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これはワールドカップじゃないんだぞ

 タケル青年の時でも見た真っ白な空間。

 前方にはオークジェネラルと、百人を超えるオークジェネラルの配下達が立っている。

 一方私側にはベリアル、イグニ、タンザ、アルファ、ラファエレの最強クラスの魔物5人に加えトン吉とゴブ郎とタクトの総勢8人の魔物が私と一緒にいる。

 暫く周りに合わせて真剣な表情でオークジェネラル側と対峙していたが、タクトは突如ヘナヘナと耳と尻尾を下げ、居たたまれないような表情を浮かべて呟いた。


『……なんかオレだけ場違い感半端なくね?』

「気持ちは分かりますけど、口に出さないでください」


 タクトの気持ちは分かる。

 なにせベリアル達の熱気がとんでもないのだ。

 タクトとゴブ郎以外の魔物は全員<威圧>か何かを使っているのかと思うくらいオーラを出し、オークジェネラル側の魔物達と睨み合って火花を散らしているのだ。

 オークジェネラルのダンジョンであった出来事はベリアル達も被害者の会の方々と同じように小型カメラを通してリアルタイムで見ていた。

 母性や父性が強い魔物達はオークジェネラルの実の娘に対する対応の酷さに怒り、ベリアルやラファエレのように交渉事や取引に長けた魔物はオークジェネラルの詐欺の実態の想像以上の酷さに軽蔑を見せていた。

 どちらにも当てはまらず、基本チャラチャラとした軽いノリが普通なタクトはこのシリアスな展開にあまり乗っていけないのだろう。

 正直私もそこまで怒ってる訳じゃないからこの重い空気に乗れてない感じがある。


「此処にいるのが気まずいのであれば、今からコボルトの誰かと交代させますけどどうします?」

『う~ん……いや、ノーテンキュっとくわ! アイぴっぴの言われた通りのまんまでダイジョブっしょ』

「あ、そうですか? そっちの方が私的には有り難いので構いませんけど」

『オレはピンキーみたくそんな頭冴えてん訳じゃねーからあっちの悪事がどうこうとかオール理解してっわけじゃねぇし、あっちのオージェネさんの家庭事情に首突っ込んで良い立場じゃねぇってのは分かってんだけどさぁ……』


 タクトは頭をボリボリと掻きながら、大きく息を吐いた。

 そして顔を上げれば、ベリアル達と同じように怒りの混じった視線をオークジェネラルに向けていた。


『悪い事したって分かってんのに反省しねぇで『めんご』の一つも自分じゃ言えねぇのに他の奴に謝らせてたんは、流石のオレもちょいムカったわ』

「……でしょうね」


 オークジェネラルと初めて対面したあの日、オークジェネラルは口では「謝罪する」「面目ない」とか言っていながらも、自分では「ごめんなさい」も「すみませんでした」も言っていないのだ。

 そりゃあ、「面目ない」だって謝罪の言葉の一つでもある。

 だけどそれには、「恥ずかしくて人前に顔を向けられない」なんて意味もある。

 オークジェネラルが放ったその言葉は、明らかに後者の意味だった。

 果たして「娘が全てやった事だった。恥ずかしくて人前に顔を向けられない」は謝罪になるのだろうか?

 私はそういう風には思えなかった。


 そもそも、この男の放っていた途中途中で言っていた言葉はどれもが軽かった。

 反省の意や誠意は一切見られない。

 他のダンジョンマスターや娘、それに私達の事なんて殆ど考えていないのが良く分かるほど、軽い。

 このオークジェネラルは表面的にはかしこまった様子を振る舞っているけれど、実際は世界が自分を中心に回っていると本気で信じているのだ。

 私のダンジョンにだって世界が自分を中心に回っていると考えてそうな魔物や二面性のある魔物、胡散臭い口調の魔物はいる。

 だけどこのオークジェネラルのそれは、生理的に受け付けない。


『にらみ合いはそこまでで良かろう』


 此処で、私達の間で静観していたミルフィーさんがベリアル達とオークジェネラル側の魔物の睨み合いを制止した。

 ミルフィーさんの後ろにはディオーソスさんとディオーソスさんの配下である司会ダークエルフ2人と、ミチュさんを筆頭とした被害者の会のダンジョンマスター達がいる。

 司会2人とミルフィーさん以外は皆私の方で用意した組み立て式の椅子に腰を掛け、ワインとシャンパンを開けている。

 完全に私達のダンジョン戦争を観戦しながら飲み会するつもりだ。

 そりゃあ確かにどっちに転んでも彼らは被害額を取り返せるから良いだろうけど、戦争を飲みの肴にするのは止めて欲しい。聞こえがかなり物騒。


『これよりこのダークエルフが今回のダンジョン戦争のルールを確認してゆく。良く聞いておくのじゃぞ』


 そしてミルフィーさんが後ろに下がると、代わりにダークエルフの片割れである、フェスタンが私達の前に立った。

 今回のダンジョン戦争のルールはタケル青年とのダンジョン戦争の時とは違い、色々追加ルールがある。

 追加ルールについては最初の対面の翌日、ディオーソスさんとミルフィーさんが第三者となり、私側はベリアル、オークジェネラル側は堕天使を同行させ、4人で話し合って決めたものだ。

 ベリアルと堕天使の間で何かしらいざこざがあるんじゃないかって心配したけれど、そこら辺は控えてくれた。


 フェスタンは手に持った羊皮紙を開くと、笑顔のまま私達の前で口を開く。


『ではでは、此処からはワタクシ、フェスタンが今回のダンジョン戦争のご説明を致します!』

「はい」

『うむ』

『ルールその1、相手のダンジョンマスターに対し心肺停止、及び四肢が欠損するような重傷を誘う攻撃、罠の設置、もしくはアイテムの使用は禁ずること。ダンジョンマスターが重傷状態以上になった事が発覚した瞬間その場でダンジョン戦争は中止、攻撃をした魔物は消滅処理に至ります!』


 このルールは私がこのダンジョン戦争を行うに当たって最初に設定したルールだ。

 これがないと私の命が危ない。

 もしも断られていれば、私はすぐダンジョン戦争を拒否するつもりだった。


『ルールその2、ダンジョン戦争の勝利条件の一つである相手のダンジョンコアの接触は、ダンジョンマスター本人でなければいけないこと。配下の魔物が触れたとしても、それは勝利条件を満たしたとは組み込まれません!』


 これはオークジェネラルが設定したルール。

 前回のようにベリアルさん達だけにダンジョンに向かってもらい、ダンジョンコアをタッチしてもらって勝利するという戦法は使えないということだ。

 私が非力だから自分のダンジョンに籠ろうと考えるのは分かっているだろうし、遠回しに私が勝つ条件をオークジェネラルの気絶一つだけにする魂胆で設定したルールだろう。


『ルールその3、ダンジョン戦争で設置されたルールとは別に、ダンジョン内に設置されたルールには絶対に従うこと。ダンジョン内に設置されたルールは最低限相手側が遵守出来るルールにすること。ダンジョン内に設置されたルールは必ず相手側に事前に伝える事。どれか一つを破った場合、ルールを破った魔物はダンジョン戦争から脱落扱いになり、ダンジョンマスターが破った場合はその場でダンジョン戦争は終了。ルールを違反したダンジョンマスター側の負けとなる』

『一つ、質問よろしいですか?』


 フェスタンが3つ目のルールを説明している途中、オークジェネラル側の魔物、ラミアが静かに挙手した。

 私達はそのラミアの方へ視線を向けた。


『はい、質問をどうぞ!』

『ダンジョン内に設置されたルール、とは言いますが、具体的にそちらがどういった事かお聞きしてもらってもよろしいですか? ロッソ様にもこのルールについて説明はされましたが、そちらの考えと此方の考えが同じとはわかりませんので』

『だ、そうだが、クールガール側はどう答えるのかな?』


 ディオーソスさんが私達に尋ねてきた。

 この質問はなんとなく予測していた。

 この先のダンジョンに向かうに当たって、ダンジョンに設置されたルールが何かを事前に知っていればこの後のダンジョン攻略がやりやすくなる。

 具体例で大体の予測をつけようという算段なんだろう。

 私がベリアルに目配せをすると、ベリアルは軽く会釈して私の代わりにラミアの質問に答えた。


『ルール自体はそこまで難しいものではありません。ルールを知ってさえいれば、誰でも簡単に守る事が出来るものです。具体例ですと、「物を破壊してはいけない」や「逆走してはいけない」といったものですね。ついでに質問ですが、そちらのダンジョン内で設置されたルールはどういったものかお聞きしても?』

『いえいえ。此方もそちらと同じように大したルールではありませんよ。ルールさえ知っていればそれが人間でも守る事が出来るようなルールです。決して無理難題なルールを設置したつもりはありません』

『それを聞いてご安心致しました。なにせ、こういった自由の利くルールを設置すると、自分の望みの為にモラルに反した事をするような方もいらっしゃいますので』

『それはそれは、どんな者か見てみたいものですなぁ。』

『よろしければ手鏡がありますので、それでご覧になられますか?』

『アッハッハッハ……』

『フフフ……』

「タクトさん、ゴブ郎くん、あの2人を見てください。あれが本物の舌戦ですよ。あんなの私に対応出来ると思いますか?」

『どちゃくそやべぇっしょ……』

「ぎゃーうー……」


 黒い笑いを浮かべて笑い声を上げるベリアルとオークジェネラルの方を指してそう言えば、タクトとゴブ郎はなんとも言えないような声を上げた。

 あの日ベリアルとかラファエレを連れて行かなくて本当に良かったと思う。

 仮にどっちか連れてきてたら大人による壮絶な舌戦が始まっていた。

 あれの間に挟まるの、本当に精神削れるからね。


『御二方、ルール説明の方を続けてもよろしいですか?』

『おっと、これは失礼した』

「***(どうぞ)」


 フェスタンは私とオークジェネラルに恐る恐ると言った様子で再開していいのか尋ねてきたので、私とオークジェネラルは続きを促した。

 フェスタンはルール説明を再開した。


『ルールその4、このダンジョン戦争に負けた者は今回の発端となった詐欺の被害者たちの求めるだけのDPと宝を譲渡すること。なお、その中に配下の魔物達やダンジョンマスター本人は含まれていません!』

『チッ』

『ちょっと誰よ、今舌打ち打ったの』


 ルールその4の途中を聞いた被害者の会の面々が少し目を輝かせたが、最後に付け足すようにされた説明を聞いて一瞬でそっぽを向いた。

 これはオークジェネラルが負けた暁にはオークジェネラルを従僕にして引き取って憂さ晴らしにしようとしたのか?

 それとも私が負けた暁には強力な魔物であるベリアル達を引き抜こうとしたのか?

 話し合い中にベリアルが追加でこの説明を付け足してたけど、この為だったか……。


『ルールその5、挑戦者が楽しめるようなダンジョンを用意しましょう! ルール説明は以上です!』

『何度聞いても、最後のルールが異質さを醸し出してますわ……プフッ』

『アッハハ、あっちのダンジョンマスターの付けるルール超面白ーい☆』

『楽しさで言うなら、俺様達のダンジョンはこのルールを完全にクリアしているな!』

『このルールには特に破った際のペナルティなどがないようだが、良いのか?』

「別に絶対従わせたい訳じゃないですからね。あくまで私の気持ちの問題の為に付けてもらったルールなので」


 話し合いでこのルールの設置を希望したら、その場にいる魔物達全員にきょとんとした表情を向けられ、その次の瞬間に爆笑された。

 「噂のダンジョンマスターといえど所詮は子供か」とオブラートに包んだ言葉でオークジェネラルに笑われながらルールその5の追加を許可され、 堕天使とベリアルには温かい目で見られ、ミルフィーさんとディオーソスさんには笑いながら頭を撫でられた。

 正直全員殴りたかった。

 無愛想な私がこんなルールを追加しようなんて言ったら笑われるだろうとは思ってたけどさ、気持ちの問題的にはどうしても仕方なかったんだよ。

 こんな子供っぽいルールの追加をベリアルの口から提案させる訳にも行かないし。

 

『ルール説明が終わりましたので、早速ダンジョン戦争を開始したいと思います! ダンジョン戦争が始まれば<オペレーター>などの一部のダンジョンマスター権限は使えなくなりますが、準備は宜しいですか?』

『ああ、勿論だとも』

「****(いつでも)、***(どうぞ)」


 ルール説明が終わり、フェスタンが私とオークジェネラルに問いかける。

 私達が頷けば、ベリアル達の顔も一気に真剣なものになる。

 フェスタンが大きく手を上げ、高らかに声を上げた。


『アイネス様VSロッソ様のダンジョン戦争の、開始です!!!』



その宣言の下、私の二度目のダンジョン戦争が此処に始まった。




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