末路 その2
収まりきらなかった分の後編です!
前話よりグロ怖表現は少ないとは思いますが、一応注意です
「くそっ、くそっ、くそっ!!」
外套を身に纏った太ましい男が、ドタドタと足を鳴らしながら走る。
その男にとって幸運なことに、騎士達の殆どがオロフソン公爵家前に転がっている死体の調査や娼館にいる荒くれ者達の移送に人員を割いているからか、街中を歩く騎士の姿は少ない。
太ましい男……デーヴェ大臣は騎士の目から逃れるように身体を隠しながら、国の外へと目指す。
「あの小娘が手に入れば、こんな事にはならなかったはずなのに……!」
デーヴェ大臣は少し前まで、デーヴェ夫人と同じように地下牢に捕らえられていた。
罪状はケネーシア王国の賓客だった『物語』のダンジョンの主、アイネスを拉致、監禁しようとした罪。
デーヴェ大臣は諦めていなかった。
アイネスの所有する財産を独占し、アイネスの配下を自分の配下にしてケネーシア王国に革命を起こし、アルフォンス国王に変わり自分が国王になることを。
そのためにはどうにか地下牢を脱獄する必要がある。
地下牢に捕らえられてもなお、デーヴェ大臣は此処から出られる手段がないか、頭を働かせていた。
そんな時、突然自分の妻のいる牢屋の方から悲鳴が響いたのだ。
その声を聞いて異常を悟った見張りの騎士達はそちらの方へと向かっていった。
たまたま警備が希薄になったその時、自分が贔屓していた従僕がやって来たのだ。
「デーヴェ大臣、助けに参りました!」
「おお、よくやった! 早く錠を開けろ!」
「夫人と、組織の者はどうしますか?」
「その二人の事は良い! 今はワタクシだけを助けるんだ!」
従僕に命令し、自分の牢と枷の鍵を開けさせる。
そして従僕が用意した外套を身に纏い、城を出た。
幸運にも城の侍従や騎士達と遭遇する事なく、デーヴェ大臣はそこから出る事が出来た。
デーヴェ大臣に幸運が舞い降りて来たのか、城を出た後も騎士や街の人間と鉢合わせになる事はなかった。
しかし、此処で問題が起きた。
街を出る為の門の前には門番が立っていたのだ。
「城下町から出るには、門を通らなければならぬ。しかし、下手に姿を現せばまた捕まりかねん。どうするべきか……」
「どうしたんだ? 何かお困り事か?」
「! だ、誰だ!」
背後から気配なく声を掛けられ、デーヴェ大臣は思わず身構えながら後ろを振り返った。
そこに立っていたのは、自分と同じように外套を纏い背中に大斧を構えた、プラチナ色の髪を持つ若い獣人の男だ。
いつの間にか背後に立っていた獣人の男に驚くデーヴェ大臣に対し、獣人の男は首を傾げながら笑みを浮かべる。
「困っているならオレが相談に乗るぞ。丁度この国を出る前にお金とか欲しかったんだ」
「ふん! 獣人風情に渡す金などないわ! あっちへゆけ! しっしっ!」
「困ったなぁ、翌朝までに別の国に移動しようと考えてたから、どうにか馬車に乗る金でも稼げないか思ってたんだ」
「金が欲しいなら冒険者ギルドなりなんなりに行って依頼でも……待てよ?」
最初こそその怪しい獣人の男の申し出を断り追い払おうとしたデーヴェ大臣だったが、ふとある事を思いついた。
どうやらこの獣人の男は自分の事を知らないらしい。
しかも翌朝までに別の国へ向かうつもりだという。
依頼という名目でこの獣人の男に城下町を出る手伝いをさせ、王宮騎士たちの手に届かない街にまで来た所でさっさと姿をくらませてしまえば金を支払う事なくこの街から出る事が出来る。
デーヴェ大臣は獣人の男の方を向くと、腹をでっぷりと張って告げた。
「良いだろう。貴様を金貨1枚で雇ってやる。」
「そうかそうか! それはよかった! 腹は膨れてるんだが、流石に寝る場所がないのはキツくてなぁ。金があれば良い寝床を探せるよ」
「ただし、後払いだ! 依頼が達成されるまでは絶対に金は渡さんぞ!」
「ああ、それでも構わない。それで、依頼ってなんだ?」
獣人の男はデーヴェ大臣の条件に嫌な顔を見せずに了解する。
確かに了承したのを聞いた後、デーヴェ大臣は門の前に立つ騎士を指差した。
「ワタクシが城下町を出る手伝いをするのだ!」
「ん? 普通に出れば良いんじゃないのか?」
「貴様は馬鹿か! 門番の騎士に見つかってしまうだろう! ワタクシが城下町を出たことを悟られないように街を出る手伝いをして、ワタクシが言う街まで送るのが貴様の仕事だ!」
「悟られないように?」
「騒ぎを起こして門番の騎士たちを陽動するでも、門番の騎士たちを気絶させるのでもなんでも良い。兎に角ワタクシを無事に、誰にも悟られる事なく、この街から出させるのだ!」
「ああ、なるほど。そういう事かぁ」
デーヴェ大臣の言葉に首を傾げていた獣人の男だったが、デーヴェ大臣の追加の説明を受けて漸くその意味を理解する。
のほほんと笑顔を浮かべる獣人の男に対し、デーヴェ大臣は(本当にこの男に依頼を出してもいいものか)と内心不安になる。
獣人の男は建物の影に隠れて門と騎士達の方を見つめた後、デーヴェ大臣に笑顔で言った。
「それなら簡単だ。陽動する必要も門番達を気絶させる必要もない」
「何だと?」
「ちょっとオレの前に立ってくれ」
「む、こうか?」
「ああ、それでいい」
デーヴェ大臣は訝しげに獣人の男を見ながら、彼の言う通りにする。
獣人の男はデーヴェ大臣の肩に手を乗せると、朗らかな笑顔をデーヴェ大臣に向けて、門の方を見る。
「少し圧が掛かるぞ。舌を噛まないようにな」
「な」
デーヴェ大臣が獣人の男の言葉の意味を尋ねようとしたその瞬間、デーヴェ大臣に物凄い風圧が掛かる。
獣人の男は目にも留まらぬ速さでデーヴェ大臣を押しながら、門に向けて駆けたのだ。
門番の騎士達の間を素通りし、獣人の男はデーヴェ大臣ごと既に閉された門に向かって走る。
「うわっ、なんだ?!」
「突風か?」
騎士たちは二人の姿が捉えられなかったのか、ただの突風だと考えそんな言葉を漏らした。
そのまま門扉に衝突すると思われたが、二人は門扉に衝突する事なく、門扉をすり抜けるようにそのまま城下町外まで抜けたのだ。
獣人の男はそのまま目の前に見える森の入り口まで駆けると、漸く足を止めた。
顔の脂肪が後ろへいくほどの風圧が収まり、デーヴェ大臣はその場で膝をついた。
その横で、獣人の男は腕のストレッチをする。
「ほら、無事に街の外に出られたぞ」
「突然なんて真似をするのだ、この馬鹿者が!」
呑気にそんな事を告げた獣人の男に、デーヴェ大臣は心臓をバクバクと鳴らしながら叱咤する。
そんなデーヴェ大臣の様子に、獣人の男は目を丸くする。
「あれ、駄目だったか?」
「駄目に決まってるわい! 危うく扉に衝突するかと思ったわ! こういう事をするなら先に言え!」
「アハハッ、ごめんなぁ。でも無事にあの街から出る事は出来ただろ? あれが一番良いと思ったんだ」
「全く、これだから獣人は野蛮なのだ……」
ヘラヘラと笑って悪びれる様子のない獣人の男にデーヴェ大臣はブツブツと不満を垂れ流す。
暫くして落ち着きを取り戻したデーヴェ大臣は、獣人の男を見る。
獣人の男はデーヴェ大臣に視線を送られ、首を傾げる。
デーヴェ大臣は考える。
(此奴、どういう効果かは分からんが強力なスキルを持っているようだな。それに見た所、腕っぷしもかなり強そうだ。此奴に依頼を出せば、あの小娘を手に入れる事も出来るんじゃないか……? そうすればまたワタクシは成り上がる事が出来るはず……!)
「どうしたんだ? もしかして死んだか?」
「死んでないわ! 縁起でもない事を言うな!」
「あ、生きてたか」
サラッと生死を確認する獣人の男に調子を狂わせられ不快に思いつつも、デーヴェ大臣は策を練り始める。
王宮の中の警備はかなり厳重だ。
しかし、今はナタリアの牢屋の異変で騒ぎ立っている上、門扉をすり抜けられたスキルを持つこの獣人の男なら、王宮の警備も突破出来るはず。
そう考えたデーヴェ大臣はゆっくりと立ち上がり、獣人の男にある提案を出す。
「それより、貴様にもう一つ依頼を出したい。金は上乗せして渡そう」
「また依頼か? 別にいいぞ。金はあればあるほど良いらしいからなぁ」
デーヴェ大臣の提案に、獣人の男は首を傾げながらも了承する。
獣人の男が了承したのをみて、デーヴェ大臣は下卑た笑みを浮かべた。
どうやら目の前の獣人の男はそこまで頭が良い方ではないらしい。
実に運が良い、とデーヴェ大臣は思った。
たまたま声を掛けられたのが強力なスキルを持つ頭の弱い獣人の男で、それによって運良く無事に城下町を出る事が出来たとは、これは神の思し召しかもしれない。
(このチャンスを逃すわけには行かぬ)と考えたデーヴェ大臣は獣人の男に依頼内容を伝える。
「貴様に、ある小娘を攫って来て欲しいのだ」
「攫う? それは随分と物騒だなぁ」
「その小娘は今王宮にいる。小娘の側には強い魔物が付いているだろうが、其奴らは容赦なく討伐してもいいぞ!」
「側に強い魔物がいる? その子はテイマーか何かなのか?」
「その小娘の名はアイネスと言って、黒い髪の幼い娘だ! 最近噂のダンジョンの主をやっている人物で、大量の財産を持っている!」
「『アイネス』?」
アイネスの名前を聞いて、目を丸くする獣人の男。
デーヴェ大臣はまたチャンスが舞い降りたと興奮するあまり、驚きを見せる獣人の男に気がついていない。
獣人の男は目をパチパチと瞬きしながら、デーヴェ大臣に問いかける。
「その攫いたい相手って『アイネス』っていうのか?」
「ああ、その通りだ! 今夜その小娘を捕まえようとしたのだが、あの使えぬ組織の者達が失敗したせいで捕まえられなかったのだ! 折角、大金を払って依頼を出してやったというのに!」
「アイネスを今夜捕らえようとして、失敗……。組織の人間に誘拐するように依頼を出した……」
「だから貴様に、あのアイネスを攫う手伝いをさせてやろう! 成功した暁にはそれ相応の報酬を出してやるぞ!」
「強い魔物が側にいて、王宮にいて、名前がアイネス……」
「おい、聞いているのか?」
デーヴェ大臣の問いを無視して、先程デーヴェ大臣が言った言葉を復唱するように、獣人の男は呟き始めた。
そして暫く考え込んだ後、突然その場で笑い始める。
突然笑い声を上げ始めた獣人の男に、デーヴェ大臣は呆然とする。
「あはっ、あはははっ!」
「な、なんだ?」
「そうかそうかぁ、お嬢さんの話に出てきたのってお前だったのかぁ。あはははっ!」
「な、何が可笑しい!」
ケラケラと笑い始める獣人の男に、デーヴェ大臣は顔を赤くして怒鳴る。
獣人の男は一頻り笑うと、深く息を吐いた。
そして次の瞬間、デーヴェ大臣は風を切るような音を聞いた。
風を切る音と共に、デーヴェ大臣の視線が僅かに下に落ち、そのままバランスを崩した。
「は?」
突然何もない場所で倒れた事に驚き、デーヴェ大臣は自分の足元を見た。
そこで見えたのは、足首から下の部分を無くした自分の足。
そして血を吹き出しながら元あった場所に存在している自分の足首から下の部分だった。
獣人の男は目にも留まらぬ速さで背中の斧を振り、デーヴェ大臣の両足を切ったのだ。
その事に気がついたデーヴェ大臣は、両足をうしなったショックとその痛みに悲鳴を上げた。
「わ、ワタクシの足がああああああああ!」
「ハハッ、これでもう逃げられないな」
「き、貴様ァ!! 獣人如きがなんて真似をぉぉ!!」
ギラギラと瞳を輝かせながら、デーヴェ大臣を見下ろす獣人の男にデーヴェ大臣は怒号を浴びせる。
そんなデーヴェ大臣の様子など気にも留めず、獣人の男はデーヴェ大臣に告げた。
「オレな、お嬢さんには恩があるんだ」
「お、恩?」
「命に替えられない大事な仲間達と弟を、引き取ってもらってさ。前と比べ物にならないくらい良い暮らしを用意してくれてるみたいなんだ。」
「そ、それくらい、ワタクシでも出来る! 良い暮らしが望みなら、ワタクシが用意しよう!!」
「いや、それじゃあ駄目なんだ。ただ良い暮らしってだけじゃあ駄目だったんだよ。そしてそれは、オレでも、出来なかった事なんだ」
「き、貴様、なんの話をしているのだ!」
「あそこから出れば、皆も生きる気力を取り戻して一緒に仲良く暮らす事が出来るとおもったんだけどなぁ……。オレ自身が、もう駄目だったみたいなんだ」
「おい、聞いているのか!?」
先程までの朗らかそうな雰囲気が一変し、獣人の男は静かに片手で自分の手を覆う。
そして何か思い詰めたような表情を浮かべ、見えない何かに向かって話す。
「どうにか、オレらしくいられるようにはしているんだ。でもさ、それって結構難しいんだな。オレっていうオレはもう何百回も何千回も死んでるし、けど生きている訳だからオレがオレであることには変わりないんだ。既にオレがいないように、オレっていう存在も残っているんだ。死んで生きて生きて死んで生きて生きてまた死んで……そうしている内に変わっちゃったんだよな」
「お、おい!」
「食べても食べても腹は満たされないし、飲んでも飲んでも喉は乾く。何をしても普通になれないんだ。何か足りないんだ。あ、でもあのお嬢さんの用意したパンは久々に腹が満たされた感じがするなぁ。腹がはち切れそうになるぐらい食べさせられたしかなり恐ろしかったけど、それでも満たされた。おまけに素敵な絵と『せんこー』をくれたし、あのお嬢さんって本当に良い子だよなぁ。お嬢さんの元に弟を行かせて本当に良かったと思うよ」
「ひ、人の話を聞け!」
「だから、やっぱり何か返さないといけないと思うんだ」
「ひいっ!!」
顔を俯けてブツブツと呟き続けていた獣人の男が突然、デーヴェ大臣の方を向く。
突然此方の方を見て、獲物でも見るような瞳と目があったデーヴェ大臣は短い悲鳴を上げた。
獣人の男はニコニコと笑ったまま、独り言を呟き始める。
「首は、確認用に残した方が良いよな? ぐちゃぐちゃになったら誰が誰だか分からなくなるし、首がなかったら見ることも出来ないからなぁ。うん、首は残しておいて、後で近くに置いていこう」
「ま、待て! な、何をするつもりだ?」
「首から下はどうしようかなぁ。重たそうだから持ち運べないし、食べやすいようにして放置すれば誰か食べてくれるだろうか? 見るからに脂肪が乗ってて美味しそうだもんなぁ」
「お、おい、まさか……、嘘だろう?」
「運が良かったなぁ、こんな早くお嬢さんに恩が返せるなんて思ってもみなかった。本当に“都合が良い”。まるで誰かに誘導されてるみたいだ。気持ち悪くて苛立って本当最高だなぁ」
「や、止めろ! 金なら後で幾らでも出す! だから殺さないでくれぇ!!」
デーヴェ大臣はこの後目の前の獣人の男が自分にどうするつもりなのかを悟った。
デーヴェ大臣は慌てて命乞いをするが、獣人の男にその声は届かない。
彼はただ、優しげに微笑むばかり。
「あ、そういえば一つ勘違いしているようだから教えるな」
「は……?」
「オレ、実は獣人じゃないんだ」
ふと思いついたようにそんな事を言った獣人の男は、外套を取って自分の服の左袖を捲くり上げる。
肘より上まで捲くりあげれば、そこに出てきたのは銀色に輝く美しい腕輪だった。
獣人の男が銀色の腕輪を外すと、彼の姿が変わっていく。
白金色の髪は白い体毛へと代わり、その身体を覆い尽くす。
人間の顔はウルフのような顔へと代わり、骨格が変わり体格も変わる。
そして姿が丸っきり変わってしまったその姿に、デーヴェ大臣は顔を青くさせて声を上げた。
「こ、コボルト……!?」
「凄いよなぁ、これ。ずっと前に友人が試作品だって言って内緒でくれたんだよ。これのお陰で人間達の街にも入る事が出来るんだ」
白い毛並みのコボルトは銀の腕輪を革袋の中に仕舞い、大斧を振り上げる。
そして、デーヴェ大臣に向けて朗らかな笑顔を向けた。
「じゃあな。話が出来て本当に良かったよ」
「ひ、ヒィィィィィィィィィィィ!!!」
白い毛並みのコボルトは恐怖の表情に染まるデーヴェ大臣に向けて大斧を振り下ろした。
城下町前の森の中、デーヴェ大臣の情けない悲鳴が轟いた。
しかしその声は“偶然”起きた強い突風によって遮られ、誰の耳にも留まる事はなかったのだった
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デーヴェ夫妻が地下牢に入れられた頃、獣も眠る時間帯で、とある一室の灯りがついていた。
一室には、4体のコボルトと一匹のゴブリンがヒソヒソと会話をしていた。
そんな部屋の中で、一匹のゴブリンがくしゃみをした。
「ぎぎゅっしゅ!」
「ゴブロー、くしゃみする時ぐらい口押さえろよ~」
「え、今のってくしゃみだったの?」
独特なくしゃみをしたゴブ郎に対し注意をするウーノに対し、下のベッドで寝転がっていたカランセはツッコミを入れた。
鼻水を啜る音を鳴らすゴブ郎にウーノがティッシュを渡すのを見ながら、トリーはスマホを操作するツヴァイに尋ねる。
「イグニお兄ちゃん達から連絡来た?」
「今メールが来たよ。どうやらアイネス姉さんを誘拐しようとした人間達は皆王国の人達に捕まったみたい。悪い人間たちの組織はこれからイグニ兄さん達が壊滅に行くんだってさ」
「そうなんだ! 良かった~」
「メールでアイネス姉ちゃんが拉致されたって連絡が来た時は驚いたよな」
「後に来たメールでアイネス姉さんがどんな目に遭ったか分かった時には、皆騒いだよね」
「ツヴァイなんて、本当にオロオロしてたぐらいだもんね!」
「ぎゃう~!」
「い、命の危機に遭ったなんて分かったら誰だって動揺するだろう? そういうトリー達だって心配で泣きそうになってたじゃないか」
「そ、そうだけどさぁ……」
ダンジョンの魔物達の殆どは、携帯を所有している。
万が一の時の連絡手段としてアイネスが全員に渡したのだ。
普段ダンジョンの外に出る事がないため、それは魔物全員に情報を共有するための手段や内緒話をするための方法として使用されていることが多い。
連絡手段である為、当然子供であるウーノ達にもキッズ携帯を渡されていた。
その中でもダンジョンの全体指示を担当しているマリア、ベリアル、フォレス、イグニレウス、そしてツヴァイは非常時の情報共有用連絡チャットがある。
その連絡チャットに、先程ケネーシア王国にいるイグニレウスから連絡が来たのだ。
偶々アイネスから貰った本を読み進める為に起きていたツヴァイはその連絡に気がついたのだが、その内容に驚いた。
そこにはアイネスが王国の大臣の出した犯罪組織の者に誘拐され、その後殺人鬼との遭遇や非認定ダンジョンに入ったなどと危ない目にあったと事後報告として書かれてあったのだ。
当然その内容にツヴァイは驚いたし、事後報告だったことには流石に腹が立った。
どうやらベリアルとフォレスもツヴァイと同じ時にそのメールを確認したのだろう。
部屋の外から二人が動揺で物を落とし、「アイネス様っ!?」と悲鳴を上げているのが聞こえ、ウーノ達やお泊りしていたゴブ郎も起きてしまったのだ。
何があったんだと追求するウーノ達に負け、ツヴァイは連絡チャットに届いた事を教えれば、彼らも軽くパニックを起こしたのだ。
「ちゃんと悪い人間たちが捕まるか連絡が来るまでは起きてる!」というウーノの言葉により、彼らはこんな遅い時間にでも起きる事となったのだ。
全体指揮用の連絡チャットにはオロフソン公爵家の事件の全貌なども詳しく記されていた。
自分達とは全く関係のない人間の事であるはずなのに、トリーは「家族を殺させるなんて酷い!」と怒っていた。
普段のほほんとしているゴブ郎もアイネスが危ない目に遭ったという事もあって、トリーと一緒に怒りの声を上げていたくらいだ。
「この後、その悪い大臣達はどうなるの?」
「国王様と他の偉い人達が罰を与えるはずだよ。国に招待していた賓客であるアイネス姉さんの誘拐未遂と、その配下であるマリア姉さん達の討伐依頼を出したこともあるし、最低でも財産を取り上げられて国外追放、酷くてそのまま処刑じゃないかな?」
「えー! もっと酷い目に遭ったりとかしないのー?」
「ぎゃうぎゃー!?」
「罪人が酷い目に遭うっていうなら拷問や処刑だろうけど、アイネス姉さん達が色々証拠を見つけてきたみたいだし、もう罪は確定してる訳だから拷問とかはないと思うよ。このまま処刑されるまでは地下牢にいるはずだよ」
アイネスを誘拐しようとした大臣に対する(魔物達基準で)甘すぎる刑罰に、ウーノ達は不満の声を上げる。
余程、アイネスに酷い事をしたその大臣の事が許せないのか、ゴブ郎も一緒になって不満の声を上げる。
そんな彼らにツヴァイはため息をつく。
ツヴァイ自身もこの大臣の罰が少々生温いと感じている。
しかし、人間社会では悪人といえど死ぬよりも耐え難い苦痛を味わって処刑されるとは限らないという事を大人びた考えを持つツヴァイは知っていた。
ウーノが枕から顔を上げ、声を上げる。
「そんなの、生ぬるいだろ! アイネス姉ちゃんとか許さねえんじゃねぇの?」
「それが、アイネス姉さんはあまり大臣達の方は怒っていないみたいだよ。というか、その大臣さんと内通していた人間の方に怒ってるみたい。その人間はもう徹底的にお仕置きされたってさ」
「ぎゃー! ぎゃうぎゃう~!」
「ゴブローも、アイネスが酷い目に遭ったのに悪い大臣が酷い目に遭ってないのはおかしいって思うよね!」
「なんでゴブローの言葉が分かるんだよ……。ほら、悪い人間達は全員捕まったって分かったんだし、さっさと寝よう。明日にはアイネス姉さん達も帰ってくるんだから」
「ちぇー……」
「人間って本当甘い気がする……」
「悪人が全員痛い目に遭うなんて、所詮本の中での話って事だよ」
ウーノ達に寝るように促し、ツヴァイも携帯を閉じてそのままベッドに横になる。
まだ不満を言いたそうにしていたものの、トリー達は渋々ベッドの中に潜り込んだ。
全員がベッドの中に入った後、ウーノとゴブ郎は悔しそうに声を上げた。
「あ~! その悪い大臣もちゃんと酷い目に遭ってくれねえかな~!」
「ぎゃうぎゃう―!!」
「そんな “都合が良い事”、起きる訳ないよ」




