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新たなダンジョンマスターの誕生

「お、おでがダンジョンマスター!?」

『はい。私とトン吉は<契約(コントラクト)>は結んだままなので立場的には子会社の社長みたいな立場になりますけど、その解釈で合ってますよ』


 自身を指差しながら悲鳴を上げるようにトン吉はアイネスに問い詰める。

 それに対しアイネスは変わらない様子で答える。


『トン吉さんは真面目で面倒見も良いですから配下を虐げるダンジョンマスターにはならないでしょうし、私かベリアルさん達の誰かが定期的に様子を見に行けばロッソさんもロッソさんの配下さん達も悪さは出来ないでしょう?』

「確かに……」

「トン吉さんはワタクシ共SSRランクの魔物にも分け隔てなく接してくれまぁすからね。ダンジョンマスターとしての能力は十分あるでぇしょうね」

「いやいや、納得しないでくださいよ! おでにダンジョンマスターなんて大役、出来ないですよ!! ……ブヒッ」


 アイネスの説明に納得の表情を見せるベリアル達の一方で、子ダンジョンマスターの役目を任命された当人のトン吉は頭をブンブンと横に振りながら否定する。

 すると横でこのやり取りを見ていたミルフィーがアイネスに問いかけた。


「わっちもそなたの真意を聞きたいのう。そなたの配下の能力を疑う訳ではないが、ダンジョンマスターにするなら他にも適役がいるじゃろう? 何故其奴を選んだのじゃ?」


 ミルフィー達他のダンジョンマスター達が疑問を抱いた点はそこだった。

 アイネスのダンジョンにはベリアルやイグニを筆頭とし、SSR級の魔物が複数いる。

 全員ミルフィーやディオーソスに負けを劣らぬ程の高い戦闘能力と知性を持ち、アイネスに忠誠を誓っている者達である。

 そんな優秀な魔物達を選ばず、真面目さと面倒見の良さを理由にトン吉を子ダンジョンマスターに任命する理由がミルフィー達には分からなかった。

 ミルフィーに問い掛けられたアイネスは少し思考を巡らせた後、ミルフィーの問いに答えた。


『確かに能力や才能の差で言えば、トン吉さん以外に子ダンジョンマスターを任せるべき方はいます。しかし、今回に限ってはトン吉さんが適役だろうと考えました』

「ふむ。して、その理由はなんじゃ?」

『幾つか理由はありますけど、一番の理由は今回の件によって発生するだろうオーク族に対する風評被害の防止と悪印象を取り払う事です』

「風評被害と、悪印象?」


「風評被害と悪印象とはまた良くない表現だな! 詳しく聞かせてもらえないかね!?」

『タケルさんとロッソさん、この2人はいずれも他のダンジョンマスターに迷惑を掛けたという共通点がありますが、迷惑の掛け方と状況が違います』

「迷惑の掛け方と……状況?」

『タケルさんはダンジョンマスター達の中では珍しい人間のダンジョンマスターで、やっていることも一部を除いては騒音だとか思い込みによる侮辱行為だとか、その程度。人間の法律で言えば軽犯罪ぐらいのことで、被害に遭った本人の考え方でその重みが違います。実際ディオーソスさん達も、タケルさんのしていることは煩わしいとは思いつつも稀に自分達にメリットのある情報を提供していたから暫く見過ごしていたでしょう?』

「まあ、その通りであるな!」

『ですが、今回の件に関しては違います。ロッソさん達のしていたことは彼だけの問題で抑えられない程に広すぎて、重すぎた』


 アイネスの言葉にミルフィー達を含めた全員が耳を傾ける。

 話題に出ているオークジェネラルは額に汗を垂らし、呆気に取られたような表情を浮かべている。


『国で言えば王様や女王に値するダンジョンマスター達に対する契約詐欺に金品の騙し取り、そして野良の魔物達に対する縄張りの略奪。最寄りの国以外の法律はまだ詳しくないので断定はしかねますけど、終身刑や死刑に値する犯罪行為でしょう。しかもそれはロッソさんだけの犯行ではなく、同じくオーク族の娘さんも共犯として行っていた事。親子とはいえ、オーク族が結託して行った大犯罪。この話を耳にしたダンジョンマスター達が抱くオーク族への印象は……』

「“自身よりも上位の魔物相手も欺いて宝を盗み取ろうとする、愚劣な性根を持った魔物”。最悪な印象を持つであろうな」

『それが親子によるものだとかそういう事は関係なく、そう考える方は多いでしょうね。何かしらの共通点があると、特定一部の悪印象の対象と同類と見る方が多いですから』


 アイネスのいた世界でも、この世界でも、種族差別というものは存在している。

 種族差別に至る理由や経緯は千差万別に存在するが、一つの種族の特定の者達が国をも揺るがす程の大罪を犯した事が原因で生み出される差別があるのも確かであった。

 元よりそこまで広くないダンジョンマスターの業界において発生した、二匹のオーク族を筆頭として起こされた詐欺騒動。

 オーク族という一つの種族に対する差別を生み出す理由としては、十分な事柄であろう。


『「オーク族が全員ロッソさんと同じような方じゃない」って広めるには同じオーク族の方がそのイメージを払拭するだけの働きを見せなければいけません。各々の配下のオークさん達ではそのイメージを払拭するだけの力はありませんけど、ダンジョンマスターなら他のダンジョンマスターと対面する機会もありますからイメージ改善には丁度良いと思ったんですよ』

「なるほどのぅ。それでそなたの所の真面目なオークがダンジョンマスターになって堅実に経営させることで今回の騒ぎで生まれるオーク族への悪印象を最小限に抑えよう、という算段じゃな」

『差別をなくすどうこうなんて新入りダンジョンマスターである私には到底手に負えない事ですからあまり関与したくないんですけど、私と<契約(コントラクト)>を結んでいるトン吉さんはロッソさんと同じオーク族ですからね。ロッソさんがしたことのせいでトン吉さんや将来トン吉さんの家族になるだろうオークの方が悪く言われるのは私も嫌です』

「オーク族のダンジョンマスターはMr.テクニシャン以外にもいるが、部族意識が高い故、そういった働きを此方から持ち掛けられても協力的にはならないだろう。同じオークがダンジョンマスターとなり彼らと協力を持ちかければ彼らもイメージ改善行動に参加するだろうし、クールガールの後ろ盾があればユーのオークをあからさまに虐げる者はいないだろう! 実にスマート!」


 ディオーソスとミルフィーもオーク族への種族差別が発生する可能性を多少懸念していたのであろう。

 アイネスの説明を聞いた2人は、アイネスの計画に既に乗り気なようだった。

 被害者の会のダンジョンマスターも最初こそ困惑していたが、オーク族の種族差別が発生するかもしれないと聞いて今回の件で起きる影響がどんなものかを理解したらしい。

 アイネスの2つ目の要求に不満の声を上げる者はいなかった。


『ロッソさん達にはトン吉さんの配下として付いてもらい、そのままダンジョンで働いて不足分のDPを稼いでもらおうと思います』

「もう一つのダンジョンはどんな経営をさせるつもりなの?」

『元々ロッソさんのダンジョンにある迷宮はそのまま置いておくつもりで、それとは別に他のダンジョンマスターとその配下達専用の施設を設立しようかなって思います』

「ほう、ダンジョンマスター達向けの施設というと、ディオーソスのようにパーティー会場でも作るつもりかえ?」

『いえ、それはディオーソスさんがやっていますので。トン吉のダンジョンでは、私の故郷の知識や道具を利用したリラクゼーション施設と教育施設を作ってもらおうかと思います』

「リラクゼーション施設に……教育施設?」

『テアトロさん、頼んでおいた写真』

「はいはい、此方でぇすね」


 アイネスに名前を呼ばれると、テアトロは何処からともなくオークジェネラルの女魔物達がライアン達に接客されて寛いでいる様子を写した写真を取り出しアイネスに渡した。

 アイネスはその写真をミルフィー達に見せつつ、説明を始めた。


『リラクゼーション施設では今回のダンジョン戦争にてロッソさんの配下さん達が体験したスパやホストクラブや温泉、それと私のダンジョンから選出した役者達の劇やレジェンドウルブスによるリサイタルといったショーの定期開催を予定しています。そこで発生するDPとは別に料金として幾らかのDPを支払って貰う事となりますけど、料理やマッサージといったサービスの質に関しては先程ミルフィーさん達が見ていた配下さん達の様子やこれを見ていただければなんとなく期待が持てるのではないでしょうか?」

「ほう……」

『ただ此方の施設は準備に相応のDPや時間を要しますから、リラクゼーション施設とは別にDPを稼がないといけません』

「なるほど、リラクゼーション施設の設立の為のDPを稼ぐ為に行うビジネスが、ダンジョンマスターに向けた教育施設だな?」


 指を鳴らしながら述べたディオーソスの言葉を肯定するようにアイネスは首を縦に振った。

 アイネスは写真をテアトロに返しながら説明を続けた。


『ロッソさんの新人ダンジョンマスター向けの説明会に参加して思いついたんですよね。詐欺に関しては良くないですけど、新人向けにこういう説明会や教室というのがあるのは普通に有り難いですし、パーティーとは別に他のダンジョンマスターと関係を持つ機会が出来ればパーティーが苦手なダンジョンマスター達も来ると思うんですよ。ロッソさんの時と違って初回から料金を支払ってもらいますけど、スケジュールは細かく決めるようにしますし、過ごしやすいように幾つかサービスは取り付けるつもりです』

「説明会の内容は新人ダンジョンマスターに向けたダンジョンマスターに関する情報のみなのかえ?」

『いえ、他にも他のダンジョンでも作れる料理の作り方を教える料理教室や、茶碗や瓶を自分達で作る陶芸教室、メイクレッスンやダンス教室など、色々な内容の教室を開催させようかと考えています。ただ取り敢えず、今すぐにでもと考えているのは新人ダンジョンマスターに向けの情報を教える説明会と、とある勉強会ですね』

「とある勉強会?」

「それってなんなのかしら、アイネスちゃん?」

『今回の問題の被害者達をメインに向けた、詐欺・悪徳商法被害防止教室です』

「「「うっ!!」」」


 アイネスに冷めた目を向けられ発せられたその内容に、ミチュを筆頭とした被害者の会の面々は苦虫を噛み潰したような声を上げた。

 そんな彼らに対し、アイネスは呆れと若干の怒りを込めた視線を向けながら説教を始めた。

 

『何度も話している通り、私は騙す方も悪ければ騙される方も悪いって考えなんですよ。普通疑問に思いませんか? 最初の方で無料だなんだって言ってたのに突然契約書持ってこられてもっと良いサービス受けたければ料金支払って契約書にサインをしてくださいって。ロッソさんの口が上手かったとしても、少しは疑問に思いましょうよ。あと、無料やタダって言葉に引き寄せられ過ぎです。タダより怖い物はないって聞きませんか?』

「そ、それはその……」

「……それに関しては、アタシ達が馬鹿だったわぁん」

『詐欺というのは種類が多くて対策が付けにくいですけど、多少用心して話を聞いてれば何か怪しい事は察する事は出来るはずなんですよ。ロッソさんが詐欺や悪徳商法をやってしまった以上、その話を聞いて他の方が似たような事をしないとも限りません。その時に被害に遭うのは今回ロッソさんに騙されたという実績があるミチュさん達なんです。何度も何度も何度も同じような手に騙されて私やミルフィーさん達に助けを求められたらきりがないですし、普通に迷惑です』

「そ、そうですね……」

「す、すみません……」

『詐欺被害防止教室に関しては被害者の会の面々の参加費は無料にします。ただし、準備が整って開いたら絶対、絶対にその教室に参加してくださいね。参加しないでまた詐欺られて助けを求められても今後はスルーしますから』

「「「は、はい……」」」


 アイネスの普段らしからぬ勢いに圧され、今回アイネスに借りを作った被害者の会の面々は小さくなりながらアイネスの説教を聞いていた。

 そのやり取りを見ながら、ミルフィーとディオーソスは意外そうに呟く。


「アイネスのやつ、妙に饒舌じゃのぅ。前日までは殆ど配下達に任せて平常そうに振る舞っておったのに」

「言葉に容赦がないな!」

「恐らく、洗脳や魅了といった精神干渉系の状態異常の対策の為にマリアに掛けられた洗脳魔法がまだ解けてないのであろう。緊張や恥辱に行動を揺さぶられないせいか、心の内に押さえていた文句が漏れている」

「ベルっさんらが今回のダンジョン戦争で大怪我してっしね。あと内心今回の事に巻き込まれておこだった的な?」

「ミノタウロス達の件を除けばアイネスは今回の件に関して全く無関係だったしな……」

「……後日、今回の事に協力してくれた礼として何か贈ろう」


 イグニ達の話を聞き、改めてアイネスの苛立った様子を目にしたミルフィーはアイネスが被害者の会の面々に対しどんな思いを抱いていたかを察し、改めて礼をすることを決めたのであった。

 一通り言いたいことを言い終えると、アイネスはトン吉の方へ向き直る。


『それで、トン吉さん。事後承諾になってしまいましたけど、子ダンジョンマスターを任命してもいいでしょうか? もしもトン吉さんが嫌でしたら短期間だけその役についてもらってその後また別の方を後任として任命する事が出来ますから、トン吉さんのしたい方を選んでください』

「おでが望む選択、ですか……」


 トン吉にとって、アイネスの命令はかなり良いものであった。

 アイネスというダンジョンマスターに仕える一介の配下から一つのダンジョンの主への昇進。

 その場で了承したいぐらいの事であった。

 しかし、根が真面目な所を評価されたトン吉はこの提案を受け入れるか悩んだ。

 アイネスの命令を受け入れ子ダンジョンマスターになることは簡単だが、自分がダンジョンマスターとして上手くやっていけるか、そもそも自分にそんな力があるのか、その不安を切り捨てるだけの自信をトン吉は持っていなかった。


 悶々と悩んだ末、トン吉はふと自分の隣に立っていたオークの娘に目を向けた。

 オークの娘は顔を俯けているため、表情が見えない。

 そして一つの決断をしたトン吉はアイネスの方に目を向けると、大きく首を縦に振った。


「ぜひ、やらせていただこうと思います。子ダンジョンのダンジョンマスター……」

『そうですか。それは何よりです』

「ただ、一つだけ許可して欲しい事があるんです……、ブヒッ」

『許可して欲しい事?』


 トン吉の言葉に首を傾げるアイネス。

 トン吉は隣に立っていたオークの娘の肩にそっと手を添えると、アイネスに自分の願いを言った。


「最初の<契約(コントラクト)>……、一番初めの名付けは、彼女にしてあげたいんです」

「えっ?」


 自分がダンジョンマスターになった時、したいことは何か。

 その事を考えた時、一番に頭に思い浮かんだのは名前のないオークの娘の存在であった。

 オークジェネラルの奴隷ではあるが正式に<契約(コントラクト)>を結んだ配下ではない彼女は、アイネスの要求の対象外である。

 今は奴隷紋によって縛られてはいるが、自分がダンジョンマスターになればその奴隷紋から解放する事が出来るであろう。

 だがしかし、このまま解放された場合、彼女は今後どうするつもりなのであろうか?


 トン吉はダンジョン戦争が終わる直前まで、オークの娘とお互いの事を語り合った。

 その語らいによって、トン吉はオークの娘が今までどのような生を過ごしていたのかを知っていた。

 薬師の母との生活、突然の集落への襲撃、そして今に至るまでに父と過ごしてきたその半生。

 今まで常に誰かの後ろについて行って過ごしていた彼女が、突然今の生活から解放されて一匹で過ごせと突き放されて、生きて行けるのであろうか?

 答えはNO、恐らく生きていけないであろう。

 能力でいえばオークの娘は一匹だけでも十分生きていけるだろうが、ずっと誰かの後ろを付いて生きてきた彼女に自立心があるわけがない。

 そんな彼女が外に放り出されれば、すぐに放逐されることは目に見えていた。


 彼女が今後どういった選択を取るかを決める権利はトン吉にはない。

 だが、せめて彼女がどのような選択を取っても多少なりとも生きやすいように応援はしたかったのである。

 その応援の一つがオークの娘への名付け。

 名前が付いていれば、少しは父親によって折られてしまった自立心を再生出来るのではないかと思ったから。

 それが、トン吉がダンジョンマスターになって一番にしたい事であった。


 アイネスはトン吉の願いを聞き、オークの娘の方へ視線を向けた後、再びトン吉の方へ向いた。


『名前を付けるぐらいでしたら全然構いません。ただトン吉さんの直属にするのは止めた方が良いと思います。色々と問題があるでしょうから』

「ブヒッ、そこは分かっています。ただ名付けだけは彼女にしたいだけなので」

『娘さんの方は、どうお考えですか? トン吉さんと<契約(コントラクト)>を結びますか?』

「わたしは……」


 アイネスに問い掛けられたオークの娘は、己の父の方を見た。

 オークジェネラルはベリアル達に睨まれているせいか口こそ出してこないが、オークの娘を睨みつけて否定しろと訴えかけていた。

 オークジェネラルと目が合い、オークの娘はビクッと体を跳ねさせて怯えた表情を浮かべる。

 しかしトン吉がオークの娘に優しく笑い掛けたのを見ると、オークの娘は体を震わせながらも勇気を振り絞るように声を上げた。


「結びます……トン吉さんと、<契約(コントラクト)>を結ばせてください!」

「おいっ! 何を――――!!」

『分かりました。では今すぐ手続きを行ってもらいましょうか』


 自分に従順だったオークの娘の予想外の答えにオークジェネラルが怒鳴り声をあげようとするが、アイネスがそれを遮るように声を被せた。

 アイネスの言葉に応じるように、トン吉の前にはオークジェネラルのダンジョンコアが姿を現した。

 トン吉が恐る恐るダンジョンコアに手をかざし、ミルフィー達やアイネスの方を確認すれば、彼女達はトン吉にダンジョンコアに触れるように促した。

 トン吉はアイネス達に促されるまま、緋色の光を放つダンジョンコアに手を置いた。

 すると、頭に直接響くように声が聞こえてくる。


『告。ダンジョンマスターアイネスの勝者権限の要求によりダンジョンコアNo.294016のダンジョンマスター情報の上書きを行います』

『告。ダンジョンマスター情報の上書きが終了。トン吉は【ダンジョンマスター】の称号を手に入れました』


 ダンジョンマスターの交代は意外にもあっという間に完了してしまった。

 トン吉の前に黒い画面が表示されたのを見て、オークジェネラルはガックリと肩を落とした。

 一方、新しくダンジョンマスターとなったトン吉は未だに実感が湧いていないのか、自分の目の前に表示された黒い画面を見ながら自分で拳を握ったり手を開いたりと確かめている。

 そんなトン吉に対し、アイネスは背中を優しく叩いて声を掛けた。


『トン吉さん、名前の方はもう決まってますか?』

「はい……ブヒッ」


 アイネスに促され、トン吉はオークの娘に向き合うように前に立った。

 今になっても制止しようとするオークジェネラルをミルフィー達が一睨みして抑え込む中、トン吉はオークの娘に名付けを行った。


「『ポラリス』。それがあなたの名前です、ブヒッ」

「ポラリス……。私の名前……」


 オークジェネラルに代わり新しいダンジョンマスターとなったトン吉が名付けを行った事で、二匹の魔物の間に<契約(コントラクト)>が結ばれる。

 そしてオークの娘――――ポラリスは自分に名前が刻まれるのを実感しながら、トン吉に笑い掛けた。



「トン吉さん、改めてよろしくおねがいしますっ!」







キャハキャハッ

実に良い展開である。

むかしむかしのお伽噺のようなハッピーな終わりに近づいてきている。

ダンジョン戦争も無事に終了し、他のダンジョンマスターを騙していた悪人のオークジェネラルはその役を降ろされ、二匹のオークは契約という名の一つの縁を結んだ。

少し彼女が危なっかしくてついつい手を貸してしまったけれど、この章もあともう少しで一段落付きそうだ。

しかししかし、これで本当に終わりなのであろうか?

否、まだ終わっていないであろう。


このままダンジョン戦争を終える事にオークジェネラルは黙っているであろうか?

名付けをされたとはいえ、オークの娘はまだ隷属契約が残っている状態で幸せになれるのであろうか?

例えダンジョン戦争が終わっても、今回の件の諸悪の根源に関してアイネスが気にしていないはずがないであろう。

そういえば、11人目に関して彼女はもう諦めてしまったのであろうか?

まあ、それを今此処で述べた所でどう出来るでもない。

此処で何を話していようが、一つの世界に留まる彼女達には聞こえる事はないのだから。


あ、でも一応聞いておこうか?



君達は(・・・)、もう分かったかな?





ああ、そろそろこの生活にも終わりが来そうである。

今日の晩御飯が楽しみだ。

キャハキャハッ

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― 新着の感想 ―
[一言] とても楽しく読ませていただいていましたが、もう更新されないのでしょうか?残念です。今までありがとうございました。
[一言] おっと、いきなりよく分からんやつに煽られたぞ。作者か?ならいいけど(11人目分かってないし)。 まぁ今後は気になるねぇ。アイネスの手のひらの上で進みそうだけど
[一言] なっ、なんだお前!
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