亜種と蔑むな。見下すな
生まれた時から気に食わなかった。
同種族の者達の異物でも見るかのような目が。
内心嫌々なのが感じて取れるような言い回しが。
俺の言う通りの事をまともに出来ないあの無能さが。
俺の有能さを理解しようとしない鈍感振りが。
そんな同種族の何もかもが俺は気に食わなかった。
俺には出来の良い兄貴がいた。
兄貴は他の同種族の者と同じ体色を持つ通常のオークだった。
兄貴は真面目で仲間思いで、集落のオーク達の中でも評判の良い雄オーク。
一方俺は普通とは違う体色を持った亜種で、不良オーク達と問題事しか起こさない厄介者。
自分と特徴が違う者を嫌う魔物にとって、どちらが慕われるかなんて分かりきっていた。
やがて兄貴は集落の族長に選ばれ、俺は集落の外れ者として噂されるようになった。
ふざけるな。俺は亜種。本来なら集落のトップに立つに相応しい素質を持ったオークなんだぞ。
力自慢だった代わりに頭の軽かった兄貴と違い、俺は頭も良いし話術も巧みに操る事が出来る。
この話術で他種族の魔物とも同等に渡り合って来たし、俺の優秀さを理解する同種族達には慕われていた。
なのに何故、亜種である俺ではなく普通種の兄貴が選ばれるのだ。
俺だって力は強い方だし、頭脳と話術であれば集落で俺の右に出る者はいなかった!
なのに、何故皆俺を敬わないんだ!
俺は集落のトップとして……いや、世界の中心に立つオークとして相応しい男なのに!
兄貴が族長になって翌日、俺は集落の外れに住居を移動した。
クソ真面目な兄貴は俺が突然集落の外れに越した事に色々言ってきたが、俺はそれらを全て跳ね除けた。
俺を説得しようとする兄貴の後ろで、あからさまに安心した表情を浮かべる同種族の顔が気に食わなかった。
基本他種族の女しか侍らせない俺だが、生涯に2度程同じオークの雌と結ばれた事があった。
一度目は集落の中でも中々の器量持ちの女オークだった。
得意の話術で口説き落として恋人関係になった。
将来は番として結ばれ家庭を持つ間柄になるだろうと考え、俺はその女が喜ぶよう尽くしてやった。
女が喜びそうな宝石類や美味しい果実なんかも渡してやったし、景色の良い場所に連れてってやったりなんかもした。
アイツにとっても、俺は良い伴侶だったはずだ。
なのに。
なのに、なのに、なのに!!!
『いい加減にして! もうあんたとは付き合いきれない!! 別れさせてもらうわ!』
『何を言っているのだ!? 今まで俺がお前のためにどれだけしてやったと思っている! やはり口では亜種かどうかなんて関係なく好きだって言いながら、お前も他の同種族の奴らと同じく俺を見下していたのか!!』
『そうは言っていないでしょう!? わたしはあんたが過ごしやすいように料理とか掃除とか出来る事はしてたのに、あんたは狩りもせず住処でぐーたらして、いつもいつもわたしに感謝の言葉一つもなく失敗した所や出来てない所をグチグチグチグチと怒鳴り散らして不満を垂れ流して!! あんたみたいに世界が自分中心で回っていると思ってる雄なんてもうごめんよ! これだったらあんたのお兄さんと結ばれれば良かった!!』
『俺が兄貴よりも劣るとでも言うのか!? 巫山戯るな!!!』
あの雌は、俺の言葉も聞かずに勝手に恋人関係を解消し、集落へと帰って行った。
その数日後、集落に迎えばあの雌は他の雄オークと仲睦まじげに寄り添っていやがった。
あの雌オークはきっと俺と別れる前から他のオークと結ばれてやがってたんだ。
そして他とは違う俺をからかう為に恋人関係になったんだ。
きっとそうだ。そうに違いない。
俺に非なんて何処にもないのだ。
『赤い体色のオーク? へぇ、珍しいわね』
『なんだ? 貴様も俺を亜種のはぐれ者と罵るつもりか?』
『何処に罵る所があるの?』
『なに?』
『他と違う所があるなんて、とても素敵じゃない』
二度目に結ばれたのは、一度目の女と別れて3ヶ月後にやって来た女オークだった。
彼女のいた前の集落は上位種族の魔物に襲われた事で散り散りになり、彼女は次の住処として俺のいる集落を選んだそうだ。
その女はどの女オークよりも美しかった。
所作も見た目も声も、その佇まいすらも魅力的。
おまけに薬草などを使った医学を中心とした事に博識で、俺ほどではないが頭が良い。
多少変わり者ではあったが、とても良い女オークだった。
亜種の俺と変わり者の彼女。
自然と噛み合うように仲が深くなり、伴侶として結ばれた。
集落の男達が見惚れる程美しい彼女を伴侶に出来た事は、俺を優越感に浸らせた。
やがて彼女は子供を身籠り、娘を産んだ。
娘は彼女と同じ普通種ではあったが、それでも俺の娘であることには変わりなかった。
結局彼女とは娘が幼い内に破局してしまった。
『私はあなたと良い友人にはなれそうだけど、あなたが満足出来るような女にはなれそうになかったみたいだわ』
そう、彼女は言っていた。
一度目の女と違いスムーズに和解した上で別れたせいか、彼女とは気の合う友人として関係は持っていた。
偶に娘に会い、偶に友人として会話を弾ませ、そこそこ良い関係を築いていた。
彼女からよりを戻したいと言ってくれば、また番として出迎えるつもりだった。
しかし、それは叶う事はなかった。
彼女と別れてから一年後、冒険者達によって俺の集落は襲撃された。
兄貴も、一度目の女も、口煩いクソ親父も、俺を疎外に扱った者達も、全員殺された。
そして変わり者で薬草に詳しかった彼女もまた、冒険者達の襲撃によって命を落とした。
生き残っていたのは、集落の外れで生活していた俺と、彼女に庇われ身を隠していた娘だけだった。
『おとうさん! お母さんが……お母さんが!!』
『お、落ち着け! 大丈夫だ、まだ俺がいる! 今日から彼女の代わりに、俺がお前の面倒を見てやる!』
そして俺と娘は壊滅した集落を出て、新たな住処を探す旅に出た。
しかし新たな住処探しは困難に満ちていた。
オーク族の集落はそこまで少ない方ではないから数日歩き回れば簡単に見つけられるが、此処に来て亜種という弊害が出てしまった。
余所から来た訳ありそうなオークの親子、それも父親の方が亜種だと分かると、同種族の者達は俺達が集落に入る事を拒絶した。
それに俺はともかく娘はまだ幼かったから、一日に歩ける距離も決まっているし食材や飲み水も俺が見つけてやらないとならない。
娘は俺を慕い、俺の言葉に従順に従ってくれるが、それでも面倒で困難であることには変わりなかった。
やがて娘が成長すると、自然と役割分担が生まれた。
外での食材確保や敵の撃退は父である俺が。
たどり着いた同種族の集落内での物々交換は普通種である娘が行うようになった。
娘は俺とは違い口下手で要領は良い方ではなかったが、俺が旅の途中に話術を教え込んだ事でそこそこの交渉は出来るようになった。
素直に俺の言うことを聞いてくれる娘は、例え出来が悪かろうととても可愛かった。
それが変わったのは、とある集落に訪れた時のことだった。
いつもどおり俺は集落の外で娘が帰ってくるのを待っていると、偶然その集落のオーク達の会話が聞こえてしまった。
そのオーク達は、俺達父娘の事を話していた。
『先程やって来た娘の話、聞いたか?』
『ああ、聞いた聞いた。なんでも前の集落を襲われて、亜種の父親と新しい住処を探してるんだってな。災難なこった』
『娘さんの方は悪い子じゃないみてぇだから迎え入れるのは良いけど、亜種を迎え入れるのはちょっとなぁ……』
ああ、まただ。
此処の集落の奴らも亜種というだけで俺を蔑むつもりなのだ。
こんな集落、俺の方からごめんだ。
俺は亜種。他の奴らよりも優れているのだ。
体色の違い程度で俺の優秀さに気が付かない同種族のいる集落など必要ない。
必要なら、娘と共に何処かで暮らして行けば良いだけなのだから。
そう考えてその場を後にしようとした時、話をしていたオークの一匹が言い放った言葉に俺は足を止めてしまった。
『というか、その亜種のお父さんとあの娘さんって、本当に血が繋がっているのか?』
『お、おいおい、バカな事言うんじゃねぇよ!』
『だってそうだろ? 亜種のオークの父親から、普通種の娘が生まれるものか?』
『それは……確かに気になる所だけどさぁ』
『だろ? 魔物じゃ良くある話だろう? 母親が他の男の子供を孕んでた、って話はさ』
血が、繋がっていない?
俺と、娘が?
確かに、何度か疑問に思った事はあった。
俺と共にいる娘は、本当に俺の子なのかと。
赤い体色の俺と違い、娘は母親である彼女と同じ普通種の緑色の体色。
瞳の形や色だって俺のものとも母親のものとも違う。
それでも、それでも、あの娘は俺と同じ赤い色を瞳に宿しているのだ。
俺以外に赤い瞳を持ったオークなんて集落にはいなかったはずだ。
そう、いなかった、はず――――
『ロッソ。そろそろ集落に戻って来てはくれないか?』
『何度も言っているだろ? 俺はあんな集落で他の奴らと一緒に過ごすのはごめんだ』
『そう言ってくれるな。これでも俺達は同じ母親から生まれた兄弟だろう。確かに体色は違えど、瞳の色は『俺と同じ』なんだ。ちゃんとロッソから距離を縮めれば、皆も分かってくれるはずだ』
ああ、いたじゃないか。
もう一匹、赤い瞳を持ったオークが。
甘く、深い赤色の瞳を持った、俺と最も血が近い家族。
俺が最も忌避していたあのクソ兄貴が!!!!
『お父さん、お待たせ。半月分の食糧を貰ってきたわ。これで暫くは大丈夫なはずよ』
『……』
『お父さん?』
結局、どいつもこいつも同じだったのだ。
亜種と言うだけで俺を見下し、嘲笑う、愚か者。
本当なら、今すぐに目の前にいる裏切りの象徴を切り捨ててやりたかった。
しかし、頭がそこまで良い方ではない娘のことだ。きっとあの娘……いや、アレはこの真実を知ってはいないんだろう。
だから、アレのことは情けを与えて許してやる事にした。
それから、俺は“アレ”を自身の娘ではなく、最も憎々しい兄貴と死の間際まで俺を騙していた女の残した“物”として見るようになった。
俺がオークからオークジェネラルへと進化した時も、偶然見つけた空のダンジョンの主になった時も、俺はアレを見捨てる事はなかった。
騙されていたとはいえ、一度は愛した女の産んだ娘なのだから、見捨てられるはずがない。
しかし、娘という甘やかしや家族の情というものは一切与えなかった。
優秀な配下達と同じレベルの仕事をやらせ、少しでも失敗すれば厳しく説教をした。
アレは段々と口数が少なくなったが、そんな事は知ったことか。
アレなんかよりも、俺の方がよほど不幸な目に遭っていたのだから。
俺にとってダンジョンマスターという職業は天職だったようだ。
自慢の頭脳や話術を扱う事が出来る経営。
配下達は俺を亜種だからと馬鹿にすることはないし、アレも多少の雑用程度には役にたっている。
ダンジョンマスターになってからというものの、俺の生活は最高のものになった。
どんな相手だろうと、俺に敵う事はない。
ダンジョン戦争だって同じだ。
俺はどんな相手だろうと負けな――――
<き、き、決まったーーーー! アイネス様が召喚した配下達により、最深部を守っていた魔物達が全てダウン!! 見事勝利を勝ち取りましたーー!!>
<この展開は予想外~>
<足を負傷し、魔力も無くなり大ピンチか!? と思った所でのまさかの大逆転劇でした! 今回のダンジョン戦争の勝敗は既に決まったも同然か?!>
<ロッソ様はもっと頑張らないと負けちゃうよ~。頑張れ~>
最後の試練に挑戦しているところに聞こえたダークエルフ達の声。
俺は思わず拳を握りしめた。
俺が、負ける?
そんなこと、あるはずがない。
あっていいはずがないんだ。
##### #####
オークジェネラルに課せられた最後の挑戦。
それはゴブローとのバドミントン対決であった。
ルールは至ってシンプル。
ゲーム無制限の対決で、ゴブローから3ポイント取ること。
物の破壊や戦闘行為は禁止。
一見単純で誰でも達成出来そうな挑戦内容だが、最後の挑戦として設定されたこともあり、そう甘くは出来ていなかった。
むしろこの挑戦こそ、アイネスの推測や計算が詰め込まれたものだと言っていい。
まず、オークジェネラルとバドミントンの相性。
魔物達の中でも足が遅い方に入るオーク族……それもオークジェネラルはダンジョンマスターになって以来食って寝て女を侍らせての生活だったため、反射神経とスピードはかなり劣っている方だった。
純粋に反射神経とスピードを求められるバドミントンという種目は、オークジェネラルにとってかなり相性の悪いスポーツといえよう。
「ぎゃっうー!」
次に、バドミントンの相手も悪かった。
オークジェネラルの相手をしているゴブローは頭こそ良くないけれど、アイネスとほぼ互角に渡り合えるぐらいにはバドミントンの腕が上達している。
例え頭が良かろうと、ついさっきルールを教えてもらったばかりのオークジェネラルが敵う相手ではない。
「ちょ、挑戦者側、アウトです。ご、ゴブローさんに加点されますっ!」
最後に、この勝負の審判、ヨツキの存在があったのもオークジェネラルにとって不利になる原因であった。
ヨツキの持つスキル、<不運>は<幸運>というスキルとは正反対の効果を持つ、運が悪くなるスキル。
しかしこの効果には、スキルの所有者であるヨツキ自身も勘違いしている事がある。
<不運>で運が悪くなる対象はヨツキ自身“だけ”ではない。
<不運>のスキルの対象はヨツキ自身と、ヨツキ以外の誰か。
つまりはアクティブスキルなのだ。
ヨツキはその気になれば望む相手の運を悪くすることが出来る。
ただその真実を知らなかったせいでスキルが勝手に発動し、ランダムに自分や誰かの運を悪くさせていただけ。
それに気が付いたのは、偶然にも<不運>とは正反対のスキル<幸運>を持つトレニアの希望によりアイネスが<鑑定>を使った結果である。
――――ヨツキのスキルにアイネス様の<鑑定>を使って欲しい、ですか?
――――そうでございます! アイネス殿であればヨツキ殿のスキルの使いみちも分かるのでは、と思ったのでございます故!
――――ふむ、いかがなさいますか? アイネス様?
――――別#減るもの##ない#、全然良い###
――――感謝するでございます!
そうして<鑑定>を試みた結果、<不運>の本当の効果が分かった訳である。
ダンジョン戦争の準備期間中、ヨツキは<不運>のコントロールを練習した。
全てはこの最後の挑戦で、オークジェネラルの足止めをするため。
ヨツキの<不運>でオークジェネラルに不運を与え、ゴブローが実力で叩き伏せる。
最強と言えぬ魔物二匹によるこの挑戦が、アイネスのダンジョンにおいて最も達成の難しい挑戦であった。
何度挑戦しても3点どころか1点も取る事が出来ずオークジェネラルに焦りと苛立ちが募っていたその時、ダークエルフ二匹の実況によって知らされた内容が更にオークジェネラルの精神を追い詰めた。
最深部を守っていたSSR魔物三匹が戦闘不能状態にさせられ、
もう最深部によこす事が出来る増援も存在しない。
優秀な配下達も、切り捨てる事が出来る奴隷もいない。
新しく配下を召喚するスキルも、自分のダンジョンの最深部にいるアイネス達の足止めをする手段もない。
アイネスがオークジェネラルのダンジョンコアを触れるよりも先に、今この瞬間にでもどうにかアイネスのダンジョンコアを触れる事が出来なければ、オークジェネラルはこのダンジョン戦争で敗北する事になる。
オークジェネラルのせいで、負ける事になる。
それは、他者に責任転嫁する事によって己のプライドを守っていたオークジェネラルにとって最も避けたい事だった。
(そんな事、認めてなるものか!!!!)
楽しげにスキップをするゴブローを前に、オークジェネラルは顔を俯けて歯を食いしばる。
此処で負ければオークジェネラルは今まで手に入れた財宝やDPを全て没収されることになる。
否、それだけならまだいい。
最悪の場合、勝者による敗者への要求でオークジェネラルのダンジョンを取り潰しにされるかもしれない。
オークジェネラルにとって、それは受け入れ難い事だ。
頂点に立つ優越感を知った今、今更ダンジョンマスターになる前のように亜種というだけで自分の優秀さを認められない、受け入れてもらえない環境に戻るなど、オークジェネラルには耐えられなかった。
(考えろ、考えろ、考えろ!! どうすればこの危機的状況を乗り越える事が出来る!! どうすればあの小娘よりも先にダンジョンコアに触れる事が出来る!!)
オークジェネラルは自慢の頭脳を働かせて、思考を巡らせる。
彼にとっての最悪の結果(敗北)を逃れる為に。
(自陣営にさらなる増援を送る事は出来ない。だが、このふざけた挑戦を真面目にやって達成することは難しい。そもそもこんな巫山戯た挑戦、達成出来るはずがない! こんな挑戦がなければ、すぐにでも最深部に向かうことが出来るのに――――)
この時、ある事に気が付いたオークジェネラルはふと顔を上げた。
それは、今まで気にも留めていなかったちょっとした違和感。
とても些細な疑問だった。
”それについては安心していいよ! この挑戦の為に、こんな魔法道具を用意してくれたんだー!”
”さっさと挑戦の方を始めちゃうからね!”
何故かのリリスは、頑なに各部屋の試練を“試練”ではなく“挑戦”と言う?
”全ての料理を食べ終わった後は料理人との対話。それらが無事終われば見事、達成でございます!”
何故ルール説明をする魔物達は皆、“達成”なんて回りくどい言い回しをする?
”良いだろう。10の質問に正直に答えれば次へと行けるのだな?”
何故、何故、何故あの時かのリリスは――――
”うん、それで条件は達成だよ”
――――『次に行けるのか?』という己の質問に対しそんな回答をした?
その疑問に気が付いた時、オークジェネラルは一つの答えに辿り着いた。
(そうか、そういう事か。くそ、狡賢い小娘が考えそうなことじゃないか)
「ぎゃう?」
「あ、あの、どうしましたか……?」
オークジェネラルはラケットを持った手を降ろし、深い息を吐いた。
よく考えれば、容易く分かる事であった。
各部屋には確かに事前にダンジョン内に設定されたルールが記された看板が設置してあった。
しかし、それらで定めていたのは主に3つ。
味方同士の喧嘩の禁止と、戦闘行為の禁止。
そして『説明役の説明を大人しく聞くこと』だ。
何処にも、『説明役の告げる挑戦を達成すること』なんて書いていない。
それだけではない。
思い返してみれば、どの部屋の説明役の口からも一度だって告げられていないのだ。
『挑戦に達成しなければ次の部屋への扉は開かれない』とも、『次の部屋に行きたければ挑戦を達成すること』とも。
ただ、『達成する』と告げただけ。
謂わば、あれは茶番。
挑戦に挑む事は出来るけれど、達成出来ずとも次の部屋へ進む事が出来る。
ただダンジョンの攻略を盛り上げる為に用意された選択肢の一つ。
それがあの“挑戦”だったのだ。
その事に気が付かずオークジェネラル達は踊らされて、無駄に配下達を減らしてしまった。
これにはオークジェネラルも己の浅慮さを恥じた。
しかし、この事に気が付いた事で得た事もあった。
オークジェネラルはこの面倒な挑戦を達成できずとも、最深部に進む事が出来る。
今まで止められていた攻略の足を進める事が出来る。
まだ勝機があるのである。
(しかし、本当にこのまま最深部に行っても良いものなのか?)
オークジェネラルはこのダンジョン戦争で、アイネスの戦略に何度も騙された。
アイネスの考える戦術は、オークジェネラルの思考の範囲外にあるのだ。
下手にその場の状況を鵜呑みにして進めば足を掬われる事になる。
ゴブローの後ろにある扉の先が最深部に繋がっているかも分からない故、このまま扉を開けて進むのは止めた方がいい。
(仮にあの扉の先にダンジョンコアがないとすると、一体何処にあの小娘のダンジョンコアがあるのだ?)
前回のダンジョン戦争での隠し場所となった最初の間の壺の中にはダンジョンコアは隠れていなかった。
今まで進んできた部屋や道に、光り輝くダンジョンコアを隠せそうな場所は何処にもなかった。
これで最深部も罠だとすると、アイネスは何処にダンジョンコアを隠した?
仮に、自分がアイネスの立場であれば、何処にダンジョンコアを隠そうとするだろうか?
深く思考を巡らせた後、オークジェネラルは上を見上げた。
天井の端から端まで見回した後、彼はゆっくりと口角を上に上げ、醜く笑った。
(なんだ、実に簡単な事だったではないか)
オークジェネラルの視線の先、運動場の天井には幾つもの眩しい照明が設置されている。
その照明の中の一つに、妙に端の方に存在する物があった。
それは端に設置されているにも関わらずどの照明よりも美しい光を放っている。
オークジェネラルには、それがなんなのかがすぐに分かった。
「見つけたぞ……ダンジョンコア!」
それこそ、己が求めていた代物であると。
「ふはっ、はっはっはっ……はっはっはっはっは!!!」
「ぎゃう!?」
「あ、ちょ、ちょっと!」
オークジェネラルは手に持っていたラケットを放り捨て、アイネスのダンジョンコアがある壁の方まで向かう。
壁にはクライミング用の取っ手が存在しており、それを使って登ればダンジョンコアに触れる事が出来る。
先程までの苛立ちや疲労が嘘のように、オークジェネラルは壁を登っていく。
「あ、あわわ、危ないですよ……!」
「ぎゃうぎゃうー!」
下にいるヨツキとゴブローの声をオークジェネラルは無視する。
勝利が目前と迫っている今、アイネスの配下の言葉に耳を傾ける必要などないからだ。
そして一番上の天井近くまで辿り着いた時、オークジェネラルは目の前に存在するダンジョンコアに目を向けた。
「ハハハ……、手こずらせおって……だが、これで俺の勝ちだ!!」
勝利への喜びに満ちた声を上げ、オークジェネラルは目の前にある物に向けて手を伸ばした。




