害悪なお客様はお引取りください
サユリさんの突然来訪のあった夜が明け、いつの間にか私の背後にいた(らしい)サユリさんにベリアル達が驚愕して一騒動したものの、サユリさんは無事に私のダンジョンの仲間として認められた。
サユリさんの為の研修は同じ女性であるマリアが行う事になった。
研修が終わって文字を書くのが上手になれば、ホワイトボードやスマホで私とも会話が出来るだろう
それまでは屋敷の中でもやったこっくりさん方式のコミュニケーションになる。
一々異世界文字表を置かなければいけない、という欠点を除いたら一番コミュニケーションしやすい方法なんだよね。
そういえば、サユリさんってどんな見た目なのか気になってスケルトン達にサユリさんがどんな姿なのかを聞いた事がある。
絵の上手いスケルトンがスケッチブックに絵を描いて教えてくれようとしたんだけど、それはサユリさんに制止された。
なんでも、「恥ずかしいから誰かに似顔絵を描かれるのは嫌だ」らしい。
サユリさん、ゴーストなのに恥ずかしがり屋か。
まるで某超配管工ゲームに出てくるゴーストだ。
サユリさんが似顔絵を嫌がったのもあって、私だけサユリさんがどんな姿をしているか分かっていない。
他の魔物達は見えているのにも関わらず、だ。
少し気になる。
ただサユリさんに対する誤解が解けた後でもウーノ達が遠巻きに何もない空間を見ているあたり、子供にはかなり恐ろしい見た目をしているんだろう。
どうか、ウーノ達もサユリさんと仲良くなれたら良いのだけどね。
「にしても、ルール違反する害悪挑戦者達の方もどうにか考えないといけませんね」
人員補充計画を立てる主な原因となった害悪挑戦者。
彼らの行動はベリアル達から受けた報告以上に酷かった。
此方の提示したルールを違反したりダンジョンの魔物に無闇な戦闘を行ったりダンジョン内の調度品を傷つけたりするだけでなく、他の冒険者たちを押しのけて横入りや同じルートにいた冒険者達を尾行して横から宝箱を横取りするハイエナ行為なんかも行っていた。
中堅冒険者などはそんな彼らを相手にしないか逆に返り討ちにしていたりもするが、新人冒険者などは反抗出来ずに害悪挑戦者達に宝を奪われている。
監視カメラで見ている限りでも、他の挑戦者達が害悪挑戦者達に対して不満を持っているのは良く分かる。
人員を補充するだけでなく、害悪挑戦者たち自体をどうにかしないといけないかもしれない。
秘密の条件を満たした人達はベリアル達によって真のバッドエンドを迎えさせられるから数的には減るだろうけど、見た感じ秘密の条件について気が付いている害悪挑戦者も何人かいるようだ。
此方の提示したルールを破らないギリギリで悪さをしている人がいる。
このまま放置すれば害悪挑戦者達に嫌気が差した冒険者達がダンジョンの挑戦を止めて、結果的に挑戦者の数が減ってしまう。
「だけど、一体どうするべきかな。こういう害悪な人って、何言っても聞かないだろうし」
元いた世界でも、お店やレストランなどで悪さをする客というのは存在した。
そういう客に限って、「客は神様」論を振りかざすのだ。
ベリアルやイグニ最強魔物達が出れば一瞬で害悪挑戦者達を諌める事は出来るのだろうけど、普通の冒険者達も怖気づいてしまうだろう。
害悪挑戦者を来なくさせようとして他の挑戦者達まで来なくしてしまったら本末転倒だ。
それに、9割ノーキルをモットーとして掲げているこのダンジョンでやたらに殺戮を起こす訳にはいかない。
害悪挑戦者達を殺さず、害悪挑戦者達が悪さをしないように反省させる方法を考えないといけない。
なので昼食時にフォレスにこの事を相談してみた。
「何か良い案はありますかね、フォレスさん?」
「ワカッタ、ケド、ナゼ、ジブン、ニ?」
「フェアリーって他の種族から狙われる事があるんでしょう? だから侵入者を追い出す方法に詳しいんじゃないかと思いまして」
タンザから聞いた話だと、妖精族の羽から出る鱗粉は人間達にとってはかなりの希少素材らしい。
ただの鱗粉じゃ駄目だけど、妖精の鱗粉に特別な処理をするとポーションの材料やアクセサリーの素材に使えるようになるらしい。
それで一時期は妖精族の乱獲なんかもあったとか。
私、良くフォレスさんから過剰分泌した鱗粉を大量に貰ってるんですけど……。
しかも既に処理をされたやつ。
その話を聞いてウィッチ達とマサムネに貯蔵していた鱗粉などを見せたら大喜びされた。
よほど貴重な素材なんだということが分かった。
フォレスは私の相談を聞き、少し考え始める。
ベリアル達と比べてフォレスは最強魔物の中でもかなり平和的な方だ。
殺戮以外の方法を思いついてくれるだろう。
横で話を聞いていたスケルトントリオも一緒に考えてくれているのか、首を傾げて考えていた。
そんな中、フォレスは優しく微笑みを浮かべてある提案をしてきた。
「ユウドウ、シテ、カクリ、スル、ノハ、ドウ?」
「隔離?」
「アオ、ノ、ルート、ノ、マヨイ、ノ、ロウカ、ミタイ、ニ、ソノ、ニンゲン、マヨワセル。ハンセイ、シタラ、ダス」
「なるほど。ダンジョン内で悪さをしたら物語の中に囚われて永遠に彷徨わせられる、って思い込ませるんですね」
「ハイ」
青のルートのバッドエンドを応用して害悪挑戦者を懲らしめる為に使うのは良いだろう。
あれは他2つと違って身体的なダメージはないものの、精神的にクる。
同じ場所をぐるぐると歩き回らせるだけなら人員を裂かずに済むし、DPもあまり消費しない。
反省した頃合いで外に出せば、彼らはもう悪さをしようなんて考えないだろう。
ただ一つ、この方法には問題がある。
「確かに良い案なんですが、どうやって害悪挑戦者だけ迷わせましょうか? ダンジョンの中には他の挑戦者もいますから、全員を迷わせる訳にはいきませんし」
「ア」
これが妖精達の住まう森ならただ人間を全員迷わせるだけで済むんだろうけど、此処では害悪挑戦者のみを迷わせなければならない。
どうにか害悪挑戦者と普通の挑戦者を切り離さなければいけないのだ。
どうやって害悪挑戦者達だけを永遠に続く迷路へと誘導するべきだろうか?
折角なら転移などあっさり迷わせるのではなく、悪人が悪さをしたからこうなったんだとハッキリ分かる方法の方が良い。
そうすればそれを目撃した冒険者達が外で「このダンジョンで悪どい事をしたら痛い目に遭う」と噂してくれるはずだ。
害悪挑戦者達の誘導方法を色々考えていると、フォレスの横でグラタンを食べていたケルトが手を上げた。
「カタカタ……」
「ん? ケルトさん、何か良い案が思いつきました?」
ケルトは近くにあったホワイトボードを手に取り、伝えたいことを書いて私に見せてきた。
私はその内容を読み、少し考える。
「あー……若干伝承と違う所はありますけど、確かに名案ですね。これなら悪い人だけ誘導出来そうです」
「カタカタ……♪」
「じゃあ、早速それを試してみましょうか。すぐにそれ用のセットを用意しますね。」
「ダレ、ガ、タントウ、スル?」
「レジェンドウルブスと大人コボルトの誰かに頼んでみましょうか。フォレスさん、昼食を食べ終わってからでいいので後で彼らを呼んで来てくれませんか?」
「ワカッタ」
フォレスに指示を出すと、フォレスは快く了承してくれた。
そして私は<ネットショッピング>を使用してショッピングサイトからの目当ての品を探し、それを注文した。
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Cランク冒険者をしているテッドとフレディは今日も変わらず『物語』のダンジョンで冒険者活動を励んでいた。
お目当ては『物語』のダンジョンのお宝……と『物語』のダンジョンの赤のルートの物語を体験するためだ。
彼らは最初の調査以降、赤のルートの物語にハマり、ダンジョンに来た際は毎回赤のルートに挑戦しているのだ。
しかし最近、テッド達を悩ませる存在がいる。
それは『物語』のダンジョンの噂を聞いて他国からやって来た冒険者や一攫千金を狙う荒くれ者達だ。
徐々に噂が広まり挑戦する者が増えてきた『物語』のダンジョンだが、その噂を聞いてやって来た者達で迷惑な奴らがいるのだ。
彼らは『物語』のダンジョンに置かれた財宝目当てに色々と汚い事をする。
ダンジョンが最初に提示したルールを破るのは勿論のこと、前に別の冒険者達が入ろうとしているのを押しのけたり、新入り冒険者達が手に入れたダンジョンアイテムを横取りしたりと他の人達の迷惑になるような行為も行うのだ。
冒険者ギルドの方にもそんな彼らの苦情が来ているそうだが、ダンジョンの中で行われている事の為注意や対策が立てにくく、冒険者ギルドの方でもかなり手を焼かせられているそうなのだ。
そして今日も、その荒くれ者達は『物語』のダンジョンにやって来ていたらしい。
彼らはテッド達の背後を追いかけ回すようについて来て、テッド達が宝箱を見つけるやいなやそれを奪い取ろうと姿を現したのだ。
荒くれ者達は欲にまみれた笑みを浮かべ、テッド達に自分たちの武器を向ける。
「おう、オッサンら。今手に入ったダンジョンアイテムを俺達に寄越しな」
「あぁ? そんなの、後から宝箱を開けば手に入るだろ」
「そっちももらうつもりだ。だがオメェらの持つダンジョンアイテムも貰ってやるって言ってんだよ!」
「痛い目みたくなかったらさっさとダンジョンアイテムを寄越しやがれ!」
「ったく、面倒だな。折角この後ドロシーちゃんに会うってのに……」
武器を構えて戦いを挑もうとしている荒くれ者達にテッド達はため息をつく。
こういった輩は返り討ちにするのが簡単だ。
冒険者ギルドでは内輪揉めは禁じられているし、街の中で武器を構えようものなら騎士達に拘束される。
テッド達が仕方なしと言わんばかりに武器を構えたその時、何処からか呻き声のような低い声と足音が響いてきた。
「……こは、い“ねか~……」
「な、なんだ?」
「誰かいるのか?」
「アッチの方から聞こえるぞ!」
ドスッ、ドスッ、と足音を立て、徐々にその声は大きくなっていく。
荒くれ者達は魔物かと声の聞こえてきた方向に向かって武器を構え、警戒を見せる。
声の主は徐々に、徐々に距離を詰めていき、ついにはダンジョン内に設置された薄暗い灯りに照らされ、声の主の正体がテッド達にもハッキリと分かるようになった。
「「人様に迷惑を掛ける悪い子は、いね“か~……」」
そこにいたのは、恐ろしい人相をした二人の鬼人だった。
彼らは片手に出刃包丁を持ち、藁で出来た服と靴を身に纏っている。
その顔は人間の顔の二回りは大きく、その大きな口で噛まれたらひとたまりもないだろう。
鬼人達はギョロリと目を光らせてテッド達に絡んで来た荒くれ者達を睨みつけた。
風貌の恐ろしさとビリビリと身体の内に響くような恐ろしい声に、テッドとフレディ、それに荒くれ者達はその鬼人に恐怖を抱いた。
「人が手に入れた宝を横取りする悪い冒険者は、い“ね“か~~!!!」
「「ギャアアアアアアア!!」」
突如現れた恐ろしい鬼人に、荒くれ者達は情けない悲鳴を上げた。
普段の物語とは違う展開に、テッド達は混乱を露わにする。
「な、なんだありゃあ!? 鬼人か?!」
「鬼人っつうか、化け物だろうありゃ!」
「悪い子はい“ねか~~!」
「物語を台無しにする悪い冒険者はい”ねか~!」
「おい、どんどん此方に向かってきてるぞ!?」
出刃包丁を構えたその鬼人達は荒くれ者達と目が合うと、出刃包丁を振り回しながら物凄い速さで荒くれ者達に向かって走ってきたのだ。
慌てて荒くれ者達は弓矢を構えて鬼人達に攻撃をするが、鬼人達は矢を受けても倒れる様子はない。
「ギャアアアア! 武器が全然通じねえ!」
「まるでゴーレムと相手してるみてぇだ!」
「に、逃げるぞ! あんなんに捕まっちまったら殺される!」
自分が狙われていると気が付いた荒くれ者達は慌てて鬼人達のいる方向とは反対の方向へと逃げ出した。
テッド達の前まで鬼人達がやって来ると、青い鬼人はテッド達をチラッと見てそのまま荒くれ者達を追いかけて去っていき、赤い鬼人はテッド達の方に顔を向けた。
そして思わず剣を構えたテッド達に向かって、鬼人は口を開いた。
「チッス、チャレンジおつっすわ!」
「え、あ、おう……」
「ど、どうも……?」
ヘコヘコと顎だけ下げて軽薄な挨拶をする謎の鬼人。
先程の荒くれ者達への対応とは違い、かなりフレンドリーに接してくるその鬼人についテッド達も挨拶を返してしまう。
赤い顔の鬼人はテッド達に挨拶だけすると、荒くれ者達を追いかけて行った青い鬼人の元へ向かおうとする。
赤い鬼人は顔の横に人差し指と中指を一緒に立ててヒュッとテッド達にむけて投げるという謎の挨拶をした。
「じゃ、オレら悪人を追いかける仕事あるんで、引き続きチャレンジエンジョイしててくださいっすわ!」
「お、おう、アンタも頑張れよ……?」
「アザッす! オイコラァ! 悪い冒険者はい“ね”ぇか!! 人様に迷惑掛ける悪い子はいね“ぇか!!」
赤い鬼人は礼を言って、物凄い速さで荒くれ者達の元へと走り去ってしまった。
遠くから「ヒィィィィィ、助けてくれぇぇぇぇぇ!!」という荒くれ者達の哀れな声が聞こえた。
嵐のように始まり、嵐のように過ぎ去ったその光景に目をパチクリとさせながら、テッドはフレディに向かって呟いた。
「な、なんだったんだ一体……?」
「さぁ……?」
そしてその日、他の所でもテッド達と同じように「悪い子はいねぇか」と乱暴な冒険者達を追いかけ回す鬼人の目撃証言が出た。
数日後、冒険者達の中で「『物語』のダンジョンで何度も悪質な行為をしていると悪人だけを狙う鬼人がその悪人を追いかけ回し、更には暫く物語の中から出られなくなる」という噂が流れたのは当たり前だろう。




