベリアルも空を飛んで応戦、そのまま空中地上を使ってのラリーが続いているため、止めるに止められなくなった。
もうこれ、二人共引き分けでいいんじゃないの?というか今すぐにでも逃げ出したいのだけど。
ラリーが続き始めるとただでさえ濃い殺気がさらにどす黒い物になり、途中様子を伺いに水を持ってやって来たルートンが二人の威圧にやられ気絶した。
私も正直二人の異常度に気絶しそうだが、今気絶でもしたらベリアル達を止める人が居なくなってしまうため必死に堪えている。
一方ゴブ郎はそんな中でも能天気に二人のラリーをぼんやりと見ている。
ゴブ郎の肝の座りっぷりに感心してしまう。もしかすると、威圧無効スキルでも持っているのではないだろうか?すごいなゴブ郎。
「にしても、これだけラリーが続いていると暇だな…」
元々スポーツ系ゲームは観戦側よりプレイ側を好んでいる。
ずっと空中にいるからネットに触れる事もないし、コート外から見ようにも空を飛んでるから判別が出来ない。
その前までに威圧、ヤバめな風圧、時々飛び交うよく分からない言語の数々と色々精神的に悪い物を浴びせられてたので集中力が切れてきた。
どうにか休憩を取りたいんだけど、今の二人に声を掛ける事も難しい。
「どうしようかな…」
「ぎゃうぎゃ~」
「ん?どうしたのゴブ郎くん」
そんな現実逃避をしていると、隣にいたゴブ郎が服の裾を引っ張って来た。
どうやらゴブ郎も見ているのが飽きてしまったのか、またはベリアル達がやっているのを楽しそうだと思ったのか、「自分もやりたい!」と空中でラリーをする二人を指差したのだ。
ラケットとシャトルなら用意できるけど、ゴブ郎くん一人ではバドミントンは出来ない。水を持ってきてくれようとしていたルートンはまだ気絶中だ。
そうなると、私が相手をするしかない。丁度今目の前で起きている光景から目を逸らしたかったし、ちょっと遊んだ程度じゃあ二人のラリーが終わらないだろう。
ちょっとだけ遊んであげる事にした。
「じゃあ、ちょっとだけね」
「ぎゃうー!」
「ルールは分かる?…って聞いても分からないか。まあ、一回やってみよう」
新しいラケットを渡し、予備のシャトルを使って優しくゴブ郎に向かってサーブを打てば、ゴブ郎は必死にそれを追いかけて楽しそうに打ち返す。
覚束ない動きではあるけど横のツートップ達が起こすようなヤバい風圧音も出てないし、打たれたシャトルも人間レベル。
殺気も威圧も漏れる事なく、楽しげな雰囲気でラリーが続く。
これだよ、これ。私の知ってるバドミントンはこんな感じだよ。
別にゲーム中に殺気を出すなとも威圧を出すなとも言うつもりはないけれど、非常に心臓に悪いし、動きを目に追えない。
オリンピックの試合でもあんな殺伐としたものじゃない。
何回かゴブ郎と私でラリーを続けていると、空中でパァンっという破裂音が聞こえた。
不意に上を見てみると、かなり申し訳無さそうな顔を浮かべたベリアルとイグニが空中から帰ってきて此方にやって来た。
何があったのかと驚いていると、彼らがいたコートの上に、小さな白い破片と数枚のくたびれた羽が落ちていたのが見えた。
そこで、ようやく何があったのかを察した。
「あ、シャトル壊したのね」
「****、アイネス…」
「********、アイネス**…」
どうやら、彼らの激しいラリーに耐えきれなくなったシャトルが空中でご臨終してしまったようだ。
確かに二人は人外級のパワーを持っているのだから人用に作られたシャトルがご臨終してもしょうがないだろう。
丁度二人が降りてきたのだから中止にすべきだろうか?いや、19-19までになったのだったら、最後まで勝負をつけさせてあげたい。でも、そうなると私の精神的ストレスがマックスになりそうなんだよなぁ…。
二人のゲームを続けさせるか止めさせるべきか考えていると、ふとラケットを持ったゴブ郎が視界に入った。
そこで、ある妙案を思いついた。
「よし、ラストゲームだ」
「アイネス**?」
「アイネス?」
つい先程まで私とゴブ郎が使っていたシャトルを手渡し、ついでにベリアルとイグニの持ってるラケットも交換し、配置につかせた。
ラケットは途中で壊れる可能性を考えて交換させたのだけど、案の定二人のラケットはもうボロボロだった。
新品のラケットとシャトルを使い、ラストゲームを開始させる。
ただし、対戦するのはベリアル対イグニではなく、ベリアル&イグニ対ゴブ郎だ。
ほぼ互角レベルの二人が戦うと勝負が終わらない。だから、ここは特殊ルールに変更したのだ。
ゴブ郎がサーブを打ち、それをどちらがより早く打ち返し、ゴブ郎からポイントを取る事が出来るのか。
つまりはスピード勝負。先に打ち返して得点を取った方の勝ちというわけだ。
既にプロ級並のスマッシュを打つ事が出来る二人に対してゴブ郎は初心者レベルだけど、それ故にどうサーブが打たれるかも分からない。
純粋な反射神経がこの勝負を握るというわけだ。
一応ゴブ郎が怪我をしない程度の威力に抑えてもらうように頼み、最初のサーブもゴブ郎くんが行う。
私がやっても良かったのだけど、正直二人を目の前にしてサーブを打ちたくない。普通に威圧が嫌だ。
ゴブ郎は誰かとゲームが出来る事が楽しいのか問題なさそうだ。やっぱりゴブ郎は威圧無効スキルでも持っているのだろうか?
「じゃ、これでどっちが負けても文句は言わないでね。」
時間節約のため2対1の戦いは10回勝負のみ。
どうせ一回で決まるだろうし、私の精神力も考えて早めに勝負がついて欲しかったのだ。
既に二人はスマッシュを打つ気満々で空中待機をしている。もう飛行に関してはツッコまない事にした。
そうして表向きはベリアル&イグニVSゴブ郎の、完全理不尽な対決が始まった………
しかし、この勝負が私の予想の範疇外の所へと向かった。
私は最初のサーブでベリアル達の勝負が決まると思っていたのだけど、最初のポイントを取ったのはなんとゴブ郎。
ゴブ郎くんの打ったシャトルがネットギリギリを越して、そのままネット間近に直球落下したのだ。
二人は空中で待機をしていたため、そんな変化球に対応出来なかったのだ。
2回目の勝負では、最初の一回のミスを反省し、二人共翼を仕舞って地上に降りてきた。
ゴブ郎くんの2回目のサーブは丁度二人のいる場所の中央地点へと飛んだのだけど、なんと二人とも同じ勢いでシャトルに突撃して、そのままお互い頭をぶつけてしまい、シャトルはそのまま地面へと落ちてしまったのだ。
バドミントンやテニスの用語で、味方同士が譲り合ってしまった結果二人の間をボールやシャトルが通過することをお見合いと言うそうだけど、これは逆お見合い…つまりは二人の凡ミスだった。
その後もベリアルとイグニはお互いの足の引っ張り合いやお見合いでゴブ郎のサーブを打ち返し損ねてしまったり、ゴブ郎の変化球サーブに反応しきれなかったりと、凡ミスを繰り返していった。
その結果、10対0でゴブ郎の圧勝。
イグニとベリアルの勝負はつかないまま終わってしまったのだ。
ゴブ郎との試合に負けてしまったことがよほど悔しかったのかは分からないが、二人共呆然と崩れ落ちてしまった。
まあそれはそうだろう。
ベリアルもイグニも超絶最強クラスの魔物であるにも関わらず、純粋な戦闘ではないが、ただのゴブリンであるゴブ郎に完敗してしまったのだ。
プライドも面目も丸潰れだろう。
そんな暗い雰囲気を出しているベリアル達に対し、二人に勝てたゴブ郎は喜びの舞を踊っている。
そんなゴブ郎の頭を撫でつつ、今日の夕飯ではゴブ郎には特別にデザートとしてショートケーキを付けることにした。
「まぁ、気にしない方がいいよ。ベリアルもイグニも、ゴブ郎も初心者な訳だし」
「*****…」
よほどショックだったのか、私は声を掛けても二人が落ち込んだ状態から復活することはなかった。
余りに哀れな様子に同情してしまい、その日の夕食にはベリアルとイグニ達にもデザートとしてプリンを渡してあげた。
そんな事が合った日から翌日、ベリアルとイグニの様子は激変した。
二人共喧嘩が少なくなり、周囲に精神的被害を及ぼすことがなくなった。
多少睨み合いや口論はあるものの、やる前よりも殺気立った物ではない。
その代わりに二人共ゴブ郎に対して敬意を示すようになった気がする。
私のついでで挨拶をしていたベリアルも、今まで堂々と歩いてたイグニも、ゴブ郎を見ると頭を下げて挨拶をするようになったのだ。
魔物達の世界で強さが序列階層を決める…とは聞いていたけど、まさかその結果ゴブ郎がベリアル達より序列が上になるとは思わなかった。
ゲームとは本当、奥が深いなぁと思った。




