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ド派手で楽しいボス戦 その1

「これはもう、あの娘が勝利するのは無理だろうな」

「そうじゃのう……。此処まで混戦状態になってしまえば、無闇に動けぬじゃろう」


 最深部に存在するコロシアムの片隅に移動し、鬼人族の秘宝とも言われる鬼魂のオーブによって理性なく暴れる己の同僚を見て、ウーとアルカードは呟いた。

 先程アイネスの反撃に遭ったビロープはまだ目が痛いのか目を擦りながら、その会話に参加する。


「かなり惜しい所だったのにね。あのとんでもなく複雑な迷路を一時間も掛からずに攻略して、更には自分の弱さを逆手にとってボクらとの戦闘を避けて、その上状態異常への対策も完璧に行っていたのに」

「実際、お前さんもつい先程反撃に遭っておったからのぅ……」

「うっさい、ジイさん。あんなの普通予想出来ないでしょ。予め自分に洗脳魔法を掛けさせて洗脳を防ぐなんてさ」

「それより、あの娘は何処にいるのだ? 気配が全く感じ取れぬが」

「大方、姿と気配を隠す類の魔法でも使ってるんじゃないかな? それもかなり高度な奴。ボクの目でも見つけられないって相当だよ」

「ほう、お前さんの<第三の目>さえも欺くことが出来るのか」


 ビロープの種族、ハクタクの強みは<第三の目>と呼称される解析スキルにある。

 相手のステータスは勿論のこと、千里眼や透視、ちょっとした過去視や未来視まで可能とするその目の力を求めてハクタクがいる地に来る者は少なくない。

 基本ダンジョン戦争時の攻略隊や最深部の防衛を担当としていて、更にはその役目も居眠りでサボる事が多い為ビロープがこのダンジョンにいる事は外の者に認知されていないが、その目の力でオークジェネラルを助けた事が何度かあった。

 種族共通としたサボり癖と居眠り癖、そして極度の面倒臭がり屋で主人のオークジェネラルの命令でもまともに力を使おうとしないという厄介さを差し引いても、その存在にはメリットを持つのでオークジェネラルはビロープをダンジョンから追い出さない。

 魔眼、鑑定眼、千里眼、心眼……視る力に長けた万物の知に精通する神獣ハクタク、それがビロープだ。

 そんなビロープの目でも認識不可能にするアイネスのスキルに、アルカードとウーは目を丸くした。

 

「そもそもさ、あの子普通じゃないよ。だってステータスが全く視えないんだもの」

「ステータスが視えない?」

「うん。ステータス画面自体は視れるけど、そのステータスに表示されてる文字が全然読み取れない。唯一確認出来たのは【ダンジョンマスター】という称号ただ一つ。それ以外はしっちゃかめっちゃかに書き記したみたいな感じ。異常っていうか……異質だよ、あの子」


 アイネスとの会話中、ビロープはその目の力を使ってアイネスのステータスを盗み視ていた。

 その結果、彼に視えたのは【ダンジョンマスター】以外の情報が全て文字化けしたステータス。

 視えなかったのはそれだけではない。

 ビロープはアイネスに対し幾つかの目の力を使用したが、彼にはアイネスの未来も過去も、その心模様さえも覗き視る事が出来なかった。

 まるでアイネスのみ別の空間に分けられたようだ。

 その事を不気味に思いながらもそれを表情に出す事はなかったが、ビロープはアイネスの異質さを一番に感じ取っていた。


「ふむ……なんとかして視ることは出来ないのか?」

「あまり視すぎるとあの子にバレちゃうかもしれないし、跳ね返された時の頭痛が痛いから嫌だね」

「暫しの頭痛ぐらいなんじゃ。普段から居眠りでサボっとるんじゃから、偶には働けぃ」

「今後も関わる可能性があるやもしれない娘の情報を事前に知っておく事が出来るなら、そなたの一時の頭痛など大したものでもないだろう」

「ハクタク遣いが荒いんだよジイさんら! 反動で来る頭痛は本当痛いんだからな!? それにしたってあの子が一度でも姿を現さないとどうしようもないよ。あの子、本当何処にいるんだ?」


 既に最深部内から逃走しているのでは? とも考える3体だったが、その予想はすぐに撤回した。

 最深部入り口前にはアイネスと共にやって来たアルファが変わらずそこに待機しているからだ。

 アイネスが逃走なり怪我なりすればすぐさま何かしらの行動に移るだろうと思っていたアルファは未だに微動だにしていない。

 それはつまりアイネスがまだ最深部内に潜んでいるということ。

 更に言えば、アイネスはまだこの状況下でも降伏する事なく逆に抜け出す何かを企てているということだ。

 ポイズンレッドスパイダーとオルトスの暴走に巻き込まれないように端に移動して高みの見物をしつつも、3体は姿を見せないアイネスに警戒を向けていた。


 その時、彼らはコロシアム内に突如現れた怪しい赤い光を見つけた。

 直径一センチにも満たないような、小さな丸い光だ。

 床や壁を滑るように素早く移動する赤い光に、アルカード達門番3体と、先程までコロシアム内で暴れていたポイズンレッドスパイダーとオルトスが目を向けた。


「なんだ、あれは?」

「赤い……光?」

「魔力が一切感じられぬから魔法によるものではなさそうじゃが……」


 5体の魔物の注目を浴びる赤い光は移動速度を早めたり遅くしたり、一瞬姿を消したり再び姿を現したりとトリッキーな変化を見せながらコロシアムの中を移動する。

 アルカード達とポイズンレッドスパイダーはそれをただ訝しげに見ているだけだったが、唯一オルトスだけは違う反応を見せた。

 床をチョロチョロと動く赤い光に合わせて2つの頭を動かし、4つある獣の瞳は徐々に細められていく。

 まるで、面白い玩具を見つけた獣のように。


 やがて赤い光はポイズンレッドスパイダーの胸部の上でピタリと動きを止めた。

 魔力なんて一切感じられない謎の赤い光がそこで動きを止めただけ。

 ただそれだけの、些細な事だった。

 門番の3体は勿論のこと、胸部の上に光を当てられたポイズンレッドスパイダー自身もそこまで過剰な反応を見せなかった。

 一方オルトスはポイズンレッドスパイダーの胸部に当てられた赤い光に狙いを定めると前足を高く振り上げ――――







 ――――ポイズンレッドスパイダーに向けて振り上げた前足を振り下ろした。


「GYAAA!?」

「「「?!」」」


 鬼魂のオーブによって理性を失くし暴走状態にあるとはいえ、自分達の仲間であるオルトスによる同じく仲間であるポイズンレッドスパイダーに対する同士討ち行為。

 オルトスの突然の凶行にアルカード達は激しく驚愕し、ショックを受けた。

 一方、オルトスは自身が攻撃したポイズンレッドスパイダーなど気にも留めず動く赤い光を夢中になって追いかけている。


「な、何やってるの!? 洗脳状態でもないのに同士討ちなんて!」

「オルトスのやつめ、どうやら理性を失っているせいで動いている物を獲物として認識しておるようじゃのう」

「獣の狩猟本能を利用して敵を操るなんて普通じゃないだろう! 兎に角、どうにか落ち着かせられないのか?!」

「少しでも攻撃が掠れば死にそうなぐらい脆いダンジョンマスターが何処にいるか分からない状態で、まともに手出し出来るわけがないでしょ!? 洗脳魔法をかけようにも暴走状態だから効かないしさぁ!」


 アルカード達はどうにかオルトスの同士討ちを抑えようと声を掛けるが、理性を失くし、獣としての本能を燻ぶられてしまっているオルトスに彼らの声は届かない。

 オルトスは何度かポイズンレッドスパイダーの上に赤い光が移動してはそれを潰す為にその下にいるポイズンレッドスパイダーごと前足による攻撃を行う。

 その結果、攻撃を受け続け鳴き声を上げていたポイズンレッドスパイダーは激怒の感情の矛先を本来の敵であるアイネスから自分に攻撃してくる獣へと変更させてしまったようだ。

 ポイズンレッドスパイダーは口から毒針を放ち赤い光を追いかけるオルトスへと攻撃を仕掛けた。


「GYAAAAAAAAA!」

「ガウッ?!」

「ああああ、ポイズンレッドスパイダーまで同士討ちを!」

「どうにか彼奴らの状態異常を治す手段はないのか?」

「無理じゃ。あの『鬼魂のオーブ』を付けている限り、どうしようもならん!」


 状態異常の原因となっている装備を外さなければ状態異常を治してもまた同じ状態異常に掛かってしまう。

 ならばその原因のアイテムを外せば良い話だが『鬼魂のオーブ』を付けているオルトスとポイズンレッドスパイダーは味方同士で争いを始めてしまっている上、アルカード達の手でオルトス達の『鬼魂のオーブ』を外させる作戦である可能性があると考えるとそれを実行に移す事が出来ない。

 そうしてアルカード達がオルトス達の仲間同士の争いにオロオロと戸惑いを見せていると、何処からともなく何かが投げられた。

 細く短い赤い木の棒のような物が1つの小さな紐に幾つもくくりつけられた謎の物体だ。

 小さな紐の先には火が灯っており、謎の物体はオルトスとポイズンレッドスパイダーが争っている場所へと放物線を描いて飛んでいく。

 門番の3体は突然投げられた謎の物体の出現に目を丸くし、僅かに反応が遅れてしまう。


 門番の3体は知らない。

 その謎の物体の名前が、アイネスの世界で言うところの『爆竹』という火薬の詰め込まれた物だという事を。

 その事に気が付いたのは、火の付いた爆竹がオルトス達の足元に落ちて破裂音を鳴らし始めた時だった。


 パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンッ!!


「GYUAAAAAAAA!!」

「キャイン!!」

「こ、今度は何?!」


 突然の爆発と、空気を裂くように連続して巻き起こる破裂音。

 本来の使い道が悪戯グッズの為オルトス達を傷つけるまでには至っていないが、花火どころか火薬を使った道具など知らない魔物達を驚かせるには十分過ぎる効果があった。

 同士討ちの最中に足元で爆竹の炸裂を喰らったオルトスとポイズンレッドスパイダーは暴走状態も相まってすぐさまパニック状態に陥る。

 そんなパニック状態の魔物達を後押しするようにコロシアムの各所にねずみ花火や爆竹、家庭用打ち上げ花火などが出現し、次々と火花ならぬ花火を散らしていく。

 気を休める事も許さない花火の嵐に、5体の魔物達は大混乱だ。


「ちょ、華やかで綺麗だけど音と勢いが凄い!! 耳が痛くなる!」

「なんだ、あの魔法道具は。このような爆発魔法の付与された魔法道具など見た事がないぞ……綺麗ではあるが」

「お前さんら、褒めとる場合か?」

<凄い凄い! これはなんたる芸術でしょうか!! ロッソ様のダンジョンの最深部にて巻き起こる火の花達! クールガールの魔法道具のトリッキーさにオールドヴァンパイア・ロード達も戸惑いを隠せなーい!>

<今アイネス様側の魔物からの速報が入った~。空に打ち上がった火の花達のショーを眺めながら『タマヤ』『カギヤ』って掛け声を上げるのがアイネス様の故郷の決まりらしい~>

<ということですので、ワタクシ共の方でその掛け声をば! 『ターマヤー』!>

<『カ~ギヤ~』>

「あれ、ぼくらの戸惑いっぷりまで見世物にされてる!?!」

「確かにこのダンジョン戦争自体が見世物ではあるが……」


 華やかな花火による撹乱作戦は実況席の方から見てもかなり目を引かれるらしいのか、実況席にいるフェスタンとバンチェットがアルカード達のいる最深部の様子を実況する。

 ビロープとアルカードがやんわりと抗議をするが、2体のダークエルフ達は気にせず実況をしている。


 <隠蔽>で姿を消しているアイネスの花火や爆竹による撹乱はまだ続いている。

 しかし、いつまでもパニックになっているほどアルカード達は柔ではなかった。

 最初こそ驚きの連続で戸惑いを隠せず立ち尽くしていたが、次第に冷静さを取り戻したウーはこの撹乱作戦を中止させる対策を考え始める。

 家庭用花火や爆竹が全て紐の先に点火された小さな火によって発動している事に気が付いたウーは、すぐに水属性の広範囲魔法を発動させた。


「<ヘビーレイン>!」


 <ヘビーレイン>は水属性の上位魔法ではあるものの、一定範囲内に雨を降らす効果しかない非攻撃魔法だ。

 最深部全体を覆い尽くすように発生した雲から降り始めた大雨により花火に付いた火種は全て消化され、更には追加の花火が使えないようにコロシアム全体に薄い水溜りが張られた。

 これでアイネスはこれ以上花火や爆竹を使う事が出来ない。

 未だにオルトスとポイズンレッドスパイダーは仲間同士での争いは続けているが、それでも多少状況は改善された。


「ふむ、やはり水に濡れては使えぬ代物だったようじゃな。これで同じ撹乱は使えまいよ」

「今の大雨のせいでぼくらまでびしょ濡れになったけどね……」

「ハンカチ、ツカウ?」

「あ、ありがとう」


 スコールのような大雨によって全身がずぶ濡れになってしまい嫌そうな表情を浮かべるビロープに対し、ハンカチが差し出された。

 ビロープはそのハンカチを受け取り、顔を拭う。

 一方でアルカードは周囲を見渡し、アイネスの姿を探す。

 しかし、何処を探してもアイネスの姿は見つからない。


「可笑しいな……。これだけの水が溜まっていれば水音で居場所が分かるはずだが、一体何処にいるんだろうか?」

「ソウデスネ。ジツハ、スグ、マウシロ、ニ、イル、ンジャ?」

「いやいや、そんな訳ないでしょ!」

「そうじゃのう。いくら高度な魔法を使ってたとしても、ワシ等の背後に回り込むなんて至難の業……って……」


 そこまで会話して、アルカード達はピタリと会話を止めた。

 なんか1人、会話に混ざってないか?

 その違和感に気が付いた3体は、ゆっくりと自分達の背後へと振り向いてみる。

 そこに立っていたのは自分達が探していたアイネス本人。

 そしてそのアイネスは謎の茶色い粉が入った大きな袋をアルカード達目掛けて振りかざしていた所だった。


「##!!」

「うおわああああああ!?」

「ぬおぉぉっ!?」

「な、何時からそこに……ぶふっ!?」


 アルカード達が口を開くよりも先に、アイネスは両手に持っていた袋の粉をアルカード達目掛けてぶちまけた。

 両サイドに立っていたウーとビロープは不意打ちに驚きつつも回避する事が出来たが、アイネスのすぐ正面に立っていたアルカードは何故か身体が重くてすぐに空を飛んで逃げる事が出来ず、アイネスの持った粉を身体全身に浴びてしまった。

 その前に<ヘビーレイン>によって濡れた身体や衣服に、独特な匂いを出す粉が纏わり付いた。

 なんとも言えない空気がアイネスと3体の魔物達の間で流れ始める。


「……」

「うわぁ、粉まみれじゃん……」

「見事に不意を突かれたのぅ」

「……確かに不意は突かれたが、それがなんだと言うのだ? 特にこれといって何かしら異常は起きてないみたいだが」


 無闇に手を出す事が出来ない以上、アルカードはアイネスに攻撃を仕掛ける訳にはいかない。

 左右の2人の言葉と無愛想に立っているアイネスに青筋を立てつつも、アルカードは冷静にアイネスに嫌味を返す。

 するとアイネスは手に持っていた袋をそっと置き、アルカードの目の前からズレるように移動する。

 その一方で、ビロープはアイネスが置いた袋を手に取り、第三の目の力を使って<鑑定>を行った。

 そしてその内容に目を丸くする。


「えっと……『国産天然マタタビ粉末』? なにそれ?」

「おそらくは、その袋に入っておった粉の正体ではないのかのう?」

「問題の効果は……猫系魔物、獣、亜人限定の酩酊付与? 何かの対象に掛けた場合限定的魅了付与効果が付与される。ただし効果が強力な為、量によっては魅了の対象範囲となる魔物、獣、亜人が突撃してくる可能性大……って、まさか!」


 マタタビ粉末の効果を知ったビロープはアイネスの作戦を知り、アイネスの方を向いた。

 アイネスはアルカードから距離を取り、未だに争っている2体の大型魔物達に向けて首元に下げていたチェーンに付いた銀色の笛を取り出して今にも吹こうとしている最中だった。

 ビロープは再び第三の目の力を使い、アイネスの持つ笛を<鑑定>する。

 

【名前】犬笛

【効果】犬系魔物、亜人、獣の呼び寄せ

【備考】一度吹けば人間には聞こえない音色を発する笛。コボルトやウルフといった犬系の魔物を呼び寄せる事が出来る。


 オルトスは猫と犬の両方の性質を持つ獣型の魔物。

 犬と猫の強みを持っていると同時に、その弱みも持っている。

 当然アイネスが犬笛を吹けばそれに反応するし、そこにマタタビがあれば酩酊状態になる。


「まっ――――!!」


 ビロープが止めるよりも前に、アイネスは高らかに手に持っていた犬笛を吹いた。

 その次の瞬間、犬笛の効果によってオルトスのみがその笛の音に反応し、アイネス達のいる場所へ顔を向けた。

 一瞬笛を吹いたアイネスの方に視線を向けていたものの、オルトスはすぐにその横に立っているアルカードの方へと目を向けた。

 そして動物的な本能からアルカードに掛かった粉が自身の半身の大好物だと悟ったオルトスは、アルカード目掛けて走って来た。


「<####(重力操作)>」


 アイネスが何か呪文を唱えた瞬間、アルカードの翼に重力が掛けられた。

  自身の危機を感じ取り、翼を広げて天井近くへ避難しようとしたアルカードだったが、翼が急激に重くなった事で空を飛べなかった。


“翼が重くなると高く飛べなくなる”


 アイネスが創造した魔法、<重力操作(グラビトン)>は任意の対象の重力を重くする魔法。

 天使がダンジョンの魔物として召喚される経緯をヒントとして、飛行系魔物対策の応用として立てていた作戦だった。

 アルカードの逃げ場を1つ封じた後、アイネスは勢い良く迫ってくるオルトスを見ながら片足を上げ、勢い良く地を踏んだ。

 そしてアイネスは再び呪文を唱える。


「<########(アイスグラウンド)>。<######(メイクアップ)>」


 次の瞬間、コロシアム全体に張られていた水溜りがアイネスを中心として一気に凍りつき始める。

 ウーが魔法で降らした水を媒介にして水から氷へと変わる波紋は薄く、綺麗に広がっていき、コロシアム全体の地面をあっという間に凍りつかせた。

 それと同時に、アイネスの靴は光に包まれ、スケート靴へと変化する。

 突然自分の足元が凍りついた事でオルトスは足を滑らせてバランスを崩し、胴体を滑らせながらアルカード目掛けて滑っていく。

 一方でアイネスはスケート靴を駆使して巧みに氷のスケートリンクを滑りながら、オルトス目掛けて滑っていく。


 オルトスとすれ違ったその瞬間、アイネスはオルトスの首輪に付けられた『鬼魂のオーブ』に僅かに触れた。

 『鬼魂のオーブ』に指の先が触れたその時、アイネスは<アイテムボックス>を使ってオルトスの『鬼魂のオーブ』を回収する。

 そしてそのままオルトスの横を通り過ぎ、オルトスはそのままのスピードでアルカードの方へと滑っていく。

 ウーとビロープは転びそうになりつつもアルカードから距離を取ったものの、アルカードは翼を重くされ地面を滑りやすい氷にされたせいで転んでしまった。

 慌てて立ち上がろうにも、すぐ目の前にはオルトスの2つの頭が。


「ま、待て! 此方に来る――――!!」


 アルカードが制止の言葉を言い終わらぬ内に、オルトスはアルカードに激突し、そのままコロシアムの壁へと激突してしまった。

 コロシアムの壁の一部が音を立てて崩れ落ち、オルトスとアルカードの姿が白煙に消える。

 白煙が消えた時、アイネスとビロープ達が見たのは、酩酊状態のオルトスに抱きかかえられゴロゴロと音を立てながら甘えられ、全身を舐められ擦られているアルカードの姿だった。


「キューン、ゴロゴロ……」

「おい! オルトス……いやキャドラ、離しなさい。今はこのように構っている暇はないのだ」

「ゴロゴロ……」

「ふぅ……どうやら駄目なようだ。完全に酔っ払っていて此方の言葉を聞きもせぬ」

「あちゃー、この様子じゃ正気に戻るまで長引きそうだね」

「####……」

「『良いなぁ……』」

「いや何が?」


 アルカードごと壁に激突した衝撃でオルトスは激怒状態からは抜け出したものの、代わりに酩酊と魅了状態になったようだった。

 マタタビを浴びたアルカードに抱きつき、喉を鳴らしながら甘えている。

 アルカードが本気を出せば自分より下位種族であるオルトスの拘束から解放されることも出来なくもない。

 しかしヴァンパイア族の王族格ともいえる種族にあるアルカードは下位とはいえ味方相手に攻撃を加える程非情になれず、その上下の氷のせいで上手く立ち上がる事が出来ず翼を重くされているため、下手な抵抗をすることが出来なかった。

 一時的な戦闘不能。

 まんまとその状態へと陥れられてしまったのだった。


「#####」

「『まずは1つ』」


 氷のグラウンドでも綺麗に直立しているアイネスの言葉を、アルファが訳す。

 その顔は既に次の標的であるポイズンレッドスパイダーへと向けられている。

 アイネスは表情を変えず、まるでルーティーンのように手早く次の武器を取り出した。

 



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― 新着の感想 ―
[良い点]  週刊誌で一試合が描かれるのに数ヶ月掛かるみたいな引き、のお預け。
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