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食べる食べない以前の問題です

 パーティーが開催されて一時間後。

 いや、もう疲れました。


 パーティー最初に感じていた緊張感や不安は、クラスさんの言う通りまあまあ取れた。

 ダンスを終える頃には周囲の貴族達も此方に注目しなくなってたし、私は大いに一安心した。

 ところがどっこい、そこからが大変だった。

 クラスさんとのダンスが終わると、何故か直ぐ側まで来ていたソーマにダンスの相手の誘いを受けた。

 タンザからダンスの誘いを断りすぎるのは良くないと聞いていたのでそれを受けてソーマとダンスを踊った。

 流石何でも出来る生徒会長。社交ダンスのリードも普通に上手かった。

 そしてソーマとのダンスが終わったら今度はカナタがやって来たのだ。


「カナタさん、こういった堅苦しいダンスは嫌いなのでは?」

「ん~、なんか踊ってみてーなって気分になった☆」


 こんなやり取りをして、私はカナタとも踊る羽目になった。

 見た目も中身もチャラチャラしている彼だったが、ダンスのリードは上手かった。

 普段女遊びで女性のリードが慣れているからかな?

 ただ、遠くから物凄い形相で睨んでいるアヤカがちょっと恐ろしかったです。


 そして予想は大体付いていたが、カナタとのダンスを踊り終えると今度はイグニにダンスを誘われた。

 その次はテオドールさん。

 更にその次はお茶会にいた貴族の子息さんの一人に……と、たらい回しのように次々とダンスをさせられた。

 流石に全く知らない貴族の人は私のコミュ障オーラで近づけなかったようだけど、休みなく10人ぐらい相手してたら流石に緊張とか全く関係なしに疲れます。

 ドレスの通気性が良いから見えないだろうけど、普通に汗かいてますよ?

 何度も何度も回ったせいで目が回ってしまう。


 そうしてクルクルと社交ダンスをさせられた私は、切りが良い所で食事スペースに逃げ込んだ。

 まだダンスの誘いをしたがっていそうな人はいたけど、敢えてスルーした。

 クラスさんやテオドールさん、その他子息の皆は言葉の通じない私に合わせて手を差し出してダンスの誘いをしたけど、他の人はしていなかったからね。

 それをしてないのでは自分に話しかけたと気づかれないだろう。


 食事の置かれているスペースに来てみると、ケネーシア王国の料理人達が作ったと思われる料理や他国の料理が並んでいる。

 料理の中には私がイグニ達の追加料理を出す為に料理人達の前で作った唐揚げや、お土産に入れておいたロールケーキに似たような物がある。

 試しに唐揚げを食べてみると、ちょっとオイリーだけど美味しかった。

 味付けはシンプルに塩にしたらしい。

 醤油は再現がまだ出来てないらしいし、妥当だと思う。

 他のケネーシア料理も、味付けが濃すぎず、薄すぎずで普通に美味しかった。

 私的には評価が高い一品である。


 さて、次は他国の招待客が連れてきた料理人の作ったその国独自の料理である。

 正直言って此処らへんはかなり怖い。

 なにせ地球産のレシピを覚え、そこから此方の世界流にアレンジと研究を加えたケネーシア王国の料理人と違い、他国の料理人はこの世界の文化そのもの。

 味付けをとにかく濃くすれば良い程度の料理知識しかなかった異世界人の言葉を鵜呑みにする人達の料理がどういったものか、かなり不安だった。


『アイネス、お食事中にゃ?』

「ああ、サバトラさん」


 何処から手をつけようかと料理の吟味をしていると、サバトラがのらりくらりとやってきた。

 どうやらサバトラも食事に勤しんでいたらしい。

 サバトラの持つ皿の上にケネーシア料理しかないのを見ると、どうやら他国の料理を試すつもりはないようだ。


「折角なので他国の料理も食べてみたくて」

『以前行ったパーティーで食べにゃかったのにゃ?』

「ダンジョンマスター達のパーティーに出た料理って大抵が肉料理メインでして……。あと味が濃い。」

「タコク、リョウリ、カワラニャイ。ケネーシア、イガイ、マズイ、ニオイ、スル、ニャ。」

「ハッキリ言いますねぇ……」


 よく考えれば、サバトラはまんま猫の魔物だから鼻が利くのか。

 グルメで大食らいのサバトラが「不味い匂いがする」ということは、食べるのであればそこそこ覚悟しなくてはいけないということだ。

 ……取り分けるのは本当に一口分とかにしよう。

 私は覚悟を決め、机の上に並ぶ謎料理達に立ち向かった。


***** *****


『で、味はどうだったのにゃ?』

「しょっぱい、辛い、酸っぱい、脂っこい、味がない……と色々ありましたが、一言で言わせてもらえるなら、殆ど不味いですね。ソーマさん達が音を上げるのも無理ないかと」

『やっぱりにゃー』


 サバトラの言葉を信じて他国の料理は一口二口で食べられる分しか取らなくて正解だった。

 どれも、思わず声を上げてしまいそうになるくらい不味かった。

 

 いや、不味いの一言では折角腕によりを掛けて料理を出してくれた料理人に失礼だな。

 いけないいけない。作ってくれた人への敬意を忘れる所だった。

 どれも味が不味い、ではなく、どれも味がヤバい、だ。


 パン。これはまあ百歩譲って良いだろう。

 歯が欠けてしまいそうなくらい硬いけれど、味自体はそんな不味いという訳ではないし、スープの上に浮いているクルトンと同じだと思えばいい。

 サラダも構わない。

 ドレッシングがなくて、ただ切って盛り付けられただけの代物でしかないが、自然な味を楽しめるし口直しには良いだろう。

 問題はそれ以外である。

 

 まず、肉料理系は殆ど調味料の味しかしない。

 お肉の上に掛けられた塩と胡椒が口の中でジャリジャリと鳴り、食感とか舌触りとかの話ではない。

 胡椒と塩を単体で食べているような気分だ。

 中にはインドのカレーのように胡椒・塩以外の各種スパイスをこれでもかというぐらい使った料理もあり、思わず噎せてしまった。

 しかも、どれも焼きすぎたり煮込みすぎたりと肉が硬い。

 筋も処理されていないのか、噛み千切ることも困難だ。

 しかも表面は焼すぎなまでに焦げているのに、中まで火が通っていないお肉もある。

 調理されたお肉に謝って欲しい。


 次にスープ系。

 いや、これはスープって言ってはいけない。

 調味料の入ったお湯に角切りにカットされた野菜や肉がゴロゴロ浮かんでいるだけのものでしかない。

 水で調味料が多少中和されているが、肉に味が染み込んでいるわけでも、野菜の旨味が溶け込んでいる訳でもない。

 ただの味のついたお湯とお湯の上に浮かんでいる食材達。

 これである。


 何もヤバい料理ばかりではない。

 中には中々美味しい物はあるが、基本どれも味付けが酷いものである。

 因みにデザートなんてものは他国にはない。

 あるのはカットされたフルーツだけ。

 その横に置かれている、砂糖がジャリジャリ入っていそうなふにゃふにゃグズグズのケーキもどきはデザートとは言わない。

 カットされたフルーツはどれも質の良い物を使っているようで、シンプルに美味しい。

 しかし、このフルーツが一番美味しいってこの世界の食文化ってかなり酷いな。

 美味しい食べ物が日常的に食べられた世界から異世界転移して、出てくる料理がこんな料理ばかりだったら、誰だってイヤになるだろう。 

 ソーマ達には同情しかない。


 そんな各国の料理の中でも特に酷かったのは、誰でもないアスペル王国の料理だった。

 味付けがかなり限られている他の国に比べれば味の種類は色々ある。

 外に来て初めてしょっぱい、辛い、塩辛い以外の味を味わった。

 そう、味にバリエーションはある。

 あるにはあるのだが、だからといって美味しいという訳ではなかった。

 ソーマ達の話に出ていたような醤油もどきやマヨネーズもどき、他にもケチャップもどきやオイスターソースもどきなどなど、哀れな食材達の成れの果てのようなものが掛けられた、これまた可哀想な食材の盛り付けられた料理の数々。

 その机だけ匂いが凄いことになっているし、味付けもまあ酷い。

 異世界人、もっと頑張れなかったのか。

 

『でも、アイネスは凄いにゃあ。取った料理は全部完食してるしにゃー』

「残したら勿体ないですからね。腐ってる物や、食べたら確実にお腹を壊すって分かる物以外はちゃんと食べますよ」

『立派だにゃあ~。みゃーだったら、不味けりゃさっさと他の奴に押し付けてるにゃ』

「味がなんであれ、作ってくれた事には変わりないですからね。流石に此処まで味が凄いと嫌味とかは言いたくなりますけれど」

『実際今、アイネスの圧がさっきより凄い事ににゃってるしにゃあ』

「え、本当ですか?」

『そうにゃ。「にゃんて酷い物だしてんだ」って今にも言い出しそうな感じだにゃ。近くにいる他国の人間たちが「気に召さなかったのか!?」ってチラチラ此方の様子を伺ってるにゃ』

「やっば」


 どうやら、口には出さなかったものの思っていた事は出てしまっていたようだ。

 よく見れば、確かにそれっぽい人が此方に視線を向けている。

 なんかすみません。別に直接文句言う気とかないんで許してください。

 そんな物騒なオーラを抑え込みたいところだが、残念ながらオーラの抑え方は教わっていない。

 取り敢えずフルーツを食べて口直しして、紛らわそう。


 しかし、哀れなことに他国料理はまだ一つ残っている。

 そんなに不味いなら食べるのを止めれば良いのに、とも思うが、此処でストップしてしまうと、残った他国料理は口に付けるまでもなく酷かったのか?と周囲が思うかもしれない。実際見られている訳だし。


 最後に残ったのはジュゼッペ聖教国の料理。

 どうやらジュゼッペ聖教国は葉野菜のスープ一品のみを出したらしい。

 キャベツのような葉野菜が浮かぶただのスープ。

 塩胡椒が浮かびすぎている、という感じではない。

 見た感じはまともそうだが、味はどうだろうか?

 私はスープを専用の器に取り分け、そっとスープを口にする。


「ん?」

『んにゃ?どうしたのかにゃ?』


 私はそのスープを口に入れると、ぴたりと飲み込むのをストップした。

 そっとスプーンを置き、口の中でスープの味を確かめるように味わってみる。


 胡椒とか塩とかの味はするけれど、なんか変な味がする。

 味付けとかそういうの以前の味がおかしい…と言えば良いのだろうか?

 それに口に含む前は胡椒とかで誤魔化されていたが、匂いも…。


 嫌な予感がした私はハンカチで口元抑え、口の中に入れていたスープを吐いた。

 そして、そのスープ本体に<鑑定>を掛けてみる。


【名前】キャピタのスープ

【用途】食用。

【状態】出来たて

【その他】キャピタという地球のキャベツと酷似した葉野菜を、ジュゼッペ聖教国の教会で清められた聖水で煮込んだ料理。

注意!一部の魔物が飲むと体調を崩す可能性があるよ!(`乂ω・´*)


 聖水。

 聖水というと、あれだろうか?

 悪魔とか幽霊相手を祓うのに使う聖なるお水。

 なるほど。スープに仕込んでおけば人間には効果がないが、魔物が飲むとその効果で苦しむことになる。

 魔物は全て悪だと考えるジュゼッペ聖教国の考えそうなことだ。


 しかし、私が気にしているのはそこじゃない。

 確かにそこもイラッとは来るけど、イグニ達はそのスープを口にするどころか手で触れてもいないから被害も出ていないし、そこは良い。

 私は、恐る恐るサバトラさんに尋ねた。

 

「サバトラさん、突然なんですが、聖水の作り方って知ってますか?」

『んにゃにゃ、聖水にゃあ?みゃーは知らないにゃあ。んー…そうだにゃあ…あ、ちょっとそこの夫人さん、失礼。ちょっとよろしいですかにゃ?』


 私の問いの答えが分からなかったサバトラは、近くにいた夫人に声を掛けた。

 突然サバトラに声を掛けられた夫人は、首を傾げて此方の方を向く。


『は、はい。なんでしょうか?』

『おみゃー、聖水の作り方って知っているかにゃ? 大体でいいにゃ。にゃんか、みゃーの主が聞きたがっているんだにゃ』

『ワタクシも詳しくは知りませんが……、確か教会の人が井戸の水か、川で汲んだ水を清めて作る物だったはずですわ。光属性の魔法で水を清めて、そこから日の当たる所に聖水を置いて三日三晩祈りを捧げて出来る……でしたかと。強い効力を持つ聖水なら、もっと時間を掛けていたはずですわ』

「なるほど、*****(ありがとう)」

『い、いえ……』


ふむ。大体の工程は分かった。

なるほど、井戸水か川水に魔法を掛けて、3日間祈り続ける事で出来るのか。

そうか、日の当たる所で外の水を三日間……。


「サバトラさん、テオドールさん呼んできてくれませんか?」

『んにゃ? にゃんだか分からにゃいが分かったにゃ。ちょっとそこで待ってるにゃ』


 サバトラさんにテオドールさんを呼びに行ってもらっている間、私は大人しくその場で待つ。

 すると、ソーマとアヤカが此方に首を傾げてやって来た。


「小森さん、どうしたんだい?さっきまで食事をしていたのに……。」

「流石にもう食べ切れなくなったの?」

「あ、ソーマさん、アヤカさん。丁度良い所に。ちょっとこの場にいて待っててくれません? 証人兼説明役として。」

「証人? なんの?」

『アイネスー、王子を連れて来たにゃ。』


 アヤカの質問に答える前に、サバトラがテオドールさんを連れて戻ってきた。

 テオドールさんはキョトンとした様子で、私に質問してきた。


『どうかしたのかい、アイネス? もしかして何か問題でも?』

「あー、時間を取っていただいて申し訳ないのですが、このスープをちょっと<鑑定>してくれませんか?」

『アイネスが、このスープを見てくれって言ってるにゃ。スキルで。』

『スープを?』

「鑑定?」


 サバトラが私の頼みを3人に伝えると、3人はそのまま私の持つスープを見てスキルを使う。

 きっと、私が見た鑑定結果と同じ内容が分かったのだろう。

 テオドールさんがハッとした表情になり、推理を始めた。


『このスープはジュゼッペ聖教国の……そうか、食事に混ぜることでイグニレウス殿達を……。すまない、アイネス。これは此方の確認不足だったようだ』

「ああ、いえ、そこは良いんですよ。イグニ達はこのスープに手を付けてないみたいですし」

『みゃー達は誰も食べてにゃいから心配するにゃって言ってるにゃ』

『そうか。でも何かある前に気がつけて良かった』

「それが、問題なのはそこじゃないんですよね。」


 謝罪するテオドールさんにそっとフォローの言葉を掛け、私が話したかった事について触れようとする。

 すると、アヤカが真っ先に反応してきた。


「そっちが問題じゃないって、どういう事よ?」

「確かに聖水が入っていることが問題というのは合ってるんですけど、根本な問題はその聖水の製造法なんですよ」

「製造法?」

『ああ、確か夫人にさっき聞いてたやつにゃね。にゃんでも井戸の水か川で汲んだ水を魔法で清めて、そのまま日の当たる所で三日三晩祈りを捧げて出来るって言ってたにゃあ』

「日の当たる所で……」

「井戸水や川水を3日間……」


 サバトラが聖水の製造法を呟くと、横で聞いていたソーマが顔を青ざめさせた。

 そして首を傾げるアヤカにそっと耳打ちすると、アヤカも一体どういうことか分かったようで顔をみるみる強張らせた。


「こも――じゃなくてアイネスちゃん、アンタこのスープは飲んでないんでしょうね?」

「一口飲みましたけど、すぐに吐きましたよ。この後口を注ぎに行くつもりですが、まあ大丈夫かと」

「王太子殿下。失礼ですがこのスープを飲んだ方が他にいるか確認を取っていただけませんか?」

『それは構わないけれど……何故そんなことを?』

「水を日向で放置すると細菌が増加する……って説明じゃあ此方の人は伝わらないだろうね。」


 アヤカが私に確認の言葉を尋ねる横で、ソーマがテオドールさんにスープを飲んだ者を確認するように頼み込む。

 理由を尋ねるテオドールさんにどうにか説明をしようとしたが、どうも良い言葉が思いつかないようだ。

 するとアヤカが代わりにテオドールさんに説明をした。


「簡単に言えば、水も日の当たる場所でずっと放置したら腐るってことよ」

『水が、腐る……にゃ?』

「見た目では分からないと思いますが、何の処理もしていない状態で2日以上日向に放置した水を飲むと、体調を崩す恐れがあるんです。その……いくら聖水といえども、ね。」

『2日以上放置した水……』

『聖水でも……』


 その言葉で、サバトラとテオドールさんは何故私達が焦っているのかを理解したのだろう。

 テオドールさんは近くにいた使用人を呼ぶと、すぐに命令を出した。


『ジュゼッペ聖教国のスープを全て片付けてくれ。ジュゼッペ聖教国の料理人は別室に呼んで取り調べを。それとスープを飲んだ者が他にいないか確認をしてくれ』

『か、かしこまりました』

『片付くまでの間、みゃーが此処でスープを見ておくにゃ。みゃーがそばにいて、誰かがにゃんか言ってきたら軽くあしらっておくにゃ』

『助かるよ』

「危うく、パーティー中に食中毒患者が出る所だったね……」

「ホント、ゾッとするわ……」

「そうですね」


 テキパキとスープの撤去作業を行うテオドールさんと、それを横で監視するサバトラ。

 その後ろでポツリと呟いたソーマとアヤカの言葉に、私はうんうんと頷いて同意した。


 ただでさえ殺菌とか洗浄とかの知識がない世界で水を、それもただ井戸や川で汲んできた水を長期間放置すれば細菌の増加がとんでもないことになる。

 魔物に対する浄化作用は凄いのだろうが、人間に対しては軽く身体を崩しかねないヤバい水だ。

 そんな水をスープとして出せば、魔物に一服盛るどころか人間にも一服盛ることになる。

 聖水なんてものは掛けて使ってください。


「私はちょっと口を濯いできますね。飲み込んでないとはいえ、口に含んでいた物が物なので」

『連れはどうするにゃ?』

「ジャスパーさんを連れていきますよ。今も壁の華になっているみたいですし」

『分かったにゃあ』


 サバトラさんに一言告げ、私はジャスパーさんの方へと向かった。

 全く、なんてものを出しているんだ。

 ジュゼッペ聖教国は危険カテゴリーに入れておこう。


***** *****


「手間を取らせてしまって申し訳ありません、ジャスパーさん」

『食い意地を張るからだ。普通に不味い物なら突っ返せばいいだろう』

「出来ませんよ。あんな悲惨でも料理は料理ですし、あの料理を作るために殺された肉や、野菜を育ててくれた農民さんのことを考えると残せないです。私のいた場所の農民さんにあれ出したら半殺しに遭いますよ。『食べ物を粗末にするな!』って」


 ジャスパーについていってもらってお手洗いで口を濯ぎ、私は再びパーティー会場へと戻っていく。

 その間、ジャスパーに色々言われてしまったが仕方ない。

 私がパーティー料理を色々食べていたことで手間が一つ増えたわけだし。

 パーティーがぶち壊しになるのを防いだだけマシ、と考えることにしよう。



『失礼します。アイネス様、でよろしいでしょうか?』

「ん?」


 ふと声の聞こえた方向を見てみると、そこにいたのは燕尾服を着た執事だった。

 彼はスッと頭を下げて言った。


『王太子殿下が個室で話がある、と呼んでおられます』

『王太子が、だと?』

『はい、ですので、王太子殿下のいる個室までご案内させていただきます。どうぞ此方へ』


 そう言って、パーティー会場のある部屋とは別の廊下へ招こうとする執事。

 私は何も言わず、ジャスパーと視線を合わせた。


 う、胡散臭い。

 胡散臭すぎる。


 確かに目の前の男性は王宮の燕尾服を着ているが、所作が王宮の執事と何となく違う。

 そもそも私に話があるのだったら、テオドールさんは直接私に話しかけるだろう。

 私のコミュ障っぷりを知っているテオドールさんが、私と全く面識のない執事に呼びに行かせるなんて絶対にない。


 罠だ。

 これは明らかに罠だ。

 ラノベで良くある、「謎の執事に案内されて別室に来てみたら、気絶させられて誘拐されました☆」っていうお決まりの展開だ。

 素直についていったら拉致される。


 ジャスパーも同じことを考えたようで、懐に手を入れてそっと私の前に出ると、唸り声を上げて言った。


『断る。もし行くなら、パーティー会場に一度戻ってからでも遅くはない。俺達はパーティー会場に戻らせてもらう。ついでに、アンタのような執事がいるかも確認をさせてもらう。』

『チッ……!』


 ジャスパーが一睨みしてナイフを構えれば、執事は舌打ちをして懐からナイフを構えた。

 私はそっと後ろへ移動して<隠蔽>を使おうと手を構えた。



 次の瞬間、私の視界がぐにゃりと歪んだ。

 そして、立っていられなくなり、身体のバランスを崩した。

 慌てて振り返ってみれば、脇の扉から人が出てきた。

 しまった、相手を眠らせる魔法か。

 完全にしくった。


『アイネス!!』

『死ねぇ!』

『ぐっ……!』


 倒れゆく私に気を取られたジャスパーが、執事の男に背中を刺されるのが見えた。

 私は地面に倒れながら、ジャスパーの方を見る。


 何をやっているんですか、ジャスパーさん。

 私になんて気を取られなかったら良かったのに。


 視界はどんどんと歪んでいき、瞼が段々と降りていく。

 これから、何処に連れて行かれるのだろうか?

 行き先も気になるが、ジャスパーさんの怪我も気になる。

 まあ、ジャスパーさんって私よりも足が速いし、パーティー会場に入れば彼らも手出しは出来ない。

 私は……まあ、スキルがあるから一人でも大丈夫だろう。

 最悪、死ぬけど。


 呑気にそんなことを思いながら私は目を閉じ、




 そのまま、意識を失った。




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― 新着の感想 ―
[一言]  聖教国関係? それともハゲデブ関係? まあ、仕掛けた相手の破滅は決まってるが。イグニさん、こもりんのピンチですぞ!
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