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成就してしまった約束

 アイネスが意識を失った。

 直前にそれらしい素振りも様子も何も見せていなかったにも関わらず、意識を失った。

 アイネスが突如意識を失い地面に伏すなど、その場にいたもの全員――――今回の大騒動を扇動させたポラリスでさえも想像していなかった事であったが故、誰もがその姿に目を見開いた。


 そんな中、思考が追いつかずとも咄嗟にアイネスが頭をぶつけないよう身体で受け止めたのはベリアルであった。

 ダンジョン戦争中の予想外の重傷により絶好調の状態とは言い難いものの、HP回復薬とラファエレの回復魔法によりHPを回復していたこと、ポラリスの変貌に驚愕しつつも咄嗟にアイネスの身を守れるようアイネスの方に意識を向けていたおかげでアイネスを受け止める事が出来た。

 ベリアルがアイネスの身体を受け止めたのを見て漸くその場にいた者達は我に返った。


「アイネス様!!」

「アイネス殿!」


 初めに動いたのはラファエレとタンザであった。

 本来種族的相性が良くないであろう彼の者達は息を合わせたようにアイネスのそばに駆け寄ると、上位魔法を使ってアイネスの様子を確認し始めた。

 その一方で、アイネスの倒れた場所とは反対方向にいるポラリスに向けて駆けたのはイグニレウスとバイフーであった。


 “アイネスが意識を失う直前、白い空間内に呪いや魔法、スキルの気配は一切感じられなかった”

 “仮にこの場にいる者達の中にアイネスに何かをした者がいるのであれば、それは本来のスキルとは逸脱したスキルを持ち、尚且つアイネスに自身の企みを阻止されたという動機があるポラリスの仕業である可能性が一番高い”

 

 そう、古代竜と雷虎としての本能によって瞬時に答えを出し、これ以上の危害をアイネスに加えぬようこの場より葬り去ろうとしたのである。

 だがしかし、二匹の攻撃は意外な事に彼らの味方であるはずであろうミルフィーさんとディオーソスさんによって阻止された。

 一見飄々としてはいるがその実イグニ達と同じく上位種族の魔物であり、そして一つの大型ダンジョンを経営するダンジョンマスターの二柱である。

 イグニ達の怒りの一撃はポラリスに届くより前にかの者達によって掻き消された。

 怒りに震える二匹の配下達は邪魔をした二匹のダンジョンマスターに怒声を上げる。


「何故邪魔をしたのだ!!」

「気持ちはベリー分かるが落ち着きたまえ! この場でかのLadyに手を掛けてしまうのはクールガールの望む事ではないはずだろう!」

「だが!!!」

「彼の小娘にはわっちらも理解が及ばぬ程の力を秘めた<演技>がある。アイネスにしっぺ返しを食らわせる事よりも、アイネスの配下であるそなたらが小娘に向けて必殺の攻撃を加えるよう敢えて仕向け、死体のフリをしてこの場から立ち去ろうと目論んでいる可能性の方があるのじゃよ」

「なっ……! 」

「遠目から確認する限り、アイネスはただ意識を失っただけじゃ。この場は一旦手を降ろせぃ」

「ミルフィオーネ様の、言う通りですよ。意識を失う前後、そこのオークがアイネス様に何かをする素振りは見られなかった。アイネス様が気を失っている今、この場でそこのオークの処理をするのは止めておいた方がよろしいでしょう」

「……チッ!!」


 ミルフィーさんの説得に加え、アイネスがただ気を失っただけであることをベリアルが告げた事で漸く二匹の魔物達は手を降ろした。

 納得はしていなかったが、確かにアイネスが見ていない範囲でポラリスに手を加え逃走の隙を与えてしまう可能性を考慮した上での行動である。

 一方ポラリスは、アイネスが倒れたことがかなり想定外だったらしく、自分が今まさに殺されそうだったその時もアイネスの方を見ながら作り笑顔もなく呆然としていた。

 しかしそれはほんの一瞬で、ポラリスはすぐさま笑顔を浮かべた

 そんな悔しげなイグニ達を煽るように、ポラリスは変わらぬ笑顔で呟いた。


「あーあ、残念です。後もう少し止めるのが遅かったら、 “その攻撃を受けて死んだ演技”でもして逃げる事が可能でしたでしょうに」

「おい、オークの小娘よ。そなた、アイネスに何をしたのだ?」

「さぁ、何も。強いて言うなら何もしない事をしていました。確かにわたしの<演技>で精神干渉系の魔法なんかも再現出来ますけど、さっきも言ったようにアイネスさんには恨みだとか悪意なんて感情は持っていませんでしたから特に何かするつもりはありませんでしたよ。仮にかけたとしてそれが通じるかも分かりませんしね」


 肩を竦め、今にも己に襲いかかりそうなイグニ達に告げる傍らにポラリスは意識を失ったアイネスの姿を見た。

 ベリアルに抱えられたアイネスの顔色は今まで誰も見たことがないぐらいに青白い。

 精神干渉系魔法、状態異常魔法、呪いなど、相手の意識を奪う魔法やスキルは多い。

 魔法に対する抵抗力の低い種族(人間)であるアイネスなら尚更である。

 だがしかし、アイネスの分析力と警戒心の高さをポラリスは過大も過小もなく、正当に評価していた。

 事前の会談にて己の殺害を禁じるルールと、己の父が自滅させるためのルールを取り決めたアイネスがそれらの魔法やスキルを警戒して対策を練らないはずがない。

 にも関わらず突如意識を失ったとすれば、何かのキッカケで精神的ショックを受けたか、呪いやスキルとは全く違う“何か”の介入があったかのどちらかであろう。

 そこまで考えて、ポラリスはそれ以上原因について考えることを止めた。

 ポラリスは己のポーチから2つの薬を取り出すと、それをベリアルたちに差し出す。


「癒心薬です。精神系の薬はこの薬しかないですが、これならすぐに効果があるはずです。意識がないので直接掛けるか布か何かに付けてそれを目の上に乗せて摂取させてください」

「癒心薬だと? そのような貴重な薬まで調合していたのか」

「どの種族にも害がないように調合してあります。早く使ってあげてください」

「……薬の内容がどうあれ、貴方とアイネス様は先程まで争いあっていた関係でしょう。貴方の歪んだ本性を知った上で容易に信用して怪しい薬を受け取るつもりは……」


 薬の貴重性を知るタンザがその薬を調合していたポラリスに驚く横で、彼女に警戒心を拭えないラファエレはそう切り捨てようとした。

 するとポラリスはラファエレがそう言い切らない内に手に持っていた癒心薬の片方の薬を開け、目の前で半分ほど飲み干したではないか。

 突然の行動に周囲が驚きを隠せない中、ポラリスは己が毒見をした薬と、それと全く同じ薬を再び突き出した。


「これでまだ疑うのでしたらあなた方がもう片方の薬を毒見して摂取させてください。もしもアイネスさんに何かあればわたしを拷問なり殺すなりお好きにされても構いませんよ。怪我人や病人に毒を与えるなんて悪いことをするつもりはありません。薬剤師だった母の娘であるわたしがそれをするのは、わたし自身が許せませんから」

「! ポラリス、さん……」

「スキルによる麻痺や睡眠状態ならともかく、呪いや内部からくる精神的なものであれば時間経過で悪化する可能性があります。さぁ、早く!」


 ダンジョン戦争中、ポラリスが痛み止めを渡した際に確かに毒を盛らなかったこと、そして今のポラリスの鬼気迫る様子を見たベリアルはポラリスの手から薬を受け取った。

 ポラリスが飲まなかった方の薬を半分ほど飲んで毒見した後、それに有害なものが入ってないと分かると自身のハンカチーフに掛け、そっとアイネスの目の上に乗せた。 

 すぐにアイネスの意識が戻ることはなかったが、徐々に青白かった顔色が良くなるのを見てアイネスの心配をしていたベリアルたちはホッと安堵の息をついたのであった。


 その場にいる者が安堵する中、ポラリスは静かに己の父であるオークジェネラルを見た。

 己の元配下であった女魔物たちに回復魔法は受け外傷はどうにか回復出来たものの、劇薬の効果か未だに神経や筋肉を抉るような激痛に苦しむオークジェネラルは脂汗を流しながら目の前の実の娘に向かって口を開いた。


「き、さま……!!」

「あ、ようやくわたしのことをちゃんと呼んでくれたね、お父さん。ごめんなさい、さっきの薬で今とっても痛いですよね? 痛み止めをもう少し作って持っておけばお父さんに渡せたのに……」

「貴様……! ずっと、ずっと俺を、騙して嘲笑っていたのか……!! 今まで、育ててやった恩も忘れて、俺を、欺いていたのか……!!」

「“今まで育ててやった恩”ならちゃんと覚えているわ。お父さんが今までわたしにしてくれたこと、全てね。だからわたし、お父さんの言う事はなんでも従ってきたでしょう?」

「挙げ句に、劇薬を浴びせるなんて……この、親不孝者がぁ、ぐっ……!!」


 痛みに悶えながらオークジェネラルはポラリスに向かって憎悪の言葉をぶつける。

 しかしポラリスはそんな言葉に傷付く様子はなく、予想外とでも言いたげな表情で頬に手を添えてオークジェネラルに話しかける。


「親不孝者? お父さん、何か勘違いしているわ。わたしはお父さんのためにあれをやったんですよ。お父さんの望み通りに生活出来るようにするための親孝行なの」

「何がロッソ様のためにやった、よ!!! ロッソ様を傷付けることの何が親孝行なの!? どう考えてもロッソ様を逆恨みして恩を仇で返してるだけじゃない!!」


 完璧すぎる笑顔を浮かべ、劇薬をアイネスではなくオークジェネラルに投げた行為がオークジェネラルのためだと告げるポラリスに腹が立ったのか、オークジェネラルの介抱をしていたラミアがオークジェネラルの前に立ち、ポラリスに食って掛かった。

 オークジェネラルたちの知るポラリスであれば、強気な態度で怒鳴ればすぐに顔を俯かせ口を閉ざした。

 ポラリスが豹変してもなお、その先入観が拭えなかったのであろう。

 だがしかし、ポラリスの返答は彼女たちが思っているものと全く異なっていた。


「親孝行ですよ。お父さんのことを思ってやった、ね」

「ヒッ!!」


 顔を覗き込みラミアの言葉を否定するポラリスの顔を見たラミアは、思わず短い悲鳴を上げた。

 屈託のない笑顔を貼り付け、両親の瞳の色を受け継いだ両目を濁らせたポラリスのラミアを見つめるその視線は重く、殺意のように鋭利で、歓喜のように綺羅びやかな混沌とした感情をひしひしと感じさせられた。

 魔物としても中位種族に属するラミアと下位種族に属するオーク。

 オークジェネラルのためにダンジョンの侵入者たちと何度も戦ったことのある彼女と、オークジェネラルの奴隷として面倒な雑用のみしか任されていないはずのポラリス。

 本来であればレベルも能力値もラミアの方が圧倒的に格上であるにも関わらず、ラミアはポラリスに恐怖心を抱いたのである。

 その事実はポラリスが豹変してもなおどこか彼女を舐めて見下していた元配下たちと、オークジェネラルを驚かすには十分であった。


 へなへなと腰を抜かしたラミアを見下ろした後、ポラリスはオークジェネラルの方を向け、口を開く。


「お父さんも皆さんも何か勘違いしているみたいですから、説明しますね。これはお父さんが次のダンジョンでこれ以上恥ずかしい思いを抱かないようにするためなんですよ」

「恥ずかしい、思い?」


「さっきアイネスさんが話していたでしょう? これからトン吉さんが経営されるダンジョンのこと。此の場において大事なポイントとしては、『トン吉さんのダンジョンでダンジョンマスター向けの教育施設を作る』、『施設の準備が出来たら今回の被害者たちをメインにした詐欺・悪徳商法防止教室は今すぐにでも開始する』、そして『お父さんたちは不足分のDPの返済と慰謝料の支払いが完済するまでトン吉さんのダンジョンで働いてもらう』ってところでしょうか?」

「そ、それがなんだと言うんですの?」

「疑問に思いませんか? ダンジョンマスターになって数ヶ月しか経ってない、言葉による意思疎通が難しいアイネスさんが、一体どうやって自分より先輩であるダンジョンマスターさんたちに教えるのかって。アイネスさん以外が教えるにしても上位種族揃いのダンジョンマスターたちに教えるにはそれ相応の実力を持ってないと聞いてもらえないでしょうし、そもそも誰かに物を教えるのって教えるだけの能力が必要ですから。そう考えると、一体誰が教師をするのでしょう?」


 そこでオークジェネラルたちははたと気付いた。

 オークジェネラルたちもその場では疑問に思わなかったが、アイネスは教育施設に務める教師役について一切触れていないではないか。

 ディオーソスの都合によって不定期に行われるダンジョンマスター向けのパーティーならともかく、アイネスの提示するように定期的な勉強会、教室を開くというのであれば、その分の人材が必要である。

 当の本人のアイネスは言葉が通じず、新しいダンジョンマスターとなったトン吉は下位種族であるオークだから生徒となるダンジョンマスターたちが話を聞くとは思えない。

 新しく魔物を召喚してもその魔物に教師役が務まるかなど定かじゃない。

 アイネスのダンジョンから教師役を派遣するにしても別の誰かが派遣された者の仕事を請け負う必要があるのだ。

 そもそも詐欺や悪徳商法はアイネスたちの世界から持ち込まれた本来広めてはいけない知識。

 それを熟知しているのはアイネスと、ミノタウロスたちに防犯対策を教えるためにアイネスから直接教えてもらった僅かな者たちぐらいだ。

 防止策を伝えるにはその詐欺の手法を熟知している必要があるが、防止策を教えるためにその知識を新しく教えては本末転倒となる。

 詐欺の防犯教室の教師役など、そう容易く任せられるものではない。

 ならば、アイネスは誰を詐欺の防犯教室の教師役に置くつもりであったのだろうか。

 

 その疑問に至ったオークジェネラルたちがその答えを見出そうとしたその時、ポラリスとオークジェネラルたちのやり取りを傍観していたミルフィーとディオーソスが目を細め、ディオーソスがオークジェネラルたちに聞かせるように、ぽつりと独り言を呟いた。


「そういえばクールガールに今回の話を持ち込んだ際、クールガールが一つ興味深い話をしていたな! 確か窃盗の元罪人が減刑や社会復帰を対価に講習会の教師となり、元罪人自身の知識を踏まえた上でその犯罪の防止策を広めるという施策についてだったか?」

「ディオーソス、確かそれはアイネスの読んだという書物でみた話ではなかったかぇ?」

「そうであったかな? まあ何にせよ、そのような施策が実際に行われたとしたら、教師となるその元罪人は実に惨めなフィーリングであろうな! なにせその罪人は自らが罪人であると観衆の目に晒されながら、自身の金策のターゲットとなる者にその対策方法を教えなければいけないのだから」


 その言葉を聞き、オークジェネラルに衝撃が走った。


 そう、アイネスのいる世界の詐欺の知識を持っているのは他にもいた。

 詐欺の知識を知るのはアイネスとアイネスの配下数名、それに加えて今回の黒幕からその知識を吹き込まれたオークジェネラルと彼の詐欺に最も密に共犯関係にあった堕天使もまた詐欺について熟知した者であった。

 堕天使が消滅した今、オークジェネラル側にいる者で残るはオークジェネラル、本人のみ。

 更にオークジェネラルはオーク族の中でも頭が回り、口が上手い。

 実際今回の騒動の中でもその口の上手さを利用して被害者たちがもう一度説明会に参加したいと思えるほどの手腕を見せた。

 教師役としての能力は十分ともいえよう。

 何より、オークジェネラルにその任を任すことはオークジェネラルへの罰にもなるのだ。

 

 詐欺被害者をメインにした防犯教室となると、そこに参加する者は当然今回の騒動にてオークジェネラルの詐欺の被害を受けた者たちになる。

 此の場では奪われた財宝やDPの返還が行われたため何も言わないが、詐欺の被害を受けた者たちはまだオークジェネラルに恨みを持っている。

 彼らが何も言わず、オークジェネラルに手出しをしないのは、今回の騒動解決の一助となったアイネスに恩を感じているから。

 しかしそんな彼らの前にダンジョンマスターから転落して何も出来なくなったオークジェネラルが姿を現せば、オークジェネラルは被害者たちの怨嗟をぶつけるには良い格好の的となる。

 もちろんダンジョンマスターのマナーとしてトン吉の配下となったオークジェネラルに直接手出ししたりあからさまな妨害をしたりなんてアイネスの邪魔になることはしないであろうが、何も知らないダンジョンマスターに今回のことを広めた上で防犯教室の参加を勧めるといった、表面的には新人のダンジョンの宣伝は行うであろう。

 ただそれだけであっても、プライドの高いオークジェネラルに恥を掻かせるには十分ともいえよう。

 長期的にDPを稼ぎ、オークジェネラルに罰を与え、更に被害者たちの憂さ晴らしの場を設けるという一石三鳥を狙うにはうってつけすぎる役職なのだ。

 慰謝料と返済分のDPを稼ぎ、被害者たちの恨みが晴れるその時までオークジェネラルは解放されない、それがアイネスなりの仕返しだったのであろう。


 しかしそこで、オークジェネラルはある事に気が付いた。

 そう、気が付いてしまったのである。

 オークジェネラルは意識を失ったアイネスを介抱するベリアルたちに顔を向け震える声で問いかけた。


「ま、待て、もしも、もしも小娘が確かにあの時の俺を、そこに教師役に命じようとしたとして、()()()は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()俺は、どうなるんだ!!」


 アイネスが子ダンジョンマスターに関して要求したその時と違い、今のオークジェネラルは今ポラリスに掛けられた劇薬により重傷を負ってしまっている。

 それも回復魔法では完治させられない、確実に後遺症が残る傷である。

 

 これでは戦闘行為はおろか、まともに立つことは出来ないであろう。

 今もオークジェネラルを襲う激痛も続くのであれば、書くことや喋ることだって難しいはずだ。

 そうなれば長時間立つことや字を書くことを要する教師役は任せることが出来ない。

 教師役が出来ないのであれば、オークジェネラルが被害者たちの晒し者にされるなんて罰が与えられることもない。

 確かにそれはオークジェネラルにとって望むべくもないことである。


 しかし、罰が与えられぬということは、同時にオークジェネラルが罪を償う機会がなくなったということ。

 オークジェネラルが教師役を出来なくなったということは、働くことが出来ないということは、オークジェネラルは自身に課せられた返済と慰謝料を支払うことが出来ない。

 オークジェネラルがダンジョンから解放される機会もまた、与えられなくなってしまったのである。


 オークジェネラルの懸念はそれだけではない。

 回復魔法を使用されても完治させられないほどの酷い傷。

 それによって作られた激痛と足の後遺症は、治るのか。

 仮にアイネスがまた別の仕事を命じ、それによってオークジェネラルが全ての負債を完済したとしても、まともに立つことも出来ない程の後遺症が残った状態でダンジョンの外に出てしまえば野良の魔物たちか冒険者たちの餌食になる未来しか待っていない。

 何より、身体の内部を抉るような激痛がこのままずっと、半永久的に続くのなど、到底耐えられるはずがない。


 仕事が与えられなくても地獄、仕事が与えられても地獄、このまま解放されても地獄。

 一体どの未来へ進めばオークジェネラルは生き地獄から逃れることが出来るのか。

 そんなオークジェネラルの内なる質問に対し、ポラリスは笑顔で答える。


「お父さんがダンジョンマスターになる前、約束したものね。『お父さんに介護が必要になったら、わたしが面倒を見てあげる』って」

「あ、あ……」

「お仕事が出来ないから外に出ることも出来ないし、下半身に薬が掛かっちゃったから女の人と遊ぶことももう無理だろうね。それに後遺症のせいでこの先とっても痛くて辛いだろうけど」

「あぁ……いやだ……まってくれ……」

「お父さんの負担が減るようにわたしも痛み止めを作ったり美味しいご飯を作ったりしてお父さんの助けになるわ! お父さんがこの先ずっと、ずっと、ずぅぅぅぅぅぅぅぅっと生きてられるよう、わたしが面倒を見るね」

「誰か、誰か……」

「それがわたしの恩返しだよ、お父さん」

「俺を、俺を殺してくれええええええええええええッ―――――――!!!!」


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― 新着の感想 ―
[一言] これが因果応報または悪因悪果にふさわしいエンドだな…
[一言] うーん……メンヘラバッドエンド感がwww
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