お仕置きは如何とする?
「どうやら、事実がしかと判明したようだな」
崩れ落ちたデーヴェ大臣達を見下ろしながら、国王は言った。
「そこの男が王宮専属の飼育員長に成り済まし、デーヴェ大臣とやり取りをしていた。先程出された証拠の山だけでも十分容疑を掛けるには十分であったが、これによってデーヴェ大臣の罪は確かな物となった」
「お、お待ち下さい! 判決を下すのにはまだ……!」
「くどい。これほどの証拠と内通していた者そのものを出されれば最早誰の目から見てもそなたの罪は明らかだ。後はそこの者を尋問すればそなたとの関係性も明らかになるだろう」
「ぐ、ぐぬぬ……」
デーヴェ大臣はなおも弁解しようとするが、国王はデーヴェ大臣の言葉をぴしゃりと一蹴する。
飼育員長に成り済ましていた男が本当の姿を現した時点で、怪しげな会話をしていたデーヴェ大臣は詰んでいるのだ。
デーヴェ大臣が罪から逃れる方法は何処も存在しない。
項垂れるデーヴェ大臣から視線を外すと、国王はボリスに化けていた男の方を見る。
「しかし、デーヴェ大臣は兎も角、そこの男は犯罪組織の者だからな。その組織の情報について口を割らせるのはかなり手こずるだろう。何かこの男の口を割らせる良い案はないだろうか? 出来ればスキルや魔法を使用しない方法が良い」
「爪を一つ一つ剥いでいくのはどうだ?」
「水責めも良いと思うよ」
「腹を空かせたラットが大量に入った檻に足を突っ込ませれば良いだろう」
「それは尋問じゃなくて拷問じゃね?」
国王の呟きに対し瞬時に拷問方法を挙げるイグニレウス、マリア、ジャスパーにカナタが冷静にツッコミを入れる。
彼らのやり取りに国王がくっくっと小さく笑い声を上げ、そしてアイネスの方へと向いた。
「ふむ、アイネスは何か案はあるか?」
『え、私ですか? 何に対するのです?』
「犯罪組織の人に自供させるための尋問だってさ」
「『ゴウモン、トカデモ、イイ』」
「いや、駄目だし! なんて事こもり子ちゃんに勧めてんのよ!」
アイネスが聞き取れなかった単語をソーマが伝え、余計な言葉を付け足したイグニをアヤカが怒る。
アイネスは胸の前で腕を組み、うーんと考え始める。
『尋問……。私は尋問とかはあまり詳しくないのですが、そうですね……。鼠のいる檻に手を突っ込ませるのは……』
「その案はもう出たわよ」
「『ジャスパー、ガ、イッタ、ニャ』」
「もっとこう、身体的にダメージを与えないのはないかな?」
『身体的にダメージを与えないの、ですか』
ジャスパーと同じような案を出そうとしたアイネスにアヤカとサバトラが一蹴し、ソーマがやんわりと別のアイディアを出すように促す。
するとアイネスは腕を組むのを止め、ある提案をした。
『じゃあ、両手を上げさせ続けるのはどうですか?』
「両手を」
「上げさせ続ける?」
「鎖か縄で縛り上げるということか?」
『いえ、鎖や縄とかは使わず、自分で上げさせるんです。途中で降ろしたら怒鳴ったり軽い電撃を与えたりして軽い罰を与える感じで。長時間そのままにしてると腕の筋肉が攣るし、腕の血行が悪くなるので、降ろす時すごい痛みを感じます』
「それだけか?」
「流石にそれだけじゃあ、自供しなさそうだけど……」
確かに身体的に大怪我を出す物ではないが、聞いた限りの内容では全く尋問にならなさそうだ。
そう思ったイグニレウス達が口々に声を上げるが、アイネスは言葉を続けた。
『それで、全ての行動を許可制にするんですよ』
「許可制?」
「良しというまで飯を食べちゃダメー、とか?」
『それもまあ合ってなくはないんですが……』
アイネスの言葉に首を傾げるイグニレウス達に対し、アイネスは説明を始める。
そしてその説明は、謁見の間にいる者達を戦慄させることとなる。
『頭を掻きたくなった時、手を降ろしたくなった時、食事でフォークやスプーンを持ち上げる時、どの順番で何を食べるか決める時、トイレに行く時、排泄をする時……その人が自白するまで息を吸う事以外の全ての行動を誰かが制限するんです。それで許可が出されない限りその行動はしてはいけません。もしもしてしまったら手を降ろした時と同じように軽い罰を与える。それ以外は至って普通な環境で過ごさせるんです。眠る事も、毛布にくるまる事も、一歩踏み出す事も、身じろぎする事も全部許可制にする。過剰に痛めつける事はしません。ただ許可の出されてない行動をした時にだけ軽い罰を与える。それを続けてれば徐々に精神的に追い詰められて従順になっていくので、中々自白しなかったとしてもすぐに――――』
淡々と説明するアイネスの口を、近くにいたイグニレウスが片手で塞いだ。
周囲の顔色はかなり青く、ボリスに化けていた男に至っては顔から脂汗を流している。
口を塞がれたアイネスのくぐもった声が聞こえる謁見の間の中で、全員が全く同じ事を思った。
(それは尋問ではなく洗脳だ)
この世界において、“洗脳”と言われればスキルや魔法、薬や魔法道具を使用した方法が真っ先に思い浮かぶ。
それが一番手っ取り早いからだ。
自分の能力や道具を扱えば人を操れる世界で、スキルも道具も使わずにやる方法というのは手間が多い。
だから基本、その方法が教え伝わる事はない。
結果として、この世界の住民はスキルや道具を使わずに洗脳する方法を知らない。
アイネスは今、そのスキルや道具を使わぬ洗脳方法を話したのだ。
まるで日常会話でも話すかのように。
当然の常識を言うように。
そんなアイネスの姿を見ていたイグニレウスは思わず、アイネスの口を塞いだ。
これ以上話させては、アイネスが恐ろしい物に見えかねなかったのだ。
数分の静寂の後、一番に我に返ったのはテオドールだった。
テオドールは我に返ると、一つ咳払いをして静寂を破った。
「……父上、アイネスの出した案はどうしても自白しなかった場合に試してみましょう」
「……そうだな。これは“最終手段”だ」
「こもり子ちゃん、なんてエゲツない拷問方法を思いついちゃってんのよ」
『ふぉれがひちふぁんらふだとおもふんでふけどね(これが一番楽だと思うんですけどね)』
口を塞がれながらそんな事を呟くアイネスに、周りの者はため息をついた。
あんな恐ろしい事を話しておきながら、なんでもない様子のアイネスが不気味じみているとイグニレウス達は思う。
国王達は“最終手段”と言っていたが、きっと使われる事はないだろう。
スキルも道具も必要がないということは、方法さえ知っていれば誰でも出来てしまうということ。
誰でも出来る洗脳方法なんて広めてしまえば、どんな事が起こるかなんて目に見えているからだ。
アイネスの出した案を忘れさせるように、ソーマが手を叩いて声を上げた。
「あ、自白剤! 薬を使って自供させるのはどうかな?」
「自白剤? なんだそれは?」
「僕もそこまでは詳しくないですが、元いた場所で昔犯罪者を自白させる為に使われていた薬のことです」
『あー、確かにそれだったら簡単に自白させそうですね』
ソーマの作戦は成功し、アイネスの提案を上塗りするように新しい提案の話に変わる。
アイネスが口を塞ぐイグニの手を外して賛同する横で、アヤカは難しい顔を浮かべる。
「確かにそれは名案だけど……。ソーマ、アンタ材料知ってる訳?」
「アルコールやコーヒーが自白剤として使われる場合があるらしいけれど、昔の自白剤にベラドンナやモルヒネを使ったとかぐらいしか知らないかな」
『むしろなんで昔の自白剤の材料の一部を知ってるんです?』
「こもり子ちゃんのとこでなんとかなんないの?」
『そんな物騒な物、あるわけないでしょう。第一私も材料はあまり知りません。ライアンさん、何かそれっぽい物はつくれませんか?』
「え、ボク? うーん……魔法薬で似たような効果を持つ物を知っているけど、あれは材料が少し面倒だからね。今から作り始めても結構な時間が掛かるよ」
自白剤を使用する方向で話し合いを始める3人。
アイネスの出した提案も忘れ、どうにか自白剤を用意する方法を話す。
そこでアイネスが、大きなため息をつきながら言った。
『まあ、分かりました。なんとか自白剤を用意してみましょう』
「ん? だが先程ない、と言っていなかったか?」
『ないなら作れば良いんですよ。とりあえずベラドンナとモルヒネを混ぜて作りましょう』
「それは……止めた方が良いんじゃないかな? ベラドンナは毒草だし、昔の自白剤って確か最悪廃人になる可能性が高いって聞くよ。それに、試作品を試す為のマウスとかが……」
『いるじゃないですか、薬を試すのに丁度良い人がそこに』
アイネスは口角を上げ、氷河期を彷彿とさせる瞳で傷のある男の方を指す。
アイネスの言葉の意味を理解した男は、顔色をより悪くした。
顔色が悪くなった彼を横目に見ながら、アイネスは言う。
『要は罪を吐かせれば良いんでしょう? だったら自白剤の効果が出るまで薬を試し続ければ良いんです。失敗したら回復魔法を使って治してあげれば良いんですよ。効果が出るまで何度でも』
「えぇ……確かにそうだけど、それって結構苦しいんじゃない?」
「『サイアク、ハイジン、ナルゾ。ソレダト、ジハク、サセルコト、デキナクナル』」
『カナタさんのユニークスキルは状態異常を無効化出来ますし、多分廃人という精神異常も治せますよ。だから大丈夫です』
「それはつまり、廃人になるレベルの苦痛を何度も味わっても精神崩壊出来ないってことだよね?」
「『エゲツナイ……』」
アイネスの無慈悲な言葉にマリア達は軽く引いて見せる。
しかしアイネスは意志を変えるつもりはないようだ。
そんなアイネスの様子に首を傾げたイグニレウスはアイネスに尋ねることにした。
「『ソモソモ、アイネスハ、ナゼ、ソンナ、オコッテル?』」
「『ラチサレタ、カラ?』」
『それもありますが、理由は他にもあるんですよ』
イグニレウスの質問に答えると、アイネスは傷のある男の方を見る。
アイネスに視線を向けられた傷のある男はゴクリと息を飲んだ。
『いやぁ、実は私がボリスさんに成り済ましているか確認に向かった時、見てしまったんですよ』
アイネスは笑顔を浮かべたまま傷のある男を睨みつける。
一体何を言われるのか、何を見られたのかと傷のある男は心臓をバクバクと鳴らしながら冷や汗を流す。
『アンタ、ケーピヴァのお腹を蹴ってたよね? 「脱走なんてして手間を取らせやがって」って』
温度なく発されたアイネスの言葉に傷のある男の顔は青を通り越して真っ白へと変わる。
黒いオーラを発しながら、静かに激怒するアイネスにソーマとアヤカは慄きつつも、目を輝かせる。
『あと、こんな事も言ってたよね? 「動物なんて皆試作品の薬を試す実験台にしか使えないのに、丁重に世話をする意味が分からない」って』
『誰もいないと思って本性を出したんだと思うけれど、全部見ていたよ? 見ていて本当胸くそ悪かったわ。アンタが出ていった後すぐに手当しましたけど、下手したらケーピヴァが死んでたかもしれなかったと思うと怒りが抑えられなかったです』
『アンタの言い分だと、動物は皆試作品の薬を試す実験台なんですよね? だったら、人間という動物であるあんたも実験台にしていいって事だよね?』
『大丈夫、ここには状態異常を無効化出来るカナタさんがいるんですから、死ぬ事はない。ただ、動物たちが苦しんだ分だけ只管苦しい目に遭ってもらうだけ』
『虐待した者の罪を晴らすには、虐待された者が受けた分の100倍の苦痛を味わってもらうしかない。動物虐待の罪は絶対受けてもらうよ』
怒りを滲ませながらそう告げるアイネスに、傷のある男はガクガクと身体を震わせる。
そんな光景を見て、マリア達は漸くアイネスが犯罪組織の者に対して怒りを抱いたのか理解した。
アイネスは大の動物好き。
普段無表情を貫くアイネスが動物に対面すれば思わず頬を緩める程、動物に対して愛情深いのだ。
そんな彼女の前で動物を蹴り上げるなんてすれば、当然怒る。
あの傷のある男は踏んでしまったのだ。
決して踏んではならない、アイネスの地雷を。
(自分にされた事じゃなくて、動物を虐められた所を見て怒るっていうのがアイネスちゃんらしいよねぇ)
マリアは心の中でそう考えながら苦笑いを浮かべてアイネスの方を見る。
怒りの原因を知ってしまえば、怒りの矛先を向かれていない自分達には関係ない。
現にイグニレウス達は苦笑を浮かべ、アイネスと傷のある男のやり取りを見ているぐらいだ。
ソーマとアヤカに至っては「動物の為に怒るなんて聖女みたいだ」「動物ラブなこもり子ちゃん可愛すぎでしょ」なんてアイドルオタクみたいな言葉を呟いている。
そこに、今までのやり取りを静かに傍観していたカナタがボリスに成り済ましていた傷のある男の肩を叩いた。
そして薄笑いを浮かべたまま傷のある男に問いかける。
「今ここでやったこと言わねぇと、最悪死ぬより酷い目遭うんじゃね? どうすんの、おっさん?」
傷のある男は考える。
この仕事をしている以上、死ぬ事に対して恐怖はない。
犯罪組織の幹部をしているから、そこそこプライドがあるのだ。
しかし、目の前のアイネスはそんな死の恐怖とは違った。
見た目こそゴブリンも殺せなさそうな、黒髪と黒目しか特徴がないような少女。
小動物のような笑みを浮かべて、にこやかに此方に笑い掛けている。
だが彼女の目が、言葉が、雰囲気が傷のある男に対する怒りを示している。
カナタの言う通りに自白しなければ、アイネスは先程言っていた事を確かに実行する。
そんな確信を持たせるには十分すぎる程の圧力を感じたのだ。
此処で何も言わずに自害をしても、アイネスはそれを許さずその場で応急処置をされる。
マサムネに捕らえられた時点で、自分の死は決まっている。
この場でデーヴェ大臣との繋がりを認め、犯罪組織の情報を流せば王宮にその身柄を預かられ後々処刑されるものの、廃人になるかもしれない自白剤の実験台になることはないし恐ろしい方法で洗脳もされることもない。
それに自分の力であれば、牢屋から逃げ出す事も容易いはずだ。
目の前の異質な雰囲気を出す少女によって想像し難い苦痛を受けて死ぬのと、この場で自供して王宮で処刑を受けて死ぬ。
どちらが自分にとって楽な死かを長考した後、傷のある男は震える声で言った。
「自供……する。知っている事は、全部話す」
「なっ、貴様! 裏切るのか!」
傷のある男の力ない言葉にデーヴェ大臣は信じられないという表情を浮かべ、怒号を上げる。
しかし、傷のある男は言葉を撤回する様子はない。
ただ顔を青くさせ、身体を震えさせている。
国王は傷のある男が自白すると言ったのを確認すると、アイネスの方を向いた。
「この男が自供すると言った以上、この男の身柄はケネーシア王国の方で預からせてもらう。構わないかな?」
『……』
国王の問いかけに対し、アイネスは何も言わずに国王と傷のある男を交互に見る。
傷のある男の身柄をケネーシア王国が預かるということは、彼の処罰はケネーシア王国の裁断によって行われるという事。
つまり、アイネスやイグニレウス達の私情で私刑を与える事が出来なくなるということだ。
傷のある男に対して怒りを覚えているアイネスにとってそれは怒りの矛先が逃亡されるのも同じ。
(納得されなければ相応の対価を与えるつもりだが、果たしてどうなるか……)
国王は心の中で不安を抱きながらも毅然とした態度でアイネスの方を向く。
暫くアイネスと国王の視線が合わさった後、アイネスがふと目線を逸らした。
そしてその手で笑みを浮かべるその口を隠した。
そしてゆっくりと手を外して顔を上げれば、普段の無愛想なアイネスへと戻っていた。
『分かりました。そちらの方で対処してくれるのでしたら私は構いません。後は国王様達にお任せします』
「『イイ? アンナ、オコル、ノニ』」
『今日は色々な事がありすぎて疲れましたからね。国の人に任せられるならそうしますよ。国の人が罰するなら相応の罰でしょうしね』
先程までのドス黒い怒りは何処へやら、素直に国王の言葉に応じるアイネス。
なんとか苦痛から逃れる事が出来た、と安堵の息を付く傷のある男。
アイネスを知る他の面々は、アイネスの反応に逆に周囲が戸惑いを見せる。
しかしアイネスは本当に良いのか、特に苦言を申す様子もない。
国王はアイネスの様子に内心驚きながらも、騎士達に命令を出す。
「この罪人達を連れて行け」
「御意!」
「さぁ、来い!」
「ひ、ひぃぃ!」
「こ、こんな事になるはずはなかったのに……!! くそおおおおおおおおお!!!」
騎士達に引き摺られるように連行され、デーヴェ大臣とナタリア、そして傷のある男は謁見の間を去る。
そしてデーヴェ大臣の叫びが響き渡る中、謁見の間の扉は閉じられ、3人の罪人の姿は見えなくなる。
デーヴェ大臣達の姿が見えなくなると、イグニレウス達はアイネスの方を向いた。
「『イイノカ? アレデ、オワリデ』」
「本当に良いのかい? もう仕返しは出来なくなるんだよ?」
『はい、だってこれで、私の仕返しは十分終わりましたから』
「「え?」」
ソーマの問いに対し一言、意味深な言葉を告げたアイネスに一同は目を丸くする。
国王とテオドールはその言葉を聞いて少し考えた後、ハッとアイネスの意図に気がついた。
「なるほど、そういう事か」
「確かに裏組織で活動する人間なら、この仕返しは覿面だろうね」
「え? え? どういう事? ちょっとどういう事か分からないんですけど!」
国王とテオドールに続くように、知略に長けた一部の者がアイネスの意図を理解していく。
そんな中未だに理解出来ないアヤカが頬を膨らませ説明を要求するのを見て、アイネスは答える。
『きっとこの場にいる人が情報を漏らそうとしなくても、何処からか今回の件の情報が漏れるはずです。外に情報が漏れれば、当然そっち系の人にも話が届く。』
「……それで、どうなるのよ?」
『裏組織で活動するぐらいなんですから、自分の実績にはかなり自信を持っているんじゃないですか? そして、裏組織で働く人間にとって大事なのは……』
「信用、だろうね」
『同じ働きをする人が二人いたとして、依頼人を裏切った実績のある人と裏切った実績のない人、どっちに仕事を依頼したいと思います?』
「あ……!」
その言葉を聞いて、アヤカも漸く理解する。
アヤカも気がついたのを確認したアイネスは、全員に聞こえるようにある問題を出す。
『さて、ここで問題です。肩書とその配下を引いたらただか弱い人間の少女の誘拐に失敗して、その挙げ句にその少女の圧に負けて、自分が楽になりたいからと自害もせず、大事なお得意様を裏切って組織や依頼人の情報を流す組織の人間。果たして裏の人達は、裏の人間に依頼を出す人達はどう思うでしょうか?』
「ピンポーン! めちゃんこ馬鹿にされるね!」
『はいそうです。きっと、相当馬鹿にされるでしょうね。それに万が一王宮から逃げ出して仕事を再開したとしても、信用を無くした状態では仕事を依頼する人間も、入れる組織もいないでしょう。下手をすれば情報を漏らした裏切り者として暗殺の対象にされる可能性もあるでしょうね』
「信用と実績によって依頼の数が左右される者にとってその実績が傷つけられ、果てには信用を無くしてしまったのは相当なダメージだろうね……」
『流石に薬で廃人にしたり、拷問紛いな尋問を受けさせたりしたらひどすぎますけど、これぐらいなら十分な物でしょう? あの人は死ぬその間際まで、裏の人達に馬鹿にされながら生きるんです。精神的ダメージとしては十分なものかと』
「それでも、かなりキツい仕返しだけどね」
「にゃにせ、万が一生き延びたとしても仕事と周りの信用と実績とプライドは奪われた後だものにゃあ~」
ライアンは苦笑を浮かべ、サバトラは肩を竦めながらそう呟いた。
その時、アイネスがふらりとめまいを起こし、イグニレウスの方へと倒れる。
イグニレウスが驚いて咄嗟にアイネスを受け止めた。
「うおっ、大丈夫か!?」
『あー、すみ##ん。流石に#訳の限#っぽいで#。今日一##間に#訳機##ら回避##や##頼せ##ので、も#これ以上##させるのは脳が##っぽい##』
「むっ、もう通訳が使えなさそうなのか」
「確かにアイネスちゃん、お茶会やらパーティーやらでスキルに頼りっきりだったもんね」
どうやら、長時間<オペレーター>に頼ってたせいで脳に負担が出てきたらしい。
更に魔力を使用して疲れ切っていたアイネスは、そのまま瞼が重くなり、ウトウトするのを感じる。
すぐに体勢を持ち直し、国王の方を向いて一礼する。
『ちょ##一眠##るので、後##願い##す……。国#様も申し###ません、#はこ##失##ます……』
「うむ、そうか。ゆっくり休むといい」
『じゃ、##しま―――』
謁見の間を去ろうとしたアイネスだったが、言葉を言い切らない内に意識が遠のき、そのまま目を閉じてしまった。
アイネスの身体が倒れそうになったが、アイネスが倒れるのを予期していたイグニレウスが再びアイネスを受け止めた。
そしてアイネスがちゃんと呼吸をしているのを確認する。
アイネスが倒れたのを見て驚いたソーマ達は、慌ててアイネスの方へ駆け寄って、アイネスの顔を見る。
「ちょっと、こもり子ちゃん大丈夫なの?」
「安心しろ。ただ眠ってしまっただけのようだ」
イグニレウスの腕の中で眠るアイネスを見て、ソーマ達はホッと安堵した。
確かにアイネスは静かに呼吸をして眠りについている。
ソーマ達が安堵しているのもつかの間、イグニレウスはアイネスをソーマに預ける。
「今日一晩、アイネスを預かっていろ。下手な真似はするなよ」
「え?あ、はい」
「ジャスパーよ、あの者の組織の本拠地の位置は分かるか?」
「隠れ家で奴らの本拠地と思われる場所の記された地図を見つけた。それを『すまほ』で写真を撮っておいたから、いつでも行けるぞ」
「うむ、そうか……。では、今晩中に方を付けるとしよう。」
ジャスパーの回答を聞いた瞬間、イグニレウスはニヤリと口角を上げた。
そして国王の方を向いて、笑顔で告げる。
「国王よ、俺様達は行かせてもらうぞ」
「それじゃあ、国王様、テオドールくん、おやすみなさ~い♡」
「ああ、そうか。では、気をつけて参れ」
何かを察した国王は特に追求もせず、謁見の間を去ろうとするイグニレウス達に見送りの言葉を告げた。
そうして、イグニレウス達はソーマ達にアイネスを預けてその場を後にしようとする。
アイネスを置いて何処かへ行こうとする5体に驚きながら、ソーマはイグニレウスに尋ねた。
「待ってくれ。何処に行くんだ?」
「ふん、決まっておろう……」
ソーマの問いを愚問とでも言うように鼻で笑いながら、イグニレウスはギラリと目を光らせて彼らに告げた。
「アイネスを誘拐された事に対する不満を発散に行くのだ」




