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全て察してましたよ

「あー、これは駄目ですね」

「ヤッパリ、ダメ?」


 私はテアトロに肩車されながら呟いた後、大きくため息を付いた。

 暴走するポイズンレッドスパイダー達との戦闘に見事勝利した後、私はテアトロから足の怪我の応急処置を受けつつ、テアトロが持っていたMP回復ポーションを飲んでMPを回復する。

 アルファからの魔力補助で一時的に魔力量を底上げして渡りの魔鏡を使ったけど、使い終わった後はまた元のMPゼロの状態に戻ってしまうからね。

 事前にテアトロには救急セットと傷薬、MP回復ポーションを持って準備万端の状態で待機してもらっていた。

 相手に対する攻撃はバイフーが、召喚して無防備状態になった私とアルファの防御とMP回復はテアトロの担当分けということだ。


 足の傷も治り、魔力切れによる頭痛もMP回復ポーションで回復する事で治した今、先程の戦闘で壊れてしまった脚立と同じ物を用意してダンジョンコアに触れるか試してみたけど、それは残念なことに失敗に終わった。

 別にダンジョンコアの周りに結界が張ってあるとか、そういう事ではない。

 単純にあの激しい戦闘の後に高い脚立の上に乗って爪先立ちになったら、バランス崩して落っこちてしまいそうだったからだ。

 それでこの中で一番背が高いテアトロに肩車してもらって、どうにかダンジョンコアに届かないか試してみたけれど……。


「テアトロさんに肩車してもらえばどうにか届くんじゃないかって思いましたけど、それでもバランスが超絶取りにくいです。下手に私が手を伸ばしたらテアトロさんごと落っこちそう」

「ニンゲン、ナノニ、ムリ、スル、カラ、ダ」

「自分でも、かなり無茶したなーとは思いますよ。毒針を立ちブリッジで回避した時とかは特に」


 あの時は無意識にスキル<回避>が発動したからか分からないけれど、某SF映画のキャストみたいな避け方をしてしまった。

 正直豪速球の毒針が自分の真上を飛ぶ光景はとってもヒヤヒヤした。

 

「ただ、あのくらい無茶しないと私じゃ勝てそうになかったんですよ。仮にテアトロさんとバイフーさんを召喚してあのポイズンレッドスパイダーをどうにか出来たとしても、その後元の門番の御三方が改めて対峙する可能性がありましたし。それに御三方全員頭が良さそうだったので、無闇に無駄な魔法を打って魔力切れ起こそうとするとこっちの作戦がバレると思ったんですよ」


 アルファの魔力補助を受けた上での召喚で最も重要だったのは、如何にあの門番の3人に気が付かれないように魔力を消費するかだった。

 無駄に魔法を使って魔力補助を読まれてしまってはアルファの行く手を阻まれるかアルファを攻撃されて奥の手自体を潰される可能性があった。

 だから多少の無茶をしてでも効率よくMPを消費していかなければいけなかった。

 ちょっと無茶をして怪我はしたものの、そのおかげで見事に奥の手の不意打ちは大成功。

 ポイズンレッドスパイダーと一緒に、厄介だった門番の3人も倒す事が出来た。

 完全に此方の作戦勝ちというものだ。


「シカシ、ドウスゥル? セントウ、カツ、イイ、デモ、ダンジョンコア、サワル、ナイ、アイネス**、カツ、ナァイ」

「戦闘に勝った事は良いことだけど、どうにかして真上にあるダンジョンコアに触らないとダンジョン戦争自体に勝てないですよ……で、解釈合ってますかね、アルファさん?」

『Yes、マスター』


 テアトロに地面に降ろしてもらいながら尋ねれば、アルファは首を縦に振って肯定してくれた。

 テアトロの言い分も確かに正しい。

 私とオークジェネラルがお互いのダンジョンの最深部にいる以上、私がこのダンジョン戦争に勝つにはあの天井のダンジョンコアに触らなければならない。

 このまま待ちぼうけしていても、私が勝てるはずがないのだ。


「ま、このダンジョン戦争で私が勝つにはそれしか方法がないでしょうね」

「デハ、ドウスル?」

「ですけどね、ロッソさんをこのダンジョン戦争で敗北に追い込む方法ならまだ残ってますよ」

「「エ?」」

「というより、私は今までそうなるように動いていましたから。私がこの最深部に辿り着いていた時点で、私の作戦は既に終了しています。オルトスとポイズンレッドスパイダー、そして門番の御三方と派手に戦闘をして倒したのは、あくまで『鬼魂のオーブ』の回収と最後の後押しの為だけです」


 私の言葉に、バイフーとテアトロは揃って目を丸くした。

 そんな2人の顔が少し面白くて、私は吹き出しそうになるのをそっと耐えた。


 そう、元から知っていたのだ。

 <ネットショッピング>で購入出来る一番高い脚立を使っても、落っこちそうになるのを覚悟した上でダンジョンコアに手を伸ばさなければ届かないだろうという事を。

 というより、<お出かけ>で最深部の調査をした時に試してみたら、実際そうなった。

 お陰で一緒にいたアルファにお姫様抱っこキャッチをさせる羽目になったよ。

 恥ずかしい限りである。

 

 そういう事で本番ではベリアル達私を抱えてもらってダンジョンコアに触れる予定だったんだけど、宙を飛ぶことが出来るベリアル達が重傷を負った時点でこの方法で勝てる可能性がかなり低下してしまった。

 だから私は、元々計画していたもう一つの攻略法でダンジョン戦争に勝つ事を決めた。


「バイフーさん、アルファさん、一つ質問よろしいですか?」

「ナンダ?」

『質問をどうぞ』

「御二方から見て、ロッソさんはどういった方に見えましたか?」

「オロカ、クチ、ヤタラ、マワル、オーク」

『オーク族の上位種にして亜種。慇懃無礼な性格の持ち主』

「いやめちゃくちゃボロカスに言いますね。合ってるっちゃ合ってますけど」


 本人……いや、本豚? がいないから良いものの、正直に言い過ぎだ。

 それを肯定した私も私だけど。

 私はそっと脚立に腰を掛け、腕を組み、彼らに言った。


「私にはロッソさんが、かなりの面倒臭がりに見えたんですよ」

「メンドウ、クサガァリ?」

「はい。それも自己承認欲求が高いタイプの、ね」


 初めて対面した時、私はバイフーやアルファと同じような印象を持った。

 その印象とは別に、もう一つの顔を持っていると感じたのはオークの娘に説教をしている時だった。

 3人は私が抱いた印象がいまいちオークジェネラルと結びつかないのか、首を傾げている。

 敵の増援が来ない今、私が出来る事は限られているし、一つ例え話でもして説明してみようか。


「一度例題を上げてみましょうか」

「レイ、ダイ?」

「例えばマリアさんと私、それにヨツキさんの3人でお茶会をすることとなったとします。私が席を外している間、マリアさんはヨツキさんにお茶菓子のケーキを食堂の机の上に置くように指示を出し、ヨツキさんはマリアさんの言う通りに食堂に人数分のケーキを置き、お茶会の準備の為にその場を後にします」

「フゥム」

「そこで私達3人がいない時にやって来た皆さんが、そのケーキをこっそりと食べて、うっかりそれがマリアさんと私にバレてしまいました。出来るだけ自分に対する罰が軽くなるよう皆さんが言い訳をするとしたら、どうしますか?」


 アルファの通訳の助けを借りながら3人に問いかけてみると、3人は少し考え込んだ後、各々の答えを述べた。


「タベタ、ダガ、ドウシタ? ト、イウ」

「スナオ、ニ、シャザイ、スル」

『レディ・マリアに言い訳は悪手、更にマスターには嘘は殆ど通じないと推測。故に両者の怒りを穏便に収めるには謝罪と共にお詫びの品を渡す事が最善と判断』

「開き直りに謝罪にお詫びの用意、ですね。まあ基本そんな感じですよね。あとは「自分は食べてない」って嘘つくか言い訳するか、あとマリアさんと言い合いになるか、って感じですね」


 因みにイグニは嘘を付いて逃れる派、レジェンドウルブスは謝りながら言い訳を述べまくる派、アシュラは言い合いになる派だった。

 シルキーズのアイスに手を出し、各々違った言動を見せ、最終的にルーシーの一喝と肉叩きハンマーで正座させられていたのはちょっと笑える光景だ。

 レジェンドウルブスはともかく、最強魔物であるイグニやアシュラまで顔色を悪くしてしょんぼりしてたのは普通じゃ見れないだろう。


 こういったトラブルの解決、もしくは苦しい環境下に対する反応というのは回答者の性格によってかなり変わって来る。

 どんな生き物も、苦難のある環境下ではついつい本性が出てしまうもの。

 マラソン大会で「一緒に走ろうな!」と言っていた友人に裏切られ絶望した学生が一体どれだけいるだろうか。

 ……そんな事言う友人もいなかったから分からないけど。


「仮にロッソさんが同じ状況下に遭った場合、彼の回答はたった一つのはずですよ」

「ソレ、ナァニ?」

「『知らずに食べてしまいました。でも、一番の原因はこんな無防備な場所にケーキを置いてその場を後にしたヨツキさんのせいではないですか?』って感じでしょう。更にそこから付け加えるとしたら『ヨツキさんのことは後で自分が注意しておきますね』って言って、その問題を終わらせるか自分の言いたい事を述べる。といった行動になるでしょうね」

「ツマリ……セキニン、テンカ、カ?」

「ロッソさんならもっと上手い言い訳をすると思いますけど、最初の行動としては全部こんな感じだと思いますよ。実際、ロッソさんは初めての対面時にそんな反応を見せました」


 私が最初にミチュさん達の宝の返還を告げた時、オークジェネラルは真っ先にオークの娘を叱り飛ばし、責任を押し付けた。

 例え事前に決めてあった事にしても、あまりにも自然過ぎる流れだった。

 あれは良く自分以外の誰かに責任転嫁をしている証明だろう。

 更に厄介なのがオークジェネラル自身一度はその非を認め、更に自分より格上の者にはあからさまに責任転嫁をしようとしないところ。

 その場にいない者か明らかに自分より下の者、それこそ肩書通りオークジェネラルの所有物だったオークの娘にのみ責任を押し付けようとするのだからかなり性格が悪い。


 一度オークジェネラルが自分の娘に責任転嫁する場面をその目で見た事があるバイフーは私の考察に多少納得の表情を浮かべたが、テアトロが不思議そうに首を傾げながら私に問いかけて来た。


「ナゼ、ソウ、イイ、キレェル?」

「これが一番“楽”だからですよ」

「ラク?」

「だってそうでしょう? 他人に全部の責任を任せてしまえば、謝罪も嘘も言い訳も開き直りも、何もしなくていい。人に謝るのも嘘や言い訳を考えるのも面倒な事ですし、開き直りなんて後々の信頼関係の事を考えればもっと面倒な事になる。だから、自分より下の誰かに責任を押し付けてその場を後にしようとするんです」


 人間にも言えることだけど、そこそこ頭が良い人というのはより面倒事を避けたがるもの。

 オークジェネラルの場合、かなり欲深く自己中心的な性格に対しやり方や言動がまさにそんな面倒事を避けたがる悪い人のそれにそっくりだ。

 

 楽して情報を集めてDPや宝を稼ぐネズミ講を筆頭とした詐欺行為に罪を暴かれた際の自分の娘への責任転嫁。

 第一層以外は特にこれといった特徴的な仕掛けや謎のないダンジョンのテンプレ中のテンプレといった迷宮で構成されたダンジョンに、一番強い魔物を最深部に置くというダンジョンあるあるでありながら、私に対してはあまりにも安直過ぎる人選ミス。

 オークの娘を叱る際に見せた、正論でありながらも相手に理解させようとする中身がないお説教。

 どれも自分が背負う必要のある面倒事を避けて自分の望みを無理に叶えようとした結果、なるべくしてなった結果と言っていい。

 自分を世界の中心だと考えるその傲慢っぷりと自分の願いはどんな手を使っても叶えたがる欲深さはタケル青年に良く似ているけれど、オークジェネラルの場合はそれらよりも「面倒な事や自分がしたくない事はやりたくない」という面倒臭がりの面が強いと私は感じた。


「ロッソさんの場合、自分が亜種であることか別のなにかにコンプレックスを感じているのか知りませんけど、自分の苦労や実績を認めて貰いたがるもんだから余計厄介なんですよ。欲しい物は欲しい、周りに認めて欲しい、でもその為に必要な過程は誰かに押し付けて自分は楽して手に入れる……って、本当矛盾している考えです」


 初対面のあの日、オークジェネラルはこんな言葉を漏らしていた。

“自分が若い頃は亜種という事で結構同種族の者や他の魔物達との関係性で随分と苦労したんでねぇ”

 一見、ついポツリと漏らしてしまった独り言。

 だけど彼の目には当時の苦難を思い出して懐かしむ感情や過去に対する負の感情は一切宿っておらず、こっそりとバイフーを見据えていた。

 まるで、何かを期待しているような目だった。

 きっと、バイフーか私達がそんな独り言に対して何か言葉を返す事を望んだんだろう。


『それは災難でしたね』

『そんな苦労を乗り越えて此処まで登り詰めたなんて凄いですね』


 そんな、同情や称賛の言葉を求めていたんだろう。

 自己承認欲求。

 彼は、自分が如何に凄いオークジェネラルであるかを、自分がどれだけ苦労を重ねて来たのかを周りに認められたがっている。

 正直、実際のところ本当にそんな苦労をしたのかなんて分からない。

 恐らくではあるけど、彼の元妻がオークジェネラルとオークの娘を置いて行方を眩ませたというのも嘘だろう。

 野生のオーク族はゴブリンやミノタウロスと同じく群れで生活する魔物だとタンザから聞いている。

 仮にこの話が本当なら群れから離れたのはオークジェネラルの元妻であって、オークジェネラルではない。

 仲間のオーク達と今のダンジョンまで移動してきたのなら他にオークがいるだろうし、元妻が行方をくらませたからダンジョンマスターになったというのはいまいち説明になっていない。

 オークジェネラルが自分の娘を連れて群れを離れてダンジョンマスターになった理由を推察するに、オークジェネラルかオークの娘の何かが原因で群れを追い出されたか、元々住んでいた場所が壊滅してそこを去らざるを得なかったか、この2つだろう。

 本当の理由が後者だった場合、なんで嘘の理由を伝えたのか気になるところだけど、オークジェネラルが周りに同情や称賛を得たいと考えているのは確かだ。


 望んだ物はどうしても全て手に入れたいし、周りの人に自分の苦労や実績を認めてもらいたい、でもそのために自分が沢山苦労をするのは嫌だ。

 それがオークジェネラルの根底。

 傲慢で欲深い、気が短くて自己中心的。

 その本性は自分が楽して望みを叶える事を第一として考え、それでいて自己承認欲求を満たそうと考える自己顕示欲の強い面倒くさがり屋。

 此処まで考察出来れば、オークジェネラルが負けるように誘導することが出来る。


「自己承認欲求の強い方は自分が称賛されず他の方が称賛される事に対し焦りや負の感情を抱きやすい。SNSの映えとかバズりを気にする人とかもそうですし」

「バエ?」

「バズリ?」

「すみません、元いた世界の用語です。取り敢えずロッソさん的にはダンジョン戦争に勝つ事に加え、自分が称賛なりなんなりで目立つ事を望んでいると思うんですよ。望んでいるというか、そうなると考えている? ですかね」

「デハ、カレ、カワリ、アイネス**、メダツ、カレ、アセル、カァモ」

「かも、ではなく、絶対焦るでしょうね。なにせ私は存在感がある方ではないですから目立って承認欲求を満たすのには最適だと感じていたでしょうし、そもそも自分のダンジョンが此処まで攻略されるなんて思ってもみなかったでしょうから」


 地味で冴えなくて、メイド服を着ればあっという間に侍従として溶け込んでしまえる程カリスマ性が感じられない私。

 引き立て役としてはこの上ないくらい適役だろう。

 そんな私がオークジェネラルを差し置いて目立ちまくって注目を浴び続ければ、予想外の戦況の劣勢にプラスしてオークジェネラルをより精神的に追い詰める事が出来る。

 その場に私かオークの娘がいれば怒鳴り散らして動揺を抑える事も出来たかもしれないけど、残念ながら私もオークの娘も別の場所にいたからそれが出来ず、ただただ焦りや動揺を募らせるばかりだったはずだ。

 最後の最後で派遣させた増援のオルトスとポイズンレッドスパイダーが良い証拠だ。 


 此処でふと疑問が思いついたように、私の話を聞いていたバイフーが尋ねてきた。


「ダガ、ドッチ、メダツ、ドウヤッテ、ワカル? アイネス、アレ、ベツ、バショ、イル」

「いるじゃないですか。どっちに対して注目を浴びせているのか、称賛を浴びせているのかをリアルタイムで教えてくれる方達が。バイフーさん達も、彼らの実況を聞いて此方の状況は把握出来ていたでしょう?」

「! ダークエルフ、ジッキョウ、デェス、ネ!」


 私の返答を聞いた2人は、手を叩いて納得してみせた。

 フェスタン達の実況は此方の世界の言葉のみなので私は何を言っているのか分からないけれど、実況の腕前がかなりのものだというのはなんとなく分かる。

 そして、彼らの主であるディオーソスさんはより楽しそうな方、面白そうな方を優先するエンターテイナー体質。

 そんな主の希望に添える為、2人はより目立つ方の実況をしていたはずだ。

 異世界の文化を混ぜつつもあまり派手とは言えない私の試練で足踏みをさせられているオークジェネラルと本来の性格とは裏腹に派手で奇抜な戦法を取りながらサクサクと攻略を進めている私、どっちに注目するかなんてすぐに分かる。

 このために私はただ迷宮内を突破するだけなら第5階層の始めから最深部でダンジョンコアに触れる直後まで<隠蔽>を掛けておけば良い所を敢えてせず、最深部前まで奇策を取って突破して、最深部の戦いではかなりド派手な戦いを演出した。

 私が派手な行動を取りながら攻略を進めれば進める程実況席のフェスタン達がその戦況を全体に実況として伝え、それを聞いたオークジェネラルは余計に追い詰められる。

 精神的に追い詰められればその冴えた頭脳に制限が掛けられ、本来の性格を見せ始め、そして最後の最後でミスをしやすくなる(・・・・・・・・・)


「最深部前に用意された挑戦はロッソさん1人にはほぼ攻略不可能な内容のものです。私がダンジョンコアに触れるまでの時間稼ぎが第一の目的ですが、それとは別に大きな罠を仕掛ける為の仕込みの一つでもあります」

「ワナ?」

「先程も言った通り、ロッソさんの根底の性格は如何に楽して自分の望みを叶えるか。殆ど攻略不可能だと分かる挑戦とは別に比較的楽な攻略法を置いてあげれば、殆どの確率でロッソさんは比較的楽な攻略法を取るでしょう。幾つかミスリードを置いてそれらしいヒントを置いて上げれば、より一層引っ掛かりやすくなります」


 各部屋の説明役には『挑戦をクリアしたら次の部屋に行けるとは明言しないこと』と、『ダンジョンコアが正確にどの部屋の何処にあるのかははぐらかすこと』の2つを伝えてある。

 こうすれば、頭の良いオークジェネラルは後の方で『挑戦をクリアしなくても先に進めること』と『ダンジョンコアが最深部に設置されてない可能性がある』事の2つに気が付く事だろう。

 そしてオークジェネラルはその場で挑戦の続行を止めて、『本当のダンジョンコアの隠し場所』を探し始める。

 その隠し場所こそ、オークジェネラルを敗北に追い込む為の罠が仕掛けられているとも知らず。


「何時オークジェネラルがこの事に気が付くかは流石に推測出来なかったので幾つかのポイントに偽物のダンジョンコアを設置しましたけど、一番有力なのはゴブ郎くんとヨツキさんのいる最後の挑戦の天井に設置してある奴でしょうね。最後の最後で気が付いた時、真っ先に目に入るのがあれですから」

「ソコ、マデ、ソウテイ、デキル、モノ?」

「そうなるように挑戦内容の調整とかしていますからね。バドミントンは羽根を返す為に上を見る必要のあるスポーツでもありますから。ワンチャンそれに気が付かない可能性と逆にもっと早くに気が付く可能性もあるので別ルートを設定してはいますが、本命ルートはゴブ郎くんとのバドミントン中にオークジェネラルが天井のダンジョンコアに気が付く事です」

「サスガ、アイネス**、スゴォイ」

「頭脳を必要とする対戦系スポーツ、ストラテジーゲームに関して『相手の行動を推測した上での対処』と『相手の選択肢を狭めた上で相手に望みの行動をさせること』。簡単に言えばマジシャンズセレクトと同じものです。相手の思考を読み取って途中の過程で心を揺さぶって、最終的には此方が提示させた選択肢を選ばせる事で相手にその選択肢が此方の用意した物だということに気が付かせない。頭が良い事を自覚している人には覿面の作戦ですよ」

「ハツゲン、ニンゲン、コドモ、チガウ」

「ソレ、カンゼン、イチリュー、グンシ、セリフ、デェス」


 バイフーとテアトロに化け物でも見るような、呆れたような、そんな複雑そうな目で見られているけど、敢えてスルーすることにする。

 きっと碌なことではない。

 考察厨で推測厨なのは私のアイデンティティでもあるので直しようがない。


「デ、ソノ、アト、ドウナル? ドウヤッテ、ヤツ、マケル?」

「バイフーさん達には言いましたっけ? 和室のハリボテ(・・・・)の中でマリアさんとサユリさんが行う挑戦のこと」

「タシカ、ジンモン、ダァト」

「あれの目的は尋問してオークジェネラルに罪を自白させることじゃありません。尋問中にオークジェネラルに『NG行動』を課す事です」

「エヌジー……コードー?」

「所謂、禁止事項……もしくは口約束ですね。まあようするに、オークジェネラル自身に自分の行動を縛るルールを作らせるんですよ」


 マリアとサユリのいる和室というのは、ダンジョン戦争前に急遽スケルトン達とミノタウロス達が協力して建築したハリボテの部屋だ。

 中から入ってみれば一つの部屋のようにはなっているけど、上から見るか外の方から良く見れば前の部屋の扉と繋がっているだけでテレビ局の撮影現場みたいに大きな空間の中に小さな部屋がポツリと建てられたもののようだと言うことが分かる。

 そして、マリアとサユリのいる和室には一つの看板を設置した。


『この空間内での矛盾した発言を禁ずる。嘘を並べるにしても、その嘘を突き通さなければならぬ。決して己の言葉を違えてはならない』


 一見すれば『分かりやすい嘘はつくなよ』というようにも読めるけど、本当の意味はそうじゃない。

 この看板に書かれたルールの真意は『自分が言った事は破らないように守りましょう』だ。

 オークジェネラルが「自分はジャンプをしない」と言えばオークジェネラルはダンジョン戦争中にジャンプをすることが出来なくなる。

 一度でもジャンプをすればその時点で先程言った発言は矛盾、つまりは自分の言葉を違えた事となり脱落する事が決まる。

 口約束の有効化とNG行動の自己宣言。

 それがマリアとサユリが担当する挑戦の全貌だ。


「バイフーさんとテアトロさんは、『掛詞』って知ってますか?」

「『カケ、コトバ』?」

「ナニ、ソレ?」

「2つの意味を同時に持った言葉の事ですよ。修辞法って言って、表現方法の1つでもあるんですけどね。所謂言葉遊びってやつ。アルファさんは分かります?」

『Yes。マスターの故郷にて存在する和歌に主に使用されるもの』

「私の元いた所……いや、これは何処でも共通か。兎に角そういった掛詞なしでも2つの意味を持った言葉が結構多いんですよね。いい加減なことと適切な具合の2つの意味する『適当』だとか、優れていると不必要の2つの意味を持ってる『結構』とか、その故郷の人間でもややこしいと思うくらいの。マリアにはロッソさんを挑発しつつ、掛詞を利用してNG行動を宣言させるように誘導してもらうように頼んであります」

「ホウ……」


『ダンジョン内にルールを設定する時は事前に相手に言いましょう』というルールはあるけど、その時告げたルールの解釈はルールを設定した側の解釈を用いられる。

 前回のダンジョン戦争の時に聞いた所によると、ダンジョン戦争のゲームマスターを担当するのは<オペレーター>の上位に当たるシステム、オペレーターシステムなんだそうだ。

 そして、<オペレーター>さんはなぞなぞや引っ掛けクイズのような言葉や発音、意味を曲解した問題は苦手だけど、その実辞書に載っているマイナーな言葉の意味を全て解答出来るぐらい超有能AIスキルだ。

 此方が複数の意味を持たせた上で言ったとしても、<オペレーター>の上司に当たるオペレーターシステムはその全ての意味を汲み取ってジャッジをしてくれる。

 私自身も<オペレーター>の有能ぶりが此処に生きるとは最初の時は思わなかった。


「デハ、ソノ、エヌジー、コォドォ、ナァニ?」

「一応事前に幾つか決めておいて、その時の流れに合わせてそれらのNG行動を宣言させるようにマリアさんには言ってありますけど、その中で一番ありえるのは……」


 テアトロの質問に答える為、私は再び思考を巡らせる。

 NG行動の宣言の誘導は誘導、籠絡を得意とするマリアの仕事だ。

 どういう流れになるかはその時にならないと分からないから、ダンジョン戦争が始まる前に出来るだけ多くのNG行動候補をマリアと一緒に決めておいていたのだ。

 その候補の中で一つ、マリアが特に気に入っていた物があった。

 

 私はアルファの方を向き直ると、携帯アプリで尋ねるようにアルファに問いかけた。


「アルファさん、アルファさん。以前渡した辞書に載っていた、『見下す』の意味を言ってみてください」

『見下す、意味。侮って相手を下に見る。相手を馬鹿にしてみる。侮りみる。下を見下ろす(・・・・・・)

「……シタ、ミオロス?」

<***! ロッソ***********(ダンジョンコア)*****(見つけた)***!! **(挑戦)***(放棄)****(壁を)****(登って)**!>

<**(これ)*******(勝つ)*********>


 アルファが淡々と述べていった意味の一つに、テアトロとバイフーが反応を見せる。

 それと同時に、何処からともなく実況席2人の実況が聞こえてくる。

 どうやら今、オークジェネラルが罠に引っ掛かったようだ。

 私は3人に語るように話す。


「これは私の推測ですので実際のところはどうなのかは分かりませんが、仮にロッソさんが私の推測通りの流れで運動場の天井に設置してあるダンジョンコアを見つけたとします。彼は当然、そのダンジョンコアに触れる為に近くの壁を登っていくでしょう。何故ダンジョンコアのある場所の近くの壁に登り下り出来るように設置された取っ手があるかも疑問に思わずに」


 動揺と焦りは考えと視界を狭める。

 私達よりも早くダンジョンコアに触れる為に、オークジェネラルは小さな疑問を気にかける事が出来ないはずだ。


「天井近くまで登ったロッソさんはすぐにその近くにあるダンジョンコアに触れるはずです。本来ならばそこでダンジョン戦争は終わりロッソさんの勝ちになりますが、残念なことにロッソさんが触れたダンジョンコアは真っ赤な偽物。ダンジョン戦争の終了を告げるアナウンスは流れる事はない」


 ゴブ郎達のいる運動場の天井に設置されているのはそれっぽい水晶玉を台に取り付けてLEDライトで照らしているだけの物。

 だからオークジェネラルが天井近くまで辿り着いてそれに触れたとしても、勝利条件に満たした事にはならない。

 自分の勝利を告げるアナウンスが流れない事に、オークジェネラルは更に焦る事になる。


「ゴブ郎とヨツキさんにはロッソさんが壁を登り始めたらその近くまで寄って、下からロッソさんに声を掛け続けるように指示を出しています。普通ならそれはなんてことない事、むしろ心配されているのだから有り難い事です。だけど、焦りに焦って極限まで追い詰められてしまっているロッソさんにとっては、更に心を揺さぶる騒音でしかない」


 オークジェネラルは怒りっぽく、自分より下の者を格下だと蔑み責任転嫁させる性格の持ち主だ。

 勝利を告げるアナウンスが流れず、更に動揺しているところに格下認定している2人から声を掛けられれば、やり場のない怒りと偽物に騙されたという自分のミスを言い訳付けて押し付けようと試みる。


「誰かに説教する時、怒鳴る時、人は何かしらの事情がない限り相手の方を向く事になります。当然ですよね。別の方向を向いて誰かに怒鳴る人なんて、何処にもいませんから」


 オークジェネラルは自分の娘に罪を擦り付けて責任転嫁する際、癇癪を起こすように自分の娘を怒鳴り散らしていた。

 ならば当然、ゴブ郎とヨツキ相手……ひいては私達のダンジョン相手に責任転嫁する時も、同じように怒鳴り散らすことだろう。


「だけど、此処で彼らの位置関係を思い浮かべて見てください。壁には登らず地上から声を掛け続けているヨツキさん達に対し、ロッソさんは天井に設置されたダンジョンコアに触れる為に天井に近い上の方にいる。その場でロッソさんが2人を怒鳴る為に顔を向けた場合、どうしてもロッソさんは2人を見下ろす体勢になってしまう」


 ヨツキとゴブ郎を上から見下ろす。

 自分より下位種族にあたる2人を、他の誰でもないオークジェネラル自身が格下だと認識している2人を、オークジェネラルが上から見下す。

 それは和室でマリアに「自分より下の魔物を見下さないか」という質問に対し「見下さない」と告げて、自ら課した禁則事項に矛盾する事になる。

 自分の発言と矛盾した行動を取ってしまっている。

 それは看板に記されたルールを明らかに違反した行動だ。


「『ルールを破った魔物はダンジョン戦争から脱落扱いになり、ダンジョンマスターが破った場合はその場でダンジョン戦争は終了。ルールを違反したダンジョンマスター側の負けとなる。』この絶対のルールに則れば、ダンジョンマスターであるロッソさんがルールに違反した時点で、このダンジョン戦争は終わりを告げます」

『告。ダンジョンマスター・ロッソ、ダンジョン内のルール違反により脱落』


 丁度、オークジェネラルがゴブ郎達を見下ろしてルールを破ってしまったようだ。

 何度か聞こえていた<オペレーター>の声が、オークジェネラルに敗北という名の宣告を告げる。


「誰かに足を引っ張られたわけじゃない。此方がズルをしたわけじゃない。他の誰でもないロッソさんが私達を侮り見落とした事で生まれたミスによる敗北です。格下を舐めないでください、二流ペテン師め」

『ダンジョンマスターの脱落が認められた為、ダンジョン戦争が終了しました。勝者、ダンジョンマスターアイネス』


 そして2度目のダンジョン戦争が終わりを迎えた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] バトル勝利おめでとう 順当な結果でしたが、振り返れば危ない場面が色々ありましたね
[一言] これ、ロッソは納得しないんだろうな。でも本番は、戦争後の配下のモンスターからの信用喪失や格上の配下から侮りと慢心に対して注意される事になりそうだな。
[良い点] 自分が勝つのではなくて、相手に負けさせる戦術大好き。 [一言] 201話読み返したけど、読者にすら多分ミスリードかけてる。どう考えても最後の質問で引っかけるって思ってたのにまさかその前がト…
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