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赤色の扉 ~恐怖の化け物と復讐の物語~ (フレディ視点)

「ぎゃああああああああ!来る!来るぞアイツ!!」

「くっそ、弓矢も効かねぇとかなんだよあの化け物はよぉ!」

「あっのクソ蛇!こんなのありかよおおおおお!!」

「走れ!とにかく走るんだ!!!!」


 俺はフレディ。Cランク冒険者の弓使いで、同じCランク冒険者の戦士、テッドとコンビを組んでいる。

 俺は新しく誕生したダンジョンの調査のためにテッドと、Dランク冒険者のトビー達と一緒にダンジョンにやって来た。

 そのダンジョンは他のダンジョンとは少し…いやかなり変わっていた。

 だって命を狙ってくるはずのダンジョンの入り口に注意書きの看板が置いてあったり、喋る蛇がダンジョンについて説明したり、洞窟の中に扉があったりするんだぜ?

 しかも、ダンジョンの主は俺たちを殺す気がないというのだ。

 勿論鵜呑みにした訳じゃなかったが、誰だって命の危機を気にすることなくダンジョンの探索を出来て宝も持っていっても構わないと言われたらつい浮かれちまうだろ?

 それに、俺的にはダンジョンの主が収集したという「物語」というのも興味があった。

 元々俺は英雄の伝説だとか革命物語というのが好きだった。子供の頃は大きくなったら伝説に残るような事をしてみたいと夢見ていた事があるくらいで、今でもよく伝説の英雄の像を見に行くくらいだ。

 だがこのダンジョンでは自分達が物語の主人公として物語を実際に体験できるというじゃないか。一度はそういう者に憧れていた自分からしたらかなり興味の惹かれるダンジョンだ。

 依頼で来ているのは分かっているけれど、少し浮かれてしまうじゃないか。

 行ける道は3ルートあったため、俺達は二人一組に分かれて別々の扉の中に入った。本当は他のルートも見に行きたかったのだが、一度の探索に選べる道は一つだけらしいので仕方ない。

 そうして今、俺とテッドはダンジョンに存在している一つの道を進んでいるのだが、扉の中に入って暫くして最初の浮かれた気持ちは霧散した。


 まず俺とテッドがボロい赤色の扉に入ってすぐに、スラムにいるようなボロボロの服装を来た吟遊詩人の爺さんと対面した。

 吟遊詩人の爺さんはどうやらティアーゴという壺の中にいた喋る蛇の言っていた物語の管理人という奴らしく、テッドが爺さんの肩に触れようとしたらその手はすり抜けた。どうやらゴーストの類のようだった。

 吟遊詩人の爺さんが語った物語は、こんな物だった


「むかし、とある街で毎年冬になるとある一つの噂が町中で話されとった…。雪の降る程寒い日の夜に人気のない道を歩いておると現れる、一体の女の化け物の話じゃ…。その化け物には下半身がなく、肘と手で這って移動する事から皆に『テケテケ』と呼ばれ恐れられておった…。何を恐れるかって?その『テケテケ』という化け物は人を見つけると常人には到底逃げられんほどの速さでその者に近づき、その者の足を奪ってしまうのじゃよ。実際に毎年冬になると足のない死体が道端で発見されるため、その街では雪の夜ではスラムの盗人達も酔っ払い達も皆人気のない道を歩かんかった。それほどまでに『テケテケ』は恐れられとった。

 とある年の冬、一人の若い娘が下半身のない状態で亡くなった。その娘には恋人にあたる冒険者の男がおったのじゃが、その男は最愛の恋人の死に対して嘆き、悲んだ。冒険者の男は恋人の足を奪ったとされる『テケテケ』への怒りを抱いた。そして冒険者の男は、恋人の形見のドールを抱え誓った。必ず、恋人を殺した『テケテケ』を討ち取って復讐してやる、と……。」



 いや、重いわ!!

 てっきり革命物語や英雄物語を想像していたのに、恋人殺した化け物を討伐する復讐物語って!あらすじの時点で既に暗すぎるだろ!

 死んだ恋人さんもきっと復讐なんて望んでないぞ!多分!

 というかその化け物が恐ろしすぎる!人の足を奪うって何もんだよ!ある意味ドラゴンよりこえーわ!しかも下半身がないのに這って移動してるのに移動速度が早いって色々ヤバすぎる!会ったら即死亡って事じゃねーか!


 そんな事をテッドと一緒に叫んでいると、いつの間にか吟遊詩人の爺さんは姿を消していた。物音も立てずに消えたもんだから居なくなった事にすぐに気がつけなかった。

 一先ずダンジョンの中を歩いていると、ただの薄暗い洞窟だったそこはいつの間にか雪の積もる街中へと変わっていた。

 街に転移でもしたのかと思ったが、そうではなかった。

 テッドが建物に入ろうと近づくと、途中で壁にぶつかった。どうやら幻影魔法か何かを使っているようだった。


 周囲を警戒しながら道を歩いていると、後ろから声が聞こえたんだ。


「……を……せぇぇ…」


 何かが這いずるような音に、人の声とは思えないほどしゃがれた声。

 俺たちは嫌な予感を察知して、ゆっくりと後ろを振り返った。

 それが、ある意味間違いだった。


 後ろにいたのは、地面を這いずる黒髪の女だった。

 しかも、ただの女じゃなかった。

 髪はぐちゃぐちゃに乱れ、目は血走っていて、此方をものすごい形相で見ているんだ。ドレスは血と汚れでグチャグチャで、元々は綺麗だったであろうドレスの面影は残ってない。

 何より一番可笑しいのは、その女の腹から下の部分だ。

 その女には腹から下の部分が何かに轢かれたように引きちぎられており、下半身と言える物が存在してなかった。

 俺は咄嗟に弓を構え、その女に矢を放った。

 しかし放った矢は女に当たらず、女をすり抜けていったのだ。

 女は腕を使いジリジリと這って近づきながら、しゃがれた声で叫んだ。


「足を……寄越せぇぇぇぇぇぇ!!!」

「「ぎゃあああああああああああああああ!!!」」


 そうして、今に至る。

 下半身のない女は今も物凄い速さで俺たちを追いかけているのだ。

 俺とテッドは逃げながらも弓矢や石を投げて応戦しているが、投石も弓矢もすべて女をすり抜けるし、雪で足を取られて上手く走ることが出来ない。

 女は物凄い形相で俺たちとの距離を段々と縮めて来ている。

 その顔の恐ろしさときたら、寝る時に夢に出そうな程酷かった。


「うっわ、分かれ道だぞ!」

「どっちだ!どっち行く!?」

「あああああああ取り敢えず曲がれ!曲がって体勢を整えるんだ!!」

「ちっくしょおおおお!逃げ切れえええええ!」


 俺とテッドは思いっきり足を動かし、なんとか右に続く道へ曲がった。

 しかし、あまりに勢いよく走っていたからか、右に曲がってすぐ二人共雪へとダイブしてしまった。

 慌てて武器を構えて下半身のない女が来るのを待っていると、下半身のない女はものすごい速さでまっすぐに進み、そのまま姿を消した。

 どうやら、速すぎるあまり道を曲がる事は出来ないようだ。

 化け物の姿が見えなくなり、ようやく俺たちは一息付くことが出来た。


「あああああ…マジで危なかったな…」

「なんだよあの化け物…あれが爺さんの言ってた『テケテケ』って奴か…?」

「俺、今までゾンビなんて単体だったら大丈夫だろって思ってたが認識を変える。あれはマジでヤバい奴だ」

「あの化け物はゾンビとはぜんぜん違った類の物だろ…。ゾンビはあんな早く移動できねーよ…」


 ゼーゼーと息を切らしながらテッドと会話し、休憩を取る。

 先程まで心臓に悪い化け物に5分は走らされたのだ。ダンジョンの中で立ち止まるべきではないって分かっているが、休憩を取らないとこれから先あの化け物に遭遇したらヤバいだろう。


「ハァ…けど、確かにダンジョン自体が殺しに来てるわけじゃないようだな…」

「おいおい、冗談だろ?あんな化け物を飼っておいてか?」

「良く考えてみろ、俺たちを殺したいなら追いかけられている途中に落とし穴や罠を仕掛けたらほぼ確実に引っかかるだろ?なのにそんな仕掛けがないってことは、本気で殺しにかかっている訳じゃねぇってことだ」


 確かに今思い出すと、これまでの道中、あの化け物以外に魔物に遭遇する事も一度もなかった。もしあの時目の前に魔物が出てきたら『テケテケ』という化け物と挟み撃ちにされてやられていた。

 更に言うなら、雪の道で全力で走れなかった俺らに対して『テケテケ』もすぐに距離を詰められる事もなかった。

 そう考えると、本当にダンジョン自体に人を殺める気は全く無いように思えた。

 クッソ、ある意味悪趣味なダンジョンだ。これなら扉に入ってすぐにドラゴンと遭遇してひと思いに殺される方がまだいい。このダンジョンは精神的にかなり来る。

 あの看板の注意書きが初めて理解出来た。確かにこれは老人とかには心臓が悪すぎる。皮肉でもなんでもなく、本当に此方を気遣った注意書きだったという訳だ。もっと説明が欲しかった。


「あ、おいフレディ、お前の後ろにあるやつ、もしかして宝箱じゃないか?」

「え?」

「ほら、雪が積もっているが、確かに宝箱だ。」

「本当だな…。ただの岩かなんかかと思った。」


 テッドに言われて後ろを振り返れば、確かに俺が今まで岩だと思って寄り掛っていた物は宝箱だった。確かに宝箱は設置されているようだ。

 宝箱をそっと開けてみると、そこに入っていた物はかなり上等なナイフと怪しげな液体が入った茶色の小瓶だった。

 ナイフの方はとても軽く、軽く振ってみればシュッと良い風切り音が鳴った。どうやら魔法武器ではないようだが、かなり上質な武器だ。

 そして茶色の小瓶は紙が貼り付けられ、何か見たことない言語が載っているが読めない。しかし、蓋の部分に白い上質な紙が巻かれておりそれは読むことが出来た。

 その紙には、こう書かれていた。


『飲めば疲労回復出来る飲み物。蓋の部分を矢印の方向に回せば開きます。この後のダンジョンに一杯どうぞ』

「「いや気遣い上手か!!!!」」


 紙の説明文に思わず二人でツッコミを入れてしまった。

 急に走らされて疲れたタイミングで疲労回復効果のあるポーションの入った宝箱を置いておくなんて、これがダンジョンのする気遣いなのか?

 散々驚かされ走らされて、更にはこんなポーションを最高のタイミングで設置しておくなんてこのダンジョンの主はどんだけ変わり者だ?一体このダンジョンは何がしたいんだ?俺たちの混乱する様を見て楽しんでるのか?それともただ純粋に気を使ってるだけなのか?

 疑問が多すぎて本当に困る。


『ねぇ、聞いたかしら?また下半身のない死体が発見されたんですって』

『あら、また『テケテケ』の仕業?やだわぁ、この時期になると怖くて夜道を歩けもしない。』


 そこで、どこからともなく誰かの会話が聞こえ始めた。

 周囲に人はおらず、聞こえてくるのは二人の若い女性らしき声のみだ。

 俺たち以外に誰もいないはずの場所に聞こえる声を不気味に思ったが、その会話内容につい耳を傾けてしまった。


『知ってるかしら?『テケテケ』が何故出てきたかっていうの』

『あら、あれって魔物じゃないのかしら?私てっきり、ゾンビの亜種なのかと…』

『それがねぇ、これがとっても可哀想なのよぉ。今から10年ほど前の、今みたいに寒い冬の夜にとある踊り子の娘が亡くなった事故があるそうなのよ。雪の降る夜に、人気のない道を歩いてた時に走ってきた馬車に轢かれちゃったらしいのよ。かなり猛スピードで走ってた馬車だったそうで、身体の上半身と下半身が真っ二つに別れてしまっていたそうよ』

『やだ…それは酷いわね…』

『でしょう?なにより可哀想なのが、このお嬢さん…なんでも身体が二つに別れてしまっても暫く生きていたそうなのよ…』

『ええっ!なにそれ、そんな事があるのかしら?』

『なんでも、寒さのあまりに別れた断面が止血されちゃったそうなのよ。それで、そのお嬢さんは死に際まで別れてしまった自分の下半身を這って探していたらしいのよ。』

『まぁ…。』

『そのお嬢さん、噂ではとても綺麗な足が自慢だったそうなのよ。それで、どうしても見つけたかったんでしょうねぇ…。死んだ今でも、自分の下半身を探して、次第に人気のない道を通る人から足を奪うようになったのが、『テケテケ』が誕生した理由なんですって』

『自慢の足が見つけられず、暫く苦しみながら生きていたってことでしょう?それを聞くと、なんだかそのお嬢さんも可哀想よねぇ…。』

『誰か、『テケテケ』を救ってあげられたらいいのに…』


 婦人達の会話はそこで終わり、誰の声も聞こえなくなった。

 正直俺は今、泣きそうになっていた。

 まさかあの化け物に、そんな悲しい過去があっただなんて思いもしなかった。

 ただ街を歩いてた所に、突然馬車に轢かれて、身体が真っ二つになった上に寒さですぐに死ねなかっただなんてあんまりだ。

 先程追いかけて来た『テケテケ』は確かに恐ろしい形相だったが、今思い出すととても別嬪さんのようだった。

 そんな娘があんな化け物になってしまった経緯を想像すると、思わず目頭が熱くなった。

 横のテッドを見てみれば、テッドは既に涙を流して泣いていた。


「テッド、お前何泣いてんだよぉ!」

「う、うるせぇ!泣いてねーよ!そう言うなら、お前だって泣いてんじゃねぇか!」

「だってよぉ…、あの化け物にそんな悲しい過去があったんだと思うと、つい涙が出ちまうんだよ…」

「俺たちが此処で泣いても、何の意味もねぇ。さっさとこのポーションを飲んで先を進むぞ!」

「うぅぅ…なんとか幸せな結末を迎えて欲しいな…」


 俺たちは目から流れる液体を手で拭い、茶色の小瓶の蓋を開けて中の液体を飲み干した。中の液体は独特な味わいなもののとても飲みやすく、甘くて美味かった。



 どうやら中の液体には紙に書かれていたように疲労回復効果があったらしく、飲んだら段々元気が湧いてきた。

 このダンジョンは心臓に悪いし妙な所で気遣ってくるしで本当に変わっているが、中に入ってる宝物は確かに上等だ。

 体力が回復した俺達は、手に入れたナイフを仕舞い、先を進んでいった。

 この先一体何が待ってるかは知らないが、どうかこの先待っている物語が主人公にも、『テケテケ』と呼ばれる下半身のない嬢ちゃんにも良いもので終わって欲しいと願っている。


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― 新着の感想 ―
[一言] 上から来るぞ!気をつけろ! なんだこの階段はぁ! せっかくだから、俺はこの赤の扉を選ぶぜ!
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