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精々、生き延びろ(ジャスパー視点)

「準備は、出来ているかい?」

「問うな。当たり前に決まっている」


 国の人間ならあまり近寄らない裏通り。

 娼館の前に立つ屈強な男達を遠くから伺いながら、二人の男達は頷きあった。

 そして一人の青年は堂々と道を歩き、娼館前の男達に声を掛けた。


「すみません、ちょっとお聞きしても良いですか?」

「あぁ? なんだぁテメェは」

「仕事中に話しかけてしまってすみません。道を聞きたくて……」

「道、だぁ?」


 男達は訝しげに顔を見合わせると、一斉にその青年の方を見た。

 そして、荒くれ者達は青年と目を合わせた。

 青年の瞳が持つ不思議な魅力に敵愾心を無くした男達は、初対面であるはずの青年に親しみを持った。

 青年ははにかんだ笑みを浮かべ、男達に問いかける。


「クラーク娼館っていう所を探しているんですが、何処にあるんでしょうか?」

「クラーク娼館なら今お前の目の前にある娼館がそうだぜ」

「だが、残念だったな。此方は裏口だ。正面口はあっちだ」

「えぇっ、本当ですか!? 可笑しいなぁ、教えてもらった通りに来たんだけど…」

「なんだぁ? 兄ちゃん若い癖にイケる口かよ」

「アハハ、お恥ずかしながら……。他国を回っているとこう、色々あるでしょう?」

「ギャッハッハッハ! 優男に見えて言うじゃねぇか!」


 青年の話術に惹かれ、一人の荒くれ者は友人のように青年の背中を叩きながら笑い声を上げた。

 他の荒くれ者達も同様だ。


「それで、兄ちゃん。紹介状はちゃんと用意してんのか? この娼館に来たっつうことは誰かの紹介で来たんだろ?」

「ああ、勿論ですよ。ちょっとまっててくださいね……」


 荒くれ者達の目の前で、青年は革袋に手を入れてみせた。

 荒くれ者達が青年の革袋の方に視線を向けていると、先程青年と短い会話をした獣人が暗闇に紛れて荒くれ者達の背後に忍び寄る。


「ぎゃっ!」

「ぐはっ!」

「な、なん――いぎゃっ!」


 そして獣人の青年はそのまま短刀の柄で荒くれ者達を気絶させた。

 荒くれ者全員を気絶させると、先程まで親しげに会話をしていた青年は特に驚く様子もなく、にっこりと笑みを浮かべて獣人の彼に言った。


「お見事」

「ふん。このくらい大したことじゃない」

「そんなに謙遜しなくても……」

「雑談は良い。さっさと侵入するぞ」

「ハハ、分かったよ」


 言葉を遮られ、苦笑を零しながらも青年――ソーマは目の前の相手の言葉に従う。

 獣人――に化けたコボルト、ジャスパーは眉間に皺を寄せながらナイフを両手に構えて、中の人間にバレないように音を立てず娼館の裏口を開けた。


##### #####


『誘拐組織への隠れ家に向かうのは、ジャスパーさんとソーマさんにしてください』


 アイネスからの指示には、そんな言葉が記されていた。

 突然指名された俺とソーマはアイネスに理由を問おうとしたが、その前にアイネスがメッセージで理由を説明した。


『ジャスパーさんはスキル、攻撃スタイル含めて隠密と戦闘に向いていますし、ソーマさんのユニークスキルは相手の油断を誘ったり聞き込みしたりするのに向いています。誘拐組織の隠れ家に奇襲して、証拠を集めるのには向いているでしょう。それに、気が強いアヤカさんとジャスパーはあまり気が合わないでしょうし、カナタさん相手だとお尻の心配で調査に集中出来ないでしょう』


 最後の言葉は余計だったが、それでも納得はついた。

 3人の中で唯一の女だった人間とは協力出来そうになかったし、軟派の人間は生理的に受け付けない。

 戦い方やスキルの相性からしても、俺と残った人間……ソーマという男はペアを組むのに丁度良かった。

 ソーマという男が魔眼で敵の油断を誘い、俺が隠密スキルを駆使して暗闇に紛れて敵を気絶させる。

 これだけの単純な作戦だったが、当初考えていた以上に順調に事が進む。

 これをアイネスは想定していたのか?

 もしくは――――


「流石、アイネスちゃんに奇襲を頼まれただけはあるね。一応武道は習っていたからそこそこ戦えるけど音を立てずに相手を奇襲する、というのは出来ないからとても助かるよ」

「……先に進むぞ」


 この男のスキルがそれほど強力な物だった、ということだろう。


 ソーマ・サオトメ。

 いかにも気が強そうな女とオークや夢魔以上に性欲の強そうな男との3人でやっている冒険者チームのリーダー。

 奴の持つ魔眼は、目を合わせた者が奴に対して親愛を抱くようになる。

 アイネスの話だと他にもユニークスキルを持っているだろうとの話だが、その他のスキルというものが全く分からない。

 あまり、信用ならない人間だ。


「……中に入ってもアイネスの匂いがない。恐らくこの娼館にアイネスはいないだろうな」

「じゃあ、瞳子さんは別の場所にいる、っていうことか……」

「別の場所を当たるか?」

「いや、僕達はこのまま証拠集めの方に集中しよう。もしかするとまだ移送中っていう可能性もある。サポート役に回ってくれているマサムネさんに瞳子さんがこの娼館にはいなかった事を連絡して、彼に瞳子さんの捜索を頼もう」

「無理にでも自分でアイネスを探す、という選択はしないのか」

「確かに瞳子さんのことは心配だし、彼女をすぐ助けたい気持ちはある。でもその気持ちを優先しすぎて証拠が得られないのも駄目だ。瞳子さんの捜索と救助はマサムネさんに引き継いでもらうよ」

「口ではアイネスの事が心配だ、と言っておいて優先するのは悪事の証拠集めか。薄情者め」

「生徒会長とかやっていると、私情で一人の生徒だけを贔屓するなんてことは許されないからね。電話で連絡してくれるかい?」


 軽く嫌味をぶつけてみるが、ソーマという男は苦笑いを浮かべて軽くあしらった。

 軟派な男の言葉だとファンクラブを立ち上げるほどの執心ぶりだと聞いていたが、あれは嘘だったのか?

 そんな事を思いながら、俺は自分の通信機器を手にとってマサムネに連絡を取る。

 マサムネはすぐに反応した。


『どうした? 何かトラブルか?』

「誘拐組織の隠れ家らしき娼館に来てみたが、アイネスの匂いは全くない。どうやら此処にアイネスはいないようだ。此方は証拠集めの方に集中するからアンタはアイネスの捜索と救助をしてほしい」

『どっか当てはあるのか?』

「それは――」

「ごめん、ちょっと替わって」

「あ、おい!」


 俺がマサムネと連絡を取り合っていると、横から奴が俺の通信機器を取った。

 俺が注意するのも聞かず、通信機器を介してマサムネと会話を始めた。


「もしもし、電話替わりましたソーマです。少しお尋ねしたい事があるんですが良いですか?」

『ん? おお、どうしたんだ?』

「瞳子さんが付けていたベールとネックレス、あれを作ったのは誰ですか?」

『ベールとネックレスだぁ? それならうちのダンジョンのとある旦那二人だぜ。それがどうした?』

「じゃあその二人に連絡を取れませんか? 多分それで瞳子さんの位置が大体分かるかもしれない」

『あぁ? 根拠はなんだ?』

「多分あれ、位置を特定する魔法が付与されていると思うので」

『「位置の特定!?」』


 ソーマという男が言った言葉に、俺とマサムネは声を合わせて驚いた。

 あのアークデビルロードとフェアリーロードの二人がアイネスの付けているアクセサリーにそんな細工をしていたということか?

 ……何故だろう。あの悪魔ならありえなくもないと思っている俺がいる

 だが、まさかフェアリーロードの方までもそんな魔法を付けていたとは


「情報を隠す為の魔法が掛けられていましたが、<鑑定>で付与されている魔法は大体分かりました。確かどっちにも位置特定魔法がついていましたよ」

『あー……、一応聞きたいんだが、他にはどんな魔法がついているんだ?』

「僕が読み取れた範囲だと、位置特定に自動反撃魔法に自動回復魔法、精霊の結界に速度上昇、防御力上昇、それに瞳子さん以外の人間が彼女のアクセサリーに触れた時に拒絶するための呪いと一定条件下での威圧効果と瞳子さんに怪我をさせた相手が3日間悪夢を見る呪いと……」

『あー、分かった分かった。もう十分だ。ったく、どんだけゴリゴリの魔法を掛けてやがるんだ、うちの旦那らは……。内心、自分らが同行できない事が不満だったってことか……』


 次々と挙げられていく付与魔法の数々に、マサムネが途中で制止してため息をついたのが聞こえた。

 正直俺も引いている。

 あの二人、そんなに魔法を掛けていたのか。

 心配していたのかとかを通り越して気持ち悪いぐらいの執着心だ。


『にしても、よく分かったな。あのアクセサリーにそんな魔法が掛かってたなんて』

「僕達がいた場所でも似たような物を瞳子さんにプレゼントしようとする人も一人二人いましたからね。そういうのは事前に回収して全部送り主に送り返して、二度とそういった真似をしないように忠告をしていたので、ああいった“マーキング”目的の代物はなんとなく分かります」

『兄ちゃんもどっこいどっこいじゃねぇか』

「皆が平和に学校生活を過ごしてもらうのが生徒会長としての仕事なので」

『皆が、つーか嬢ちゃんが平和に過ごすため、だろ』

「それと、瞳子さんを誘拐した人の仲間らしい人には絶対に容赦しないでください。もうグサッてやっちゃってください」

『しかも容赦ねぇな! 兄ちゃん内心ブチ切れまくってるだろ!』


 前言を撤回する。

 この男はあのベリアルと並ぶぐらいに執着心が強い。

 一見爽やかな笑みを浮かべているが、内心アイネスが誘拐された事を怒っている。

 この男が妙に冷静そうであっさりと証拠集めの方に移行すると決めたのは、あのベールとネックレスを付けている限りアイネスの身体に危害が加えられないって分かってたからだ。

 それを情報共有しない辺り、この男はそこそこ腹が黒い。


「はい……、はい……。じゃあ、よろしくお願いします」

「……連絡は終わったのか?」

「うん、瞳子さんの捜索と救助はあの人がしてくれるって言っていたよ。あ、スマホを返すよ。それじゃあ、先へ進もうか」

「ああ……」


 笑顔を浮かべて先へ進む事を促す男。

 やっぱりコイツも受け付けない。

 というか人間は全般無理だ。


##### #####


「この下に、何か血の匂いがするぞ」

「こっから先が誘拐組織の隠れ家ってことだね。表向きは娼館として活動していて、裏では誘拐と人身売買をしていたって事か」

「入る順番はどうする」

「さっきみたいに、僕が先を行って中の人達に油断させて、君が仕留めていく形にしよう」

「分かった」


 娼館の中を調べていくと、地下室へ続く隠し扉を見つけた。

 隠し扉の先からは微かに血と人の匂いがする。

 先程までと同じようにソーマという男が前へ、俺が後ろから様子を伺う事で先を進むことになった。

 地下室へ続く螺旋階段を降りていくと、徐々に血と人の匂いは強くなっていく。

 その匂いに、俺は内心嫌な予感を感じていた。


 それでも階段を降りて行けば、俺達は一つの扉を見つけた。

 ソーマと顔を見合わせ、扉を開けて地下の部屋の中を見た。

 そこで見えた惨状に、俺とソーマは目を見開いた。


 薄汚れた布を着せられた、ボロボロの亜人や子供。

 その数は此方が予想していたよりも遥かに多い。

 檻の中に閉じ込められている奴らの目は皆死んでいて、禄に食べ物を与えられていないのかやせ細っている。


 種族は違っていたが、その姿は生を諦め切った仲間達の姿とよく似ていた。


「これは……酷いね。すごく気分が悪いよ」


 口元を手で覆い、顔色を悪くさせるソーマ。

 そういえばアイネスが「自分は戦いとか死体とかには縁遠い地にいた」と言っていた。

 アイネスと同じように、この男もこういった惨状には耐性がないんだろう。


「おい、誰だテメェら!」

「誰の許可を取って此処に!」


 奥の扉から裏口前にいたような人間共が何人も姿を現す。

 ソーマが目を合わせて魔眼を発動したが、狭い通路に人間が何人も出てきているからか全員に掛けられていないようだ。

 一番奥の人間が、何かを掴んで引きずっている。

 俺は目線を下ろし、それが何かをその目で見た。


 それは、赤黒い液体と独特な匂いの液体に塗れ虚ろな目をした、女の子供だった。


――――――殺す。


 俺は目の前の人間を押しのけ、奥にいる人間共にナイフ片手に襲いかかる。

 獣人になっているせいで人間どもの頸動脈を食いちぎるなんて真似は出来ないが、それでも武器はある。

 

「な、はやっ……ぎゃあ!」

「うわぁぁぁ!」


 ナイフを両手に構え、目の前の人間達の身体を滅茶苦茶に斬りつける。

 あちこちで悲鳴や怒号や叫び声が聞こえるが、何を言っているのか理解出来ない。

 人間に対する憎しみと怒りが、俺を動かしていた。


 憎い。憎い。憎い。人間が憎い。何もかもが憎い。自分さえも憎い。

 殺す。殺す。殺す。全て殺さなければ。目の前の人間共を、全て。

 痛みも、苦しみも、音も、何も感じない。

 とにかく目の前の奴らを殺らなければ。

 仲間が傷つけられる前に。大切な者が失われる前に。

 全てが、手遅れにならないように。


「お、おい!この娘がどうなっても―――ぐへぇ!!」


 憎い、憎い、殺す、憎い、殺す、殺す、憎い、憎い、憎い、殺す、憎い、殺す、憎い、殺す、憎い、憎い、憎い、憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い憎い殺す憎い殺す憎い殺す殺す憎い憎い憎い憎い憎い!!!!


 全部! 全部!! 全部!!!

 全てが、憎い!!!!!!!!




『お前は、本当に仲間想いだな。』

『だから私が憎くて良いんですよ。復讐心は決して、悪いことばかりじゃありません。どれだけ時間が掛かっても良いんです。いつか、自分の負の感情と向き合って溶かす事が出来るその時まで』




……本当に、全部か?




「《ジャスパーくん》!!!」

「ハッ……!」


 頭の中まで響き渡るその呼びかけに、俺は意識を浮上させた。

 目の前には、此方に目を合わせてくる人間がいる。

 息が詰まって、呼吸がし辛い。

 その人間は冷静な口調で、俺に言う。


「ハァッ、ハァッ、ハァ……」

「ジャスパーくん、そのままの体勢でいい。《ゆっくりと深呼吸をするんだ》」

「スー……ハー……スー……ハー……」 

「そう、それで大丈夫。このまま《完全に落ち着くまで目を合わせていよう。大丈夫だよ、もう危害を加えようとする人間はいない》」


 脳に直接響き渡るような言葉が、俺に向けられる。

 その言葉達が昂った感情でぐちゃぐちゃになった頭を冷やし、視線を合わせることで憎悪を抑えられなくなった心を落ち着かせる。

 俺は呼吸を落ち着かせながら、そのまま人間の……ソーマという男と目を合わせ続けた。

 ソーマはそのまま話し続ける。


「凄いね、かなりの暴れっぷりだったけど全員息があるし、急所は避けられている。《君は誰も殺していない》」


 耳を澄ましてみれば、確かにあちこちから男のうめき声が聞こえる。

 先程現れた人数分の声がちゃんと聞こえている。

 そうか、ケネーシア王国に入る前にした約束が強制命令として判断されて、無意識に殺す事を避けたのか。


「男に捕まっていた女の子も、僕も、檻の皆も全員怪我はない。《君は人に危害を加えたんじゃない。人を守る為に動いたんだ。君は、人を救ったんだよ》」


 内容は反吐が出るような綺麗事。

 だけど何故か頭の中にスッと入っていく。

 やがて呼吸が落ち着き、冷静になった俺はそっと目を閉じた。

 両手のナイフを振って血と脂を払ってから仕舞い、周囲を見渡す。

 檻と檻の間の通路には男達がかなり酷い有様で倒れている。

 だが、確かに誰一人として死んではいなかった。

 ソーマの方を見てみれば、横には先程男に引きずられていた人間の娘が壁にもたれて意識を失っていた。

 ソーマは優しくその娘の頭を撫でながら言った。


「大丈夫、気を失っているだけだよ。倒れている男たちに付けられた傷は君が男達の相手をしている隙に回復魔法で全部治しておいたから怪我もない」

「おい、先程のはなんだ?妙にアンタの言葉が頭に響いて来たが」

「僕のもう一つのユニークスキルさ。<言霊(コトダマ)>って言って、相手の心や魂に直接言葉を訴えかけるスキル。使い方次第では自分の命令を従わせたり思い通りに操ったりなんて出来るらしいけど、そういう使い方はあんまり好きじゃないからこういった時にしか使わないんだ」

「……優男め」

「良く言われるよ。その様子だと、もう大丈夫みたいだね。安心したよ」


 ソーマは俺に手を向けると、無詠唱で何かの魔法を使う。

 身体中についた血や汚れが全て取れ、綺麗になった。

 身体や服の汚れを綺麗にする魔法か。


「さて、と。このまま放置すると倒れている人達が皆失血死で死んでしまいそうだね」

「回復魔法を掛けるのか?」

「いいや、止血だけして放置する。彼らは暫く痛みで苦しんだ方が良いよ」


 そう言ってソーマは呻き声を上げている男達に冷たい視線を向けた。

 この男、そんな視線も人に向けられたのか。

 檻の中の者たちに「あとで騎士達が来ますので、安心してください」と伝えて奥の部屋へ入ろうとするソーマに、ある質問をぶつけた。


「おいアンタ、気にならないのか?」

「ん? 何がだい?」

「俺が急に正気を失って、暴れだした事についてだ。自分に危険があったなら普通は聞くだろう」

「うーん、確かにそれは気になるけど、そういうのはあまり聞かない方が良いことだろう?」

「まあ、そうだが……」

「じゃあ聞くつもりはないよ。そういうのは今日会ったばかりの人間が介入するべき事でもないしね」

「……」

「それに、別に危険とかはなかったしね。彼らに襲いかかる時、一番近くにいた僕には襲いかからなかったし、この女の子が人質に取られそうになった時は彼女を避けて男を一撃で気絶させていた。その後は弱そうな女の子に一切手を出していない」


 確かに、この男の言う通りだった気がする。

 ほぼ正気を無くしていたのであまり覚えてはいないが、無意識にこの男と人間の娘を避けて攻撃していた。

 何故だ?

 あの時、ふとホワイトとアイネスの言葉が頭に過ぎったが……

 ……まあ、偶然だろう。


 そんな事を考えていると、ソーマは奥の扉を少し開けて様子を伺っている。

 やがて誰もいない事が分かったのかソーマは奥の扉を開け、俺に声を掛ける。


「早く証拠集めの方に取り掛かろうか。早めに用事を終わらせて、瞳子さんを助けに行かなければいけないしね」

「……俺に命令するな。そんな事は分かっている」


 頭を振ってこれ以上立ち尽くすのを中止して、ソーマと共に先へ進む事に専念する。

 周囲を警戒しながら、王宮を出る前に届いたアイネスのメッセージを思い出す。


『ジャスパーさんが分身してパーティーに参加していた? あー、確かにそれは名案でしたね。私もそれがあればあんな視線の嵐に遭わなかったかも……』

『あれ? なんか怒ってねぇ感じ?』

『なんで怒るんです? 別に怒る要素はないのでは?』

『だって、本体いたら誘拐されなかったかもじゃん』

『確かにジャスパーさん本体がいたら未然に拉致を防げてた可能性がありますけど、別に絶対じゃないですし。むしろ一緒にいたのが分身だったから無闇に戦闘を繰り広げて私やジャスパーさんが怪我するなんて事がなかったんですし、パーティーを中止するような出来事にならなかったから良いじゃないですか。私嫌ですよ、私が誘拐されそうになったから、ということでパーティー中止になるの。責任を負わされる、とはいかずとも私に気まずい視線向けられまくるじゃないですか。過ぎた事をあれこれ言っても仕方ないですし、さっさと次に進みましょうよ』


 俺自身も色々気にしていたというのにあんなに容易く処理してしまうなんて、正直文句を言ってやりたい。

 そのためにも、この仕事をさっさと済ませてしまおう。


 精々それまで、ひぃひぃ言って生き延びていろ。

 心の中で、そう毒づいてやった。



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― 新着の感想 ―
[一言]  次はテオドール様視点かな。腹黒と色魔のPTとか、同行している騎士隊が心配やで。
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