正に悪魔の所業
「では、本題の方に戻りましょうか」
ベリアルとタンザが光属性魔物達との口論を止めたようなので、私は本題へと移る。
全員の視線が此方に向く。
ベリアルの方に目配せをすると、ベリアルが私と目を合わせて頷いてみせた。
「<契約>前に皆さんの種族について教えてもらえませんか?」
『アイネス様が、貴方方の種族を教えて欲しいとのことです』
『ム? <契約>を結べば配下のステータスは全て閲覧出来るのではないのか?』
「種族名とか能力値はステータスを見れば分かりますけど、衣食住の好みや種族的特徴なんかはそれだけじゃ分からないでしょう? なので皆さんの口からどういった種族なのかを聞きたいんです。一言で言うなら、自己紹介みたいなものですね」
これはあくまで表向きの理由。
別に<契約>前に聞かなくても、<契約>後に聞けば済む話だ。
この質問をする本当の理由は、彼らの性格や本性を見極めて11体目の魔物が誰かを探す事にある。
スマホゲームのガチャと違って、ダンジョンマスターの持つ<ガチャ>に10連したらオマケのもう一回なんてシステムがあるはずがない。
流石にそんな簡単に考えられる程の思考はしていなかった。
<ガチャ>のキャンペーンやシステム上のおまけではないのだとしたら、一体何故10連ガチャで魔物が1体多く出るような事が起きたのか。
幾つか理由が思い浮かぶけど、この事象を納得させる事が出来る単語が一つある。
『バグ』
故意的に起こされたスキルの不具合。
それも恐らく、誰かの干渉を受けた事により生じた物だ。
こんな事、普通は有り得ないと思う。
私のユニークスキルや<隠蔽>なら兎も角、ダンジョンマスター全員に配られるスキル<ガチャ>に干渉出来る魔物なんて存在するのだろうか?
答えはノー。存在するはずがない。
カナタが持つスキルや無効化出来るユニークスキルや魔法を阻害する魔法なんて物があるけど、それは100を10や0に変えるという、文字にすれば簡単な仕組みだ。
でも干渉して故意的に不具合を起こさせるのはそうはいかない。
干渉しすぎれば<オペレーター>に悟られるし、うまい具合に干渉出来なければ自分の都合通りの結果を生み出すことは出来ない。
そして、そもそも召喚魔法という空間系の魔法を扱う魔物なんて聞いた事がないのだ。
スキルに干渉し、システムを無理矢理書き変えるなんてそれこそ神や神の作ったシステムである<オペレーター>の所業だ。
少し前だったら、そう思っていた。
だけど、現段階で私はそれを可能にすることが出来そうな存在に心当たりがある。
というより、実際にやりのけた存在を私は知っている。
それは私を<アイテムボックス>の中へと引きずり込もうとした触手の持ち主だ。
別次元の存在にも関わらず、その存在は<アイテムボックス>に干渉して私を攫おうとした。
しかも<オペレーター>曰く、それは人間でも魔物でもないけれど分類的には魔物寄りだと言っていた。
そんな存在なら、スキル<ガチャ>に干渉して自分や自分の配下をねじ込むのぐらい可能だろう。
仮に私の推測が当たっていたとすると、今目の前にいる新入り最強魔物の中には私を拉致しようとした犯人本人か、犯人が寄越した魔物がいるということだ。
スキルに干渉出来る存在というなら、私と結んだ<契約>にも干渉出来るかもしれない。
もしその魔物を引き込んでしまえば、油断した時にまた私が攫われる可能性が高い。
それはなんとしても避けたい所だ。
あの触手、いくら私が「来るならもっとフレンドリーにお越しください」って言ったからってこんな面倒事を増やすなんて……。
ちょっと文句を言ってやりたい。
この中に誘拐未遂の犯人か犯人の共犯者がいるのなら、この場でそれが誰かを特定する必要がある。
そのためには<契約>を結んで仲間として迎え入れる前に、彼らの事をよく知らなければならない。
自分の種族について好きに話させるのは、性格や本性を知るにはうってつけの質問だ。
ベリアルが私の言葉を異世界言語に翻訳して新入り魔物達に伝える。
すると彼らも納得してくれたようで、了承してくれた。
鬼人の男性が私に尋ねてきた。
『で、誰から自分の種族について説明すれば良いんだ?』
「誰からでも構いませんよ。夕食までにはまだ時間がありますし」
『誰からでも構わないそうです』
『では、わたくしから宜しいですか?』
そう言って手を挙げたのは、さっきまでベリアル達と冷戦を繰り広げていた天使の女性だった。
天使の女性は祭服の裾を広げ、私に一礼する。
『わたくしの種族はセラフィム。天界……空の上に存在する聖なる異界にて生活する天使族の上位種に属するものです。わたくしの種族は主に回復魔法や聖光属性の魔法を得意としております。以後、お見知りおきを』
黄金の長髪をなびかせ、3対6枚の翼を広げる姿は確かにアニメやゲームで見るような天使そのもの。
悪魔の上位種であるベリアルとは全く正反対の魔物か。
にしても天使が魔物の部類に入っているのは意外だ。
天使というと神様に仕えているイメージだし、ダンジョンに出る魔物とは少し違う気がする。
私って創造神に捨てられた身だし、彼女に受け入れてもらえるものなのだろうか?
そんな事を考えつつ、此方を見つめるセラフィムを見つめる。
セラフィムは私と目が合うと、清らかな笑みを浮かべた。
『貴方様の事情は、先程此方の悪魔族の2人からお聞きしました。とても災難でしたね。神々に仕える者の一柱として、謝罪を申し上げます』
「あ、いえ、別に天使族の方々が仕出かした事じゃないので謝罪とかは大丈夫です」
『このダンジョンの主である貴方様に仕える以上、貴方様に害が及ぶような真似は決して致しません。わたくしの言葉など信じられぬやもしれませんが、どうかご安心してくださいませ。もしも必要なら、<契約>を結んだ際にそういった命令をしてもらっても構いませんよ』
少し遠回しな言い方だけど、どうやら私を裏切ってあの創造神の女神に私の生存を密告するような真似はしないと約束してくれるそうだ。
此方が言う前にそんな約束を自ら言ってくれるのは有り難いし、信用度が高い。
聖女のような美しい笑みを向け、
本当にベリアルとは正反対の種族だな。
そんな事を考えていると隣にいたベリアルが突然クスクスと笑い声を上げ始めた。
セラフィムは落ち着いた様子で、ベリアルに話しかける。
『何が可笑しいのです? アークデビルロード』
『いえいえ、物は言いようだ、と思いまして』
『何が仰りたいのでしょうか?』
ベリアルの言葉に眉を顰めながらも笑みを浮かべたまま問いかけるセラフィム。
しかし、その目が「余計な事は言うな」と言っているように感じるのは気の所為だろうか?
ベリアルはそんな天使系美女の冷徹な視線を受けながらも、クスクスと笑い、私にささやくように口を開いた。
『アイネス様、この天使族という種族ですが一つ面白い話があります』
「面白い話?」
『天使族は元々、神々が地上の人間に祝福や罰を与える仕事を手伝わせる為に作った下僕……いえ使いでして、露を食事として摂取する種族です』
「今下僕って言いました?」
『そんな天界で多忙である天使族ですが、なんでもダンジョンの魔物として召喚される者にはある共通点があるそうなのですよ』
「共通点?」
『ちょっと、一体何を伝えるつもりで……』
なんとなくセラフィムの尊厳の為に深く追求しない方が良いと思っていたのだけど、つい疑問を口に出してしまった。
ベリアルは私の言葉を待ってましたと言わんばかりに笑みを深め、楽しげにその共通点を伝えた。
『なんでも、お忍びで地上に赴いた際地上の住民が食する食べ物を食したことで翼が重くなってしまい、天界に帰れなくなった罰の為、なのだそうですよ。天使族にとって地上の食事はアイネス様の用意する食事の程でなくとも格段に美味しく感じるそうで、ついつい食べ過ぎてしまう天使が多いのだとか』
「あー、つまりセラフィムさんがダンジョンの魔物として召喚されたのは……」
『食べ過ぎで天界まで飛べなくなるほど翼を重くさせた、食い意地の張った天使の一体だから、ということです。天界に帰れなくなったことで神々との接続は切れているのでアイネス様の心配するような事は起きないですから、ご安心ください』
『アークデビルロード……!!』
なるほど、神々に私のことを伝えないのではなく、伝えられないのが正解ということか。
どちらにしても結果は同じなので、確かに物は言いようだ。
ただ約束する、と言われるよりはそもそも出来ないって言われる方が信じやすい話。
でも、仮にも本人の前でそんな「地上の食べ物食べすぎて、太って帰れなくなった生物なんだよ」と言うのはやめてあげてください。
セラフィムのプライドがズタズタになってしまいます。
周囲の魔物達もセラフィムの隠してた秘密を知り、プルプルと笑いを堪えているのが見える。
セラフィムはピクピクと眉をひくつかせている。
そんな様子にベリアルはかまりご満悦な表情を浮かべている。
まさに悪魔の所業だ。
やめてー、セラフィムのHPはもう0よー。
そんなセラフィムとベリアルを交互に見た後、私は軽く咳払いをして肩を竦めた。
「*****(すみません)、****(聞こえる)、**(ない)」
『!!』
『おやぁ、どうやら此方の会話を聞き取れなかったようでぇすね』
「****(それより)、**(次の)、**(魔物)、*(話)、**(頼む)」
『おや、もう宜しいのですか? まだまだ知っている事があるのですが……』
「ベリアルさん、相性が悪いとはいえ新入りの魔物に恥をかかせるのはやめてあげてください。その分私が知ってる事も話しますよ」
『畏まりました。では、次の魔物の話へ移りましょうか』
私が注意すると、ベリアルはすぐに引き下がった。
セラフィムの話は、私には聞こえなかった事にしよう。
流石に上司に当たるダンジョンマスターにそんな恥ずかしい話を聞かれていたとなると、私だったら一週間はマイホームに引き篭もる。
なんだかセラフィムの視線が妙に熱が入っているように感じるけど、スルーしよう。
『では、二番手は某が希望しよう。他に希望者は居らぬか?』
さっさと次の魔物の話に移っていこうという私の意志を汲み取ってくれたのか、首のない騎士が挙手して次の自己紹介を希望してくれた。
首のない騎士、と、言っているけど、彼女の種族はなんとなくその見た目で察しがつく。
他に自己紹介を希望する魔物がいないのを確認すると、生首を片手に抱えた女性騎士は自分の首に頭を乗せて自己紹介を始める。
青と橙色の混ざった瞳で、キリッとした顔の騎士は首なんて繋がっていなかったようにハキハキとした声で喋り始める。
『某の種族はデュラハン。人間たちには死を予言する騎士と呼ばれている。まあ、ダンジョンの魔物として召喚された某はただの首のないアンデッドの騎士。だが剣術と闇魔法、そしてアンデッドや死霊の類に関する事に関しては専門家だ。よろしく頼む』
やはり、首のない女性騎士はデュラハンだったようだ。
デュラハンは元の世界でもそこそこ有名な種族だ。
基本ゲームやアニメの知識でしかない私にも分かる。
アンデッドや霊的なことに関して得意なのは、ワイトやスケルトンが多いこのダンジョンにとっては有り難い。
ワイトやスケルトン達に関してはホワイトボードで筆記のコミュニケーションが出来るけど、完全ゴーストの一人であるサユリさんは零感の私には見えないからね。
ダンジョンにいる間はサユリさんとペアにしたらコミュニケーションが取りやすそうだ。
『これから世話になるぞ、アイネス氏』
「あ、よろしくお願いします」
そう言って女性騎士が握手を求めてきたので、私は目線を下に向けながらもそれに応じる。
その瞬間、上からポロッと黒い何かが落ちてきた。
私は少し驚きながらも咄嗟にそれを受け止めた。
「おっと……」
『む、スマン。落としてしまったな』
「ああいえ、気にしないでください」
そんなやり取りをしながら、私はふとある疑問が浮かんだ。
デュラハンと私の身長を比べれば確かにデュラハンの方が背は高い。
だけど、イグニ達ほど身長の差はないはずだ。
そんな上から落ちるような物なんて彼女は付けていただろうか?
なんとなく嫌な予感を感じながらも、私はデュラハンが落としたそれが何なのかを確認する。
そして、確認した事をかなり後悔することになる。
私の手の中にあったのは、デュラハンの首の上に乗っかっていた薄紫色の髪の女性の生首だった。
兜の開いた部分に露出した頬の異常なまでの冷たさを指先で感じ、光の宿ってない眼と目が合った私は驚愕する。
「っっっ!!!!」
人間って驚きすぎると、声も出ないんだね。
私は驚きこそしたものの、生首を投げ捨てて逃げ出す事も、情けない悲鳴も上げることもなかった。
心の中では絶叫はしていたけれど、なんとかそれを声にする事はしなかった。
それを周囲は私が全く驚いていないように取ったらしい。
私の手の中にあるデュラハンが大きな声で笑い声を上げた。
『ハッハッハ、流石は悪魔族の上位種を配下にしているだけはあるな! この程度では動じぬか!』
なるほど、どうやらこれはデュラハンさんの悪戯だったようだ。
自己紹介前に頭を首の場所に置いたのは悪戯の前置きだったらしい。
『ちょっと、人間相手にタチの悪過ぎる悪戯でなくて?』
『ウム、普通の人間なら絶叫を上げて悲鳴を上げるものだぞ』
『いやぁ、すまない! 余りにもアイネス氏の表情が変わらぬものだったから、少々悪戯心が湧いてしまってな! しかし、まさか全く動じないとは思いもしなかった! 中々の胆力の持ち主のようであるな!』
タコ足の女性と白い虎の魔物が私の代わりにデュラハンの悪戯に注意をしてくれる。
デュラハンの彼女は反省するどころか、私に感心した様子で私に称賛の言葉を向けている。
真面目そうな顔をして、このデュラハンはかなりの悪戯好きのようだ
私も悪戯やドッキリは好きだ。
別にする側でもされる側でもないので基本某動画サイトやバラエティ番組で見る専だけど、あれは見ている方は楽しい。
それに普段無愛想な私だって偶に冗談を言うし、ちょっとした悪戯を仕掛けたくなる時だってある。
過去にイグニに肉のステーキと称してこんにゃくでできたなんちゃってステーキを出して見たり、ウーノ達にトリックアートを見せてみたりとちょっとしたドッキリをした。
だけど、こういう心臓に悪い悪戯をされるのは好きじゃない。
私は何も言わず、デュラハンの首を断面が上になるように逆さにする。
『ム、急に視界が逆さになったのだが、これは一体……』
「それはですね、貴方に天誅を与えるためですよ」
『え、今なんと…ってうぉぉぉぉぉお!?』
バスケットボールを指先で回す要領で、私はデュラハンの生首を指先で回し始める。
普通に口が動いている訳だし、人間としての機能はちゃんと機能しているようだ。
三半規管を狂わせるように首を高速回転させれば、デュラハンの悲鳴が聞こえてくる。
『め、目が回る~~~~!!』
「目が回るように回してるんですよ」
『アッハッハッハ、あれ楽しそうだね~』
『全く、アイネス様にそんな悪戯を仕掛けるからですよ』
「ぎゃう~」
『早く謝罪を述べるのが吉であるぞ』
生首をボールのように操りながら無表情のまま指先で回す少女はやっている自分が言うのもあれだけどかなり正気の沙汰じゃない。
なので心を無にして生首を回す。
海蛇のタトゥーの男性魔物の笑い声を聞きながら、只管回し続ける。
『す、済まなかった! 突然頭を落として見せたのは謝ろう! だからもう止めてくれ!』
「次はないですよ」
デュラハンが謝ったのを聞くと、私はすぐに回転を止めた。
そしてぐるぐると目を回しているデュラハンの生首を首と身体の感覚が連動しているのか若干ふらついているように見える黒い騎士の身体に返した。
デュラハンは苦笑を浮かべて私に言った。
『は、はは……アイネス氏は容赦がないな……』
「次こんな心臓に悪い悪戯したらイグニさんに頼んでドリブルパフォーマンスよろしくぐるぐる回して貰いますからね」
『その場合はついでにスリーポイントシュートも決めさせてはどうでしょう?』
『何の場合に何をさせるつもりだ?!』
私の言葉が分からないデュラハンがベリアルの言葉だけを聞き取って、軽く慄く。
スリーポイントシュートはさせない。イグニあれ下手だもん。
まだ自己紹介が二人目なのに、こうもネタ続きだとこの先が少し不安になる。
どうにか、11人目の魔物を突き止めなければ




