【番外編】 それぞれのペアの会話録 その5
再び番外編でございます!
時間はあべこべ、中身は何処かの先輩後輩ペアのとあるやり取りです!
今回のペアは、コイツラだ!
《不運を嘆く毒キノコと幸運を喜ぶ小型犬》
挑戦者達が通るルートとは別に、ダンジョンの居住スペースの地下に存在する一室。
そこではある取り組みが行われていた。
マタンゴのヨツキはその中の一つの管理者として働いている。
ヨツキが薄暗い場所で黙々と作業を行っていると、一体の魔物が入ってきた。
その魔物は、調理班で働いているチワワ型コボルトのトレニア。
トレニアはヨツキを見つけると、口角を上げて微笑みながら声を掛けた。
「ヨツキ殿! キノコの成長ぶりは如何でございますかな?」
「あ、トレニアさん……。一応順調……だと思います」
居住スペースの地下で行われているある取り組み。
それは、地球産の野菜やキノコの育成だ。
アイネスのダンジョンには大食漢の魔物が多く、食材の消費ペースがかなり早い。
特に最近は野菜好きなミノタウロス達が配下になった為、野菜の消費ペースが凄まじい事になっている。
今まではアイネスがネットショッピングで大量購入したり、<お出かけ>で大量買い物向けのスーパーで大量買いしたりしていたのだが、それに限界が来た。
<お出かけ>はマイホームを介して向かう必要があるため同行出来る人物に限りがあり、ネットショッピングも一度に大量の食材を買うと食材棚に仕舞う作業がある為、とにかく面倒なのだ。
食材が地球産というのもあり、アイネスもこればかりは良い解決方法が思いつかなかった。
そんな時、ミノタウロスの数体がアイネスに相談してきたのだ。
「畑を耕したい」と。
元々は畑を耕し生活していたミノタウロス達。
このダンジョンに来てからはアイネスや他の魔物達の指示通り雑用を主にした仕事を行っていたけど、突然畑仕事から離れた事で畑を耕したい欲求が出てきたのだ。
そんな相談を持ちかけられたアイネスは、あることを思いついたのだ。
『地球産の植物を育てて貰えれば自分の負担が減るのでは?』
アスペル王国に帰還した後すぐに一つ広い土地をもらって農業革命を試みているカナタ達から地球の肥料がかなり有効である事は聞いている。
だったら肥料を使えば地球の野菜や果物も育てられるんではないか? とアイネスは考えた。
そんなアイネスの考えとミノタウロス達の希望が合わさり出来たのが、地下の生産スペース。
フォレスやミノタウロスなど農業や植物を育てる事に長けた魔物が自由に畑を耕し、ゆくゆくは食堂に並ぶ予定の食材を育てる場所だ。
元々農業や植物が好きなフォレス達はこの仕事がいたく気に入ったようで、ダンジョンの仕事がない時はこの生産スペースで働いていたりする。
ヨツキが頼まれた仕事は、椎茸や松茸といった地球のキノコの栽培だ。
キノコ型の魔物であるヨツキはその見た目に裏切らず、状態異常を引き起こす胞子を放出したり寄生型のキノコを植え付けたりといった、キノコ関連の能力を持っている。
その中でもアイネスが気に入ったのは、キノコの成長を促す<菌茸促進>というスキルだった。
キノコの種菌があればどんな場所でもキノコの成長を早める事が出来る。
そのスキルをステータスで知ったアイネスは、原木と椎茸の種菌、その他栽培キットを渡し、ヨツキにキノコの栽培を頼んだのだった。
ヨツキの教育担当であるトレニアに対し、ヨツキはおどおどとした様子で話し始める。
「わ、渡された種菌は成長の条件が厳しいキノコじゃないですし、場所も原木も、キノコを育てるのに最適なものですから、育てられないというのはないと思います……」
「おおっ! ではヨツキ殿が育てたキノコがいつか食材として使えるのでございますな!」
「で、ですけど……」
「ですけど?」
トレニアの明るい声に対し、ヨツキは頭の笠で自分の顔を隠すように下げて、震える声でボソボソと呟いた。
「しょ、正直、ワタシが夕食に出された方が良いと思うんですよ……」
「何故にそのような考えに至ったのでございますか!?」
今にもキノコが生えそうなぐらいジメジメとした空気を纏い夕食の材料希望発言をするヨツキにトレニアは口を大きく開いて驚愕した。
ヨツキは涙目で言葉を続ける。
「ほ、ほら、ワタシってアシュラさんやラファエレさん達と一緒にアイネスさんに召喚されたじゃないですか?」
「そう聞いているのでございます! 確か、皆さんは<ガチャ>によって召喚されたのでございましたな!」
「セラフィムに鬼人、シーサーペント・リヴァイアにオートマトン、パペットアクターにスキュラにエンシェントドラゴンなどなど……ワタシと一緒に召喚された魔物は皆、全員一体で人間の国の騎士団を軽く相手出来る強力な魔物ばかりじゃないですか……。ど、何処にでもいるマタンゴの一体でしかないワタシなんかがそんな魔物達の同期で良いのかなって思って……」
「それはつまり……自分では力不足だと感じているということでございますかな?」
「うっ、はい……」
そう、ヨツキの種族、マタンゴのランクはレア。
アイネスが10回連続ガチャを引いて召喚した魔物達の中で唯一のR魔物。
スライムやゴブリン達程でないけれど、場所によっては何処にでも見られる希少価値の低い魔物だった。
希少価値が高く、強力な能力を持つ同期に対し、希少価値が低くそこまで強い能力を持っている訳でもない自分。
ネガティブ思考なヨツキはそのギャップで劣等感を抱いており、度々ジメジメと落ち込んでは近くに毒キノコを生やすのだ。
なお、生えた毒キノコ達はウィッチ達やオメアが魔法薬の材料として全て収集しているらしい。
「自分からしたらマタンゴも強い魔物だと思うのでございますよ! 何よりヨツキ殿の働き振りは大変優秀であると思うのでございます!」
「で、でも、ワタシ、良くドジばっかり踏みますし、この前なんか夕食後食べ終わった食器を片付けているときに転んでトン吉さんに自分のお皿をぶつけてしまいましたし……」
「少なくとも出来立て熱々の料理をぶちまけられるよりかはマシな事故だったかと!」
「そ、そんな事故があるんですか!?」
「調理班になると案外良く見られる光景でございますよ!」
最近起きた事故のことを呟いたヨツキにフォローと言えるのか分からないフォローをするトレニア。
2人とも魔物としてはかなり愛らしいルックスのせいか、遠目で2人のやり取りを見ているミノタウロス達は「愛らしいっぺなぁ」「見てて和むべ~」と呑気に笑って眺めている。
トレニアにフォローを入れられていたヨツキだったがまだネガティブ思考から脱却出来ないようで、なおも落ち込み続ける。
「や、やっぱり、ワタシのスキルに<不運>なんていうのがあるせいかなぁ……」
「確か、運が良くなるスキル<幸運>とは真逆の効果を持つスキルでございましたな」
「ふ、不運にするスキルなんて使い道も使い方も分からないですし、どんな不運が起きるかも分からないですし……こんなのどう扱えば良いんでしょう……」
ヨツキがこうもネガティブ思考になるもう一つの理由。
それは種族特有のスキル以外に所有していた<不運>というスキルが理由の一つだった。
運が良くなる<幸運>とは正反対に、運が悪くなるスキル。
度合いも使用用途も曖昧で効果があるのかもいまいち分からず、スキル名から分かる通り明らかに良いスキルではない。
所有しているだけでマイナスな方向に働きそうなスキルを持っているという事実自体が、ヨツキをネガティブにする理由の一つとなっていた。
「ほ、他のスキルもどれもそんなに強力な物じゃないですし……。やっぱりワタシ、此処にいて良いんでしょうか……」
「ヨツキ殿……」
涙目で落ち込みながら、自分の周囲に毒キノコやカビを生やすヨツキ。
そんな彼女を心配そうに見つめていたトレニアだったが、あることを思い出すと、
「ヨツキ殿、『如何なる短所も、その道を突き進めば自身の長所となり武器になる』、でございますよ!」
「……え?」
「族長……自分が慕っていたコボルトが、自分に言ってくれた言葉でございます!」
トレニアの言葉に驚いたヨツキは、思わずきょとんとした表情でトレニアを見た。
トレニアは少し恥ずかしそうにしながら、言葉を続ける。
「自分、召喚された当初からお腹が空けばなんでもかんでも拾い食いする癖があったのでございますよ。石でも毒草でも、気になった物は何でもかんでも口にいれてしまうので、よく毒だなんだで倒れる事があったのでございますよ」
「はわわっ、そ、それって駄目じゃないですか!」
「自分も克服したかったのでございますが、自分のいた前のダンジョンではあまり十分に食事が取れず、克服が難しかったのでございますよ。良くポーションの材料の余りの毒草を食べてたせいか、そこの幹部殿たちには「悪食コボルト」って言われたでございます」
「あ、悪食コボルト……凄いあだ名ですね……」
トレニアの過去に目をパチパチとさせて驚くヨツキを横目に、トレニアはキラキラと目を輝かせながら言う。
「でも、族長……もといそのコボルトが今の言葉を教えてくれたのでございますよ! 「どんな癖でもスキルでも、極めればそれは短所じゃなくて長所だ」と、「お前が色々食べる事で、お前にしか分からない物があるはずだ」と!」
「自分にしか、分からない事……」
「自分はその言葉を聞いて興奮しすぎて普段以上に拾い食いをしてしまったのでございますけど……でも、そのお陰で大抵の毒は無効化出来るスキルを手に入れたのでございます! だからヨツキ殿も、きっとその欠点と真正面で向き合えば、きっと自分や他の皆には分からない事が分かるようになるはずでございますよ!」
「そ、そうでしょうか……?」
「そうでございますよ! 共に精進してございましょう!」
トレニアの言葉に励まされ、ヨツキは眩しい光でも見るようにトレニアを見つめる。
そんなヨツキに対し、トレニアは前のダンジョンに残ってしまった自分の族長のことを思い出していた。
今何処で、何をしているのか分からない憧れのコボルトに向けて、トレニアは心の中でそっと叫ぶ。
(族長殿!自分は日々、己の道を突き進むのでございますよ! だから族長も息災でいて欲しいでございます!)
***** *****
「へっくしっ! 風邪かなぁ……」
トレニアの想いが、いつ届くのか。
それは神も分からない。




