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初めてのお勤め終了。そして始まる二度目の絶望

「はぁ、一時はどうなるかと思ったけど、なんとか初めての挑戦者のダンジョン攻略が終わったか…」

「***アイネス、******」

「ん、お茶ありがとうございます。ベリアルさんもお疲れ様です」


ブンブッ…いや、この挨拶は止めておこう。

異世界転移して早々捨てられた系非リア女子兼ダンジョンマスターの私、小森瞳子はつい先程まで、ダンジョンの侵入者を相手にしていた。

ダンジョンマスターになって初めての侵入者の相手なので、一時はどうなるのか不安だったけど、なんとかトラブルが起きることなくその仕事を終える事が出来た。


私の作ったダンジョンは、はっきり言ってしまって他のダンジョンと比べてかなり異質だろう。

それもそのはず。ダンジョンリフォームに1週間掛けて作りあげたこのダンジョンのコンセプトは、遊園地のアトラクションだからだ。


私がいかに人の感情を呼び起こせるのが何か、と考えて真っ先に思いついたのは遊園地だった。

恐ろしいお化けが潜む恐怖のお化け屋敷に、思わず絶叫が出るほどの高速で宙を掛けるジェットコースター、謎の答えが分からないと思わず苛立ってしまうであろう脱出ゲーム。

地球生まれの私は遊園地は見慣れた物だけど、この世界にとってはそうではないだろうと思ってこのコンセプトを考えたのだ。


まず、ダンジョンに入ってすぐの所に広い空間を確保し、ダンジョンの説明役として『お喋りな蛇のティアーゴ』を設置した。

実はこのティアーゴ、魔物でもなければ実際に存在する蛇でもない。

壺の中に仕込んだ、ただの録音再生機器である。

私が挑戦者の言いそうな事を推測して書いた台本を<オペレーター>がベリアルに翻訳して此方の世界の言葉に書いてもらい、エキストラ…もとい、ベリアルが<悪魔召喚>で召喚した悪魔にセリフを吹き込んでもらったのだ。

再生機器を仕込む壺は冒険者達の視線より高めに設置して、強化ガラスの箱に入れることで覗かれる心配もない。中身を知っている私から見ればただの壺でも、何も知らない冒険者達が見ればたちまち喋る蛇の入っている不思議な壺に早変わりと言う訳だ。

魔物を説明役として置くのは冒険者に警戒させてしまうし、私は此方の世界の言葉が喋れないので考えたアイディアだ。

本当は某夢の国みたいに本物のように動いて喋るロボットを置きたかったのだけど、流石のバグスキル<ネットショッピング>にもそれはなかった。あの高度な技術だけは此方の世界に輸入出来ないらしい。恐るべし、夢と魔法の国。


それぞれの扉の先にいる物語の管理人の正体は、立体ホログラムの映像だ。

何故この文明の乏しい世界でホログラムなんて現代技術が使えるか?

秘密は<ネットショッピング>で手に入れた3Dプロジェクターにあった。

本来なら立体的な映像を出すには専用のガラスや他機器が必要になるのだけど、此方の世界に来たことで構造が変化し、3Dプロジェクター1機のみで立体映像を生み出す事が出来たのだ。

スタンドライトが電気なしで使えるようになっていたのに気がついて、色々使えそうな物を注文して調べた結果分かった事だった。

<オペレーター>曰く、幻影を生み出す魔法があるらしく、そういった魔道具もあるにはあるらしい。

実にご都合主義な展開ではあるのだけど、初めて立体ホログラムを間近で見た時の感動は忘れられない。

他にも雪空の街並の風景や立派なお屋敷の部屋も全て<カスタム>でそれっぽい形にリフォームして、プロジェクターで背景を貼り付けた物だ。青の扉に置いた家具や置物は全て<ネットショッピング>で注文した本物だ。

敢えて本物の家具や雪を使う事でリアル感を出してみた。

DPに余裕が出来ればそれらしいリフォームをしたいけど、今はまだ始めたばかりで人員補充が最優先なので保留だ。

他にも遠隔で音を鳴らすためのスピーカーや突風を起こすための空気噴射機や、虫の玩具などなど、ダンジョンで使えそうな物を<ネットショッピング>で注文し、ダンジョンのあちこちに仕掛けた。

<カスタム>で仕掛けを仕掛けたい場所に凹みを作り、スケルトントリオに機械を隠してもらい、蔓や白い布で機械を隠していたので冒険者が闇雲に武器を振り回していたら破損していたかもしれないけど、魔物が出るスポットやルールで行動を縛る事で出来るだけ回避した。


因みに物語の管理人やテケテケ、テケテケに殺されつつも最後冒険者を助ける恋人の女性ドロシーの霊や仲間に裏切られた怨霊を演じたのはティアーゴと同じく、ベリアルが召喚した悪魔達だ。

悪魔は幻影魔法や変身魔法に長けているらしく、私が絵や衣装を見せただけでそれに似合う姿に変身してくれた。

皆、演技達者で本当に助かったのでエキストラ出演してくれた悪魔達には高めのスイーツを渡した。

本当はちゃんとした給料を渡したかったけど、召喚された悪魔にそういうのは要らないとベリアルに首を横に振られたのだ。

エキストラの悪魔達はスイーツだけでもちゃんと喜んでくれた。


今回ダンジョンに存在していた三種類の扉の先にはそれぞれ違ったテーマと元ネタのアトラクションがあった。

同じダンジョンでも全く違った内容の道を作り、宝箱の中身もそれぞれの道に合わせ、更に冒険者自身に選ばせる事で、それぞれの道を十分に味わう事が出来るのだ。

<オペレーター>に聞いた話だと、他のダンジョンは階層に合わせて仕掛けや間取りが違うけど、配下の魔物や周囲の環境に合わせて統一されているらしい。

しかし私のダンジョンでは道こそシンプルで一階層のみだけど、一つのダンジョンで3つのエリアを楽しめる。

冒険好きであろう冒険者にはもってこいのコンテンツだ。


赤色の扉のテーマは恐怖。元ネタのアトラクションはお化け屋敷だ。

地球でも有名な都市伝説『テケテケ』を、此方の世界に合わせてストーリーに脚色させてみたのだ。

お化け屋敷だったら人は恐怖の感情を出すだろうし、いつも相手にしているスケルトンもお化け屋敷効果で余計恐ろしく感じるだろうと思ったからだ。

なお、色々脚色させてみた結果、地球ではただただ恐れられていた都市伝説が恐ろしいけど少し切ない物語に変化したらしい。

何故他人事なのか?それはこの物語の脚色をしたのが私じゃなくて、スケルトントリオのケルトだからだ。

私がティアーゴのセリフの台本を作っている時にケルトが興味深しげに見ていたので、試しに絵本のようにテケテケの都市伝説を聞かせて<ネットショッピング>で注文した漫画を見せた後、人が気に入りそうな話に脚色をケルトに頼んでみたら、いつの間にか全く新しい物語を作り上げたのだ。

私は読めないので詳しくはどんな物語なのかは分からないのだけど、脚本を読んだベリアル達の反応的にかなり好評だった。

気になって<オペレーター>に簡単なあらすじを聞いてみたけれど、確かに万人受けしそうな内容だと思った。

ケルトは人として生まれていれば、稀代の作家として名を馳せていたんじゃないだろうか?


青の扉の内容は、私が決めた。

青の扉のテーマは知恵。元ネタのアトラクションは脱出ゲームだ。

頭の使うゲームは、中々解けないとイライラするからね。

まあ脱出ゲームといっても、ただ部屋の中になぞなぞの書かれた紙が複数置いてあって、時間までにそれを順番に解いていくと外に出る事が出来て、さらにいくつかのポイントごとに宝箱を手に入れる事が出来るという「なんちゃって脱出ゲーム」だ。

DPの残高があまり多くなかったのと、この世界の人達がどれだけ頭が良いのか分からなかったから本格的な脱出ゲームは少し止めておいたのだけど、今回の冒険者二人の反応を見るにそれは正解だったようだ。

恐らく、もしも本格的な脱出ゲームを作っていたら最初の部屋で躓いていただろう。

なぞなぞの方の選別は、頭が良い代表のベリアルと<オペレーター>、そして知能低め代表のスケとゴブ郎くんに実際に解いてもらって決めた。

結果、序盤に出した簡単ななぞなぞはベリアルと<オペレーター>は正解を当てる事が出来たものの、後半からの引っ掛け系のなぞなぞではスケとゴブ郎くんが正解を当てた。

やはり引っ掛け問題のなぞなぞになると純粋な頭の良さよりも柔軟力が大切になるんだろう。

ゴブ郎くんとスケが正解していく様子を悔しいのやら素直な尊敬やらの複雑な眼差しで見つめているベリアルと、若干悔しげに沈黙していた<オペレーター>が私的には面白かったのだけれど。


『否定。悔しがっていません』

「おっと、すいません」


話をダンジョンの話題に戻そう。

残る黄色の扉のテーマは信頼。元ネタのアトラクションはゲームで良くある協力系アスレチックだ。

協力系のゲームは命に関わっていないならただ楽しいだけだけど、自分の命の関わってくるダンジョンだと話は違う。

冒険者の信頼関係がどれほどの物かは分からないけれど、自分の命を誰かに任せるというのは相当なプレッシャーが掛かる。

更には宝箱をゴール地点に一つ設置してしまえば、疑心暗鬼が生まれる。

“指示役が宝箱を取って自分を置いて行ってしまうんじゃないか?”とかね。


まあ実際には崖はそこまで高い物でもないし、下には安全対策として衝撃を緩衝する安全保護マットが敷き詰められているから指示役が裏切ったとしても移動役の人が死ぬ事はない。

今回は指示役も移動役の人も落ちてしまったので帰還魔法陣のある部屋に誘導したけれど、もしも指示役が宝箱を取って移動役を放置した時は別のエンディングがあるのだが…それは敢えて伏せておこう。


「しかし、まさか今回冒険者が両方落ちるとは思わなかったなぁ。」


途中で出てきて移動役の人を誘惑する怨霊はプロジェクターの映像だからただ怨霊の言葉をスルーして進めば良いだけなんだけど、まさかあそこで大ジャンプをするとは思わなかった。

癒やし系冒険者が台を離したタイミングで背の高い狩人系のちょいワル冒険者が大きくジャンプして向こう岸に渡ろうとした時は興奮した。

ちょいワル冒険者が癒やし系冒険者になんか叫んでいた感じ、多分指示を出してやったんだろう。

癒やし系冒険者の放った魔法がめっちゃ光が強かったからプロジェクターの映像が光に負けて怨霊が消えた訳だけど、こういった展開に合わせてプロジェクターの映像を消すのは良いかもしれない。


今回、冒険者達が別れて全ての扉に行ったのは良かった。

もっと冒険者が来たら修正も日の終わりにやらないといけなくなるだろうし、こうして挑戦者の反応を【ダンジョンマスター】権限で出したモニター越しで見れるのは結構楽しい。

名作ゲームって、こういうテストプレイと修正の繰り返しで出来るんだな…と元の世界で歴代の神ゲームを作り上げた制作班の人達に尊敬の念が上がる。


<カスタム>で先程の6人の侵入者から獲得したDPを見てみると、ダンジョンリフォームでほぼ使い切っていたDP残高が7830DPも溜まっていた。

大体一人1300DP分程度だろうか…。一度の侵入者でこれだけ稼げるなら上々だ。

集めたDPの半分は人員追加として魔物を召喚に使い、その中の2000DPで魔物達の寝床を作り、1000DP程は何かあった時の貯蓄として貯金しておこう。

その結果、500DPが残る訳なのだが…


「うーん…丁度<ガチャ>の混合ガチャが10連が出来る…けどなぁ…」


ゲーマー的にあるスキルは持ち腐れすることなく全部使っておきたいのだが、<ガチャ>はベリアルの時の事があるため、ガチャをするのは躊躇してしまう。

いやベリアルが来たのが超レアケースなのは分かってるよ?でも、こういうガチャって欲望センサーが働くでしょ?出てほしくない物に限って出るのがガチャなのだ。

貴族系イケメンのベリアルでも言語の壁があってギリギリオッケーなのに、更に似たような魔物が出たらストレスで死ぬ。

人が皆イケメンや美少女と仲良くなりたいんじゃないのだ。私はどうせならイケメンや美少女に侍られる主人公とは出来るだけ関係性の薄いモブキャラとして生きたい。そして主人公たちのてんやわんやを遠目から「また馬鹿やってんなぁ」って安全な所で笑ってたい人種なのだ。

そりゃあまあ確かに、ベリアル以外に知性高い魔物が必要ってのは分かるよ。

今回は数がそこまで多くなかったからベリアルと私だけで仕掛けの作動やら青の扉の不正解音を鳴らす事とか出来たけど、これ以上冒険者が来ることを考えるとあと一、二人は欲しい。

でも私はコミュ障、言語の壁や種族の壁よりもコミュニケーション能力の壁の方が厚いし高いのだ。

合理性と私情の板挟みにあって悩んでいると、後ろから肩を叩かれた。

振り返ってみると、ベリアルがお茶のお代わりを差し出してくれた。


「あ、あー…どうもありがとうございます」

「**。」


私はおっかなびっくりになりながらもベリアルからカップを受け取り、お茶を飲む。

うん、美味しい。

ダンジョンリフォーム中にペットボトルのお茶を飲んでたら、ベリアルが興味を示したのでもう一つ注文して飲ませてみたらかなり喜んでいたので、試しにティーポットセットと茶葉とティーバッグを何種類かプレゼントしてみたけど、どうやらハマったらしい。

プレゼントして以降、こうやって良いタイミングでお茶を淹れてくれるようになった。最初は覚束ない所もあったが、次第にお茶を入れる腕が上がってきている。

お礼を言えば、ベリアルがにっこりと気品のある微笑みを浮かべてみせる。


「あ、そうだ」


よく考えれば、ベリアルに任せれば良いのだ。

言葉の通じない私よりも言葉の通じるベリアルの方が断然コミュニケーション能力は高いし、色々教えなくてはいけない事を考えると会話での意思疎通が出来るベリアルの方が変な勘違いを生まなくて済む。

なによりベリアルが相手をしてくれれば、私の壁となってくれる。

ベリアルは会議をした日から1週間の間私の傍で色々見ていたからここのダンジョンの仕組みを分かっている。

新人研修には持ってこいだ。


そもそも、そう簡単にSSR級の魔物が出るなんてそうそうないのだ。

むしろ10連ガチャで出ない確率の方が高い。

ゴブリンとかスライムが出てきても人員不足なこのダンジョンにはむしろ好都合だ。

そう考えれば、ガチャをしてみても良いかもしれない。


「よーし、そうなったら早速ガチャを回すか。こういうのって後回しにすると決断が鈍るし。」


私はベリアルを隣に呼んで、スキルを使い<ガチャ>の画面を表示する。

そして混合ガチャの10連ガチャを選び、ボタンを押してガチャを回した。


この時、私は気づくべきだった。

この時既に、フラグが立っていた事に…


レア級の魔法武器やノーマル級の魔物が当たっていく中、残すは10回目のガチャとなった。

軽快なBGMが鳴る中、ガチャの画面に『SSR!!!』と書かれた綺羅びやかな文字が表示されたのだ。


「嘘でしょ!?」


次の瞬間、ベリアルが召喚された時と同じように魔法陣が強い光を放ち始めた。

あ、そういえばサングラス掛けるの忘れたなぁ、なんて思いつつ、自分の腕で魔法陣の光から自分の目を守る。

光の放出が止むと、そこにいたのは大柄な男性の姿だった。


ベリアルが気品あふれる由緒正しき王族なら、目の前の彼は暴虐の限りを尽くさんとする帝王だった。

炎よりも赤い紅蓮の長髪。

頬や腕に所々ある赤色の菱形のものは鱗だろうか?

その背中から生える羽と尻尾の形状から考えるに、恐らく爬虫類系の物だ。

どこか余裕を感じるその表情と人を威圧せんとばかりに放たれるオーラから、彼がかなりの強者である事を示している。

気の強そうなツリ目の彼の瞳は獲物を狩ろうとする捕食者の目をしていた。


ベリアルが目を丸くしている横で、私は「フラグ回収おめでとう」なんて言葉が頭に過らせ、今ある体力を使って大声で叫んだ





「チェンジで!!!!」


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