四方の突撃は流石に大ダメージです
深夜2時、アイネスのダンジョン内。
新しく作られたアイネスの寝室にて、気の済むまでカードゲームをしたアイネスと子供のコボルト達がぐっすりと眠る。
そんな中、アイネスのスマホの電源がつき、カタカタと振動を始める。
人間より聴覚に優れているコボルト達はその振動音に気づき、目を覚ます。
そしてすぐにアイネスを守るようにアイネスの周りに待機し、音の聞こえた方向に構える。
「何? 不審者?」
「いや、入り口からじゃないみたい。アイネス姉さんの『すまほ』から聞こえた」
「じゃあ、アイネス姉ちゃんの『すまほ』に連絡が来ただけか?」
「アイネス姉さん、自分の『すまほ』の通知にすぐに気がつけるように通知が来た時は音楽がなるようにしてるから絶対に違うよ」
「夜警担当に伝えるべきかい?」
「カランセ兄さん、お願い」
「分かった」
ツヴァイが頼むと、カランセは自分のスキル<転移>を使用して夜警担当の魔物がいる場所へと繋ぎ、自分の腕を突っ込む。
そして繋いだ先に存在するベルを鳴らし、アイネスの部屋の中の異常事態を知らせる。
アイネスの部屋へ泊まるにあたって、非常事態があった時の為にベリアル達に教えられた事だ。
後数分もすれば夜警の者がベリアル達最強魔物の誰かを連れてアイネスの部屋にやって来る。
それまでは子供コボルト達で凌がなければならない。
机に置かれたスマホを注視して、様子を伺うウーノ達。
その時、カタカタと振動していたスマホがピタリと振動を止めた。
そしてスマホの画面から、血の気の引いた真っ白な人の腕が出てきた。
「ひっ!」
突然這い出てきた人の腕にトリーが短い悲鳴を上げる。
人の腕を始めとし、徐々に誰かの体がスマホから出てくる。
小さなスマホからは絶対に出てこないだろう人間サイズの黒いオーラを持った恐ろしい化け物が徐々に姿を現す。
血の涙を流し、血によってより禍々しい色へと染まった長い髪をだらんと垂らした、身体の透けた女性のゴーストはギョロリと髪の隙間から見える瞳で子供コボルト達とアイネスの方を見る。
子供コボルト達はプルプルと身を震わせ、尻尾を丸くさせてそのゴーストを見つめる。
そして口に縫われた跡のあるそのゴーストが何かを呟こうと口を開いて手を伸ばした時、恐怖心に耐えられなかった子供コボルト達が大きな悲鳴を上げた。
「「「「うわーーーーーーーー!!」」」」
「###?! 何###!? サイレン?!」
その子供コボルト達の悲鳴を間近で聞いたアイネスは驚きながら飛び起きた。
そして上体を上げたアイネスに対し、子供コボルト達が一斉に突撃する。
「みぎゃっ!!」
鳩尾、背中、横っ腹に同時に衝撃を受けたアイネスは恐怖などとは全く関係ない悲鳴を上げた。
そんな様子を、机の前に立つ女のゴーストは静かに見つめていたのだった。
##### *****
サイレンのような甲高い悲鳴に驚いて目を覚ませば、何故かコボルト達に4方向から同時に突撃されて抱き締められた。
彼らは何故か机に向かって恐怖心を出していて、今もプルプルと身体を震わせながら私に抱きついている。
「あの、何があったんです?」
「オ、*、**、***!」
「うん、動揺で声が震えてて何言ってるのか分からない」
耳と尻尾を丸くして震えるトリーの背中を優しく叩きながら尋ねてみるも、声が震えていて何を言っているのか全く分からない。
カランセもツヴァイも、怯えて私の身体に顔を埋めていて答えてくれそうにない。
一体何があったんだ?
そんな事を思っていると、右の横腹に抱きついていたウーノが顔を上げ、机のある方向に向かって涙目で吠えかかる。
「*、*****(お前)*******(怖くない)***! ****(怖くねー)**!!」
「何が怖くないんです? 机の方に何かあるんですか?」
「*、**(此方)**(来ん)**!! *******(怖くねー)**!」
警戒心と恐怖心で頭が一杯になっているのか、ウーノは私の質問には答えてくれなかった。
しかしウーノの言葉でこの部屋に何かウーノ達が怖がるような何かがあるというのは分かった。
ウーノが吠え掛かっている方向を見てみるが、そこには机と充電中のスマホが置いてあるだけで他に怪しい物は何もない。
ウーノ達が怖がりそうな物なんて何処にも見えないのだ。
私は首を傾げながら、毛の逆立っているウーノの頭を撫でる。
「怖い夢でも見た……って感じではなさそうですね。もしかして幽霊でも見えてるんでしょうか?」
「*、***、ユーレイ、イル!」
「え、本当ですか?」
「スマホ、ユーレイ、デル!」
「それってなんて貞子さんです?」
ツヴァイの言葉に驚愕しながら、再びスマホが置いてある机の方に視線を向ける。
貞子さんというとブラウン管のテレビから出てくるイメージだけど、まさかスマホから出てくる貞子さんが存在していたとは思わなかった。
異世界だから、力も強くて飛び出し方もハイテクになっているのか?
しかし、ウーノ達が現在進行形で見ているものが幽霊なら、私が見えないのも納得だ。
私が霊感なし……零感なのは既にオロフソン公爵家の屋敷で判明済み。
その上ウーノ達に抱きつかれて身動きが取れないので、私には手の出しようがない。
唯一の確認手段であるスマホは机に置いてあるから届かないし、新しく<ネットショッピング>でカメラ類を注文したら今正面に抱きついているトリーの上に直撃してしまう。
どうしようか、と考えていると、寝室の扉の鍵が勝手に開き、外から夜警担当をしていたルートンとパジャマ姿のタンザがやってきた。
……タンザのパジャマってヒョウの着ぐるみパジャマなんだ。知らなかったよ。
タンザはウーノ達に抱きつかれている私の方を見ると、すぐに声を掛けてくれた。
「アイネス**、ブジ、カ?」
「あ、タンザさん。って、この部屋の合鍵どんだけあるんですか……」
「ナニ、ガ、アッタ?」
「理由はよく分からないんですが、あっちの方向に幽霊的な何かがいるそうなんですよ。タンザさん、何か見えます?」
「アッチ?」
私が机の方向を指差せば、タンザとルートンはそちらを見た。
すると二人はギョッとした様子で驚きを見せた。
やはり私には見えない幽霊がいるんだろう。
私はタンザ達が見ている方向にいるらしい幽霊に視線を向け、身振り手振りで伝えてみる。
「すみません。夜分訪問したのに大変申し訳ないんですが、子供コボルト達が貴方におびえているので用事があるのでしたら早めに済ませるか、場所を変えては貰えないでしょうか?……って、今通訳使ってないから私の言葉は分からないでしょうけど」
<オペレーター>の通訳なしでの交渉。
ダンジョンの魔物達ならともかく、異世界の魔物である彼……彼女? に当然通じるはずはない。
多分スルーされて、私の方に突撃してくるんだろう。
その時はタンザにどうにかしてもらうだけだ。
そんな事を思って身構えていたのだけど、目に見えないその幽霊は私達の予想とは違った行動をした。
机の側にいるらしい幽霊は私やタンザの方に突撃するわけでもなく、机の上に置かれたコミュニケーション用のホワイトボードを手に取ったのだ。
誰もいない空間にて独りでに浮いたホワイトボードを見て、私は目を丸くする。
タンザ達も、その視界に入る幽霊の行動に目を丸くしていた。
幽霊はホワイトボードを手に取ると一緒に付いていたペンの蓋を開け、ホワイトボードになにかを書き始めた。
いや、そもそもなんで外から来たはずの見ず知らずの幽霊がホワイトボードの使い方を理解しているんだ?
普通、外の人や魔物が見れば、使い方なんてすぐには分からないはずなのに。
全員が幽霊の行動に目を丸くしていると、幽霊はゆっくりとホワイトボードの表の面を私の方に見せた。
そこにはミミズの這ったような異世界文字で5つの文字が書かれていた。
『*(さ) *(ん) *(べ) *(む) *(ら)』
繋いで読めば、それは何処かの村の名前だ。
だけど、それだけでは何の意味を指しているのかは分からない。
タンザやウーノ達も当然幽霊の書いたその村名の意味が分からず、首を傾げた。
「****(サンベ村)? ***(何処か)****(名前)*?」
「サンベ村……」
「? アイネス****、シッテル?」
私が思わず言葉を零せば、ウーノが怯えながらも問いかけてくる。
サンベ村。
私はその村の名前を知っている。
それはかなり最近に聞いた村の名前だ。
その村と私には、全く関係はない。
しかし、その村と関係のある人物、いや魔物を私は知っていた。
ミミズが這ったような文字。私には絶対に見えない幽霊の姿。そしてサンベ村。
その瞬間私に衝撃が走り、頭の中にある人物の名前が思い浮かんだ。
私は恐る恐る、その幽霊に尋ねてみた。
「もしかして、オロフソン公爵家の屋敷でお世話になったサユリさんですか?」
「「「「*?」」」」
「もし合っているのでしたら、丸とか書いてくれると嬉しいんですけど……」
タンザ達の視線が一斉に私の方へ向く。
彼らは私を問い詰めたいようだけれど、今は幽霊の反応を伺う為にスルーさせてもらう。
身振り手振りで確認の質問をしてみると、ホワイトボードを手にとった幽霊はホワイトボードに書かれた文字を消すと、再びペンを走らせた。
暫くして私達に向けられたボードには、それが正解というように描かれたぎこちない丸。
その幽霊が確かにサユリさんだということが分かると、私は天を仰いだ。
「マジですかぁ」
サユリさん、まだ成仏してなかったのかい。
***** *****
「サユリさん、一昨日ぶりです。いつの間にか反応がなくなっていたんで、てっきりオロフソン公爵家の人達と一緒に成仏しちゃったと思ったんですけど……」
『いいえ』
「確かに今返答が返ってきてる時点で成仏はしていないでしょうね。オロフソン公爵家の所にいなくて良いんですか?」
『か の じ ょ た ち は も う だ い じ ょ う ぶ だ か ら』
「へぇ、そうなんですか」
<オペレーター>に私の言葉が通じるように変えてもらい、床にタンザさんお手製の異世界文字表を広げて銅貨を使ってコックリさん方式で会話をする私とサユリさん。
背後のベッドの上ではウーノ達がまだサユリさんを見て怯えているけれど、代わりにぬいぐるみを渡したから我慢してほしい。
「にしても、一体何処からダンジョンに入ってきたんです? 一応夜警している魔物達が見張っているはずなんですけど」
『そ こ の ま ほ う ど う ぐ で つ な が っ た み ち を く ぐ っ た』
「スマホで繋がった道……ああ、そこにいるか確認する為に撮った動画ですか」
そういえば、一度ネットで心霊写真を撮るとその幽霊と縁が出来るとかいう話を見たことがある。
異世界の物はその世界に合わせて効果や機能が変化すると聞くし、連絡手段用に注文したスマホも同じだったんだろう。
心霊動画なんてものは削除すべきなのだろうけれど、自分の目には見えないからすっかり消すのを忘れていた。
知らず知らずにウーノ達を驚かせたサユリさんの登場に共謀してしまっていたのか。
あとで謝っておこう。
そのまま色々サユリさんから経緯を聞いてみると、大体の事が分かった。
公爵夫人の怒りが収まった後、サユリさんはそのまま私とワンコパスが屋敷から去るのをこっそり見届けた。
そして私達の姿が見えなくなると、オロフソン公爵家の人達の様子を伺っていた。
一応私が真実を解明して、そのまま説教したことで怒りは収まったけれど、まだ不安はあったから。
そしてもう大丈夫だと分かると、日中は仕事や日常生活で忙しいだろうからと配慮し深夜になるのを待ってから私のスマホの中に入っている心霊動画で繋がれた縁を伝って此方にやって来たらしい。
理由は、単純にお礼の言葉を告げるためである。
しかしやって来てみれば私の側にはウーノ達子供コボルト達がいて、突然スマホから現れた自分を見て恐怖している。
自分が敵じゃない事を伝えようと思わず手を差し伸べた所、恐怖の臨界点が突破したウーノ達が悲鳴を上げてしまったということだった。
それを聞いたウーノ達は、恥ずかしそうにぬいぐるみを握りしめ、耳を垂らしていた。
そこまで話を聞き終えると、私達のやり取りをマジマジと観察していたタンザさんが私に話しかけてきた。
「アイネス**、チョット、イイ、ダロウ、カ?」
「はい、何でしょうか?」
「コノ、ジョセイ、ハ、タダノ、ゴースト、デハ、ナイ」
「ただのゴーストじゃない?」
それを聞いた私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
ただのゴーストじゃない、とはどういう事だろうか?
霊感の見えない私にはただ幽霊的な何かがいるとしか分からなかったけれど、もしかしてゴーストとは全く違うアンデッドだったのだろうか?
そんな疑念を募らせながら、私はタンザに問いかけてみた。
「じゃあ、一体何なんでしょうか?」
「**********……、アイネス**ニモ、ワカル、ヨウニ、イウ、ナラ、『ブラッディ・ファントム』、トイウ、マモノ、ダ」
「ブラッディ・ファントム……血塗られた化け物?」
「ベツメイ、サイカ、ノ、ボウレイ、ダ」
サイカノボウレイ。
漢字で読めば、災禍の亡霊だ。
タンザさんからの説明によると、ブラッディ・ファントムはゴースト系魔物の中でも上位種と呼ばれる魔物らしい。
満月の浮かぶ嵐の夜に無残に殺された者がアンデッドへと変わる時、稀にこの魔物へと変わるらしい。
ブラッディ・ファントムは野生で誕生すると、まず自分を殺した者を甚振るように殺す。
そしてその復讐を全て終えると、その憎しみが消えるまで近くの生物の命を奪い続ける。
そして殺された者の負の感情を吸収し、更に力を付けるらしい。
討伐しようにもブラッディ・ファントムを殺そうとすればその殺意を吸収されて強くなり、殺しに掛からなければ逆に縊り殺されてその時出た負の感情を吸収され強くなる。
ベリアル達ほど強力でないにしろ、討伐しにくい厄介な魔物というわけだ。
公爵夫人も怒りと憎悪に染まったゴーストではあったものの、その種族はあくまでゴーストであって怨霊というのは人が勝手に呼んだ肩書。
ブラッディ・ファントムは正真正銘の怨霊にして悪霊なのだそうだ。
ブラッディ・ファントムが現れた村は必ず破滅すると言われていて、災いを呼ぶ霊ということで災禍の亡霊と呼ばれるようになったとか。
「コレ、ガ、ニンゲン、タチ、ニ、ツタワッテイル、ハナシ、ダ」
「人間達に伝わっている話? 魔物達の中では違うんですか?」
「ジツ、ノ、トコロ、ブラッディ・ファントム、ノ、コト、ハ、イロイロ、ショセツ、ガ、アル、ノダ。ジッサイ、ドウイウ、ゴースト、ナノカ、ハ、ワカッテ、ナイ」
ブラッディ・ファントムはゴースト系の上位種の中でも自然発生がかなりレアすぎて数の少ないゴーストらしい。
所謂ゴースト界のはぐれメタル。希少種なのだ。
他の種族の社会に溶け込む習性故に謎の多いケット・アドマーとはまた違い、その数の少なさ故に情報も少ない。
おまけに普通のゴースト達と区別がつきにくい為、普通のゴーストが悪さしているのを人間が見てそのゴーストをブラッディ・ファントムと勘違いする事も少なくない。
実際サユリさんは私に災いをもたらすどころか、危ない目に遭った私を助けてくれているのだ。
オロフソン公爵家も、結果的には滅んでしまったけれどそれまでに大きな災いがあった訳でもない。
ブラッディ・ファントムに関する言い伝えはあまり信憑性があるようには思えない。
私はふと、サユリさんがこの後どうするつもりなのか気になった。
「サユリさんは、これからどうするつもりとか何か予定はあるんですか?」
『いいえ』
「え、ないんですか?」
『ま た ど こ か へ む か う つ も り で も ど こ か い き た い と か は な い』
特に行きたい場所も、会いたい者もおらず、また彷徨うつもりとはある意味自由ではあるが、寂しい事でもある。
私はサユリさんが良い幽霊だと分かっているけど、他の人達はそうではない。
きっとサユリさんが人の前に現れれば、大騒ぎして討伐に入る可能性も有り得る。
屋敷内で折角助けてもらった人……幽霊が勘違いで討伐されるっていうのはあまり好ましくない。
だけど、私にサユリさんの意志を止める権利はないし、無理に自分の意志を押し付けてしまうのも良くない。
それはブラッディ・ファントムという魔物の変な言い伝えを信じる人達と同じようなものだ。
だったらせめて、お菓子とかでもプレゼントして温かく見送るべきだろうか?
そんな事を思っていたのだけど、私の横に立ってサユリさんがいるらしい方向を見ていたタンザが突然衝撃的な提案をしてきた。
「アイネス**、コノ、ジョセイ、ヲ、ダンジョン、ノ、ナカマ、ニ、スル、ノハ、ドウダ?」
「え?」
「「「「*!?」」」」
「いや声のボリューム」
提案された私よりも大きな声をだしたウーノ達に驚きながら、私はタンザの方を見る。
タンザはどうやら本気らしく、私にサユリさんを仲間に入れる為のプレゼンテーションを始めた。
「ブラッディ・ファントム、ナラ、チカラ、モウシブン、ナイ。ソレニ、イツデモ、アイネス**、ノ、モト、ニ、イク、コト、ガ、デキル、ノハ、イイ。ドウセイ、ダカラ、ゴエイ、ヤク、トシテ、イイ、マモノ、ダ」
「なるほど。確かに屋敷で実際に色々誘導して危険を回避してもらった身としては一理ありますね」
「ソノウエ、ゴースト、ケイ、ハ、スガタ、ケセル。ダカラ、ヒト、ノ、メ、アツマラナイ」
タンザの言う通り、ブラッディ・ファントムのサユリさんは私の護衛を担当するのに結構な適した特徴を持っている。
そして私には姿の見えないサユリさんなら、他の魔物が護衛をするよりも私の緊張感は少ない。
コミュ障の私の護衛には、かなり適した魔物なのだ。
タンザのプレゼンテーションに少しその提案に惹かれつつある私に対し、タンザは衝撃的な発言を発したのだ。
「ソレニ、アイネス**、トハ、スデ、ニ、ケイヤク、ムスンデイル、ヨウ、ダシ、ナ」
「え!?」
「キ、ガ、ツカナカッタ、ノカ?」
タンザの言葉に先程以上に驚愕した私は、慌てて【ダンジョンマスター】の権限を使って、<契約>を結んだ魔物の情報の中にサユリさんの項目があるのか確認してみる。
すると、いともあっさりとサユリさんの項目は見つかった。
【名前】サユリ
【種族】ブラッディ・ファントム
【称号】災禍の亡霊
レベル:75
確かに、<鑑定>などを使用していないにも関わらずサユリさんのステータスが確認出来ている。
しかもマリアと変わらないぐらいのレベルだ。
一体何処だろうか?
何処でサユリさんと<契約>を結んだ?
ゴースト系であるサユリさんに握手とかは出来ないし、<契約>を結ぶ為に名付けした覚えも……
と、此処まで頭を働かせていた時、私はサユリさんと初めて会話した時の事を思い出した。
――――「取り敢えず、名前がないと呼ぶ時に面倒なので此方で呼び名を決めさせてもらっても良いですか?」
――――『はい』
――――「そうですね……じゃあ、『サユリ』さんはどうですか?私の住んでた故郷風の名前なんですが」
――――『はい』
あの時か!!!!
そういえば名付けしてたね! それも結構簡単に!!
私はその記憶を思い出すと、タンザにその事を伝える。
「そ、そういえば、確かに名付けした記憶がありますね……」
「ソノ、トキ、ニ、ケイヤク、ヲ、ムスンダ、ノ、ダロウ」
「いやでも、あれはあくまでその場で呼ぶ名前に困ったからあだ名を付けただけであって、別に<契約>を結んだつもりで言った訳では……」
「コノ、ジョセイ、ハ、アイネス**、ノ、ナヅケ、ニ、オウジタ、カ?」
「え、まあ、この名前で呼んでも良いですか? って確認をする為に……」
「ソレ、ハ、ケイヤク、シテモ、ヨイカ、トモ、トレル、ナ」
「わお」
言われてみれば、確かにその通りだ。
私とサユリさんのやり取りはそういう風にも取れてしまう。
ダンジョンマスターである私が名前のないブラッディ・ファントムだったサユリさんに名前を付けると伝え、サユリさんがそれにオーケーした。
その上で私が名前を付けてサユリさんが応じた為、<契約>が結ばれた。
<契約>までの流れがあまりにもスムーズ過ぎて気がつけなかった。
しかし、もしそうならサユリさんも自分が私と<契約>を結んだ事に気がついていたはず。
サユリさんは私というダンジョンマスターの傘下に入る訳だから、流石に気づくはずなのだ。
しかしそれに対して追求や撤回もせず、私が屋敷から立ち去った後も敢えて再び私の目の前に現れた。
お礼の言葉が言いたいのであれば、私が屋敷を出る直前に伝えれば良いのにも関わらず、だ。
お礼を言い終わったらそのまま帰るなり勝手に去るなりすればいいのにサユリさんはまだ私の前にいるらしく、銅貨が動いている。
まるで、何かの言葉を待っているようだ。
そこから思い浮かぶ推測は……そういう、事なのだろうか?
私は恐る恐る、サユリさんのいる方向に向かって手を差し出す。
そして、質問をするようにサユリさんに挨拶をした。
「えっと……よろしくおねがいします、サユリさん?」
『こ れ か ら よ ろ し く』
深夜2時半頃。私のダンジョンに幽霊が仲間に入りました。
おまけ。
翌朝の出来事。
「ふわぁ……おはようございます、皆さん」
「アイネス、オハ、*******!?!」
「え? 何事です?」
「アイネス**、ソノマモノ、ハ、ダレデス?」
「その魔物? もしかしてサユリさんのことですか? いや、サユリさんはタンザさんが連絡したはずでは……」
「スマナイ、サユリ**、ノ、コト、ツタエル、ノヲ、ワスレテ、イタ」
「タンザさん……」
どうやら一騒動、起きたようです。




