素敵な贈り物の正体
キャハキャハッ
いくら幼い頃からそういった刷り込み教育を受けてたとはいえ、ポラリスはオークジェネラルと違って亜種じゃない。
ベリアルやイグニ達と違って種族的特徴として能力が高い訳じゃない。
その根本から歪みまくった精神以外は普通のオークだ。
にも関わらずポラリスはこの場にいる皆を今に至るまで欺き、更には誘導までしていた。
明らかにオーク一人で出来る事じゃない。
恐らく他のオークにはないような、ポラリスにしかない特別な“何か”があるはずだ。
それらしいのはポラリスが言っていた『ある日手に入れた“素敵な祝福”』だろう。
この言葉がポラリスのついた嘘か真実かで、彼女の脅威が増す可能性があるのだ。
それはあのクソ女神の気まぐれに与えられた神の加護だろうか?
それはふとした拍子に手に入れてしまった強力な魔法道具だろうか?
はたまた、誰も知らないような未知のスキルだろうか?
どれにしろ、その“素敵な祝福”の正体を知らないことには今後の対策を練りようがない。
ポラリスが本当の事を話してくれるかは謎だけど、此処で聞いておくべきだろう。
ポラリスは少しキョトンとした表情を浮かべたけれど、すぐに私の質問の意図を察したのか弧を描くように口角を上げて笑いながら言った。
『ああ、そうですよねぇ。わたしの動きを見逃さない為にもアイネスさん達はわたしの事を少しでも知らなきゃですもんねぇ』
「嘘は付かないでくださいね。その気になれば<鑑定>で本当かどうかを確認しますから」
『アハハッ、アイネスさんって案外強がりなんですね。ダンジョン戦争の最中にそれが出来なかったからこうして直接わたしに聞くしか確認が取れないんでしょう? アイネスさんのその頭の良さなら<鑑定>を使わずともわたしの能力ぐらい分析出来るでしょうけど、今他のダンジョンマスター達がいるこの場でないとその前に逃げられる可能性がありますもんねぇ』
嘘をつかせないようにハッタリを掛けてみたけど、流石は今の今まで自分の父親まで騙していた詐欺師というべきか。
ポラリスには此方の考えは全てお見通しらしい。
ポラリスのスキルか“素敵な祝福”の効果からか分からないけれど、ポラリスの本当のステータスが<鑑定>で視る事が出来ないのだ。
実はポラリスが本性を表した時点で私はハイパー(以下略)センスを通してポラリスを見ているタクトの横でこっそり<鑑定>を使ってポラリスのステータスを見ようとした。
許可のない<鑑定>が魔物達の中でマナー違反であることは分かっているけれど、今回はその対象が普通の魔物達とは何かが違うポラリスで、ポラリスが何らかの攻撃手段を持っている可能性があってからじゃ遅いと判断したからだ。
そう心の中で軽く言い訳を述べて<鑑定>をしてみたのだけど、その鑑定結果は先程トン吉によって付けられた名前以外ダンジョン戦争中に見た時と全く同じもの。
つまりは偽りのステータスしか見れなかったのだ。
何回<鑑定>をしてみてもその結果は変わらない。
これには<鑑定>自身も回数を重ねるごとに驚愕を示し、最後には【アイエエエエエ!!! ヨメナイ! 本当のステータスヨメナイナンデ!? ナンデ!? Σ(゜Д゜)】と叫んでいた。
口調と顔文字こそふざけているけど<鑑定>が有能であることは私が一番知っている。
その<鑑定>が読めないというのだ。明らかに何か他と違う何かがあるはずだ。
ポラリスの今までの言動等から考察すれば粗方の推測は出来るだろうけど、それじゃあ時間がかかるし当たっているか外れているか分からない。
時間を掛けてしまえばそれだけポラリスを自由にさせてしまうことになる。
その間にまた今回の事を引き起こされては厄介だ。
結果、こうして直接ポラリスの口から聞くしか確認のしようがなかった。
話を逸らされてはぐらかされるか黙秘されるか心配だったけれど、ポラリスは意外な返答を返してきた。
『構いませんよ。教えて差し上げても。わたしの“素敵な祝福”について』
『なんじゃと? それは真かぇ?』
『そう言って、嘘を述べるつもりでは?』
『勿論嘘は付きませんよ。今回のダンジョン戦争で勝利し、更にわたしの計画も阻止されたアイネスさんへわたしからのプレゼントということで全部教えてあげますよ! 本当のわたしの全てを!』
どういう考えでかは定かじゃないけれど、どうやら素直に私の質問に答えてくれるようだ。
ラファエレ達はポラリスの言葉を信じられず訝しげに彼女を睨みつけていたが、私はそれを制してポラリスに言った。
「それじゃあ教えてください。ポラリスさんのいう所の“素敵な祝福”に関して」
私の言葉にラファエレ達は目を見開いた。
どうやら私が特に深く疑わずにポラリスの言う事に応じたのが余程不思議らしい。
確かにポラリスに対してはその所業を含めて不信感はあるけれど、どうやらポラリスは私に対して敵対心のようなものは抱いてないようだから信じてもいいだろうと思ったのだ。
彼女とほぼ同類と思われるワンコパスも屋敷内で散々殺しに掛かろうと大斧を振り回して追いかけて来たけど、和解したらそれまでの行動が嘘のように友好的だったし、屋敷を出ても追いかける事をしなかった。
ポラリスもダンジョン戦争中自爆特攻してまで計画を遂行していたにも関わらず、それが失敗すると私が計画を台無しにするだろうということを悟ったのにも関わらず無理矢理追いかけて来ることがなかった。
きっと、自分の気持ちや感情を置いてけぼりにする程の早さで考えを切り替えることが得意なんだろう。
もしそうなんだとすれば、私に対して敵対心を抱いてないと思われる今がポラリスから本当のことを聞く最高のチャンスだ。
ポラリスは一歩私達から離れると、私に問いかけてきた。
『先に確認なんですけど、アイネスさんはわたしの“素敵な祝福”の正体は何だと思いますか? 推測でもなんでも良いので当ててみてください!』
「……そうですね。多分ですが、それはスキルか何かでは? その前に手に入れていたスキルが何かしらの条件を満たした事で更に強いスキルへと昇華したとか」
“素敵な祝福”という言葉を多用するから一度は神からの加護説が思い浮かんだけれど、時折“贈り物”だとか“奇跡”だとか呼称を変えていたし、そもそもポラリスさんからは特定の神様に対する信仰心は感じられない。
技術云々で行えない事が多々あるし、種族の進化はしていないように見える。
そうなると最も有力なのは“素敵な祝福”=スキルという説だ。
それもただスキルを手に入れたのではなく、元々保有していたがある日突然昇華した結果獲得した上位スキルか派生スキル。
それならばスキルそのものを“素敵な贈り物”として呼べてスキルの昇華を“素敵な奇跡”とも認識出来て、更にはスキルが昇華して獲得するまでのイベントそのものを“素敵な祝福”だと呼べる。
どうやら私の推測は正解だったらしく、ポラリスは笑みを深めて『それで?』と更に問いかけて来た。
“素敵な祝福”をスキルだと仮定して、ポラリスたった一人で今回の騒動や過去の騒動を成し遂げる所業を成立させたスキル。
異世界転移者特典の<鑑定>にも見抜けないステータスの詐称に親すらも騙した印象操作、ハイパー(略)センスを通してポラリスを見たタクトの言葉。
そして長年の計画の失敗や実の母親の死さえ置いて置けるほど周囲への関心の薄いポラリスが唯一固執している“舞台”や“物語”という単語。
それらの情報から推測出来る、ポラリスの“素敵な贈り物”の正体は……
「その昇華したスキルは偽証系スキル。もっと細かく言うのであれば<演技>って名前のスキルとかじゃないですか? あくまで推測なので実際に存在するスキルかは分からないですけど」
『わぁ……、本当に凄いですね! <鑑定>スキルに頼らずわたしの“素敵な贈り物”が何かを正確に当ててしまうなんて!』
私が推測を述べれば、ポラリスは心底感激した様子で拍手を打って私の推測が正しい事を肯定した。
正直殆ど確証がなくて当てずっぽうに等しかったけれど本当に<演技>という名前のスキルだったとは正直自分でも驚きだ。
競馬とか賭け事とかやったら一儲け出来るんじゃ……いや、止めとこう。ギャンブルは身を滅ぼす。
ポラリスは拍手をした後、役者のようにスカートを翻してお辞儀をする。
『アイネスさんの言う通り、わたしは<薬物生成>や<交渉>といった表向きのスキルとは別に<演技>というスキルを持っています。幼い頃に母から教えられ獲得したスキルの一つです』
『待て、それはおかしい。スキル<演技>は確かに偽証系スキルに分類されるが、その効果はあくまで所有者の演技力を引き上げるもののはずだ。ステータスの偽証などは出来ないはずだ』
ポラリスの答えに対し、タンザがポラリスに反論を述べる。
しかしポラリスはそんな反論に逆に笑みを深めた。
『普通であればそうでしょうねぇ。でもわたしの<演技>は少し特殊なんですよ。ええ、特殊で素敵なんです』
「特殊?」
『特殊って、オレのハイパーエキセントリックセンスみたくチョーツエー感じとか?』
『アハハッ、変な名前のそれとちょっと一緒にしてほしくないですね!』
『笑顔で鬼キビシー事言うじゃん……』
少し困惑を浮かべながらもいつものノリで尋ねたタクトをポラリスがズバッと一蹴した。
笑顔でストレートな否定が地味に傷付いたのか、タクトががっくりと肩を落とした。
この北極星、さらっと容赦ないな。
ちょっと傷付いた顔をするタクトを形だけでも慰めるつもりか、本当にそう思っているのかは分からないけれどポラリスはタクトへのフォローを掛けつつ話を続けた。
『タクトさんのそれも確かに凄いですけど、わたしの<演技>はまた別な意味で特殊で凄いんですよ!』
「具体的に、どう特殊なんですか?」
『そうですねぇ、口で説明するよりもその目で見てもらった方が分かりやすいでしょうから……』
そう言葉を続けながらポラリスはその右手を天に掲げるように上げた。
そしてそのままゆっくりと手を降ろし、ポラリスの顔が一瞬隠れたと思ったら……
〔一度、実際に私のスキルをご覧になられてはどうかね?〕
「『『『!?』』』」
最深部の門番の一柱を務めていたヴァンパイアロード、アルカードさんに、『なった』
『化けた』のでも、『変わった』のでも、『模した』のでも、『成り代わった』のでもない。
文字通り『なった』のだ。
魔物達の中には人間に化けたり人間に姿を模したり、ケット・アドマーの人達のように成り変わる魔物は少なくない。
だがポラリスが見せたそれはそういった変化とは一線を越えたもの。
この場合、『なる』ではなく『成る』か『為る』と言って良いだろう。
見た目、姿勢、口調は勿論のこと。
上品な香りに混じってうっすらと香る血の匂いや無意識レベルに行われるだろう仕草、SSR魔物特有の強者オーラやロードと名乗るに相応しい紳士的な立ち振舞いの陰にうっすらと感じさせる畏怖感。
その他様々な要素全てが目の前にいる人物がつい先程最深部で遭遇し少しの間会話したアルカードさんであると訴えかけている。
そんな事はあるはずがないとわかっているのに、目の前にいるのはポラリスというオークだと分かっているのにも関わらず、だ。
目の前にいる人物は姿形をクルクルと変え、語り始める。
〔私のスキル<演技>の本来の効果は演技力を引き上げるという、スキルとしては曖昧で力とも言えぬものだ。例えスキルレベルを上げようとスキル自体に課せられた制限の範囲外の効果は得る事が出来ない〕
〔だけど、ボク(ポラリス)の<演技>はその制限が存在しない。その身の限界や世界のルールや常識に縛られていないんだよ。ボク(ポラリス)が望めば種族とか性別とか面倒な事を全部無視してその通りに演じられる〕
〔印象操作や誘導工作もこのスキルを応用したものですわ。【父親とその配下たちに利用され酷使される哀れな名無しのオーク】という設定の役を練れば後はその通りに演じるだけ〕
〔リリスやエルダーウィッチ等が操る幻惑魔法によって与えられた傷が掛けられた相手の痛覚まで実際に影響させられるように、周囲の奴らが勝手に此方の“物語の設定”に沿った言動を取ってくれるのよ!〕
〔そういう意味では、儂は『演者』であり、『舞台作家』でもあるといえるかもしれんのう……〕
ヴァンパイアロード、ハクタク、女エルフ、ラミア、翠亀……。
種族も性別も年齢も口調も、力量さえも関係なく次々となりきってみせるポラリス。
この場には女エルフとラミア本人がいるのにも関わらず、目の前にいるポラリスをうっかり本物だと認識してしまいそうなほどそっくりな振る舞いだった。
その天才や鬼才なんてものを通り越していっそ異常…異端ともいえるそれに、長い間本物の彼らの同僚として、配下として接していたはずのオークジェネラル達までもが目を回している。
〔ああ、因みに〈変化〉スキル持ちの魔物と違い、演じている役の持つスキルも<演技>によって模倣が可能ですよ〕
『す、スキルを模倣するだと!? そんなもの演技云々の範疇外ではないか!』
『いや、そこな小娘の理論から言えば不可能ではなかろうよ。スキルの模倣という行為もそのスキルを持つ者の真似をする……つまりは演技の一種じゃ。対象の姿に変じて成り変わる<変化>と違い、その役や設定をそのまま演じる力を司る<演技>で再現をすることが可能というのはある意味正解じゃ。まあ、それほど応用の効く、余程限界や制限が広いスキルを所有していれば、の話じゃがなぁ』
『や、それでも演技の範囲広すぎじゃね!?』
愉快そうに笑いながら先程堕天使と共に消えてしまったものと全く同じ契約書を出現させた堕天使を演じるポラリスにイグニが驚愕しながらも反論を述べた。
けれどそれはポラリスの一挙一動を伺うミルフィーさんが皆に分かりやすいように説明する。
ミルフィーさんの説明に対しタクトが声を上げると、今度は第二層のDDRの試練の担当者をしていたウィッチを演じ始めたポラリスが頬を膨らませながらタクトに反論する。
〔広い、じゃなくてそもそもそういう境界線自体ないんだよ! 演技に関することならアタシはなんだって出来るの! ステータスの偽装も印象操作のための人格生成も舞台全体を操る誘導もスキルの模倣も、ぜーんぶアタシ(ポラリス)の<演技>によるものなんだから! ま、まあ、流石にスキルの模倣はアタシ(ポラリス)がスキルの効果を完全に理解していないと正確な効果を発動させられないんだけど……。あ、でも、基本誰かのスキルを一度見るだけで大丈夫なんだからね!? だから「案外そこまで万能じゃないんだな」とか誤解しないでよ!〕
『いやそんなこと思っておらんわ!』
『誰に言ってるんでぇすか?』
〔さぁ、誰だろうねっ♪〕
私はそんなポラリスの異端すぎる演技よりも、彼女が語るスキルの力についての説明に衝撃を覚えていた。
二次元……特に漫画の世界において<演技>という才能は一種の隠れチート、そしてアニメやゲームの裏側では一部の大多数の人間に畏敬の念を向けられるものだと私は思っている。
漫画だと登場人物の演技力が高過ぎてその人物の背後に背景が見えたりその人物が演じている役の服装になっていたりと普通の演技じゃあ有り得ないようなシーンを目にする事が多い。
漫画やアニメの演出と言ってしまえばそれで終わりだけど、自分の限界や自分以外の制限もスキルの定義も気にする事なくその演技……自分の思い通りの演出を現実にすることが可能だとしたら、チートスキルどころの騒ぎじゃない。
というか、ラノベに出るチートスキルなんて目じゃないぐらい強力で、有能で、そして危険だ。
だって、彼女がそうしたいと思えばなんだって出来てしまう。
偽装も、誘導も、魔法も、武術も、浄化も、呪いも、自分の能力の向上も、周囲の人達の能力低下も、生かすのも、殺すのも。
今この場で私が彼女の本性に気がつけたのだって本当は奇跡と言っていいくらいだ。
最初に会った時のあの違和感を見逃していたら、あるいはポラリスがトン吉達に痛み止めを自ら渡さなければきっと私もポラリスの手のひらの上で踊るところだった。
それだけポラリスの演技は、スキルは強力だった。
スキルの効果が有能とか、偽証に特化しているのとは道理が違う。
壊れている。
そう、壊れているのだ。
RPGで出せば一瞬でゲームバランスが……いや、ゲームそのものを大きく揺るがしかねない壊れスキルだ。
そして何よりも、私がポラリスの<演技>をしっかりと認識して真っ先に考えたこと、
それは、
それは
それは
それは
まるで、周囲からの接触や当たり判定さえ誤魔化す事が出来る私の<隠蔽>みたいじゃ――――――
そんな考えが私の頭の中によぎろうとしたその瞬間、
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私の意識はテレビの電源を切るように、もしくは壊れてはいけない鎖かなにかが壊されたように
バチンッ
こつ然と失われたのだった。
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