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まさかの素面

『ダンジョンマスターは<契約(コントラクト)>を結んだ魔物の数がある一定数を超えると幾つか新たな権限が解放されてね――――』

『魔物が100体以上超えた時にはダンジョンマスターの権限である<念話>を上手く使用すると――――』

『宝箱の種類は階層ごとに決めた方が良くて――――』


 ダンジョンのあちこちに置かれた調度品の紹介をされながら奥の談話室に通され、バイフーが席に座ると、早速オークジェネラルの初心者必見の講義が始まった。

 悪徳商法や契約詐欺なんて事をしているダンジョンマスターの講義だし、あまり信用ならなそうだと思っていたのだけど、案外本格的でしっかりとした講義だった。

 講義で教えられる権限については全てタケル青年やミルフィーさんや<オペレーター>から聞いて知った事と同じ内容だし、指揮系統に関するコツや宝箱の中身についての情報もメリット・デメリットからそうした方が良いと思う根拠までしっかりとした理論で説明されている。

 まるで高校一年の冬に行われた、とある大企業の説明会を受けてるみたいだ。

 

 内容がしっかりしているというのもこの講義が結構まともである印象を作る要因だけど、その講義の魅力を最大限に引き上げているのがこの講義をしているオークジェネラル。

 このロッソとか言うオークジェネラル、とてつもなく口が上手いのだ。

 講義を担当するかと思われていた堕天使はオークジェネラルの説明に少し付け足しをするだけ。

 メインの講義はオークジェネラルだ。

 宛ら一流企業の営業が取引先達の前でプレゼンテーションをしているように、要点を此方が分かりやすいように説明している。

 偶にバイフーが講義に飽きないようにジョークや失敗談を話したり、バイフーを褒めたり、娘さんと一緒にちょっとした茶番劇を見せたりと聞き手側がついつい聞き入ってしまいそうな工夫を行っている。

 最初こそ私からの話を聞いて警戒心高めだったバイフーだったけど、今ではオークジェネラルの話に聞き入ってしまっている。

 やっぱり、騙されやすい性格の持ち主っぽいなと感じたのは気の所為じゃなかった。

 まあ、この口の上手さじゃあバイフーじゃなくてもコロッと騙されてしまいそうだ。

 ベリアルとタンザを足して2で割ったようなタイプの口達者。

 しかも講義内容は本当に真実しか話してないのだから、聞き手側はその後の詐欺行為も真実だろうと考えてしまう。

 口が上手いイメージのある上位種族の堕天使がやっていたら、被害者達も何か裏があるんじゃないかと多少は警戒してこうも簡単に騙されなかっただろう。

 しかし、実際に講義をしているのは傍から見れば比較的下に見られやすい種族であるオークジェネラル。

 他のダンジョンマスター達の中でも、“口が上手くて”、“賢くて”、“狡猾そうな”イメージがない種族なのだ。


 ダンジョンマスターになる魔物っていうと、当然ながらほぼ全員が少なくともSR以上のランクは持っているだろう上位種族だ。

 だからこそ、彼らは先入観に囚われてしまう。


『目の前のオークジェネラルが、自分らを欺けるようなことが出来る訳がない』と。

 そんな先入観から生まれるのは侮り、軽視、そして油断。

 このオークジェネラルはその油断に付け込んで詐欺行為を働いているのだ。

 堕天使の契約書で契約を結んで、後から自分が騙されたと気が付いた時にはもう遅い。

 自分の種族的、ステータス的強さで自惚れていたダンジョンマスター達は自分たちに不利な条件の契約を結ばされ、自分からはもう破る事が出来ない。

 きっと自分より下位種族であるオークジェネラルにしてやられた悔しさと怒りと屈辱でいっぱいになり、半分以上が騙されたという事実を信じられないはずだ。

 そこに、次の商売としてマルチ商法を教える。

 被害者が加害者となり、利益を得る商法。

 最終的には一番トップにいるオークジェネラルが最も得する仕組みになっているけれど、オークジェネラルにしてやられたダンジョンマスター達がこの商法の傘下に入る事を誘われたら、きっとこう思うんじゃないだろうか?


『自分は騙された訳じゃない。これからこのオークジェネラルを利用してやるのだ』


 そんな、負け惜しみみたいな事を考えて、マルチ商法に乗っかる。

 だからミルフィーさん達が話を聞きに行った時、彼らはマルチ商法については伏せたのだ。

 もしもミルフィーさん達に言ってしまえば彼らはもうマルチ商法に加担出来なくなってしまう。

 後に残るのは下位種族にまんまと騙されたという汚点だけ。

 そんなの、プライドの高い彼らは認められなかったのだろう。

 本当、このオークジェネラルには相性の良い商法だ。

 あまりにこのオークジェネラルに適任過ぎて、思わず呆れ返ってしまうくらいだ。

 この悪質商法をオークジェネラルに教えたと思われるタケル青年の罪は想像以上に重そうである。


 オークジェネラルの口の上手さも少々驚かれるけど、何より気になるのがオークジェネラルの周囲に侍っている美女達である。

 エルフにラミア、ドワーフにドラゴニュート、夢魔に雪女に妖精などなど……。

 種族も美女のタイプも多種多様だ。

 文字通りのハーレム。異世界転移者の男性が夢見る光景そのもの。

 バイフーに講義をしている間も、オークジェネラルの腕や肩に顔や胸を擦り付けている女性魔物達の姿は上機嫌な猫そのもの。

 これ、スキル<魅惑>掛かってたりしないだろうか?

 亜種である突然変異から魅了系ユニークスキルを持って生まれたとかないかな?


 きっとアマービレも、同じような事を思ったんだろう。

 恐る恐る手を上げて、オークジェネラルに尋ねた。


『失礼、講義中に申し訳ないのですがおっ……よろしいでしょうか?』

『む、何かな? 質問があるなら気軽に聞いてくれ』

『あの、失礼なのは承知でお聞きするのですが、そちらの女性達はその……スキルを使用した上でその状態なのでしょうか?』


 アマービレがその質問をした瞬間、オークジェネラルの娘を除いたオークジェネラル側の女性魔物達がギロッと鋭い目つきでアマービレを睨んだ。

 アマービレの尻尾と耳が一気に萎んだ。

 君のその勇気に感服するよ。本当聞きたい事聞いてくれてありがとう。


『ハッハッハッ、確かにオークなんて種族の自分に、こんな美しい女性たちが側にいるところを見たら驚くでしょうなぁ! 良く他の友人達からも聞かれますよ。「どうやったらそんなにモテるんだ」と』

『すみません。配下である身でありながら、このような質問を……』

『いやいや、構わない。むしろ正直に言ってくれて有り難いくらいだ』


 心の中でアマービレに敬礼をしていると、オークジェネラルは特に気分を害した様子もなく笑ってみせた。

 近くにいたドラゴニュートの首元を猫のように撫でながらオークジェネラルは言った。


『実は、別にそういったスキルや魔法を持っている訳ではないのですよ。皆、自分の本当の魅力に惹かれて好意を持ってくれているのです』

『まっ……!! そ、そうなのですか』

『ロッソ様は私達にとっても優しいですもの』

『お話もとっても面白いし~』

『『ねー♡』』

(マジかぁ)


 まさかの素面(しらふ)でそのハーレム状態だった。

 これは世の中の男性諸君が血の涙を流しそうだ。

 見た目や種族ではなく、完全に中身勝負でモテまくってるとはある意味凄い。

 プライドの高そうな上位種族達も、皆抱かれた猫のようになってオークジェネラルをちやほやしている。

 ……カナタもこれと同じ光景出来るかな?


『ほう、では貴様の娘はその中の誰かとの間に出来た娘なのか?』

『いやいや、こいつはダンジョンマスターになる前にいた元妻との子供ですよ。元妻は自分がダンジョンマスターになる直前にこいつと自分を置いて去ってしまったので今は行方知れずです』

『む、そうなのか』

『自分が若い頃は亜種という事で結構同種族の者や他の魔物達との関係性で随分と苦労したんでねぇ。コイツにはそういった苦労がないよう、立派に育ってもらいたいものです。』


 そう言って、オークジェネラルは自分の娘に頭をぽんと置いた。

 オークジェネラルが頭をポンポンと叩けば、オークの娘はメガネの位置がズレたようでカチャリと音を立てて掛け直していた。

 そして、小さく口を開いた。


『……うん、わたしもお父さんの仕事が少しでも楽になるようにいつか――』

『まあ、自分がこうだからか、こんな人見知りをする娘になってしまいましたけどね!』

『そなたと同じように、男性魔物を侍らせるようなオークには成長しないと良いな』

『ハッハッハッ! 言えておりますなぁ!』


 オークの娘が何か言おうとしていたようだけど、それはオークジェネラルの笑い声に掻き消されてしまった。

 するとオークの娘はまた口を閉ざしてしまった。

 チラッと横に立っているトン吉の方を見てみると、その視線はやはりオークの娘に向かっていた。

 やっぱり、トン吉は彼女のことがとても気になるようだ。

 ……今のうちにトン吉の部屋を二人部屋に拡張した方が良いかな?


 今の所、それっぽい商売話や説明会に関するお誘いはない。

 ミチュさんがやられたように、美容品のサンプルを渡されるような事もない。

 このままだと講義も終わり、何かお土産をもらって帰る事になりそうだ。

 現在、オークジェネラルに対する表面的な印象はかなり口が上手くて女性魔物にモテる、だけど娘の将来を考えるお父さんダンジョンマスターってところだ。

 私的には、このまま平穏に済んでくれる方が有り難い。

 私じゃどうにか事を見つけるのは難しいということでミルフィーさん達に今回の事を頼む事が出来る。

 人間、こんな面倒な事に巻き込まれたがるのは異世界と主人公とヒロインに夢見る人たちだけだ。


 そんな事を思っていると、オークジェネラルはバイフーとの会話を切り上げ、次の話題へと移った。


『ああそういえば忘れる所だった。実は今回の講義とはまた別に、バイフーくんのような新人のダンジョンマスターがダンジョンを盛り上げるためのより良いコツを教える説明会を行っているんですよ』

『より良いコツを聞ける説明会?』

『ええ、この講義と違って少々DPを支払ってもらう必要があるのですが、その分バイフーくんの為になると思いますよ!』


 どうやら、バイフーは無事にオークジェネラルの中でカモ認定されたようだ。

 初回にも関わらず、私達の目的とも言える本題へと移ってくれた。

 オークジェネラルとオークの娘の方は何を考えているのか分かりにくかったけど、他の魔物達の方はなんとなく分かった。

 チラッとオークジェネラル以外の魔物の方を見てみたら彼らの纏っている空気が僅かに変わっていたからだ。

 お付きをしていた堕天使の男性も、オークジェネラルに侍る女性魔物達も、目が嗤って(・・・)いる。

 まるで獲物が罠に掛かるのを今か今かと伺っているよう。

 どうやらこの談話室にいるオークジェネラル側の魔物全員がグルのようだ。

 全く、穏便に済ませる事は難しいようだ。

 本当に残念でならない。


『これでも何年もダンジョンマスターを行っていますからね。貴重な魔法道具や質の良いポーションを安価で手に入れるツテや、より効率的にダンジョンポイントを集めるコツなんかを持ってたりするんですよ。本当なら他のダンジョンマスターには教えたくない所なんですが、有望そうな新人ダンジョンマスター達には特別にこの説明会への参加を募集しているんです』

『有望そうな新人か……。分かっているではないか』

『説明会に参加する条件として、希望するダンジョンマスターには週に一度2000DPを自分に支払ってもらう契約を結ぶ……のだが、バイフーくんは少し見るだけでもダンジョンマスターとしての才能に溢れている。だから君だけには特別に、3日に800DP支払う事で説明会に参加する資格を与えようと思う。勿論800DPなんて普通の新人ダンジョンマスターには難しいだろうけど、バイフーくんならその程度のダンジョンポイントを支払うなんて、容易い事だろう?』

『当然だ。我は聖獣の一匹とも呼ばれる種族、雷虎なのだからな。オークの割にはそれをよく分かっているじゃないか』


 あー、バイフーが詐欺師の手中にどんどんのめり込んでいる。

 気づいて、バイフー。3日に800DPって週計算にしたら週に大体1800DP支払うってことだから。

 最初の提案より200DP弱しか安くなってないよ。

 

 オークジェネラルはバイフーのプライドを動かすように称賛したり軽く煽ったりしてバイフーの考えを操作しようとしている。

 これはただ口が上手いってだけじゃない気がする。

 バイフーと同じように、プライドの高い魔物を相手にしてないと出来ない話術だ。

 好感触のバイフーの反応を見てこれは行けると思ったのか、オークジェネラルは更に畳み掛けてきた。


『もし、バイフーくんが今承諾してくれるのであれば、今自分のダンジョンで開発している美容品をプレゼントしよう』

『え~、美容品~? それってどんなのどんなの?』

『はーい、これがそのロッソ様印の美容品の試作品でぇーす♡』

『これをちょっと付けるだけでお肌がスベスベのモチモチ、しかもしっとりとした肌を一日キープ出来るのよー!』

『やっだぁ~、なにそれチョー欲しいんだけど~!』

『試しに今、サンプルを使ってみるかね? きっと気に入るはずだ』

『わ~い♡』


 ライアンのきゃぴきゃぴと甘えるように言った言葉が気に入ったのか、オークジェネラルは自分に侍っていた女性魔物の一人にサンプルを渡させた。

 ライアンは早速自分の手の甲に美容品の薬品を付け、肌触りを確かめた。


『キャー! 何これ、超お肌スベスベになる~♡』

『今此処で契約すれば、同じ物を渡そう。他にもバイフーくん達が気にいるような物も安価で手に入れる事が出来るが……どうするかな?』

『ふむ……折角の機会だ。美容品を無料で貰うついでにそなたの言う契約を結んでやろうではないか。それで、契約というのはどうやるのだ?』


 バイフーがそう言えば、オークジェネラルが一瞬、ニヤリと口角を上げたのが見えた。

 しかしコロッと先程のような新人に優しいダンジョンマスターの仮面を被り、バイフーにニッコリと笑って見せた。


『そうか、それは何よりだ! 早速契約の方を進めようか! 誰か、契約書の方を……』

『その前にこれと同じ美容品、早くくれなぁい? ねぇねぇ、良いでしょう? お願いです、ロッソ様ぁ~♡』

『うちの配下が悪いな。此奴は良い物に目がないのだ』

『いやいや、女性というのは皆そういうものだ。おい、彼女に美容品の現品を渡してあげなさい』

『は、はい』


 ライアンが媚びるように美容品の譲渡を頼めば、オークジェネラルは自分の娘に美容品の現品を持ってこさせた。

 オークの娘が美容品を持って戻ってくると、一人の女性魔物がそれをさっさと受け取り、ライアンに渡した。


『はいこれ、ダンジョンに戻る時に溢れると行けないから、元のダンジョンに戻ってから使ってね!』

『わ~、ありがと~! 大事にするね!』


 ライアンは女性魔物から現品を受け取ると、その美容品を持ちながらキャッキャと私やアルファに見せてきた。

 その間に堕天使の男性が黒い羊皮紙で出来た契約書と万年筆を持ってきて、バイフーの前に置いた。

 私達はその契約書の方に目を向ける。


『此方に名前を書いてもらえれば、契約は成立します。契約書はそのまま此方で預かりますのでご安心を』

『バイフーくんは当然、文字の読み書きは容易い事だろう? さぁ、どうぞ』


 バイフーに契約書へのサインを求めるオークジェネラルと堕天使。

 契約書を手に取り、それをゆっくりと読み進めるバイフー。

 このままバイフーが契約書にサインをすれば、堕天使の絶対の契約が結ばれる事になるだろう。

 バイフーはダンジョンマスターじゃないからどうなのかは分からないけど、破ったらどうなるか分からない。

 私は何も言わず、ただ契約書を読み終わるのを待っていた。

 そしてバイフーが契約書に万年筆の先を付けようとしたその瞬間、


『え、これおかしくない?』 

 

 男性にしては少し愛らしい声の、アマービレの声が談話室に響き渡った。

 


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