閉幕……?
投稿が遅れてしまい申し訳ありません!
体調不良がぶり返したり多忙に追われたりと、執筆する時間が中々取れずに遅れてしまいました!
ペースは遅いでしょうが、頑張って投稿を続けます!
オークジェネラルは追い詰められていた。
ダンジョン戦争に敗北し自身が物にした財宝やDPを全て奪い返されたどころか、自分が手にしたダンジョンマスターとしての地位までもが取り上げられ、更には自分がダンジョンマスターになった時から一番の配下として仕えてくれた堕天使のケムエが黒幕という謎の存在の力によって跡形もなく消し去られてしまった。
逃亡しようにもアイネスの3つ目の要求によって許されず、自分を駒として操っていた人間に当たり散らしたくてもその足取りさえも掴めないという絶望的な状況下だ。
普通の者ならば、もう成す術なしと考えて抵抗することを諦め、大人しくトン吉の下で自分が犯した罪に対する罰の為に労働するだろう。
しかし、オークジェネラルは違った。
ダンジョンマスターとしての地位を追いやられた状況下でも、例え自分の最初の配下が葬り去られ全員が混乱している中でも、自分が返り咲く為の手段を考えていたのだ。
こんな絶望的な状況下に陥れられたオークジェネラルが、一体何故まだ抗おうとするのか。
自分よりも下に見ていたアイネスにダンジョン戦争に敗北した事に対する屈辱を払拭するため?
親であり主人だったオークジェネラルに反抗の意思を見せ、真っ先にトン吉と<契約>を結んだポラリスに対する怒り?
否。
オークジェネラルを動かしていたもの、それは恐れだった。
ただしその恐れの対象はミルフィオーネ達ダンジョンマスター達でも、ベリアル達最強魔物でも、自分を操っていた黒幕の人間でも、アイネス自身でもない。
彼が恐れていたのは自分に代わって新しくダンジョンマスターとなったトン吉の存在だった。
トン吉とオークジェネラルを比較すれば種族的にもステータス的にも、その知能もオークジェネラルの方が遥かに優れている。
オークジェネラルの方が口も上手く、過去に侍らせてきた女の数なんかは比べるまででもない。
では、何故オークジェネラルはトン吉を恐れたのか。
オークジェネラルは無意識の内に恐れていたのだ。
自分とは違うオーク……亜種ではない、普通種であるオークと亜種である自分が比較されることを。
また自分が外れ者として疎まれることを。
今回、オークジェネラルは自分が仕出かした事によって他のダンジョンマスター達からの信用を失い、配下達の前で敗北する姿を見せつけてしまった。
もうアイネス達の前ではおろか、他のダンジョンマスター達にもオークジェネラルの強みである話術は通用しないだろう。
今こそ女魔物達は変わらずオークジェネラルに侍っているが、今後ミルフィオーネ達に返済しなければならないDP分の労働を強いられることを考えればその状態が続くかも分からない。
何よりオークジェネラルがトン吉を恐れた理由、それはポラリスと<契約>を結んだ時のトン吉の姿が自分の兄の姿と良く似ていたからだ。
力自慢だが頭は軽く、なのに集落のオーク達から好かれていたオークジェネラルの兄貴分。
何かと周囲からは比較の対象として挙げられ、自身も絶対に敵わない存在だと認識するようになったコンプレックスの対象。
そして、自分が過去に娘だと思っていた子の本当の父親だと思われるオーク。
真剣な表情でこの場のやり取りに耳を傾けている真面目さも、周囲になんだかんだ言われつつも慕われている姿も、殆ど面識もない自分の娘を気にかけ声を掛ける様子も、アイネスに子ダンジョンマスターという重要な役職を任された時の顔つきも、オークジェネラルの兄の姿と被って見える程トン吉はオークジェネラルの亡き兄そっくりだった。
“もしもあのオークの下に就けば、自分はまた昔のように周りから比較され、疎まれ、そして嘲笑われる外れ者のオークに戻ってしまう”
そんな考えがオークジェネラルの頭に無意識の内に過ぎってしまうくらいには、トン吉は彼の兄にそっくりだった。
「おい、おい!」
堕天使が何者かの手によって消滅し、アイネス達の意識がそちらに向いている隙に、オークジェネラルは運良く近くにいた自分の娘……ポラリスに小さく声を掛けた。
その呼びかけに気が付いたポラリスはその呼びかけに返事はせず、少し怯えた表情でオークジェネラルの方にこっそりと顔を向けた。
オークジェネラルは周りには悟られないよう、ポラリスに威圧を掛けながらある命令をする。
「今あの小娘達はケムエの消失に目を向けている。俺の言うことに歯向かった事はこの際許してやるから、この隙にあの小娘に攻撃を仕掛けろ!」
「!」
オークジェネラルは気が付いていた。
アイネスがオークジェネラルに対して告げた要求に、アイネスが気付かなかった穴が存在していることに。
『2つ目の要求は、ロッソさんがダンジョンマスターという立場から降りてロッソさんのダンジョン経営権や配下、ロッソさんを含めダンジョンに関する全てを私達に譲渡する事です』
アイネスは2つ目の要求を使いオークジェネラルをダンジョンマスターという地位から引きずり下ろし、その後すぐにその権限をトン吉に譲渡した。
それからオークジェネラルとその元配下達はアイネスの3つ目の要求によって行動を制限されてしまった為、彼らは逃げる事はおろかアイネスとトン吉に対し歯向かう事も出来ない。
これらの要求により、オークジェネラルはアイネスに反撃する機会を完全に失っていた。
しかし、ポラリスだけは違う。
3つ目の要求によって行動を制限されるのはオークジェネラルと、オークジェネラルと<契約>を結んでいた元配下達のみ。
ポラリスはオークジェネラルが所有していたダンジョンマスターの権限の一つである<契約>ではなく、堕天使の持つ力による奴隷紋によってオークジェネラルに隷属させられていた。
更にポラリスはトン吉とは<契約>を結んだものの、アイネスと<契約>を結んだ訳ではない。
トン吉がポラリスに対して「アイネスに手を出すな」と命令して行動を制限してもいない。
つまり、ポラリスのみはアイネスに対し攻撃を加える事が出来るのだ。
堕天使が消滅されてゆく姿を眺める中、オークジェネラルはこの穴に気が付いたのだ。
もちろん、普通であればこの作戦は通用しない。
ポラリスがアイネスと<契約>を結んでいないように、オークジェネラルもポラリスと<契約>を結んで命令権を持っている訳ではないのだから。
堕天使が存在ごと消失したことで、ポラリスとオークジェネラルの間に結ばれていた隷属契約による強制力は失われてしまっている。
だからポラリスはオークジェネラルのやけのような命令なんて拒絶することが出来る。
しかし、集落が襲撃されてから共に生活をしていたオークジェネラルは知っている。
一度反抗した程度で、隷属契約が解除された程度で、ポラリスが自分の父親であるオークジェネラルの命令に逆らう事は出来ないだろうということを。
元々気が強い性なオークジェネラルに対し、彼の娘であるポラリスはとても気の弱い性格の持ち主だった。
自分より強い者、格が上の者の後ろについて回る依存体質。
腹黒い事や策略などは自分では考えず、幼い子供のように誰かの言う事に対し素直に従う生粋の奴隷、格下として存在する為に生まれたような娘なのだ。
先程だってダンジョン戦争に勝利したトン吉に言われたから<契約>を結ぶ事を決断しただけ。
純粋で素直で従順で、自分1体では何も行動が出来ない愚かなオークの娘。
それがポラリスというオークなのだ。
集落が襲撃される前のポラリスはただ明るく天真爛漫で子供らしい娘だった。
しかしオークジェネラルとの生活の間にオークジェネラルが彼女に洗脳にも似た躾を施し、オークジェネラルを筆頭とした格上の者の命令に従順であるように心に刻み込んだ。
オークジェネラルがダンジョンマスターになってからは更にポラリスに洗脳教育を叩き込み、ポラリスが反骨精神なんてものが芽生える事がないように予め摘んできたのだ。
堕天使の隷属契約なんてものはほんの保険程度にしか過ぎない。
例え遂行すればポラリスの信用や命が危うかろうと、ポラリスはオークジェネラルの命令を従順に遂行するだろう。
そうオークジェネラルは確信していた。
オークジェネラルの命令を聞いたポラリスは、周囲の魔物達に悟られぬように自分の持っているポーチに手を伸ばした。
ポーチから彼女が取り出したのは、ベリアルとタンザを重傷にまで追い込んだ薬品の派生品に類する劇薬。
一滴でもその液体に触れればその生物に激痛を味わわせながら触れた部位の筋肉と神経に大ダメージを与える程の攻撃力を持った代物だ。
今、アイネス達はおろかオークジェネラルの配下達も、誰一体としてポラリスとオークジェネラルの方を警戒していない。
ポラリスは何も言わず、気配を殺しながらアイネスの背後へと近づいた。
そしてゆっくりとした動作でガラス瓶の蓋を開け、勢い良くその中身をある一方目掛けて振りまいた。
その瞬間、白い空間全体に響き渡る程の悲鳴が上がる。
「ぎ、あ“あ”あ“あ”あ“あ“あ”あ“あ”あ“あ“あ”あ“あ”あ“!!!」
オークジェネラルの叫び声とオークジェネラルの足が溶ける音が白い空間の中に響き渡り、アイネス達が一斉にオークジェネラルの方を見る。
そこでアイネス達が見たのは、空っぽになった瓶を片手に持ってオークジェネラルの方を向いて呆然とした様子で立ち尽くすポラリスと、下半身に劇薬を振りまかれた事で激痛を味わい苦しみに悶えるオークジェネラルの姿だった。
神経や筋肉をズタズタに溶かし、破壊されるオークジェネラルの姿を見たオークジェネラルの元配下達は慌ててオークジェネラルに駆け寄った。
その一方で、女エルフとラミアの2人は未だに呆けているポラリスの肩を掴み、彼女に問い詰め始める。
「ちょっと! あんた、ロッソ様に何をしたのよ!」
「え……?い、一体何が……?」
「とぼけないでくださいまし! 貴方がロッソ様に何かやったのでしょう!?」
「え……! お、お父さん!!」
ラミア達の言葉を聞いたポラリスはオークジェネラルの惨状にたった今気が付いたように、驚きの声を上げてオークジェネラルの側に駆け寄った。
ポラリスは自分が何を行ったのかも何故オークジェネラルがこのような重傷を負っているのかも分からないようで、オークジェネラルの横に座り涙を流しながら父親の心配をする。
「お父さん、酷い怪我……なんでこんな事に……」
「ど、どういう事? まさかポラリスちゃん、黒幕に操られてロッソのやつに攻撃をしちゃったの?」
「可能性はなくはないのぅ。黒幕にとって此奴は捨て駒の一つじゃが、同時に黒幕と直接対面したことのある数少ない者でもある。万が一のことを考え、このような口封じの方法を仕掛けたのやもしれぬ」
「ポラリス、私やタンザに使った薬はどうしたのです?」
「い、痛み止めは先程渡したのが最後でした……。仮にあったとしても、これだけ深い傷がついてしまうとなると回復魔法や魔法薬を使っても完全に治す事は難しいです……。うぅ……っ」
いくら自分を冷遇していたとはいえ、実の父親であるオークジェネラルが大怪我を……それも操られたとはいえ、自分の手によって負ってしまったのだ。
まるで自分のことのように悲しみ、オークジェネラルを救おうと献身になって助ける方法を探すポラリスの姿に、先程までポラリスを責め立てていた女魔物達もオークジェネラルへの危害がポラリスの意志によるものではないと気付いた。
ミルフィオーネ達も他のダンジョンマスター達も皆ポラリスに同情的で、余計な言葉を掛ける事なく、ただただポラリスを憐れんだ。
実の父親に長年虐げられてきたポラリスはトン吉に救われ、名前と居場所を得た。
様々な者達を騙してきた詐欺師のオークジェネラルは地位も財宝も失い、なおも足掻こうとした結果自分にその業が返り大怪我を負うという末路に至った。
オークジェネラルを傀儡として動かしていた黒幕の謎と、アイネスのダンジョンに潜む11人目の正体の謎は未だに掴めないまま。
救われたはずのポラリスの顔も救われた事への喜びの表情ではなく実の父親が大怪我を負った事に対する悲しみに満ちている。
幸せな終わりには程遠いが、一つの事件の終止符を付けるには十分だ。
そう、誰もがそう信じていた。
――――しかし、音の天才たる彼は聞き逃さなかった。
――――――調和の取れたこの交響曲に、偽りの音符が混じっている事に。
「トン子ちゃん、なんか隠してね?」
「…………………………え?」




