世の中面倒ばかり (ビロープ視点)
新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
とある誰かのせいで意味深な終わり方をしましたが、此処で別視点話を挟みましょう。
これはアイネスがオークジェネラルの詐欺騒動に気が付くよりも、もう少し前の話です。
子は親を選べない。親は子を選べない。
そんな言葉を聞いたことがある。
これはダンジョンの中でも当てはまると思う。
魔物たちを召喚して従わせるダンジョンマスターと、ダンジョンマスターを主として付き従うボクたち配下。
特に自己を持つ魔物に見られることだけど、同じ種族でもそのステータスや性格は召喚された魔物によって変わり、ダンジョンマスターも望んでいた通りの奴を呼べるとは限らない。
ボクのゴシュジン、ロッソというオークジェネラルを当たりかハズレかで分けるとするなら、女にとっては当たりで男にとってはどちらでもない、って感じ。
あのスケベオーク、綺麗な女相手にあからさまに贔屓するからね~。
別に男相手に嫉妬してどうこう、って事はしないけど、いつも両隣に女魔物を侍らせてる。
普通はオークジェネラルみたいな中位種族が上位種族である女魔物たちからモテるなんてないんだけど、彼の話が上手いのか女にしか分からない魅力でもあるのか、何故か女魔物たちもオークジェネラルにマジでそういう好意を持って自分から侍ってる。
別に魅了系スキルの一つも持ってないのに本当に不思議。
ボクたち配下の男魔物たちの中でもあのモテっぷりは謎だと囁かれてる。
そのことともう一つ以外は大体何処にでもいそうな普通のダンジョンマスターで……いや、最近はそうでもないか。
少し前に突然やって来た人間が変な商売方法を吹き込んでから、ゴシュジンは他のダンジョンマスターや外の野良魔物相手を騙して財宝やらDPやらを稼ぐようになった。
元々ゴシュジンにそういう才能もあったらしいのか、もしくは騙した奴らを共犯に仕立て上げるその商法によるものか、一応今はこの事が広まってないみたいだけど、それも時間の問題のはずだ。
ボクの種族、ハクタクの特徴は<第三の目>。
千里眼に透視、魔眼に邪眼に鑑定眼に心眼、それに過去視や未来視といった、よく言う魔眼とか邪眼系の力なら大体なんでも操る事が出来る。
その<第三の目>を使って、たまたま視えちゃったんだよね。
ダンジョン戦争でうちのゴシュジンが敗北する姿、その後ゴシュジンが大怪我くらって悲鳴あげてる姿、そしてその側に立つ如何にも上位種族な魔物の姿がハッキリと。
あれ、多分ゴシュジンが今やってる商法で色々騙してるダンジョンマスターたちでしょ。視るからに仕返し食らってるじゃん。
視た状況的に多分ダンジョン戦争の後? のことなんだと思うけど、おかしいことにその相手の方は視えなかったし、これじゃあゴシュジンに忠告のしようもない。
まあそもそも、ボクの目の力って他に比べても視る力が強大な代わりにハッキリと視えちゃった未来なんかはボク自身でも変えようがない。
ダンジョン戦争の相手以外はハッキリと視えていたから、ボクが何か言おうがダンジョン戦争の勝ち負けがどうなろうがゴシュジンがしっぺ返しを食らうことは間違いない。
だったらそんなこと言って怒られに行くより知らないフリしてた方がマシだ。
最悪の場合はどっかのダンジョンマスターにさっさと引き抜いてもらえばダンジョンの崩壊に巻き込まれることはないし、別に良いよね?
ボクらハクタクはステータスやスキルの貴重さ的にも、引く手数多だからね。
どーせ、どこに行ったって寝ることぐらいしかやることないんだしさ。
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ボクのいるダンジョンはとある森の奥に存在している。
森の外には野良魔物の集落が幾つかあるし色んな薬草が生えていることもあって冒険者が絶えることはないけど、ボクのような上位種族が滞在しているわけじゃないからそこまで強い奴らがダンジョンに入ってくることは少ない。
よっぽどのことがない限りダンジョンに入った奴らが最深部まで到達することはないし、そいつらもそれほど強い奴らじゃない。
ダンジョンにはボク以外にも上位種がいるからボクが出て戦うということは滅多に来ない。
だからボクのやる仕事なんて殆どない。ボクは好きなだけ寝たい放題だ。
「ビロープさーん、イヤリングなくしたからスキルで探してほしいんですけどー」
「Zzz……」
「ビロープさーん!」
「Zzz……」
たまにアクセサリーを失くしたとか宝箱に入れる財宝が見つからないとか言ってボクの元にやってくる奴らがいるみたいだけど、殆どが寝てる時だし関係ないね。
別に、<第三の目>を使って物探しなんて面倒な仕事を押し付けてくる未来を視て狙って昼寝を決め込んでるとかそういうのじゃないよ?
たまたまあいつらが来るのがボクの昼寝の時間ってだけで、確信犯とかそんなんじゃない。
ボクが寝ているタイミングで来るあっちが悪い。
「もう、こうなったら叩き起こすしかないわね……<アクアショット>!!」
「ムニャ……<シールド>」
「寝ながら防御するなーー!」
気の短いやつは魔法やスキルを使ってボクを叩き起こそうとしているみたいだけど、ボクたちハクタクは寝ている間も起きている時と同じように動く事が出来るスキル<夢遊>を持っているから平気。
元々物理攻撃に対する耐性は高いし、攻撃魔法だって<シールド>一つで防ぐ。
寝ている間に叩き起こされる心配は全くない。
『睡眠はどんな事があろうと叩き起こされるべからず』、これが種族ハクタクのモットーだ。
大量の水をぶっかけられようが槍で全身突かれようがボクは絶対起こされるつもりはない。
……まあ、いつぞやにゴシュジンに侍ってるエルフの一体が調薬に失敗してボクの寝床まで激臭が漂ってきた時は流石に飛び起きたけど。
「ぜぇ……ぜぇ……あんだけ魔法を打ったのに何やっても起きないなんて……」
「Zzz……」
「もう、良いわよ! 自分で探せばいいんでしょ! この、ねぼすけのおバカーーーー!」
大体の場合、頼み事をしにやって来た奴の方が魔力切れとかで折れて、最終的に勝手にキレて帰っていく。
そして相手の気配がなくなってもう完全に帰った頃合いを視て…じゃなくて頃合いで偶然、たまたま、思いがけずにもボクは起きる。
ボクは上体を起こすと、ウィッチの去っていた方向に向かって舌を出して思いっきり悪態をついてやった。
「イヤリングの一つぐらい自分で探せばいいのに。自分で禄に部屋を掃除しないからそう何度も何度も物を失くすんだよ、バーカ」
失くした物を探すように頼みに来る奴が来て、叩き起こそうとして結局失敗する流れがもう日常になっているけど、未だに物探しの頼み事をするやつがいる。
ボクの<第三の目>を何だと思ってるんだか。
いくら時間が有り余ってるとはいえ、<契約>も結んでない、自分より弱い魔物に扱き使われるつもりはない。
どいつもこいつもハクタク使いが荒いんだよ。
思う存分悪態をついた後、ボクはウィッチが去っていった方向とは別の方向を向いて、隠れて様子を伺っていたやつに対して声を掛ける。
「で、オッサンは何か用? また探しものか何か? それともいつものくだらないお小言でも言いにきたの?」
「相変わらずの悪態だな。私が偶然此方に寄っていたことはその目で気づいていただろうに」
そう言うと、オッサンは肩をすくめながらため息をついた。
眼の前にいるオッサンはアルカードっていうヴァンパイア族の上位種、オールドヴァンパイア・ロードで、ボクと同じ最深部の門番だ。
最深部の門番はこのオッサンとは別に翠亀のウーっていうジイさんがいるんだけど、このジイさんたちはとにかく口うるさい。
「居眠りのし過ぎだ」とか「仕事をサボろうとするな」とかことあるごとに口を酸っぱくさせて説教をしてくるのだ。
仕事って言ったって最深部の門番の仕事は滅多に回ってくることはないのにさ。
「本当、なんで年をとるとこう口煩くなるんだろ。年で情緒が不安定なの?」
「聞こえているぞ。何度も言っているが、ヴァンパイア族は皆不老、年は取らないことはそなたも知っていることであろう。第一生まれて十数年しか経っていない赤子ならまだしも、そなたも半世紀ほど生きているだろう。失せ物探しのために何度も起こされて機嫌が悪いのはわかるが、もっと上位種としての品格を……」
どうやらつい本音を口に出してしまったらしく、それを聞き逃さなかったオッサンがまたいつもの長ったらしい小言が始まってしまった。
この小言が始まるととにかく長いんだよね。
それにすっごいつまらない。
だから思わずそれを遮るようにボクは耳を塞ぎながら言い返す。
「あーあーうるさいうるさい! 上位種としての品格品格っていつも言うけどさぁ、ダンジョンマスターのパーティーとか説明会とかはケムエの腹黒が補佐として参加してるんだからボクらが外に出る機会なんてないよね?! そもそもボクがどういう風に過ごしてようがボクの勝手だろう!? そうだよね!? ジイさんもオッサンも考えが古いんだよ!」
「むっ!!」
此処でボクはつい「しまった」と思ってしまった。
普段から上位種としての品格を気にするオッサンはそれに関して反論すると更に面倒なことになるのだ。
簡単に言うと普段は二時間で終わる小言が四時間ぐらい延長される。
オッサンそれを逃れるにはこのまま反論を続けるか、昼寝に入って完全無視を決め込むぐらいしかない。
肩を震わすオッサンの様子を見て、ボクは身構えてオッサンの反論を待つ。
「それは……そうだな……うむ。」
「いや、そこで折れちゃうの?」
反論されると思って身構えてたのに、オッサンが羽根を下げて分かりやすく落ち込みながら納得してしまったものだから、思わずツッコんでしまった。
ウーのジイさんはただただ口煩いだけなんだけど、このオッサンは身内の上位種相手になると案外打たれ弱いもんだからたまにこういう風になって調子狂うんだよね。
いかにも見た目が中年なアルカードのオッサンがしょんぼり、なんて擬音が似合いそうな感じに落ち込む姿は見てて面白いんだけどさ。
「オッサンさぁ、見た目の割に打たれ弱いんだからジイさんと一緒になって説教しに来るの止めたら? こうやって言い返す度にあからさまに落ち込むの見るの笑えるっちゃ笑えるんだけど、オッサン根に持つじゃん。この前もボクが言い返したら暫くグチグチ言ってうるかったし」
「打たれ弱くない。相手の意見を飲み込むのが上手いだけだ。あと根にも持たない」
「今がまさにそうじゃん。さっさとその性格直すか、いっそのこと開き直った方が良いよ。ボクやジイさんやケムエとかの前でしかそういう姿は見せないし、ボクらもオッサンのプライドとか考えて周りに言ってないけど、いつか察しの良い奴とか来たらボクらも庇えないんだし。女たちってどんな物でも可愛い可愛いって言うし、案外オッサンのそれも可愛いだとか言われて受け入れられるんじゃない?」
「可愛くない。私はただヴァンパイア族の最上位種として名に泥を塗らぬよう振る舞っているだけ。それが上位種としての常識だ。直す所もなければ、開き直るものでもない。」
そう言ってそっぽを向いていじけ始める姿はとても最上位種とは思えない豹変ぶりだ。
そういえば、いつか前にやって来た人間のダンジョンマスターが女魔物を侍らせているゴシュジンを見た時にこういう時のための言葉を言っていた気がする。
確か……『ぎゃっぷ』だったっけ? 全然覚えてないや。
にしても、最上位種として名に泥を塗らないよう振る舞うのが上位種としての常識って……。
「オルトスの所に行っては撫で回したり毛並みの手入れしたりして可愛がってる癖に」
「可愛がってない。上位種族の魔物として、下位種族の者を気にかけるのは当然のことだからだ。あとあの子の名はキャドラだ。」
この獣好きのプライドの塊め。
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ボクの<第三の目>は周りからは使い勝手の良いスキルだと思われてるみたいだけど、この目だって欠点はある。
高レベルの無効化スキルや妨害スキルで跳ね返されれば反動で暫く頭痛に苦しむことになるし、目の力が強すぎて、寝ている間とかボクが意識して使わなくても勝手に発動してしまうことがある。
勝手に発動した時に視えるのは一年以内に起きる未来か、此処じゃない何処かの場所の光景で、内容は小さいものから大きいものまで色々だ。
ゴシュジンが大怪我をする光景もまさしくそれで視た光景だ。
勝手に発動すること自体は何度も経験したことだし、それで視える光景にも大体のことは驚かない自信がある。
だけどその日、ボクはとんでもないものが視えてしまった。
「うわあああああああああ!?!?!」
「な、なんじゃ!?」
「また居眠りなどしているから叩き起こそうとしたら急に叫びだすなんて……まさか何かとんでもないものが視えたのか?!」
アルカードのオッサンを適当に慰めた後、再び昼寝をしていたボクを叩き起こそうとしていたのか、魔法陣を構築しているジイさんと槍を片手に構えているケムエの奴が目を丸くしてボクを見ていたけど、ボクはさっき視えてしまった光景が衝撃的過ぎてそんな事気にしていられなかった。
「ど、どっかのダンジョンのウィッチたちが……」
「ウィッチたちじゃと?」
「ウィッチたちがどうかしたというのだ?」
ボクは全身をガタガタと震わせながらもジイさんらにさっき視えた光景について説明を始める。
あまりの衝撃にどう説明すれば良いのか分からず言葉が詰まってしまう。
ボクの様子を見て余程のことなのだと思ったのか、普段小言のうるさいジイさんたちが優しく問い返す。
ボクは両手で顔を覆って、涙が出そうになるのを堪えつつ、言葉を続けた。
「ウィッチたちが、暗がりの部屋で男同士のカップルについて語り合っているのを目撃して、ウィッチたちに部屋に引きずり込まれる光景を視た……!!」
「それはただの悪夢か? 今後起きることになる未来か? それとも今現在起きている光景なのか? どれにしても最悪の光景ではないか?」
「……それは確かに悲鳴もあげたくなるわい」
「部屋に引きずり込まれた後はそのまま両隣に挟まれてその議論に無理矢理参加させられてて……ランプで照らされるウィッチたちの目がとにかく本気で……」
「もう良い、何も言わなくて良い。というかその光景に関して何の描写もするな。想像するだけでゾッとする」
ボクの説明を聞いたケムエはその光景が詳細に想像出来てしまったのかボクと同じように顔を青ざめてそれ以上の説明を許さないとボクの口を閉ざさせ、ジイさんはそっと背中をさすって慰めた。
夢でないことは確実なんだけど、あの光景が<第三の目>によって視えたものであると信じたくはなかった。
女遊びの激しいゴシュジンのダンジョンにいる以上、女たちによる激しい喧嘩や口論は見慣れていたつもりだったけど、あれはそういった類と大きくかけ離れていた。
「ゴシュジン相手にきゃるんきゃるん侍ってるウィッチたちの姿ならまだしも、悪魔か何かのような邪悪なオーラ出しながら嬉々として語り合ってる姿初めて見たんだけど……しかも話の内容が全く理解出来なくて……」
「だから何も言うでない! それ以上は考えれば考えるほど此方まで精神が削れる!」
「削れろよ! 削れて一緒に苦しめ! ボクあの光景が頭の中に張り付いて離れないんだよ!! この際一部始終を詳細に話して道連れにしてやる!」
「クズか貴様!! 苦しむなら勝手に苦しめ、この私を巻き込むんじゃない!!」
「ボクがクズならアンタはケチで腹黒だろ?! 大体アンタは普段ゴシュジンの近くにいるんだから女の修羅場とかきっつい会話なんて聞き慣れてるんだし、普段自分が自分がって自分自慢うるさいしゴシュジンの補佐なんだからこの程度余裕だよねぇ!?」
「あの女共がダンジョンマスターの前で本性を露わにするか馬鹿者! 第一貴様が見たそれはそういった修羅場とは一線かけ離れたものだったのだろう!? この私に精神的苦痛を植え付けて仕事に支障が出たらどうするんだ……!」
「お前さんら、仮にも仲間のために気を使おうって気持ちは……」
「「ない!!!!」」
「そこは声を合わせて即答するところでないわ!」
ジイさんが何を言おうとボクもケムエの腹黒も気を使うつもりはない。
世の中自分が一番だ。
そのまま拮抗とした小競り合いを続けていたけど、ふとボクは変な事が頭によぎってしまう。
「あ、ちょっと待てよ」
「む、急になんなのだ」
ボクがケムエの腹黒から一旦距離を取ると、あいつは不思議そうにボクを見た。
「ケムエさ、アンタそっちの気とかないよね?」
「はぁ?! 突然何を言い出すと思えば!!」
「いやさ、アンタって女たちに混ざってゴシュジンの側にいるじゃん? 前々から、ゴシュジンと最初に<契約>を結んだとはいえ補佐なんて面倒な仕事女たちに任せれば良いのになんでゴシュジンの補佐を自分からやってんのかなって思ってたんだよね。で、もしかしてその理由って女たちと一緒の理由じゃないかなーって……」
「そんなわけあるか!! 変な光景を視て頭がおかしくなったのか?! 私はただ、ダンジョンマスターより信頼を得て徐々にダンジョン内での権力を増やしてダンジョンの外にまでその地位を築き、あわよくばダンジョンマスターたちの裏の支配者になるため動いているだけだ!!」
「それはそれで問題じゃ、この馬鹿者!」
「ぐぉっ!!」
「あー、ゴシュジンの商売にもノリノリなのってそういう……。ケムエさ、そのキレると突っ走る性格直さないといつか自滅するから直しなよ」
男色の疑いを掛けられたのがよっぽど嫌だったのか、色々と腹黒い計画を漏らしたケムエの頭にジイさんの拳骨が落ちた。
コイツのプライド高い所や欲が深い所は別に嫌いじゃないんだけど、キレると考えとか策略とか全部投げ捨てて行動を始めるのは流石に直した方がいいと思う。
ボクやジイさんやオッサンがいる時はこうして止められるけど、ダンジョンの外とかじゃそうじゃないからいつかやらかして死にそうなんだよね。
見知った奴がやられるのは気分が悪いし、時折こうして注意しておかないと。
「いだだだ……何故この私が拳骨を喰らわねばならないのだ……」
「そもそもケムエよ、お前さんの性格でただ地位を手に入れたいって言うなら、その策略を使って主殿からダンジョンマスターの権限を奪い取ろうとは思わんのか?」
「むしろそっちの方が……ブフッ、裏の支配者ってやつになるには効率良さそうだけど」
「何故ダンジョンマスターを貶めるようなことをしなければならないのだ? 確かに女遊びの激しいお方ではあるが、計略に長けた素晴らしいダンジョンマスターであろう? 女どもがダンジョンマスターを持て囃し伴侶になろうと思うのも分かる」
「え?」
「え?」
「……何故引き気味に距離を取るのだ?」
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ゴシュジンのよく分からない魅了効果って、同性にも効果あるのか……暫く近づかないようにしよ。
なんか気まずい空気になってしまった後、ボクはケムエとジイさんらと別れて自分の寝床に戻ってきた。
ボクは寝床の上に座ると、精神を集中させて<第三の目>を発動させた。
<第三の目>で視たいのは未来……ゴシュジンが大怪我した未来の前後だ。
ゴシュジンがどうなろうと気にしないけど、ダンジョンマスターであるゴシュジンが死ぬと<契約>を結んでいるボクたちまで消滅してしまう。
もしそうなるなら早いところこのダンジョンから抜け出すのが賢明だ。
ゴシュジンが大怪我をする未来は変えられないけど、ゴシュジンに大怪我をさせた犯人が誰なのかとかその後ボクたちがどうなるかとかなら<第三の目>で視て、ゴシュジン以外の奴らの生死や処遇は変えられる可能性がある。
だからゴシュジンの未来を視て以来、<第三の目>の未来視を駆使してはその日の未来を確認していっている。
オルトスが消滅してしまうことになったらオッサンがまたぐちぐち落ち込みそうだし、ジイさんの説教がないと静かすぎて逆に寝心地が良くないし、ケムエもプライドが折れたとなったら何を仕出かすか分かったもんじゃないしね。
これもボクの快適な居眠りのためだ。別に同僚のためとかそういう綺麗な理由とかじゃない。
毎日時間を変えて未来視で視てはいるけど、その結果はあまり良いものじゃない。
普通未来っていうのは色々な選択や行動なんかで大きく変動するからボクが未来視で視る光景はその変動によるブレが大きいのが殆ど。
でも、その未来の前後を確認する限り、その日の未来だけ変動によるブレが殆どないんだ。
つまり、何をしてもその日の未来を変えることが出来ないってこと。
ブレを大きくして未来を変えられるように動いてはいるけど、それでもブレが大きくなることもない。
何よりおかしいのが、何度ボクが未来を視てもゴシュジンに大怪我をさせた犯人とダンジョン戦争の相手の姿を捉えることが全く出来ないこと。
変動のブレが酷くて相手の姿が視えないというのはあることだけど、その日の未来がクリアに視えているのにこの2つだけ姿が全く視えないなんてあり得ない。
ダンジョン戦争で攻めてくる魔物の姿やボクやジイさんらの様子なんかは視えるのに。
そもそも視え方が妙におかしいのだ。
普段は変動のブレで色々な姿が重なっているように視えてるか砂嵐の中のように全体的に視えにくかったりするはずなのに、ゴシュジンが誰に大怪我をさせられるのかとか相手のダンジョンマスターの姿とか、他にも特定の所だけ塗りつぶされているように捉える事ができない。
声も、姿も、何もかも。
だからどうやってダンジョン戦争が負けるかも、相手のダンジョンマスターがどんな奴なのかも分からない。
あまり視すぎると無理矢理遮断されるように妨害されて反動が来て、深く視ることが出来ない。
それなのに、その日の未来はハッキリと視えてしまっている。
何度も、何度も視てもこんな違和感しかない未来しか視えないからボクは内心焦りが募っていた。
だってこんなの、まるで誰かに未来を決められているみたいじゃないか。
それこそ本の中の物語みたいに。
それがどうしても納得いかなくて、ボクはケムエらに忠告じみたことを伝えたりゴシュジンに手を出したらヤバそうなダンジョンマスターを伝えたりしたりとかやってみてるけど、それが未来に影響を生んだことはない。
「っっ!! いっ、てぇええええ!! また駄目だったか……」
今回もその謎の何かを打ち破ることが出来なかった。
今度こそはと相手のダンジョンマスターを特定しようとしたけど、無理矢理な形で妨害されてしまう。
反動にやって来た頭痛で寝床の上を転がり苦しんだ後、ボクは考え事を始める。
ボクの出来る範囲で未来を変更させても駄目だった。
ジイさんらに話して手伝ってもらえればどうにかなるかもしれないけど、未来を変えることの邪魔をしている奴がこのダンジョンにいるならそいつに知られるかもしれない。
何より他の奴らに未来を告げてより酷い未来になったら最悪だ。
一番良いのはゴシュジンが商売を止めてダンジョン戦争が起きること自体を止められればいいんだけど、商売が盛り上がっている今ゴシュジンがそれを受け入れるはずがない。
……いや、待てよ?
「何かによって未来が変えられないのなら、その原因を過去視で視てしまえばいいんだ」
誰かによって未来が変えられないなら、ゴシュジンのやってる商売を止められないなら、過去視でその原因となる部分を特定してソイツを排除してしまえばこの変な状況を変えられるかもしれない。
仮に今の状況を変えられなくても、ソイツを警戒していれば万が一の時に動く事が出来る。
早速<第三の目>で過去を視ようとボクは姿勢を正し、過去を視るために集中を―――――――。
ゾクッ
「っ、誰だ!!!」
「きゃっ」
嫌な悪寒が背中に走り、思わず振り返って警戒を見せた。
そうしたら少し遠い場所から怯えたような声が聞こえた。
声の聞こえた先を確認すれば、そこにいたのはオークの娘……ゴシュジンの実娘だった。
プルプルと震えるその姿に警戒心が削がれて、身体の力を抜いてボクはため息をついた。
「なーんだ、ゴシュジンのじゃん。何か用?」
「あ、あの、さっき苦しそうな声が聞こえてきたので、痛み止めを持って来たんです」
「あ、そう。それはどーも。用が済んだならもう行ったら? 今、アンタを探してる奴がいるみたいだよ」
「は、はい、すみません……」
ゴシュジンの実娘から薬を受け取ると、手で払って出ていくよう促せばゴシュジンの実娘は身体を小さくして何度も頭を下げながらその場を去っていった。
いつ拳が降るかと怯えるその姿を見送りながら、ボクは薬瓶の蓋を開けてそれを飲んだ。
このダンジョンには一体を除きオークがいない。
ゴシュジン自身がオークジェネラルであるにも関わらず、ゴシュジンは頑なにオークを召喚しようとしない。
なんか亜種のオークということで元々いた集落で色々あったらしい。
そんなオーク嫌いのゴシュジンに、唯一このダンジョンに留まることを許されたのがあのゴシュジンの実娘だった。
ゴシュジンの実娘、と聞けばゴシュジンにも配下たちにも愛されて甘やかされていそうなイメージだけど、実際の所は真逆の対応を受けている。
名前もまともな寝床も与えられず、実の父親であるゴシュジンや配下の殆どから理不尽に説教を食らったり家事や作成した物を奪われて褒められる場を奪われていたりと散々な目に遭っているのを良く目撃している。
今ボクに渡した薬だって本当は彼女が作った物なのに、ゴシュジンに侍ってる女の誰かが作った物になっている。
面倒だとは思いつつも、それを知っていて何もしないと言ったらジイさんがうるさそうだと思ってゴシュジンに伝えたことがあるけど、ゴシュジンはそれを信じることはおろか聞くこともなかった。
しかも女たちにも口止めされて、本当面倒ったらありゃしない。
そんな面倒な境遇とは別に、ボクはゴシュジンの実娘が苦手だった。
性格とか種族的相性とかそういうのじゃなくて、なんというか生理的に受け付けなかったんだよね。
あの子が近くに来るとなんとも言えない悪寒が背中を走るし、<第三の目>で視た彼女の姿はいつもクリアに視える。
それが妙に虚ろに感じてしまって、どうしても近づきたいと思えなかった。
流石にゴシュジンたちみたいにあからさまに嫌うのはしないけど、出来るだけ近づかないように接している。
……あれ、そういえば過去視で何を視るつもりだったんだっけ?
未来視ではどうしようもなくなって過去視で何かを調べるつもりだったんだと思うけど、具体的に何を視るつもりだったのかが思い出せない。
思い出そうとしても何も分からないけど、思いつかなくて段々面倒になってきてしまう。
「あー、面倒くさくなってきた! もう一回寝よ」
明日になれば思い出すかもしれないし、面倒事は避けるに限る。
ボクは空になった瓶を捨てて寝床に横になる。
本当、面倒事ばっかりで困るよね。
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「フフフ、やっぱりビロープさんは凄いですね。いつも会うとわたしの何もかもを見透されてるんじゃないかってドキドキしてしまいます」
「けど、あの様子ですとまだちゃんとわたしの<演技>が通じているようですね! よかったです。ビロープさんの<第三の目>でわたしの様子を監視されるとわたしも動くことが難しくなってしまいますから」
「ビロープさんはお一人で時間を過ごすのが好きみたいですからあまり話したことがないですけど、それでもお父さんの大事な配下の方ですもの。きちんと楽しんでもらえるように頑張らないと!」
「ビロープさんでもあっと驚くような、素敵な素敵な物語を用意出来るように」
「あ、でもビロープさんサプライズとか嫌いじゃないでしょうか? 普段はスキルのお陰で驚くこともないでしょうし、いつかこっそり確認しないと……あら」
「何度も呼んでいるというのにすぐに駆けつけないだなんて本当に役立たずな無能ですわね……! 一体どこにいるのかしら!」
[うるっさいなぁ……何か用? また探しものか何か?]
「ああ、ビロープさん。丁度良かったですわ。この後また新しく“お客様”となるダンジョンマスターがやってくるので出迎える準備をさせようとアレを探しているところですの。お得意の<第三の目>でアレが何処にいるか視てくださりませんこと?」
[アレっていうと、ゴシュジンの? うーん……それなら今は3層北側の倉庫にいるみたいだけど]
「3層北側の倉庫ですわね。ありがとうございますわ。全く、見つけたら厳しく躾けておきませんと……」
「さて、わたしも倉庫に向かわないと。お茶の準備と契約書……ああ、あとこの後向かうダンジョンで渡すための“美容品”も用意しないと駄目ですね! 忘れるところでした!」
「フフフ、そろそろ素敵な物語の前準備も終わりそうですね。お父さんや配下の皆さんからの頼み事もあったので大変でしたけど、これも皆さんに送る素敵な物語のためって思えば楽しいです!」
「お父さん、喜んでくれるかなぁ。わたしの恩返し」
「フフフ……フフフ……」




