そこには存在しない
今この状況下に置いて、私にとって最適な勝利条件は1つだけ。
その為にはまず、ダンジョンコアのある最深部まで向かう必要がある。
向かう前に色々準備しておかないと。
リュックサックから中身を取り出すと見せかけて<アイテムボックス>から救急バッグ、清潔なシーツと枕二人分、そして今回持ってきたHP回復ポーションを全て取り出した。
そして部屋の片隅にシーツを広げて簡易的な寝床を作り、タクトとトン吉に声を掛ける。
「タクトさんとトン吉さん、タンザさんとベリアルさんをこの寝床の上に寝かせてあげてください。床に寝てると雑菌の問題とかあるので。それが終わったら救急箱使って応急処置をお願いします。この箱に傷薬やら包帯の巻き方の書いた説明書きとかありますので。」
「ウ、ウィッス」
「ハ、ハイ」
「アルファさんはこのオークさんの監視」
『御意』
トン吉とタクトにベリアルとタンザを簡易ベッドへの移送と応急処置を頼み、私はオークの娘の前に立つ。
オークの娘は私達と目を合わせようとせず、顔を俯けて座り込んでいるだけだ。
私はまず、彼女の付けている眼鏡を奪い取った。
突然自分の眼鏡を奪われると思っても見なかったようで、とても驚いた表情を浮かべている。
厚い眼鏡で隠れていた彼女の目はオークジェネラルの体色のような赤色と空のような水色が綺麗に上下別れたような不思議な目をしていた。
私はアルファの方に軽くハンドサインで指示を出した後、オークの娘の胸ぐらを掴んで言った。
「私は貴方を許しません」
「*(私)***(貴方)*****(ない)」
「*!」
私の言葉をアルファが通訳して彼女に伝える。
彼女は何も言わない。
「貴方が謝ろうと、黙っていようと、これから何か言い訳を述べようと構いません。既に起きてしまったことに対して何をどう弁解しようが誠意を見せようが取り消しは出来ません。今回の事に置いて、貴方が何をしようと私は貴方を許さないし、救わない。同情もしないし、恵みもしない。そして、絶対に結ばせないし達成させない」
「*!?」
「私、これでも考察はそこそこ出来る方なんですよ。全部机上の空論でしかないですが」
私の言葉を聞いたその瞬間、オークの娘は目を見張り、まるで有り得ないという表情を浮かべて動揺を見せた。
私は彼女の胸ぐらを引っ張り耳元に顔を近づけた。
そして遠くにいるタクト達には聞こえないような小声で彼女に異世界言語で二言だけ告げた。
「***(貴方)、**、**、******。**********、****」
「*、***(あなた)、*****(どうやって)……」
「どうしても抗いたいのなら、抗ってみればいい。貴方にそれが出来ればの話ですけど」
胸ぐらを離してやれば、オークの娘は私の言葉に呆然とした表情を浮かべた。
しかしアルファの通訳を聞いた瞬間、その瞳には炎が灯った。
私は彼女から奪い取った眼鏡を彼女に返し、ベリアル達の方へと向かった。
ベリアルとタンザはタクトとトン吉に包帯を巻かれている途中だった。
「タクトさん、それが終わったらまた回復ポーションの摂取の手伝いを。あと、これも置いておきますので取り敢えず数分に分けて交互に持たせてあげてください」
「***!? アイ***、コレ……」
「確か自動回復みたいなの効果がついてると思うんで、それをもたせてあげれば少しずつ回復させられるかと」
私が首から下げていたエメラルドのネックレスを取り、タクト達の前に置けば、タクトとトン吉はギョッと目を丸くした。
エメラルドのネックレスはフォレスが私に作ってくれたアクセサリーだ。
過保護かってツッコミたいくらい支援系の魔法や効果が付与されている。
先程は<精霊結界>の効果がなかったけど、この場合最も必要なのは自然回復の効果だ。
少しずつとはいえ、2人の怪我が治ってほしい。
「トン吉さんはアルファさんと交代してそこのオークさんを監視、足止めしてください。万が一の時は気絶させてでも追いつけないようにしてください」
「***、アイネス***?」
「私はアルファさんと2人で最深部に向かいます」
「! アイネス**、ソレ、ハ、キケン!!」
私の言葉を耳にしたトン吉は慌てて制止の言葉をぶつけてきた。
ベリアルとタンザはこの攻略隊の中での戦闘枠だったのだ。
その上私は<精霊結界>という自分を守るための装具をベリアル達に渡した。
まともに戦闘も出来ない、自己防衛手段がない私がアルファと2人だけで攻略するのなんてトン吉達から見たら“無謀”でしかないんだろう。
しかし、私はトン吉に静かに告げた。
「ダンジョン戦争に勝つ為には私が自分でこのダンジョンを攻略し、ダンジョンコアの元まで辿り着かなければなりません。私がこの場にいても出来る事は少ないですし、此処は動ける者だけでも行動するべきです」
「デモ、アイネス**!!」
「このままその女といたらその女を殺したくなるからさっさと距離置きたいんだよ、察しろ。貴方は私を仮にも他様の娘を私怨で殺す殺戮者にする気か?」
「*!?」
トン吉の気持ちも分からなくもない。
だけど、私はただ此処に留まっていたくないのだ。
オークジェネラルが全て仕組んだ事とはいえ、オークの娘だってこの事態を招いた実行犯兼原因の一人なのだ。
今ラファエレさん達が来るのを待っていたら完全勝利出来なくなるし、何よりあのオークの娘を殺したくなる。
私はまだ、憎悪に溺れて殺す殺戮者なんかにはなりたくない。
再度私の意志を押し通す為、私はトン吉に言った。
「私はアルファさんと先に向かいます。これは決定事項です。オーケー?」
「……ワカッタ」
「ではアルファさん、行きましょうか」
『御意』
その言葉で会話を終え、私はアルファと一緒に第5階層へ向かう為の階段へと向かう。
階段を降りる直前、私は少し振り返ってベリアル達の方を見た。
包帯に巻かれ、ガーゼが貼られ寝かされたベリアルとタンザは今もなお苦しそうだ。
しかし意地で意識を保っているようで、私はベリアルと目が一瞬合った。
ベリアルは私と目が合うと脂汗を流しながらも私に薄っすら微笑み掛けた。
そして、パクパクと口を開けて何かを伝えようとしている。
それを見た私は1つ頷いた後、そっと目の前を向き直した。
マスクを付け、ヘッドフォンを付け、<アイテムボックス>からスタンロッドを取り出す。
「……行ってきます」
今までベリアル達に抱えてもらって極力体力を使わないよう心がけていたから暫く走っても大丈夫だ。
私はただ、最深部に向かうだけ。
***** #####
第5階層に存在する3つ目の関門。
そこには4人の女魔物達がいた。
彼女達はオークジェネラルに命令され、やって来た者達を撃退する門番としてそこにいた。
ただしそれはあくまで表面的に任された仕事だ。
彼女達はダンジョン戦争中にも関わらず、その空間でゆったりと寛いでいた。
「ロッソ様も考えたよね! アレに敵のダンジョンマスターの処理をさせるだなんて♡」
「ルールによって禁じられているのは<契約>を結んだ魔物やアイテム、ダンジョン内に設置されるトラップによる命や後遺症に関わる怪我を与える行為だけ。奴隷による行為は禁止されていない。だからおれ達が負けることもない。ルールの方は破ってないし、奴隷が自爆すんなってルールなんかねぇからなぁ! ヒャハッ!」
「で、でも、本当に大丈夫かなぁ? ロッソ様の名案とはいえ、あれが仕損じる可能性もあるわけだし……。さ、最悪わたし達のところまで来る可能性があるんじゃ……」
「だいじょ~ぶっしょ♪ だってこの第5階層は他の階層とは違うんだから♪」
「そうそう、なにせこの第5階層は侵入者が絶対に最深部までたどり着けないようになっているもの!」
門番をしている彼女達が此処まで余裕を保っている理由。
それはオークジェネラルの作戦の内容を知っているだけでなく、この第5階層の迷宮の構造を把握しているからというのもあった。
女魔物達の主であるオークジェネラルはとても用心深く、万が一自分の娘がアイネスへの特攻が失敗した時のことも考え第5階層を再設計した。
迷宮の複雑さも行き止まりも第四階層より前の階層の2倍。
しかもオークジェネラルとその娘、そしてオークジェネラルの配下以外の者が道に迷うよう第5階層全体に幻惑魔法が掛けられており、第一関門に向かうまでには必ず彷徨う事になる。
更に迷宮内には落とし穴や鳥もちトラップや鉄柵など、侵入者達の足止めをするトラップが無数に設置されている。
トドメとして、この第5階層の関門にて待ち構えている魔物達は全て皆高レベル魔物。
仮にアイネス側の誰かが第5階層を突破しようとしても、第一関門に辿り着く事だって叶わないだろうと彼女達は確信していた。
「あ、そういえば、アレが居なくなったら“あの事”がバレるんじゃないかなぁ……」
「あ~、あの事かぁ。確かにアレが居なくなると面倒だよなぁ……」
「ま、それも大丈夫っしょ♪ また“代わり”を見つけりゃ♪」
「そ、それもそっかぁ……そうだよねぇ……」
<ダンジョンマスターロッソ様はアイネス様の試練の1つをなんとか突破! 次に待っているのは……えっ、何でしょうコレ?>
<何の試練かよく分からな~い>
<流石はクールガールのダンジョン! 此方にも内容の予測がつきません!>
「ロッソのお前さんは順調に相手側のダンジョンを攻略しているようだな!」
「ロッソさん後少しで最深部行けんじゃないかな~♪」
「さ、流石ロッソ様……。あたし達もこのまま仕事もなく終わる事が出来そう……」
フェスタンとバンチェットの実況で自分の主の活躍を聞き、女魔物達はキャッキャと喜びの声を上げる。
そんな姿を気の短いイグニや礼儀に厳しいタンザが見れば「舐めているのか」と怒りを見せそうなところだが、彼女達は敵が此方まで訪れる事が難しいだろうという確信からそれを改める様子はない。
その時、女魔物の1体が服をパタパタ動かしながらある疑問を浮かべた。
「ねぇー、なんかさっきから熱くない?」
「あー、言われてみれば……なんか身体がクソあちぃような……」
「うちも~……♪」
「あ、あたしも……」
急激に体が熱くなり、まるで砂漠の中で太陽光に晒されているような感覚に先程まで談笑をしていた女魔物達は首を傾げる。
体温は未だに熱くなっていき、彼女達は汗を流し、ひぃひぃと呼吸を荒げる。
やがてクラクラと目眩がしてきた事で、女魔物達は何かしらの異常を察知した。
「な、なぁ、誰か、水~……」
「あ、<アクア>」
水を欲しがる魔物の言葉を聞いた魔法が得意な魔物はすぐ水の球を作り、桶の水をひっくり返すように自分たちの身体に掛けた。
もう少し冷静ならそんな荒々しい手は取らなかったかもしれないが、兎に角身体が熱過ぎるため手っ取り早く身体を冷やそうとしたのだ。
しかし、そう上手くはいかなかった。
「なにこれ、あっつ~~い! こんなんじゃ身体を冷ます事なんて出来ないよ~♪」
「あ、あれ、おかしいな……、いつもはこんな熱い水は出ないのに……」
女魔物の一体が魔法で生み出した水は何故か熱湯になっていたのだ。
水属性魔法による水球は身体を冷ますどころか熱い身体を余計に温めてしまう結果となった。
「な、何が起きていやがんだよぉ……ゲホッ、うぇっ」
「身体が、熱い~……おえっ!」
目眩と頭痛が余計酷くなり、ぜぇぜぇと荒く呼吸を繰り返す女魔物達。
そんな時、女魔物達が一人、また一人と吐き気を訴え、首を抑えて苦しそうに息をしながら倒れたのだ。
「き、きもちわりぃ……ぐ、苦しい……!」
「い、息が……!」
「な、なに……これぇ……♪」
熱さに苦しんでいた女魔物達に唐突に襲いかかってきた息苦しさ。
確かに呼吸をしているはずなのに、まるで水中にいるように息苦しいのだ。
先程まで余裕の表情を浮かべていたはずの女魔物達は頭痛を訴え、呼吸困難になり、そして泡を吹きながら身体を痙攣させて気絶していく。
その顔色は赤色になったり青くなったり、紫になったりと明らかに異常だ。
門番をしていた女魔物達が一人、また一人と意識を失い、最後の一人の意識が朦朧となってきたその時、急に息苦しさが収まった。
「っゲホッ! エホッ!!」
なんとか意識を失わなかった女魔物の一人が咳き込むように呼吸をしながら、なんとか空気を吸い込もうとする。
女魔物が必死に呼吸を繰り返していると、大きな音を立てて手前側の扉が開いた。
扉の向こうから現れたその存在に、女魔物は目を見張った。
そこに立っていたのはアイネスとアルファだった。
此処に来るはずのないと思っていた敵側のダンジョンマスターの登場に女魔物は驚愕すると同時に、オークの娘が自分の主が考案した作戦をしくじった事を察した。
(最、悪……っ!)
女魔物は朦朧とする意識をなんとか保ちながら、ゆっくりと立ち上がった。
作戦が失敗し、何故か仲間たちが意識不明状態に陥ってしまった以上、自分一人でアイネス達を抑えないといけない。
女魔物はアイネス達の前に立ちふさがると、オークジェネラルに命令された通り試練の説明を行おうとした。
「よ、よく来たわ――――」
「####」
「ガッ!!!」
試練の説明をしようと口を開いたその次の瞬間、アイネスが説明を待たずに一気に女魔物との距離を詰め、その腹にスタンロッドを当てて電撃を与えたのだ。
意識が朦朧とした状態だった女魔物に対し、アイネスは身体能力を上げる魔法で身体能力を底上げしたのか高レベルの女魔物は抵抗出来ず、説明途中どころか挨拶の前に仕掛けられたその不意打ちをまともに食らってしまった。
身体に濡れた水によって電撃は身体全体に浸透し、その雷に打たれたような強い衝撃に女魔物は為す術もなく地面に倒れ伏したのだ。
女魔物が倒れたのを確認すると、アイネスはすぐに追撃の電撃を与えようと女魔物の首元にスタンロッドの先を当てた。
女魔物は慌ててアイネスに声を掛け、制止する。
「ま、まっへ! まら、ひぇふへえは、おはっへはひわ!」
「……」
身体が麻痺し、舌が回らない女魔物だったが、それでもなんとか言葉を発し、アイネスに話しかけた。
女魔物の首元にスタンロッドを当てているアイネスは何も言わず、ただただ冷たく女魔物を見下ろしている。
まるで、女魔物の言葉など全く興味がないようだ。
訳が分からない事だらけで頭の理解が追いつかずパニックになっている女魔物に対し、アイネスはため息をつき、そして口を開いた。
「##########、##############」
「『一応言っておきますけど、私に貴方の声は聞こえてないですからね?』」
「……へ?」
アイネスの言葉を女魔物に分かるように訳し、伝言のように伝えられたアルファの言葉に、女魔物は素っ頓狂な声を上げた。
アイネスの言葉を訳すアルファに驚いたのではない。
アルファの言った内容に驚いたのだ。
(私の声が、この娘に届いていない? そ、それは一体どういう事なの?)
「##########、#########、##############」
「『私が今頭に付けているの、『ヘッドフォン』って言って、とても遮音性に優れてるんですよ』」
「###、########################、##」
「『なので、貴方が何を説明しようと私にはそのルールを従う必要は、ない』」
「は、はひ?」
「########?」
「『だってそうでしょう?』」
「############################、#########################」
「『ダンジョン内に設定するルールは事前にその相手に伝えないと、ダンジョン内のルールとして認められないんですから』」
「!!!!」
アルファを通してアイネスが放ったその言葉に、女魔物は目を大きく見開いた。
聞いてないからそれはルールとして認められないなんて、そんなの屁理屈じゃないか。
そんな理屈は認められるはずがない。
そう反論を述べようと必死に頭を働かせた女魔物だったが、次第にその顔はゆっくりと青褪めていく。
何故なら、女魔物は聞いていたのだ。
ダンジョン戦争前にフェスタンが行ったルール説明を。
『ルールその3、ダンジョン戦争で設置されたルールとは別に、ダンジョン内に設置されたルールには絶対に従うこと。ダンジョン内に設置されたルールは最低限相手側が遵守出来るルールにすること。ダンジョン内に設置されたルールは必ず相手側に事前に伝える事。どれか一つを破った場合、ルールを破った魔物はダンジョン戦争から脱落扱いになり、ダンジョンマスターが破った場合はその場でダンジョン戦争は終了。ルールを違反したダンジョンマスター側の負けとなる』
アイネスの言う通り、『ダンジョン内に設置されたルールは必ず相手側に事前に伝える事』というのは説明されている。
だけど、『事前の説明を聞かなかったからと言う理由でルールを無視することは出来ない』なんてルールはない。
そもそも、女魔物は今その説明をするよりも前に不意打ちを喰らったのだ。
試練の内容の説明も、この部屋のルールについても、まだしていない。
そして女魔物は悟った。
先程起きた体調不良も、自分に武器を突きつけているアイネスが引き起こした事なんじゃないかと。
きっと部屋に入る前、彼女は自分たちに何かをしたのだろう。
「ひ、ひひょうふひふ……!!」
密室空間より外からの攻撃に、とんでもない理屈のような行動。
こんなの、反則も良い所だろう。
だけど、女魔物はそれを訴える事が出来ない。
だってどういう経緯だろうと女魔物がアイネス達にそういった事を禁止するというルールを話していないのは確かだった。
そして、それらの内容を記した看板なんてこの部屋に置いている訳がない。
だって、誰が思うだろうか?
此方がルール説明をするよりも前に、敵が攻撃を仕掛けてくるなんて。
敵が部屋に入るよりも前に、此方を戦闘不能状態に追い込もうとしていただなんて。
言われなくても常識や流れを考えたら誰もやらない事を、意図的にやって来るなんて。
(こんなの、ルール違反以前の問題じゃない――――!!!)
「#############、#############」
「『制限を掛けるルールが存在しない以上、私がどうしようとそれは違反じゃない』」
「#########、##########」
「『だってそんなルール、どこにもないんですから』」
冷たく女魔物を見下ろし、そう言いのけるアイネスに、女魔物はただただ睨みつけるしかなかった。
その時、ふとある疑問が思い浮かんだ。
(なんで、この娘は此処にいるの?)
女魔物達がいるのは、第5階層に存在する3番目の関門の部屋。
第5階層の中間地点でもある。
そんな場所に、どうやってこの2人が到着した?
それぞれの関門にいる魔物達を抜きにしても、第5階層はその前の階層よりも迷宮が複雑で、足止め用のトラップがあちこちに設置されているのだ。
一度オークジェネラル側の数名の魔物達が挑戦してみた所、第一関門まで向かうのに1時間は掛かった。
だけど、アイネス達が第4階層の最深部直前に向かっている様子をフェスタン達実況席が実況してからアイネスが此処に訪れるまで、まだ10分も経っていない。
仮にオークの娘が作戦にしくじって無傷だったとしても、此処まで辿り着くのがあまりに早すぎる。
一度も罠に引っ掛からず、一度も行き止まりに当たる事なく、最短ルートを進んでなければこんなに早く辿り着く事なんて出来ないはずだ。
(そんな事、一体どうやったら可能なのよ……!)
頭の中で積み重なっていく疑問の渦に押しつぶされそうな女魔物に対し、アイネスはもう話は終わりだと言わんばかりに静かにスタンロッドに付いているスイッチに手を掛けた。
真っ黒なアイネスの瞳に、恐怖とパニックで涙する女魔物の顔が映った。
「#####」
「『さようなら』」
その別れの挨拶と共に、女魔物は意識を失った。




