陽キャって本当そういう所あるよね!!
脳の負担というのは結構な疲労だったらしく、私が起きたのは正午を過ぎるか過ぎないかの時間だった。
目が覚めてみるとすぐ側にはアヤカとマリアとライアンがいてびっくりしたし、私が目を覚ました瞬間に猛烈な抱擁をされて色々まくし立てられたのもびっくりした。
「あー、おはようございま――――」
「アイネス***、オハヨウ!!」
「オキテ、ナニヨリ!」
「アンタ、急に気絶するんじゃないわよ!! ビビったじゃない!」
「ぐへぇ」
挨拶をしようとした瞬間にこれだ。
3人とも同じ女性とはいえ、私よりステータスは上なのだからもっと手加減してほしい。
服を着替えて部屋の外に出てみれば、イグニ達にも色々まくし立てられた。
通訳なしでも、イグニ達が心配の言葉や起きて良かったと言っているのがよく分かった。
目が覚めた私が一番に頼まれた仕事はイグニ達の朝食作りだった。
王宮の厨房を借りて、<ネットショッピング>で購入した食材を使って沢山料理を作らされた。
しかも、何故かカナタ達まで一緒に私の作った朝食を食べている。
いや、そもそもなんでまだ王宮に残ってるんだ。
流石にスルーできなかったので尋ねる事にした。
「カナタさん達はアスペル王国の人達と一緒でいなくて良かったんですか? 此処で朝食食べてるほど暇ではないのでは?」
「だいじょーぶ、アスペルの方には今日の昼に馬車乗って帰るつっといたし☆」
「いや、なんでそもそも3人は王宮にお泊りしてるんです?」
「だってアンタのとこの魔物ら、昨日の夜「不満の発散にいく」つってウチらにこもり子ちゃん任せて城出てったんだし。」
「眠っている瞳子さんを僕達の宿まで連れてく訳にはいかないから、国王様達に頼んでそのまま王宮に泊まらせて貰ったんだ」
「あっ、ふーん」
その言葉で察してしまった。
イグニ達、早速不満発散に行ったのかぁ。
道理で朝からイグニ達の機嫌が良いわけだよ。
絶対跡形もなくなるくらい暴れてきたでしょ。
本気の本気で大暴れしたでしょう。
廊下の方出てみたら騎士や大臣や文官らしい人達がバタバタしている。
明らかに何かの処理に追われている。
一体、何をどうしてきたのやら……。
想像するだけでゾッとする。
そう考えると、カナタさん達は完全にとばっちりで此処に残る事となったというわけか。
それなら致し方ない。
此方の都合で帰国が遅れてしまって申し訳ないくらいである。
一晩護衛したことへの対価が朝食一つで文句を言われずに済むなら楽だ。
下手にリア充に恩を売ると、何があるか分からないしね。
“対価”という言葉で私は昨日の話し合いでカナタが頼んできた2つのお願いの事を思い出した。
そういえば2つ目のお願いは名前呼びだったけれど、1つ目のお願いに関してはまだ聞いていなかったのだ。
私はベーコンを食べているカナタにその事に関して話してみる。
「そういえばカナタさん」
「んー?」
「結局昨日話していた1つ目のお願い、まだ聞いてないんですけどあれはどうしたんです?」
「あ、いっけねー。忘れる所だったわ」
「忘れないでくださいよ。貴方が言い出した事なんですから」
昨日の内に尋ねてこなかったな、と思ってたら忘れていたのか。
自分から言った事なのに……。
思わず呆れた視線を送ってしまっていると、カナタはポケットからスマホを取り出し、私に手招きをしてきたのだ。
「こもりん、ちょっと此方寄って来て」
「寄る? こうですか?」
「もっともっと~」
「こうですか?」
「****、****(何する)***?」
カナタと私の行動に対し、昼食を食べていたマリア達も不思議そうに私とカナタを見る。
私がカナタと密着するぐらいに近づくと、カナタはスマホを構えたのだ。
「おけおけ! そのままの状態でスマホを見て~……はい、チーズ☆」
カシャシャシャシャシャシャシャシャ……
「いや、連写の数」
「おけおけ! 綺麗に撮れたっしょ!」
スマホを取り出して手招きした時点でツーショットを希望されていることは悟ったけれど、まさかの連写にはツッコミを入れざるをえなかった。
カナタの行動にパチパチと瞬きをして呆然としていたイグニ達。
周囲が静まり返っている中、カナタはピースをして軽快な声を上げる。
「いえーい、こもりんのツーショットゲット~!」
「私にお願いしたかった1つ目のお願いって、まさかこれですか?」
「そーそ! こもりんとのツーショット、前々から欲しかったんだ~! サンキュー、こっもりん!」
「別に良いですけど……、不意打ちで撮るの止めてくださいよ」
「だってこもりん、写真取られるの嫌いじゃん」
「嫌いなんじゃなくて、苦手です。次からは止めてくださいよ」
「ごめんちょ☆」
「反省が見られない謝罪」
スマホを片手で操作しながら舌を出して反省していないであろう謝罪の言葉を告げるカナタに私はため息をついた。
確かに面と向かって「ツーショット撮ろっ☆」なんて言われたら即答で断るけれど、こんな流れるような作業でツーショットするものじゃないだろう。
陽キャは本当すぐに写真を撮ろうとするよね。
そんな時、我に返ったソーマとアヤカが、ワナワナとした表情を浮かべて震え始めた。
そしてアヤカはガタッと音を立てて立ち上がると、キッと怒りの表情を此方に向けたのだ。
「な、何やってんのよーーーー!」
「「うわうるさっ」」
突然怒号を上げたアヤカに私とカナタは同じ事を言って声をハモらせる。
アヤカはギロッとカナタを睨みつけ、ソーマは静かに立ち上がり、二人でカナタの側までやって来て胸ぐらを掴んだ。
「ねぇ、何やってんの? 何一人だけツーショット撮ってんの? 普通こういうのってウチらにも声掛けるべきことじゃん。馬鹿なの? アホなの? チャラ男なの?」
「チャラ男では?」
「瞳子さんは少し黙ってて」
「はい」
口を挟んだらソーマにやんわり怒られた。
解せぬ。
「だってオレ、ツーショットが欲しかったわけだし? 集合写真にしたらこもりん絶対カメラ役回ろうとするし~」
「ならアンタがカメラ役なりなさいよ、アンタだったら上手いこと自分も写る事も出来るでしょうが」
「やーだ☆」
「ヤダじゃないだろう? こういうのは皆で仲良く写真を撮るべきものだよ。一人抜け駆けは流石に頂けないんじゃないかな?」
「そんな言うんだったらこもりんに言えば良いじゃん。「ツーショット撮らせて♡」って」
「あ、その時は普通に断りますよ」
「ほら見なさいよ! こもり子ちゃんはそういう女なのよ! 修学旅行でも写真撮られるのを逃れる為だけに撮影係掻っ攫ったぐらいなのよ!?」
「掻っ攫ったとは失礼な。普通にカメラ係を希望しただけです」
「いや、だからってクラス写真も避けようとするなんて普通はないよ? お陰で君の修学旅行の思い出写真だけ一枚もまともに写ってるのがなかっただろう?」
「写真を撮られるのは得意じゃないんですよ」
写真って撮られるとむず痒いのだ。
その写真を見る度に当時の恥ずかしい思い出や思い出したくない過去を思い出してしまう。
しかも、私の母は時折家族写真の入ったアルバムを自分の友人に見せてはその時私がどうだったかととにかく私の思い出を話しまくるのだ。
私がいてもそんな話をするから気まずいったらありゃしない。
そんな過去があったから、極力写真に映らないようにする癖がついてしまった。
家族からはかなり不満を抱かれているが、こればっかりは直すのが難しい。
それよりアヤカは胸ぐらを掴む手を離して上げたほうが良いと思う。
胸ぐら掴んだまま思いっきり揺らすからカナタがかなり苦しそうだ。
皆は私がカナタと写真を撮った事が驚きのようだけど、私的には二人がカナタに詰め寄った事の方が驚きだ。
やはり一軍に属するリア充は、写真を撮る時は皆一緒で! とかルールでもあるのだろうか?
「まあ、これでどっちのお願いも聞いたわけですし、頼んだ事、本当に頼みますよ?」
「もちもち! パーペキにちゃんとしておくっしょ!」
アヤカに胸ぐらを掴まれたまま、親指を立ててヘラヘラと此方に笑いかけるカナタ。
本当に大丈夫なのか心配だ。
「それじゃあ、瞳子さん、いつか君のダンジョンにも遊びに行くよ。イグニレウスさん達も、瞳子さん達の事をよろしくおねがいします」
「こもりん、バイビー☆次会った時は一発アソぼ~」
「次に会う時までに死んでたらタダじゃおかないんだからね!」
「ええ、また機会があったらお会いしましょう」
朝食を食べ終わると、カナタ達3人はすぐに王宮を出てアスペル王国の方へと帰っていった。
別れの挨拶らしい挨拶はしなかったけれど、3人ともスマホを持っているからまた何かあれば連絡出来るだろう。
むしろ、帰る途中にもスマホで連絡してくるかもしれない。
なにせ彼ら、陽キャで一軍でリア充だし。
そして、私達もダンジョンに戻る時間となった。
既に帰還用の馬車は用意されており、後はダンジョンに帰るだけ。
最後はエルミーヌさんとテオドールさんが見送りに来てくれている。
エルミーヌさんとマリアがワイワイと会話をしているのを見ながら、私はポツリと呟いた。
「やっとダンジョンに戻れますね」
「ナガカッター」
「トラブル、タクサン、アッタ、カラ、ネ」
「マサムネさんは酔い止めの薬ちゃんと飲みました? あれ飲まないと行きと同じような地獄を味わいますよ」
「チャント、ノンダ」
「アイネスハ、ムシロ、カエッテカラ、タイヘン、ダロウ」
「ベリアル**、フォレス**、ミンナ、アイネス***、マッテル」
「待ってるって言っても、説教目的でしょうけれどね」
イグニの言葉に、私は思わず明後日の方向を向いた。
昨日、散々イグニ達に説教されたり、心配されたり、呆れられたりしたのだ。
きっとベリアル達に今回の出来事を話せばお説教は避けられないだろう。
一体、何時間ぐらいお説教を受ける事になるのだろうか?
もしくは魔物達全員に飛びかかられるかもしれない。
なんとなく想像出来てしまうのがまた恐ろしい。
……ベリアルとフォレスに軟禁とかされたりしないかな?
「ん?」
「ドウシタ? アイネス」
私はそこで、ある事に気がついた。
私は周囲を見渡したものの、目的の人物がいない。
なので私は、近くにいたイグニ達にその人物の居場所について尋ねる事にした。
「イグニさん、サバトラさんは何処に?」
「トイレ、ダッテ」
***** #####
国王の執務室、国王が黙々と書類仕事を行っていると、執務室の扉をノックされる。
国王が扉の方に意識を向ければ、侍女の声が聞こえてきた。
「国王陛下、お茶を持って参りました」
「入れ」
「失礼致します」
国王が許可を出すと、執務室の扉が開き、外から一人の侍女が紅茶を持って入ってくる。
侍女は手慣れた様子でティーカップに紅茶を注ぐと、国王の前に差し出した。
「どうぞ」
「うむ」
国王は侍女が差し出したそれを受け取ると、じっくりとその紅茶を眺める。
そしてその紅茶を口にせず、静かに机に置いた。
国王が紅茶を飲まなかった事で気に入られなかったと考えたのか、侍女はオロオロとした表情で国王の顔を伺う。
「申し訳ありません、もしかしてお気に召しませんでしたでしょうか?」
「いや、そんな事はない」
「では、どうして……」
困惑した表情を浮かべ、国王に尋ねる侍女。
国王はそんな侍女にふわりと笑みを浮かべ、彼女に告げた。
「流石に、薬入りの紅茶は飲めないからな」
次の瞬間、国王の首に鋭い爪が突きつけられる。
爪を目前にまで突きつけられた国王の首に少量の血が垂れる。
獣のような爪を突きつけているのは、お茶を持ってきた侍女だ。
真顔で国王を睨む侍女の姿は蜃気楼のようにその姿が変わっていき、いつの間にかサバトラの元の姿へと変わっていた。
元の姿へと戻ったサバトラに国王は不敵な笑みを浮かべ、口を開いた。
「流石、霧幻の魔物と呼ばれるだけあるな、ケット・アドマーよ。ひと目見ただけでは全く区別がつかない」
「よく気づいたにゃあ? おみゃーは<鑑定>スキルは持っていにゃいはずにゃろ?」
「<鑑定>スキルがなくとも、殺気の有無ぐらいは感知出来るさ。次からはもっと殺気を消す事だな」
「にゃはっ、善処しておくにゃあ」
お互い声こそ朗らかそうにしてはいるが、サバトラは国王の首筋に突きつけている爪を下ろそうとしない。
二人で笑い声を上げた後、静かにその顔に浮かべていた笑顔を真顔に変える。
そして国王の顔を睨みつけながら、問いかけた。
「それで? どういうつもりにゃ?」
「どういうつもり、とは?」
「とぼけても無駄にゃあ。おみゃー、わざとアイネスの情報を流したにゃろ?」
サバトラがそれを言うと、国王は僅かに身体を動かした。
国王が何も言わないのを見つめながら、サバトラは言葉を続ける。
「それだけじゃにゃいにゃあ。デーヴェ大臣が犯罪組織とのつにゃがりがあるのを知っていて初日の挨拶にその場にいさせたり、魔物に嫌悪を持つ貴族を王城に入れてアイネスと遭遇しやすいようにしたり、ソーマ達をデーヴェ大臣に接触しやすいように誘導したり、パーティーにジュゼッペ聖教国を招待したり……色々画策したにゃろ?」
「ほほう、そこまで気がついていたという訳か」
「そりゃ、あんにゃアイネスにとって面倒な輩達が続々と出てきたら怪しむにゃあ。1つ2つなら兎も角、此処までの全てを出来て、尚且偶然のように装う事が出来るのはこの国の王様であるおみゃーぐらいしかいにゃいにゃ」
「なるほど、確かにその通りだな」
サバトラの言葉に納得を見せながら、国王は笑い声を上げる。
暫く笑った後、国王はサバトラの顔を見て様子を伺いながら、ゆるりと告げる。
「「そなたの言う通り、私がそれら全てを画策したのだ」と言ったら、そなたはどうするのだ?」
「アイネスにとって敵にしかにゃりかねにゃい組織や国にアイネスの情報を耳にしやすいようにゃ環境を作って情報を流して、おみゃーは一体にゃにを考えているにゃ? アイネスを無理矢理外の世界に引きずり出すようにゃ真似をして、アイネスににゃにをさせる気にゃ? 理由によってはその首、切り裂いてやるにゃよ」
「此処で私を殺せば、ケネーシア王国を敵に回すことになるぞ?」
「そんにゃもん、デーヴェ大臣やその妻、はたまた組織の奴にでも化けて罪を押し付けてやるにゃあ」
「なるほど、それは悪くない考えだ」
「そんな事より、質問に答えるにゃあ。にゃぜ、こんな事をしたのにゃ?」
爪を突きつけたまま、国王を猫目で睨みつけるサバトラ。
国王はそんなサバトラと暫く目を合わせ続けた後、一つ息をついて両手を上げた。
そして、ゆっくりと話し始める。
「王宮の隠密部隊の者から聞いた話だ。そなた達のダンジョンの所のアークデビルロードが、テオドールを通してある事を調べるように依頼を出したそうなのだ」
「はにゃ? それは初耳だにゃ」
「その依頼の内容は、『教会が信仰している神と異世界転移者に関すること』の調査だった。テオドールからの命令だった事とエルミーヌの件もあるので、快く調査をさせていた訳なのだ。ついでにアイネスに関する調査もしていたのだが、一つおかしな事が分かったのだ」
「おかしな、事にゃ?」
「裏の世界でも既にアイネスに似た人物に関する調査が行われ、その情報が流れ始めていたそうなのだ」
「にゃに?」
国王の話に、サバトラは驚愕を見せた。
国王はそのまま話を続ける。
「黒髪黒目の少女……そなた達のところの主殿と特徴が酷似しているだろう? それで、その少女の名前は『ヒトゥミコ』だそうだ。聞き覚えはあるか?」
「『ヒトゥミコ』……。昔にゃじみの3人から聞いたアイネスの元の名前によく似ているにゃね」
「やはりそうだったか……」
国王は自分の考えが当たっていた事に、深いため息をついた。
一方、サバトラの方は内心僅かに動揺していた。
アイネスの昔馴染みであるソーマ達がアイネスを探していた事は分かっているし、アスペル王国もアイネスを探す為に捜索をしていた事は知っている。
だけどそれは、表の世界での事。
一国が誰かも分からない一人の少女のために裏世界で情報が回る程捜索をするだろうか?
心の中の動揺と疑問を隠し、サバトラは国王に尋ねる。
「それで? どんな情報がにゃがれていたのにゃ?」
「此方に流れていた情報は見た目と名前の情報と、『アスペル王国から捜索依頼が出されている』という情報のみだ。その少女とアイネスが同一人物であるという情報は流れていなかったそうだ。しかし、アイネスがエルミーヌの件とタケルの事についての件に助力したことにより、『物語』のダンジョンの噂が流れ始めた。そのまま放置すれば、裏世界の者がそなたのダンジョンに押し掛ける可能性がある」
国王の言葉を聞いている内にサバトラは、国王がデーヴェ大臣を初日の謁見の間に参加させた理由を薄々勘付き始めた。
サバトラは国王に対し、そっとその推測を告げる。
「その前にアイネスを犯罪組織とコネがあるデーヴェ大臣に遭遇させて問題を起こさせ、それをアイネスとみゃーらが解決してみせることで裏世界の奴らに釘を刺した、って訳かにゃ? 「『物語』のダンジョンの主に手を出せば、配下の魔物達が黙っていにゃい」と」
「そなた達ならダンジョンの中にいても対処は可能ではあるだろうが、それではその組織の特定や根絶やしは難しいだろう? 今回のパーティーでデーヴェ大臣が犯罪組織の者を動かして問題を起こしてくれれば、そなた達は当然その解決に動くだろうと分かっていた。そのついでに魔物に侮蔑的な考えを持つ貴族達と人間の少女が管理するダンジョンに良くない考えを持つ国々にアイネスが配下の魔物達の手綱を握っていることを知らしめたという訳だ」
「にゃるほどにゃるほど。要は、この先起きるはずだった問題を未然に防ぐ為に必要にゃ画策だった、って訳にゃ」
「そなた達のダンジョンに何か起これば、此方もその被害を受けかねないからな。それを避けるために画策するのは国王としての責務だ。今回の件でそなた達のダンジョンの主殿が裏世界で情報が流れている少女と同一人物だという事が漏れてしまったかもしれないが、少なくとも裏世界の者達が下手な真似をすることもないだろう」
「そういう事にゃら、勘弁してやるにゃあ」
国王の言葉を聞いて、サバトラは笑顔を戻した。
そして国王の首筋に突きつけていた爪をそっと降ろし、再び獣人の姿へと変わる。
これでもし国王がアイネスの為だ云々と此方の顔を伺うような事を言えばサバトラはその首に爪を突き立てていたが、国王はあくまで自分の国に被害が来ない為だと告げた為、ひとまずその言葉を信用する事にしたのだ。
サバトラは懐から回復ポーションを取り出し国王の前に置くと、ニヤニヤと笑みを浮かべる。
「恐らくにゃんだけれども、多分アイネスとその『ヒトゥミコ』が同一人物であるという情報が流れる事は殆どにゃいはずにゃ」
「ふむ、どうしてそう思うのだ?」
「にゃにせ、今回ダンジョンに待機してる過保護魔物達が精一杯“マーキング”をしていたからにゃあ。半分くらいはそのドレスやアクセサリーに目がいって、殆どアイネスの黒髪にゃあ目を向けてにゃいはずにゃあ」
「……プッ、アッハッハッハ!! ああ、言われて見ればたしかにその通りだな。あのネックレスとベール、それにドレスはかなり目立っていた!」
アイネスが付けていたアクセサリーとドレスは、ベリアルとフォレス、それにアラクネ三姉妹達魔物が手間暇を掛けて制作した物。
付けた者は自分達の物だと隠喩する為のマーキング。
希少な素材を使って作られたそれらは単体でも目を惹く物だったが、アイネスはこの3日間2つ、3つと付けていたのだ。
アイネスを知る者から見たらそのアクセサリーやドレスはアイネスの姿に見合う素晴らしい物だっただろうが、彼女を良く知らぬ者はその美しいアクセサリーやドレスにばかり注目が行っていただろう。
その上、両脇に見目の麗しいマリアとイグニレウスが立っていれば、アイネスの身体的特徴なんてほぼうろ覚えになる。
アイネスが地味という訳ではないが、アイネスは存在感が強い者が側にいるとかなり目立たなくなるのだ。
精々覚えられて、この世界では珍しい黒髪ぐらいだろう。
それを悟っているから、サバトラはそういったのだ。
暫く二人で笑い合った後、サバトラは入った時と同じ侍女の姿へと化ける。
トイレと言って席を外れたが、そろそろ戻らないとアイネス達が怪しむだろう。
痺れ薬入りの紅茶を片付けながら、サバトラは国王に顔を向ける。
「聞きたかった事も聞けた事にゃし、みゃーはアイネスの所に戻るにゃあ。次からにゃんか画策する時にゃあ魔物の誰かに伝えるにゃあ」
「うむ、次からはそうしよう。」
ニコニコと笑みを浮かべ、遠回しに「下手な画策は立てるなよ」と警告するサバトラに同じく笑顔で応える国王。
サバトラが外に出ようとした扉に手を掛けた時、国王が突然口を開いた。
「それと先程言っていた罪をデーヴェ大臣達に押し付ける案なのだが、残念ながらそれは難しかったはずだ」
「にゃに? そうにゃのかにゃ?」
国王の言葉に、サバトラは首を傾げる。
国王はそっと机に肘を乗せると、先程とは打って変わって真剣な顔になる。
その変化にサバトラは目を丸くしつつも、聞く体勢になる。
「そなたにとって嬉しかっただろう話と残念だっただろう話がある。どちらから聞きたい?」
「じゃあ、嬉しかっただろう話から聞いてやるにゃ」
「嬉しかっただろう話からだな。昨晩、地下牢に閉じ込めていたはずのデーヴェ夫妻が忽然と姿を消した。どうやら、デーヴェ元大臣の従僕が脱獄の手引きをしたらしい。その従僕は既に此方が捕らえている」
「ほう、確かにそれは此方に来るみゃえのみゃーにとって嬉しかった話だにゃあ。おみゃーを殺した時の濡れ衣先が決まるからにゃあ」
国王の前であるにも関わらず、そんな物騒な言葉を告げるサバトラに国王は苦笑を浮かべる。
予想はしていたものの、余程自分が危ない橋を渡っていたのかが理解出来た。
笑顔を見せるサバトラに対し、国王は静かに首を横に振った。
「いや、無理だっただろうな」
「にゃぜにゃ?」
「それが残念だった話になる。今朝方の早朝、デーヴェ夫人は枷のついた己の手足と大量の血痕を残して姿を消失。そしてデーヴェ元大臣はこの国の外で死体として発見されたのだ」
「!!」
デーヴェ夫妻の死を聞かされ、サバトラは目を丸くして驚愕を見せる。
アイネスに危害を加えた愚かな人間とその妻。
正直早死しろとサバトラは思ってはいたが、まさか此処でその報告を受けるとは思わなかったのだ。
驚愕するサバトラを見つめながら、国王は話を続ける。
「デーヴェ夫人の胴体の行方は未だ不明……。デーヴェ元大臣の死体の状態は、かなり酷い状態だったそうだ。首から下の身体は全て細かく切り刻まれ、血の匂いに寄せられてやってきた魔物に肉を殆ど食い荒らされていたそうだ。にもかかわらず、首だけは何故かほぼそのままの状態で残されていた」
「首だけが、にゃ?」
「しかも、森にあった身体とは違い、首だけは何故かケネーシア王国の門近くに置かれていたらしい。早朝から外に出た冒険者が発見し、騎士達に通報してくれたという訳だ」
「それは、随分と不思議な話だにゃあ? みゃーらは全く違う場所にいたから有り得にゃいし、誰かがみゃーやこの国の代わりにやってくれたのかにゃ?」
「もしかすると、ダンジョンの主殿が言っていた獣人の殺人鬼の仕業かもしれないな。私が直接確認した訳ではないが、デーヴェ元大臣の死体の状態が元公爵家の屋敷前の死体とよく似ている」
「仮にその殺人鬼が殺したとして、にゃんの為に首だけ綺麗なままで置いておくにゃ?」
「分からない。もしかすると、アイネスの為に殺したのかもしれないな」
「にゃんの為に?」
「さあな」
仮にそれがベリアルとかであれば、納得が行く。
アイネスを拉致しようとしていた輩を、アイネス至高主義である彼が許すはずがないからだ。
しかし獣人の殺人鬼がそれをしたとなると、面識のない二人にはどうしてそのような行動をしたのかなんて検討もつかない。
ふと、サバトラはポツリと呟いた。
「もしかすると、その男もアイネスの魅力に引き寄せられたのかも知れにゃいにゃあ」
「アイネスの魅力、というとその平等精神か?」
「それもあるだろうけれど、ちょっと違うにゃあ。みゃーの言いたいのは、もっと根本的な物にゃ」
「根本的な物?」
国王が目を丸くして問いかける中、サバトラは執務室の扉を開け、外へ一歩踏み出す。
そして最後に国王の方を見ながら、ミステリアスに笑みを浮かべて言った。
「“異質さ”にゃ」




