【番外編】 それぞれのペアの会話録 その1
続きをお待ちしていた方々には申し訳ありませんが、ここで少し時間軸を遡って、番外編を投稿しようと思います!
時間はあべこべ、中身は何処かの先輩後輩ペアのとあるやり取りです!
今回のペアはこの二組だ!
《黒い鬼と黒い犬》
とある午後の運動場。
一人の人間の少女と一体のコボルトが、短杖を構えて模擬戦を繰り広げていた。
人間の少女……アイネスはコボルト……ジャスパーの動きを伺いながら手に持った木製の短杖で攻撃をする。
「遅い!」
「###!」
しかしジャスパーはそんなアイネスの攻撃を華麗に回避し、その鳩尾を短杖で突いて吹き飛ばした。
地面に尻もちをし、咳き込むアイネスに対し、ジャスパーは厳しく叱咤する。
「何度も言っているだろ! 相手を観察する事だけに集中するな! 相手の動きを伺いながら攻撃に乗じろ! 相手の様子を伺ってばかりいても勝つ事は出来ないぞ!」
「###、相変わらずジャスパー##ベリアル####スパルタ#」
「あの陰湿悪魔と一緒にするな! 次だ!」
「はい」
ジャスパーの一声でアイネスは立ち上がり、再び短杖を片手にジャスパーに攻撃を仕掛ける。
そんな2人の模擬戦を、運動場横に設置されたベンチでアシュラが観戦していた。
やがてアシュラは戦闘意欲が湧いてきたのか、ジャスパー達に声を掛けた。
「なぁ、俺も混ざっていいかー? 俺も一緒に棍棒片手に模擬戦をしたい!」
「だ・め・だ! アンタはさっき木の短杖を片手で軽々とへし折っただろう! 一瞬でアイネスが肉塊になる!」
「なんだよ、ケチだな~。ちょっと戦うぐらい良いだろ?」
「ケチも何もあるか! 良いからそこで見てろ!!」
「へいへい、“先輩”」
「この2人##に相性合っ####……」
鬼人アシュラのその日の教育担当はコボルトのジャスパー。
強い魔物と人間に対しジャスパーはアシュラの教育担当を命じられた当初顰めっ面をして嫌がっていたが、全員が最低一人でも研修を請け負うという事で渋々了承した。
アシュラは荒々しい性格とは裏腹にプライドは過剰に高くはなく、コボルトの下につくと分かっても不満を言う事はなかった。
とっつきにくいジャスパーに対しても、アシュラは平気で肩を組み話しかける。
そしてジャスパーも、なんだかんだ言いつつも面倒見の良い性格を発揮し、戦闘狂な面があるアシュラの手綱をしっかりと握っていた。
アイネスが彼らの性格に合わせて組み合わせた中でも、相性の良いペアだった。
「にしても、アイネスはなんで武術なんて習ってるんだ? その気になれば強化系スキルを習得すりゃあ良い話だろ?」
「スキル頼り#なり##ない#####。####強力#スキル#習得する###相応#条件#あり###」
「ん、なんて言ってんだ?」
「……スキル頼りになるのは控えたい。強力なスキルを習得するのにも相応の条件があるから、だそうだ。アイネスの元々のステータスが高くない以上、技術を高めた方が戦いで役立つだろう」
「なるほどなぁ。俺にはよく分かんねぇけど、確かにアイネスみたいに弱っちいのはそうした方が良いのか」
「確か#弱い####」
「よそ見をするな阿呆」
アシュラの言葉にアイネスがジト目で見る。
アイネスがよそ見をしたのを見て、ジャスパーはアイネスの懐まで距離を詰め、短杖を薙ぎ払うように攻撃する。
アイネスはそれを間一髪防御し、距離を取って体勢を整える。
距離を取ろうとするアイネスに対し、ジャスパーはアイネスを逃すまいと距離を詰めようと足を動かした。
その瞬間、ジャスパーは心に潜む憎悪に飲み込まれそうになった。
「……っ!!!」
「? どうし###?」
足を止め、濃い殺気を放ち始めたジャスパーに対し、アイネスは短杖を降ろして尋ねた。
低い唸り声を上げてその感情に飲み込まれんと堪えていたジャスパーだったが、アイネスのきょとんとした顔を視界に入れると、その感情を収める事に成功した。
荒く呼吸をするジャスパーの姿を見て異変を察知したのか、アイネスは無理に接近することなく話しかけた。
「一旦休憩#しましょう#? 私シシリー####飲み物頼んで###」
「あ、ああ……」
「アシュラ##、『ジャスパー、ヨロシク』」
「? おう」
アシュラにジャスパーの事を頼み、アイネスはシシリー達のいる食堂の方へと小走りで向かっていった。
ベンチに腰を掛け、呼吸を落ち着けようとしているジャスパーに対し、アシュラはタオルを渡した。
「おいおい、大丈夫か?」
「……五月蝿い。アンタには関係ない」
「ああん?! 折角心配してやったのになんだよその言い草!」
「これは俺の問題だ。新入りのアンタにどうこう出来る事じゃない」
「……なら、良いけどよぉ」
深入りする事を拒絶するように突っぱねたジャスパーの姿に何かを察したのか、アシュラはジャスパーの事情をそれ以上問い詰めるような事をしなかった。
アシュラはどうにかこの場の空気を切り替えようと考えたのか、腕を組んで大きな笑い声を上げた。
「アッハッハッハ、にしても、本当に驚いたなぁ!」
「は?」
「コボルトなんて特に強い所がない種族だと思ってたんだが、コボルト達の中にも中々骨のある奴がいるんだな!」
「おい、何が言いたい?」
カラカラと笑うアシュラの言葉の意味が分からず、ジャスパーは顔を顰めながらその意味を尋ねる。
するとアシュラはジャスパーに指を指し、あっけらかんとした様子で答えた。
「だってさっきの、<鬼闘気>の副作用だろ? コボルトでそれをそこまでコントロール出来る奴は初めて見たな!」
「なに?」
アシュラの口から出た言葉にジャスパーは思わず耳を立て、アシュラの方へ視線を向けた。
アシュラのいう「さっきの」とは何か?
まさか、感情に飲み込まれそうになった事を言っているのか?
急に目が合ってきょとんとした表情を浮かべているアシュラに対し、ジャスパーは睨みつけるように目を合わせながら問いつめる。
「どういう事だ。アンタ、何か知っているのか?」
「あれ? 気づかなかったのか? いや、気づかなくて当たり前か。本当なら鬼族以外がそれを持った時点で自我が失っちまうしな……」
「良いから説明しろ! アンタは何を知ってるんだ!」
ジャスパーの言葉に驚きながら、頭を掻くアシュラにジャスパーは激しく追求する。
アシュラは顎に手を添えて考えた後、ジャスパーに説明を始めた。
「あー……、<鬼闘気>っていうのは、俺の種族、鬼人が持つ能力向上スキルだよ。使用者の抱く感情が昂ぶれば昂ぶる程身体能力が上がるスキルだ。それは分かるか?」
「確か鬼人族のみが持つ種族限定スキルだろう? それと俺に何の関係がある?」
「ああ、普通はそうだな。ただ、稀にある条件を満たすと、鬼人族以外もこの<鬼闘気>を習得する事があるんだよ」
「条件?」
「そいつが、この世の全てに対し絶望と特定の対象に対し憎悪を抱く事だ」
「!!」
その言葉を聞いて、ジャスパーはハッとなる。
前のダンジョンで酷い扱いを受け、仲間たちが酷く扱われる姿をただ眺め続け、他の魔物や他のダンジョンマスター達から一度も助けられる事がない境遇の中、何もかもに絶望し、怒りを募らせたジャスパーはその条件に満たされていた。
アシュラは言葉を選びつつ、説明を続ける。
「最愛の番と子供を人間の山賊に殺されて、普通じゃ有り得ないぐらいの動きで山賊たちを食い殺したウルフの話は知ってるか? あれも条件を満たした事で<鬼闘気>を習得したから出来た事だと俺たち鬼人族の中では語られてる。そっちの事情はよく分かんねぇけど、似たような事があったんじゃないか?」
「……」
「ただ、鬼人族以外が<鬼闘気>を習得すると感情のコントロールが出来ずに憎悪に呑まれたまま、敵が全て殲滅されるまで闇雲に殺しつくす狂戦士になるっていう副作用が出るんだよ。そうなると、かなり強い衝撃やショックを与えないと正気を戻せない。それこそ、とんでもないスキルを受けて一瞬で死んじまうぐらいの衝撃をな!」
「一瞬で死ぬくらいの、衝撃……」
ジャスパーはそれにも覚えがあった。
ジャスパー達の運命を決めたかのダンジョン戦争で、ジャスパーは文字通り一瞬で死んだのだ。
ジャスパーが正気を取り戻したのも、その後復活されてからだった。
「仮に正気に戻ったとしても、憎悪自体が無くなった訳じゃないからまた狂戦士化するんだが、ジャスパーはどうもそういう奴らと違うように感じるんだよなぁ。正気に戻ってからなんかあったのか?」
「……ふん、別に何もない。偶々だろう」
アシュラの問いに対し、一瞬ダンジョンで別れてしまった義兄の姿とアイネスの言葉がジャスパーの頭に過ぎったが、ジャスパーはそれらを振り払うようにそっけなく答えた。
「ま、正気を保ち続ける術があるんだったらそれで良いと思うぜ! 頭を使う事ならともかく、<鬼闘気>関連だったら俺も相談に乗れる! なんかあったらいつでも頼ってくれよ、ジャスパー“先輩”!」
「……そんな日は一生来ない」
「ああん?! なんだよそれ!」
大きな牙を見せてジャスパーの肩をバンバンと叩くアシュラの言葉に対し、ジャスパーは冷たい言葉を返した。
怒るアシュラを横目に、ジャスパーは自分の手を見た。
「……ふん」
そして何かを振りほどくように首を振ったのだった。
「アイネス、感情をコントロールする特訓方法を教えろ」
「#?」
##### #####
《痩せたい熾天使と実は……オーク》
2回目の研修担当が決まった後の出来事……。
「アイネス様、お待ちください」
「? #####?」
「どうしたの、ラファエレちゃん?」
「お願いなのですが、わたくしの教育担当を変えてはもらえないでしょうか?」
「え~、ラファエレちゃんの教育担当って確か……」
「……自分です、ブヒッ」
ラファエレの後ろから、落ち込んだ様子で手を上げたのはトン吉だった。
そんなトン吉の前で、ラファエレは言葉を続ける。
「その、わたくし共の種族の関係性を考えてアンデッドやアークデビルロードといった悪魔達の下につかせないよう配慮してくれたことは本当に感謝しております。ただ、そのわたくしと彼では……」
「ああ。オークのトン吉じゃあセラフィムである自分と全然格が違うのに上になるのは納得出来ないから変更しろって言いたいわけね」
「……率直に言うなら、ブヒッ、そういう事かと……」
「わたくしのような上位種族ですと、トン吉さんが萎縮してしまうだろうと思いまして……。どうか、ご検討してはもらえないでしょうか?」
祈りを捧げるように胸の前で手を合わせ、アイネスに頼み込むセラフィム。
見た目こそ清らかな聖女そのものだが、要求理由が完全にトン吉を見下したものだ。
それを静かに聞いていたアイネスだったが、一つ咳払いをして、そして<オペレーター>に通訳の切り替えを要求すると、ラファエレに言った。
『えーっと、ラファエレさん』
「! はい、どうされましたか?」
『ラファエレさんのお願いを此方がオッケーするか否かを言う前に、一つラファエレさんに豆知識を教えようと思います』
「な、なんでしょうか?」
『私の元いた世界には体脂肪率と言い、体の重さに占める身体の脂肪が幾らかを計算する事が出来ます。因みに人間の平均体脂肪率は20%から29%とされます。ラファエレさんは人間ではないので多少の差異はあるでしょうが、大体それと同じぐらいでしょう』
「は、はぁ……」
『更に、私の元いた世界には、『豚』という名前のオークの類縁種とも言える動物がいます。イメージ的には、ボアを少し小さめにした、ピンクで毛が薄い四足歩行の動物です』
「あ、それどっかの『まんが』見たことがある! なんかころころしてて丸っこくて可愛い生き物だよね?」
「あの……その動物とその前の話と、一体どんな関係があるんでしょうか?」
話の関連性が掴めず、首を傾げるラファエレ。
そんなラファエレに対し、アイネスは無情に事実を突きつけた。
『その『豚』という動物の平均体脂肪率は、13%です』
「じゅ……っ!!」
「13%……っ!?」
アイネスの言葉から発された豚の体脂肪率の数値に、先程人や人型魔物の体脂肪率を聞いていたラファエレとマリア、そして周囲の女性魔物達は愕然とした。
そしてそのままアイネスは話を続ける。
『因みに、イノシシ……もとい野生のボアの体脂肪率は10%以下です。丸っこい身体からデブだとか太っているイメージのあるボアや豚ですが、その身体の脂肪は人間よりも少なく、人間……ひいては人型魔物のレベルに合わせるとかなり痩せている状態です』
「「ぐはっ!!」」
アイネスの無慈悲な豆知識の贈与に、自分の重さに対してコンプレックスを抱いているラファエレと、側にいたマリアが胸を抑えて大ダメージを受けた。
更に、近くにいた他の女性魔物数名もそれを聞いてものすごい形相でトン吉の方を見ている。
『更にはトン吉さん自身、健康的な一日を送ってるんですよ。毎日3食、栄養バランスの良い食事メニューを食べるし、おやつを食べた後は力仕事をして運動してますし、野菜とか好き嫌いをしないし、皆が嫌がっていた青汁も健康になるからって理由でスムージーにして毎日飲み始めてますし。なんなら、実際に計算して比べてみますか?』
「あ、アイネス様、もう十分です。これ以上言ったら多分号泣するかと……」
『兎に角、自分より下の種族相手でも学べる事ってちゃんとあると思うんですよ。その上で教育担当を変えるか否かを考えてみた方が良いと思いますよ。教育担当に教われることは、ダンジョンの仕事内容だけじゃないですから』
トン吉の制止を聞いてか知らずか、アイネスはラファエレにそう告げてその話題を締めくくり、ゴブ郎と一緒に別のペアの方へと向かっていった。
アイネスとゴブ郎が離れた後、ラファエレはトン吉の腕をガシィッ!!! と掴んだ。
「ブヒッ!?」
「トン吉さん」
「な、なんですかな……?」
「痩せる秘訣をどうかご教授ください………っ!!」
「は、はぁ……わ、分かりました……ブヒッ」
真剣な表情で誠心誠意頭を下げて懇願するラファエレの姿に若干の恐怖を覚えながらも、トン吉はその勢いに圧されて了承の言葉を返した。
その後、一部の女性魔物達が暫くトン吉に質問攻めにする光景が何度も目撃された。




