青色の扉 ~謎の館と知恵の物語~ (トビー視点)
「次の謎は、『いつも文句ばっかり言ってる動物はなんだ?』って…そもそも動物が喋る訳ないじゃない!」
「お、落ち着け!きっとさっきの謎みたいにちゃんとした答えがあるはずだ!だから魔法をぶっ放そうとするなよ!」
「そんな事言われたって分からない物は分からないわよ!全く、なんでダンジョンの中でこんなに頭を使わなきゃ行けないのよー!」
俺はトビー。メアリー、パメラ、ヴィクターの4人で冒険者として活動している剣士だ。
ランクはまだDランクだけど、今回ギルドからCランク冒険者のテッドさんとフレディさん達と共に新しいダンジョンの調査依頼を任された。
新しいダンジョンは入り口に注意書きがあったり喋る蛇がいたりと少し変わっているが、ここで冒険者としての力を見せつけてCランク冒険者になるんだ!
…と思ってたんだが、そう簡単に上手く行くものじゃなかった。
俺とメアリーが入った青色の扉の先にあったのは、貴族のお屋敷の一室だった。
部屋には俺たちの入ってきた扉とは違う扉と窓とがあり、そこから何故か昼の青空と一緒に綺麗な街並みが見えた。
もう一つの扉に手を伸ばしたが、鍵が閉まっていたから扉の向こうに行くことが出来なかった。
部屋の中は見たことのないような調度品に溢れ返っていて、どれか一つでも売りに出せば軽く家が建てられそうな物ばかりだ。
思わず手に取りそうになったが、ティアーゴという蛇が話してくれたルールを思い出して、慌てて手を引っ込めた。
ダンジョンの設置物を盗む奴なんているのか?って思ったが、今納得した。
もし事前に忠告されていなければ、こんな貴重そうな物を見たら思わず盗みを働いてしまいそうだ。
部屋をぐるっと見回していると、いつの間にかメイドらしき女性が部屋の中央にあった椅子の横に立っていた。
女性の姿は半分透けていて、触れようとしても触ることが出来なかった。
俺たちが唖然としていると、メイドは一つお辞儀を見せた後、喋り始めた。
『ここはとある公爵家のお屋敷でございます。この屋敷のご主人さまは謎解きというものを好んでいました。ある日、謎を解くだけでは物足りなくなったご主人さまは、自分の屋敷に様々な謎を隠し、挑戦者を募りました。屋敷の謎を見事全て解く事が出来れば、その者に白金貨1000枚を献上しようという宣言を付けて。屋敷には身分を問わず、頭脳に自信がある者が多くご主人さまの謎に挑みましたが、誰一人として謎を解く者は現れず、皆降参していきました。ある日、一人の、小さな村に住む少女がこの屋敷の主人の謎に挑みました。彼女には、病を患う弟の治療のためにどうしても大金が必要だったのだとか。賞品を手に入れるには、少女は机の上に置かれた紙に書かれたヒントを頼りに日没までに謎を全て解明しなければいけません。果たして、少女は謎を全て解明出来るのでしょうか?』
それだけ言うと、メイドの女性は消えてしまった。
机の上の紙、と言っていたので椅子の横にあった机の上を見てみると、確かに上質な紙が置いてあった。
紙にはこんな事が書かれていた。
『謎の答えの物を探せ!
謎その1
のぞいてみると自分がうつるよ なーんだ?』
どうやら、この紙に書かれた謎の答えを示す物を探さなければいけないって事が分かり、俺とメアリーは必死に頭を動かして、問題の答えを考えた。
最初の謎の答えはメアリーが「鏡」じゃないかと言って部屋に置かれた鏡を調べてみると、鏡の裏側にまた違う謎が書かれた紙が貼ってあった。
そんな風に二人で一緒に謎を解いて、今はやっと7問目に挑戦している所だ。
紙に書かれた謎は解いていくごとに難しく…というか、かなり捻くれた物になっていった。
最初の1,2問は頭の良いメアリーが簡単に解いたが、3問目以降は出された謎の捻くれさに苛立ちを示している。
間違った物を調べた時に、何処からともなく『ブーッ!』と音が鳴ったり何処からか突風が吹いてきたりして驚かせようとするのも、メアリーの苛立ちを助長する要因だろう。
「あーもー!この屋敷の主ってやつ、本当に捻くれてるわね!」
「あーもー…もー……あ!もしかしたら、答えは牛じゃないか?!牛は『モー』って鳴くだろ!牛を模した物を探そう!」
「あ、なるほど!…って、ちょっとトビー!アンタ今一体何からその答えを思いついたのよ!」
「ま、まあまあ!取り敢えず今はダンジョン攻略の方に集中しよう!」
危うくメアリーの怒りが此方に掛かりそうになるのを回避して、俺は牛の置物に手を伸ばした。
普段二手に分かれる時のペアに別れたけど、この扉にヴィクターとメアリーの二人で行かせなくて良かった。
煽るような発言が多いヴィクターと共にここに行かせたら、メアリーが怒りを爆発させて無差別に火属性魔法を撃っていただろう。
牛の置物の腹の部分にはまた紙が貼ってあり、新しい謎が書かれていた。
今度のも難しいなぁ…と思っていると、メアリーが何かを閃いたらしく、俺に声を掛けた。
「ねぇトビー。思ったんだけどさ」
「どうしたんだ、メアリー?謎の答えが分かったのか?」
「そうじゃなくて!問題の答えは全部この部屋の中にあるのよね?だったらこうやって謎の答えを考えるより、あちこち探して答えを見つけた方が良いんじゃないかしら?間違ってる物を選んだら音が聞こえるし、そっちの方が早く答えを見つけて先に進めるでしょ?」
確かにメアリーの提案もいい考えかもしれない。
俺もメアリーもそこまで頭が回る方じゃないから、時間までにすべての謎を解けるか不安がある。
それだったら難しい謎を解いてその物を探すのではなく、部屋にあるものを順番に調べていったほうが俺たち的には合っているだろう。
けど、俺はその提案を却下した。
「いや、それは止めといたほうがいいと思う」
「ええっなんでよ!いいアイディアだと思ったのに…」
「ほら、ティアーゴが言っていたルールの4番目に物語を貶めるような真似をしてはいけないってあっただろ?この物語…といえば良いのか?ここの物語では謎を解けとあのメイドも言ってた。なのにこの部屋の物を一つずつ見つけるっていうのはルールの4番目に違反していると思うんだ」
そう、ルール。
ティアーゴは4つのルールを提示した。
その中の4番目、『物語を貶めていけない』というルールを特に推していた。
最初に現れたメイドは恐らくティアーゴの言っていた物語の管理人というやつだ。
そして、彼女はこう言っていた。
『賞品を手に入れるには、少女は机の上に置かれた紙に書かれたヒントを頼りに日没までに謎を全て解明しなければいけません。少女は謎を全て解明出来るのでしょうか?』
出来るのか?ということは、疑問詞だ。謎を全て解け、という命令文じゃない。
つまり此処では全ての謎を解いた時の結末と、解けなかった時の結末の二つを提示されているんだ。
メイドの言っていた説明を思い出す限り、全ての謎を解けば賞品…宝箱の中身を手に入れられるのだろう。時間までに謎を解けないのなら宝を手に入れられない、ただそれだけなのだ。
謎を全て解けなくてもこのダンジョンを先に進む事は出来るのだ。
俺たちはダンジョンの調査に来ただけで宝箱を見つける事が目的じゃない。
無理に答えを見つけてダンジョンの主の怒りを買うよりも、出来るだけこの先を進んでついでにダンジョンアイテムを手に入れる、これが俺たちの最善策なんだ。
「なるほどね…。言われてみれば確かに今宝箱を手に入れなくても、後で皆でまた此処に来て謎を解くのでも良いものね。」
「そういう事だ。それにダンジョンで一度も宝箱が見つからないなんて俺たちには良くある事だろ?」
「それもそうね…、先に進む事ばかり目をいっていたわ。じゃあ、さっさとこの謎を解いてダンジョンの主からダンジョンアイテムを掻っ攫ってしまいましょう!」
俺の説明にメアリーも納得したのか、先程の苛立ちを収めてくれた。
俺はホッと安堵のため息を付き、メアリーと一緒に牛の置物から見つけた謎を考え始めた。
一度冷静になったのが功を奏したんだろう。
俺とメアリーはこの後の謎をスムーズに解くことが出来、なんとか日が沈むまでに最後の謎まで解く事ができた。
最後の謎の答えになる物に触れると、最初に鍵が掛かっていたはずの扉から『カチャッ』と軽い音が聞こえ、恐る恐る開けてみれば扉の向こうに出る事ができた。
「やった!なんとか謎を全部解けた!」
「やったわね!これでダンジョンアイテムはアタシ達の物よ!」
俺とメアリーはお互いを抱きしめ合い、喜びを分かち合った。
そしてメアリーと目があった時ふと我に帰り、慌てて距離を取った。
照れくささのあまり、顔が熱く感じる。
「…な、なに黙ってんのよ。」
「め、メアリーこそ急に黙ってどうしたんだよ?」
「べ、別になんでもないわよ!」
「そ、そうか…」
……き、気まずい!
よく考えたら、俺たちは今まで一つの部屋に二人っきりだったんだよな!
謎解きに集中してたけど、今認識してみるとなんか恥ずかしい!
女の子と一緒にいたという事実への恥ずかしさと照れくささにメアリーから目を逸らしていると、メアリーがポツリと小さな声で呟いた。
「………その、ありがとうね、トビー。」
「改まってどうしたんだよ。メアリーらしくないぞ」
「アタシ一人がここに入ってたら、きっと謎を全部解けなかったと思うわ。だからその……ありがとう」
「メアリー…」
素直じゃないメアリーからの感謝に、俺は思わずメアリーの方を見た。
メアリーの頬は赤く、じっと此方を見つめてくる。
お互い手を取り合い、身体を密着させて唇と唇が触れ合うその瞬間……
『ブーッブーッブブーッブーッブーッブブブブーッブブーッ!!』
「うるっさああああい!ちょっとは空気読みなさいよ!」
早く先に進めよ!と言わんばかりに音が鳴り響き、雰囲気がぶち壊された。
あまりの台無しさに、メアリーも大激怒だ。
正直俺も内心メアリーと同感だった。くっそ、剣が振り回せたら良かったのに。
「全く…、ほら、先に行くわよトビー!どうせ捻くれた謎を出す屋敷の主人のことだから、この先にも謎はあるだろうし!」
「あ、ああそうだな!先に進もう!」
先ほどまでの照れくさい空間が一気に霧散され、俺とメアリーはさっさと鍵の開いた扉から先を進む。
メアリーの言う通り、この先にも似たような部屋があるかもしれないからなるべく時間を削らないようにした方がいい。
もし、この屋敷の主人という奴に出会う機会があれば文句の一つでも言おう。そうしよう。
そんな事を心に決めながら、俺はプンプンと怒りの表情を浮かべ先を進んだメアリーの後をついて行ったのだった。
一方、とある部屋では「何ちょっと良い雰囲気出してるの??リア充爆破しろ!!!」と心の中で叫びながら不正解音を鳴らすダンジョンマスターが居たらしい。




