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君達ちゃんと此方向きなさい

 ダンジョン戦争のルールの話し合いをした日の夕方……。

 オークジェネラルとの話し合いの後に開いた会議で、アイネスは言った。


「あ、私今回のダンジョン戦争で攻略組の方に行きますので」

『待ってください』

『考え直せ』

『死ぬ気かアイネス』

「速攻で止めるじゃないですか」


 アイネスの衝撃な宣言に驚き、ベリアルを筆頭とした魔物達は間髪入れずに制止する。

 動揺を見せて当然だろう。

 ステータスで言えばアイネスはダンジョンの中でも最弱クラス。

 そんなアイネスがどんな危険があるか分からないダンジョンに向かうなんて自分から肉食獣の群れの中に突っ込ませるのと同じ事だ。

 しかし当のアイネスは特に動じることもなく、お茶を飲みながらそのまま話を続ける。


「あと、攻略組のメンバーにはトン吉さんとタクトさんにも入ってもらおうかなって考えてます」

『ふぁ!?!』

『オレが!?!』

『お前が?!?』

『待て待て待て待て!! 色々情報が追いついてねぇよ! 一から説明をしてくれねぇか?!』


 ギョッと目を丸くして驚くタクトを横目に、アシュラは頭を抱えながらアイネスに説明を求める。

 アイネスは静かに息を吐くと、オロオロと動揺を露わにする魔物達に説明を始めた。


「これは推測なんですが、あちら側は私が自分のダンジョンの最深部に隠れて待機、ベリアルさん達最強クラスの魔物達をオークジェネラル達のダンジョンに向かわせて増援をよこせないように足止めさせるだろう……と考えていると思うんですよ」

『それは……そうだろうね』

『彼らは先の対談でバイフー氏とアルファ氏の姿を、今日の話し合いでベリアル氏の姿を見ているからな。アイネス氏の能力を考えた上で考えられる戦法といえば、それが真っ先に思いつくだろう』

『実際、アタシ達もそうするんじゃないかって考えてた訳だものネ』

「あちら側もベリアルさん達相手に真正面から立ち向かっても無理だと分かっているはずです。そうなると彼らが取る戦法は……」

『ダンジョン内に設置したルールを違反するように仕向け、脱落させる。に、限られるという事でぇすね!』

「それが最有力だと思います」


 アイネスがオークジェネラル達と追加ルールについて話し合った際、アイネスはオークジェネラルの様子を観察し、気が付いていた。

 追加ルールとしてダンジョン内に設置されたルールの絶対遵守を提案した時、オークジェネラルは少し難色を見せたものの、少し考え込んだ後に何かを思いついたような表情を浮かべていた事を。

 それを見たアイネスは、恐らくこういう事を考えたんだろう、と推測を立てたのだ。


「ダンジョン内に設定出来るルールの基準は相手のダンジョンマスターが攻略に当たって破らずクリアが出来るもの。毒の沼の中を歩いて進めとか、扉を開ける為に自分の配下を殺せとかいうルールは設定出来ないようになってます。なので、私でもクリア出来るようにはなっているはずです」

『しかし、だからといって本当にアイネス様が行くのはどうかと思います。あくまでクリア可能だというだけで、本当にクリア出来る保証なんてないのです』

『此奴の言う通りだ、アイネス。それに、貴様が最低限クリア出来るものなら俺様達がクリア出来ない事などないはずだ』

「本当にそう思いますか?」


「ではベリアルさんとラファエレさんに例えばの話としてお聞きしますが、2人って握手しあって仲良く遊んだりとか出来ますか?」


 その瞬間、ベリアルとラファエレの表情がひくっと引き攣ったのが全員の目に見えた。

 会議室に沈黙が続く中、アイネスに名指しで尋ねられた2人は声を強張らせながらもアイネスの質問に答える。


『わたくしとしてはアイネス様の命令であればそれを行うのは構いませんが、この非道な悪魔がどう思うかどうか……』

『アイネスがその権限を使って命令するのでしたら私もその心を押し殺してその命令を遂行する気持ちですが、この天使がその意志があるかどうか謎ですね』

「まあつまり、私が命令でもして半強制的にさせない限り、手を取り合って仲良くするというのは難しいということですね?」

『ぐっ……その通りです』

「此処で更に質問します。最強クラスの魔物の皆さんは私の強制命令なしが前提で、全員で一致団結して協力した上でサッカーに勝つって、出来ると思いますか? 私の目を見て、それが出来ると言い切れますか?」


 アイネスがその質問をした瞬間、ベリアル達最強クラスの魔物は一斉に顔を逸らした。

 最強クラスの魔物達はアイネスから顔を背けながら、ハキハキとした声で高らかに言った。


『そんなの可能に決まっているだろう! 俺様がいれば他の者がどんな者だろうと点をバンバンとってやる!』

『アイネス様の為とあれば、たとえ21対1の状況下でも勝利を手にしてみましょう』

『あっちのダンジョンがルールとして『さっかー』の勝利を置くだけとは限らないよね? 社交ダンスとかそういうのだったらあたしのスキル、<魅惑>でどうにか出来るよ♡』

『社交ダンスではなく、『くいず』や謎解きの可能性もあり得るだろうな。知識であれば我一人が皆を引っ張る事も可能だ』

『ああん? 魔物同士の戦いっつったらやっぱり拳だろ! 俺が前に出て一暴れすりゃあ協力も何もいらねえだろ!』

『全員他の皆さんが足を引っ張る事と自分一人が活躍する事前提ですね』

『協力しろってのが条件なのに一人で突っ走ろうとしたら即駄目に決まってるだろう』

『旦那達は本当結束力する気がないみたいだね……』

「もう今のこの状況で本番どうなるかって自明の理じゃないですか」


 最強クラスの魔物達が全員全く違う方向に顔を向けながら口々に自信ありげな言葉を放つ姿に、ノーマル魔物の代表達は苦笑を浮かべた。

 魔物というのは能力が高ければ高い程、性格やプライドも高くなってくる。

 能力が高く、プライドも高く、性格の個性も強い彼らは基本相性の悪い魔物同士だとすぐ口論や喧嘩に発展する。

 ベリアル達全員が認めるまとめ役がいない限り、彼らにチームワークを結ばせてルールを遵守させるというのは至って難しい事だ、とアイネスは判断したのだ。

 そのことをこの場の状況で理解したマサムネは、大きくため息をつきながら言った。


『なるほどな。確かにあっちさんのダンジョンのルールとして『口論禁止』とか『味方同士協力しあって条件を達成したら次に進める』……なんてもんが設置されてたら、旦那達には到底達成出来ねぇだろうな』

「その戦法に対する対策が、私とタクトさんとトン吉さんの攻略組参加です。ダンジョンマスターである私が同行していれば分かりやすく口論するというのはしないはずでしょう。トン吉さんも、性格的にベリアルさん達相手に大げんかを繰り広げるというのはないでしょうし、タクトさん達レジェンドウルブスはベリアルさん達がギスギスしてきてもノリで有耶無耶にするチャラ狼効果がありますからね」

『チャラ狼効果!?! オレらそんな効果あっちゃう系狼なん!?』

『『『『『あー……』』』』』

『そしてベルっさん達、まさかの納得パティーン?!』


 ベリアル達最強クラスの魔物が頷いたのをみて、タクトはツッコミを入れた。

 レジェンドウルブスの面々はそのノリの良さを駆使し、ラファエレさん達相手とも結構良い交流が出来ていた。

 ゴブ郎の後にあの教育担当悩ませだったバイフーの教育担当としてタクトについてもらった際、タクトは最初の2人の時とは違って肩こりに悩まされたり苛立ちMAXの状態になったりというのもなく、逆に褒めに褒めまくってバイフーが真面目に研修を受けたいと思えるように誘導していたぐらいであった。

 彼らのチャラ狼っぷりというのは中々有能なスキルであったりする。


「まあ、タクトさんを攻略組に参加させたいっていうのは他にも理由があるんですよ」

『え、ジーマー? オレ、確かに前のダンジョンじゃ攻略組だったわけだけど、それ5人揃ってアレ出来るからだけでそんな強くもねぇんだけど?』

「ええ。むしろ今回のダンジョン攻略にはタクトさんの役割が一番重要だと思いますよ」

『マジ!?』

「ちょっと耳貸して……は言語能力的に難しいので、ちょっと此方来てください」


 アイネスはタクトにそう言って手招きをすると、ベリアル達に見えないように背を向けた。

 そしてスマホのメモ帳機能を使って文字を打ち、タクトに見せれば、それを全て読み進めたタクトは目を輝かせ、納得の表情を浮かべて手を叩いた。


『なーる、そういう系っつーことね! つまりはうぇーい! って感じで騒いだり、ドンチャンしたり、バババッ! って感じでパーペキにバチコンやりゃあ良い訳か!』

「ちょっと擬音が多いですけど……ま、そういう事です」

『おい、アイネスよ。我にも内容を教えよ。つまりはどういう事なのだ?』

「はい、すぐにちゃんと分かりやすいようにして教えますよ」


『取り敢えず今私が考えている攻略法としては、こうです』


 アイネスはイラストを描きながら、ベリアル達に分かるように説明をしていく。

 途中で難色が見えたりしたものの、アイネスの追加の説明を受けたベリアル達は最終的にアイネスの考案した攻略法に乗ることを決めたのであった。


##### *****


 現在、私はベリアルに抱えられた状態で空を飛んでいた。

 空を飛ぶ私達の真下には切り立った深い崖。

 間違って落ちてしまえばひとたまりもないだろう。

 空を飛べない魔物や私が先に進む為に用意された道もあるにはあったけど、それだとかなり遠い道のりになりそうだったのでベリアル達に運んでもらっているのだ。


「ダンジョンの入り口入った所の隠し部屋はバレてないんじゃないかなって思いつつも念の為<隠蔽>で姿を隠してから入りましたけど、やっぱりそこはバレてなかったようですね。ベリアルさん、私重たくないですか?」

「イイエ、アイネス**ハ、トテモカルイ。マルデ、ハネノヨウ」

「羽根は流石に言い過ぎでは?」

「シカシ、ホントウ、テキ、ハイカ、テ、ダサナイ? ワタクシ、ドモ、スガタ、ミエル、ハズ、ナノニ」

「きっと、魔物達は私がこうやって運ばれながらこのダンジョンを攻略しに来るとは思ってなかったから驚いているのでしょうね」

「ジツヅキノ、ミチヲ、アイネス*ガ、イドウシテ、ワレラガ、ソラヲ、トンデイタラ、ドウニカ、デキタカモ、シレナイ。ガ、アイネス*ガ、タテ、ニナルヨウ、カカエラレテ、イル、セイデ、テガ、ダセナイ、ノダ」

「ア~、コウゲキ、シテ、アイ***、オチル、ヤバイ、カラ……」


 空を飛ぶスキルを持っていない私やタクト達がベリアル達に運ばれているのは道をショートカットして攻略時間を減らすだけじゃなくて、隔離されて各個撃破されないためという戦法も兼ねていた。

 追加ルールによって、魔物達は私が命を落としたり重傷を負ったりするような事をすることは禁じられている。

 もしもベリアルを攻撃してしまえば当然彼に抱えられている私も崖から真っ逆さまになってしまうため下手に手を出せない。

 しかも私とベリアルはイグニ達のすぐ先頭に立って、敢えて盾になるように移動している。

 全体攻撃魔法は論外、イグニ達に攻撃しようとしてもダンジョンマスターである私が盾になっているから狙いを定めるのは難しい。

 それでどうしようかと迷っている間にベリアルとラファエレとタンザが魔法で撃退してしまうのだ。

 実際何人か敵の魔物に遭遇しているみたいだけど、皆驚愕の声を上げては爆発音とか風を切る音などと共に声が聞こえなくなる。

 因みにグロは大体NGの私はベリアル達の瞬殺戦闘を見ない為に目隠しをしている。

 宙を浮いている間視覚が使えないのってかなりスリル満点なアトラクションだよね。


「一応前日まで慣れる練習したんですけどやっぱりこの迫力には慣れませんね。目隠し空中飛行って並大抵のジェットコースターよりスリルがヤバイですよ」

「ソウイウ、ワリニハ、ヒョウジョウハ、カワッテナイ、ナ」

「無愛想なのは常時運転スキルみたいなもんですからね。基本人前じゃこうですから」


 自分の顔が見れないから分からないけれど、こんな時でも私の顔は変わらないらしい。

 人の目があるとどうしてもスンッて無表情になっちゃうんだよ。悪いか。


 そんな風に駄弁りながら空の旅を体験していると、タクトが興奮の声を上げた。


「*、ツギ、カイソウ、カイダン、ハッケン!」

「アルファさん、罠とかなさそうですか?」

『No。罠の存在は皆無』


 どうやらもう次の階層の階段に辿り着いたらしい。

 目隠しを外してタクトの指し示す方向を見てみると、確かに地下へと進む為の階段があるのが見えた。

 念の為アルファに罠があるかを確認してみたが、そういった物は見られなかったようだ。

 ……アルファ、本当日本語ダントツで上手くなったな。

 オートマトンだから学習したことの吸収も早いんだろうしこれはこれで有り難いけど、異世界で異世界転移者以外と<オペレーター>なしで会話出来るというのは少し不思議な感じだ。


「じゃあ皆さん、階段前で降りましょうか。一応周囲への警戒も忘れないでください」

「ワカッタ」


 私はベリアル達に指示を出し、階段前へとゆっくりと降りてもらう。

 トン吉、アルファ、タクト、最後に私という順番で地に降ろしてもらうと、イグニが肩をボキボキと鳴らしながら回しているのが見えた。

 トン吉、相当重かったんだろうなぁ。

 イグニさん、大概ジャンケン弱いよね。


「アイネス**、ツギ、カイソウ、ナラビ、ドウスル?」

「そうですね。では、アルファさんとタクトさんが先頭に立って作戦通りに……っ! タンザさん、**(後ろ)Y!」


 ラファエレ達に次の階層の隊列の指示をしていたその時、タンザ達の背後から魔法陣を展開して攻撃を行おうとしている魔物の姿が見えた。

 私は慌ててタンザに指示を出したけど、タンザ達は私が気づくより前にその魔物の存在に気が付いていたのか、その魔物が攻撃魔法を出したのと同時に防御魔法と水属性の攻撃魔法を展開して完全に攻撃を防ぎ、逆にその魔物を撃ち落としていた。

 ベリアル達が私やタクト達の前に出て身構えるのを見ながら視線を上に上げれば、一体何処に隠れてたんだと思うくらいの大量の飛行系魔物達がいた。

 彼らの頭上に目を凝らしてみると、そこには転移魔法陣。

 あそこから転移して増援を連れてきたんだろう。

 そしてその中には、オークジェネラルの側近をしていた堕天使の男の姿もあった。


「**(全く)、************(ダンジョンマスター)*******(入っていた)**……」

「貴方は確か、ロッソさんの側近のケムエさん、でしたっけ?」

「***(これは)**(意外)***。***(堕天使)********(浅い階層)****(守っていた)**。***(もしや)、****(降格でも)*****?」

「**(馬鹿)***(言う)*。***(部下達)**********(ダンジョンマスター)*****(手を)****(出せない)***(報告)********(赴いた)**。***(貴様ら)****(この)*****(ダンジョン)*****(出来)**」

「**、**(既に)******(突破)*************(回る口)**」

「半分くらい言っている言葉が分からないのに分かるこの会話の不穏さ」

『提唱。相手側の言葉の通訳』

「あ、結構です。絶対聞いても気分が良いものじゃないって分かるんで」


 ベリアルとラファエレが堕天使と舌戦を繰り広げている。

 口論と認定されないギリギリを攻めているのが私でも分かる。

 堕天使とベリアルとラファエレが舌戦を繰り広げているのを見ていると、イグニがこっそりと私に話しかけてきた。


「アイネスノ、イッタトオリニ、ナッタナ」

「流石に、こんな早くに数で押してこようとしてくるとは思いませんでしたけどね」

「アイネスタチハ、コウモリタチ、ト、サキニ、ツギノ、カイソウヘ、ムカエ。オレサマタチハ、コノ、ザコドモヲ、アイテスル」

「分断された時の攻略法については覚えてますか?」

「ウム。マンガイチハ、ヒトリズツ、ダロウ?」

「合ってます。では、作戦通りに」

「***(何を)********(喋って)**? ******(降伏宣言)*?」


 私とイグニが喋っているのが見えたのか、堕天使の男が私に対して話しかけてきた。

 空の上から男の人に見下されるなんて、ちょっとした奇妙な現象だ。

 私が黙っているのを見ていると、堕天使は何か思い出したかのように言った。


「**、**(確か)**(今は)*******(会話が出来ない)*****。*****(失礼)**」

「****(気にして)、**(ない)」

「***(しかし)、*****(尚更)*****(攻略)****(向いて)*********? ***(今なら)*****(ダンジョン)***(去る)*****(見逃す)*、****(どうする)?」

「うわぁ、それは紳士なことですね」


 にこやかに作り笑いを浮かべ、入り口の方を指した堕天使の男に私はそんな言葉を返した。

 私は深くため息をついた後、そっと口を開いた


「そりゃあ私、戦闘なんて最弱クラスですよ。だけど……<アクア>」


 私が呪文を唱えると、堕天使の顔が水球によって覆われた。

 突然水の中に顔が突っ込まれた為、堕天使は泡を吹き出し驚愕の声を上げた。


「***……!?」

「弱者なりの小賢しさとゲームに関連したことなら、私もそこそこ行ける方ですのでご安心を」


 そう言って舌を出してあっかんべーとしてやれば、自分が馬鹿にされたのを察したのか水球に沈められた堕天使の顔が歪むのが見えた。

 私はその隙にベリアルとタンザ、タクトさんとトン吉とアルファを連れて次の階層の階段へと入り第一層から去る。

 すると私達が完全に階段の方へ行ったのと階段に同時に光の壁が展開された。

 ラファエレの魔法だろう。

 それと同時に、水球が弾けて堕天使の男が怒号を上げる声と、ドラゴンの雄叫びが聞こえてきた。

 どうやら戦闘が始まったらしい。


「じゃあ、先に進みましょうか」

「ワカッタ」


 イグニとラファエレの戦闘音を聞きながら、私達は階段を降りていったのだった。




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