両方の話を聞けばあら不思議
『ハーッハッハッハ! この料理もまたアメージング!』
『本当美味しいわぁ! 話には聞いてたけど、アイネスちゃんってお料理が上手なのねぇん』
『これ、ミチュにディオーソス。それはアイネスがわっちの為に作ったものじゃぞ』
「いやそれ、まだ試食も済んでないんですが……まあ気に入ってくれたなら良いですけど」
『アイネスちゃんもディオーソスみたいにダンジョン内でパーティーをすれば良いのに~! 皆アイネスちゃん達が出すお料理にメロメロになるわよ~!』
「あ、無理です。私のメンタルが死にます」
『あら残念』
大量の油揚げスイーツを持ってミルフィーさん達と会議室に向かってみると、そこには既に席に座って待機していたディオーソスさんと、ディオーソスさんの友人である鬼人のミチュさんがいた。
ミノタウロスの案件で頼み事をしていたディオーソスさんとミルフィーさんは兎も角、ダンジョンマスターのパーティーの後、シャンパンと料理のレシピを渡して以降は殆ど交流もなかったからまさか此処にいるとは思わなかった。
今は3人で私が作った油揚げスイーツを食べてワイワイと雑談をしている。
一方、私の側には先程まで一緒にいたツヴァイとハンゾーとゴブ郎、そしてシガラキの4人がいる。
子供といえど、ツヴァイは全体指揮も担当しているから補佐としては問題ないし、通訳はミルフィーさんが私の声が分かるように<オペレーター>を使ってくれているから、ベリアル達がいなくても問題はない。
それよりも、気になる事がある。
「あの、シガラキさんはなんで私の後ろに隠れてるんでしょうか?」
「ぎゃぎゃう?」
『あ、いやー、これはそのやなぁ……』
『アイネスの言う通りじゃぞ、マーチャント・ラクーン。そのように怖気づかんでも良いじゃろう』
『は、はは……そらご気遣いおおきに……』
冷や汗を垂らし、口端を引き攣らせながらシガラキはミルフィーさんにペコペコと頭を下げる。
大阪によくいる関西人のような豪快な商人のような性格をしたシガラキが、だ。
シガラキはミルフィーさん達の顔を伺いつつ、私に小声で耳打ちするように問い詰めてきた。
『ちょっとアイネスはん! 天狐族のダンジョンマスターはんとお知り合いなんて聞いとらんよ! あんさん、なんちゅうお偉いさんと知り合いなんや!』
「言ってませんからね」
「ぎゃう!」
『シガラキおじさん、あのダンジョンマスターのことを知ってるの?』
『いや、あの御方とは全く面識はあらへん。これが初対面や』
「じゃあどうしたんです? マーチャント・ラクーンと天狐が険悪な仲の種族だとはタンザさん達から聞いたことがないんですが」
『拙者達もそんな話は聞いた事がないでござる』
『険悪、っちゅうのとはまたちゃうねん……。どっちかっつうと、ワイらマーチャント・ラクーンが一方的に苦手としてるだけっちゅうか……』
『それについてはこのワタシが説明しようではないか!!』
「ぎぎゃ!?」
「うわっ、急に入ってきましたね」
妙な反応を見せるシガラキに首を傾げつつ話を聞いてると、先程まで油揚げスイーツに舌太鼓を打っていたディオーソスさんが割って入るように私達の会話に入ってきた。
ディオーソスさんは劇に出る役者のように大振りにポーズを決め、言う。
『ラクーン系種族と狐系種族はどちらも自身の姿や特定の物や場所の光景を変える<変化>と<幻影魔法>を得意とする種族であり、良き好敵手として関係を持っている間柄なのだ! 一部の場所ではその2種族は今も共生しており、年に一度はどちらのスキルがより優れてるかを競い合う宴……パーティーを開催しているのだ!!』
『それだけ聞くと、別に仲が悪いとかそんな感じではなさそうだね』
『むしろ、他の種族より仲が良いようにも見えるでござる』
『そうなんやけどなぁ、そうやないねん……』
いやどっちなんだ。
ディオーソスさんの話を聞く限り、狐系種族とラクーン系種族には悪魔とドラゴンのような険悪な様子はない。
実際かなり畏まった様子のシガラキに対し、ミルフィーさんはただその様子を見て笑っているだけだ。
これがベリアルとイグニだったら、もっと酷い空気になっている。
シガラキの言葉を矛盾なく言い換えるとすると、どうなるのだろうか?
私は一つ思いついた事をディオーソスさんに尋ねてみた。
「つまり、マーチャント・ラクーンと天狐という特定の種族の間に何かしら別な関係性を持っているのですか?」
『えぇぇぇえエギザクトリ―!! 実にその通りだ! クールガール!』
どうやら私の推測は正解だったようで、ディオーソスさんは大げさなまでに手を広げて声を上げた。
そしてクルクルと回りながら私とツヴァイ達に向けて話を続ける。
『マーチャント・ラクーンと天狐の間には、とある伝承が認識されているのだ!』
「伝承?」
『うむ、とある愉快なマーチャント・ラクーンが同種族の者から厳しく接され寂しがっておった天狐の姫の前で三日三晩夢のような品々を見せ、会話を弾ませた。そして楽しい時間を過ごした天狐の姫はそのマーチャント・ラクーンを気に入り、自身の専属商人として任命し、その地で仲良く過ごしたというマーチャント・ラクーンと天狐の絆を描いた良き伝承じゃよ』
「良い話ですね」
『いやなに美談みたいに言うとんねん! 悪戯のしすぎで大人狐に説教されまくって退屈してた自由奔放な天狐の姫さんが、天狐族との商売の取引んためにやって来とったマーチャント・ラクーンに面白い商品を出してみろって強請ってきて、軽くあしらう為にマーチャント・ラクーンが葉っぱを化かして姫さんが気に入るような商品を見せたら「もっと見せろ」「もっと楽しませろ」言うて3日間休む間もなく目の前で商売トークと商品の<変化>をさせられ続けて、最終的にはそのマーチャント・ラクーンをお付きにして専属芸人みたいな仕事をさせとったっちゅう伝承やろうがい! 天狐はんには格下種族のワイらの<変化>は簡単に見破れとったにも関わらずや!!』
「良い話だったのになぁ」
同じ伝承でも、片方の話だけ聞くとこうも内容が変わるものなのか。
此処まで違うとむしろ笑えてくる。
なるほど、どうやら昔マーチャント・ラクーンは天狐のお姫様に絡まれ、軽くあしらうため(もしくは騙して大金を掻っ攫う為)に葉っぱを変化させて彼女が気にいるような物へと変化させて見せた所、体力とMPの限界が来るまで際限なく他の商品を見せてくれって強請られたのだろう。
そして最終的にはその天狐の姫様に気に入られたか惚れられたかされ、そのまま役職を与えられて囲われた、という事か。
……ミルフィーさんの性格をもっと濃くした感じの性格なら有り得そうな話だと思ってしまった。
マーチャント・ラクーンが本体は安全地に待機し、商売や戦闘を分身や子分に任せる理由を察した気がする。
『この事がマーチャント・ラクーン全体に伝わってからちゅうもの、ワイらマーチャント・ラクーンはどうも天狐相手やとこうなんちゅうか、捕まる! っちゅう感じがしてどうも苦手やねん……』
「先祖の思想を受け継いじゃってますね」
『アイネス姉さん、この話ダンジョンのルートとして追加してみたらどうかな? 人気が出ると思うんだけど』
『コラコラやめんかい! ワイらの種族の恥ずかしい過去を人間に明かそうとすなぁ!』
「うーん、確かに面白い話ですけどダンジョンの雰囲気に合うか微妙ですね。今はケルトさんと要相談にしときましょう」
「ぎゃうぎゃう~」
『アイネスはーん!?』
『アッハッハッハ、もしもわっちらの伝承を体験出来るならわっちも挑戦者として参加したいものじゃのう』
私達のやり取りに笑い声を上げるミルフィーさん達先輩ダンジョンマスター。
ひとしきり笑った後、ミルフィーさんは笑うのを止めて机に肘をついた。
そして話は本題へと移る。
『さて、そろそろ本題へと移ろうかのぅ。アイネスがわっちらに相談してきたダンジョンマスターの件じゃ』
「確かミノタウロス達に詐欺まがいの契約を結ぼうとしたダンジョンマスターが分かったんでしたっけ? それでミルフィーさんとディオーソスさんが来るのは分かるんですが、なんでミチュさんも此処にいるんでしょうか?」
『それはズバリ、ミチュもそのダンジョンマスターの被害者だからなのだよ!』
「え、それ本当ですか」
『そうなのよぉ! あのオークジェネラルと堕天使に騙されてアタシの大事な宝物を奪われちゃったのよ~!』
厳ついお顔を手で覆い、ミチュさんは号泣を始めた。
ミノタウロス達だけでなく、先輩ダンジョンマスターであるミチュさんまで同じような詐欺被害に遭っていたとは知らなかった。
どうやら、ミチュさんが言ったオークジェネラルと堕天使とやらが何か関係しているらしい。
にしても、堕天使とオークジェネラルってなんか物凄い組み合わせだな。
鼻水も涙も垂れ流しているミチュさんにティッシュを渡し、ミルフィーさん達から話を聞いてみる。
『実はアイネスのダンジョンのある森の別方向にとあるオークジェネラルがダンジョンマスターをしているダンジョンがあるのよ』
『オークジェネラル? 堕天使がダンジョンマスターではないのでござるか?』
『ただのオークジェネラルではないぞ! 彼は亜・種・の! オークジェネラルなのだよ! まあ、どう違うかは実際に彼と対面してみれば分かることだろう!』
『そのダンジョンマスターは元々他のダンジョンマスターと殆ど変わらぬダンジョンを経営しておったのじゃが、数ヶ月前より周辺の野良の魔物達の住む場所を取引してダンジョンの新たな領地にするようになったそうじゃ。そこに住む魔物達も己の傘下とする契約を1枚の契約書で結んで、な』
『ミノタウロス達が遭った事と似ているね』
「というより、全く同じですよね」
ツヴァイがポツリと呟いた言葉に、私は同意する。
聞いている限り、ミノタウロスが契約を持ちかけられた経緯と殆ど酷似している。
それがある場所が森の中であれば、最早犯人としか言いようがない。
ミルフィーさんの言葉だとミノタウロス達以外にも被害が遭ったようだけど、そのことに気がつけなかったのは私のダンジョンの情報力のなさのせいだろう。
もっと早く諜報班を結成させておけばよかった。
『しかも、彼奴は他のダンジョンマスター達に対しても何やら新しい事をやっているようなのじゃよ。ミチュはそれの一つに騙された被害者、という訳じゃ』
「新しい事、というと具体的にはどんなものですか?」
真剣な表情で語るミルフィーさんに対し、私は質問してみる。
するとミルフィーさんは大きく息を吐いて、トップランクのダンジョンマスターに相応しい表情を浮かべて答えた。
『効率的なダンジョンの経営法の講義、そして商売じゃよ』




