そんな名前を全員覚えられる人っている?
「じゃあフクさん、ゴブ郎くんのことをよろしくおねがいします」
「ハイ、マカセテ」
「ゴブ郎くんも、フクさんの指示に従ってくださいね」
「ぎゃう♪」
「それとファインさん」
「……」
「何か危ない事があったら此方の閃光グレネードで……」
「チョット、マテ、マテ。ナニ、ブッソウ、モノ、トリダシ、テル!? *****、****(黙って)***(それを)****(受け取)****!」
話し合いが終わってすぐ、ゴブ郎は何処かに住むゴブ郎の昔の知人……いや知魔物? のスカウトの為にダンジョンの外へと出発した。
別に時間があるんだから明日や明後日でも良いんじゃないか? と思ったけれど、ベリアル・フォレス・タンザの頭が良い三人衆から「何処にその魔物がいるか分からない以上、早めに出た方が良い」と進言されたので、泣く泣く今日送る事になった。
同行するのはコボルトの長老であるフクさんとレジェンドウルブスの二人、ファインとテナーだ。
足が早くて仕事に余裕があるレジェンドウルブスの二人と、年の功で交渉力に長けているフクさんを合わせ、スカウト隊は4人だ。
4人には十分な食料と相手側に渡す手土産とスマホ、手回し発電機と充電器、その他色々必要になる物を渡してある。
万が一の時は帰ってくるように言ってあるので、ひとまずは大丈夫だろう。
それでも不安が拭えないのはゴブ郎が心配だからだろう。
ゴブ郎は私とは違って身を隠す手段がないし、ベリアル達と違って強力な力を持っている訳でもない。
気分は5歳の子供のはじめてのおつかいを見守る両親の気持ちだ。
ベリアル達が何故私に対して過保護になるか少し分かった気がする。
さて、ゴブ郎達が出発した後、私はある準備をしていた。
このダンジョン内における、私の部屋作りである。
手の空いている魔物達の手を借りて、私の部屋作りは進んだ。
私の部屋を何処に置くかでベリアル達が揉めていたけれど、部屋作りはあっという間に終わった。
私の部屋は他の魔物達の部屋よりも2倍ぐらい広い部屋になっている。
私一人が一週間住む部屋だから皆と同じでいいとは言ってみたのだけど、タンザに却下された。
ダンジョンマスターである私は、格付けの為にも皆より良い部屋じゃないと主人としての示しがつかないらしい。
元の世界では平民の一般人である私には分からない事だけど、他の皆もそちらの方が良いと言うのでそうする事にする。
キングサイズのベッドにテレビに椅子、ウォークインクローゼットに机。
他にも色々高級そうな調度品とか置こうとしてたけど、私が止めた。
<ネットショッピング>で注文すればただの商品とはいえ、明らかに高そうな高級家具などは部屋に置きたくない。
それでも高めのアパートのワンルームぐらいにはなってしまった。
私の希望を完全に満たし、高級感を出しつつも派手すぎない内装、かつ住心地は抜群に良さそうなインテリア……。
これは、罰の1週間が経った後も私がこの部屋で寝泊まりするようにするつもりだ。
私はそう直感した。
独占欲の強い大人の狡猾さを見てしまった気がする。
「しかし、新しく魔物を呼ぶ計画か……。名前の候補、考えないとなぁ」
夕食を食べ終え、入浴を終えた私は罰用に用意された寝室でタブレットを操作してネットサーフィンしながら、二冊の図鑑を読む。
図鑑のタイトルは『世界の石図鑑』と『世界の植物図鑑』。
この世界に来てから熟読するようになった本だ。
タケル青年のダンジョンから引き抜いた魔物達の名前の大半は動物の種類に来る名前や植物や石などの名前を元につけられている。
ベリアル達の時はその場で考えた名前を付けていたけれど、流石に大人数の名前を一気に付けるとなるとネタ切れになる可能性がある。
日本にもあるようなキラキラネームなんか付けた時には殺されかねない。
センスの悪い名前を付けない為にも、名前を付けるのに適した物を事前に探しておくべきだ。
私も自分が魔物たちの立場なら、良い名前を付けてもらった方が嬉しい。
にしても、これ以上魔物が増えるとなると新しい魔物の名前も覚えなきゃいけないのか。
歴史の偉人の名前もまともに思い出せない私が果たして全員の魔物の名前を覚えきれるのだろうか?
そもそも、全員区別出来るのか?
名前を言い間違ってしまったりとかしないだろうか?
そんな事を考えながら図鑑のページを捲ると、<オペレーター>が私の疑問に答えてくれた。
『回答。ダンジョンマスターは<契約>を結んだ魔物を視認ではなく、繋がりによって無意識下で区別する事が可能です。よって名前を呼び間違える、魔物違いをするなどといったミスを行う事はありません』
「あ、そうなんですね。便利だな、ダンジョンマスター。」
呼び間違いや人違いの心配をしなくても良いのはダンジョンマスターとしてかなり便利だ。
呼び間違いをしてしまった時の気まずさといったら本当にキツいのだ。
これで心置きなく名前候補を考える事が出来る。
私が名前候補選びを再開すると、何を思ったのか<オペレーター>が再び声を掛けてきた。
『告』
「ん? 何でしょうか?」
『貴方様は既に<契約>を結んだ魔物が50体を越えています。故に、名付けによる<契約>方法ではなく握手を用いた<契約>方法でも可能になっています』
「ああ、なんかそういう話をタケルさんから聞きましたね」
『告。無理に名付けを行う必要はないと意見します』
「あー……」
<オペレーター>の言う通り、今の私であれば握手などで<契約>を結ぶ事が出来る。
このショートカット<契約>は他のダンジョンでも行われているはずだ。
私がその気になれば、こうして図鑑を広げたりネットサーフィンしたりして名前を考えなくても良い。
むしろ、効率を見るならそちらの方が良いだろう。
そこまで思考を巡らせた後、私は<オペレーター>に対し首を振ってその言葉に応える。
「いえ、私の所は名付けでの<契約>で進めようと思います」
『疑問。理由は何でしょうか?』
「誰か呼ぶ時に名前がないと不便です。あと名無しがいるとその魔物だけ差別しているように感じてなんか嫌です。理由としてはこれくらいで十分でしょう」
『了。納得しました』
「え、それで納得するんですか? 自分で言っておいてなんですけど」
『回答。理由がなんであれ、それが貴方様の決定ならばそれで終わりです。反論する必要性も権限も当スキルには存在しません』
「クールですね……」
こうして会話こそしているものの、<オペレーター>はAIと同じような類なのだ。
AIに感情あふれる行動を期待しても非合理的というものなんだろう。
<オペレーター>さんに反論されたら私には勝ち目がないので別にそれで良いのだけれど。
「それに」
私は付け足すように<オペレーター>の質問に対する回答を告げる。
傍から見ればそれは、独り言を話す頭のおかしな女子高生だけど、<オペレーター>はそんなツッコミは入れずに静かに私の言葉を聞いてくれる。
「誰かに呼ばれる時に「おい」とか「コイツ」だけなのは、寂しいでしょう?」
『疑問。そういうものですか』
「そういうものですよ。<オペレーター>さんも、呼ばれる時は自分の名前を呼ばれた方が嬉しいはずでしょう?」
『回答。<オペレーター>に感情はありません』
「ドライな即答、ありがとうございます」
やはり<オペレーター>にはそういった事は良く分からないらしい。
分からないというか、共感出来ないという感じかな?
<オペレーター>は会話も出来るし、なぞなぞで引っかかるし、たまに感情の垣間見える事も言うから勘違いしてしまいそうだ。
「あ、そうだ。<オペレーター>さんも名前候補考えるの手伝ってくれません? 何か他のダンジョンで付けられてるポピュラーな名前とかあります?」
『回答。他ダンジョンで付けられた名前の中でもっとも数が多い物を検索……。一番多い名前は「ああああ」でした』
「それゲームで良くある名前が思いつかなくって適当に付けた名前第一位じゃないですか。こっちの世界でもそんな名前付ける方いるんですか?」
『告。次に多い名前として「1」「2」など、此方の文字や数字の一文字を使った名前が多いようです』
「それ使い捨て型の魔物に名前付けるのが面倒になったから番号付けで名付けしてるやつじゃないですか。もっと凝った名前を考えてあげてくださいよ……」
『回答。意味のない言葉の羅列や文字ではない名前の場合ですと、『漆黒の魔剣士』『紺碧の聖女』『✛紅蓮の皇帝✛』などが挙げられます』
「あれ、最後私の父が異世界転生果たしてません?」
どうやら皆、魔物の名前付けは本当に適当にしているらしい。
一部凝りすぎた名前などもあるけど。
ディオーソスさんの所はちゃんとした名前を付けられていたけど、あれがそもそもレアなんだろう。
そういう名前を聞いていると、やはりちゃんと名前を付けなければいけないと思ってしまう。
特に最後の名前なんて、呼んでる私も恥ずかしくなってしまいそうだ。
そんな事を思っていると、寝室の扉の鍵がガチャリと開く音が聞こえた。
驚いてそちらの方を見てみれば、そこにはウーノ、ツヴァイ、トリー、カランセの子供コボルト4人が立っていた。
「ウーノくん、ツヴァイくん、トリーちゃんに、カランセくん?」
「アイネス****(姉ちゃん)、オトマリ、キタ!」
「イッショ、ネルー!」
「コンバンハ、アイネス***(姉さん)」
「オジャマ、シマス」
驚愕を見せる私を余所に、ウーノはさっさと寝室の中へと入り、そのまま私に突撃してくる。
咄嗟にそれを受け止めたものの、ウーノの勢いが凄すぎて腹にウーノの頭が激突して「みぎゃっ」と変な声が出てしまう。
それでもなんとか持ち堪え、私はウーノ達に尋ねる。
「よ、4人共何故此処に? というか扉の鍵は?」
「アイカギ、ベリアル**、カラ、カリタ」
「なんで合鍵なんて物が存在してるんですかね?」
「ベリアル****(兄ちゃん)、イッテタ! キョウ、アイネス****(姉ちゃん)、ココ、トマル、ッテ!」
「ミンナ、デ、オトマリ、シテ、イク、ナサイ、イワレタ!」
「アイネス***(姉さん)、ニ、ボク、タチ、ガ、ドレダケ、シンパイ、シタカ、ワカル、セル、タメ、ダッテ、サ」
「やたら大きなベッドを設置したのはこの為か……!!」
私がもっと小さいサイズのベッドで良いだろうと言ったのに大きなベッドを勧めてたのは、てっきり格付け云々の理由なのかと思ったけど、まさかウーノ達を突撃させてお泊りさせるためだったとは……。
しかも私が完全に拒絶しないように子供のコボルトであるウーノ達を選んでくる所が本当にずるい。
なんとなく違和感はあったのだ。
マサムネがあれほど怒っていたのに、ベリアル達が私への罰にただ一週間、ダンジョンで寝泊まりするだけで許すのかって。
まさかこんな伏兵を呼んでいたとは思わなかった。
というかトリー以外は全員子供とはいえ男子じゃないか。
私と一緒の部屋に寝かせちゃ駄目でしょう。
子供コボルトであるからか、見知らぬ人と対面した時よりか緊張感はない。
更にウーノ達は既にお泊り会する気満々らしく、遊戯室から持ってきたらしいトランプやウノなどを持ってきている。
今私が拒絶したら、ウーノ達は喜色満面の顔から一気に悲しみの顔に染まる事になるだろう。
自分の寝室に誰かが勝手に入られるのは苦手なのだけど、どうするべきか……。
そんな時、ツヴァイが小さくため息をつきながら私に告げた。
「アイネス***(姉さん)、アキラメル、ホウ、ガ、ハヤイ、ト、オモウ。ウーノ、タチ、モウ、トマル、ツモリ、ダシ」
「ですよね~……。」
私がウーノ達を受け入れてコミュ障拗らせるより、ウーノ達を断って悲しませる方が精神的にキツい。
別にベリアルやフォレスが泊まりに来る訳ではないし、それくらいなら別に良いだろう。
……若干カランセが微妙な位置にいるけれど。
「アイネス****(姉ちゃん)、ナニ、シテ、アソブ!?」
「それじゃあ、皆で7並べでもしましょうか」
「ヤッター!!」
「ツギ、ウノ、イイ!?」
「はいはい、じゃあそうしましょうか」
図鑑の表紙を閉じて、私はウーノ達と共にベッドの方へ向かう。
トリーとカランセは既にベッドに待機してトランプを広げている。
ツヴァイは他の3人と違ってクールな表情を保っているけれど、尻尾を振っているのがよく見える。
澄ました顔をしつつも、やはり嬉しいんだろう。
ババ抜きは無愛想な私に有利過ぎるけど、7並べなら無愛想さは関係ないだろう。
うまい具合に手加減しないとなぁ。




