『ただでは済ましませんよ』
(くそっ、あいつらは何をしているのだ!)
デーヴェ大臣はギリリッ……と歯を食いしばった。
その視線の先には、貴族の子息の一人とダンスをするアイネスの姿があった。
(一度会場から離れてチャンスはあったというのに、何故ダンジョンの主を攫わないのだ! もうすぐパーティーが終わってしまうではないか!)
アイネスがケネーシア王国に滞在している3日間、デーヴェ大臣はある企みがあった。
それは、『物語』のダンジョンの主、アイネスを自分の手中に収めてダンジョンの財宝を独占するというものだ。
最近出現した『物語』のダンジョンには貴族達も見たことがないような財宝が存在する。
魔法道具やポーション、絢爛豪華な調度品や沢山の宝石をあしらったアクセサリー。
他にも魅力的な宝が眠っている。
そしてその財宝の管理をするのは一人の人間の少女。
彼女は強力な力を持つ魔物を従わせ、自分の周囲に囲っている。
魔物の脅威を知っている者であれば、とてもじゃないが財宝どころかその彼女にすら手を出すことが出来ない。
そう、普通の臆病な貴族であれば、だ。
(しかし、あの娘の身柄を手に入れられれば……)
『物語』のダンジョンの財宝を独占出来るだけじゃない。
アイネスの命を使って脅迫すれば、アイネスの配下である魔物達も自分に従わせることが出来る。
今回の滞在に同行しているドラゴンとリリス。
どちらか一方でもケネーシア王国で最も強い戦力を持つ者になれる強力な魔物達だ。
両方、いや、ダンジョンの魔物全員を従わせられれば王族を超える力を持つ事が出来る。
そうなれば王族達を蹴落として自分が王に成り上がる事もできる。
財宝の一部を親密な貴族に売って借りを作れば国家転覆をする際に手を貸してもらえるだろう。
国王にもなれば、エルミーヌ王女や正妃カタリーナといった一等美人の王族を伴侶にすることだって出来る。
いや、それだけじゃない。
魔物たちを他国に攻めさせれば、どんな女も選びたい放題になる。
それを可能とする存在、アイネスはデーヴェ大臣にとって宝石を産む鳥……いや、それ以上の価値がある存在だった。
既に昨日、拉致に失敗してしまっている。
だから、このパーティーの間がデーヴェ大臣にとっての最後のチャンス。
デーヴェ大臣が直接アイネスに接触してどうにか手中に収められれば良かったのだが、パーティー会場ではずっと誰かと共にいるので上手く接触が出来ない。
ダンジョンに潜られてはもう手が出せなくなってしまう。
どうしても成功させなければならなかった。
そんな事を思っていると、アイネスがまたパーティー会場から出ていくのが見えた。
それも護衛を付けずに一人で。
それを見てデーヴェ大臣は嗤う。
(なんと警戒心のない……。だが、あれなら容易く攫えそうだな)
今回の作戦において注意すべき点は、いかに魔物たちの目を盗んでアイネスの身柄を囚える事が出来るか。
まだ幼い、戦闘能力もないかよわい小娘を攫うなどその手のプロには赤子の手を捻るようなもの。
自分にとって都合の良い展開の訪れにデーヴェ大臣は期待が篭もる。
自分の計画が成功すると思った喜びであまり周囲を見ていなかったのだろう。
近くにいた女性と肩がぶつかってしまった。
「あら、失礼♡」
「ふんっ、気をつけろ!」
女性は一つ謝罪を述べると、すぐに何処かへ行ってしまった。
未来の国王に無礼な奴だ、と思い文句の一つでもつけようとしたが、それは止めた。
そのぶつかってきた女性は、エルミーヌ王女や王妃と並ぶぐらい……いや、それ以上に美しい女性だったのだ。
一瞬目が合い、その美しさに衝撃を受けたのか思わずクラっと来てしまった。
しかし、同時に気になる事があった。
(あのような絶世の美女、このパーティーにいたか?)
先程ぶつかったのは桃色の髪の絶世の美女だった。
今まで参加したパーティーで、アレほどの美女を目にしていれば否が応でも覚えている。
しかし、全く覚えがない。
他国の招待客の一人だろうか?
それなら見覚えがないのも納得がいく。
パーティー中はアイネスに話しかける隙がないかとアイネスの方ばかりを伺っていたのできっと見逃していたのだろう、とデーヴェ大臣は考えた。
「デーヴェ様」
その時、背後から声が聞こえた。
その声の主をデーヴェ大臣は知っている。
デーヴェ大臣の父の世代から度々依頼を出す組織の幹部の一人だったからだ。
事前の話し合いで、拉致が成功すれば彼がやって来てデーヴェ大臣に報告する事となっていた。
デーヴェ大臣は背後にいる彼に尋ねる。
「どうだ? 成功したのか?」
「ええ、確かに雛鳥は鳥かごの中へと。」
「クク……そうか、成功したか……!」
その報告を受け、デーヴェ大臣は笑い声を上げる。
これで『物語』のダンジョンの財宝はデーヴェ大臣の物。
イグニレウス達魔物の力も思いのままだ。
「これでケネーシア王国は……世界はわたしの物だ! ハーッハッハッハッハッハ!!」
下品な笑い声を上げながら、デーヴェ大臣は目前に見える未来を思い描く。
未来への期待、国王になれる希望、計画が成功した事への喜び。
それら全ての感情が最高潮に達したその時――――
何処からともなく大量の水を掛けられた。
水を浴びせられ、喜びに浸っていたデーヴェ大臣の頭は急激に正気に戻される。
目の前には、アイネスの同行者をしているリリス、マリアが手を振って立っていた。
「おっはよ~う♡良い夢は見れたかな?」
「なっ……!?」
いつの間にかマリアがいた事に驚くデーヴェ大臣。
慌てて後ずさりしてマリアから距離を取った。
そして状況を把握するために周囲を見回し、デーヴェ大臣は顔を青ざめた。
デーヴェ大臣がいたのはパーティー会場ではなく、謁見の間。
デーヴェ大臣の視線の先には国王が玉座へ腰を掛け、彼を見下ろしている。
隣には何がなんだか分からないといった様子で国王に跪いている自分の妻。
そしてその周りには王太子殿下と騎士数名、自分がマリア達の討伐を依頼した冒険者の3人と『物語』のダンジョンの魔物達。
そして、『物語』のダンジョンの主、アイネスの姿があった。
裏の者達に攫われたはずのアイネスが自分の目の前にいる事に対し、デーヴェ大臣はわなわなと贅肉の乗った身体を震わせた。
「な、何故……!?」
「楽しくて嬉しい夢を見た後は~♡」
「厳しい現実の始まりだ」
『###########』
##### *****
『さて、デーヴェ大臣よ。今回の事、どういった申し開きをするというのだ?』
『こ、今回の事? 一体何のことでしょう?』
『この期に及んで惚けるとは。なんとも愚かな事だ』
国王様の問いに対して自分の罪を隠そうとすっとぼけるデーヴェ大臣の姿に、イグニは呆れを見せる。
その瞳の瞳孔は開ききっている。
怒りが煮えたぎっている証拠だ。こわっ。
それでも冷静を装っているのは凄いな。以前のイグニだったらそのまま怒りを顔に出して軽く大暴れしていただろうに。
何かあったのだろうか?
「此方はもう屋敷での出来事で疲れているので、手短に済ませましょうか。ライアンさん、ジャスパーさん、お願いします」
『了解だよ、アイネスちゃん』
私が呼べば、ライアンとジャスパーはすぐにその手に持った証拠の書類を国王様の前に出した。
そしてライアンが高らかに声を上げる。
『既に説明した通り、このデーヴェ大臣は城下町で人身売買や拉致とかをして騒がせている犯罪組織に金を積んで、アイネスちゃんを誘拐しようとしたんだ。その証拠が今、僕達の手にある』
『それだけじゃない。それより前から……先代の時からデーヴェ家の者はその犯罪組織と共謀して気に食わない貴族を事故と見せかけて暗殺させたり、犯罪組織が残した証拠を隠蔽したりと好き勝手していたらしい。その証拠も確かに残っていた』
「捏造だとか言っても通じないわよ! アンタの執務室と組織の隠れ家からそれらの証拠があったのは他国の冒険者であるウチらが確かに見ているんだから!」
「加えて僕達からも、そこの大臣から王宮内に潜む魔物達の討伐を依頼された事を証言します。なんだったら今ここでスキルを使ってそれが本当であるか調べて貰っても構いません」
ライアンとジャスパーの言葉に続くようにソーマとアヤカも声を上げる。
二人の提出した証拠を近くにいた騎士を介して受け取った国王様はそのまま目の前でその書類を読み始めた。
そして軽く読み終えた後、真剣な表情でデーヴェ大臣に尋ねる。
『デーヴェ大臣。これらの訴えに対し何か弁解の言葉はあるか?』
『なっ!? このような者共の言葉を信じるのですか!?』
『完全に信じたわけではない。だが、確かにそれらしい証拠が存在しているのも事実。だからそなたに問うているのだ。何か弁解の言葉はあるのか?と。もしもこれが事実であれば、『物語』のダンジョンとの関係に亀裂を生む大事だからな。一族全員極刑で済む問題ではないぞ?』
『ぐ、ぐぐぐぐ……!』
極刑というワードが出て、漸く自分の立場が何処にいるかを理解したのだろう。
デーヴェ大臣が顔を青ざめさせて言葉にならない声を上げる。
そんなデーヴェ大臣の様子を見て話にならないと思ったのか、デーヴェ大臣の隣で跪いている夫人に声を掛けた。
……デーヴェ大臣、奥さんいたんだ。
デーヴェ大臣に似て体型がこう、グラマーだったからデーヴェ大臣の母親か何かかと思った。
『デーヴェ夫人、そなたの夫が答えられぬようなのでそなたに尋ねよう。そなたは此度の一件を知っていたか?』
『い、いえ! わたくしは全く知りませんでしたわ! わたくしは夫がそんな組織と関係していた事も、ダンジョンの主様を狙っていた事も気が付きませんでしたわ! 妻として、恥ずかしいばかりです……!』
『な、ナタリア! おまえ……!』
『夫の行動に気がつけず、申し訳ありません。国王様……!』
厚化粧の施された顔を俯け、ド派手な扇子で自分の顔を隠しながら泣き始めるデーヴェ夫人の姿に対し、アヤカが小さな声で「うわ、自分の夫をすぐに切り捨てたよ」と驚愕の言葉を呟き、ライアンが「演技が下手だね。せめて涙くらい出せないと」と冷たく批評の言葉を述べ、マリアが「ていうか化粧濃っ」と全く関係ない事を言っている。
国王様の前で人様の奥さんを罵るなんて失礼だ、と注意したい所だけど実際彼女達の言う通りなのだ。
化粧のしすぎでそのたぷたぷと音が鳴りそうな頬からファンデーションがポロポロと落ちているし、目元が乾ききっているのが丸わかりだ。
扇子で顔を隠したつもりなのだろうが贅肉のせいで隠しきれてないし、声が少し上擦っている。
実際は知っているけれど、認めれば自分の身が危ういと悟って自分は無関係だと証言したんだろう。
一応は夫であるはずなのに、恐ろしい女性である。
それらもツッコミ所ではあるけど、私はそれよりもデーヴェ大臣が呼んだ彼女の名前の方が気になった。
「ん? ナタリア?」
『む? どうしたのだ、アイネスよ』
『ナタリア』
私はその名前に聞き覚えがある。
聞き覚えがあるというか、知っている。
だってその名前はオロフソン公爵家の長女にして襲撃事件の生き残りで、私の推測では襲撃事件の黒幕である人物の物だ。
此処でその名前が聞こえると、「え、まさか?」と思ってしまう。
いやしかし、もしかしたら同名の人違いという線もあり得る。
ナタリアなんて名前はそんなに珍しい名前ではないし、オロフソン公爵達から聞いた人物像と目の前の彼女は大きく掛け離れている。
そんな事を思いながら、私はデーヴェ夫人に向かって問いかける。
「あのー、失礼ながらお聞きします。もしかして貴方、旧姓はナタリア・フォン・オロフソンだったりしませんか?」
『なっ……なぜ、それを?』
私の質問の内容が分からずとも、自分の旧姓を呼ばれた事は分かったのだろう。
私が尋ねた瞬間、デーヴェ公爵夫人はギョッとした様子でそんな言葉を呟いた。
なんと、ナタリアさんと同一人物だったようだ。
自分で尋ねてあれなのだけれど、流石に驚いてしまう。
一方、国王様はデーヴェ夫人の旧姓が出た事に目を丸くしている。
私にそっと問いかけてきた。
『アイネスよ、そなたはそのデーヴェ夫人と面識があるのか?』
「面識はないですよ。ですが一方的にその名前は知っています」
『面識はないけど、名前を知っている? どういう事、アイネスちゃん?』
「詳しい事話そうにも、今通訳を聞き手に使っているから上手く説明し辛いんですよね。にしても、デーヴェ大臣の夫人があのナタリア・フォン・オロフソン……」
マリアの質問に曖昧な解答を返しながら、私は顎に手を添えて考え始める。
デーヴェ大臣とデーヴェ夫人……ナタリア・フォン・オロフソンとの関係性が発覚した今、色々察しがつきそうなのだ。
元オロフソン公爵家の生き残りがデーヴェ大臣の妻。
ナタリアさんの日記に書かれていた『あの人からとある組織を紹介してもらった』という文。
金さえ積めばどんな依頼でも引き受ける犯罪組織。
そしてそのお得意様であるデーヴェ大臣……。
あ、ふーん(察し)
なるほど、実は全て一つに繋がっていたということか。
一つの国の中で起きた出来事だし、有り得なくもない。
デーヴェ大臣とオロフソン家がどんな関係を持っているかは分からないが、事を起こす可能性もないわけじゃあない。
ライアン達の話曰く、デーヴェ大臣と私を拉致しようとしていた犯罪組織は父親世代からの長く、深い関係らしいのだから、30年前に既にお得意様だった可能性が高い。
世間って、案外狭いものなんだなぁ。
まあでも、私の推理が根本的から間違っている可能性もある。
そもそも名探偵でもない私の推理が丸々当たるなんて事はない。
此処は、ちょっと確認してみるか。
私はそっとデーヴェ夫人の前に立ち、そっと彼女に視線を合わせて、ある言葉をぶつけてみた。
「……メルタ・フォン・オロフソン」
『!?』
「ベレッタ・フォン・オロフソン。***(誕生日)」
『……っ!!』
『アイネス?』
公爵夫人とベレッタちゃんの名前が出た瞬間、デーヴェ夫人の顔は急激に青くなった。
手応えありか。
私はそのまま言葉を続けてみる。
「**(襲う)。**(財宝)、**(地位)、**(独占)」
『あ、あぁ……』
「***(貴重品)、**(隠す)、**(執事)、**(予定)、**(聞く)……」
『あ……あ……!』
「**(紅茶)、*(毒)、**(送る)、**(弱る)、***(妹と母)、**(惨殺)、**(頼む)、**(嫉妬)、**(渇望)……」
私はオロフソン襲撃事件に関係している単語を順々に並べていく。
もしも謂れ無いでたらめだった場合、「国王の前でなんてデタラメを!」と顔を赤くして反論をするだろう。
確認するのには良い方法だ。
しかし、デーヴェ夫人は怒って反論を述べるどころか、顔を青くして冷や汗を流しながら黙ってしまっている。
反論どころか、怒りの言葉さえ出てくる様子はない。
まるで、自分の知られたくなかった秘密をいつの間にか知られていた事に気づいた女性のようだ。
更には、横で私の言葉を聞いているデーヴェ大臣までもが顔から大量の汗を流して愕然とした表情を浮かべている。
これはもう、確定じゃないだろうか?
あらかたの単語を言い終えた後、私はマサムネの方に近づく。
そしてマサムネにそっと声を掛けた。
「<アイテムボックス>から物を取り出すので良い袋ありませんか?」
『! おう』
察しの良いマサムネはすぐに銃の入ったケースを差し出してくれた。
ハンカチを持ったまま片手をケースの中につっこみ、<アイテムボックス>を使用する。
そしてオロフソン公爵家の屋敷にあった紅茶缶を取り出すと、それをデーヴェ夫人に見せてみた。
その瞬間、デーヴェ夫人の顔が真っ青になり、甲高い声を上げた。
『あ、あぁぁぁぁぁぁ!』
よほどそれを出されるのは都合が悪かったのだろう。
私から紅茶缶を奪い取ろうと、どっしどっしと大きな音を響かせながら襲いかかってきた。
それを見たイグニがすぐ私を持ち上げて避難させ、マサムネが襲いかかってきたデーヴェ夫人をガッシリと掴み手を拘束する。
デーヴェ夫人は太ましい顔に鬼のような表情を浮かべ、ギョロッとした目で私を睨みつけながら叫ぶ。
『なんで、なんで、なんでそれを持っているのよぉぉぉぉぉ!! 回収出来なかったのにイィィィィィ!!』
「はい自爆、ありがとうございます」
最早それは、自白と言ってもいい。
否、自白としか言い様がない。
一見すればただの古びた紅茶缶。
この紅茶缶に隠された秘密を何も知らなければ、首を傾げるか昔の惨劇を思い出して涙を流す程度の反応しかしない。
だが、デーヴェ夫人は今確かに『回収出来なかったのに』と叫びながら、奪い取ろうと飛びかかってきた。
明らかに紅茶缶の秘密を知っている者の反応だ。
「イグニさん、降ろしてください」
『うむ』
イグニの腕を軽く叩き、ゆっくりと降ろしてもらう。
そしてマサムネに抑えられてもなお暴れるデーヴェ夫人の目の前で国王様とテオドールさんに差し出した。
『ふむ、これは何かな? ダンジョンの主殿。』
「今回の件には関係のないことなのですが、ナタリアさ……もといデーヴェ夫人とデーヴェ大臣の30年前の事件の関与を示すだろう証拠の品です」
『なんでも、30年前の事件にそこの二人が関与した証拠だそうだぞ』
『30年前の事件?』
「げっ、じゃあそれ30年前の茶葉!?」
『飲んだらお腹を壊してしまいそうだね』
「いやまぁ、確かにその通りですけど」
イグニが通訳してくれた私の言葉に国王様が目を丸くする一方、この紅茶缶の秘密を知らないアヤカとライアンがそんな言葉を述べた。
確かに30年前というと既に飲めたものでもないのだが、そもそも30年前の物でなくてもこの紅茶缶の茶葉は飲めないのだ。
『30年前の、事件……。アイネスよ、そなたに尋ねる。そなたは何処にいたんだ?』
「元オロフソン公爵家のお屋敷です。そこでオロフソン公爵家の方々とお会いしました」
『元オロフソン公爵家の屋敷だそうだ。そこでオロフソン公爵家の者とも会ったと言っている』
『なっ!?! オロフソン公爵家の者に会った……だと!?』
私がオロフソン公爵家の人達と会ったと言えば、国王とデーヴェ夫妻は驚愕の表情を浮かべた。
それもそうだろう。
だってオロフソン公爵家の人達はナタリアさんという人物を除いて既に死んでいる。
普通じゃありえない事だ。
私の言葉に真っ先に反論を述べたのは、デーヴェ夫人だった。
『あ、有り得ませんわ! だって、だって私以外は全員死んでいるのですわよ?! そんな、まさかゴーストとでも会ったというのですの!?』
『あー、それがどうもその“まさか”だそうだぜ』
『な……!?』
『済まないがアイネスよ。説明してくれないか? 犯罪組織の者達に攫われていたはずのそなたが何故、オロフソン公爵家の屋敷にいたのかを』
「分かりました。説明します。マリアさん、通訳お願いします」
『う、うん、分かったよ』
「マサムネさんは説明が足りない所の付け足しをお願いします」
『おう、分かったぜ』
国王様に事の説明を頼まれ、私は一から全てを説明し始める。
ワンコパスの事も、サユリさんのことも、全て漏らさずに話した。
途中途中通訳してるマリアが驚愕の声を上げたりイグニが殺意を顕にしたりと大変だったが、なんとか説明する事が出来た。
その結果。
『アイネスちゃんのばっかああああああああ!!! 本当にばっっかあああああ!!!』
『アイネス!!!! なんで!! その事を言わなかったのだ!!!!』
『アイネスちゃん、自分だけでなんとかするのも良い事だけど命に関わる事ならもっとボク達に頼ってくれないかなぁ……!!』
『アンタは命知らずなのか? それともただの馬鹿なのか? なぁ?』
「こもり子ちゃんの命知らず! 馬鹿! 向こう見ず! コミュ障!!!」
「瞳子さん、小学生時代から思ってたけど君はもう少し自分の価値というものを理解した方が良いよ……。それよりそのワンコパスって言う獣人の特徴を教えてくれないかな? ちょっと話をするからさ」
局所的なカオスな空間が出来ました☆
説明が終わった瞬間にマリアに抱きつかれ、それに続くようにイグニとライアンとジャスパーに突撃され、更にはソーマとアヤカまでその輪に入ってきたのだ。
もう色んな人が多方向から言葉を発してるから全員が何を言っているのか聞き取れない。
なんだコレ、10人の話を聞き分けられる人の真似を要求されているのだろうか?
そこで、ポンポンと肩を叩かれたのでそちらを向いてみればカナタがいて、カナタが興味深しげに尋ねてきた
「こもりんこもりん、その心霊動画ってもう消しちったん?」
「いえ、まだ消してませんよ。ほら、これがそうです」
「うわぁ、マジじゃん! しかも黒髪美人! 血塗れだけど!」
『『『『「「そういう問題か!!!!!」」』』』』
6人の声がほぼ同時に発せられた。
もうデーヴェ夫妻の事など放置している状態だ。
ほら、もっと周囲を見て。テオドールさんと騎士の皆さんが私達を呆然と見ているよ。
シリアスに戻って。シリアルは帰って。
軽く宥めようとするが、皆号泣してたり怒っていたり空気の読まないカナタを叱ってたりで聞いてくれない。
なんでこんな事になったのか……
『な? 嬢ちゃん分かったろ? 自分一人で事を済まそうとすると全員こんな面倒事になるんだぜ?』
「身に沁みて分かりました」
『これと同じのがまたダンジョンに帰った時にあるから覚悟しておくにゃ』
「うへぇ……」
サバトラとマサムネの言葉に、私は苦虫を噛み潰したような声が出てしまう。
とりあえず皆、国王様の前だから一旦落ち着こうか?
今回の事に巻き込まれた怒りが一時停止してしまった……




