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自分が悪くないなら、胸を張って堂々と(ライアン視点)

『単刀直入に言いましょう。今回の誘拐事件、そして二日目の拉致未遂とお茶会内での騒動の黒幕はデーヴェ大臣です。これは推定でも、推測でも、想像でも、机上の空論でもない。ただの事実です』


 アイネスちゃんから送られた、今後の行動に関する指示で最初に送られたのはこのメッセージだった。

 王太子の……テオドールくんは少し驚いていたけれど、アイネスちゃんのメッセージに疑いを掛ける事はなかった。

 アイネスちゃんの頭脳を信頼しているのか、もしくは彼の中でもその人が怪しいと疑っていたからか……それかその両方、という事だろう。

 

『ソーマさん達に聞けば分かりますが、マリアさん達の討伐を依頼したのはデーヴェ大臣でした。きっと、ソーマさん達が来た時に偶然3人が冒険者である事を知って、討伐を依頼することを突発的に思いついたんでしょうね。でなければ自分の直属の部下に依頼を出させるとか巧妙に出来たんでしょうけど、二日目に拉致に失敗して色々切羽詰まってたんでしょう』

『ただ、この件に於いて最もややこしいのが、デーヴェ大臣とグルになっている人……要は共犯者ですね。誰か組織的に動いている人間とグルじゃなかったら、私の誘拐なんて頼めませんよ。傭兵たちに依頼すると、途中で裏切られる可能性がある。かと言って、直属の部下にやらせれば芋づる式で捕まりかねない。そうやって消去法的に考えて一番有り得そうなのは、最近噂になってる拉致や誘拐を行っている組織ではないでしょうか?』

『誘拐組織の人間と繋がりがある、ということは私の誘拐を依頼するのにやり取りした痕跡が残っているかもしれません。皆さんには、今から言う場所のいずれかから証拠を探してきて欲しいです』


 アイネスちゃんが提示した、証拠が残っている可能性がある場所は全部で3箇所。


 1つ目はデーヴェ大臣の屋敷。

 これは、テオドールくんが騎士たちを数人と共に調査に行く事となった。

 アイネスちゃんを攫ったであろう犯人とはいえ、今はまだ此方の推測の域でしかない。

 見知らぬ魔物や人間より、この国の王太子が兵を出して屋敷の中を調査するのが適任だろう、という判断だった。


 2つ目は誘拐組織の隠れ家。

 これはジャスパーくんと、アイネスちゃんの元同級生だという冒険者の一人、ソーマくんが向かうことになった。

 スキル<マップ>を使って隠れ家の位置を特定出来るソーマくんと、攻撃向きスキルの多いジャスパーくんが手を組んで誘拐組織の隠れ家に潜り込むらしい。

 此処が一番アイネスちゃんのいる可能性が高い場所だから、慎重に行くらしい。


 ジャスパーくんとソーマくんのサポート役には、マサムネさんが志願していた。

 何か秘策があるのだとか。

 テオドールくんに耳打ちで何か伝えると、テオドールくんは驚きつつも了承の言葉を出していた。

 更にマサムネさんはアイネスちゃんに他にも仕事を任されていたけど……一体何なのだろう?


 最後はデーヴェ大臣の執務室。

 此処が最も証拠が残っている可能性が高い場所らしい。

 そこへ向かうのはボク、ライアンと、もう一人……


「なんでウチがこもり子ちゃんの救助に同行出来ないのよ……! ソーマの奴、あとでただじゃおかないんだからね!」

「はは……」


 頬を膨らませ、苛立たしげに不満を呟くアヤカちゃんの様子に、ボクは肯定も否定もせずに苦笑を零した。

 

 アヤカ・モモスミ。

 アイネスちゃんの元同級生で、冒険者をしている三人組の一人。

 ボクはこの女の子の対応にかなり困っていた。

 アヤカちゃんがすごい嫌い……というわけではないけれど、彼女の性格はボクにとって苦手の部類に入っていた。

 高飛車で、怒りっぽい性格。

 見た目のジャンルとしてはマリアちゃん寄りで、性格や嗜好が少し掛け離れすぎてて共通の話題が思いつかない。

 マリアちゃんとは化粧や服の話で盛り上がることが出来るけれど、彼女の口調は何処か押し付ける感じに感じてしまってあまり此方の意見を聞いてくれなさそうだった。

 それにアイネスちゃんの昔からの大ファン、と聞いたけれど、そんなアイネスちゃん相手にもキツい言葉をぶつける彼女にあまり良い印象を抱かなかった。

 彼女と同じ仲間のカナタくんが言うには、アヤカちゃんは『つんでれ』というものらしいけれど、ああ言うのはもう少しデレが分かりやすいんじゃなかったかな?

 何よりボクがアヤカちゃんを苦手にしていた理由は、アヤカちゃんはあるウィッチに性格がかなり酷似していたから。


 エルダーウィッチ、シズク。

 前のダンジョンの幹部で、ボクやレイラ達を見下して酷使してきた魔物だった。

 ボク達ウィッチは女性の魔物だった、ということでコボルト達のようにサンドバッグのようにされなかったけど、その分彼女からは酷い扱いを受けていた。

 毎日大量のポーションを作らされ、少し休めば怒鳴られ、頬を叩かれる。

 機嫌が悪い時は魔法をぶつけられた事もあった。

 そんな彼女に、アヤカちゃんはよく似ていた。

 アヤカちゃんにシズクさんの言動と写し合わせて八つ当たりをしよう、という気持ちは一切なかったけど、どうしても苦手意識を拭えなかった。


(3人の中でまだ気性の穏やかそうなソーマくんや、ボク的には有り難い話を聞かせてくれそうなカナタくんと一緒ならまだなんとかなったんだろうけど、アヤカちゃんとはどうしても気まずくなっちゃうなぁ……)

「ちょっと、何考え事しているのよ! さっさと証拠を探してこもり子ちゃんを助けに行くわよ!」

「あ、ああ。そうだね」


 アヤカちゃんへの対応に困っていると、アヤカちゃんがキッとキツい視線を此方に向けて小声で叫んできた。

 ひとまず今は、アイネスちゃんに頼まれた事を達成することに集中しよう。

 事が終わったら彼女と会う機会も殆ど無くなるだろうし、今無理に仲良くなる必要もない。

 そう結論づけたボクは、アヤカちゃんと共にデーヴェ大臣の執務室へと向かう。

 


「あれが目的の場所かな?」

「見張りまで付けて…あからさまに怪しいわね」


 テオドールくんに教えてもらった場所へ辿り着くと、デーヴェ大臣の執務室らしい場所を見つけた。

 扉の前には屈強そうな兵士が二人立っていて、デーヴェ大臣の執務室を守るように周囲を伺っている。

 アイネスちゃんの推測通り、何か証拠を置いている可能性が高そうだ。

 壁の向こうで見張り達の様子を伺っていると、アヤカが話しかけてきた。


「アイツら、どうすんのさ? 力づくで倒す?」

「いや、それだと応援を呼ばれる可能性があるから駄目だ。ここはボクに任してくれ」

「一体何すんの?」

「まあ、見てて」


 アヤカにウィンクを返し、ボクは見張りにバレないように魔法陣の構成を行う。

 魔法陣の構成を終えると、手前側の兵士に向けて魔法を掛ける。

 すると見事に魔法は掛かり、手前の兵士の目が虚ろになった。

 手前の兵士の異変にもう一人の兵士が気付き、彼に声を掛けた。 


「おい、どうした? 何かあったのか?」

「お前……、よく見ると、良い顔しているよな」

「は?」


 頬を赤らめ、息をはぁはぁと荒げながらもう一人の兵士に徐々に距離を詰める男。

 その姿は、猛烈な恋心を抱く女性のようにも見えたし、発情期のオークのようにも見える。

 彼の様子に自分の貞操の危機を感じ取ったのか、顔を青ざめて後ろへ後ずさった。


「ひっ、止めろ! 近づくな!」

「そんなこと言うなよぉ……。ちょっと良いことしようぜ……」

「うわっちょ、来るなああああああ!!!!」


 目にハートを浮かばせ、メロメロ状態のまま飛びかかろうとする男から逃亡を図るもう一人の兵士。

 そうしてそのまま兵士達は奥の方へと走って何処かへ行ってしまった。

 その姿を見て、ボクはガッツポーズを取る。


「アイネスちゃんからアドバイスを受けつつ、レイラ達と力を合わせて編み出した強制発情&誘惑魔法……。一度魔法に掛かれば自分の近くにいる同性に恋してしまってアプローチしたくてたまらなくなる。発情効果が強すぎて展開に甘さが全くないのと効果時間がまだまだ短いのが玉に瑕だけど、どうやら今回は成功したようだね!」

「あ、アンタ、なんて凶悪な魔法作ってんのよ……」

「大丈夫、人体には一切害はない至って安全な魔法だよ」

「精神的に安全じゃないでしょこれ。魔法に掛かった方の兵士、効果が切れた後にゲイだって噂されて社会的に大ダメージを受けるっしょ」


 興奮気味に語るボクに対して、アヤカちゃんはドン引きした視線を送る。

 どうやらアヤカちゃんはアイネスちゃんと違ってこういった趣味に関心はないみたいだ。

 残念。同志が増えるんじゃないかなって期待してたんだけど。


「さぁ、兵士達が戻らない内に執務室の中に入ってしまおう」

「な、なんか釈然としないけど……分かったわ」


 兵士達が追いかけっこをしている間に、ボク達はデーヴェ大臣の執務室へと侵入した。

 一見普通の執務室に見えるけれど、どうも空気が淀んで感じるのは魔物としてこの執務室の主の邪悪さを感じ取っているからかな?


「書類が結構多そうだね……これらを一つ一つ調べていったら時間がすごく掛かりそうだ」

「問題ないわ! ウチの<鑑定>で一気に探してやるわ」

「そんなことが出来るのかい?」

「異世界特典スキルだから、普通の<鑑定>とちょっと違うのよ。こもり子ちゃんだって、前は使えなかったけど今は使えるようにはなってるんでしょ?」

「うん。ただ、口調がウザくて若干多用したくないって言ってたよ」

「は? ウザい?」


 ボクの知識の中にある<鑑定>は、一度の使用で単体の物の価値しか分からなかったはずだ。

 アヤカちゃんが当たり前のように言っているような、部屋にあるもの全てを<鑑定>して一つの物を見つける、なんて使用方法は出来なかった。

 やっぱり、異世界転移者が持つスキルと元々の世界の人が持つスキルでは能力の差があるんだろう。

 だけど、今回はそれのお陰で証拠集めが捗りそうだ。


「うわっ、悪事の証拠がこんなに隠れて……あのオヤジ、どんだけ悪いことしてたのよ」

「それらの証拠も持っていっても良いかもしれないけど、今回探すべきなのはあくまで誘拐組織との繋がりの証拠だ。確認していくから、証拠らしき物がある場所を教えてくれ」

「分かってるわよ。まずはその本棚のそことそことそこと……」


 アヤカちゃんに言われた場所を調べてみると、二重底や認識を誤魔化す魔法で隠されている、怪しげな書類や記録があった。

 魔法を解除して書類や記録を見てみれば、かなり悪どいことが記されている。

 中には、アイネスちゃんの言うように誘拐組織とのやり取りの手紙や、奴隷として購入したい女性達の条件なんてものが書かれたものまであった。

 流石にこれを見た時は気分が悪くなったし、アヤカちゃんはかなり激高している様子だった。

 黙々と作業を進めていると、証拠品を<アイテムボックス>の中に入れているアヤカちゃんが此方に話しかけてきた。


「ねぇ、ちょっと聞いていい?」

「どうしたんだい、アヤカちゃん?」

「アンタってさ、なんで男装してるわけ? そういう趣味があるとか?」

「ああ、その事か……」


 突然男装について質問された事に少し驚いたが、そういえばお茶会の時に<鑑定>を使われて種族と性別がバレていたのだった。

 その質問に答えることに躊躇はしたものの、既に性別がバレているなら良いだろう。

 ボクは正直に答えることにした。


「ボクは召喚された時から心が男なんだ。アイネスちゃんは、「とらんすじぇんだー」って言ってたよ」

「トランスジェンダー……魔女なのに、心が男ってこと?」

「アイネスちゃんの元に来るまでは他の皆と同じように女性として振る舞っていたけど、アイネスちゃんに気にすることないって言って、ある劇団の動画を見せてもらったんだ。それ以来、自分の好きな格好をさせてもらっている」

「ある劇団……それって女性しかいない歌劇団のこと?」

「! 知っているのかい?」

「当たり前じゃない。歌劇団とベクトルは少し違うけど、ウチは家族全員そういった業界にいるの。こもり子ちゃんがアンタに見せそうな劇団の動画なんてなんとなく分かるわ。実際、その歌劇団の劇のDVDだって何度か見たことあるわ」


 意外だった。

 まさか、ボクが尊敬する歌劇団の事をアヤカちゃんが知っているなんて。

 彼女はもっとこう、レジェンドウルブスのようなものが好きなのかと思っていた。

 そしてボクは、彼女の次の言葉に更に驚かされる事になった。

 

「てか、バッカみたい! こもり子ちゃんに言われなきゃ自分の好きな格好も出来ないなんて!」

「え?」

「人の格好なんて、誰かにとやかく言われて変えるものじゃない。自分が変えさせるものってことよ」


 ツンっとした態度で言い切る彼女にボクは思わずアヤカちゃんの方を見た。

 アヤカちゃんは、高飛車な態度のまま、毅然として言った。


「ウチのパパは役者で、本当に色んな役をやっていたわ。一人の女性に恋する青年の役や勝ち気な女教師の役、子供の役も老人の役も、様々な役を演じていたわ。ウチとママはそんなパパの事が大好きだったし、別に女装したパパの事をダサいなんて思ったことはない。むしろ、サイキョーにイカしてるって思ってる。アンタみたいに人の目を気にしてクヨクヨなんてしたことなんてなかったわ」

「……厳しい意見だね」

「ファッションや芸能界だって似たようなものよ。一風変わったデザインを提案した奴を皆でからかって馬鹿にして、それが一気に流行ったら手のひら返し。逆もまた同じ。人なんて、大衆の言葉か一番目立つ奴の言葉に扇動されて自分の意見を変える。他人を気にして弱気になったり、ビビって隠そうとしたりするから馬鹿にされるの。自分が悪くないなら、胸を張って堂々と歩いていれば良いのよ」

「胸を張って堂々と、かぁ。それは、アイネスちゃんの受け売りだったりするのかい」

「……そうよ」


 ボクが尋ねてみると、アヤカちゃんは特にはぐらかす事もなく肯定の意を返した。

 そしてボクが問い返す前に、アヤカちゃんは話を続けた。


「ウチのパパとママってどっちも娘のウチの事が大大大っ好きで、子供の頃はそれはもう甘やかされてきたの。それで自分が世界のお姫様って勘違いしてたウチは学校の中でも自分勝手に過ごしていたわ。本当、我儘で高飛車で、意地の悪いお姫様みたいな性格してたわ。周りの同級生達も先生も、パパとママ目当てでウチの下僕みたいにへりくだってウチに媚び売ってたしね」

(あ、自分が高飛車だってことは自覚しているんだ)

「先生も同級生達も、ウチをちやほやしていた中で唯一態度を変えてなかったのがこもり子ちゃんだったの。ウチとこもり子ちゃんって小学2年の頃から同じクラスだったんだけど、クラス替え初日にウチがあの女に「ウチの召使いにしてあげる!」って言ったのよね。今思い出すとホント馬鹿な事言っているって思うけどさ」

「うわぁ……」


 アヤカちゃんが肩を竦めて過去の自分の発言に呆れた様子で言った言葉に、ボクは思わずそんな声を漏らしてしまった。

 環境が原因なのだと思うけど、初対面だったアイネスちゃん相手に上から目線で「召使いにしてあげる」って言うとは、今よりずっと性格がキツかったんだろう。

 これは先生達が苦労してそうだ。


「でもこもり子ちゃん、その時なんて返したと思う?! 『自分で稼いで給料払えるようになってから出直してください』って言ったのよ?! 有り得なくない? 少なくとも小2の言う言葉じゃねーし!」

「アハハ、子供の頃のアイネスちゃんも中々キツいこと言うね……」


 どうやらアイネスちゃんも、キツい言葉を返していたようだ。

 確かにそんな言葉を断る気持ちも分かるし、自分は他の皆と同じ生徒でしかないアヤカちゃんが親のステータスを盾にして無償で侍従のように働かせるのはおかしいと思うのも分かるけど、給料とかなんて子供が言う発言じゃない。

 というかアヤカちゃんが自分で給料を払えたら召使いになってたのかい、アイネスちゃん?


「ホントムカついたし、腹が立ったわ。しかもそれ言ったら此方の言葉は全スルーだし。だから小2の頃は軽く悪口を言ったりちょっかいを掛けたりなんてよくしたわ。全部断られるかスルーされるか長々と難しい話を言われて説教されるかで終わりだったけどね」

「め、メンタル強いね……」

「自分の思い通りにならなかったことが本当ムカついて、周りのクラスメイトに八つ当たりすることも少なくなかったわ。でも、それがいけなかった。ある日ウチとこもり子ちゃんのクラスメイトだったソーマの給食費が紛失した事があるの」

「給食費、というとお金が失くなったのかい?」

「そう。それでその盗難の犯人として、ウチに濡れ衣が着せられかけた事があったわ」


 アヤカちゃんの話によると、その日アイネスちゃん達の担任の教師が職員室に持ち帰って数を確認した際に給食費の紛失が発覚したらしい。

 そして教師が給食費を職員室に持っていく直前にいた生徒が、アヤカちゃんしかいなかった。

 アヤカちゃんの家族の経済的に、アヤカちゃんが給食費を盗む必要なんてなかった。

 でも、それまでのアヤカちゃんの我儘な言動を知っていた皆は、一気にアヤカちゃんに疑念を掛けた。


「自業自得、ってやつね。その日の放課後に学級裁判……犯人を突き止める為の集まりが行われたわ。給食費がなくなったと思われる時間帯は先生の手伝いをしていたこもり子ちゃんは議長になった。それで、学級裁判が始まった途端に皆ウチが盗んだろうって疑いを掛けてきたわ。「遊ぶお金欲しさにやったんだろう」とか、「いつもみたいに自分勝手なことを考えたんだ」とか、もう言いたい放題。担任の先生自身も、「アヤカちゃん、正直に言って頂戴」って言ってきてさ。あの時は、本当に苦い思い出だったわ」

「誰か、キミが犯人じゃないって庇ってくれる子はいなかったのかい?」

「ソーマ以外いなかったわ。ソーマも皆を宥めることに必死で、カナタは何も言わずに傍観してて、誰もウチが犯人じゃないって言ってくれる人はいなかった。今までウチをちやほやしてきた奴らが皆手のひらを返してウチを罵って、決めつけるの。その圧力がとても怖くて、今までの気の強さや我儘っぷりが嘘みたいに、ウチは背中を丸くして机を見て泣きそうになってたわ」


 そんな時、強く手を叩いて全員の糾弾を黙らせて静寂に包み込ませたのが、今までずっと黙って皆の事を見ていたアイネスちゃんだった。

 アイネスちゃんはアヤカちゃんを非難する担任教師とクラスメイト達を黙らせると、アヤカちゃんに言った。


『やっていないなら、いつもみたいに堂々と胸を張って言い切ればいいじゃないですか。「自分はやってない」って』


 その言葉にアヤカちゃんが目を丸くしていると、アイネスちゃんは議長席から立ち上がって、ある生徒の方へと近づいていったのだ。

 アヤカちゃんではなく、普段から真面目そうな女の子の方へと。

 そしてその生徒の前に立つと、その子のランドセルを指差して言ったらしい。


『そのランドセルの中身、見させてもらっても良いですか?』


 当然その子は拒絶した。

 何故、給食費を盗んだアヤカちゃんじゃなくて、自分がそうしなきゃいけないんだ、と。

 アイネスちゃんはそんな拒絶の言葉に「何もないなら、見ても良いでしょう?」と返した。

 そしてそのままその子のランドセルを手に取り、ランドセルを開けてそのまま逆さまにひっくり返して中身を出した。

 そしたら、いとも簡単に給食費が見つかったらしい。

 アヤカちゃんのクラス内での評価を下げるため、その生徒は職員室で教師に用があると見せかけてこっそりと給食費を盗んだらしい。


「その日はこもり子ちゃん、さっさと帰宅準備を進めて帰っちゃったんだけど、翌朝に聞いてみたのよ。「なんでウチが犯人じゃないって思ったのか」って」

「それで?」

「……こもり子ちゃん、こう言ったのよ。「芸能界にいる両親を尊敬している貴方が、犯罪を起こして彼らの経歴を傷つけるような事はしないだろう。それに、真正面から悪口を言う貴方が、人の物を盗んで自分の物にするなんて姑息な真似はしない」って。ウチがそんなことをしないのが当たり前のように言ってて、本当呆れちゃったわよ。散々悪口を言われてちょっかいとか掛けてられてた癖に、そんな事を面と向かって言えちゃうんだって。……とっても、格好良かったわ。」

「それは、本当にかっこいいよね。思わずファンになってファンクラブを立ち上げてしまうくらいには」

「ええ……って、なんでウチがKHFの副会長だって知っているのよ! まさかカナタから聞いたの?!」

「どういった経緯でかまでは聞いたことなかったけどね。でも、確かにそんな経緯があったなら確かに納得かな」


 誰も本当の自分のことを見てくれなくて、叱る事もしてくれない。

 本当に困った時に殆どの人間が皆味方してくれなくて、手のひら返して自分を非難して、心がドンドン削られていく。

 そんな時にアイネスちゃんは、彼女のための行動をした。

 彼女の無実を証明するために、彼女以外に犯人がいると証明するために。

 非難の嵐に参加することなく周囲の様子を伺って、犯人と紛失したお金の隠し場所を推測して、実際にそれが真実であるかを確認した。

 媚びへつらうことなく、私情を持ち込まず、表面だけで事実を決めつけることをせず、ただただ現実的に、対等に見て。

 そんなことは、普通は出来ないし、やろうとは思わない。

 アイネスちゃんは周りがアヤカちゃんをちやほやして甘やかす中、唯一アヤカちゃんの誘いを断って、叱ったりとしてあげていた。

 ちゃんと自分のことを見てくれていて、困った時に助けてくれる。

 そんなの、格好いいに決まっている。


 アヤカちゃんはどうもその性格から素直になれないようで、頬を真っ赤に染めて怒り気味に話題を変えた。


「あーもー! ほら、さっさと証拠集めの続きをするわよ! ウチらには他にも、無様にも誘拐されたこもり子ちゃんの救助の手伝いにも行かなきゃならないんだから!」

「うんうん、その通りだね。早くアイネスちゃんの無事な姿を確認しなきゃいけないからね」

「あ、温かい目でウチを見んなし!」

「アハハ、ごめんごめん」


 どうやらボクも、彼女の表面的な所しか見えていなかったようだ。

 確かに彼女はシズクさんに似ているけどシズクさんより気高い意志を持っているし、アイネスちゃんのことを本当に尊敬している。

 今までの強い口調がアイネスちゃんを想ってついつい素直になれなくなったり焦ったりで出てしまったものなら、むしろ可愛いぐらいだ。

 ボクは思わず小さく笑い声を出してしまう。


 少し、彼女への苦手意識が薄まった気がする。



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― 新着の感想 ―
[一言]  あの魔女と比較すること自体ダメっしょ。アレは忘れてヨシ!(笑)  ○塚歌劇団の顧問を頼んでみたらどうかな。双方win-winじゃなくない?(笑)
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