そりゃあ最初はそうなりますよね
ダンジョンに設置された、魔物召喚用の部屋。
そこに私とゴブ郎、そしてベリアルとタンザはいた。
私は事前のチェックをしていく。
「ダンジョンポイント、よし」
「ぎゃう!」
「場所の確保、よし」
「ぎゃう!」
「護衛兼新入り達への説明役は……」
私がそっとベリアル達の方を見てみると、ベリアルとタンザと目が合った。
彼らは笑みを浮かべ、頷いた。
「イツデモ、ダイジョウブ」
「マカセロ」
「よし」
「ぎゃう!」
「で、新入り達を迎える為のメンタル、なし」
「ぎゃう! ……ぎゃう?」
「アイネス**?」
「すみません、冗談です」
首を傾げる3人に軽くそう告げ、私は頷いた。
「これより魔物増員計画、本格始動します」
「ぎゃうぎゃう~!」
サユリさんもミノタウロス達もこの生活にも慣れて来たし、先日<アイテムボックス>の釣りの一件もあった。
そろそろ本格的な魔物増員計画に入るべきだろう。
丁度日々の挑戦者達によって稼いだDPとタケル青年とのダンジョン戦争で掻っ攫ったDPの余りに加え、害悪挑戦者対策のなまはげ隊のお陰で私の貯蓄DPは住居の増築に使った後でもかなり貯まっている。
DP不足で悩む事はないだろう。
そして私はダンジョンの<カスタム>画面を表示し、召喚する魔物を選び始めた。
「ダレカラ、ショウカンスル?」
「まずは医療班になってくれる魔物を召喚しましょうか。回復してくれそうな魔物は最初にいた方が良いでしょう」
強力な魔物はDPが掛かるし、キャラも濃い。
ならば優先順位の順番にキャラの濃くなさそうな魔物を召喚していくのが吉だろう。
<カスタム>を少し操作して魔物の検索絞り込みをすれば、回復魔法が得意な魔物達の名前と写真が出てきた。
インターネット並に便利だな。
「水精霊に風精霊にドライアド、リッチにエンジェル、それに……クレリック・デーモン? そんなのもいるんですね」
「アクマノ、ナカニハ、ジャシンヲ、シンコウスル、モノモ、イマスカラ、ネ。ソウイウ、マモノハ、カイフクマホーガ、ツカエル、ヨウニナル」
「あれ、じゃあ<回復魔法>が使えるベリアルさんも邪神信仰者ですか?」
「イエ、モトモトノ、サイノウ」
「なるほど、ただの天才か……」
天才は信仰云々も越えて良いスキルを手に出来るというわけか。
少し羨ましい。
「天使系はタンザさんとベリアルさんと衝突する可能性がありますし、クレリック・デーモンや精霊はフォレスさんやベリアルさんに頼んで召喚してもらった方がDPの節約にもなりますし、今この場で召喚するならリッチかドライアドか……」
「アイネス**、コレ、ニ、シタラ、ドウダ?」
「え、これですか?」
タンザが指差したのは羊の耳に角を持つ、白くてふんわりとした羊毛が生えた獣人のような子の写真だ。
名前の欄には『サテュロス』と書かれている。
タンザは私に説明を始める。
「サテュロス、ハ、カイフク、マホー、ガ、ツカエル、マモノ、ノ、ナカデモ、ヒカクテキ、カイフク、ノ、テキセイ、ガ、タカイ、マモノ、ダ。イリョウハン、トシテ、ハ、ジュウブン、ダロウ」
「サテュロスですか……。見た感じ穏やかそうですし、敵視する魔物もいなさそうですね。ではサテュロスさんをお呼びしましょうか。何人くらい増員したら足りますか?」
「ヒトマズ、サンタイイレバ、ジュウブンカト」
「3人ですね。分かりました。復活型サテュロスを3体召喚するのに必要なDPは4500DPか……まあ、妥当でしょうね。」
<カスタム>を操作し、復活型のサテュロス3体の召喚することを選択すると、私の目の前に召喚魔法陣が現れた。
魔法陣が出現したのを見てすぐにサングラスを装着すると、魔法陣から眩しい光が放たれる。
そして光が晴れると、そこには男性のサテュロスが一人、女性のサテュロスが二人立っていた。
3人は私達のいる方向へ深々と会釈した。
そこでベリアルが前に出て、サテュロス達に挨拶をした。
「*****(初めまして)、****(ようこそ)アイネス********(ダンジョン)*。***********、*******(説明)*****」
「**(説明)?」
魔物増員計画を始めるにあたって、私はベリアル達に<契約>前にこのダンジョンについて説明する事を提案した。
召喚した魔物は基本ダンジョンマスターに敬意を示し、そして<契約>を結べば絶対従順になるらしいけれど、それでも意志があるのだから各々の考え方がある。
私のダンジョンは他のダンジョンと殆ど違うやり方だから、そういったギャップを少なくするためにも<契約>前の説明はした方が良いだろう。
その結果このダンジョンのやり方に反論を挙げるのであれば、どうにか慣らすようにするなり部署を変更するなりすればいい。
業務の説明もなしにただ働けという会社なんて、ブラックでしかないもの。
「……***(以上が)*******(このダンジョン)***(業務)**。**(何か)****、**(今)***(お聞き)****」
「**(いえ)、**(特に)**(ない)***」
「**(全然)***(大丈夫)***」
このダンジョンに関する説明が終わり、ベリアルが3人に問題がないか聞いているようだけど、3人は特に不満や反論はないのか、首を横に振って了承の意をみせた。
説明を終えれば後は<契約>を結ぶだけ。
ベリアルが説明をしている間に彼らにつける名前はもう決めてある。
「**、**(早速)***********。**(今後)******(要求)****アイネス********(相談)******」
「******(分かりました)」
「デハ、アイネス**、ケイヤク、ノ、ホウヲ」
「ええ、分かってます」
ベリアルに名前を呼ばれたので、私はサテュロス達の前まで近づく。
首を傾げるサテュロス達に対し、私は一人一人に名前を付けていく。
「右の女性の方には『ペチュ』、左の女性には『ユナカ』。そして、男性のサテュロスさんには『プラシオ』で」
名付けをしたことにより、私とサテュロス達との間に<契約>が結ばれる。
これでサテュロス達は完全に私達の仲間になったというわけだ。
精々頑張ってもらおう。
そう思っていたのだけど、目の前のサテュロス達の様子が何処かおかしい。
何事かを尋ねようと口を開いたその時、3人が一斉に声を上げた。
「*、**(貴方)**********(ダンジョンマスター)*****!?」
「*、*******(此方の)******……」
「*******」
以前にも見たことあるような驚愕っぷり。
3人は私とタンザを交互に見ながらてんやわんやしている。
その反応だけでも彼らが何故驚いているのかが分かる。
恐らく、私ではなくタンザがダンジョンマスターだと勘違いしたんだろう。
私はベリアルの方をジト目で見つめる。
「ベリアルさん、3人に私がダンジョンマスターだって教えなかったんですか?」
「スグ、キヅクダロウ、ト、オモッテ」
「……はぁ」
この悪魔、確信犯だ。
敢えてこの事を伏せてたな。
名前を考えるのに意識を向けててベリアルがちゃんと彼らに説明しているのか聞いていなかった。
説明役、これ以降はタンザに代わって貰おう。
「ベリアルさん、私についてプラシオさん達に説明してあげてください。敢えて伏せるような事は止めてくださいね」
「ハイ、モチロン」
「*****(すみません)。***(此方の)、**(説明)、**(不足)」
「*、**(いえ)、*****(構いません)*。」
「**(少し)***(驚いた)*****……」
プラシオさん達に謝罪すると、プラシオさん達はまだ少々戸惑いつつも許してくれた。
人間の下につく、ということには特に不満はないらしく、ただダンジョンマスターがあまりにも予想外過ぎて驚いただけだという。
取り敢えずプラシオさん達は召喚部屋で待機してもらうことにした。
新入りを一種族ずつ召喚して外にいるシシリーとオリーブにダンジョンの案内を任せるなんて面倒だからね。一定数以上と<契約>出来たらその時に二人にダンジョン内の案内を頼もう。
「じゃあ、次は外で情報収集をする諜報班の魔物を召喚しましょうか。出来れば何処にでも侵入出来る魔物か人との交流に慣れている魔物が良いですよね。確かお勧めはマーチャント・ラクーンとハーミットでしたっけ?」
「ソウダ、マーチャント・ラクーン、ハ、ブンシン、ト、ヘンゲ、ガ、デキル。ハーミット、ハ、カゲ、ヤ、ミズ、ナド、カタチ、ナキ、モノ、ヲ、トオシテ、ジョウホウ、ヲ、シレル。ドチラモ、ジョウホウシュウシュウ、ニ、ムイテイル、ダロウ」
タンザの説明を聞きながらその魔物を探せば、簡単に見つかった。
それぞれの名前を和名にすると商人狸と隠者か。
確かに商人なら色々な情報を耳に出来るだろうし、隠れる者なら諜報班に向いていそうだ。
それぞれのDPはさほど高くはないし、数体なら召喚可能だ。
早速召喚してみると、再び魔法陣が現れマーチャント・ラクーンが姿を現した。
マーチャント・ラクーンは後ろに大荷物を背負った二頭身の細身の狸だった。
流石はマーチャントと名前が付くだけのことはある。
召喚されて早々、私達に手を擦りながら喋り始めた。
「******! **********(召喚)****(御方)*****? *******************」
あ、マーチャント・ラクーンも方言系の魔物のようだ。
ミノタウロス達ほど分かりにくくはないけど、言葉が訛ってる。
<オペレーター>の通訳を使用した方が良いかな?
そんな事を考えていると、ベリアルがマーチャント・ラクーンに対して話し始める。
「*****(初めまして)、****(ようこそ)アイネス********(ダンジョン)*。**********(ダンジョン)**********……」
「****(その前に)、***(貴殿達)****(勘違い)***(一つ)***(解いて)**」
「***(勘違い)? **(何)*****?」
ダンジョンの説明に入ろうとするベリアルの言葉を中断させるように、タンザがマーチャント・ラクーンに話しかけた。
そしてタンザは私の方を手のひらで指し、彼が抱いているだろう勘違いを解いた。
「*******(このダンジョン)*********(ダンジョンマスター)*、***(此方の)アイネス*」
「ぎゃう!」
「*****(こんにちは)、**(名前)、アイネス」
「***!? ******!」
あ、案の定勘違いされてた。
***** *****
「結局、召喚した魔物全員から同じような反応をされましたね」
「ぎゃう~」
「アイネス**、ショス?」
「処しません」
その後も色々な魔物を召喚したけど、その魔物全員が私ではなくタンザやベリアルをダンジョンマスターだと勘違いしていた。
そりゃあ、召喚されてすぐに人間とゴブリンとアークデビルロードとブラックデーモンパンサーを同時に見たら後半二人のどっちかをダンジョンマスターだと思う。
タンザ達が説明したらすぐに誤解は解けたし、皆ダンジョンについての説明をしたら私がダンジョンマスターと分かった後でも反論や異議を申し立てる者はいなかった。
なので説明で驚愕された事以外は特に大きな騒ぎはなく、全員と<契約>を結ぶ事が出来た。
……全員が全員、私がダンジョンマスターだと知った時の反応があまりに同じ過ぎてマーチャント・ラクーンこと『シガラキ』が吹き出していた。
解せぬ。
殆ど欲しかった魔物と<契約>を結んだ所で、外で待機しているシシリー、そして補佐役のオリーブさんにダンジョンの案内を頼んだ。
新入り魔物達がシシリーさんの案内の元召喚部屋を去った後、魔物の補充が必要な部署はたった一つになった。
ただ、その最後の一つの部署の増員に問題があった。
「さて、最後はバッドエンドルートの始末係ですけど……本当にやるんですか?」
「ウム」
「オソラク、コレガ、イチバン、ショウヒDP、ガ、スクナイ」
「そりゃ確かに一回で済めばそうですけど、<ガチャ>で最強魔物を召喚するってかなり難しいのでは?」
バッドエンドルートの始末係。
つまりはベリアル達と互角に並ぶ最強魔物の召喚だ。
ベリアル達のような最強魔物は普通に<カスタム>で召喚することは出来ない。
何故なら、一体召喚するだけでも目が飛び出そうな程大量のDPを支払わなければいけないのだ。
ベリアルと同じ種族のアークデビルロードを召喚するにしても、最低でも数千万DPは掛かる。
そんなDPを支払う余裕は私のダンジョンにはない。
0どころかマイナスになる。
そうして、どうにかならないかとベリアル達と話し合った結果考えついたのが<ガチャ>による召喚方法だ。
少ないDPで超激レアな魔物やアイテムが手に入ってしまうこの機能なら、ワンチャン最強魔物が簡単に召喚出来るかもしれない。
実際私は、今までやった<ガチャ>で全部SSRやSRランク魔物であるベリアル、イグニ、フォレス、マリアを引き当てた。
でも、運任せにするなんてちょっと不安要素があるんじゃないだろうか?
私は後ろで待機しているベリアル達に念を押しておく。
「良いですか? どんな魔物が出ても全員文句なしで迎え入れる。突然殺しに掛かるのも、手を出すのも足を出すのも魔法を出すのもしない。この2つが絶対条件ですからね」
「ハイ、ワカッタ」
「モンク、ハ、イワナイ」
「ぎゃう!」
「本当かなぁ……」
タンザとゴブ郎は兎も角として、ベリアルはイグニとの険悪期の時がある。
もしもまたドラゴンが出たら、また大騒動になるかもしれない。
出来ればそういうのは避けたいので<ガチャ>をするに当たって全員にこの条件を伝え、同意書を書いてもらったのだ。
本当、あの険悪期の再来は避けたい。
<カスタム>に代わって<ガチャ>を使用し、魔物しか出てこない魔物ガチャを選択する。
あとは私がガチャを回すボタンを押せばガチャは始まる。
「では、<ガチャ>を引きますよ……あ、その前に」
「ぎゃう?」
「ドウシマシタ?」
「いえ、ちょっと験担ぎをしようと思いまして」
「ゲン、カツギ?」
ガチャを回す前に私は一回拍手し、3回猫手で手招きをする。
ゴブ郎も私の真似をして同じ動作をしているのが見える。
そして深々と一礼した後、頭を上げた。
「これやると、ガチャで良いのが当たりやすくなるんですよね」
「ナニカ、マホウ、ノ、ヨウナ、モノ、カ?」
「いえ、魔法じゃないです。特に意味はないですが、こうすると当たり易くなるって思える……強いて言うなら、私流のおまじない?」
「ナルホド……、アイネス**、ノ、マジナイナラ、コウカ、ガ、アリソウダ」
「そうですかねぇ……」
あくまで験担ぎで、偶々この動作をした後にガチャを引くと時々欲しいキャラがゲット出来るというだけ。
本当にそれが叶うかは分からない。
ゴブ郎も一緒の動作をしたから、効果が2倍になってもしかすると、というのもあるかもしれないけど。
験担ぎの動作をした後、私は魔物ガチャの10連ガチャを回すボタンをタップした。
軽快なBGMと共に、今日何度目かの召喚魔法陣が出現する。
「良い魔物が来ますように、と」
そんな事を呟きながら、私はガチャ画面に注目する。
そうしたら、一発目から画面に『SR!!』と書かれた綺羅びやかな文字が表示された。
「おおっ、最初の一回目からSRですか」
「ぎゃう~♪」
「ホントウ、ニ、コウカ、ガ、アッタ、トハ……」
「サスガハ、アイネス**」
「いや、尊敬されるほどのことじゃないですよ……」
ベリアルの称賛を軽く流しつつ、ガチャ画面の結果を確認して10回全ての結果が出るのを待つ。
すると、2回目のガチャには画面に『SSR!!!』と書かれた綺羅びやかな文字が表示された。
「えっ? 2連続激レア?」
私が驚きを見せる中、3回目のガチャの結果が出る。
3回目のガチャの結果は、SRだった。
「ん??」
私が首を傾げる中、ガチャは次々と引かれていく。
4回目のガチャの結果はSSR、5回目はR、6回目はSR……。
6回目の結果が出た時には、流石にその結果の異常にツッコミをいれた。
「いやいや多い多い多い。どんだけSRとSSRが出るんですか? むしろレアやノーマルの方がSRやSSRみたいになっちゃってるんですけど」
「コレ、ガ、ゲンカツギ、ノ、コウカ、カ……」
「ぎゃうー!」
「アイネス**、ノ、チカラ、ハ、イダイ、ダ」
「いやこれ、絶対違いますよ。絶対なんか他の干渉がありますって」
そんな会話をしている間にも、ガチャはどんどん回されていく。
7回目、8回目と、次々と豪華な文字が表示されていく。
もう、本当にSSRとSRが殆どだ。
ガチャの確率に何があったんだ。
ぶっ壊れたのか。
最早達観の域に入っている中、10回目のガチャの結果が表示された。
やっと、このイカれたガチャが終わったか……と思いながら目の前の魔法陣の方へと視線を向ける。
そして……
視界の端に、ガチャ画面が11回目の結果として『SSR!!!』と記された綺羅びやかな文字が表示されたのが見えた。
「はっ、11!?」
私がその異常に気が付き声を上げると、目の前の魔法陣が太陽のような強い光を放つ。
サングラスを付けても眩い光に耐えながら、私は魔法陣の光が止むのを待った。
暫くして、魔法陣の光が止んだ。
サングラスを外し、私は魔法陣の上に立っている魔物達を見て、ゆっくりと数を数える。
魔法陣の上に立っていたのは、11体のよりどりみどりの魔物達。
私は深く息を吸い込み、大声を上げた。
「チェンジ!!!!」
「ぎゃう?」




