【番外編】 それぞれのペアの会話録 その4
数日更新できず申し訳ありませんでした!!!(スライディング土下座)
此処数日間は色々と用事が相次いであったため、最新話の執筆がかなり遅れました……申し訳ありません……。
アイネスちゃん達はダンジョン戦争の準備に大忙しのようなので、今回も番外編にしようと思います。
少なくとも、あと2、3話は出るのでご勘弁を!!
時間はあべこべ、中身は何処かの先輩後輩ペアのとあるやり取りです!
今回のペアはこの二組だ!
《学習させる鍛冶師と学習する機械人形》
「不必要と思われる部品を発見。排除」
「待て、アルファ! そっちは触るな! それはまだ使う予定で……」
「現段階には不必要と判定。排除」
「いつか使う予定の部品がーーーーー!!!」
「いや、いつか##捨て#####……」
アイネスのダンジョンに存在する鍛冶部屋にて、唯一のエルダードワーフ、マサムネの悲鳴が響いている。
悲鳴の原因を作っているのは最近アイネスによって召喚されたオートマトン、アルファだった。
アルファの手に持っているのは、ゴミ袋。
アルファは今、アイネスの命令で鍛冶部屋の掃除をしていたのだった。
アルファの種族はオートマトン。
ゴーレムの上位種に当たる種族で、地球で言う所のロボットだった。
アルファは自分を召喚した主人であるアイネスの命令ならばなんでも聞く。
アイネスが元の世界の言葉を覚えるように言えば、その日の内に図書室にある本を全て読破してアイネスの元いた世界に存在する数十カ国の言葉を習得したし、どんな仕事もあっという間に覚えてしまった。
有能なロボットである。
しかし、逆に言えばアイネスの命令しか殆ど従わないし、動かない。
食事をすることも、ベッドに入って眠るのも、風呂に入るのも、全てにおいて命令がないと駄目なのだ。
初日にその問題が発覚し、その3日後アイネスはアルファの教育担当に生活関連の行動の自動化を頼む事にした。
そんなアルファの今回の教育担当が、マサムネだ。
今日、マサムネは改良版馬車のためにアルファを連れて鍛冶部屋に入ったのだが、いつか使う予定にと取っておいた部品やら材料のカスやらで汚部屋と化しているそこをアイネスに見られてしまったのだ。
アルファが清掃作業に入っているのは、それが理由だった。
「鍛冶部屋#技術者以外#触る#困る###から私#スライム##手#付けない###して###……、これ#流石#汚すぎ##」
「良いじゃねえか、ちょっと汚えぐれぇ! 此処にゃあオレぐれぇしか入らねぇんだし、誰も困んねぇだろ!」
「あまり#放置####臭い#外まで来る####。それに汚い##放置する#、黒い悪魔#来そう#####」
「黒い悪魔ぁ? ベリアルの旦那のことか?」
「いえ、私#世界#住民#殆ど#恐れられてる虫#こと##。あれ、一匹出る#必ず30匹#潜んでいる##」
「どんな虫だよ……」
「不必要と思われる部品を発見。排除」
「そしてアルファは着々とごみの分別してんじゃねぇよ!!」
アイネスとマサムネがワイワイと会話している間もアルファは着々と鍛冶部屋の清掃を行っていく。
ダンジョンマスターであるアイネスからの命令のため、マサムネの制止も完全に無視している。
一時間後、もったいないおばけに取り憑かれたマサムネによってゴミや材料のクズなどが放置された結果汚部屋と化していた鍛冶部屋は、アルファとアイネスによる清掃のお陰で清潔さの整った部屋へと変わった。
綺麗にされた鍛冶部屋を前に項垂れるマサムネを横目に、アイネスはアルファにある命令をした。
「また汚部屋#なって##アルファ###掃除して####」
「御意」
「じゃあ私、これからジャスパー###特訓###行き###」
「嬢ちゃんには容赦ってものがないのかよ……」
「そこ#なければない###」
涙目で訴えるマサムネの言葉をバッサリと切り捨て、アイネスは掃除道具を<アイテムボックス>にしまい、鍛冶部屋を出ていってしまった。
残されたのは項垂れるマサムネと命令が来るまで待機をしているアルファのみ。
マサムネはため息をついて、重い足取りで椅子に座り、工具を弄びながらブツブツと呟き始めた。
「ったく、ちっとぐれぇ汚くても良いじゃねぇか……。オメェもそう思うだろ?」
「……」
「おいおい、命令がなかったら雑談もしねぇのか?」
「……」
「……こりゃ、ベリアルの旦那や他の旦那達達と別方向で曲者みてぇだな」
「……」
「こうなったら、コイツの考え方自体を改造しちまう方が楽だな」
マサムネはそう言うと先程まで弄っていた工具を腰のベルトに戻し、代わりに自分のスマホを取り出して操作を始めた。
アルファは何も言わず、ただその場に立ってマサムネの行動を見ているだけだ。
「おっし、アルファ。命令だ。今見せる物をよく見てろ」
「疑問。見る対象は?」
「この動画だ。ただ見るだけじゃなくて、内容を良く見ておけよ」
マサムネは目的の物を見つけると、アルファのもとに近づき肩を組み、スマホの画面表示されている動画をアルファに見せた。
それは、アイネスの世界に存在するAIロボットの紹介をする動画だ。
アルファはその動画をマジマジと見つめながら、マサムネに問いかけてきた。
「……疑問。これは?」
「『ろぼっと』の紹介をしてる動画だよ。オレぁ嬢ちゃんに教えてもらって知ったんだが、オメェは知ってるか?」
「ロボット。自律的に連続、或いはランダムな自動作業を行う機械。」
「そうそう。ま、要するに嬢ちゃんがいた世界にいるオメェさんの類縁みてぇなもんだな。どうもあっちの世界じゃ魔法じゃなくてこういった技術が発達してんだそうだ。この動画に映っているオートマトンは全員、人間が創り上げたものらしいぜ」
アルファはマサムネからスマホを受け取り、動画の中で紹介されているロボット達の姿をじっと眺める。
完璧な人型に近いアルファと違い、動画のロボット達は皆完璧な人型とは言い難い。
だがそのロボット達はアルファよりも人間らしく、よりスムーズに、より自由に会話をして、人間たちとやり取りをしていた。
マサムネにはアルファがその動画を見て何を考えているかは分からなかったものの、少なくとも何かしらの興味を示している事は理解した。
マサムネはそんなアルファに対し、言った。
「コイツらの驚く所はこんだけ流暢に喋ってるのにオメェと違って自分の意志や心を持っていねぇ事だ。全部コイツらの製作者がこう喋るように創り上げてんだよ。これ見てオメェはどう思うよ? 答えてみな?」
「……マスターの世界の技術力の進歩がこの世界のものよりかなり優れていると判断」
「そうだよなぁ。嬢ちゃんの世界の技術者達はすげぇ。なにせ、オートマトンであるアルファが出来ねぇ事を動画の『ろぼっと』らにやらせることが出来るんだからな」
マサムネの言葉に、アルファがピクリと震えた。
それはアイネスの世界の技術者達を称賛に見せかけた、アルファに対する挑発だ。
アルファが反応したのを見ると、マサムネは口角を上げ、更に言葉を続ける。
「確かオートマトンの特徴は主人に対する命令であればなんでも完璧に遂行する種族……だったか? 命令がなければ何にもこなせないオートマトンと違って、コイツらは一回そうだって教えりゃあその後は命令なしでも出来るらしいんだってよ。すげぇよなぁ。此方の方が嬢ちゃんの為になるんじゃねぇか?」
「……」
「此処じゃ戦闘以外にも掃除やら生活やらやることがあるからなぁ。一々そういった細かい命令する必要がなけりゃあ嬢ちゃんの負担もかなり減るだろうし、誰かに言われねぇでも仕事をするようになりゃあ、それだけで他の奴らも助かる。それに雑談なんかもして他のやつと仲良くしてりゃあ、万が一の時の連携も取れて嬢ちゃんがより助かるだろうな」
「……」
マサムネがチラチラとアルファを見ながら話すと、アルファはじっとマサムネを見つめた。
どうやら、さり気なく「せめて命令なしで生活するようにしろよ」という要求を含めたマサムネの言葉は確かにアルファの耳に入ったようだ。
そしてアルファは再び、動画のロボット達の方を見る。
ロボット達と人間が会話している姿をじっと見つめると、アルファは静かに口を開いた。
「……訴えの内容を把握。当機体の情報伝達能力に改良の余地があると判断」
「ま、今すぐ全部できるようになれとまでは言わねぇよ。だけどまぁ、ちったぁ命令抜きにしても生活するように過ごしてみた方が良いんじゃねぇか? 人間らしく挨拶してみたりとか日常会話したりとか、誰かをあだ名で呼んでみたりとかな」
「御意。提案を承諾。非戦闘時の状況下にいる事を条件に、提案内容の実施するプログラムを作成、アップグレード……成功」
マサムネの訴えは無事、アルファに聞き入れられた。
アルファは早速マサムネの言われた通りに命令なしで行動を可能になるよう一人でアップグレードを行ったらしい。
アルファが話を聞いてくれた事に満足したのか、マサムネはニヤリと口角を上げてウンウンと頷いた。
アップグレードを終えると、アルファはマサムネの方を向いて言った。
「今後とも宜しくおねがいします、ダディー」
「だ、だ、ダディー!?!」
アルファの口から放たれた、“ダディー”呼び。
マサムネはまさかそんな呼ばれ方をされるとは思っておらず、ギョッと目をひん剥いて驚いた。
マサムネの驚愕を感知したのか、アルファは首を傾げながらマサムネに尋ねる。
「バイタルの変動を確認。何かおかしいことでも?」
「おかしいも何も、オレぁオメェみたいなオートマトンを産んだ覚えも産ませた覚えもねぇよ!」
「この動画では、ロボ達は皆製作者をドクター、先生、パパ、ママ、などといった呼称で呼んでいます。それに則り、このダンジョン内で唯一当機体の改良や改造が可能な技術者であるダディーはそう呼ぶべきと判断」
「いやべきじゃねぇよ! 何が悲しくて自分が作った訳でもねぇオートマトンにダディー呼びされなきゃならねぇんだよ!」
「別呼称での呼び名はダディーの提案。ならば最初の試験対象もダディーにすべき」
「結局実験対象扱いなんじゃねぇか!! さてはオメェ、散々煽られた事結構根に持ってやがるな?!」
「当機体に感情はなし。その推測はダディーの勘違いだと主張」
「ダディーって呼ぶな!!」
「命令を却下」
「学習してからの自己改良早すぎるんだよ!!!」
マサムネの叫びにも等しいツッコミが鍛冶部屋の外にまで響く。
近くを掃除していたスライム達はその声にビクッと身体を跳ねらせ、頭に疑問符を浮かべた。
その後、アルファは命令なしでも生活的な行動をするようになり、命令以外の言葉にも返答を返すようになった。
突然の成長ぶりに、アイネスもベリアルもマサムネの教育っぷりに感心を見せていた。
因みに、アルファのあだ名呼びはマサムネに対する“ダディー”呼びのみだったらしい。
《悲観する災禍の亡霊と楽観する首なし騎士》
アイネスは零感だ。
幽霊の姿を視認するどころか、彼らの声を聞く事も、自分から触れる事も出来ない。
スケルトンやワイト、更にはパペットアクターのように器があるアンデッドなら認識することが出来るけれど、そういった器がないアンデッド、つまりはゴーストの類の魔物は完全に認識することが出来ない。
アイネスのダンジョンにいる魔物の中で、その種族に入るのはブラッディ・ファントムであるサユリのみだ。
だからアイネスはサユリに用がある際は、近くの魔物にサユリがいるかを尋ね、いなければ一緒に探してもらう。
そんな中でも、アイネスが一番良くその用事のために声を掛けるのが――――
「ゼノビア##、今サユリ###一緒##か?」
「ぎゃう!」
「おお、アイネス氏! 丁度サユリ氏なら此処にいるぞ!」
最近召喚された新入りのデュラハンである、ゼノビアだった。
彼女はアンデッドでありながら肉体を持つためアイネスにも認識する事が出来る魔物の一人。
彼女は教育担当と一緒にいない時は良くサユリと一緒にいる事が多い。
それはお互い不吉な伝承を持つアンデッドという共通点からか、はたまた性格の相性が良いからなのかは分からない。
だが、他の魔物達と比べてサユリとよく会話をしていることが多いのはアイネスも他の魔物達も知っている。
なので、アイネスはサユリに用がある時はまずゼノビアに確認に向かうのだ。
サユリはアイネスに気が付くと、近くにあるホワイトボードとペンを取り、筆記で会話を始める。
『ど う し た の ?』
「先程タクト###<ネットショッピング>#購入出来る人形を器#すれば私##会話#出来るんじゃないかって提案された####、パペットアクター##ないサユリ###それ#可能##確かめたい###。いつなら大丈夫#####?」
『ゆ う し ょ く ご な ら か ま わ な い わ』
「分かり###。では、その時#なったら召喚部屋#方#待ち合わせ#####」
「アイネス氏、その時は某も同行した方がよろしいか? そうすれば行き違いになることもないだろう」
「お願い###。では、私#次#用事#あり####、失礼####」
「ぎゃうぎゃーう!」
「うむ、転ばぬように気を付けて!」
『ま た あ と で ね』
用事を済ませると、アイネスとゴブ郎はすぐにゼノビア達の前から去ってしまった。
本来なら配下の魔物にそういった伝達を任せられる上、サユリをアイネスのもとに向かわせる事も出来る立場であるにも関わらず、アイネスはそういった事も自分で行う。
アイネスとゴブ郎の姿が見えなくなると、ゼノビアは笑い声を上げながら呟いた。
「いやはや、アイネス氏は仕事熱心ですなぁ。見ていて本当に尊敬する」
『す こ し は た ら き す ぎ』
「某もそう思うこともあるが、そこら辺はベリアル氏や他の者達がカバーしているのだろう。某から見れば、実に生きてる! という感じがして良いと思うぞ」
アイネスが少し働きすぎているように感じたサユリは心配の言葉を告げたが、ゼノビアはそれを陽気に笑い飛ばした。
そのままアイネスに関する雑談を続けていた2人だったが、ふとゼノビアは思いついたようにサユリに尋ねた。
「そういえば、サユリ氏はまだあの事を言ってないのか?」
『な に が ?』
「口の呪糸の事もそうだが、その髪のことだ。アイネス氏と同じ黒い髪だと伝えれば、話が弾みそうだがな!」
ゼノビアはそう言って、サユリの髪を見た。
アイネスにはサユリの姿が見えない為知らない事だが、サユリの髪はアイネスやベリアルと同じ黒髪だ。
そしてその瞳の色は黒。
つまり生前はアイネスと同じ、黒髪黒目の女性だったのだ。
アイネスのダンジョンにやって来た当初は全身に纏わりついている血やゴースト系魔物特有の呪力で禍々しい色に覆われてしまっていたが、「幽霊でも女ならせめて髪は大事にしないと!!」と髪の血を綺麗に拭われ、それが発覚した。
早速それをアイネスに伝えようとしたけれど、サユリはそれを拒絶し、黙っていてくれとマリア達に口止めしたのだ。
ゼノビアの言葉に対しサユリは少し沈黙した後、静かにホワイトボードに自分の言葉を書いていった。
『わ た し の く ろ か み と あ の こ の く ろ か み は ち が う』
200年前、黒い髪と黒い目は悪魔や魔物が持つ魔の証とされ、人間たちの中では縁起が悪く、忌み嫌われる対象だと言い伝えられていた。
「黒髪黒目の忌み子が成人を迎えればその地は破滅を迎える」
そんな根も葉もない伝承と共に。
サユリには生前の記憶は殆ど残っていない。
だが偶に生前の記憶を夢見る時がある。
その夢の内容は主に3つ。
自分だと思われる黒髪の少女が同じ村の者達に「不吉な髪と目を持った化け物の子だ」「忌み子だ」と罵られ、石をぶつけられる光景。
美しい金髪を持った両親に黒髪の娘が恐ろしい物であるかのように見られ暴力を振るわれる光景。
そして、逃げ惑う黒髪の女性と嘲笑を浮かべながら追いかける武器を持った荒々しい男達。
それらの夢の最後は必ず、その黒髪の女性が荒くれ者達に口を縫われ乱暴され、最後には大木に磔にされて死に絶える姿で終わっている。
そんな記憶が朧げにあるためか、サユリは自分の黒い髪と黒い目が好きではない。
それら全てが不吉の象徴として見えてしまうため。
そしてその事をアイネスに知られるのも嫌がった。
同じ黒髪黒目といっても、アイネスの黒髪と黒目はとても美しいものにサユリは見えていた。
そして人間であるアイネスに自分が禍々しい黒髪黒目持ちと知られて恐れられるのが何より嫌だったから。
アイネスがゴーストの姿を見ることが出来ないと知って一番安堵したのは、他でもないサユリだったということを、アイネスは知らない。
ゼノビアは悲しげにそう答えたサユリをじっと見つめた後、深く追求することなく、陽気に笑って言った。
「まあ、サユリ氏がそう言うのであれば某がこれ以上言うべき事ではないだろう! 少し勿体なくもあるがな!」
ゼノビアは死を宣告する騎士という種族でありながら、かなり楽観的な性格だ。
サユリの黒髪黒目も、アイネスの黒髪黒目も、どちらも首が切り離されている自分にはない素晴らしい物だと思っていた。
だからこそサユリにアイネスにその事を共有する事を提案してみたが、断られた。
だが基本的に物事を楽観的に考えるゼノビアはその事を特に悲観することなく、また別の話題へと移り変わった。
悲観的な亡霊と、楽観的な騎士。
彼女達もまた、このダンジョンで充実した生活を過ごすのだった。




