こんなグリム童話は嫌だ
「<オペレーター>さん、シンデレラっていう童話って知ってます?」
ふと、私は<オペレーター>に質問した。
<オペレーター>は淡々と答える。
『回答。はい、知識として把握しております』
「あれって色々話の内容が違うじゃないですか」
『回答。その時代の子供の教育を考え、物語が改変されたのが理由ですね』
「私、一度改変前のシンデレラって見た事があるんですけど、改変前の話では魔法使いは出てこなくてドレスと靴を持ってくるのは白い小鳥なんだそうです。でも、それっておかしくないですか?」
『疑問。何故そう思うのですか?』
「小鳥がドレスや靴なんて重い物を持ってくるとか舞踏会に参加出来るほど綺麗な衣装を小鳥が持っているとか色々ツッコミどころはあるんですけど、一番のツッコミ所はシンデレラが舞踏会の途中で逃亡したことですよ。改変後の話だったら0時になったら魔法が解けてしまうからって理由がありますけど、小鳥が持ってきたドレスは0時になっても戻る訳ではないでしょう? なのに何故王宮から逃げ出すんでしょう?」
『回答。諸説によると義母と義姉達が帰ってくる前に屋敷の掃除を済ませなければいけなかった、とありますが。』
「その前からせっせと家事をしているんですから1日2日サボったぐらいじゃ義母達は気が付かないでしょう。仮にそうだったとしても、行く前にしっかり掃除しておけば良い話ですよ。シンデレラが憧れていた舞踏会を途中から抜け出して、王子から逃亡する理由なんてないでしょう?」
『肯定。その通りではありますね』
「ですが<オペレーター>さん……。私、今になって理解しました。なんでシンデレラが王子から逃げ出したのかを」
『疑問。理由は何でしょう』
<オペレーター>の疑問に対し、私はそっと息をついて、そして言った。
「イケメンに全力で思いっ切り追いかけられたらそりゃ逃げたくもなりますよね。軽く自分の命が奪われるんじゃないかなぁって思っちゃうくらいには恐ろしく感じますよそりゃあ……。」
『警告。右へずれてください』
「みぎゃあーッ!!」
<オペレーター>の言葉に従い、私が右へずれればすぐ側を大斧が振り下ろされる。
奇声のような悲鳴を上げている私に対し、フードの男……ワンコパスはニコニコと笑みを浮かべながら私に猛攻を続けている。
「***、*************」
「このワンコパスめ……!!! せめて服を着替えさせてくださいよ!!」
『警告。前方に大きくジャンプしてください』
<オペレーター>の言う通りジャンプすると、ワンコパスがその床を踏み抜いて一瞬足を止めるのが見えた。
かなり長い間放置されてきたお屋敷のせいか、床や壁がかなり腐っている。
間違って腐った床を踏めばそのまま踏み抜いてしまい、足止めを食らってしまう。
しかも私は歩きにくいヒールの靴は早々に脱ぎ捨てて裸足で走っているから、床なんて踏み抜けば足を怪我する事間違いなしだ。
この追いかけっこ、私にとってかなり不利だ。
ドラゴンからトレーニングを受けているだけの人間の女の私と犬の獣人らしいワンコパス。
身体能力の差は歴然な上、私はワンコパスの猛攻を回避しながら走りにくいドレスを着ているというデバフがあるのだ。
アラクネ三姉妹が自分の糸を使って拵えたドレスだから伸縮性と頑丈さは大丈夫のようだけど、長いスカートは自分で踏んでしまいかねない。
屋敷内に入った事で大斧の攻撃がかなり限られているのか回避はしやすくなったが、未だに大斧の攻撃は続いている。
<隠蔽>を使うと、なんと縦横無尽に大斧を振り回して自分たちごと屋敷を崩してしまおうとするので、使うのはかなり危険すぎる。
デバフにデバフを重ねがけしているこの状況。
本来なら既にワンコパスに捕まって殺されていてもおかしくはないのだ。
にも関わらず、私が捕まっていないのは追いかけている側のワンコパスが手加減しているからでしかない。
このワンコパス、私の走る速さに合わせて追いかけて来ているのだ。
私を見失わない程度の速さで、けれどすぐに捕まってしまわないように一定の距離感を保っている。
現に腐った床を踏んで足止めを食らっても、すぐにまた一定の距離まで追いついてくる。
この人、本気で幼い子供と追いかけっこしているような気分で私を追いかけているようなのだ。
その手に持っている武器を置いて、場所を古びた屋敷から公園に変えて、追いかける対象をもっと幼い子供に変更すればそれっぽい光景になりそうだと思う。
……あ、駄目だ。この人の狂気具合なら素手で子供を縊り殺しそう。
やはり狂気要素を抜かなければいけないか。
「ねぇ、<オペレーター>さん……っ。回避の指示出しながら、通訳機能って使えませんか?」
『回答。貴方様の声をこの世界の言語に変換し、相手に伝える事でしたら回避オペレーションとの同時進行でも可能です』
「じゃあそれでも良いです。ちょっとあの人をどうにか説得出来ないか試みますので」
『告。長時間二つの作業を同時進行させた場合貴方様の脳に負荷を掛ける可能性があります。』
「大丈夫です。お願いします」
『了。<オペレーター>による通訳作業を開始します』
<オペレーター>に頼み、通訳を開始してもらうと、私は走りながらワンコパスに話しかけてみる。
「すみません、ワンコパスさん! ちょっとよろしいですか?」
「ワンコパス? *****、***********?」
「追いかけっこ中に申し訳ないんですが、そろそろ止めてもらえないですかねー?」
「*****?」
私が要求を伝えてみれば、彼は首を傾げながら何かを尋ねてきた。
どうやらちゃんと言葉が伝わっているらしい。
「何を止めるのか」
『警告。左へずれてください』
「っ、と尋ねているのであれば」
『警告。右斜め前に飛んでください』
「っ私を殺しにかかる事です」
『警告。そのまま屈んでください』
「よっ! ……あの、話している途中は攻撃止めてくれません?!」
「***、*******(避ける)*****(上手い)**」
私が軽くキレ気味にそう叫べば、ワンコパスはのほほんと和んだ様子で称賛の言葉らしき発言を口にした。
本当にこの人は狂っている。
しかし話こそは聞いてくれたようで、彼は私に言う。
「******(難しい)***。***(ごめん)」
「謝るくらいなら要求飲んでほしかったですよ、本当。こう見えて私、立場的に重要な役割にありまして、今私が死んでしまうと困ってしまう方々がいるんですよ。主に道連れとかそういう意味で」
「***? *********(役職持ち)*?」
「あまり詳しくは言えないですけど、そういう感じですね。ついに数週間前にも新しい方々を迎え入れたばかりでして、最近になって明るい顔が増えてきたというのにその方々まで巻き込んでしまうのは、嫌なんですよ」
「**、***(優しい)***」
「優しい? そんな訳ないですよ。私はただ、劇的な死に方が嫌なだけですよ」
「******?」
私の言葉に疑問を思ったのか、ワンコパスが尋ねてくる。
その足は止まる様子はない。
このまま追いかけっこしたまま質問コーナーを行わせるつもりか。
「私は、とにかく目立ちたくないんです。主人公やヒロインより、劇中に出てくるただのモブでいたいんです。誰かの記憶に残って、笑い者にされるのも同情を向けられるのなんて嫌です。」
「***……**……」
「もし死ぬんだったら誰かの記憶に次第に薄れて消えていくような、それまでに生きた証拠なんてとっくの昔に消えてなくなってしまっているような、老衰とか病死とかそういうありきたりなのが良いんです。此処で突如現れた謎の人物に殺されて、見知った人を大勢道連れにしてしまうなんて、私には劇的すぎます」
「***……****(変わって)***」
「ま、直球に言ってしまえば、私は寿命まで長生きしてたいんですよ。一応これでも食事面だけでしたらちゃんと心掛けてますし、酒もタバコも嗜むつもりはないので重い病気とかに掛からなければあと70年以上は生きられると思います。寿命尽きるまでは死にたくないです」
『死にたくない』
その一言を言うだけのための遠回りした動機。
ただ死にたくないと泣き叫べば良い話だけど、こんな時にも私の無愛想っぷりは常時運転なのでこんな遠回しな言葉になってしまった。
しかし、どうやらこれが彼には響いたらしい。
「******。************(死にたくない)****。」
「そうですよ。だから見逃してほしいです」
「***、********(誰か)*******(死にたい)**」
「あの、貴方の希望の死に方は聞いてないんですが。そもそも何言っているのか分からないですし」
「**(誰か)**********、***********(幸せ)******。**、**************」
「あの、無視ですか?」
「*******、*************」
既にいない誰かを慈しむように、ワンコパスは語る。
きっと何か、色々な過去があって願ったことを話しているのだろうけど、言葉の通じない私にはワンコパスが何を言っているかは分からない。
感傷に浸るように何かを呟いた後、ワンコパスは顔を上げて眩しいほど綺麗な笑顔を浮かべて言った。
「*、**********? **(悪い)**、**(無理)**」
「結局駄目なんじゃないですか!!」
『警告。右にステップを踏み、そのまま左斜め前に飛んでください』
「そして回避の指示の難易度がドンドンレベルアップにしている!」
話しながらの追いかけっこから、また地獄の追いかけっこへと後戻りしてしまう。
そろそろ足の筋肉が疲れてきた。
どうにか逃げ出さなければならない。
ふと前の方を見てみると、一つの部屋の扉が開いているのが見えた。
あの部屋に飛び込めれば、<隠蔽>で身を隠して更に<ホーム帰還>を使う事でマイホームに逃げ込めるかもしれない。
ワンコパスの大斧を<オペレーター>の指示の元回避し、ドンドンその扉近くへと近づいていく。
目的の部屋のすぐ側に来た時、私はなんとか急カーブを行い、扉の中へ入り込もうとする。
その時、
『警告。扉から離れてください』
<オペレーター>の指示にハッとなった私はとっさに後ろに飛んだ。
勢い余って背後の壁にぶつかってしまい小ダメージを受けたが、私はすぐにそれがマシだった事を悟る。
誰もいないと思っていた部屋には既に先客がいた。
服装からして、どうやらこの屋敷の調査の為に入った冒険者だったようだ。
冒険者『だった』、というのは別に言葉のあやなどではない。
何故なら、彼らは既に死んでいたからだ。
既に死んで動かないはずの彼らだが、何故か剣を片手に構えて部屋の中にいた。
そう、その姿はまさしくゾンビとスケルトン。
ホラーものでは定番中の定番の化け物、アンデッド達だった。
「ここに来て王子様追加って、聞いてないんですけどねぇ……」
私はすぐにその部屋から離れ部屋の方を見る。
結果的にワンコパスと対峙するような形になったためかワンコパスは驚いていたが、部屋の中から出てきたアンデッドで事を理解したようだ。
アンデッド達は部屋の外へと出てきて、私とワンコパスを見た。
それに続くように、今まで閉ざされていた扉が勢いよく開き、そこからアンデッド達が姿を現す。
ダンジョンマスター権限で魔物に好かれてたりとかしないだろうか? と思ったがそれは都合が良すぎたらしい。
アンデッド達は全員私達を殺す気満々のようだ。
冷や汗が止まらない状況だが、ワンコパスは子供が増えた、というような様子だ。
スッと目を細め、笑みを深めた後、私に向かってひらひらと手を振って声を掛けてきた
「***(ゴメン)*。***********(先に)****(遊んで)*********。*******(待って)***」
「いやもう、いくらでも時間掛けてください。そろそろ私も疲れてた頃でしたし」
「***? ******(すぐに)******」
「だからもっとゆっくりしてくださいって」
ワンコパスは私に声を掛けた後、斧を両手に構えてアンデッド達の群れを見る。
すると、アンデッド達は唸り声を上げて一斉にワンコパスに襲いかかった。
その瞬間私は<隠蔽>を使い、ワンコパスは斧を振り回してアンデッド達を薙ぎ倒し始める。
アンデッド達は<隠蔽>で身を隠した私ではなく、ワンコパスの方へと注意を向けた。
ワンコパスがアンデッド達の相手をしている隙に、私はその場から逃げ出したのだった。
最近活動報告を更新するようになりました。
一体いつまで続くのか分かりませんが、見つけたら気軽にコメントください!




